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論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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論文内容の要旨

1.目的

現在, 本邦の高齢化率は27.3%であり上昇の一途をたどっている. 誤嚥性肺炎は高齢者における死 因の1つであり, 日本人の死因第3位である肺炎の約9割は65歳以上の高齢者である. 高齢者の誤嚥 性肺炎による入院費用は年間4450億円と推計されており, 誤嚥性肺炎の予防および早期治療は急務 の課題である.

 誤嚥性肺炎の原因の1つとして, 摂食嚥下障害が挙げられる. 高齢者では摂食嚥下機能の老化の一つ である「老嚥」が起こるため, 若年者に比し, 摂食嚥下障害発症のリスクが高くなり,同時に誤嚥性肺 炎発症のリスクも高くなる. また,高齢者では加齢性変化やサルコペニアが全身性に起き, 呼吸機能が 低下する. 呼吸機能の低下は, 咳嗽, バルサルバ,嚥下などの非換気機能低下をもたらし, 咳嗽力も低下 する.これにより, 誤嚥した物質を喀出することが困難となるため,誤嚥性肺炎は発症のリスクが高 くなり,生命予後にも影響を与える可能性がある.

 誤嚥性肺炎の評価としての呼吸機能検査は, 多くの場合, 指示理解を必要とする検査である. しかし, 高齢な誤嚥性肺炎患者の場合, 意識障害や認知症を抱える場合が多く, これらの評価を実施できないこ とが少なくない. そこで,本研究では,コンピューター断層撮影(Computed Tomography: CT)画像 を用いた呼吸筋量と, 誤嚥性肺炎の予後との関連性について検討した. 呼吸筋は, 画像検査により描出 しやすい容量の大きな筋を選択し, 大胸筋と腹直筋を評価対象として選定した.分析では,対象者が高 齢者であることから, 加齢性変化やサルコペニアの存在を考慮し, 栄養状態, 日常生活活動状態の評価 を加えた. さらに, 疾患によるサルコペニアの指標として用いられている大腰筋の容量も評価項目に 加え, 大胸筋や腹直筋の容量との関連や, 誤嚥性肺炎の予後への関連についても検討した.

2.方法

2010年12月から2016年12月までに鹿児島赤十字病院において誤嚥性肺炎の治療を行った188名を対

象とし,左右大胸筋の体積と厚さ, 左右腹直筋の面積と厚さ, 左右大腰筋の面積, 摂食嚥下機能

1 坂口 紅美子

博士の専攻分野の名称  博士(保健科学)

学 位 授 与 の 日 付   2018年 319

学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当

学 位論 文 題 目   高齢誤嚥性肺炎患者における予後と大胸筋・腹直筋の関連性  

論 文 審 員 主   教授   鬼塚 信

副    教授  園田 徹 副    教授  吉武 重徳

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FOIS, 血 清ア ル ブ ミ,簡 易 栄 養 状 態 評 価表 短 縮 版 (MNA-SF), Body Mass Index(BMI),Barthel Indexを調査した.

 大胸筋の体積・厚さ, 腹直筋の面積・厚さ, 大腰筋の面積は, 入院時のCT画像より算出した. CT撮影 ら れ たDigital Imaging and Communication in Medicine (DICOM)画 像 を, Picture Archiving and Communication System(PACS)上で操作し, 体積および面積については, 各筋の 輪郭をregion of interest(ROI)としてトレースして算出した.厚さについては, 最も厚い部分をPACS 上の測定器を用いて測定した. 摂食嚥下機能, 栄養状態, 日常生活状態は入院時に行った各評価を, 診療 情報録より情報収集した.

 統計解析は, 誤嚥性肺炎を原疾患とする対象者:原疾患群(第1章)および他疾患治療中に誤嚥性肺 炎を発症した対象者:併存疾患群(第2章)においては、相関分析,群間比較 [モデル1: 男女別,モデル 2: 退院時転帰(生存/死亡)],退院時生死を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析をそれぞれ実施 した。全対象者においては,相関分析,群間比較 [モデル1: 男女別,モデル2: 疾患別,モデル3: 退院時転 帰(生存/死亡)],退院時生死を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した(第3章).また,市 中肺炎重症度分類(A-DROPシステム)を用いて, 重症度分類を行い, 全対象者, 原疾患群内, 併存疾患群 内において, 重症度と生存/死亡におけるFisherの直接確率検定,群間比較[全対象者・併存疾患群:

Kruskal-Wallis検定(後検定としてMann-WhitneyU検定), 原疾患群: Mann-WhitneyU検定]

を行った.さらに、第1章から第3章の多重ロジスティック回帰分析の独立変数に重症度を加え、再度 分析を行った(第4章)。

3.結果

1)生命予後と大胸筋の体積・厚さの関連は,生存群および死亡群の群間比較,多重ロジスティック回 帰分析において認められた.

 2)生命予後と腹直筋の関連は,全対象者における生存群と死亡群に対する群間比較において,右腹直 筋の厚さのみ認めた.しかし,他の解析では有意な結果は得られなかった.

 3)原疾患群および併存疾患群の比較では,大胸筋体積, 大腰筋面積, 血清アルブミン値, MNA-SF, FOISが併存疾患群で有意に高く, 年齢は併存疾患群で有意に低い値となった.

 4)肺炎の重症度については、原疾患群(重症群vs.超重症群)においては,大胸筋体積・厚さ,左大腰筋 面積,血清アルブミン値,MNA-SF,BMIが重症群で有意に高かった.併存疾患群では,中等度群において 他の2群に比しFOISが有意に高値となった.

5)全対象者では、肺炎の重症度と大胸筋の容量が退院時の生死に最も関連していた。原疾患群では、

大胸筋の容量が、併存疾患群では、肺炎重症度とFOISが退院時生死に最も関連していた。

4.考察

全対象者において最も生命予後に関連していた因子は肺炎の重症度および右大胸筋の厚さであった.

また, 群間比較や相関分析より, 左右大胸筋の容量に関連を認めた.原疾患群の分析においても, 大胸筋 の容量が予後に関連していた. 一方,併存疾患群では, 大胸筋の容量に加え摂食嚥下状態も生命予後へ の関連が示唆された. 大胸筋は, 吸気に関連した呼吸補助筋の1つであり,肺に入れた吸気の容量が,

咳嗽力と関連していることが考えられる.本研究において認めた大胸筋の容量の減少は,大胸筋の筋 力低下とそれに伴う呼吸機能の低下をもたらし,誤嚥性肺炎の回復にも影響していた可能性が考えら

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れる.今後は, 随意的評価が可能な誤嚥性肺炎患者を対象に, 最大呼気流速検査や最大吸気量・最大呼気 量といった詳細な呼吸機能検査と,大胸筋の容量や誤嚥性肺炎の予後との関連を検討する必要がある.

 大胸筋の厚さに関する左右差については, 握力や上腕周囲長を測定しておらず, 明確に結論づけるこ とはできない. しかし, 日本人の利き手に関する研究から, 利き手による筋力の差がベースにある可能 性が考えられる.

 本研究の対象者は、大腰筋の面積の中央値から、サルコペニアがあった可能性が示唆される。原疾 患群においては, 高齢であること, 大胸筋の容量の低下、大腰筋面積の狭小化, 低栄養, 低ADLがそれ ぞれ認められ、サルコペニアの重症度が高かったことが推察される.原疾患群では,大胸筋の容量と栄 養状態が, 肺炎の重症度と関連する要因として挙げられた. この結果から, 原疾患群では, サルコペニ アの重症度が肺炎の重症度に影響を与えていることが考えられる。さらに原疾患群では、肺炎の重症 度と退院時生死に関連は認めなかった。このことから、原疾患群では、肺炎の重症度に関わらず、 胸筋の容量が退院時の生命予後に関連していることが考えられる。併存疾患群では,摂食嚥下状態が重 症度および生命予後に関連しており,摂食嚥下機能低下が,肺炎の重症化と生命予後悪化の一因である 可能性が示唆された.

5.結論

高齢な誤嚥性肺炎患者において,最も生命予後に関連していた因子は肺炎の重症度と大胸筋の容量であ った.また, 原疾患群では,併存疾患群に比しサルコペニアが重症であることが示唆された.原疾患群で は,肺炎の重症度に関わらず,大胸筋のサルコペニアが退院時の生命予後に関連している可能性が考え られた.併存疾患群では,摂食嚥下機能が肺炎の重症度および生命予後に関連していた.

公 表 論 文 : Capacity of the pectoralis major muscle may be a prognostic factor for aspiration pneumonia.

Advances in Aging Research, November 30, 2017. DOI: 10.4236/aar.2017.66011.

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論文審査結果の要旨

1.総論

本研究は、誤嚥性肺炎の予後をCTによる画像解析法を用いて診断しうる可能性を示した大変画期的 なものである。誤嚥性肺炎で予後不良の症例は、ほとんどが寝たきりであり、意思疎通もままならな い。このため、通常の呼吸機能検査は施行すらできない症例が多々みられる。このような中、坂口氏 の着想は、意思疎通ができなくても、呼吸機能さらには誤嚥性肺炎肺炎の予後を予知し得ないかとい うもので、188例という膨大な誤嚥性肺炎患者の症例におけるCT画像を多変量解析等統計的手法 を用いて解析した結果、大胸筋の体積が、誤嚥性肺炎の予後と密接に相関するという実に画期的な結 論を導きだした。そして、大胸筋の筋萎縮(サルコペニア)が、生命予後と密接に関係していること が証明された。この結果の意義は、高齢化が進み、その中で死因となりうる誤嚥性肺炎の予防や治療 に貢献可能である。

2.論文評価

高齢者の誤嚥性肺炎の予後評価を、これまでの呼気ガス分析や血液ガス分析ではなく、CT画像解析 を用いて骨格筋の容積から見いだそうと試みた点は、新規性が感じられる。

研究対象が、まず高齢の誤嚥性肺炎患者のみであったことは、全体像を把握するという観点からは、

研究対象の選択が限局されていたといえる。

研究方法において、CT画像を骨格筋容積の算出に使用しており、大胸筋あるいは腹直筋の筋肉が研 究対象となっているが、これも全身的に広げれば、結果が異なった可能性も否定できない。また、実 際に誤嚥性肺炎に関与する筋肉は呼吸筋以外の例えば、咀嚼筋あるいは、食道括約筋、喉頭蓋なども 含まれるので、これらの評価を加算すると、異なった結果が生じた可能性も否めない。

結果および考察において、CT画像から算出した大胸筋あるいは腹直筋容積は、サルコペニアおよび 誤嚥性肺炎の予後と相関したとあるが、この仮説を実証すべく大胸筋筋力を増加させた場合に、誤嚥 性肺炎の予後が果たして改善されうるのか、今後のさらなる研究が必要であると考える。

 論文としては、目的、方法、結果、考察いずれも文献を交え、新規性もあり、且つ理路整然と記述 されており、査読付き原著論文として、公開されているので、博士論文としては、問題は無く、博士 号授与に十分値するものである。

3.口頭発表ならびに質疑応答の評価

本審査時に使用されたスライドは予備審査時と比較し要点が集約され、明瞭なものであった。

質問に対しても、的確かつ明確に応答し得ていた。

4.審査結果

発表後の無記名投票の結果、可13票、否0票の賛成多数で坂口氏の学位(博士号)取得認定が可決 承認された。

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参照

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