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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨

氏名:早乙女 義明

博士の専攻分野の名称:博士(生物資源科学)

論文題名:超臨界二酸化炭素による植物組織からの機能性成分の抽出分離における溶解因子の最適化

緒言

植物組織には人間の健康向上に寄与する多岐に亘る化合物が含まれており、その機能は食品分野ばかり でなく、医薬品分野、化粧品分野など幅広く応用されている。含有成分の多くは人工的に合成することが 困難であり、植物体の部位、また、植生の年数・環境によって含有成分の量や成分は変化する。植物の本 体そのものを人間が直接摂取することには限度があり、植物体から取り出すことによって、当該化合物の 市場への供給が可能となる。そのため、分離手段の学術的な基盤を構築すると共に、工業的に分離操作を 可能とする技術面の開発は重要な課題である。

植物組織に含まれる機能性成分の多くは、基本となる分子構造に糖鎖を有する配糖体と、糖鎖を有しな い基本構造のみの化合物に分けられる。後者は一般にアグリコンと呼称される。配糖体とアグリコンの分 子機能は共通であることが多いが、作用の内容には差異が認められ、貴重な植物資源を最大限活用するた めには機能性成分の溶解因子を的確に把握して、学術的に体系化された操作論の最適化を図らなければな い。

一般的に、天然の植物組織に含有される機能性成分は、植物体を乾燥・粉砕した後、溶媒に浸漬して注 目成分を取り出す抽出分離プロセスが適用されている。目的成分をできるだけ高純度で製品として得るた めには、分離プロセス中で用いた溶媒の分離除去が必要であり、目的成分の分離操作とは別に、不可避的 に溶媒の分離操作も考慮せざるを得ない分離操作の二重性が潜んでいた。

特に疎水性成分の抽出においては、従来から炭化水素系の有機化合物が用いられることが多く、溶媒の 残留や、抽出過程で生じる廃液の処理など、目的成分の変性なく、その純度を高める精製過程の複雑さが 工業化に向けた課題として指摘されることが多く、残留毒性の懸念が無く、かつ環境適応性の高い抽出法 の確立が求められている。

二酸化炭素は臨界点が

31.1℃、7.3 MPa

と比較的温和な温度条件で超臨界流体となり、常温・常圧下で は気体となるので、容易に分離除去することができるため、分離操作の二重性が解消され、残留毒性の懸 念が無い溶媒として期待されている。しかしながら、炭化水素や脂質系化合物の抽出分離に掛かる溶解量 のデータは各種報告されているが、植物組織からの機能性成分や生薬成分の溶解量データは非常に限られ ている。

本研究の目的は、超臨界二酸化炭素による植物組織からの機能性成分の抽出分離において、溶媒である 二酸化炭素の疎水性評価に取り組み、機能性成分との化学的親和性に基づく溶解量の評価と共に、抽出操 作に供する前の植物組織の処理工程の重要性にも留意して、注目成分の溶解因子を化学的親和性と、植物 組織に対する前処理の双方から検討を加え、分離条件の最適化を行うことである。

本研究では植物資源の試料モデルを、葉部としてパセリ、根部としてカンゾウ、種子部としてクチナシ を選択し、機能性成分として、アグリコンを抽出の目的成分とし、パセリに含有するアピゲニン、カンゾ ウに含有するグリチルレチン酸、クチナシに含まれるクロセチンの抽出を行った。

(2)

2

本研究は三部で構成されている。第一に、超臨界二酸化炭素の温度・圧力による注目成分の抽出量の基 礎的な抽出データの蓄積を行った。第二に、超臨界二酸化炭素の溶媒として化学物性に注目して溶媒・溶 質分子間の量論関係の相関と、抽出量が決まる背景として溶解エネルギーの考察を展開した。第三に抽出 操作に供する前の試料の粉砕や乾燥等の工業的処理工程の重要性を指摘して、溶解因子の最適化を行った。

1.超臨界二酸化炭素を用いた植物組織からの機能性成分の抽出量と温度・圧力条件の影響

植物組織からの機能性成分や生薬成分の超臨界二酸化炭素への溶解量データは非常に限られている。

また、二酸化炭素の無極性を考慮して、本研究では、アグリコン(パセリ:アピゲニン、カンゾウ:グリ チルレチン酸、クチナシ:クロセチン)の抽出量に注目した。なお、超臨界二酸化炭素中の抽出量の表記 として、超臨界流体の体積基準は求め難い。本研究では、乾燥した植物組織の単位質量を基準として、超 臨界の二酸化炭素

1 mol

あたりの注目成分の

mol

数として定義した。

[結果および考察]

パセリからのアピゲニン(アグリコン)とアピイン(配糖体)の抽出量はそれぞれ、4.24×10-7

mol-target/g-dry sample/mol-SCCO

2

5.39×10

-8

mol-target/g-dry sample/mol-SCCO

2であり(313K, 20MPa)、

アピゲニンの抽出量はアピインと比較して

7.86

倍を示し、カンゾウからのグリチルレチン酸(アグリコン)

とグリチルリチン(配糖体)の抽出量はそれぞれ

6.91×10

-7

mol-target/g-dry sample/mol-SCCO

2

、4.43

×10

-9

mol-target/g-dry sample/mol-SCCO

2であり(308K, 20MPa)、アグリコンの抽出量は配糖体の

156

に達した。これは、配糖体が糖鎖による親水性を示すのに対し、アグリコンは疎水性を帯びるので、二酸 化炭素の無極性により、疎水性が高い成分の抽出量が高く求められたと考えられる。なお、注目成分の疎 水性評価は水―オクタノール系の分配平衡定数に基づく

log P

値や後述する溶解度パラメーターにより評 価した。

温度並びに圧力の操作範囲は、装置の安全基準に従って、303K(30℃)~323K(50℃)、10MPa~20MPaの範 囲である。圧力一定の条件下では、臨界温度以上で、より低い温度条件下で抽出量が増大し、温度一定の 条件下では、臨界圧力以上で高圧条件ほど抽出量は増加する傾向が得られた。超臨界二酸化炭素の温度・

圧力は単に操作因子としての側面ばかりでなく、超臨界二酸化炭素の密度を決定づける。

Bender

の式より超臨界二酸化炭素の密度を算出し、抽出量との相関を行ったところ、密度の増大に伴い、

著しく抽出量が増加する傾向が明らかになった。超臨界状態では、二酸化炭素分子は空間に均一密度で存 在せず、同一分子が集合体(クラスター)を形成する「ゆらぎ」のある流体構造を形成している。二酸化 炭素分子をあえて高密度条件におくと、二酸化炭素の分子間エネルギーの反発が顕著になり、相対的に二 酸化炭素と異分子間の親和性が優勢となり、結果的に溶質分子周辺の一定の領域に集合して溶質と溶媒の 溶媒和が強制的に形成することができる。このことが高密度条件下の二酸化炭素の物質溶解能力の著しい 増大の機構的背景として考えられる。本研究のアピゲニンの例では、二酸化炭素の密度が

400kg/m

3から

900kg/m

3に変化するにしたがって、アピゲニンの溶解度は著しく増大し、

1

分子のアピゲニンを可溶化する

ために、10

から 10

6

オーダーの二酸化炭素分子が溶解に寄与していることが明らかとなった。高密度条

件ほど溶解に寄与する二酸化炭素分子の数が減ったことから、二酸化炭素

1

分子が担っている溶解力は向 上したことが立証された。

2.超臨界二酸化炭素の溶媒としての化学物性の評価と溶解エネルギーの考察

第一部では、量論的考察によって溶解量が決まる背景を考察し、二酸化炭素

1

分子が担っている溶解力 の変化を明らかにした。そこで、第二部では溶媒・溶質の凝集エネルギーに基づく疎水性評価に取り組み、

(3)

3

溶解に必要なエネルギーを考察し、溶解因子の役割を明らかにして、より高い抽出率を得る条件を明らか にした。

超臨界二酸化炭素の優れた安全性は生物組織からの機能性成分や、生薬成分の抽出溶媒として好ましい にもかかわらず、研究例は非常に限られている。今後、この種の機能性成分の健康増進効果や、生薬等の 医療分野への応用が広がることが期待されるので、生物組織からの機能性成分の溶解因子の詳細な検討は 重要である。

[結果および考察]

物質との親和性を考える基礎として、疎水性の評価は静電的引力と共に重要である。二酸化炭素は無極 性の化合物であり、注目成分との静電的引力は支配的因子として考慮する必要はないと考えられる。超臨 界状態にある二酸化炭素の疎水性評価は溶液論の立場から提案されているが、超臨界状態は「液相」では ないため、関係する化学種に応じて個別に検討する必要がある。本研究では分子の凝集エネルギーに基づ く溶解度パラメーターに注目して考察を展開した。超臨界二酸化炭素の溶解度パラメーターは

Giddings

の研究により、密度と密接な相関があることが知られており、本研究の注目成分の溶解度が超臨界二酸化 炭素の密度に大きく依存したことを考慮すると、溶媒・溶質双方の溶解度パラメーターに注目することは 重要である。物質の溶解度パラメーターについては、原子団寄与法や正則溶液論に基づく推算が考えられ る。前者の推算方法は当該分子をいくつかの原子団に分割し、それぞれの原子団の凝集エネルギーの寄与 分より、当該注目成分の溶解度パラメーターを推算する手法であり、本研究では主として原子団寄与法に 基づいた溶解度パラメーターを用いた。

温度・圧力によって超臨界状態の二酸化炭素の溶解度パラメーターが変化し、その疎水性の幅は一般の 有機溶媒のメタンからヘキサンや酢酸エチルに及ぶことが明らかとなった。すなわち、単一の化学種(二 酸化炭素)でありながら、超臨界状態で用いることにより、温度・圧力を変えることによって、多くの有 機溶媒を個別に抽出に用いるのと等しい効果を得ることができる。その簡便性が超臨界流体を用いる大き な利点である。溶解に要するエネルギーが低い条件で、高い抽出量を得ることが明らかとなり、第一部で 明らかとなった超臨界流体の高密度条件(臨界圧力点以上の高圧、臨界温度近傍の低い温度)における高 い抽出量のエネルギー面での合理性が明らかとなった。

分子間の凝集エネルギーの差が小さいことは、相互に溶解する際の必要エネルギーの極小化にとって有 利である。本研究では溶質と超臨界二酸化炭素の溶解度パラメーターの差より溶解に必要なエネルギーを 求め、実験で求められた抽出量と相関した。その結果、溶解に必要なエネルギー量が小さいほど、大きな 溶解量が得られていることが明らかとなった。このことは、抽出したい成分の溶解度パラメーターを推算 しておくことによって、当該分子の抽出分離に適した二酸化炭素の超臨界条件(温度・圧力)を決めるこ とができることを示唆しており、工業的分離操作を体系化する手がかりとして重要な知見である。ただし、

溶質と溶媒の溶解度パラメーターの差が過度に小さい系では溶媒との親和性が過剰となり、目的成分の高 純度化の妨げになる懸念があり、溶解度パラメーターの適切な差異が存在すると思われるので、今後の検 討課題である。

3.植物組織の抽出前の処理方法の重要性と抽出量の向上

植物組織から機能性成分を抽出するためには、原料となる植物組織の前処理は抽出率向上のために必要 不可欠な操作である。植物組織はセルロース系分子鎖を中心として、堅固な構造を有しており、たとえ化 学的アプローチとして溶媒の最適化が図られたとしても、もう一方の溶解因子として植物組織の各部位に 相応しい前処理に関する情報は系統的に検討されていない。現在は直感的あるいは経験的な手法に頼って

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おり、抽出分離の工業化への課題である。本研究は葉部、根部、種子部それぞれの部位に相応しい前処理 を研究対象として、その効果をまとめて最適化を試みた。

[結果および考察]

抽出速度は溶媒と植物試料の接触表面積に比例することは容易に推察されるが、その最適化に関する研 究は行われていない。微細化する過程において、必要以上の微細化による摩擦熱の発生によって機能性成 分の変性・揮発や、植物組織内に共存する副次的な成分の溶出を避ける必要がある。例えば、パセリ葉部 からのアピゲニンの溶出においては、表面積の一次に比例することなく、粉砕試料

200~385µm

の範囲にお いて抽出量は著しく増大した。このサイズは顕微鏡観察の結果から葉部の厚さに相当し、葉部を過剰に微 粉砕することが必ずしも有効でないことが明らかとなった。また、パセリの葉部に

10

分間の湯煎処理を施 し、その後、凍結乾燥を行うことにより、抽出量は著しく増大して、未処理の試料からの抽出量の

45

倍に 達した。

根部であるカンゾウについては組織が繊維質で非常に堅固であり、粉砕による組織の破壊には限界があ る。そこで超音波照射を行うことで、根部特有の繊維の間隙を拡張し、10分間の照射を行うことで未処理 の試料と比較して約

5

倍の抽出量を得た。これらの増分は溶媒物性の変更による増分に相当するか、それ 以上の効果をもたらすものであり、試料の前処理の重要性を改めて指摘した点で重要である。

4.本研究の総括

超臨界二酸化炭素を溶媒として、植物組織からの機能性成分の抽出量を実測した。溶媒と機能性成分そ れぞれの凝集エネルギーに基づき、双方の疎水性評価に取り組み、化学的親和性をエネルギー評価して溶 解量との高い相関を得た。また、植物組織を抽出操作に供する前の処理工程の工業的な重要性にも留意し て、植物組織の部位に応じた効果的な前処理を検討して、溶解因子の最適化を図り、食品並びに生薬成分 として期待される機能性物質の分離に工学的知見を得た。

その主な成果として、

①植物組織の各部位から超臨界二酸化炭素によって機能性成分の抽出を行い、温度・圧力条件による影響を 検討した。抽出量は圧力一定の条件では、臨界温度以上の低い温度条件下で抽出量が増大し、温度一定の 条件では、臨界圧力以上で高圧条件ほど抽出量は増大し、アグリコンの選択的抽出が可能であることを明 らかにした。超臨界二酸化炭素の密度が抽出量に支配的影響を与えており、その相関関係を見出した。

②溶質と溶媒、それぞれの分子間凝集エネルギーに基づき、その疎水性を評価して両者の凝集エネルギー の差の極小化を実現し、高い抽出量を得る熱力学的背景を明らかにした。溶解度パラメーターが生薬成 分等の植物組織からの高収率分離にとって有力な溶解因子であることを示した。これは、工業的分離操 作を体系化する指針として重要である。

③植物組織の前処理の重要性を指摘し、植物組織の各部位に応じた粉砕、湯煎、乾燥プロセスを適切に組 み合わせることにより、抽出量を飛躍的に増大させることができることを明らかにした。特に葉部におい ては、適切な粉砕サイズの領域の存在と湯煎後の凍結乾燥の有効性を示した。また、植物組織が堅固な根 部等においては粉砕操作に頼ることは困難であり、超音波の照射を行うことで抽出量の向上を達成した。

以上の知見は、超臨界二酸化炭素による植物組織からの機能性成分の抽出分離における溶質と溶媒の 溶解因子の最適化による高収率の抽出分離の実現と、試料となる植物組織の前処理の有用性を明らかに したものであり、食品並びに生薬成分の安全性の高い抽出分離手法の工学的基礎を与えるものである。

参照

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