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養介護施設従事者の虐待への意識に関する調査研究 ―

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Academic year: 2021

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(1)

1 .研究の目的

 「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」(以下「高齢者虐待防止法」という)が 施行され,7年目が終わろうとしている.しかし,養 介護施設従事者等による虐待は年々増加傾向にあり,

痛ましい事件が後を絶たない1)

 厚生労働省が全国1742市町村,ならびに都道府県に 行った調査によると,養介護施設従事者等による高齢 者虐待の相談通報件数は687件(前年比181件35.8%増),

高齢者虐待と認められ,市町村等による対応が行われ た件数は151件と過去最多となっている(前年比55件 57.35増)2)

 こうした現状に対し,先行研究においては,要介護 施設における虐待発生の背景要因への着目とそれを踏 まえた虐待予防の取り組みの必要性が指摘されている

(岸ら2010),(柴尾2009).しかし,虐待発生の背景要 因に関する研究結果等に基づいて具体的に養介護施設 従事者等による虐待を予防するための実践アプローチ,

研修プログラムを提示 ・ 開発した研究は,管見の限り では見当たらない.

 ところで,養介護施設従事者等による虐待予防のた めの実践アプローチ,現場に有用な研修プログラムの 開発のためには,まず養介護施設における虐待の現状,

養介護施設従事者の虐待への認識 ・ 対応のメカニズム,

勤務環境,人間関係,研修体制等の実態把握が不可欠 となろう.

 そこで,本稿においては,養介護施設従事者等によ る虐待予防のための実践アプローチ ・ プログラム開発

という最終目的を念頭に置いたうえで,まず,そのア プローチの骨組みとなる要素を抽出するために,先行 研究の整理,関係者へのヒアリング並びに質問紙調査 を実施し,養介護施設における虐待について,現状把 握を行うとともにその問題の所在を明らかにすること を目的としたい.

2 .研究の視点および方法

 本研究においては,芝野らによって開発された M-D&D に基づく実践アプローチの開発手法を参考に する.芝野は,日常の実践で使いやすい簡便な実践モ デルと実践マニュアルの開発手続きとして,潜在的な 力を育むようなプロセティック環境を構築するという プロセテイック ・ アプローチに基づくたたき台の創出,

たたき台の施行 ・ 評価 ・ 改良の繰り返し(イテレーショ ン),完成モデルの宣伝 ・ 普及と実践現場に合わせたテ ラー ・ メイド化,に重点を置いた,Thomas, J の D&D を修正した M-D&D を作成している.M=D&D のプロ セスは,フェーズⅠ:問題の把握と分析,フェーズⅡ:

たたき台のデザイン,フェーズⅢ:試行と改良,フェー ズⅣ:普及と誂え,の順に研究を進めていくことが推 奨されている.(副田2010)

 本稿では,この視点に基づき,フェーズ1の養介護 施設における虐待予防に関する「問題の把握と分析」

のステップについて言及するものとする.具体的には,

フェーズⅠでは先行研究の整理実践者へのヒアリング,

実践者への質問紙調査を行う.

 本研究を進めるうえでの倫理的配慮としては,まず フェーズⅠの質問紙調査は,目的 ・ 内容等を明記した

立正大学社会福祉学部

キーワード:高齢者虐待,養介護施設従事者,虐待予防,介入研究,感情労働

養介護施設従事者の虐待への意識に関する調査研究

―養介護施設における虐待予防のための実践アプローチ・

研修プログラム開発に向けて―

土 屋 典 子

(2)

依頼文を該当施設の管理職と職員に送付し説明を行い,

同意を得られた介護職員にのみ調査に参加してもらう こととした.次にデータ収集方法 ・ 処理におけるプラ イバシー保護のための措置としては,調査結果はすべ て統計的に処理し,個人の意見が特定されないように した.尚,本調査は首都大学東京倫理委員会による承 認を得た.

3 .研究結果

 フェーズⅠ:問題の把握と分析

⑴ 問題の把握 1)先行研究

 先行研究においては,養介護施設における虐待件数 が増え続ける理由の一つとして,「高齢者虐待防止法」

第2条5項の「養介護施設従事者等による高齢者虐待」

の定義そのものに課題があると指摘されている3).例え ば,第2条5項ハでは,心理的虐待の定義として「高 齢者に対する著しい暴言または,著しく拒絶的な対応,

その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行 うこと」とされている.この定義の中の「著しい」「著 しく」などの言葉の多用が,虐待という行為を法的な 解釈においても「社会一般の常識からみて共有できる 範囲」か否かという形で判断せざるを得ないというあ いまいな状況をつくっていること.そのため,この「著 しい」「著しく」がどのような状況を指しているのか,

現場においてコンセンサスを得ることが困難となり,

関係者間で虐待判断への温度差が生じ,虐待の特定に 後れを生じさせ,結果的に虐待対応のための適切な対 応がなされていないとする考えである4)

 一方,平成22年東京都健康長寿医療センター研究所 の調査によれば,全国の市区町村において,どのよう な行為を虐待ととらえるかの「虐待の判断」は市町村 により認識が異なっていることも指摘されている.た とえば,「押す,つねる,たたく,ける」を虐待とする 市町村は87.1%であることに対し,「無理やり食事を食 べさせる」を虐待とする市区町村は46.5%と半数のみ であった5).こうした市区町村ごとの虐待の判断のずれ は,虐待認定件数の誤差にもつながりかねない6)  養介護施設従事者による虐待について現状把握を行 いその問題の所在を明らかにする上では,まず何をもっ て虐待とするかという,虐待の特定を,虐待類型ごと の具体的事例を持って行う作業が不可欠といえるだろ う.

2)プレヒアリングの実施

 問題の所在を明らかにするために,関東圏内の複数 の特別養護老人ホーム職員へ事前にプレヒアリングを 行うこととした7).ヒアリングの中では,まず今回の研 究で活用する標準的な虐待事例を特定するための意見 を得た.これは,前述のとおり,養介護施設従事者等 による虐待予防の実態について調査するにあたっては,

虐待類型別の具体的事例の提示が不可欠であると考え たからである8)

 プレヒアリングにおいては,養介護施設従事者によ る虐待予防,および虐待対応のために必要な要素につ いても意見を尋ねた.その結果として,まず施設内に おいて,何をもって虐待とするかのコンセンサスを得 ることが重要であること,また,虐待予防,対応には,

組織内の協働が不可欠であること,ただし,協働の仕 組みが整備されても,職員同士の協働の方法が有効で なければ,職員は疲弊し,適切な予防 ・ 対応を行って いくことが困難となるため,協働を促進する上でのコ ミュニケーション方法などの研修プログラムを開発す ることも重要であること,さらには,BPSD への対応 に困難を感じている職員も多いため,こうした介護技 術面でのスキルを向上させるための研修も重要である ことなどが確認できた.

 プレヒアリングを経て作成した虐待類型別事例は以 下の通りである.(表1)

(表 1 )

利用者が車椅子に座っている際,転落防止 のために安全ベルトで車いすと利用者を固 定した

身体的虐待

朝食介助をしている際に,利用者の衣類に カップ一杯の牛乳をこぼしたが,夕方入浴 があるのでそのままにした

放置・放任

いつも女性スタッフだけで女性の利用者の 入浴介助を行っているが,今日は男性のス タッフに手伝ってもらった

性的虐待

認知症利用者から同意を得てスタッフがお

金を借りた 経済的虐待

利用者が一か月入浴していないが,本人が

拒否するのでそのままにしている 心理的虐待 認知症で同じことを繰り返し訴える利用者

をスタッフが無視して一日も会話しなかっ

心理的虐待

(3)

3)質問紙調査の実施

 さらに,本研究を進めるにあたり,虐待の実態に関 する量的データが不可欠であると考えた.そこで質問 紙調査を実施することとした.調査の母集団は,関東 圏内(東京都,埼玉県,神奈川県)の介護老人福祉施 設の職員とした.対象者の抽出は,2012年4月時点で WAM-NET「介護事業者情報」に介護老人福祉施設と して登録されている施設より,東京都,埼玉県,神奈 川県の全1065施設から等間隔にて167施設を抽出した.

抽出された施設に勤務する介護職員500名に対して,虐 待の有無,虐待への認識 ・ 対応,組織内協働の実態等 に関する自記式質問紙調査を,2012年12月~2月2日 に実施した.回収数は204件(41%)である.調査項目 は,調査対象者の基本的な属性を問う「基本的な属 性」,勤務する施設において表2で示した「標準的な虐 待事例」と思われる場面に遭遇したことがあるかを問 う「施設における虐待の有無」,「標準的な虐待事例」

と思われる場面に遭遇した際の,その状況に対しての 自らの認識と対応を問う「虐待への認識と対応」,施設 のハード,ソフト面での環境整備の状況を問う「職場 内環境」,施設内での同僚,上司,部下との人間関係に ついて問う「職場内人間関係」,施設内の研修実施の有 無を問う「職場内研修体制」等全13項目である.

 分析は SPSS20.0を使用して単純集計,相関関係分析 等を行った.紙幅の関係で,本稿においては,単純集 計結果と分析,考察を示すこととする.

⑵ 質問紙調査の結果と分析

 回答者の属性は,表2の通りである.年齢構成はもっ とも多いのが30代の42.2%,次いで40代24.5%,20代 22.5%であり,20代,30代が6割を占める.性別とし ては,女性54%,男性46%である.所持資格は最も多 いのが介護福祉士の71.4%,次いでヘルパー2級20.6%,

その他の資格が18.6%である.就労年数は,最も多い のが1から3年未満で36.7%,次いで5から10年未満 が30.2%,そして3から5年未満が25.1%で,10年以上 が10%となっており,5年以上が4割にのぼる.

 これらの結果から,今回の調査では,比較的若く,

男性も一定程度おり,介護福祉士が7割,比較的長期 間就労しているものが多くみられ,各施設における中 堅クラスの介護職員の協力が多く得られたとみること もできる.

 次に,調査結果を分析していきたい.まず,6つの

事例の状況への遭遇の有無は表3の通りである.「遭遇 あり」でもっとも多いのが,「いつも女性スタッフだけ で女性の利用者の入浴介助を行っているが,今日は男 性のスタッフに手伝ってもらった」(以下「異性による

表 2  回答者の属性 n=204

年 齢

10代 1 0.5

20代 46 22.5

30代 86 42.2

40代 50 24.5

50代 19 9.3

60代 2 1

NA 0

合 計 204 100

性 別

女 性 110 54

男 性 94 46

NA 0 0

合 計 204 100

所持資格

介護福祉士 146 71.6

実務者研修 7 3.4

ヘルパー1級 6 2.9

ヘルパー2級 41 20.1

その他の資格 38 18.6

NA 0

合 計 250 100

就労年数

1から3年未満 112 34.7 3から5年未満 70 25.1 5から10年未満 9 30.1

10年以上 10.1

NA 0

合 計 100

所 属

ユニット型 115 56

従来型 83 41

その他 4 2

欠損値 2 1

合 計 204 100

(4)

入浴介助」と記す)で54.9%,次いで「朝食介助をし ている際に,利用者の衣類にカップ一杯の牛乳をこぼ したが,夕方入浴があるのでそのままにした」(以下

「牛乳こぼし夕方までそのまま」と記す)の43.6%,さ らに「利用者が車椅子に座っている際,転落防止のた めに安全ベルトで車いすを固定した」(以下「安全ベル トで固定」と記す)26.5%となっている.「異性による 入浴介助」や「牛乳こぼし夕方までそのまま」は二人 に一人が遭遇している状況である.さらに,「利用者が 一か月入浴していないが,本人が拒否するのでそのま まにしている」(以下入浴拒否の利用者を放置」と記 す),「認知症で同じことを繰り返し訴える利用者をス タッフが無視して一日も会話しなかった(以下,「認知 症利用者を一日無視」と記す)についても若干ではあ るが遭遇したことがあるとの回答を得ている.

 次いで,「遭遇なし」は,「認知症の利用者から同意 を得てスタッフがお金を借りた」(以下「認知症利用者 からの金銭の貸借」と記す)が98.8%,「認知症利用者 を無視」が94.1%,「入浴拒否の利用者を放置」が87.3%

となっている.

 6つの事例の状況への認識は表4の通りである.「虐 待」についての認識は6つの事例状況ごとに異なって いた.「認知症利用者を無視」が最も多く73%,次いで

「認知症利用者からの金銭の貸借」が45.1%,さらに,

「安全ベルトで固定」が39.2%となった.

 一方「不適切なケア」との認識も事例状況により異 なっていた.「牛乳をこぼし夕方まで放置」が73%,

「入浴拒否利用者を放置」が71.1%,「認知症利用者か らの金銭の貸借」が50.5%となった.

 最後に,「どちらでもない」とする認識はそれぞれの 事例において存在し,「異性による入浴介助」が最も多 く71.6%,「安全ベルトで固定」が30名の14.7%,「認知 症利用者からの金銭の貸借」が3.4%となった.

 「異性による入浴介助」を7割の回答者が「どちらと もいえない」とすることについては,不十分な人員体 制の中での同性介助を行うことの難しさが反映されて いるともとれる.また,「認知症利用者からの金銭の貸 借」について,これを虐待でも不適切なケアでもない と認識する回答があったことについては注視が必要で あろう.

 表5は虐待への対応状況を示したものである.「自分 で対応するもの」については,「牛乳をこぼし夕方まで 放置」が88.7%,「認知症高齢者を一日無視」が40.7%,

「安全ベルトで固定」は17.2%であった.

 次いで,「同僚 ・ 上司に相談する場合」は,「入浴拒 否利用者を放置」が78.4%,「認知症利用者から金銭貸 借」が77%,さらに「安全ベルトで固定」が74.5%と なった.

 最後に「何もしない」については,最も多いのが「異 性による入浴介助」で38.2%,「安全ベルトで固定」が わずかであるが1.5%,「認知症の高齢者を一日無視」

が1%である.

 「自分で対応する」,と「同僚 ・ 上司に相談」の判断 の相違としては,自らの意思で対応が可能なものにつ

表 3  虐待遭遇 n=204

遭遇したことが ある

遭遇したことが

ない 欠損値

人数 人数 人数

利用者が車椅子に座っている際,転落防止のために安全ベ

ルトで車いすと利用者を固定した 54 26.5 149 73 1 0.5

朝食介助をしている際に,利用者の衣類にカップ一杯の牛

乳をこぼしたが,夕方入浴があるのでそのままにした 89 43.6 114 55.9 1 0.5 いつも女性スタッフだけで女性の利用者の入浴介助を行っ

ているが,今日は男性のスタッフに手伝ってもらった 112 54.9 81 39.7 11 5.4 認知症利用者から同意を得てスタッフがお金を借りた. 0 0 201 98.5 3 1.5 利用者が一か月入浴していないが,本人が拒否するのでそ

のままにしている 23 11.3 178 87.3 3 1.5

認知症で同じことを繰り返し訴える利用者をスタッフが無

視して一日も会話しなかった 10 4.9 192 94.1 2 1

(5)

いては自分で対応し,組織内での検討が必要なものに ついては同僚 ・ 上司に相談するという区分けがなされ ているともとれる.また,ここでも「何もしない」と する回答が一定程度みられており,今後分析をすすめ る上で注視が必要であると考える.

 次に勤務環境の整備状況についての結果は表6の通 りである.「あてはまる」ものとしては,「利用者への 適切なケアを行うために定期的な委員会を開催してい る」(以下「定期的な委員会開催」と記す)が95.9%,

「利用者一人一人に対しアセスメントとサービス計画を 作成 ・ 共有化し,チームケアを行っている」(以下,

「チームケアの実施」と記す)が92.2%,さらに「浴室 の設備は,個浴,機械浴,大浴場,など利用者の状態 に応じて選択できるよう整備されている」(以下,「浴 室の整備」と記す.)が86.8%となった.

 次いで,「あてはまらない」ものとしては,「給与,

昇給,昇進などの待遇面で不満がない」(以下,「待遇 面での不満がない」と記す)の50%,次いで,「夜勤を 行う介護職員の業務負担を軽減する取り組みがある」

(以下「業務負担軽減の取り組みがある」と記す)の 46.6%,ついで「有給休暇がとりづらいことがない」

(以下「有給休暇」と記す)46.5%,さらに,「休憩時

表 4  虐待認識 n=204

虐待 不適切な

ケア

どちらでも

ない 欠損値

人数 人数 人数 人数

利用者が車椅子に座っている際,転落防止のために安全ベ

ルトで車いすと利用者を固定した 80 39.2 91 44.6 30 14.7 3 1.5 朝食介助をしている際に,利用者の衣類にカップ一杯の牛

乳をこぼしたが,夕方入浴があるのでそのままにした 51 25 149 73 2 1 2 1 いつも女性スタッフだけで女性の利用者の入浴介助を行っ

ているが,今日は男性のスタッフに手伝ってもらった 5 2.5 49 24 146 71.6 4 2 認知症利用者から同意を得てスタッフがお金を借りた 92 45.1 103 50.5 7 3.4 2 1 利用者が一か月入浴していないが,本人が拒否するのでそ

のままにしている 49 24 145 71.1 6 2.9 4 2

認知症で同じことを繰り返し訴える利用者をスタッフが無

視して一日も会話しなかった 149 73 48 23.5 3 1.5 4 2

表 5  虐待対応 n=204

自分で対応 同僚・上司に

相談 何もしない 欠損値

人数 人数 人数 人数

利用者が車椅子に座っている際,転落防止のために安全ベ

ルトで車いすと利用者を固定した 35 17.2 152 74.5 3 1.5 2 1 朝食介助をしている際に,利用者の衣類にカップ一杯の牛

乳をこぼしたが,夕方入浴があるのでそのままにした 181 88.7 14 6.9 0 0 9 4.4 いつも女性スタッフだけで女性の利用者の入浴介助を行っ

ているが,今日は男性のスタッフに手伝ってもらった 18 8.8 95 46.6 78 38.2 1 5 認知症利用者から同意を得てスタッフがお金を借りた 33 16.2 157 77 1 0.5 13 6.4 利用者が一か月入浴していないが,本人が拒否するのでそ

のままにしている 22 10.8 160 78.4 1 0.5 21 10.3

認知症で同じことを繰り返し訴える利用者をスタッフが無

視して一日も会話しなかった 83 40.7 94 46.1 2 1 25 12.3

(6)

間に休憩室等でリラックスすることができている」(以 下「休憩室等でリラックス」と記す)31.8%となった.

 ケアの質の向上のための取り組み,設備面での整備 状況は比較的充足しているが,「待遇面での不満がな い」,「業務負担軽減の取り組みがある」,「有給休暇が とりづらいことがない」,「休憩室でのリラックス」等,

職員のストレスと関連の深い項目が充足していない状 況がうかがえる.

 職場内人間関係の実態についての結果は表7のとお

りである.「同僚 ・ 上司にケア中困ったとき,相談した ことがある」(以下「同僚 ・ 上司に相談」と記す)は 91.7%,「同僚上司からケア中困ったことについて相談 されたことがある」(以下「同僚 ・ 上司から相談」と記 す)が84.3%といずれも高い.同僚 ・ 上司への相談,

またその逆も密に行われている様子がうかがえる.

 一方,「同僚 ・ 上司が利用者に対してよいケアを行っ た際に褒めたり,賞賛したことがある」(以下「同僚 ・ 上司を賞賛」と記す)は82.4%であるが,「利用者に良

表 6  勤務環境 n=204

あてはまる あてはまらない 欠損値

人数 人数 人数

利用者への適切なケアを行うために定期的な委員会(もし

くは会議)を開催している 196 95.9 7 3.3 1 0.5

利用者一人一人に対しアセスメントとサービス計画作成を

し,共有化しチームケアを行っている 189 92.7 14 6.9 1 0.5

休憩時間に休憩室等でリラックスすることができている 138 67.7 65 31.8 1 0.5

夜間救急時に看護師に相談できる 171 83.8 32 15.7 1 0.5

夜勤を行う介護職員の業務負担を軽減する取り組みがある.

配置職員の増員.勤務時間の調整 105 51.4 95 46.6 4 2

有給休暇が取りづらいことがない 107 52.4 95 46.5 2 1

給与,昇給,昇進などの待遇面で不満はない 99 48.5 102 50 3 1.5 居室や共有スペースは利用者の危険防止に配慮した環境づ

くりが行われている 172 84.3 29 14.2 3 1.5

浴室の設備は,個浴,機械浴,大浴槽など利用者の状態に

応じて選択できるよう整備されている 176 86.8 26 12.7 1 0.5

車いすトイレの数は足りている 170 83.3 31 15.2 3 1.5

表 7  人間関係 n=204

ある ない 欠損値

人数 人数 人数

同僚・上司にケア中に困ったとき,相議したことがある 187 91.7 16 7.8 1 0.5 同僚・上司からケア中困ったことlこついて相設されたこ

とがある 172 84.3 30 14.7 2 1

同僚・上司が利用者によいケアを行ったとき,そのケアに

ついて褒めたり,賞賛したことがある 168 82.4 35 17.1 1 0.5

利用者によいケアを行ったとき,同僚上司から褒められた

り,賞賛されたことがある 143 70.1 59 28.9 2 1

利用者との関係性が悪くなったとき,同僚,上司に利用者

へのケアを交代してもらったことがある 102 50 100 49 2 1

同僚・上司が利用者との関係性が悪くなった時,利用者へ

のケアを交代してあげたことがある 137 67.1 64 31.3 3 1.5

(7)

いケアを行った際,同僚 ・ 上司から褒められ,賞賛さ れたことがある」(以下「同僚 ・ 上司から賞賛」)は 70.1%と「同僚 ・ 上司を賞賛」より12.3%減となってい る.さらに,「同僚 ・ 上司から賞賛」されたことがない とする回答が28.9%と3割にのぼることがわかった.

 また,「同僚 ・ 上司が利用者との関係性が悪くなった とき,利用者へのケアを交代してあげたことがある」

(以下「同僚 ・ 上司にケアを交代してあげた」と記す)

は67.1%であるのに対し,「利用者との関係性が悪く なったとき,同僚 ・ 上司からケアを交代してもらった」

(以下「同僚 ・ 上司からケアの交代」と記す)は50%と 17.1%の減である.さらに,「同僚 ・ 上司からケアを交 代」してもらったことがないとする回答も49%と半数 に上ることがわかった.これらの結果から,日常的に 自分自身は職場内で同僚 ・ 上司に対して,ケアの交代 など配慮をしてきているが,同僚 ・ 上司からはそのよ うにされていないと考える回答者が一定程度存在する ことが浮かび上がってきている.

 最後に職場内研修体制についてである(問8).「実 施している」研修は,「リスクマネジメントに関する研 修」が71.6%と最も多い.ついで,「不適切なケアを防 ぐためのルールや倫理等について考えるための研修」

(以下「不適切なケア防止のための研修」と記す)が 68.1%,「身体拘束廃止に関する研修」67.2%,「高齢者 虐待防止研修」65.2%,さらに「看取りケアについて の理論 ・ 考え方を学ぶ研修」が60.3%となっている.

一方「実施していない研修」では,最も多いのが,「職 員のストレスマネジメントに関する研修」で47.1%,

次いで,「看取りケアの技術を学ぶ研修」の39.7%,さ らに「認知症高齢者の BPSD に関する研修」の32.8%,

「コミュニケーションスキルに関する研修」35.3%と なっている.

 コンプライアンスを意識した研修は比較的多く実施 されているが,ケアの質の向上のための研修は比較的 実施されていないという結果がわかった.

5  考 察

⑴ 介護職員の虐待の認識と対応について

 先行研究において虐待の認識は市町村レベルで異な ることが指摘されていたが(菊池2010),今回の調査に おいて,虐待の認識は職員個人レベルで,さらに虐待 類型ごとに異なることが明らかとなった.つまり,第 一線の介護現場におけるスタッフの間で,何をもって 虐待とするかの判断が個人に委ねられている場合が多 いということである.虐待予防 ・ 対応のための第一歩 とは,防ぐべき状況とは何かという目標の明確化であ る.今後虐待類型別の事例の提示を含む虐待防止のた めのガイドラインの作成と,周知のための研修等機会 の確保が急務と言える.

 次いで,「虐待」と「不適切なケア」との関係であ る.今回の調査では,虐待の認識において,同じ状況 を「虐待」あるいは「不適切なケア」とする回答がど

表 8  職場内研修 n=204

実施して いる

実施して

いない わからない 欠損値

人数 人数 人数 人数

不適切なケアを防ぐためのルールや倫理等について考える

ための研修 139 68.1 35 17.2 27 13.2 3 1.5

高齢者虐待防止研修 133 65.2 45 22.1 25 12.3 1 0.5

認知症高齢者の BPSD に伴うケアに関する研修 94 46.1 67 32.8 40 19.6 3 1.5 身体拘束廃止に関する研修 137 67.2 40 19.6 26 12.7 1 0.5 ストレスマネジメントに関する研修 66 32.4 96 47.1 38 18.6 4 2 リスクマネジメン卜に関する研修 146 71.6 35 17.2 22 10.8 1 0.5 コミュニケーションスキルに関する研修 95 46.6 72 35.3 34 16.7 3 1.5 看取りケアの理論・考え方を学ぶための研修 123 60.3 56 27.5 24 11.8 1 0.5 看取りケアについて技術を学ぶための研修 97 47.5 81 39.7 26 12.7 0 0

事例検討会 109 53.4 60 29.4 34 16.7 1 0.5

(8)

の事例においても存在した.「認知症利用者を一日無 視」を除き,すべての事例において,「虐待」ではなく

「不適切ケア」と認識する回答者が目立った.それは,

「牛乳をこぼし夕方まで放置」という比較的軽微な印象 をもつものから,「入浴しない利用者を放置」,「認知症 利用者から金銭貸借」,とかなり深刻な状況においても 同様であった.

 「不適切なケア」とは,介護現場において一般的に使 用されている用語であるが定義はあいまいである.プ レヒアリングにおいては,「本当は防ぎたいけれど,仕 方なく行ってしまっている場合 ・ 自分たちの努力では どうにも解決できない場合などに使っているかもしれ ない」,という意見がでていた.この発言の背景には,

介護職員の過酷な労働環境,それに伴う業務負担の存 在がうかがえる.一方,養介護施設において生活を営 む利用者の立場にたつと,こうした状況は見過ごされ るべきものではなく,何らかの「エクスキューズ」と して,「不適切なケア」という用語が定義があいまいな まま使用され続けることは望ましい状態ではない.

 今後虐待予防の取り組みを進めるうえでは,勤務環 境の改善も念頭においたうえで,現場に存在するこの

「不適切なケア」という状況についても予防していく意 識が不可欠であろう.また「不適切なケア」の概念に ついては,「虐待予防を阻害する要素を持つ」ことも視 野にいれ,整理が必要と考える.

 さらに,今回の調査で,事例の状況を「どちらでも ない」とする回答が,また,虐待への対応も「何もし ない」とする回答が一定程度存在したことも大きな課 題であろう.今後これらの認識 ・ 対応を生み出してい る条件について分析 ・ 考察が必要と考える.

⑵ 養介護施設における勤務環境と人間関係

 先行研究においては,施設虐待の背景要因として,

勤務環境の未整備が指摘されていた(岸ら2010).今回 の結果では,勤務環境の中でも,ケアの質向上のため の取り組みについては充足しているとする回答が多く 得られ,逆に,「待遇面での不満がない」,「有給休暇が とりづらいことがない」さらに,「休憩室等でリラック ス」については未充足とする回答が多かった.ハーズ バーグ(Herzberg.1966)はこれら外発的要因を衛生要 因(hygiene factors)とよび,これらは限りのない欲 求であり,あっても十分な満足を得るには至らないが,

なければ不満が増強し,人のモチベーションは下がる

としている.であるならば,養介護施設において勤務 環境の外発的要因が未充足な状況では,当然職員のモ チベーションは低下すると予測できる.では,こうし た勤務環境は,養介護施設従事者の虐待への認識 ・ 対 応にも何らかの影響を与えるものであろうか.この点 については,勤務環境に関する10項目と虐待への認識 ・ 対応とのクロス集計結果を踏まえて次稿にて論じてい きたい.

 職場における人間関係については,今回の調査では,

同僚 ・ 上司と本人との双方向のコミュニケーションが 比較的できている結果となった.しかし,同僚上司に 対してコンプリメント,ねぎらいはしているが,逆に,

同僚 ・ 上司からコンプリメント,ねぎらいはあまりさ れていないとする回答が多かった.また,同様に,対 応が困難な利用者に対して同僚 ・ 上司とケアを交代し てあげることは多いが,逆に同じような場面で同僚上 司からケアを交代してもらうことはあまりないとの回 答も多かった.

 介護労働は感情労働と呼ばれる9).それゆえ,同僚 ・ 上司 ・ 利用者等他者からのさりげない一言,ねぎらい の言葉によって自己肯定感がはぐくまれ,自己効力感 が生まれ,より良い実践を行う基盤が形成されるもの ではないか.とすると,こうした基盤が形成されない 場合どうなるのか.今後の分析においては,こうした 人間関係の実態が虐待の認識 ・ 対応 ・ 遭遇経験に与え る影響についても考察していきたい.

⑶ 介護現場において求められる研修とは何か  最後に施設内虐待予防のために求められる研修につ いて考察を行っていきたい.今回の結果では,現場に おいては,身体拘束廃止に関する研修,虐待防止研修 などの実施率は高いことが明らかとなった.これらは,

「介護サービスの情報」の評価項目にもなっていること から,これらの研修の実施が現場において定着してき た表れとも考えられる.

 しかし,介護現場とは離職率も高く,重労働かつス トレスの多い職場と理解できる.こうした実践の場に おいては,プレヒアリングでも指摘されていたとおり,

ストレスマネジメントや,特に職員が負担に感じてい る「認知症の BPSD への対応」のための研修,具体的 なスキルを学ぶ研修も求められてくるのではないか.

また,前述のとおり,同僚 ・ 上司との人間関係につい ても多少改善の必要性がみられることからも,職場内

(9)

協働を促進するためのコミュニケーションスキル向上 などの実践的なスキルを会得するための研修も同時に 求められるのではないか.

 しかし今回の調査結果からこうした内容の研修はほ とんど実施されていないことが明らかとなった.今後 はそれぞれの研修の実施状況が介護職員の虐待への認 識 ・ 対応等に与える影響をふまえ,その結果を研修プ ログラムの開発に生かしていきたい.

6 .むすびにかえて

 本稿においては,高齢者虐待予防のための実践アプ ローチ ・ 研修プログラム開発という最終目的を念頭に 置いたうえで,まず,そのプログラムの骨組みとなる 要素を抽出するために,先行研究の整理,関係者への ヒアリングならびに質問紙調査を実施し,養介護施設 における虐待に関する現状把握を行った.

 結果として,養介護施設従事者のおかれている現状,

彼らの虐待への認識と対応,職場内環境,職場内人間 関係の実態について把握し,養介護施設において求め られる研修について考察が可能となった.

 次稿においては,今回不十分であった点についてさ らにデータ分析を深め,フェーズⅠの研究段階をまと めていくこととしたい.

1) 2012年1月介護付き有料老人ホームはぴね神戸学園都市の 入居者虐待事件では,複数回にわたって女性入居者の顔を 叩く,暴言をはくなどの事実を家族による映像の隠し撮り で判明.神戸市が事業所に対して半年の介護報酬請求の2 割カット,新規利用者の受け入れ停止の行政処分を実施し た.2012年7月には,和歌山県海南市における市の社会福 祉事業団が運営する施設において,叩く,怒鳴る,水をか けるなどの虐待12件が確認され県が改善勧告を出した.

2) 老健局高齢者支援課 認知症・虐待防止対策推進室(2012)

が行った調査「平成23年度高齢者虐待の防止,高齢者の養 護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関 する調査結果」においては養介護施設における虐待実数が 過去最多であるとの報告がなされている.本調査では,30 歳未満の男性職員による虐待の多発傾向も判明している.

3) 社団法人日本社会福祉士会において「養護者による高齢者 虐待対応の標準化のためのマニュアル策定並びに施設従事 者による虐待対応の実態調査及び対応システムの在り方に 関する研究」報告書において指摘されている.

4) 社団法人日本社会福祉士会(2010)にその詳細が記されて いる.

5) 菊池による「養介護施設従事者等による高齢者虐待への市 町村の対応能力向上に関する研究」において市区町村によ る対応のずれ,その要因が詳細に分析されている.

6) たとえば,2012年の厚生労働省調査においては,全国6207

の介護老人福祉施設において虐待認定された件数は45件と 報告されている.しかし,日本労働組合総連合会が介護老 人福祉施設に対して直接,独自に行った調査「介護保険三 施設調査報告書」では,114の介護老人福祉施設の従事者 1186人のうち,4.9%,58名が「虐待をしたことがある」と 回答している.「虐待をしたことがある」58名が実際に関 わった虐待件数が不明であるため単純な比較は危険である が,6207施設において45件という厚生労働省調査と,わず か114施設で58名が虐待に関わったことがあるとする日本労 働組合総連合会調査の結果から,施設現場における「潜在 的施設虐待発生件数」は,現時点で厚生労働省が把握して いる数値を大幅に上回るのではないかという予測は簡単に 否定はできない.

7) プレヒアリングは,東京都内のA特別養護老人ホーム施設 長,介護主任,B特別養護老人ホーム副施設長,神奈川県 内C特別養護老人ホーム施設長,の計4名に対して行った.

8) 本事例作成にあたっては,西元(2007)が作成した虐待事 例を参考とした.

9) 感情労働については,長谷川(2008)が「介護援助行為に おける感情労働の問題において興味深い考察を行っている.

引用文献 ・ 参考文献

A. R ホックシールド,石川准 室伏亜希訳『管理される心:感 情が商品になるとき』世界思想社,2000

岡田耕一郎・岡田浩子(2012)「だから職員が辞めていく―施設 介護マネジメントの失敗から学ぶ」環境新聞社

菊池和則(2010)「養介護施設従事者等による高齢者虐待への市 町村の対応能力向上に関する研究」東京都健康長寿医療セン ター研究所

岸恵美子(2010)「施設内高齢者虐待が生じる背景と介護職の認 識及び体験」高齢者虐待防止学会 Vol6, No1

厚生労働省 老健局高齢者支援課「平成23年度高齢者虐待防止,

高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状 況等に関する調査結果」(2012)

柴尾慶次(2009)「養介護施設従事者,養介護施設従事者等によ る虐待発生の構図」高齢者虐待防止研究 Vol5, No1

社団法人日本社会福祉士会(2011)「養護者による高齢者虐待対 応の標準化のためのマニュアル策定並びに施設従事者による 虐待対応の実態調査及び対応システムの在り方に関する研究」

報告書 社団法人日本社会福祉士会

田尾雅夫(2010)「組織の心理学」有斐閣ブックス

認知症介護研究・研修仙台センター(2007)「『高齢者虐待を考 える』養介護施設従事者等による高齢者虐待防止のための事 例集」

認知症介護研究・研修仙台センター(2008)「施設・事業所にお ける高齢者虐待防止の支援に関する調査研究事業」

副田あけみ(2010)「ソーシャルワークにおける介入研究の方 法」『ソーシャルワークの研究方法』相川書房

西元幸雄(2007)「高齢者施設における虐待の構造的分析」老年 社会科学 Vol28 No4

日本労働組合総連合会(2005)「介護保険三施設調査報告書」

長谷川美貴子(2008)「介護援助行為における感情労働の問題」

淑徳短期大学研究紀要第47号.

Herzberg,(1966)Work and the Nature of Man. Cleaveland:

World(北野利信訳『仕事と人間性』東洋経済新報社1968)

(2014年2月7日受理)

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