南 ア ジァ研 究 第19号(2007年)
インドにおける
生殖 医療技術 と不妊の医療化
― マハ ー ラー シュ トラ ・プ ネ ー の 医 師 の 言 説 か ら―松尾瑞穂
第1節
は じめに
本稿 は、現代 イ ン ド社 会 にお いて不 妊が どの よ うに 医療 化 されて い るの か を、近代 医療 だ けで はな く、制 度化 された代 替 医療 も含 めて 明 らか に し よう とす る もので あ る。 医療 化(medicalization)と は、 広義 には 「現 代社 会 の なかで 近代 医療 がそ の対 象領 域 を拡 大 して い くこ と」[池 田2001:69]と 定 義 され、特 に 日常 生活 におい て これ まで医療 の対 象 で はなか った実践(代 表 的 な もの に 出産や 月経 な どがあ る)が 、 医療 の管理 下 に置 かれ る よ うにな るこ とを 意味 す る。 したが って 、医療 化 は同 時 にあ る症 状 や状態 が 「異常 」 「病気 」 と して見 な され る ように なる こ と(病 気化)や 、 その治療 に際 して専 門家 であ る医 師の管 理 や 占有 が 強 まる こ と(専 門化)を 伴 うもの と して捉 え ら れ る。 なか で も特 に不 妊 、 す な わ ち 「子 ど もが い な い こ と」 が 医療 化 され る 過 程 にお いて は、 グ ローバ ル化す る生 殖 医療技術 や 医学 知識 と、 ロー カル な社会 の実 践 とを結 びつ け る媒介 的 な存在 と して 、 日常 的 に不妊 治療 に関 わ ってい る医 師集 団が と くに注 目を集 め て きた。 しか し、 これ まで主 にア メ リ カ合衆 国や イギ リス、北 欧 、エ ジ プ ト、 日本 な どを事例 と して きた生 殖 医療 技術 の 適用 をめ ぐる文化 的葛藤 や そ こでの 医師 一患者 関係 に関す る 医療 人類学 的研 究[Cussins 1998, Franklin 1997,Franklin & Ragone 1998,Inhorn 1994,2001,2003,柘 植2001]な どで論 じ られ て きた状況 とは異 な り、 イ ン ドにお ける医療 の あ りかた は きわめ て特徴 的 であ る。 そ れ は、近代 医療 だ けで はな く、イ ン ドの伝 統 的 医学 とされ るアーユ ル ヴ ェー ダや ア ラ ビア 医学 のユ ーナ ー ニ、 ドイ ツで 誕 生 した 同種療 法 と呼 ば れ る ホ メオパ シー 、南 イ ン ドを発 祥地 とす るシ ッダ な ども政府 に よって正 式 にイ ン ドに お ける生 殖 医 療 技 術 と不 妊 の 医療 化 一 マハー ラー シ ュトラ ・プ ネー の医 師 の言 説 か ら― 制 度 的医療 として認 め られ て い る とい う点 にあ る1。 ここで の制 度 的医 療 とは、大 学 の医学 部 や付属 の メデ ィ カル ・カ レ ッジにお いて正 規 の医学 教 育 が行 なわ れて お り、 イ ン ド政 府 に よって、 そ の教 育 内容 や 医療 者 の資格 が管 理統 括 され てい る こ とを意 味す る.す なわ ち、各 医療体 系 の 医療 者 は、 国家 資格 を持 つ 医師 として医療 活動 に従 事す る こ とが 可能 な ので ある。 な か で もアーユ ル ヴ ェー ダは、 イ ン ド国 内外 で 広 く普及 してお り、本稿 の 調 査 地 に あた るマハ ー ラー シュ トラ州 で は、 アーユ ル ヴェー ダの 医師 であ っ て も帝王切 開や盲腸 をは じめ とす る外 科 手術 を行 な う ことが許可 されて い る ほ どで あ る2。 こ う した制 度 的 医療 は、 人 々 に とっ て もア クセ スす る こ とが 容易 な身 近 な存在 で あ り、不 妊 治療 の場 合 にお いて も、 「専 門家 」 で あ る医 師集 団は、何 も近代 医療 の医 師 に限 られ る もの で はない 。 この よ うなイ ン ド社会 にお ける医療 シス テムの多 元性 を踏 まえつつ 、本 稿 で は次 の二 つの 課題 に取 り組 む。 第 一に は、 イ ン ドにお け る生 殖 医療技 術 をめ ぐる現状 を、現段 階 で整理 す る こ とで あ る。 イ ン ドで は生 殖 医療技 術 は まさに 日進 月歩 の状 況 にあ り、 それ を取 り巻 く社 会 状況 は今 後数 年 の うちで 変化 す る可 能性 が大 きい もの と予 測 され る。 こ こ10年 の 問で急 速 に展 開 した生殖 医療 技術 が 、 イ ン ド社 会 で どの よ うに受 容 ・適用 されて い るの か を整 理す るこ とは、今 後 の研 究 の ため の下準備 として必要 な作 業 で あ る と思 われ る。 第二 に は、不妊 の 医療化 の過 程 を、近 代 医療 の医 師だ け で はな く、異 な る医療 シス テム の医 師た ちの語 りと医療 実践 をあわせ て検 討 す る こ とで あ る。 これ まで医療 化 につ いて考 察 して きた 医療 人類 学 に お いて は、近 代 医療 がそ の対象 とされ てお り、 医療化 とは、す な わち近代 医 療 化 として ご く単純 に同一視 されて きた。 これ は、 い ま までの医療 化 論が 、 近 代 医療批 判 とい うアプ ローチ か ら出発 した とい う研 究 上 の背 景 を鑑 み る と、 自然 な こ とで もあ る。 また、 実際 に体外 受精 や 顕微授 精 な どの よ うな 高 度 な生殖 医療技 術 の適用 とい う点 にお いて は、 た しか に近代 医療 が その 中心 を 占めて い る とい うこ とに疑 問 の余 地 は ない。 しか し、不 妊 の医療 化 とい う現象 をイ ン ド社 会 の文 脈 で捉 える ため には、 ここであ げた ような制 度 的 医療 も視 野 に入 れ、 近代 医療 との差 異 や共 通性 につ いて も明 らか にす る必要 が ある だろ う.本 稿で は、 こう した各 医療 体系 の 医師 た ちを 「専 門 家 」 として一括 りにせ ず 、彼 らが 生殖 医療技 術 の適用 に関 してい か なる認 識 を抱 い てい るのか 、 また医療 シス テムの複 数性 は医療化 に どの ような影 響 を与 え てい るのか 、 とい う問題 を考 察 してい く。
南 ア ジァ研 究 第19号(2007年) な お、本 稿 では イ ン ド社 会 で人 々 に共有 され て きた 「ロー カルな 身体 観 」 とい うものが歴 史 的 に存在 し、 それが 医療 化や 近代 医療 との濯遁(広 い意 味で の近代 との遭遇)に よって変 容 して い る、 と見 なす 立場 はひ とまず取 らない.む しろ、 こ こで注 目したい の は医療化 とい う現 象 を通 して 、か つ その過 程 にお いて は じめて(再)構 築 され、 浮か び上が って くる現代 イ ン ド的 な身体 観 の一側 面 とい うもので あ る。そ の理 由 と して は、本 稿 で論 じ る身体 とい う もの を、 時代 や地域 、 さ らに は医療 との 関わ りとい う、 よ り 限定 的 な文脈 に位 置づ け るため で あ り、 また 、身体 は所 与 の もので は な く、 個 別 的文 脈 に応 じて構 築 され る もので ある、 と捉 え るため で ある. 本 稿が 分析 の対象 とす るの は、マ ハ ー ラー シュ トラ州 プネ ー市 お よび近 郊農 村 で不 妊 治療 にあ た っ てい る計15名 の 医師 の語 りで あ る。 具体 的 に は、 最 新の生 殖 医療技術(体 外 受精 や顕微 授 精)を 扱 う不 妊症 の専 門 医で あ る医学 博士 、不 妊治療 だけ でな く一般 の産 婦人科 系疾 病 も扱 う産婦 人 科 医 、農村 で 医療 活 動 を行 な うホメ オパ シー 医師 、大学 の アーユ ル ヴ ェー ダ 病 院 に勤 務す るアーユ ル ヴ ェー ダ医学博 士、 ア ーユ ル ヴェー ダ個人 病 院 を 営 む ヴ ァイ ッデ ィヤ 、ホ メオパ シー専 門医 とい うよ うに、 な るべ く異 な る キ ャリア を持 つ 医師 を選 んで 聞 き取 り調査 を行 な った(表1)3。 調査 地 の概要 本稿 の調 査 地 で あ るマ ハ ー ラー シュ トラ州 プ ネ ー は、 国 内最 大 の商 業 都 市 ム ンバ イ まで 約190キ ロに位 置 し、 人 口250万 人(2001年 セ ンサ ス) のイ ン ド第8番 目の都 市 で あ る.18世 紀 にマ ラー タ王 国の宰相(ペ ー シュ ワー)で あ ったバ ラモ ンのバ ー ジ ・ラー オー世 が プネ ーにマ ラー タ同盟の 表1聞 き取り対 象者の内訳 筆者作成
イン ドにお け る生 殖 医療 技 術 と不 妊 の医 療 化一 マハ-ラ ー シュ トラ ・プネ ーの 医 師の 言 説 か ら− 都 を置 い た こ とで、 バ ラモ ン ・サ ンス ク リ ッ ト的 文化 が 栄 えた.イ ギ リ ス植 民地期 には著 名 な大学 や カ レ ッジが 設立 され 、 また、英 語教 育 を受 け た高 級官 吏 を多 数輩 出 した ことか ら、歴 史的 に も学 問 の都市 と して名 高 い。 これ までは 「年金 受給 者の 天国 」 と呼 ばれ るほ ど比 較 的の ん び りと した 地 域 であ っ たが 、近 年 で はIT産 業 や 自動車 産 業 を火付 け役 とす る急 激 な経 済発農 を受 け、バ ンガ ロール な どと並 ぶ 、 イ ン ドの なかで も経 済先進 都市 の ひ とつ となっ てい る。そ の ため、1991年 の セ ンサス で は約150万 人だ っ た プ ネ ーの 人口 が、2001年 の セ ンサ ス で は100万 人 ほ ど増 加(人 口上 昇 率62%)し て い る ように、急 激 な人 口増加 と都 市化 が著 しい。 プ ネ ー の宗 教 別 人 口構 成 は、 ヒ ン ドゥー 教徒 が78.39%、 イ ス ラム教 徒 が9.77%、 新 仏 教 徒 が6.47%、 キ リス ト教 徒 が2.42%(1991年 セ ンサ ス)で あ り、マハ ー ラー シュ トラ州平 均(81.12%)、 あ るい はプ ネー県 平 均(85・5%)よ りもヒ ン ドゥー教徒 の割 合 が少 な くな って い る.カ ース ト 別 では 、マハ ー ラー シ ュ トラ州全 体 で は中 間 カース トにあ た るマ ラー タが 人口 の7割 近 くを占 め、政 治 的 ・経 済 的 な支 配 カース トを形成 して い る4。 しか し、 プネー ではバ ラモ ン出身 の宰相 が統 治 した とい う歴 史 的経緯 を反 映 し、バ ラモ ン も多数 居住 してお り、彼 らの社 会 的影響 力 が強 い.バ ラモ ンは、現在 で は 医師や 弁護 士、大 学教 授 、会社 員 とい った 「ホ ワイ トカ ラー」 の職 業 を中心 的 に担 って い る。 そ のた め、 プネ ーは、 菜食 ・禁欲 主義的 な バ ラモ ン文化 を基 盤 としつ つ、 バ ラモ ンとマ ラー タ とい う上位 カース トが 支配 的集 団 であ る地域 だ とい え るだ ろ う。 次 に、 この15人 の簡 単 な プ ロ フ ィー ル を紹 介 しよ う。 な お、 医 師の 名 前 で最後 に示 してあ る イニ シャル は、 それぞ れ の医 師が どの 医療 の医 師で あ る か を表 して い る(例 えば 、A・M の M は Modern Medicine、H・H の H は Homeopathy、L・A の A は Ayruvedaを 示 す)。 A. M医 師(男 性)40代 半 ば、 バ ラモ ン、MD。 プ ネー市 内 の個 人病 院 に勤 務す る泌 尿器 科専 門 医.男 性不 妊 を扱 うが、 不妊 症専 門 では ない ため、 全 患 者 数 に 占 め る不 妊 症 患 者 の 割合 は1割 に も満 た な い。 朝 と夕 方 は ク リ ニ ックで診 察 し、 毎週 水 曜 日はプ ネー か ら5時 間かか るア ウ ラ ンガバ ー ド に出張診 察 。1日10人ほ ど患者 を診察 し、月 に30∼40件 は外 科手 術 を行 な う。 B. M医 師(女 性)40代 半 ば、 マ ル ワ リ、MD。 プ ネー 市 内 の住 宅 街 にあ
南 アジ ア研 究第19号(2007年) る不 妊 症 セ ン ター の 所 長 。 セ ン ター で は体 外 受 精(IVF)5、 顕 微 授 精 (ICSI)6を 行 な う。 ム ンバ イ で教 育 を受 け、 総合 病 院 で不 妊症 専 門 医 と して働 いた の ち、 プ ネー の今 の セ ンターへ 移 って5年 目。1日 平均25名 の 患者 は全 て不 妊症 患者 。 アメ リカ合 衆 国、 シ ンガポ ール、 ドイ ツで内視 鏡 検査 な どの研 修 を受 けた経 験が あ る.息 子2人. C. M医 師(男 性)40代 後半 、マ ラー タ、MD。 プネ ー市 内の総 合大 病 院 に勤 務す る産 婦人 科 で、特 に不 妊症 が専 門。 毎 日午後 は病 院 の実験 室 で検 査 を し、週3回 夕 方 に診察 。 医 師 と しての キ ャ リア を開始 した ころ は、生 活 の た め に産 婦人 科 医 と して働 い てい たが、 次第 に不 妊症 に興 味 を持 ち専 門性 を高め た。 メデ ィアな どで不妊 につ い て講演 す る こ とも多 い。 息子1人 。 D. M医 師(男 性)30代 前 半、 バ ラモ ン、MD.プ ネ ー 中心 地 で産 婦 人科系 の病 院 を両親 が 開業。 自身 も産婦 人科 医 で、不 妊症 患者 は全 患者 数 の半 分 を占め る。両 親 も妻 も医 師で、特 に母親 は プネ ーで も著名 な産婦 人科 医。 体外 受精 、顕欄 受精 だけ でな く代 理 母 出産 も手が け た経験 が あるが 失敗 し た。 E. M医 師(女 性)40代 後 半 、バ ラモ ン、MD。 プネ ー市 内 中心 地 で ク リ ニ ック を開 業。 産婦 人科 一 般 を扱 う。全 患 者 に 占 め る不 妊 症 患 者 は2∼3 割。 体外 受精 を行 なった経 験 はな い.夫 も医 師で病 理 学専 門。 近郊 農村 か ら も患者 が通 っ て くる。 F. M医 師(男 性)40代 半 ば、マ ラー タ、MD。 プ ネー市 内中心 地 に不 妊症 の ク リニ ック を開 業 して16年 が た つ。 産 婦 人科 医 で特 に不 妊 治療 が専 門. ドイ ツで腹 腔鏡 検 査 の研 修 を受 け た経 験 あ り。 プネー で不 妊症 シ ンポ ジ ウ ム を開催 す る な ど精 力 的 に活 動 してい る。妻 も医師(G・M医 師)で 、 息 子 が1人 。 G. M医 師(女性)40代 半 ば、 マ ラー タ、MBBS。 夫 であ るF・M医 師 と と もに、 プネ ー市 内で不 妊症 ク リニ ックを開業 。 自身 は超 音波 診 断 を専 門 と す る。 ドイツで超 音波 診断 の研 修 を受 けた経験 あ り。 シ ンガ ポー ルに顕微 授精 の研 修 を受 け に行 く予 定 でい る。 H. H医 師(男 性)40代 前 半、 バ ラモ ン、BHMS。 プネ ー市 内 に在 住 しな が ら、 プネ ー近 郊 農村 で ク リニ ック を開業 して13年 目。 一 般 医 と して全 体 的 な診 察 にあ た る。C・M医 師が 勤務 す る総合 病 院 に もパ ー トタイ ムで 勤務 す る。妻 はI・H医 師で 、息子2人 。 I. H医 師(女 性)30代 後 半、 バ ラモ ン、BHMS。H・H医 師 とは 医学 部 の
イン ドにお ける 生 殖 医療 技 術 と不 妊 の医 療 化一 マハ ー ラーシ ュ トラ ・プネー の 医 師の 言 説 か ら― 同級 生 同士。 夫 で あ るH・H医 師 とと もにク リニ ックを運 営。 主 に婦 人科 系 の 病気 を扱 い、1日 に診 察 す る患 者 は25∼30名 の うちで 、不 妊症 関連 は4∼5人 。 生殖 医療技 術 の使用 は、AIH、AID7ま で。 J. H医 師(女 性)30代 半 ば、 ソー ナ ー ル、BHMS。 プネ ー市 内 の労 働 者 が多 い下 町 で小 さな ク リニ ックを1人 で 開業。 一般 的 な疾 病(風 邪 、下 痢 、 腹 痛 な ど)を 扱 うが、 産婦 人科系 の患者 も多 い。生 殖 医療技 術 は使 用 しな い。息 子1人 。 K. H医 師(女 性)50代 前 半 、 バ ラモ ン、BHMS。 ホ メオパ シー専 門 医. ニュ ー ジー ラ ン ドで勤務 した経 験 が あるが 、現在 はパ ー トタイ ム勤 務 と自 宅 で の個 人 的 な薬 の処 方 が 中心。 自身 はNGOの ワー ク シ ョップ な どに も 参加 し、学校 にお ける性教 育 を広 め るため の活動 を行 なって い る。 夫 は近 代 医療 の 医師(MD)で 外 科 医。息 子2人 。 L. A医 師(女 性)40代 前 半、 マ ラー タ、MDア ーユ ル ヴェー ダ。 プネ ー市 内の私 立大 学病 院の ア ーユ ルヴ ェー ダ医学部 で教 授 を してい る。産 婦人 科 系 の疾病 を扱 う こ とが多 く、不 妊症 に関 して も現 代 アーユ ル ヴ ェー ダに よ る治療 の研 究 に取 り組 む。娘2人 。 M. A医 師(女 性)30代 半 ば、バ ラモ ン、MDア ーユ ル ヴェー ダ、Ph.Dサ ン ス ク リ ッ ト。 プネー市 内の病 院 に午 前 中の み アーユ ル ヴェー ダ医 師 と して 勤 務 す るか た わ ら、 大 学 のサ ンス ク リ ッ ト学部 で不 妊 に 関す る サ ンス ク リッ ト古 典 研究 で博士 号 を取得 。 息子1人 。 N. A医 師(女 性)40代 半 ば、 バ ラモ ン、BAMS.プ ネ ー市 内 で ア ーユ ル ヴ ェー ダの ク リニ ック を夫 と開業.L・A医 師 に 「昔 なが らの アー ユ ル ヴェー ダの ヴ ァイ ッデ ィヤ」 と紹介 され る。 疾病 一般 を扱 うが 、産婦 人 科 系 の疾病 も多 い。 娘1人 。 O. A医 師(女 性)30代 半 ば、 バ ラモ ン、MDア ーユ ル ヴェ ー ダ.プ ネー 市 内 の私 立大 学 の アーユ ルヴ ェー ダ学 部 に8年 間勤務 。 午前 中に付属 診 療所 で患 者 の診察 に当た る。 第2節 イ ン ドに お け る 生 殖 医 療 技 術 こ こで は、本稿 で取 り上 げ る近代 医療 、アーユ ルヴ ェー ダ、ホメ オパ シー の各 医療 システ ムにつ い て簡 単 に概観 し、つ い でイ ン ドにお ける生殖 医 医 療 技術 をめ ぐる動 向 を ま とめ たい。
南 アジ ァ研究 第19号(2007年) 2-1. 各 医療 システ ムの概 要 1) 近代 医療 イ ン ドで は前 述 の よ うに、 さ まざ まな代 替 医療 も制 度的 医療 と して公 的 に認 め られ た存 在 で ある とはい え、その 中心 を成す の はや は り近 代 医療(生 物 医 学)で あ る。 なお 、イ ン ドで は近代 医療 は一般 に アロパ シー(逆症 療 法) と呼 ばれ てい るが 、厳密 には アロパ シー とはホ メオパ シー 以外 の医療 全般 を さす 言 葉 で あ り、必 ず し も近 代 医 療 だ け を意 味 す る わ けで は な い。 近 代 医療 の 医師 にあ た るMBBS (Bachelor of Medicine and Bachelor of Surgery)に な るため に は、理系 専攻 の12年 生(通 常18歳)を 修 了 した後 、 メデ ィカル ・カ レ ッジにお い て4年 半 の学 科 コース と1年 間 のイ ンター ン を終 了 し、 国家 試験 を受 け る。全 国 には 国立 ・私立 の メデ ィ カル ・カ レ ッ ジが約271校 あ り、MBBSの 資格 を取 った後 に、 さ らに3年 間大 学 院で研 究 を続 け る と、MD(医 学博 士)と な る。 2) アーユル ヴェーダ ア ーユ ル ヴ ェ ー ダの場 合 も、理 系 専攻 の12年 生 の の ち全 国 に約240あ る大 学 の ア ーユ ル ヴ ェー ダ学 部 で 学 ぶ 。 そ こで4年 半(場 合 に よ っ て は 5年 半)と1年 の イ ン ター ンを終 え てBAMS(Bachelor of Ayruvedic Medicine and Surgery)と な る。MDア ーユ ル ヴェー ダ(ア ーユ ル ヴェー ダ医学博 士)に な るに は更 に3年 の コース を終 え る必要 が あ る。 アーユ ル ヴ ェ ー ダ学 部 を志 願 す る学 生 は理 系 専 攻 で は あ るが、 入 学 に は ア ーユ ル ヴ ェ ー ダ を学 ぶ 上 で不 可 欠 なサ ンス ク リ ッ ト語 の 基礎 か 、 最低 で も ヒ ン デ ィー語 が必要 とな るため 、正規 に入 学す る前 にサ ンス ク リッ ト語 の補 習 が1年 間当 て られ る こ と もあ る. アーユ ル ヴェー ダ は、 紀元 前 か ら紀 元後 にかけ ての長 い 時間 をか けて成 立 した とされ る 「チ ャ ラカ ・サ ンヒ ター」 と 「ス シ ュル タ ・サ ンヒ ター」 とい う医学 書 を二大権 威 と し、そ の ほか に も「ア シュ ター ンガ ・サ ング ラバ 」 (医学 八科 集)な どの膨 大 な文 献 に基 づ いて 実践 され る。 ご く簡 単 に ま と める と、アーユ ル ヴ ェー ダでは(1)人間の 身体 内 にあ るヴ ァー タ(風)、 ピ ッ タ(胆 汁)、 カ ッフ ァ(粘 液)の 三 つ の要 素(ト リ ・ドー シ ャ)が 平衡 状 態 にあ り、(2)乳び8、血 液 、筋 肉、脂肪 、骨 、骨髄 、精 液の7つ の組 織(サ プ タダー トゥ)が 正常 に生 成 され、(3)尿、汗 な どの老廃 物(マ ラ)力 訓 調 に生 成、排 泄 され、(4)消化 の火(ジ ャタ ラ ・ア グニ)が 頂調 で摂 取 食物 の
イン ドにお ける 生殖 医療 技 術 と不 妊 の医 療 化一 マハ ー ラー シュ トラ ・プネ ーの 医 師 の言 説 か ら− 消 化 ・吸収 が正 常 で、(5)精神 が喜 びに満 ち生 き生 きと活 動 して い る状 態 を、 健 康 とみ な してい る[稲 村1990:43]。 中で も特徴 的 なの は、 トリ ・ドー シ ャ と呼 ばれ る身体 生理 論 であ ろ う。診 断 に よってあ る人 の性 質 はヴ ァー タ、 ピ ッタ、 カ ッフ ァのいず れ かに分類 され るが 、季 節 や風 土 に応 じて も 変化 を受 け、 どれ かが 過 剰 にな りやす い。 そ のた め この3つ の均衡 を保つ ため に、冷 た い/熱 い と分 類 され る食 事 や生活 習慣 を守 る必 要が あ る。不 妊 にお い ては、特 に風 に相 当す るヴ ァー タの過 剰が 原 因で あ る と考 え られ て お り、 ドー シ ャの均 衡 を取 り戻 す ため に、薬 と食事 療 法 に よって治 療 は 進 め られ る. 3) ホメオパ シー ホ メ オ パ シ ー の 場 合 も 同様 に、 理 系 専 攻 の12年 生 の 後 に4年 半 の コー ス を終 了 し1年 間 の イ ン タ ー ンを 終 え る と、BHMS(Bachelorof Homeopathy Medicine and Surgery)の 資 格 を得 る。 全 国 には約185 校 の ホ メオパ シー学 部 が あ る.ホ メ オパ シー は18世 紀 に ドイ ツの サ ミュ エ ル ・ハ ー ネマ ン医師(1755∼1843)に よって創 始 され た代替 医療 で あ り、 イ ン ドに は1829年 に フラ ンス人 のオ ニベ ル ジェ医 師(Dr. Honigberger) に よって もた ら されて い る。彼 が1839年 にパ ンジ ャー ブの 王 であ っ た ラ ンジ ッ ト ・シ ンの声帯 麻痺 を治 した こ とで、 イ ン ドでホ メオパ シーが広 ま る きっ かけ を作 った とされて い る[GOI2000]。 ホメ オパ シー の最大 の特徴 は、 レメ デ ィー と呼 ば れ る薬 にあ る。同種 療 法、類 似療 法 と訳 され る こ とか らも明 らか な ように、ホメ オパ シー で は 「似 た ものが 似 た もの を治 す」 とい う理念 に基 づ き、 あ る症 状 を引 き起 こす 成 分 と同 じ成分 を、水 や ア ル コール で何 百倍 、何 千 倍 と希 釈 させ た もの を薬 と して用 い てい る。時 に は何万 倍 と希 釈 させ て いる結 果 として、実 際 には もとの成分 とい う もの は ほ とん ど存在 しない ほ どに薄 め られ てい るわ けで あ るが、 ホ メオパ シーで は 「症状 を引 き起 こす もの を薄め る こ とでそ の毒 性 が無 くな るが、 もとの成分 が持 ってい た特 定の情 報 だ けは残 る」 と考 え られ てお り、 その情 報 が身体 に作 用 して症 状 が改 善す る と され て いる。 こ う した ホメ オパ シーの特 徴 は、近 代 医療 的観 点か らす る と非 科学 的 であ る として 「疑 似科 学 」 と見 な され る こ とが多 く、そ れ ゆえ、 どこか 「いか が わ しさ」が つ きま とっ てい る とい う[伊 勢 田2003]9.だ が 、 イ ン ドに おい て はそ う した 「い かが わ しさ」 は ほ とん どな く、副 作用 の ない 医療 と
南 ア ジア研 究 第19号(2007年) して一定 の支持 を得 て い る。 不 妊治療 に関 して は、あ る特 定の薬 が 「不 妊症 」 に用 い られて い るわけ で はな く、患 者個 人の 生活 習慣 、病歴 、症 状 な どを総合 的 に判 断 して 、原 因 を解 決 す る と思 われ る ものが個 別 に処 方 され る.従 っ て、近代 医療 で見 られる よ うな、不 妊治療 とい う特 定 の治療 法 は見 られな い。 ホメ オパ シー で は、ス トレスや 心理 的 な トラ ウマ といっ た精神 的 な問題 に対 処す るこ と で妊 娠 しやす くな る と考 え られてお り、 患者 の精神 的かつ 包括 的 なケ アが 重視 されて いる。 た だ、 ホメ オパ シー 医師 の なか には、実 際 に は入 学 が よ り困難 で あ る近 代 医療 のMBBSコ ー スへ 入学 で きなか っ た学生 がBHMS コー スへ と進 学 したケ ー ス も多 く、BHMSの 資格 を持 つ 全 て の医 師 が 、 こ うしたホ メオパ シーの理 念 に基づ く医療 を実践 してい る とい うわ けで は な い。 外科 手 術 こそ執 刀 す る こ とは 出来 ないが 、BHMSは 出産 、避 妊 手 術 、家族 計 画 関連施術(子 宮 内避妊 具IUDの 挿 入 な ど)、人工 妊娠 中絶 な どを行 な うこ とが出 来 るため 、多 くの場 合 で は、農村 や都 市 の労働 者 階級 の 問で は家庭 医(family doctor)と して、最 も身近 な医療 者 となって い る。 そ の よ うな場 合 は近代 医療 との差異 は明確 で はな く、不妊 治療 で もホルモ ン注 射 な ど近 代 医療 の薬 を用 い る ことが多 い. 2-2. 生殖 医療 技術 の展 開 と規制 近 年 の生殖 医療 技術 の発 展 は 目覚 しく、他 人 の精子 ・卵 子 ・受精 卵(胚) を使 った体外 受精 や代 理母 出産 だけで な く、性 別 ・遺 伝 的形 質 な どに よる 胚 の選 別や生 殖 細胞 の遺伝 子操 作 な ども技術 上 は可 能で あ り、 これ まで の 妊娠 ・出産 の概念 や 生殖 の実践 を大 き く変容 させ る可能性 が あ る こ とは周 知 の とお りであ る.こ う した技 術 の適用 が は らむ社会 的 問題 は大 き く、法 律 に よる規 制や 産科婦 人科 学 会 に よる 自主 規制 な どの形 で、 一定 の方 向付 け を行 な って い る国 も多 い。 例 え ば、 イ ギ リス で は1984年 に提 出 され た ウ ォー リ ック ・レポー トと呼 ば れ る 「ヒ トの受 精 と胚 研 究 に関す る調 査委 員 会報 告書 」 を も とに して、 商業 目的の代 理母 を斡 旋す るこ とや、体 外受 精 後14日 を経 た胚 の実 験 を禁 止す るHFE法(Human Fertilization and Embryo Act)が 施行 され てい る10.こ れ に よれ ば、妊 娠 ・出産 した女性 が 子 の法 的母親 で あ りそのパ ー トナ ーが父 親 となるが、代 理 母 出産 の場合 は、法廷 で依頼 人 が6ヶ 月 以 内 に申 し立 て を した場合 に限 り、依 頼人 の子 として認 める こ とが で きる、 とされ てい る[出 口1999:35]。 日本 で は、
イ ン ドに お ける生 殖 医 療 技術 と不 妊 の 医療 化― マハー ラー シ ュトラ ・プ ネー の医 師 の言 説 か ら― 生殖 医療 技術 の応 用 を規 制 す る国家 に よ る法律 は な く、 日本 産科 婦 人科 学会 の倫 理委 員会 に よる見 解が 医 師の 「自主 規制 」 として設 け られて い る。 そ こで は、(1)体外 受精 は、 法 的婚姻 関係 に あ る夫婦 に限 って行 な い、提 供 精子 ・卵 子 ・胚 に よる もの は認 め ない 、(2)代理 母 は認 め な い、(3)未婚者 、 事 実婚(内 縁)や ゲ イ ・レズ ビア ンの カ ップルが 人工授 精 、体外 受精 治療 を行 な うこ とを認 め ない、 とな って い る[柘 植2001:35].生 殖 医療技 術 の適 用 が引 き起 こす社 会 問題 につ いて は さ まざ まな議 論が な され てい る。 例 えば、 日本 の現行 民法 で は産 みの親 が法 的 な親 となるた め、依 頼 人の卵 子 を第三者 の女 性 に体外 受精 して産 んで もら う代理 母 出産 の場合 には、遺 伝 的 に は子 の母 親 であ って も法律 上 は親 として認 め られ ない、 とい うこ と が あ る。 その ため依 頼人 夫婦 は、 生 まれ た子 ども と特 別 養子縁 組 を結 ば な けれ ばな らな いが、代 理 母 との契 約 に よって はそ れが不 可能 な場合 もあ る。 また、提 供 精子 を使 っ た人工授 精 に よっ て生 まれ た子 をめ ぐっ て、父 親が 嫡 出否 認 を裁判 で争 う とい う事 件 も起 こって いる11。 しか し、 産科婦 人科 学 会の規 制 に も関 わ らず 、長 野県 で母 親が 娘の か わ りに代理 出産で孫 を出産 した り、 よ り法 規制 の ゆ るい アメ リカ合衆 国 や韓 国へ 渡 り、子 ど もを得 るカ ップル が増加 してい た りす る とい うの が現状 で あ る。 同様 に、フ ィ ンラ ン ドをのぞ く北 欧諸 国(ス ウ ェーデ ン、ノル ウェー 、 アイス ラ ン ド、 デ ンマー ク)で は独 身女 性へ の不 妊治 療、 商業 的代 理母 に よる出産 、受 精卵提 供 に よる体外 受 精 が禁止 されて お り、 この結果 、近 隣 諸 国か らフィ ンラ ン ドへ治療 を受 けに行 く 「不 妊 症 ツ アー」が 、 国境 を越 えて盛 んに な ってい る とい う。 この ように、 生殖 医療技 術 の適用 に関 して は 国 ご とに温度 差 が あ り、 国境 を越 え て人、技 術 、 カネが移 動 してい る と い える だろ う。 2-3. イ ン ドにお ける 技術 の適 用 に関す る現 状 イ ン ド国内 で は じめ ての体 外受 精児(俗 にい う試 験 管ベ イ ビー)が 誕生 したの は、 イ ギ リス で1978年7月25日 に世界 初 の体 外 受精 児 ルイ ーズ ・ ブ ラ ウ ンが 誕 生 してか ら8年 後 の、1986年8月6日 の こ とであ る12。ム ン バ イ の キ ング ・エ ドワー ド ・メモ リア ル病 院(KEM)と イ ン ド医 学 調 査 審 議会(Indian Council of Medical Research、 以 後ICMR)の 共 同 プ ロジ ェク トで生 まれ た この女児 はハ ル シ ャー(Harsha)と 名づ け られ 、 その プ ロジ ェク トに携 わっ た医師 ら と共 に、 国内 メデ ィァ を大 いに に ぎわ
南 アジ ア研 究 第19号(2007年) した 。 そ れ か ら約20年 が過 ぎ、 イ ン ドには現 在 約250の 不 妊 治療 ク リニ ック が あ る と され るが 、 これ まで生 殖 医療 技 術 の 適 用 や不 妊 治療 に 関す る正 式 な法規 制 は存 在 して こな か った。 また、 日本 で 行 な われ てい る よう な、 産科 婦 人 科学 会 な どの 医学 会 に よる 自主 規制 もこれ まで な され た こ と は な い。2005年 に は じめ て、 「イ ン ドにお け る生殖 補 助 技 術 ク リニ ック に 関す る認 可 ・管 理 ・規 制 につ い て の 国家指 導 要 綱(National Guidelines for Accreditation, Supervision and Regulation of ART Clinicsin India)」 の草 稿 がICMRに よって ま とめ られ、現 在 ま さ に法 制化 に 向 け て進 み だ した と ころであ る。 しか し、 こう した 要綱 が現場 レベ ルに到 達す る まで に は、 さ らに時 間がか か る といわれ てい る。 したが って、 法律 や 自 主規 制 が存在 しな い現在 で は、医療 現場 で行 な う どの よ うな不妊 治療 も法 律違 反 とはな りえず 、 い うなれ ば新 し く導 入 され る技 術 が個 人 の医 師の裁 量 で 自由 に適用 ・実 施 され てい る.そ の ため、 た とえば 日本 な どで は禁止 され てい る代理 母 、提供 精子 ・卵 子 や受精卵 に よる体外 受精 、提 供精 子 に よる人 工授 精 、商業 目的の卵 子提 供 な ど も行 なわ れて い る。 代理 母 や卵子 ・精 子 の提供 者 と依頼 人 の問 で は、生 まれ た子 に対 す る権 利 や義 務 につ いて トラブ ルが発生 す る可 能 性が高 いが 、そ う した トラブル を避 け るた め に、 例 え ばD・M医 師 の病 院で は、提 供 者 と依 頼 人 側 そ れ ぞれ に合 意書 を書 かせ 、そ れ を弁護士 に通知 ・保 管 して もらう とい う方 法 を とっ てい る。前述 した よ うに、生 殖 医療 技術 の 適用 に 関す る法律 が 存在 しない現 段 階で は、そ の書 類 には厳 密 な意味 で の法 的執行 力 は一切 ないわ け であ るが 、双方 に対 して一定 の抑 制力 と して働 くこ とが 期待 されて い る。 そ して、 経済 的 な理 由で卵 子 を売却 したい とい う人 に対 して も、手 術 を受 ける前 に合意 書 に署名 をさせ 、子 どもに対す る権 利 と申 し立 て に関す る要 求 を一切 放 棄 す る 旨 を明確 に してい る とい う。 こ う した こ とか ら、 医師 の 問で も何 らか の法規 制 は必 要で あ る と考 え られて い る.そ う した状 況 を、 高 度 な生殖 医療技 術 を 日々用 い る近代 医療 の医 師 は次 の よ うに語 っ てい る. C. M医 師13規制 が ない とい う ことは、不 妊症 治療 の現 場 で もブ ラ ックボ ッ クス にな って い ます 。 とて もセ ンシテ ィブな 問題 を含 んで い るため、 政府 にせ よ、 医師会 に よる もの にせ よ、何 らかの規 制 は早急 に必 要 に なって く るで し ょう。ICMRレ ポ ー トは今 デ リーで まとめ られ てい るか ら、 あ と半
イ ン ドにお け る生 殖 医療 技 術 と不 妊 の 医療 化― マハ ー ラー シュ トラ ・プネ ーの 医 師の 言 説 か ら― 年 も した ら現場 に まわって くるか も しれ ませ ん。 B. M医 師14一定 の基 準が 必要 です 。例 え ば、受 精卵(胚)を 移植 す る と き に、妊 娠 率 を高 め るか ら とい って 、5つ も胚 を戻 した ら大変 で す。 しか し、 実 際 には、 規制 が あ った と して も本 当に必 要 としてい る人 は、基 準が あ ろ うが なか ろ うが 、 どこへ で も行 きます.法 や規 制 とい うの は、 どう して も 悪用 され る可能 性が あ ります 。つ ま り、一番 重 要 なの は、医 師の態 度 や理 念 とい うものだ と思 い ます。 医者 と して は、 生殖 医療 技術 の適 用 は大 賛成 で す。 で もそ れ は間 違 っ て使 わ れ ない よ うにす るべ きで す。 例 えば、60 歳 の女 性に胚 受精 をす る とか、 そ うい う こ とは言 語 道断 で し ょう。 ヨー ロ ッパ や 日本 で と くに懸念 され てい る代 理 母や提 供精 子 ・卵子 に よ る 出産が は らむ社会 倫理 的 問題 は、 生 まれて くる子 に対 す る依 頼人 ・提供 者 の権 利 や プ ライバ シーだ けで は な く、 その子 自身が将 来直 面す るか も し れ ない、遺伝 的親 を知 りた い と願 う権 利 やそ れ に伴 う精神 的苦痛 とい った 問題 も含 まれ てい る。 その ような点 か ら見 る と、急 激 に生殖 医療技 術 が広 が りつ つ あ るイ ン ドで は、現 時点 で は こ うした問題 につ い ては ほ とん ど対 処 で きな いか 、想 定 して い な い のが 実情 で あ る。 どの医 師 も 「幸 い 、現 時 点で は代 理母 や体外 受精 に まつ わ る トラブ ルは起 きてい ない」 と言 うが 、 将 来的 に起 こる可 能性 も現 段 階で は否定 で きないだ ろ う。 仮 に ヨー ロ ッパ や 日本 にお いて規 制 の根 拠 とな る生 命倫 理 的 な問題 を考 慮 に入 れ ない と して も、生 殖 医療 の適用 に際 して は、代 理 母 を引 き受 け る 女 性や、体 外 受精 の ため の精子 や卵 子 を十分 に確保 す る こ とが難 しい とい う実 際 的な 問題 も考 え られる。 イ ン ドの病 院で は、医 師 たち は 「エ ー ジ ェ ン ト」 を通 して精子 バ ンクか ら精 子 を入 手す る とい う仕 組 み を取 って いる。 病 院 に よる と、精液 検査 に出 された もの が精子 バ ンクに 回 され て使 われ る ため 、治療 の ため の精子 が不 足す る とい うこ とはな く、 また、 その際 の手 続 きに関 して も決 め られた ガ イ ドライ ンに沿 って行 な われ てい る とい うこ とで あ る。 しか し、 実際 に精 子提供 者 の合 意や 金銭授 与 に 関 しては詳 しい こ とは明 らかで は な く、卵 子 や胚提 供 に至 っ ては ガイ ドライ ン も明確 に は 存在 してい ない 。例 え ばグ ジ ャラー ト州の ア ナ ン ド地方 で村 の女性 た ちが 大 量 に代 理 母 を引 き受 け て い る とい うニ ュー ス報 道(2006.2.22)か らも 明 らか な よ うに、金銭 を媒 介 した商 業 ビジネス が不 妊 治療 を介 して生 じて い る。
南 ア ジア研 究 第19号(2007年) こ う した金銭 の授 与 はICMRの 要 綱 に お いて も認 識 され て お り、 む し ろ代 理 母や精 子 ・卵 子提供 者 に対 す る(金 銭 的な)補 償 の必 要性 が 明確 に 記 載 され てい る.提 供精 子 を使 用 す る場 合 は、 そ れが 「親戚 や知 人 の もの で はな く、 精子 バ ンク を通 して入 手 した 匿名 者 の精 子 」(条 項3 .5.13)で あ るこ と、代 理母 の場合 は 「親 戚 、知 人 、知 らない 人 のい ず れで も可 能 」 だが 、「年 齢 は18歳 か ら45歳 まで が望 ま し く、 卵 子提 供 者 が そ の 受精 卵 の代 理 母 とな って はい けない 」(条 項3 .10.5および3.10.6)こ と、 といった 規 制 は見 られ るが、現 行 の不 妊 治療 を否 定 ・規 制す る もの で はない 。 さ らに、 独 身 女性 へ の体 外 受 精(条 項3.5.2)や 、 死 亡 した夫 の精 子 を使 用 す る こ とな ど も認 め られ てお り(条 項35.11)、 こ う した点 か らみ て も、将 来 的 にイ ン ドで生 殖 医療技術 の適用 に関 して立法 化 が な され た と して も、 ヨー ロ ッパ や 日本 で な されて い る規 制 よ りも、格段 に自由度が高いものになる と思 われ る。 で は、法 的 な親 子 関係 は ど うで あ ろ うか 。た とえば、 日本 の民法 で はそ の子 ど もを 「生 んだ女性 が 母親 で あ る」 と定 め てい るた め に、代理母によ る出産 では、 た とえ遺伝 的 な親 子 関係 が あ った として も、 法 的に は親子 と して認 め られて いな い.そ れ に対 して、ICMRの 要綱 で は、代 理母 出産 で あ って も 「誕生 証 明書 」(birth certificate)は 遺 伝 的両 親(依 頼 人 夫婦) の名 前 で記述 す る こ ととされ てお り、代 理母(産 みの 親)は 親子 関係 にお い て一 切 の 関 係 が認 め られ て い な い(条 項3 .5.4)。さ らに、The Indian Evidence Act(1872)で は、婚姻 が 失効 してか ら280日 以 内 に生 まれ た 子 どもで あれ ば、 夫の嫡 出子 と して認 め る こ とと定 め られ てい るが 、現在 の不 妊治療 で は、死 亡 した 夫の精 子 を人工 授精 して妊娠 す る こ とも可能 な た め・280日 以内 とい うこの法 律 との齟齬 が生 じて い る.こ の こ とに関 し て も、要綱 で は 「死 亡 した 夫が残 した精子 を使 って人工 授精 した女性 の子 どもは、現 行法 に も関 わ らず 嫡 出子 であ る と認 め られ るべ きで あ る.法 は 医学 的進歩 と共 に変 化 ・修正 され るこ とが必要 で あ り、 ジ レンマや不 当 な 過 酷 な状 況 を与 え るべ きで は ない 」(条 項3.165)と な って お り、 現行 法 の修正 を も見据 えた内容 とな ってい る。以 上 の よ うな点 か ら、要綱はむ し ろ先行 す る現実 に沿 ったか たち で定 め られて いる とい え る。 第3節 不 妊 治 療 の 場 で の 差 異 3-1. 生殖医療技術を受けられる人/受 けられない人
イ ン ドに お ける生 殖 医療 技 術 と不 妊 の 医療 化― マハ ー ラー シュ トラ ・プ ネー の医 師 の言 説 か ら― 現 在 の 生殖 医 療技 術 の なか で最 も新 しい技 術 で あ る体 外 受 精 と顕 微 授 精 は、 プ ネー市 内 で は不 妊症 ク リニ ックや大 手総 合病 院 を中心 とす る7∼ 8ヶ 所 のみ で可 能 であ る。特 に顕欄 受精 は、 シ ンガポ ール な どの外 国へ 行 き トレー ニ ング を積 ん だ医 師 に よって 、 こ こ2∼3年 の 問 にプ ネー で も受 け られ る よ うに な った もの で あ る。 技術 が導 入 され た 当初 よ りは治 療 価 格 は下 が って い る とはい え、現在 で も体 外受 精 を1サ イ クル受 け るた め に は6∼8万 ル ピー(約18∼24万 円)の 費用 が かか り、都 市 の ミ ドル ク ラ ス に とっ て も、 きわめ て高 額 の 「投 資 」で あ る とい え よう15。したが っ て、 不 妊症 ク リニ ック に通 院 して い る患者 の 中で も、 体外 受精 や 顕微 授 精 と い った最 終段 階 に まで 進 む人 は それ ほ ど多 く見 られ るわ け で はな い.F・ M医 師 に よれ ば、 ク リニ ックで10人 の 患者 に勧 め て も、 実 際 に試 す 人 は 1人 程 度 であ る とい う。最 先 端 の不妊 治療 は、 イ ン ドで は依 然 と して都 市 に住 む上 ・中 間層 の一部 のみ に手 が届 く贅 沢 だ といえ るだ ろ う. さ らに、 こ うした高額 な治療 へ進 んだ として も、 そ れが成 功 して本 当 に 妊 娠す るのか どうか、 とい うの は また別 の問題 で あ る。 イ ン ドでは 、体外 受 精 の成 功率 は、受 精率 が約30%、 出産 率(take baby home rate)に いた っ ては15%前 後 であ る とされて い る[ICMR 2005].こ の 数字 は最 新 の機 器 をそ ろ えた不妊 症 の専 門 ク リニ ックを対象 と して い るため 、通常 は さ らに低 い もの と思 われ る16。よって 、生殖 医 療技 術 は高 額 な割 に は成 功 率 に関 して は不確 定 性が きわめて 高 く、そ れが 患者 に とっ て大 きな リス ク とな るであ ろ う ことは想像 に難 くない 。実 際 にプ ネーの不 妊症 ク リニ ッ クで も、体 外 受精 を3サ イ クル受 けた のが最 高 であ り、 そ れ以上 受 け る人 は ほ とん ど見 られ ない 。 F・M医 師17私た ちの ク リニ ックで も、 最 高で も3サ イク ルで、 普 通 は1∼ 2回 です 。それ以 上 であ れ ば、もう不 妊治 療 で はな く、男 性 が複婚 を して し まい ます 。 どう して これ以 上無駄 にお金 を使 わ な くては いけ ない のか、 と。 この よ うに、不 妊治療 が 高額 な イ ン ドで は、法律 で は禁 じ られ てい る複 婚が 、不 妊の場 合 の実 際的 な解 決法 と して選択 され る こ とが多 い.こ うし た不 妊治療 に関連 して現 われ る ジェ ンダーや 世代 間の葛 藤 は別稿 に譲 る と し、 ここで はあ くまで も治療 の現 場 で医 師が対 処 して い る ジェ ンダー の問 題 につ いて見 て い こ う.そ れ は と りもなお さず、都 市 と農村 にお け る不 妊
南 アジ ア研 究第19号(2007年) を め ぐる 差 異 や ジ ェ ン ダ ー ・バ イ ア ス と い う もの を示 す こ と と な る 。 3-2. 不妊治 療 に影 響 を与 える ジ ェンダー ・バ イ アス 不 妊治 療 に まつわ る ジェ ン ダー 問題 は、 プ ネーの 近郊 農 付で 開業 して い るH・H医 師 とI・H医 師 に とって は、 よ り先 鋭 化 した形 で 現 れ る.不 妊 は女 性 の責任 で あ る との認 識 が特 に根 強い農 村地 域 で は、男性 に精液検 査 を受 け させ る こ とも困難 であ る。 医師 はそ の必要 性 を患者 に向か っ て何 度 も説 得 しな けれ ば な らな いが 、そ の 際 も女性 で あ るI・H医 師 が直接 言 う こ とは避 け、夫 で あるH・H医 師が行 なって い る。 また反 対 に、女 性 患者 はI・H医 師 に診察 され る こ とを好 む た め、H・H医 師 だ け しか ク リニ ッ クにい ない ときに は診 察 その もの を受 け に来 ない。夫 婦 であ る2人 は、村 の 人 々が 望 む とお りに、 出産 ・中絶 ・家 族 計 画 を含 む 産婦 人 科系 はI・H 医 師が、 男性 患者 に対 して はH・H医 師が 診察 す る とい う よ うに、そ れぞ れ役割 分担 を して ジェ ンダー規 範 に対 処 してい る。 また 、性 その もの に対 す る知 識 が 「低 い 」 と考 え られ て い る農村 地 域 で は、不 妊 症 に悩 む夫 婦 が 「そ もそ も本 当 に正 し く性交 してい るの か」 とい うこ とを きち ん と確 認 す る必 要 が ある とい う。例 え ば、 よ くよ く患 者 の話 を聞 いて み る と、彼 ら の なか には 「ポ ルノ映 像で 見 たか らそ うい う もの だ と思 って いた 」 と、膣 外 射精 を行 ってい た り、女性 の腹 にペ ニス を置い た ま まであ った りす る人 もい る とい う。あ るい は、 夫 はム ンバ イな どの大都 市 に 出稼 ぎに 出て、 妻 1人 が婚家 に残 ってい る こ と も多 い が、物 理 的 な性 交 渉が少 ない に もかか わ らず 、不 妊 であ る と して連 れ て来 られ る女性 もい る。 この よ うな 「人 々 の無 知 に対 応 す る」 こ と もH・H医 師 らの 治療 にお い て は必 要 であ る と い う。 ホ メ オパ シー を専 攻 したBHMSで あ り、 自分 自身が 生殖 医療技 術 を施 術 しないH・H医 師 の と ころ で も、 患 者 にはAIHやAIDを 勧 め て お り、 実 際 に プネ ーの病 院 を手 配 して治 療 を受 け させ て いる.H・H医 師 の ク リ ニ ック に長年 通 う、農 村 に住 む あ る夫 婦 も、 これ まで2度 人 工授 精 を試 し た こ とが あ るが 、 いず れ も失 敗 に終 わ ってい る。 この夫 婦 の場合 は、夫 が 無 精子 症 であ るた め、実 際 に は提 供精 子 に よる人工 授精(AID)を 行 なっ たが 、 この 夫 は そ もそ も 自分 に問 題 が あ る とい うこ と を知 らされ て い な か っ た。 その ため、 人工授 精 も自分 の精子 で行 な われ てい る と思 ってお り、 秘密 裏 で提 供精子 を使 用 す る とい うこ とは、医 師 と妻 の問 だけ で決 め られ
イ ン ドに お ける生 殖 医 療 技 術 と不妊 の 医 療化― マハ ーラ ーシ ュ トラ ・プネー の 医師 の言 説 か ら― た こ とで あ った.I・H医 師 は、 「この こ とは とて も複 雑 な心 理 的 問題 を生 んで しまうか ら、あ えて 夫 には話 さなか った.妻 には、絶 対 内緒 にす る よ うに と言 ってお いた のだ 」 と語 ってい る. この事 例 か ら、二 つの 点 を指 摘す る ことがで きる。第一 には、男 性不 妊 が村 の 医師 の 間で も タブー視 され てお り、告 知 がセ ンシテ ィブ な問題 とな りうる とい うこ とで あ る.こ の こ とは、 ひるが えれ ば、不 妊 とは女 性 の責 任 で あ る とい うこ とが 、 どれ ほ ど人 々の 間 で根 強 く意識 され て い るか と い うこ とを も示 して い る。第二 には、不 妊治 療 を うけ る当事者 で あ って も、 どの よ うな治 療 を実際 に受 け てい るの か、 その手 続 き上 の こ とも含 め て患 者 の合 意 が取 れ てい る とは言 いが た く、あ るい は合意 を取 らなけ れば な ら ない とい う医師側 の認 識 自体が 低 く、治 療 の現場 で 医師が 果 たす役 割 と権 力が極 めて大 きい とい うこ とであ る. これ に対 し、不 妊治療 に際 して男性 不 妊 に まつ わ る難 しさは一切 ない と 述べ るの は、泌 尿 器科 医 のA・M医 師で あ る.プ ネ ー市 内 の 高級 住 宅 地 に あ るク リニ ック に勤 務 し、毎 日の よう に外科 手術 の執 刀に あた って い る A・M医 師 の患 者 は、 大多 数が都 市在 住 の教 育 を受 けた層 で あ り、 農村 か らや っ て くる患者 は ほ とん どいな い.A・M医 師が診 察す る男性 不 妊 の患 者 の70%近 くは無 精子 症 、30%程 度 が 乏精 子 症 で あ る とい うが 、患 者 に は全 て を包み 隠 さず教 え る よ うに して いる とい う.そ の理 由 として、泌尿 器科(す な わ ち女性 で は な く男 性 不 妊 を扱 う)を 専 門 とす るA・M医 師 の もとへ 来 る まで に、 患者 は い くつ もの病 院 を経 て いる こ とが多 いが、 ほ とん どの病 院は不 妊の 原 因につ いて の正確 な情 報 を患者 自身 に きちん と教 え てお らず、患 者 を不 必要 に迷 わせ て いる、 との 思 いがあ る ため だ と して い る。A・M医 師 はモ ラルの問題 と して、患者 にはそ の ま ま 「医学 的事 実」 をはっ きりと伝 える こ とをポ リ シー に して いる とい う。 この よ うに男 性不 妊 であ っ て も必 要以上 に タブー視せ ず 、医学 的 な症状 と して取 り扱 うA・M医 師 の姿 勢 は、彼 自身が 認 識 してい る よ うに、 い くつ かの理 由を背景 と して可 能 となって い る。そ れ は、A・M医 師 が主 に 教 育 を受 けた都 市在 住 の患者 を相 手 に してお り、農 付地 域 で見 られ る 「男 性 不妊 に対 す る強 い反発 や無 理解 」 を これ まで経験 した こ とが ない とい う こ とや、泌 尿器 科 の医 師 と して 「外科 手術 をす るこ と」 が 自分 の役割 で あ る と見 な してい る こ と、 また全 患 者数 に占め る不 妊患 者 の割合 が1割 に も 満 たず 、相 対 的 に不 妊症 とのか かわ りが 低い とい うこ とな どで あ る。通常 、
南 ア ジ ァ研究 第19号(2007年) A・M医 師 が診 察 にか け る時 間 は患 者1人 あ た り10分 ほ どで あ り、そ の 多 くは手 術 の説 明 に割 か れて い る。 そ のた め、不 妊 に まつ わ る ジェ ンダー 規範 や タブー観 を患者 と共 有す る機 会 は相対 的 に少 な くな ってい る。 これ は裏 をか えせ ば、村 の数少 ない医 師 と して 、あ る特定 の 「患者 」 だ けで な く、腰 の痛 い老 人や発 熱 した子 ど も、妊 娠 した女 性 とい うよ うに地域住 民 と関 わ らざ るを え ないH・H医 師 とI・H医 師 は、 よ りロー カ ル な社 会 関 係 に深 く埋 め込 まれ て、 望 ま しい規 範 に従 った行 動 を取 る こ とが 求め られ てい る、 とい う こ とで もあ る18。 第4節 不 妊 に つ い て の 医 師 の 認 識 4-1. 生殖医療技術の受容に対する態度 次に、それぞれの医師が生殖医療技術 の適用に際 してどのような認識や 態度で臨んでいるのかを、技術 の受容 という点か ら分析する。 (1) 積極 的 に賛 成 とい う事 例 B・M医 師19 筆 者: 1978年 に世 界 で は じめ て体 外 受精 が 成功 した と きの こ とを覚 えて い ますか? B・M医 師: もちろ ん覚 えて い ます。 そ の と きはち ょう ど医学 部 へ入 学 し よう とい うと きだ った。(ル イーズ ・ブラ ウ ンと言 う名 前 もはっ き り言 及 して)、 初 の 試験 管ベ イ ビーが誕 生 した とい うこ とは新 聞 な どメデ ィアで 知 って、大 変興 味 を抱 きま した。 で も、 まさか 自分 が 同 じ分 野 に進 む と も 考 えなか っ た し、 まだ若 か っ たか らそれ 以上 の 自覚 はあ りませ んで した。 筆者:イ ン ドの場合 は…。 B・M医 師:1986年 で した。 この 時の こ とは、 も うはっ き りと覚 えて い ま す。 私 は 当時MDコ ース の3年 目で した.だ か ら、 これが どの よ うな意 味 を持 つ のか、 とい うこ とは もうは っ き りと分 か ってい ま した。 その と きに は、 私 は ム ンバ イのS先 生 の もとで不 妊治 療 に関 す る プロ ジ ェク トに入 っ て い た し、 実際 に先 生 も体 外 受精 の研 究 を して い ま した。KEM病 院 と私 た ちは 同時 に同 じプ ロ ジェク トを行 な って いたの です.結 果的 に は向 こ う が成 功 して、残 念 なが ら私 た ちの患者 は流 産 して しまっ たので すが 。 で も とにか く、卵 子 を体 外 に取 り出 して人工 的 に受精 させ て また体 内 に戻 す な ん て、つ ま り受精 を体外 で操 作 す る こ とが 出来 る とい うこ とに、本 当 に興
イ ン ドにお ける 生殖 医 療 技 術 と不妊 の 医 療 化― マハ ーラ ーシ ュ トラ ・プネー の 医師 の言 説 か ら― 奮 しま した。技術 が確 実 に進 歩 してお り、 そ して、何 よ りそ れが ここイ ン ドで可 能 なの だ!と 。 この分 野 で何 か がで きる、 とい う興 味 と興奮 を覚 え ま した。 この分野 の 面 白 さとや りがい は ま さに ここにあ ります 。 筆者:で は、 体外 で卵 子 を取 り出 して また戻 す とい うよ うな技術 に対 して、 躊躇 はなか った と…。 B・M医 師:全 く(Never)!こ の分野 の面 白 さは ま さにそ こにあ りますか ら. G・M医 師20 G・M医 師:配 偶 子 卵管 内移植(GIFT)は20年 くらい前 か ら行 な われ て い ま した が、2003年 に体 外 受精 を導 入 した こ とに よ って、 ほ とん ど な く な りま した。私 たちの ク リニ ックで も、今 で は体外 受精 が ほ とん どです。 (顕微 授精 は?と い う筆 者 の 問 い に)顕 微 授精 は、 実 は 来 月 に シ ンガ ポー ル に行 って トレー ニ ング コース を受 けて くるつ も りです.そ う した ら、 この3月 か らは私 た ちの ク リニ ックで も顕微 授精 を始 め られ ます.顕 微 授 精 は特 に男 性不 妊 の場 合 に有 効 で、体 外受 精 と組 み 合 わせ る と、 これか ら か な りの不 妊患 者 の役 に立つ と思 い ます. 筆者:こ うして新 しい技術 を どん どん取 り入 れ てい る わけで すが 、 こ う し た新 しい技術 に対 して どう思 い ますか? G・M医 師:(質 問の 意図 が あ ま りよ く分 か らな か った よ うで)私 た ち は (そう した技 術 を)受 け入 れ る し、 そ れ は とて も好 ま しい もので す. 筆者:で は、 例 え ば提 供卵 子 や提供 胚 に よる体外 受精 の違 い は? G・M医 師:体 外 受 精 にか か る値 段 が違 い ます.良 い卵 子 を持 っ てい て、 自分 の卵 子 を使 え る人 にはデ ィス カ ウ ン トが あ ります 。 それ以外 の卵 子提 供 と胚 提 供 は全 く同 じです 。 もし患 者 の年齢 が高 い場合 には成 功率 を高 め る ため に胚 提 供 に よる体 外 受精 を勧 め る、 ただそ れ だけの違 い です 。 J・H医 師21 J・H医 師:私 の と ころ に来 る患者 の原 因 の多 くは、 心理 的 な ものや性 感 染 症 の後遺 症 な どです。 だ か ら、 そ ん なにお金 をかけ な くて も、 カウ ンセ リング とホル モ ン治 療 で妊娠 す る人 もた くさんい ます.で も、金 銭的 な問 題 が ない ので あれ ば、 こ う した技術 は不 妊症 の 人 に とって は まさに神 か ら の贈 り物 です.
南アジァ研究第19号(2007年) H・H医 師 とI・H医師22 I・H医 師:私 た ちの とこ ろで は ホル モ ン療 法 が 中心 です が 、必 要 が あ れ ば 患者 をプ ネーの病 院 に紹介 す る とい うこ と もしてい ます。 患者 の ニー ズ があ り、彼 らがそ の費用 を支 払 うこ とが 出来 るの であ れば、 新 しい技 術 を 使 って妊娠 しよう とす る こ とは、 全 く問題 が あ りませ ん。実 際 、技術 の進 歩 はす ば ら しい と思 い ます. H・H医 師:ほ ら、 子 ど もが 産 め な い娘 の た め に母 親 が代 理 母 に な った ニ ュー スが あ りま した よね?今 で は、祖 母 が孫 を生 む こ と も可能 な ので す(と 、 笑 う). 不 妊症 専 門の ク リニ ック とい う、 日々不妊 治療 に携 わ って い るB・M医 師 とG・M医 師 の語 りか らは、 新 しい技 術 を積 極 的 に評 価 し、受 け入 れ てい る姿 が見 出 され る。 そ こで は、 ドナー の卵子 や胚 を使 った体外 受精 に 対 して も否 定的 な感情 は抱 か れて お らず、生 命操 作 であ る とい う点 も、 そ れ こそ が面 白み で ある と認識 されて いる ので ある.一 方 、J・H医 師、H・ H医 師、I・H医 師 は3人 と もBHMSで あ り、実 際 に 自分 た ちが 生 殖 医療 技術 を用 いて 医療 行為 に当 た るわけで は ない。体 外 受精 な どを施術 す る経 験 は全 くない わけ だが、 そ れで も新 しい技術 に対 して は同様 に許 容 して い る とい う こ とが分 か る。 また、H・H医 師が言 及 した、祖 母 にあ た る女性 が娘 の代 わ りに孫 を出産 した とい うニ ュー ス は、 ほか の 医 師 との イ ン タ ビュー の中 で も出て きた事例 で あ る23。それ を語 る 医師 た ちの反 応 はお お む ね好 評 で、G・M医 師 の よ うに 「偉大 なお祖 母 さん です 。娘 のた め にそ こまで したわ け だか ら」 と賛美 す る人 もいた.こ の ように 医師 の 問で は、 生殖 医療技 術 に かか わっ た経験 の有 無 を問 わず、 こう した技 術 は心 理 的 な 抵抗 感 な く、 広 く受容 されて い る とい え る。 逆 に、 アーユ ル ヴェー ダ医 師や ホ メオパ シー専 門 医で はそ の治療 が そ も そ も生殖 医療 技術 とい う手 段 とはか け離 れ てい るた め、技 術 の適用 に関 し ては、特 に否定 も賛成 も しない とい う態 度 が見 られ た。 その代 わ りに、近 代 医療 で は不 必 要 に高額 な治療 を受 けな けれ ばな らない ことや、 近代 医療 の診察 方法 そ の もの に対 す る不 満 が 聞かれ た.こ う した姿勢 は、消 極 的 な 反 対 として捉 え るこ とが で きるだろ う。 また、(3)で示 す よう に、 副作 用が 強 い こ とをあ げて近代 医療 を批判 しつ つ も、 あ えて反対 は 唱 えない とい う 折 衷 的 な意 見 もあ る。
イ ン ドに お ける生 殖 医 療 技 術 と不 妊 の 医 療化 ― マハー ラ ーシ ュ トラ ・プネー の 医師 の言 説 か ら― (2) 消極 的に反対 という事 例 L・A医 師24:コ ス トが 高す ぎて、 い ったい 誰が 払 うこ とが で きる とい うの で すか?で も、 み んな最初 に近代 医療 に治療 に行 き、無駄 に検 査 や治療 に 大 金 を払 ってい る。 そ して効 果が ない と分 か る と最終 手段 と して アー ユ ル ヴェ ー ダにや って くるの です.そ うなる と既 にホ ルモ ン治療 に よって本 人 の体 質 が変 わ ってい るの で、 それ を均衡 状態 に戻 す の も大 変 です。 で すか ら、 こち らの治療 には大変 時 間が かか って しまい ます.最 初 に私 た ちの と ころへ 来て くれ た ら、 もっ と早 く結 果 を 出す こ とが で きるの です が。 K・H医 師25:ホ メオパ シーで は、 とにか く診 察 に時 間 をか けるの です.患 者 に対 して30分 か ら1時 間か け る とい う こ とも まれ で はあ りませ ん。私 た ちは、病 気 を見 るの で はな く、患者 を診 るの だ とよ く言 い ます。近 代 医療 で は、 診 察が た った の3分 とい うこ と もあ るで しょ う?私 の夫(近 代 医療 MD)な どは、 い ったい患 者 一人 に何 時 間か けて い るのか 、 とよ くか らか う もの です。 で も、不 妊 の よ うな場 合 に は近 代 医療 が してい る よ うな診 察 で は不 十分 で はない で しょうか. (3) どちらともいえない事例 N・A医 師26:そ の患 者 が望 んで 、役 に立 つ ので あれ ば、反 対す る理 由 はあ りませ ん。 まあ 、や って み な さい、 と言 い ます ね。 や は り、不 妊症 治療 で は近代 医療 が 中心 とな ってい ます か ら.で もこ う した治療 の 問題 は、副 作 用 が強 い こ とで す。 アーユ ル ヴ ェー ダはそ の点、 副作 用 が全 くない とい う 利 点が あ ります 。 O・A医 師27:AIHや 体 外 受精 は実 際 、費 用 効 果 は低 い もので す 。 です か ら、 そ の患 者 に金 銭 的 な余 裕 が あ る ので あ れ ば 問題 あ りませ ん 。 その ス テ ップをお進 み な さい。 この ように、 た とえ生殖 医療技 術 を使 用 して い ない医 師で あ って も、総 じて これ らの技 術 を積 極 的 に評価 し、 受容 して い る とい う こ とが分 か る。 また、 近代 医療 以 外 の 医 師で あ っ て も、生 殖 医 療 に かか る価 格 や副 作 用 とい っ た実 際 的 な側 面 に つ いて は 言及 す る もの の、技 術 そ の ものへ の躊 躇 あ るい は嫌悪 とい った もの は一切 聞 かれ なか っ た28。現在 で は アーユ ル ヴェー ダ も、例 え ば精 子数 や排 卵状 態 を近代 医療 の数 値 で示 し、 その効 果
南 ア ジア研 究 第19号(2007年) を明 らか にす る こ とが 求め られ てお り、 医師 た ちは近代 医療 的 な検査 手続 きや概 念 へ の親和 性 が 高 くな って い る.L・A医 師 は、 アー ユ ル ヴェー ダ を 「近代化 」 す る ことに特 に意欲 的 であ り、 ア メ リカの研 究機 関 と提 携 し て医療 用 のギ ー(油)の 開発 に取 り組 んで もい る。 この よ うに、大学 教 育 を受 け たアーユ ル ヴ ェー ダ医師 は、近 代 的 な医学 言説 を巧 み に用 い なが ら も、 ア ーユ ルヴ ェー ダの独 自性 や利 点 を追求 して い る とい え るだ ろ う。 ま た、 最先端 の 医療技 術 を 日々駆使 してい る近代 医療 の 医師 で あっ て も、 こ う した技術 は最 終 的 には 自然 の 法則 に従 うた め に、 自然 か ら逸脱 した行為 であ る とは見 な され てい ない場合 もあ る. B・M医 師29:生 殖補 助技術 は、妊 娠 の手助 け をす るだ けで 、最後 に決 める の はや は り自然 で す。 だ って、 どれ だ けた くさんの胚 を移植 して も、そ の うちで一体 どれが 妊娠 す るのか 、そ して妊 娠 して も きち ん と育 つの か分 か らない し、私 た ちが完全 に管 理 す る こ とはで きませ ん。 クロ ー ンに して も そ うです.ど れが 成功 して どれ が失敗 す るの か、全 く予 測 がつ か ない。 だ か らク ロー ンや生殖 補助 医療 は 自然 に逆 らってい る とい うわ けで はな い と 思い ます 。 B・M医 師 はす で に見 た よ うに、生 命 を人 工 的 に操作 す る こ とに こそ、 不 妊症 治療 分 野の 面 白みが あ る と述べ ていた が、 同時 に、 人が 完全 に は コ ン トロ ールで きない とい う こ とか ら、生命 は 自然 の領域 に属 す る もの であ る とす る人工 的 な生命操 作 を も取 り込 んだ広 い解釈 を してい るの であ る. 4-2. 不 妊 は病気 か? では、 そ もそ も不 妊 とは病 気 で あるの か。 筆者 は、 イ ンタビュ ーの最 後 に必 ず この 質問 をす る ように して いた30。長 くな るが、 以下 に全 員 の語 り をある程 度見 出 され た共通 点 に分 けて示 したい。 (1) 不 妊 は社会 的 な状況/状 態であ る C・M医 師31:う ー ん…(し ば し沈 黙)。 なか なか 難 しい質 問 です。 で もと て も面 白い. 食 事 を しなが ら質 問 を した と きに は考 え込 み 、即 答 を避 け別 の話 題 へ
イ ン ドに お ける生 殖 医 療 技術 と不 妊 の 医療 化― マハー ラー シュ トラ ・プ ネー の医 師 の言 説 か ら― 移 っ たC・M医 師 で あ るが、2∼3日 た って か ら、筆 者 に こ の よ うな メー ル を送 って くれ た.そ れ に よる と、「第一 に、デ カル ト的身体 論 に基 づ けば、 不 妊 は病気 であ る。 これ は典 型 的 な西洋 的 な身体観 で あ り、そ れ に よれ ば 身体 は機械 、我 々(医 師)は 技術 者 とい うこ とにな ります 。 しか し、私 は この見 方 に は賛 同 しませ ん。第二 に、そ れ は運 命 です 。で もこの見方 に も 私 は賛 成 しませ ん 。第 三 に、そ れ はあ る人 の人 生 の なかで、 感情 的、 身体 的、科 学 的、社 会 的 な手 助 け と適 応 を必要 とす るあ る状 態 です」 とあ った。 F・M医 師32:不 妊 は病 気 で は な く、 あ る状態(aslale)で す 。 女性 は 自分 たち の感情 を自由 に表現 す る こ とは で きませ んが、子 どもが い ない とい う 状態 は、不完 全 な状態 で あ る、正常 で は ない とい う強い意 識 を抱 かせ てい ます。 H・H医 師33:不 妊 は病 気 で はな くて、人 々に社 会 的苦 痛 を与 え る問題 です。 一 人の状 態 で不妊 とい うの は起 こ りえない わけ だか ら、その人個人だけで はな く、 ユ ニ ッ トと して の夫婦 に もた らす 問題 だ とい えます。 (2) 不 妊 を引 き起 こす原 因が病気 であ る B・M医 師34:不 妊 は病気 で はあ りませ ん。で も、子 宮 内膜症 や 結核 な どの ように、 病気 が不 妊 の原 因 となる こ とはあ ります 。つ ま り不 妊 は病気 とは い え ませ んが 、病気 は不 妊 を引 き起 こす ので す。 それ以 外 の説 明で きない 不 妊(unemplained in fertility)だっ た ら、病 気 で はない と思 い ます。 G・M医 師35:不 妊 は病気 で はあ りませ ん が、 病 気 は不 妊 を引 き起 こ しま す. I・H医 師36:子 ど もが で きない か らとい って、 特 別 どこか 身体 的 に痛 い と い うわけ で はない ので、 症状 と して は、不 妊 は病気 で はな いか もしれ ませ ん。 む しろ、不 妊 を引 き起 こす別 の病気 に よる弊害 で しょう。 (3) 不妊 は障害 である A・M医 師37:病 気 とは呼 べ な いで し ょう。 む しろ、障 害(handicaPPed) と呼 んだ ほ うが正 しい と思 い ます ね(と 、 きっぱ り言 い切 る)。 J・H医 師38:(考 え込 ん で)不 妊 は病気 とい うよ り… 目が見 えない 人や 耳 が 聞 こ えない 人み た い な もの(apang)で は ない で しょ うか 。つ ま り、彼 らは病気 で は ない けれ ど、 さま ざま な困難 に直面 す る とい う意 味 です。
南 アジ ア研 究 第19号(2007年) (4) 不 妊 は病 気 である E・M医 師39:不 妊 は病気 です。 身体 的 な病気 で あ るか、精 神 的 な病気 で あ るか の 違 い はあ ります が 、 原 因 は必 ず病 気 に よる もの で す 。 身体 的 な病 気 な らば、 どこかが 欠 けて い るのです 。 で も、 患者 には 「あ なた は病 気 で す 」 とは決 して言 い ませ ん よ。 そ うな った ら、 とて も失望 して しまい ます か らね。 か わ りに、 「こうい った問題 が あ ります が、 それ を解 決す る ため に、 これ これ の方法 が あ る。 ど う します か?」 と言 う ように して い ます 。 D・M医 師40:ま あ、 病気 です ね 。多 くの 場合 、 不 妊 は病 気 に関連 してい ます 。 また、 過度 のス トレスや糖 尿病 な どが 原 因で精 子が 少 ない人 の場 合 な どは、不 妊 以外 に も心 臓 病や 高血 圧 な どを併存 す るお それが あ ります. です か ら、不 妊 も病気 と して保 険 の対 象 にす るべ きです。 L・A医 師41:不 妊 は病気 です 。 ア ーユ ル ヴェー ダで は、 はっ き りと不妊 が 病気 で あ る と明記 してあ り、 その ため の治療 法が 存在 して きたの です.で す か ら、 アーユ ル ヴェー ダ医 師 と して 問わ れ るな らば、不 妊 は病気 で あ る とい え ます ね。 M・A医 師42:文 学 で あ るヴ ェー ダやマハ ーバ ー ラタ、 マ ヌ法典 な どには、 不 妊 を社 会 的問題 、 ス テ ィグマで あ る と して さ まざ まな対 処 法が 記述 して あ ります.そ の 点、科 学 であ る アーユ ル ヴェ ー ダには、不 妊 をステ ィグマ として見 る視 点 は あ りませ ん。 あ くまで もそ れは個 人の 症状 と して説 明 さ れ、独 立 した病 気 と見 な されて い ます 。 だか ら、不 妊 は病気 です 。 N・A医 師43:不 妊 とい うの は、 その人 の健 康状 態 に身体 的 ・精神 的 に悪 い 影 響 を与 え ます か ら、病 気 と見 な します。 O・A医 師44:不 妊 はい くらか病気 とい え ます。 生 活習 慣 病 で あ った り、 ス トレス であ った りと何 らかの要 因 が重 な って不妊 は引 き起 こ され てい ま す。 日本 の産婦 人科 医 のイ ンタビュ ー調査 を行 っ た柘 植 は、 医 師た ちの不 妊 に対 す る認識 は、 不妊 をまず 「病気化 」 し、 そ れ を生殖 医療 技術 を用 いて 「治療 」す るこ とに よって、不 妊 の 「医療化 」が達成 され る と論 じて い る[柘 植2001:291]。 つ ま り、 不妊 が病 気 と見 な され るこ とに よって 、 は じめ て 医師 は患者 の 身体 に介 入 す る こ とが可 能 とな り、 また そ う した行 為 が正 当化 され る とい うの であ る。 しか し、本 稿 で取 り上 げた医 師 たちの語 りか らは、近代 医療 の医 師で あ っ