第
10
章 連立方程式未知数が複数個ある電気電子回路の解析を行う場合,連立方程式を解く必要があ る.本章では,連立方程式を解く代表的な
3
つの方法について述べる.なお,連立 方程式を解くには,未知数の数と独立した方程式の数が等しいことが前提となる.10.1
消去法次のような連立
3
元1
次方程式を例として説明する1
.x + 2y − 3z = 16 O 1
2x − 3y + z = 4 O 2
3x + 2y − z = 20 O 3
まず,
x
を消去するためにO 2 − O 1 × 2
とO 3 − O 1 × 3
を計算し,O 2 ′
,O 3 ′
とする.− 7y + 7z = − 28 O 2 ′
− 4y + 8z = − 28 O 3 ′
次に
O 2 ′
の両辺を− 1 7
倍して,O 2 ′′
とする.y − z = 4 O 2 ′′
O 3 ′
にO 2 ′′ × 4
を加え,O 3 ′
からy
を消去すると,4z = − 12
z = − 3 O 4
O 4
をO 2 ′′
に代入すると,y = 1 O 5
O 4
とO 5
をO 1
に代入して,x = 5 O 6
1
3
元とは未知数と独立した方程式の数が3
つであることを意味している.70
第10
章 連立方程式 以上により,x
,y
,z
の値を求めることができる.得られた解を元の方程式O 1
〜O 3
に代入して成り立っていることを確認すると良い.この計算方法は係数を行列 で表せば,コンピュータで連立方程式を解く際によく用いられる方法の1
つである ガウスの消去法として説明できる.10.2
逆行列を用いる方法x
,y
についての連立2
元1
次方程式は行列を用いると次のように表される.( ax + by = p
cx + dy = q = ⇒ a b
c d
! x
y
!
= p
q
!
(10.1)
ここで,式
(10.1)
の左辺行列は係数行列という.式(10.1)
の連立方程式は,左か ら係数行列の逆行列をかけて次のように解くことができる.x y
!
= a b
c d
! − 1
p q
!
[
例7]
次の連立1
次方程式を逆行列を用いて解く.( 2x + y = 1
3x + 4y = 9
上式を行列で表すと,2 1 3 4
! x
y
!
= 1
9
!
(10.2)
式
(10.2)
に左から係数行列の逆行列をかけて, x
y
!
= 2 1
3 4
! − 1
1 9
!
= 1 5
4 − 1
− 3 2
! 1
9
!
= 1 5
− 5 15
!
= − 1 3
!
より,
x = − 1
,y = 3
となる.【例題
1
】 図10.2
の回路で,r 1 = 5[Ω]
,r 2 = 10[Ω]
,R = 20[Ω]
,E 1 = 10[V]
,E 2 = 20[V]
のとき,電流I 1
,I 2
を求めよ.ただし,回路に関しては次の連立方程 式が成り立つ.1 2
I
2
1 2
1
I r r
E E
R
図
10.1:
例題1
の回路( (r 1 + r 2 )I 1 − r 2 I 2 = E 1 − E 2
− r 2 I 1 + (r 2 + R)I 2 = E 2
よりr 1 + r 2 − r 2
− r 2 r 2 + R
! I 1 I 2
!
= E 1 − E 2 E 2
!
【解】
15 − 10
− 10 30
! I 1
I 2
!
= − 10 20
!
15 −10
− 10 30
! − 1
= 1 350
30 10 10 15
!
I 1 I 2
!
= 1 350
30 10 10 15
! − 10 20
!
= 1 350
− 100 200
!
= − 2 7
4 7
!
したがって,
I 1 = − 2
7 [A]
,I 2 = 4
7 [A]
である.10.3 3
次正方行列の逆行列連立
3
元1
次方程式を解くために,3
次正方行列の逆行列を計算する方法につい て述べる.A =
a b c d e f g h i
のとき,行列
A
の逆行列A − 1
は9.4
節で述べた小行列式展開を3
次に拡張して次 のように計算する.A − 1 = 1
| A |
e f h i
−
b c h i
b c e f
− d f g i
a c g i
−
a c d f
d e g h
−
a b g h
a b d e
(10.3)
ここで,
|A|
は行列A
の行列式である.もし,|A| = 0
の場合には逆行列は存在せ ず,そのような行列を特異行列という.| A | ̸ = 0
の場合,逆行列は存在し,そのと き行列A
は正則行列という.逆行列
A −1
の各要素は次のように計算する.O 1
符号:ℓ
行m
列の符号は( − 1) ℓ+m
である.72
第10
章 連立方程式O 2
分子の大きさ:ℓ
行m
列の要素は,行列A
のm
行目とℓ
列目(行と列を入れ換 える点に注意)の要素を除いた残りの要素で構成される行列式の値.O 3
分母の大きさ:行列式| A |
の値.【例題
2
】10.1
節に示した連立3
元1
次方程式の解を逆行列を用いる方法で求めよ.【解】行列で表すと次のようになる.
1 2 − 3 2 − 3 1 3 2 − 1
x y z
=
16
4 20
(10.4)
式
(10.4)
の係数行列をA
と置き,A
の逆行列A − 1
を計算する.A − 1 =
1 2 − 3 2 − 3 1 3 2 − 1
− 1
行列
A
の行列式は,|A| =
1 2 − 3 2 − 3 1 3 2 − 1
= 1 · (−3) · (−1) + 2 · 1 · 3 · +(−3) · 2 · 2
−(−3) · (−3) · 3 − 2 · 2 · (−1) − 1 · 2 · 1
= 3 + 6 − 12 − 27 + 4 − 2 = − 28 (10.5)
A − 1 = − 1 28
− 3 1 2 − 1 −
2 − 3 2 − 1
2 − 3
− 3 1
−
2 1
3 − 1
1 −3 3 − 1
−
1 −3
2 1
2 − 3
3 2
−
1 2 3 2
1 2
2 − 3
= − 1 28
( − 3) · ( − 1) − 1 · 2 −{ 2 · ( − 1) − ( − 3) · 2 } 2 · 1 − ( − 3) · ( − 3)
−{2 · (−1) − 1 · 3} 1 · (−1) − (−3) · 3 −{1 · 1 − (−3) · 2}
2 · 2 − (−3) · 3 −{1 · 2 − 2 · 3} 1 · (−3) − 2 · 2
= − 1 28
1 − 4 − 7 5 8 − 7 13 4 − 7
したがって,
x y z
= − 1 28
1 − 4 − 7 5 8 − 7 13 4 − 7
16
4 20
= − 1 28
1 · 16 − 4 · 4 − 7 · 20 5 · 16 + 8 · 4 − 7 · 20 13 · 16 + 4 · 4 − 7 · 20
= − 1 28
− 140
− 28 84
=
5 1
−3
10.4
クラメルの公式を用いる方法次に示す連立方程式をクラメルの公式を用いて解く.
a 11 x + a 12 y + a 13 z = c 1
a 21 x + a 22 y + a 23 z = c 2 a 31 x + a 32 y + a 33 z = c 3
(10.6)
いま,係数行列の行列式を
∆
とする.∆ =
a 11 a 12 a 13 a 21 a 22 a 23 a 31 a 32 a 33
(10.7)
この行列式の
x
の係数に相当する列を式(10.6)
の右辺の係数で置き換えた行列式 を∆ x
,同様に,y
,z
に対しても∆ y
,∆ z
を次のように定める.∆ x =
c 1 a 12 a 13 c 2 a 22 a 23
c 3 a 32 a 33
,
∆ y =
a 11 c 1 a 13 a 21 c 2 a 23
a 31 c 3 a 33
,
∆ z =
a 11 a 12 c 1 a 21 a 22 c 2
a 31 a 32 c 3
(10.8)
このとき,
x
,y
,z
は次式から求めることができる.x = ∆ x
∆
,y = ∆ y
∆
,z = ∆ z
∆ (10.9)
【例題
3
】【例題2
】の連立3
元1
次方程式の解をクラメルの公式を用いて求めよ.【解】係数行列の行列式の値は式