報 告
妊産褥婦を対象として,
描画法を用いた母子関係を支援する試み
俵 佐和子1),松森 直美2)
〔論文要旨〕
本研究の目的は,母子関係やサポート体制の促進を図る方法として,描画法を用いたアセスメントから支援を構 築するという現状を記述することである。初産婦10名を対象に,助産師が妊娠から産褥期まで計5回描画法,心理 調査,個別面接を行い,各時期の支援をアセスメントした。支援の50コードを作成し,【出産前に描いた児の描画 から出産への不安を把握し対応する】,【描画に表出された育児不安に対応する】,【描画では気になる点はないが言 動に対して対応する】など8カテゴリーに分類した。対象者の描画を契機とした言動さらに表出された問題を統 合したアセスメントにより支援に結びつけられたことから,描画法を用いたアセスメントによる支援の構築ができ ることがわかった。
Key words:母子関係,初産婦,描画法,助産師,支援i構築
1.研究の背景
平成12年に児童虐待防止法が制定されたが,平成24 年には虐待相談対応件数は4.7倍に増加し,主な加害 者として母親が61%と報告されている1)。虐待の要因 として,家族形態や養育状況などが挙げられている。
虐待や育児ストレスを考える際に,池田は母親の子ど もへの関心や内的作業を把握することが必要だと指摘 しており2},母親の育児環境や内面に潜むストレスに 対する支援が必要と考える。そこで,母子関係や母親 の子どもへの関心状況の表出が可能な方法として描画 法が用いられていることに着目した。先行研究では,
目的に応じて母子画や動的家族描画法(以下,KFD)
を用いて母子関係などをアセスメントし支援につなげ ている3)。和田は「描画自体が自己表出の機会となる」4)
と,高橋は「KFDを用いることで子どもに対する母 親の認知や家族の相互作用性や凝集性といった側面 を評価し得ることが可能」5}と述べている。また,描 画に愛着対象との関係が反映されることもあり,今後 育児支援において母親の心理の表出や母子関係のアセ スメントに描画法を取り入れ,母子関係の支援構築の 一助として用いることができるのではないかと考え,
描画法を用いた支援を振り返ってみることとした。
皿.研究目的
母親の心理状況とストレスを把握しながら母子関係 やサポート体制の促進を図る方法として,描画法を用 いたアセスメントから支援を構築するという現状を記 述する。
ATrial for Support of the Mother−child Relationship Using the Drawing Method in Pregnant and Puerperal Women
Sawako TAwARA, Naomi MATsuMoRエ 1)澤崎産婦人科(助産師)
2)県立広島大学保健福祉学部看護i学科(研究職)
別刷請求先:俵佐和子 澤崎産婦人科 〒732−0824広島県広島市南区的場町2丁目5−ll Tel:082−261−2168 Fax:082−261−2160
〔2679〕
受イ寸 14 9.29 採用16 4.17
皿.方 去
1.対象者
本研究が,初めての出産による心理状況やストレス に対応することに条件を統一するため産科診療所に通 院し,調査依頼時,妊娠経過に異常のない初産婦10名 を対象とした。
2 調査期間
平成24年10月〜平成25年7月。
3.データ収集および支援方法
初回来院時に依頼文で説明し,同意を得たうえで各 時期において助産師である研究者1名が調査を実施し た。調査で得たデータを総合的にアセスメントし,個 別的支援を行った。
1)調査時期
妊娠から出産後の必要な支援を把握するため,次の 1〜V期に調査を実施した。
1期:妊娠中期(22〜28週),1[[期:妊娠後期(35 週以降),皿期:出産直後(1〜3日後),IV期:出産 後1か月,V期:出産後3〜4か月。
2)調査方法
対象者から同意を得られた後に,「自分を含め家族 が何かしているところを描いてください」と伝え,A 4用紙と黒のHB鉛筆を渡した。家族関係や母子関 係が把握しやすいKFD,または円描画について説明 し自由選択とした。また,1〜V期に不安尺度State Trait Anxiety Inventory(以下, STAI),皿〜V期に
日本版エディンバラ産後うつ病尺度(以下,EPDS)
の記入を求めた。さらに,個別の面接で今の状況と描 出した人物が誰で何をしているところか,描画後の気 持ちなどを口頭で尋ね,アセスメントの情報に加えた
(約5分間)。事例ごとのアセスメントから看護支援を 考え,対応した経過について回顧録を作成した。
3)分析方法
日比の5つの形式的分析,または力石が参考にし た円環イメージで描画分析し,さらに個別面接で得
られた現在の状況と描画に関する説明をアセスメン トした6・ 7)。補助的に1〜V期のSTAIと,皿〜V期 のEPDSの結果も参考にした。 STAIは4点以上を高 不安とし,EPDSは9点以上を鯵傾向とした89)。描画,
STAI・EPDS得点,回顧録を統合し,共同研究者と
共に各期における具体的な支援をコード化し記述し た。そして支援方法のカテゴリー化を行い,全体を通
して支援の実際を記述した。
4.倫理的配慮
本研究は,県立広島大学の研究倫理委員会の承認を 得て実施した。協力施設の代表者に研究目的・方法・
倫理的配慮を文書にて説明し,同意書への署名をもっ て同意を得た後に,対象者にも文書で説明し署名にて 同意を得た。
IV.結 果
1.対象者の概要 (表1)
年齢は21〜41歳で平均年齢は29歳,分娩週数は全て 正期産 自然分娩で出産支援者は主に夫または実父 母・義父母であった。
2.描画法を用いたアセスメントからの支援により得ら れたカテゴリー (表2)
表2に示すように,10事例の各期の描画法等を用い たアセスメントからの支援をコード化し,支援の構築 について8つのカテゴリーを命名した。
A〜Jのいずれの事例も出産前の1または1期にま だ生まれていない児を描き,描画について尋ねた話の
表1 対象者の概要
年齢(歳) 分娩週数
(週+日) 主な経過 主な育児
支援者
A 29 37+6 切迫早産で入院したが改善 実母 B 41 38+2 切迫早産で入院したが
改善 夫・義父母
C 21 39+2 切迫早産で入院したが
改善 夫・実母
D 34 39+3 産後意識消失し他院へ紹介入院 夫・義母
E 26 39+5 夫・実母
F 35 38+5 義父母
G 25 38+5
姉
H 33 38+3 夫・実父母
1 32 37+2 殿位から頭位へ改善し 無事出産
夫・実父
(母死別)
J 29 39+2 妊娠性高血圧で経過観
察し無事出産 姉
表2 描画法を用いた各事例のアセスメントからの主な支援により得られたカテゴリー カテゴリー
事例,時期,アセスメントと支援のコード
出産前に描いた児の描画から出産への不安を把握し対応する
1 ケーキを食べている児の描画をきっかけに妊娠出産に対する現在の気持ちや不安などを尋ね不安の軽減に努める
A
H 児をベビーカーに乗せ散歩する様子を描き,楽しみと切迫早産による不安な気持ちの揺れに対して描画中に話をする1 出産後の児とのサイクリングの様子が描かれ,明るいテーマだが出産への不安や,注意事項など再確認した
B H 出産後の児が描かれ,産後の自営業への復帰の時期や両立の不安に対し支援体制などの話し合いを勧めた
C n 出産後の児が描かれ,近づく出産と産後の育児不安に対して,支援体制の整備について夫も交えた話し合いをした
D 1 出産後の児と家族が笑顔で手をつなぐ様子が描かれ,産後のサポート不足の不安に対し家族会議の機会を作る話ができた
﹈工
出産後の児が描かれ出産や産後の不安に対し,入院の時期や産後の生活など具体的に話し再確認した
E 丑 出産後の児と家族で炬燵を囲む様子が描かれ,産後の生活変化に対する不安に対し,話を聞き夫にも話し合うことを勧めた
1 出産後の児が描かれ,漠然とした不安に対し,話を聞くことで不安の具体化を図った
F 丑
出産後の児が描かれ,妊娠・出産に対する不安に対し,再度説明し軽減を図った
1 自分の外側に密着して出産後の児の円を,夫とは距離を離して円を描き,自分の話を聞いて欲しいとの言動に傾聴した
G 丑
3人の円は接近していたが自分と児は少し重ねて描いた。育児不安に対して育児技術を説明して産後の生活を具体化した
1 出産後の児が大人と同じ大きさで描かれ,妊娠出産の不安に対してゆっくりと話を聞き解決できることは解決した
H
丑 夫が出産後の児を抱いている場面を描き,妊娠出産の焦りや不安に対して具体的にわかるように話すことで不安を軽減した1 1 地面の花を出産後の児が後ろ向きで触っている場面が描かれ,今後困ったことがあればいつでも相談をと声掛けした H 後ろ向きの夫と自分,出産後の逆子の児が描かれ,手術の不安に対して,わからないことなどを尋ね説明することで軽減した J H 出産後の児をベッド柵で包囲して描いた。妊娠性高血圧の妊婦に対する病識がない夫や義母に現状について説明した 描画では気になる点はないが言動に対して対応する
A IV 児に服を買う場面を描き気になる点はなかったが,母乳育児の焦りに対して日にちを待てばよいことを伝えた B 皿 家族3人で楽しそうなお食い初めの様子が描かれ,仕事との両立への不安に対して話をした
C 皿 夫と協力し育児をする様子を描き,産後は実家を頼らないことに対しいつでも連絡し退院後も頑張りすぎないよう話した
1 夫の傍で腹部に掛物をしてソファーに臥床した自分を描き,妊娠出産に対する不安や気になることに対し,具体的に話した
E V バギーを押し家族で散歩する様子を描く。育児不安に対し傾聴し客観的に自分を見ながら育児に自信が持てるように関わった
G 皿 本人と夫の円の大きさがほぼ同じに描かれた。夫の育児参加が望めないことに対し,退院後の育児を具体的に話した
H
V 鯉のぼりで児の成長を祝う場面を描き,両親の支援なしでの育児に対し,夫と具体的に話し合いイメージ化し不安を軽減した1 皿
児を笑顔で家族が見守っている様子を描き,キーパーソンである実父への育児の沐浴など具体的指導を行った 描画に表出された育児不安に対応する
B V 泣いている児だけが描かれ,不安が強く,諺状態に対し,夫の支援が受けられるように電話連絡した
E IV 日々の大変さが描かれやや不安があり,育児疲れやストレスに対して,時間をかけて傾聴することで気持ちの安定を図った
IV 義父母を含めた家族を描き,質問に義母が率先して答える様子からストレスが感じられ,実父母に来てもらうことを提案した
F V 家の外に第1子,中に存在しない子どもを描き,義父母中心の育児から母親主体の育児へ義父母への見守りを働きかけた
IV 児との距離がある円を描きやや不安があり疲労について頑張りすぎないよう話し,日常について傾聴し不安の軽減を図った
G V 夫は仕事中で児と自分が遊んでいる様子を大きな円で表した。やや不安があり,夫にベビーマッサージへの参加を要請した
皿 夫が児を沐浴している場面を描き,育児支援の中心が実家にあることに対し夫の育児参加ができるよう沐浴の見学を勧めた
H IV 困り顔の自分と実父母が大きく夫はやや後ろに描かれた。不安がやや高く,実家を離れる不安に対し夫に支援協力を要請した
皿 児が寝ているところを上半身のみ描き,不安が強く育児に自信が持てないことを話していたため,帰宅後に電話訪問をした J IV 本人が描かれず夫が児を抱いている場面を描き,夫の支援が受けにくいことに対して育児参加を促した
描画を契機に不安を把握し対応する
B IV 「授乳しながら寝ている」描画と会話から強い不安や疲れを感じ,不安得点もやや高く,質問に一つ一つ丁寧に答えた C 1 顔の表情がわからない夫が妻のおなかをなでている場面を描き,妊娠経過に対し,気になることを尋ね不安の軽減を図った
D 皿 意識消失となり一時期病院に搬送され強い不安を示した。産後の体調不良に対し,仕事のため育児協力が得られ難いが夫に協力を要請した 1 IV 不安得点は低かったが,根元のない木の下で笑顔の家族が帽子をかぶった児を囲んでいる場面を描いた。児の睡眠の特徴を話し,育児疲れや不安を軽減できた J 1 散歩中の夫婦の上半身を静止しているように描いた。飲酒の状態で健診に付き添うなどの夫に対し育児参加の働きかけをした 現状と異なる描画によって不安を把握し対応する
A
D FV 家族でドライブする場面を描いたが,現状と異なり夫が多忙で育児不安のあることに対し日常を尋ね自由に話をしてもらう IV 家でくつろぐ場面を描いたが,一人でいると不安になるという鶴状態に対し,両親への支援要請と心療内科への紹介を行った V 高不安があり家の中に小さく家族団らんの様子を描いた。帰宅後,母親自身の体調や育児に問題がないか電話訪問を行った 皿 家族でお花見をしている場面を描いたが夫は仕事でほとんど不在のため,現状と一致しない。不安得点がやや高く,義父母 中心の育児状態からt母親主体の育児にするため,義父母へ見守り支援するよう働きかけた
前向きな姿勢が描出されていることを支持する C
E
1
IV 散歩中笑顔の親子を描き,面接からも不安を乗り越えようとしている様子がみられ,このままのペースでよいことを伝えた V 児とピクニックをしている場面が描かれ,面接でも落ち着いていた。育児不安や困難に対して今後も力になれることを伝えた 皿 描画でも家族がまとまっている様子がわかり,転勤後の生活の不安と具体的な育児について夫を交えた話し合いをした V 夫が児を抱いて一緒に動物園に行っているところを描き,夫婦で力を合わせた育児ができているなど現状の確認を行った 描画と言動から気分転換の必要性を把握し実施する
AIII 川の字になって親子3人で寝る様子の描画と不安と疲労感が強い言動に対して,リフレクソロジー等により休息や気分転換を図った 描画による支援に結びつかない
JV 連絡が取れないため郵送で描画の返信を待ったが郵送されず連絡が取れない状態である
中で先々の不安を訴えていた。その際に表出された不 安に対して各事例に対する支援を行った。事例Bは H期に出産後の児を描き,自営業と母乳育児との両立 への不安を訴え,そのことに対して支援体制の話し 合いを行った。事例Dは1期に出産した後の児と家 族が笑顔で手をつなぐ様子を描いたが,夫婦の両親が 働いておりサポート不足の不安を訴えていたため家族 会議の機会を持つことを提案した。これらから【出産 前に描いた児の描画から出産への不安を把握し対応す
る】というカテゴリーを得た。
事例BはV期に,泣いている児だけを描き,描画 に関する応答や表情から産婦の不安が強く,薔状態と 考えられた。この状態に対し,夫の支援が受けられる ように助産師が電話連絡をした。事例EはIV期に日々 の大変さを描き,産婦にやや不安がみられた。そこで,
育児疲れやストレスに対して,時間をかけて傾聴する ことで気持ちの安定を図った。事例FはW期に義父 母を含めた家族を描き,質問に義母が率先して答える 様子からストレスが感じられ,実父母に来てもらうこ とを提案した。これらから【描画に表出された育児不 安に対応する】というカテゴリーを得た。
事例AはIV期に児に服を買う場面を描き,気にな る点はなかったが,母乳育児の焦りが感じられたため 日にちを待てばよい等の声かけを行った。事例Bは 皿期に家族3人で楽しそうなお食い初めの様子を描い たが,仕事との両立への不安を話されたことに対して 傾聴した。事例Cは皿期に夫と協力し育児をする様 子を描き産後は実家を頼らないと話した。そのため,
いつでも連絡してよいことや退院後も頑張りすぎない よう話した。以上より描画には表われないが話の中で 分娩や先々の育児に対する不安の表出があり【描画で は気になる点はないが言動に対して対応する】という カテゴリーとした。
事例BはIV期に描いた授乳をしながら寝ている描 画から育児疲れが強いことが考えられ,会話でも実際 に疲労感を訴えていた。不安得点もやや高く,質問に 一つ一つ丁寧に答えて対応した。また,事例Dは皿 期に意識消失となり一時期病院に搬送され強い不安を 示した。描画には表出されなかったが対象者の表情は 暗く,話の中でも仕事が忙しく夫の協力が得られない ことを訴えていた。産後の体調不良に対して,サポー トしてもらえるよう夫に協力を要請した。これらから
【描画を契機に不安を把握し対応する】というカテゴ
リーを得た。
事例AはV期に家族でドライブする場面を描いた が,現状と異なり夫が多忙で不在がちなため育児不安 があると話した。そのため,日常生活について尋ね自 由に話をしてもらうことで状況に対して共感した。事 例Dは工V期に家でくつろぐ場面を描いたが,一人で いると不安になるという雀状態に対し,両親への支援 要請と心療内科への紹介を行った。またV期に高不安 があり,家の中に小さく家族団らんの様子を描いた。
帰宅後,母親自身の体調や育児に問題がないか電話訪 問を行った。これらから【現状と異なる描画によって 不安を把握し対応する】というカテゴリーを得た。
事例CはIV期に散歩中で笑顔の親子を描き,会話 からも不安を乗り越えようとしている様子がみられ,
このままのペースでよいことを伝えた。V期には児と ピクニックをしている場面が描かれ,面接でも落ち着 いて会話をしていた。育児不安や困難に対して今後も 力になれることを伝え【前向きな姿勢が描出されてい ることを支持する】というカテゴリーを得た。
事例Aは皿期に川の字になって親子3人で寝る様 子の描画を描いたが,不安と疲労感が強い言動がみら れた。そのことに対して,リフレクソロジー等による 休息や気分転換を図り,【描画と言動から気分転換の 必要性を把握し実施する】というカテゴリーを得た。
事例JはV期に来院されず,郵送での連絡を待ってい る状況のため【描画による支援に結びつかない】とい うカテゴリーとした。
3.描画に対する反応
描画の依頼について消極的な態度を示した対象者は なく,自主的に調査に参加する様子がみられた。1期 にA,Cは「楽しかった」と描画の感想を話し, Gは
「絵を描いている時は,辛くもなく(幼少期からの)
症状が出なかった」と話していた。V期にBは「今回,
描いた絵について話すことで,自分の気持ちを聞いて もらえたこと,さらに主人にも話をしてもらえて助か りました」,Cは「助産師さんとお話しする機会が増 え,お話をしているだけで安心できたり不安が和らい だりして助かりました」,Hは「今回,絵を描くこと で助産師さんと話す機会を与えて頂き勉強にもなりま
した」と話していた。
V.考 察
以上の結果から,初産婦に対する描画を用いた支援 には次の6つの支援内容が考えられた。
1.妊娠期の生まれていない子どものイメージの把握と 支援
C,E, Jは][[期のみに,他の7例は1・IIの妊娠 期に現状ではいない子どもを描いていた。各対象者の 面接からも不安を受け入れ出産を楽しみにしていると 解釈できた。池田や相馬は,子どもへのポジティブな 関心が高いと関わりがポジティブになるとし,子ども に関心を持つこと,プラスのイメージを持つことが愛 着を高めるとしている21°)。描画から妊婦の子どもに 対するイメージを把握し,そこから話を聞くことで不 安の軽減,子どもへの関心やプラスのイメージを持つ ことにつなげることができると考えられ,【出産前に 描いた児の描画から出産への不安を把握し対応する】
ことにつなげられた。
2.抱えている問題の描出と支援
A,B, E, Hは子どもが泣くことに疲れを感じて いることが描画に現れ,Gは,夫の育児参加が少ない ことを気にしていることが,円で表された家族の距離 が時期によりさまざまとなっていた。Jは産後に眠っ ている子どもだけを描いていたが,話を聞く中で,背 景にある夫主導の生活の中での,自分一人で育児を頑 張る不安を表出していた。池田や相馬はストレス反応 を観る際に,子育ての姿勢や状況を同時に観る必要が あるとしている2・ 10)。また,渡辺は虐待の世代間連鎖 や被虐待経験があっても虐待傾向を示さないこともあ るため,被虐待経験の有無にかかわらず母親の子ども への関心度を把握する必要性を挙げている11)。描画法 は深層心理の表出に有用で,言語化しにくい思いを表 出することで発話が容易になり,また家庭内力動が表 現されると報告されており6・ 12),今回も描画法を用い ることで育児支援に結びつけることができた。描画法 に加え,心理尺度を用いることでその関係性や様子が 裏付けられ,把握しやすいと思われた。相馬らは,サ ポート状況を把握し環境を整える家族支援の大切さ とその関係性を踏まえた支援の必要性を指摘してい る1°1314)。その時の気持ちや家族関係の状態がありの ままに表出されることは,自身の置かれている現状を
理解し,受け入れているとも考えられ,【描画に表出 された育児不安に対応する】,【描画を契機に不安を把 握し対応する】,【描画と言動から気分転換の必要性を 把握し実施する】といった支援を実施し,助産師も支 援に結びつけやすかったと考える。
3.無意識に描出された問題の把握と支援
Dは産後に意識がなくなったことへの不安が大き かったが,「くつろぐ」,「団らん」など,家族の楽し い様子の描画を描いていた。日比によると家屋は家族 の抱えている不安や不安定感を表すとされ7),Dが大 きな屋根の下に家族を小さく描いたことは,打開でき ない不安に気持ちが抑圧されているのかもしれないと 考えられた。この描画を機に,Dの産後の不安に対し,
具体的に支援体制が整えられるよう夫に働きかけるこ とができた。Fは,家族でお花見をしている場面を描 いたが,夫は仕事でほとんど不在のため,現状と一致 していなかった。不安得点がやや高く,義父母中心の 育児状態から母親主体の育児にするため,義父母へ見 守り支援するよう働きかけた。描画と現状が一致しな い状況がみられる場合は,日常生活や支援環境が妊産 褥婦にとって思うようなものでないため,支援が必要 であり,【現状と異なる描画によって不安を把握し対 応する1ことが可能であった。
4.描画には表出されない言動への支援
AのIV期の描画に気になる点はなかったが,言動 から母乳育児確立の焦りがみられたため,経過に問題 はなく日にちを待てばよいことを伝えた。また,Bの 皿期には,家族3人で楽しそうなお食い初めの様子が 描かれており問題ないと思われたが,仕事との両立へ の不安を話したため傾聴した。このように,【描画で は気になる点はないが言動に対して対応する】ことで,
育児において問題を見逃さず,対応することが重要で あると考えられた。
5.描出された前向きな姿勢を支持すること
Cは1〜皿期の各期に【描画を契機に不安を把握し 対応する】,【出産前に描いた児の描画から出産への不 安を把握し対応する】,【描画では気になる点はないが 言動に対して対応する】といった支援を行い,IV, V 期に描画と言動に不安を乗り越えようとする姿勢がみ
られた。また,1も同様に1〜IV期における支援後,
V期に夫婦で力を合わせた育児ができていることが描 画と言動からわかり,【前向きな姿勢が描出されてい
ることを支持する】ことを意識して関わった。
6.描画法による心理的支援
1期にA,Cは「楽しかった」と感想を話し,Gは「絵 を描いている時は,辛くもなく(幼少期からの)症状 が出なかった」と話しており,またV期にBは「自 分の気持ちを聞いてもらえた。主人にも話してもら
えて助かった」と,Cも「助産師さんとお話しする機 会が増え,お話しをするだけで安心でき不安が和らい だ」,Hも同様に「絵を描くことで助産師さんと話を する機会が増えた」と肯定的な反応がみられた。和田 が描画法自体のリラクゼーション効果を報告してお
り4),情報や心理状態を把握するアセスメント・ツー ルとしての活用だけでなく,心理的な支援となって
いた。
以上より,描画を契機とした面接を行うことは,よ り深い家族関係を理解し,出産だけでなくその後の育 児環境を見据えて関わることが可能であった。さらに,
対象者の現状,描画法,心理尺度面接内容を統合し たアセスメントから支援の構築が検討可能となり,個 別的な支援をするきっかけになることがわかった。
VI,結 論
1 対象者の情報と描画に表出された問題を統合した アセスメントから支援を構築し,具体的な支援をす ることができた。
2 描画を契機に対象者の言動から問題を把握し,支 援構築に結びつけることができた。
V皿.研究の限界
本研究は,妊娠経過に異常のない10事例を対象とし た一人の助産師による関わりであり,今後あらゆる事 例に対する複数の助産師による実践を重ねた中で一般 化を検討していく必要がある。また,描画を導入する ためのコミュニケーション技術や描画内容の分析につ いてスタッフ間で統一した手法や見解を導き出してい
く必要性がある。
謝 辞
今回の研究にあたり,ご協力いただいた対象者の皆様 とご指導いただきました諸先生方に深謝いたします。
本研究は,県立広島大学大学院総合学術研究科におけ る平成25年度修士学位論文を加筆修正したものである。
利益相反に関する開示事項はありません。
文 献
1)厚生労働省.児童相談所における児童虐待相談対 応件数.http://wwwmhlw.go.jp/stf/houdou/
2r985200000096nl.html(参照2012−8−17)
2)池田隆英母親による乳幼児への「子育て状況」の 要因分析一育児の「ストレス反応」と「子育て姿勢」
の影響母性衛生 2011;51(4):578−584.
3)俵佐和子,松森直美.描画法を用いた母子関係の アセスメントに関する国内文献レビュー.人間と科 学県立広島大学保健福祉学部誌2013;13(1):
91−99.
4)和田佳子,妊娠・産褥期における描画によるリラク ゼーション効果の検討一 POMS・筋硬度・口頭デー タを用いた心理・生理的評価一.掲協医科大学看護
学部紀要 2010;(4):9−18.
5)高橋正泰,大野博之。動的家族画テスト(KFD)に 見られる母親の描画と心理特性一母子関係アセスメ ントとしての有効性の検討一九州大学心理学研究
2003;4:279−285.
6)日比裕泰動的家族描画法(K−F−D)一家族画によ る人格理解一.東京:ナカニシヤ出版,1986.
7)力石靖子.中年期初期の母親による子育て満足感と 家族との心理的距離の関係一中学生の子どもを持つ 母親の円描画における内的家族イメージの検討一.
臨床心理学研究 2011;9:105−121.
8)Charles D Spielberger,肥田野直,福原眞知子,他.
日本版State−Trait Anxiety lnventory.第1版.東京:
実務教育出版,2009.
9)岡野禎治,宗田 聡,産後うつ病ガイドブックーEPDS を活用するために一.第1版.東京:南山堂,1986.
10)相馬深輝.初妊婦の胎児への愛着と生活行動との関 連.日本助産学会誌 2011;25(2):203−214.
11)渡辺久子.母子臨床と世代間伝達東京:金剛出版,
2008.
12)森田健宏.育児ストレスを主訴とする母親に対して イメージ描画を利用した育児カウンセリングの事例研 究一バルーン・イメージ描画法の導入による検討一.
夙川学院短期大学研究紀要 1977;(1):1−25.
13)永田真理子.産後1か月時・4か月時点の母親の育児
ストレスコーピング方略一育児生活肯定的感情に焦 点をあてて一.母性衛生 2011;51(4):609−615.
14)高橋有里.乳児の母親の育児ストレス状況とその関 連要因.岩手県立大学看護i学部紀要 2007;(9):
31−41.
〔Summary〕
The purpose of this study was to describe the buildirlg of support structures from assessments in which draw−
ings were used as a rneans to facilitate the mother−chi!d relationship and support systems. The subjects were ten primipara. Midwives conducted drawing tests,
psychological surveys, and individual interviews a total of five times from pregnancy to puerperium, and sup−
port was assessed and provided in each period. The
main support content for each case was coded, from which eight categories were extracted. These catego−
ries included understanding and coping with anxiety toward childbirth from drawings of children rnade befbre childbirth , coping with childrearing anxiety expressed in drawings and coping in response to language and behavior with no points of concern in the drawings . From these categories, the actual state of support could be described frorn integrated assessment of the problems expressed when subjects made their drawings.
〔Key words〕
mother−child re!ationships, primipara, drawing test,
midwives, supPort structure