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─ 共同研究ブラジル日本人入植地の 歴史民俗学的研究

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Academic year: 2022

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図1 沖山すず家住宅1階平面図

60

 本共同研究は最終報告書『ブラジル日本人入植地の常民文化』(全2巻、2021年3月発行)をもっ て終了した。ここでは、共同研究開始に至る経緯、共同研究の狙い、おもな活動内容を振り返り、

総括としたい。

 本共同研究は、日本常民文化研究所にとってははじめてとなる南米に関する研究活動であった。

2010

年にサンパウロ大学哲学文学人間科学部の森幸一氏が神奈川大学を訪問したのが端緒である。

森氏はこの校務出張の機を捉え日本常民文化研究所で「ブラジルにおける日本移民の回顧と展望」

(第84回研究会、7月26日)を発表、所員は南米での調査に向けておおいに鼓舞された。そこで、

翌年

7

月に神奈川大学の国際交流事業として所員

5

名がブラジルに赴き、サンパウロ大学を筆頭に

共同研究 ブラジル日本人入植地の 歴史民俗学的研究

期間: 2015年4月1日~2019年3月31日(科研費【基盤共同研究B】)

2019年4月1日~2021年3月31日(共同研究)

[所員]佐野賢治  内田青蔵  小熊 誠  須崎文代  角南聡一郎  泉水英計

[客員研究員]森 武麿 [建築研究家]米田誠士

[鹿児島国際大学]黒瀬郁二 [文化学園大学]渡邉裕子

[サンパウロ大学]森 幸一 [近畿大学工業高等専門学校]田中和幸

[渋沢史料館]永井美穂 [研究協力者]加藤里織  李德雨

[日系移民研究者]ブルーノ・ヒサツグ  (歴史民俗資料学研究科博士後期課程)

日本常民文化研究所

『ブラジル日本人入植地の常民文化』の刊行

泉水 英計

市内の研究機関や文化施設を 見学し、将来の調査研究の可 能性を探った。あわせて、ブ ラジル日本文化福祉協会にて

「ひと・もの・暮し ─ 常民 のみた日本」と題し公開セミ ナーを開催、現地の日系社会 を中心に日本研究への関心が 高いことを認識した。

 2012年度からは日本学術 振興会から科学研究費の助成 を受けて、所外のメンバーを 加えながら漸進的に共同研究 が続けられた。

(2)

図2 沖山すず家住宅軸組図

写真1 第二アリアンサ最初の入植地点

(撮影/森武麿氏)

写真2 サンパウロの沖縄移民の墓地

(撮影/小熊誠氏)

写真3 ドローン撮影サウダーデ墓地

(撮影/角南聡一郎氏)

61 日本常民文化研究所年報 2020 共同研究 ブラジル日本人入植地の歴史民俗学的研究

 まず、挑戦的萌芽研究「ブラジル日系移民 および在日日系ブラジル人の民俗学的研究」

(課題番号24652174、代表佐野賢治、2012年4 月1日~2014年3月31日)により、調査候補 地の対象を拡大してパイロット調査を進めた。

サンパウロ州レジストロ市では、連邦文化遺 産「リベイラ渓谷の文化風景」に登録された 戦前の日系植民の建築群を巡見した。最古の 計画的日本人移住地(海外興業イグアッペ植 民地)があったレジストロ、イグアッペ、

セッテバラスの隣接

3

市では、おりしも植民 地開設

100

周年の節目を迎え、2013年

10

には記念式典を見学することができた。当時、現地の 日伯文化協会では周年誌『Centenário da Colonização

Japones』の編集中であり、郷土史への関心が高まっ

ていた。このような観察を踏まえ、レジストロ市は、

本共同研究において指標となる調査地の有力な候補と なった。

 以上のような経緯を経て計画実施されたのが、科研 費基盤研究(B)「ブラジル日本人入植地の歴史民俗 学的研究」(課題番号15H05172、代表佐野賢治、2015 年4月1日~2019年3月31日)であった。日本常民文 化研究所は、その前身であるアチック・ミューゼアム 以来、日本および近隣東アジア地域で調査活動を展開 し、民具研究と水産史を主要な研究領域としつつ、ひ ろくこの地域の庶民生活について特徴ある研究を積み 重ねてきた。この共同研究は、このような蓄積を通し て確立された日本常民文化研究所の調査手法と研究視 角を、南米の日系人社会という新たな対象に展開する 試みであった。海外移住の枠組みとなる国際関係の変 転を踏まえながらも、外交史よりは一般の移植民の 日々の生活世界を描き出すことに目標を置き、具体的 には、民具や住宅建築、墓標といった物質文化の精緻 な記録化、地域で埋もれてしまっている私的な史資料 の発掘、住民のライフヒストリーの聞書などをおこ なった。また、移植民と日本との紐帯についても、移 植民の出身地の地域的個別性に注意を払い、長野県人 が切り開いた移住地や沖縄・奄美出身者の集住地区の 調査に臨み、移植民の出身地の民俗や社会慣行との関 連にも配慮した。このように研究費の助成期間中は、

共同研究メンバーはときにチームを組んでときに単独

(3)

写真4 レジストロからのゲストスピーカー

(福澤氏と清水氏/ 2018 年 12 月)

写真5 米田氏製作の日系住宅建築模型

(2018 年 12 月)

62

でブラジルに向かい分担課題の調査を進めた。

 ブラジルという所員にとっては馴染みがない土地で 調査研究をおこなうのには多くの困難があり、とくに 学術的な活動の基礎となる専門的知識を固めることは 火急の課題であった。そこで適時、ブラジル日系人社 会を専門とする研究者を横浜に招いて、専門的知識の 提供を受け研究動向を学習する機会をもった。招聘に 応じて研究会にて研究発表をしたのは、中牧弘允(宗 教人類学)、森幸一(文化人類学)、黒瀬郁二(経済史)、 石川新太郎(建築学)、肱岡明美(建築学)、福澤一興

(郷土史)、吉村竜(農業史)の諸氏であった。

 科研費基盤研究の最終年度には、共同研究の成果発 表会としてシンポジウム「ブラジル日本人入植地の歴 史と民俗」を開催した(2018年12月15日、神奈川大 学)。共同研究の主要メンバーにとっては、それぞれ の現地調査の成果を口頭で発表し、一般の聴衆も交え た質疑応答を通して報告書の執筆に向けて収集データ の分析を最終確認する場となった。これに加えて、ブ ラジルでの主要な調査地となったレジストロ市からレ ジストロ日伯文化協会の福澤一興と清水ルーベンスの 両氏をゲストスピーカーに招き、それぞれの生活体験を披露する場が設けられた。シンポジウム会 場には、建築模型作家の米田誠士氏の作製したレジストロの日系移民住居模型が展示され、さらに ドローン空撮による日系移民住宅を紹介する動画作品の上映もおこなわれた。

 2019年度からは日本常民文化研究所の運営する共同研究として最終報告書の刊行と若干の補充 調査がおこなわれた。最終報告書『ブラジル日本人入植地の常民文化』は、原稿が大部になってし まったこともあり、民俗歴史編と建築編の

2

分冊とした。以下にそれぞれの目次を示し最終報告書 の概要の説明としたい。

『ブラジル日本人入植地の常民文化』

民俗歴史編

  はじめに ─ “世界常民学”の時代へ(佐野賢治、研究代表、所員)

論考編

  ブラジルの宗教状況覚書 ─ 国民国家・国民観との関連において(森幸一、サンパウロ大学)

  ブラジルにおける日系移民の墓標 ─ レジストロ市サウダーデ墓地を中心に(角南聡一郎、所員)

  宗教施設と葬墓制 ─ レジストロ本願寺のことなど(佐野賢治)

  ラポーザ会館 ─ レジストロに残る日系植民地の地縁的連帯(泉水英計、所員)

研究ノート

  ブラジル日系社会の歴史を伝える手段についての一考察 ─ イグアッペとレジストロにおける博物館の 可能性(永井美穂、渋沢史料館)

  ブラジル移民から満州移民へ ─ 信濃海外協会と日本力行会を対象として(森武麿、元所員)

  サンパウロにおける沖縄系移民を中心とした祖先祭祀(小熊誠、所員)

  奄美・宇検村ブラジル移民概史 ─ 移民名簿とオーラルヒストリーを中心に(加藤里織、神奈川大学大

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写真7 『ブラジル日本人入植地の常民 文化』民俗歴史編(2021年 3 月18 日)

写真8 『ブラジル日本人入植地の常 民文化』建築編(2021年 3 月 20 日)

写真6 公開研究会「ブラジル日 本人入植地の歴史と民俗」ポス ター(2018 年 12 月)

63 日本常民文化研究所年報 2020 共同研究 ブラジル日本人入植地の歴史民俗学的研究

学院)

文書資料編

  早崎家文書からみるレジストロ植民地第二四区の日系子弟教育

(泉水英計)

写真資料編

  ブラジル国サンパウロ州レジストロ植民地アーカイブ ─ 建物写真 から見る村と町の風景(レジストロ郷土史会)

あとがき(泉水英計)

建築編

 はじめに(内田青蔵、所員)

第 1章 レジストロにおける日系移民住宅研究の背景と目的

(須崎文代、所員)

第2章 レジストロにおける日系移民住宅遺構の調査   2-1.深澤家住宅(田中和幸、近畿大学)

  2-2.沖山剛造家住宅(須崎文代)

  2-3.沖山スズ家住宅(田中和幸)

  2-4.六川家住宅(田中和幸)

  2-5.天谷家住宅(須崎文代、田中和幸)

  2-6.天谷捨吉家住宅(渡邉裕子、文化学園大学)

第 3章 レジストロ植民地の建築遺構から見た日系移民木造住宅の窓 枠に関する一考察(田中和幸)

第4章 まとめ(田中和幸)

資料編(渡邉裕子)

  1.写真

  2.彩色ガラス板   3.図面

  4.既発表報告一覧 あとがき(内田青蔵)

 本共同研究の端緒が開かれてから報告書の刊行までに

10

年が 経過した。ゼロからの出発であったことを考慮してもあまりにも 遅々たる歩みであったことは否めない。しかし、この共同研究に よって日本常民文化研究所は、ブラジルという新たな研究対象に 足掛を得ることができた。これを踏み台にして、より本格的な次 の一歩が大きく踏み出されることを願ってやまない。

■ 2020 年度の活動

○共同研究報告書 ブラジル日本人入植地の常民文化 民俗歴史編 2021318

○共同研究報告書 ブラジル日本人入植地の常民文化 建築編 2021320

※本研究はJSPS科研費15H05172の助成を受けたものです。(201541日~2019331日)

参照

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