Barnard's View of Industrial Relations: Cooperation vs. Conflict

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

Barnard's View of Industrial Relations:

Cooperation vs. Conflict

川端, 久夫

https://doi.org/10.15017/4474807

出版情報:經濟學研究. 44 (4/6), pp.37-56, 1979-08-10. Society of Political Economy, Kyushu University

バージョン:

権利関係:

(2)

—バーナードにおける協働とコンフリクトー―-

J  1 1   端 久 夫

̀h I

r .

はじめに一一公式組織の概念をめぐる論議 II. 組織の本質としての 協働'

皿 協 働

v s .

コンフリクト

w

.人事・労務管理の理論 A.『経営者の役割』のなかで

B.『人事関係の諸原則及び基本的考察

J

V.  A. T. & T会社組合の消長

VI.おわりに

I .  

はじめに一―—公式組織の概念をめぐる 論議

C  • I

・バーナードの主著『経営者の役割』1)

は,経済学におけるケインズの『一般理論』に なぞらえて バーナード革命 と称されるほど で,経営学に志すかぎりの万人必読の書とされ て い る 。 そ れ だ け に , 学 説 全 体 の 評 価 に つ い て,また学説を構成している重要概念のいくつ かについて,さかんに論議がくりかえされてき た。最近では公式組織の概念をめぐる論議ー一—

バーナードが与えた公式組織の 定義 の解釈 問題一ーがある。

定義とは,周知の「2人以上の人々の意識的

. . .  

に調整された活動や諸力の体系」というのであ

. . . . . .  

るが,傍点個所を「自覚的に統括された」と改 めるべきだ, という提案が出てきた。原文は

1 )   B a r n a r d ,  C .  

I.: 

"The  F u n c t i o n s   o f   t h e  

E x e c u t i v e "  

1938.山本・田杉・飯野訳『新訳・

経営者の役割』ダイヤモンド社,'68.以下,本書 からの引用は本文中カッコ内に原著のページ(訳 書にも記載あり)のみ示す。

" a   system  o f   c o n s c i o u s l y   coordinated  a c t i v i t i e s  or f o r c e s  o f  two or more p e r ‑ s o n s . "  ( p .  

73)である。

c o n s c i o u s l yc o o r d i ‑ nated

の訳語としては,どちらでも差支えな

く,どちらかといえば, もとのままの方が自 然な感じである。むろん,問題は訳語の適・不 適ではなく,改訳提案にこめられた含意であっ て,提案者加藤教授の趣旨は,ほぼつぎの如く である 。

意識的に調整された というばあい,調整 の主体が問題である。これを 組織 あるいは

組織目的'と解するなら,定義されるべきも のが定義のなかに入ってきてトートロジーに陥 る。 管理者によって調整された'と解するの はあまりに常識的であってバーナードの真意か ら遠ざかるであろう。そこで 特定の協働シス テムに貢献する個々の意思決定主体 にかかわ らしめてはどうか。つまり,まさに組織を形成 せんとする2人以上の人々それぞれが意識的調 整の主体である。かく解することによって,

「バーナードの想定する組織は,単なる管理の 延長された腕としての組織ではなく,それ自体 が著しい可変性をもつ一つの自律的存在として 把握されることになるであろう。それは,一方 ではシステムとしての一つの

wholeness

をも ちながら,他方では,提供される活動の帰属主

2)  加藤勝康「書評:飯野春樹著『バーナード研究

—その組織と管理の理論』」商学論集(関西大 学)第23巻第2号, 1978,pp. 76‑‑‑90. 

(3)

経 済 学 研 究

体である個々人も,決してそこに埋没し去るこ とはない。……これはまことに常識的ならざる 組織観の表明であって,確かにバーナードの主 著の中心的仮説たりうる含意をもつものといわ

ざるを得ないのである。」3)

この主張に対して,訳者の

1

人である飯野教 授は,意識的調整の主体を組織そのもの一一組 織に貢献する個々人の人格を超えた全体一一ーと みる見解を表明した匁

この対立はバーナード理論全体の性格規定の 対立につながるもので,軽々に取扱うことは適 当でないが,さしあたりの私見は,どちらかと ぃえば加藤教授にちかい。すなわち,意識的調 整の主体は,組織そのものでなく活動を提供し ている2人以上の人々である,という立場をと る。バーナードが主著全体にわたって,組織に おける,ひいて社会全体における,個人主義と 全体主義(=集合主義)の統合を念じ,説いた ことは疑いないが,その努力は十分には成功し ておらず,ある部分では方法論的個人主義を,

他の部分では方法論的全体主義をとり,一貫性 を欠いている一ーと筆者は判断しており,問題 の公式組織定義の個所は,方法論的個人主義の 部分に属する。飯野見解をとれば,バーナード は方法論的全体主義で主著を一貫していること になるが,そのばあいには,誘因の経済ないし 組織均衡の理論がはみ出すことになり,

H

・サ イモンによるバーナード理論継承の関係も,基 本的に否認しなければならなくなるであろう。

それで差支えない,むしろサイモンはバーナー ドの提起した枠組を借りて全く異質の理論の構 築に転用したのだ, と考えることも可能であ

3)  同上, pp.89‑‑90. 

4)  飯野春樹: 「バーナードの組織概念ーー自覚的 か意識的かー一」バーナード協会第5回研究発表 会報告 ('79年6月15日於関西大学)。

第44巻 第4.5. 6号

り,現にそう主張する向きもあるようだが,そ れはやや極論とおもわれる。要するに,一旦成 立した組織は,非人格的な 全体 として諸個 人に臨み来り,かれらの人格を,組織人格と個 人人格とに分裂させるのではあるが,組織の成 立の瞬間までは,未だそのような 全体 は存 在しないのである。加藤教授のいうとおり,組 織の成立そのものを組織の存在を前提して説明 する,というトートロジーは,なるべく避けた 方がよい,とおもう。なお,加藤教授は 意識 的調整の主体 を,個々の意思決定主体 ('2人 以上の人々 の全員を意味するものと筆者は解 する)にかかわるものとし,活動提案者各自の 自覚によっておのずから活動が調整される,と いうイメージを抱き,あえて 自覚的統括 ヘ の改訳を提案した。この, 組織=自発的協働' イメージは,まさにバーナード自身のイメージ であろう,ーーと筆者も同感するが,組織の定 義として,そこまで狭く解するのはどうか?

バーナードは,意識的調整の方法について,

主著第

1 1

章にみるごとく, 物理的強制にもと づく協働をすら,視野に収めている(pp.

1 4 9 , . . ̲ ̲ ,  

50)。途中経過の如何にかかわらず, 結果とし て協働状態が成立さえすれば足りるのだ一一ーと すれば,調整の主体は, 2人以上の人々 全員 であっても,そのうちの数人あるいは

1

人だけ であっても差支えないわけである。この点で は,筆者は飯野見解に同調するものであり,た だ,飯野見解の基礎にある 組織自体 の実在 可能性承認ー一社会有機体説的理解には反対す る。ただし,この論点は,実は語義解釈をこえ た根本問題であり,ここでは,これ以上立入ら ないでおく。

(4)

II. 組織の本質としての 協働'

バーナードにとって組織とは人間の協働(し ている状態)である。あるいは,協働こそ組織 の本質ないし最小事実である。したがって,協 働する個々人の主体性がすべて保たれている自 発的協働が理想である。が,物質的誘因との交 換にもとづくものも,物理的強制によろうと も, ともかく協働関係が形成されれば,非協働

—コンフリクトよりはましである,と考えて いる。バーナードの理念と理論, 倫理と論理 は,このような形でつながっているのである。

以下,本節では,組織とは協働である,という バーナードの想念,を示唆する状況証拠(の一 端)をとりあげてみたい。

周知のように,バーナードは(公式)組織の 3要素(むしろ成立条件というべきであろうが)

として, 1)共通の目的, 2)協働する意欲, 3) 伝達, を数えている (p.82)。 この点に照せ ば,いわゆる非公式組織は無意識的な社会過程 から成り,共通の目的をもたない,という意味 で,組織たるの要件を欠いているのだから,た とえ「重要性をもつ共通ないし共同の結果がそ のような組織から生ずる」 (p.115)としても,

それはあくまで集団であって非公式 組織 と 称するのは形容矛盾であろう。しかしバーナー ドは,そのような人間の集団における「非公式 な結合関係が公式組織に必ず先行する条件であ る」 (p.116)なぜなら「共通目的の受容,伝 達,協働意欲のある心的状態の達成,これらを 可能ならしめるためには事前の接触と予備的な 相互作用が必要」 (p.116)だから, という。

他方, 「公式組織が作用しはじめると, それは 非公式組織を創造し,必要とする。」 (p.120)。 非公式組織は,公式組織の作用に不可欠な伝達

機能の大部分を担い (p.109), 凝集性を維持 し,協働する個々人の疎外されがちな人格の自 律性,自尊心, 自主選択力を維持する, という 三つの機能を果す (p.122)ともいう。このよ うに,公式組織の形成の前提条件,かつ存続の 必要条件,という重要な意義を付与するだけで な<,バーナードは,非公式組織も公式組織と おなじく縦横・無限に複合して全体社会(国民 社会・地域社会)を形成する,という (p.96)。 かくてバーナードの全体社会は,非公式組織の 複合溶液のなかに国家と教会に向って総括され る諸公式組織の複合結晶が浮遊している……イ メージで捉えられよう。

もう一つの形容矛盾は '44論文に出てくる 側生組織 lateral organizationである1)。こ の論文のなかで,バーナードは,すべての組織 は3種類に大別されるといい, 「最も基本的で 社会のどの部分にも浸透している」非公式組織 について論じたのち, 「公式組織の二つの一般 的な類型を定義し対照」させている凡側生組 織 と 対 照 さ れ る 階 層 組 織 scalar organiza‑

tionは, 主著に定義された公式組織が, 1回 以上の複合をとげて階層をなし,その結果,ぉ そらく管理識能の自立やオーソリティの客観化 が生じているケースを指しており,その属性の 大部分は既知である。対する側生組織は,

1)  文書・ロ頭・契約・条約などによって設立

・維持される協働努力のシステムであって,

2)  命令義務や服従意欲が基本的に欠如し,

3)  特定の協定当事者双方にとってそれぞれ個 人的な, したがって組織に内在的でない(共 1)  "On Planning for World Government" in 

Barnard, C.  I.  "Organization and Manage‑

ment" 1948, chap. VI.  2)  ibid.,  pp. 142,....,,60. 

(5)

経 済 学 研 究

通でない,別々の, したがって複数の……筆 者)目的を果す 。

いいかえれば,協定それ自体が目的となるの ではなく,当事者それぞれの意思によって維持 される。実例としては,

1 )  

物々交換(これは最も単純で,多くのばあ い短命である)4)

2)  相互補完的な事業を営んでいる企業の間の

(連合や合同でなく)自由な契約による業務 提携" (主著 p.110 注に例示されている建 築業の共同企業体はこれに該当しよう)

3 )   1905‑14

年における世界政治組織6) (三国 同盟,三国協商, 日英同盟等々を指すもので あろう……筆者)等である。

このように側生組織は,各協定当事者に共通 の目的,ないし組織自体の目的にみちびかれる のではなく,各当事者の個人的ないし私的な目 的を達成するためのものであり,あきらかに主 著にいう(公式)組織の要件を欠いている。に もかかわらず,バーナードはあからさまに公式 組織の二つのタイプのなかの一つ, と規定した ばかりか,世界政治や世界経済のような,広汎 の複雑な活動であって相互関係の単純な小グル ープに分解することができず,多数の同時的相 互依存関係から成るばあいには,階層組織は有 効に機能できず,自由な協定による側生組織の 複合によってのみ成功しうる,と主張し,その 実例として,長年にわたる世界小麦市場での価 格•需要の規則性を指摘している”。バーナー ドによれば,一般に側生組織は階層組織よりも

3)  ibid., pp. 150,̲,1.  4)  ibid., p. 151.  5)  ibid., p. 154.  6)  ibid., p. 151.  7)  ibid. pp. 157,...,8. 

第44巻 第4• 5 • 6号

弾力性にとみ,進歩的であり,おなじ成果を上 げるのに要する人材・費用の点で安上りであっ て推奨さるべきものなのである8)0 

側生組織の複合体は一般組織

generalo r ‑ g a n i z a t i o n

とよばれる。それは自由で競争的

な環境のなかで機能しており,それ自体のうち には摩擦・闘争・阻害行為を防止する手段を欠 いているので,特定の条件の下におかれると激 甚な競争や闘争となり, 市場の失敗 等を惹 起するが,適度の道徳的・文化的なコントロー

ルが伴えば,階層組織の及びえない業績を達成 しうる,という。つまり,バーナードは,市場 システムを経済活動の領域における一般組織,

とよんでいるわけである9)

以上,要約すれば,バーナードは全体社会を 3種類の組織の絡みあった複合体として把握し たのである。それは,諸組織の行為の内容をさ しあたり焦点外においた形式的把握ではある が,組織社会学の創始というにふさわしい壮大 な構想であった。

さて,以上のように主著での定義に違反する 非公式組織・側生組織を,公式階層組織とおな じ線上に並べて, 3種の 組織 に共通の属性 を探るとすれば,いやでもそこに,バーナード の抱く組織イメージ,組織の本質(定義よりも さらに抽象的な,最小限の属性)としての 協 働 が浮んでくる。協働という事実ないし状 態複数個人の相互依存・相互作用がある共通 の結果ないし効果をもたらすような状況,ー一 これが何よりも重要な事柄であって,それが意 識的に創出されたか無意識的に生成したか,共

8)  ibid., pp. 154‑5. 

9)  ibid., pp. 158‑9.なお,一般組織というター ムは,主著では,非公式組織の全体社会レベルに おける複合体を指して用いられており (p.,115)  さしあたり,整合しない。

(6)

通目的の下にであるか両立可能な個人目的にみ ちびかれてのことか,は第二義的なのである。

かく解することによって, 『経営者の役割』の 前半ー一そこでは主として階層組織が取上げら れ,非公式組織・側生組織は付随的にのみ考察 されている一ーは,なお「組織の一般原理」で あって「一般組織の原理」ではないこと10),主 著序文にのべられているように,管理者の職能 の体系的記述の前提として問題を限定したとこ ろの,極端にいえば,バーナードのイメージに おける 組織 論としては, 中範囲 理論を 展開したものであること,が了解されるであろ

う。

I I I .

協働 vs.コンフリクト

協働への希求,これがバーナードの根本理念 であり,この理念がそのまま,組織及び管理の 理論体系の枢軸となっている。その結果,協働 の反対物たるコンフリクトーーそれは個人主義 と全体主義の統合でなく,統合の破綻を意味す る一ーは一貫して低い評価をうける。基礎範疇 からは排除され,現象に近いレベルで問題が扱 われるばあいにのみ出現するが,不承々々の認 知にとどまっている1)。 ここにバーナード組織 論の著しい特色がある。

ところで,バーナードの理念も理論も,いう までもなく,ユートピア的空想・空論の産物で 10)  Barnard, C. I.: "Some Aspects  of  Orga‑

nization Relevant to  Industrial  Research" 

1947.飯野春樹監訳,南竜久訳「産業研究のなさ るべき組織の諸側面」商学論集(関西大学)第23 巻第1号,'78,pp. 65 6. ここにいう 組織の 一般原理 と 一般組織の原理 との差異, それ ぞれの意味内容についてのバーナードの説明は必 ずしも明快・説得的でない。本文では漢然たる印 象のままに,試用してみた。

1)  誘因の経済の一環としての強制的状態の創出

(主著, pp. 149,...,50)や,客観的オーソリティ の 仮構 にまつわる懲罰(同, p.171)など。

はない。第

1

に,バーナード自身の体験に根ざ している。はじめ,むき出しの個人主義一一個 人が人類の発展におけるほとんど唯一の要因で あり,体系化された集団活動,組織,協働,全 体主義は全く二次的で付随的な重要性しかもた ない」2)という考えーーを抱いてアメリカ電信 電話会社(以下 A,T & Tまたはベル・シス テムと略称)に入社し,そこに展開される大規 模で効率的な協働の機構に圧倒されて, 「事実 と原則,組織と集合的活動がすべてであり,個 人はとるに足りぬもの」 という考え方に反転 し,迂余曲折の果てに, 「組織目標に順応する だけでなく,組織目標を促進する方向に個人と しての努力を注ぎ, … … 集 合 的 な 組 織 の な か に,業績を上げ,自己を実現する機会を大いに 拡充することができる」4)という統合の境地に たどりついた。にもかかわらず,時経つにつれ 次々とジレンマーー自己自身に対する自分の義 務と,自分が不可避的にその一部分となってい る集合体に対する自分の義務との間の対立一―‑

がおこり,絶えることがなかった,とバーナー ドは述懐している。

第2に, 1920年代に潜在・累積し, 30年代に 劇的に露呈されたところのアメリカ経済の破 綻, 大規模協働 の著しい効率低下, それと むすびついたアメリカ社会の成員統合力の低 下,支配者階層の威信と自信の喪失,被支配者 諸階層の覚醒・自立・反逆……全社会的なコン フリクト状況を眼前にしての,広汎・深刻な観 察と理論化努力の所産である。さらにいえば,

2)  Barnard,  C. I.: Collectivism  and Indivi‑ dualizm in Industrial Management,  1934,  p. 4.飯野春樹訳「企業経営における全体主義と 個人主義」商学論集(関西大学)第19巻第2号

(1974)  p. 54. 

3)  ibid.,  p.  5,訳, p.55.  4),切 ibid.,p.  5,訳, p.56. 

(7)

経 済 学 研 究

そうしたコンフリクトの緩和・再統合のため に,大企業及び政府機関の第一線に立って奮闘 した—一まさに高度の歴史的実践に裏付けられ ている。

したがって,バーナードの協働は,ジレンマ にみちた協働,コンフリクトと背中合せの,せ めぎ合いつつ,なんとかこちら側にとりこもう

とする,まさに動態的な協働なのである。かっ て三戸教授が,下記のような『経営者の役割』

末尾の一節を引用しつつ,バーナード理論をコ ンフリクト論として読みこみ, 把え直したの は, さもあるべきことであった叫「本書は,

その根底において, 人間の生に内在するこの 感情の深刻な逆説と対立

thedeep paradox  and c o n f l i c t  o f  f e e l i n g

をもっている。自由

と非自由,統制と被統制,選択と被選択,誘因 と誘因の拒否不能,ォーソリティの源泉とオー ソリティの否定不能,独立と依存,人格の育成 と非人格化,目的の形成と目的のやむをえざる 変更,意思決定のための諸制約の探求,特定の ものを求めながらしかも全体との関連を求め る。リーダーシップの発見とリーダーシップの 拒否,現世を支配することの希望と見えざるも のによって支配せられること,これが本書にお いて語られた社会における人間の物語である。」

以下,バーナードにおける,このような協働 とコンフリクトのせめぎ合いの一端を,かれの 人事・労務管理の理論について少しく観察して みることにしたい。

IV

.人事・労務管理の理論 A.  『経営者の役割』のなかで

主著『経営者の役割』は組織及び管理の一般 6)  三戸公:『官僚制』 1973.未来社, pp.291‑

2. 

第44巻 第4• 5 • 6号

理論が主題であって,とりたてて人事労務管理 領域に限った各論を述べてはいない。第

1 5

「管理識能」では,組織の3要素(目的・伝達

・協働意志)に関連させて,管理職能を説明し ている。目的・目標の定式化, 組織伝達の維 持, 必要な活動の確保一―—この最後の職能は (1)協働関係への誘引と (2)活動の抽出,と に分れ,さらに次のページの表のように細分 される。もっとも,バーナードは (1), (2) の 具体的な内容については, 「すでに誘因ならび に権威にかんする諸章において一般的に論述し た」 (p.231)ものとして詳論しておらず,表中 の記入は,上記諸章を参照しつつ推測したもの である。

「必要な活動の確保」は顧客•株主・一般公 衆を含むすべての組織貢献者に対して行われる のだが,従業員に向けられる部分は,通常,人 事・労務管理とよばれる職能とほぼ重なり合う わけである。事実,従業員を対象とする「活動 の確保」職能の構成は, 1920年代の人事管理論 の構成と大いに通じるものがある況

(1)は雇用管理のなかの採用に当り, (4) a  物質的誘因は報酬管理,(4)C 作業条件は安全 及び健康管理にほぼ当る。教育訓績や調査研究

(→検査)についてはいうまでもない。 「抑制 体系の維持」にいう抑制

deterent

とは何か,

バーナード自身の説明はないが,さしあたり,

服務規律違反に対する懲戒措置を指すものとし よう。最後に労使関係管理に対応する項目が 1) ・ Tead, 0. & Metcalf,  H.: "Personell  Ad‑

ministration,  Its  Principles  and Practice" 

1920.かれらのいう人事管理職能の体系は雇用,

安全及び健康,教育訓練,調査研究,報酬,管理 上の諸関係(全般管理層及び他部門との関係の調 整),労使関係 (joint relations.なんらかの形 の従業員代表との接触,協議の機構及び運営の問 題を扱う。)の各管理から成っていた。

‑42‑

(8)

従業員を対象とする「必要な活動の確保」職能

(分 類) 容)

1.  1協 働 関 係 の 誘 引 l採 用 管 理 2.  I協 働 行 為 の 抽 出 ! サ ー ビ ス を ひ き だ す

3.  Iモ ラ ー ル の 維 持 l態度,誘因,処遇などを良好に維持することで得られる a.物 質 的 誘 ! 賃金,俸給の支給

4.  b.個人的な非物質的誘因組織内の勢力,地位,威信など(錯覚にもとづくものでもよい)

c.良 好 な 物 的 作 業 条 件(意識されない場合が多い)

d.理 想 \  職な人ど気の満質足, 利 他 的 奉 仕 , 愛 国 心 , 憎 悪 , 報 復 動 機 美 的 ・ 宗 教 的 感 情

e.社 会 接 触 上 の 魅 力人と種の,むす階巌ひつ地き位。,学歴,生活習慣,道徳,野心などを共有する人々

f. 定形化された仕事やマナーを守ることから生じる満足。異分子の排除 g.広 い 参 加 の 機 会 !事の成行に広い意味で参加しているという感情の満足。 b,dと関連。

h.心 的 交 流 状 態 l社 会 関 係 に お け る 安 ら ぎ の 感 情 , 統 合 感 群 居 本 能 の 満 足 。 eと関連 5.  I抑 制 体 系 の 維 持 l強制状態の創出。排除・監禁。客観的権威を侮辱する者への制裁。

6.  I 人事考課,規律保持,昇進,降格 7.  l

職務評価,適正検査など

8.  l

協働の意思と能力を向上させるために行われる。

分類は, 『経営者の役割』 p.227, pp. 230‑1による。

内容は,第11章 , 第12章及び第15章 第2節の記述による。

「活動の抽出」には見当らないばかりでなく,

主著全体を通じて労使関係ないし労働組合への 言及がない。管理総論であって各論ではないの だから当然ともいえるが特徴的である。 もっ とも, 人事管理論の方も, 初期には, 労使関 係管理の主な内容は, いわゆる従業員代表制 度

(employee representation plan

,以下

E . R . P .

と略称)の意義・機構・運営方法であ って,労働組合及び団体交渉については,その 意義・必要に言及するのみであった。周知のよ

. . . . . . .  

うに, 20年代のアメリカ人事管理の実践は,大 戦直後のオープンショッフ゜運動の成功の上に,

擬似労働組合としての

ERP

を中核とした管理 秩序と福祉施設の充実による不満緩和策とを両 輪としており,第一義的には労働者・労働運動

. . . . . . .  

対策であった。が,人事管理の理論(家)の主 要な関心は,むしろ,そのような基盤の上に,

心理学の発達を背景として,それを産業に適用 すること,戦務分析や適性検査その他によっ て,労働者の能力を合理的に活用し,それを通

じて経営効率を向上させることにあり,かくし て専門識としての人事管理技術者の地位と役割 を確立することであった。 「人事管理に固有の 領域は個人としての労働者の労働能力の管理で あって,集団としての労働者の管理つまり労使 関係管理は, いわば付加された領域」であっ

t ‑

... 2) 

3 0

年代に入って

ERP

体制と福祉政策の破 2)  副田満輝: 『経営労務論研究』 1977. ミネルヴ

ァ書房, pp.2789. 

(9)

経 済 学 研 究

綻がすすむにつれ,付加された労使関係管理が 肥大し「人事管理及び労使関係」の理論体系に 移行する 。バーナードの理論形成は, この移 行過程と併行しているのであって,まさに労使 関係管理の実践的定着の時期における理論的無 視は示唆的である。われわれは,その辺りの機 微を,

1 9 3 5

年の講演ーーバーナードの人事労務 管理の理念•原則を,かなり直裁に吐露したも のと評しうる一ーによって,ある程度うかがい 知ることができる。

8 .

『人事関係の諸原則及び基本的考察』4)

この講演は

1 9 3 5

9

月, プリンストン大学 大学院第 5回労使関係夏季コンファレンスで行 われたものであるが,その基本的論旨は,講演 の終りちかくでのバーナード自身による要約に 明らかである。

「要約すると,私はこう信じている一ーすす んだ人事関係にしようと思えば,従業員1人1 人を成長させることが何よりもまず大切であ

3)  Yoder, D.: "Personell  and  Labor  Rela‑ tions"  1938.  本 書 は42年 版 以 後 Personell Management and Industrial Relationsと改 題され, 1960年前後まで,標準的な労務管理論テ キストとなった。

4)  "Some Principles  and  Basic  Considera‑

tions in  J;>ersonell  Relations"  in  "Organi‑

zation and Management" op. cit.  通説的体 系では,労使関係論は使用者一従業員関係(労働 者は個人として扱われる)と経営者一労働組合関 係(労働者は集団=労働組合に代表されているも のとして扱われる)に分たれる。使用者一従業員 関係においては,多くのばあい,使用者側の主導 性が確立している, という実状に即して,人事

「管理」とよばれることが多く,人事「関係」と いうタームはあまり用いられない。 しかし, 1)  労働組合が人事管理の日常事項にまで広くかつ細 かく干渉しているばあいにはその実状に即して,

2)使用者側が従業員との 対等 な関係を強調 する意図をもつばあいにはイデオロギー的に,

administrationよりも relationsの方が適切 なタームとなるであろう。

第44巻 第4.5.5号

り,そのつぎには協働意欲を増進させることが 大切だ,ということを認めなければならない。

これらの目的を実現するに当っての決定的な第 一歩は,使用者・管理者が完全に誠実かつ率直 である,ということだ。これらの諸原則がより 広く承認され,その実行可能性がより広く信じ られるようにするには,福祉活動についての,

また企業経営における経済的動機とそれが対従 業員関係を支配している,あるいは支配しうる 程度,についての誤った考え方を是正しなけれ ばならない。このような(よき)関係にふさわ しい制度的機構を選ぶとなると,労使交渉は弱 体かつ消極的であって,さきの第一原則を承認 することすらかなり困難である。対するに労使 協働は積極的であって,上記諸原則の採用,諸 目的の達成を促進しむしろ強制さえするのであ る。」(論文集『組織と管理』<注

4

〉p.

2 3 .

以 下,本項にかぎり,本文中カッコ内のページ表 示は主著『経営者の役割』でなく,『組織と管理』

についてである。)

以下,講演全体をふまえて敷術しよう。

B‑1.従業員第一主義

1

に,人事関係号労務管理の基本理念ない し原則の提示であり,それは 1) 従業員個人を 成長させること

(development)

(近年の用語 でいえば自己実現?……筆者) 2)従業員が集 団的に,共通の目的に向って協働するように仕 向けること,から成る。「人事に関するかぎり,

この二つが一緒になってはじめて完全で正当な 管理目的を構成する。」 (pp.

9‑10)

し た が っ て,二つは同程度に重要なのだが,順序をつけ ると 1) が優先する,という。

大ていの経営者や実務家が 2)を第一目的と みている状況をふまえて,敢て新しい理念を唱 えているわけである。しかもバーナードは,こ

‑44

(10)

れがかれ独自の見解でなく, A, T 

T の人 事政策のリーダーであった E•K ・ホールが,

数年前に定式化したものであること,かれ自身 は,当初,理想としては賛成できるが日常の管 理においてどれだけ実際的意義をもつものか半 信半疑であったが, その後の経験と観察の結 果,このような人事管理の理想主義は長い目で みれば極めて実際的であると確信するに至った

こと,を付言している (p.8)。

企業ないし管理者が,個々の従業員の能力や 性格,経歴や生活環境,将来の人生設計などに 関心をもち,配慮し,助長する,という事実,

及びそうすべきだという理論,は断片的・局部 的には従前から存在した。差異心理学の成果を 導入した戦務分析・適性検査とそれにもとづく 適正配置の技法は, 20年代の人事管理の重要な 構成要素であったし,ホーソン実験にはじまる 人間関係論の主張にも「作業条件よりは家庭条 件の方が支配的要因となっている多数の例」5)

(pp. 

6 , . . ̲ , 7 )

が反映していた。バーナードは,

個人を成長させることが人事管理の全面的・包 括的な目的であるべきこと,いいかえれば,能 率増進の手段や偽善的な御題目でなく,純粋に それ自体を目的とするものでなければならな ぃ,と力説する (p.8)。

企業の経営者が従業員第一主義の人事管理に 徹することは容易ではない。本来,ありえない

5)  これはバーナード自身の言である。ホーソン実 験がもたらした最大の新知見は,非公式組織=蹴 場集団の強力な凝集性,その規範の不可侵性にあ った,とするのが一般である。が,バーナードは 継電器組立実験における能率上昇の主要因が作業 条件よりも individualizedatmosphereに対す る従業員の精神的反応にあった,という (p.7)  さらにこの要因を家庭条件につなぎ,従業員の妻 に対する配慮の重要性を指摘する。このような行 論そのものは誤りではないが, 集団 に言及して

いないのが特徴的である。

ことだ,といってもよい。しかし本来の目的

(であった)協働促進→能率増進のために必 要な「……(従業員の) 協働する能力,業務 ないし生産の技術,管理・統制ないし監督の担 当者,(従業員の)協働する意志」 (p.

1 0 )

等々 の連鎖のなかの最も弱い環が,今や「協働する 意志」である(ということが批判的に検討すれ ば判明する)とすれば,人事管理諸目的の優先 順位も入れかわらねばならない。企業経営の過 去・現在の成果は, 「経営者の誠実と高潔に対 する信頼の欠如」 (p.11)によって著しく制約 されている。何よりもまず,従業員から信頼さ れること,そのためには徹底的に誠実・高潔な 姿勢で臨むことである。この点で信頼が得られ れば,経営者が時に免れえない業務上の判断の 誤り・能力不足は同情をもって辛抱してくれる しあきらかに金銭的に不利を蒙るような経営 方針にすら,協力してくれるものだ,とバーナ ードはいう。

このような観点からすれば, 20年代にかなり の充実をみたところの労災保償,疾病扶助,健 康保険,年金,事故防止装置やレクリエーショ

ン施設等々の従業員福祉活動(それはしばしば 人事管理の主要業務と考えられていた)は,健 全な補助手段ではあっても根本的に重要な側面 とはいえない。慈恵それ自体は,従業員個人の 成長にも協働意志の形成にも役立ちはしない,

従業員との良い関係をカネで買おうというのは 不毛な考えだ,ということになる (pp.12‑3) 

すすんでバーナードは,「人事上の諸問題を 理解し解決する上で妨げになっている,企業経 営についての誤った観念を是正する必要」 (p.

1 4 )

を説く。一ー企業の経営者や所有者は経営 活動の細部にわたって完全・純粋に,経済的動 機だけに支配されている,という考え方が一般

‑45‑

(11)

経 済 学 研 究

に常識となっており,経営者自身もそうおもい こんでいる,あるいはそのように装うことが必 要だ,と信じているが,それは非現実的な想定 である。そういうことでは,人事関係の根本を 把握することは不可能だ。経営活動においては 無数の非経済的動機一一威信,名声競べ,社会 観,社会的地位,慈善,闘争欲,策謀好き,軋 礫回避,技術屋根性,ナポレオン的夢想,社会 有用の事業を成就する喜び,従業員から好意を もたれたいという願望,売名欲,汚名を蒙る恐 れ等々一ーが経営者をつき動かしている。会社 のバランス・シートは,経営活動の真のエネル ギーとなっているこれらの諸動機の暴走を防い でいる,大まかな外枠にすぎない (pp.14‑5) 

企業における経済的動機の真の内容は,積極 的に利潤を追求することではなく,損失を回避 することである。この点では,企業は病院・政 府機関などの非営利団体と異ならない。同様に して従業員の側も,金銭的動機だけで働いてい るのではない。従業員の満足,その結果として の平和な労使関係は,賃金で買えるものではな い (p.

1 6 ) 。

こうしてバーナードは,人事管理の領域に限 っての従業員第一主義から説きはじめて,論理 必然的に,企業の全般的指導原理の変革,利潤 動機の第一義性の否定にまで達した。伝統的に ビジネスの論理が優越している国,そしてその 論理の冷厳な側面が,失業者1,900万 , 労 働 者 総数のほとんど半分に当るほどの猛威を揮って いる状況のなかで,このような新理念を御題目 でなく本気で提唱するということは, それ自 体,異常現象である。よほどの明晰な認識に媒 介されるか,よほどの深刻な心情に動かされて のことでなければならない。その辺りの内面的 な論理構造はどのようなものであろうか。

第44巻 第 4• 5 • 6号

バーナードは,上記のような理念の変革がと っくに生じている一ーというよりはむしろ,企 業経営の現実はもともと利潤第一主義ではなか ったのであって,経営者はただその現実を再確 認ないし自覚しさえすればよいのであり, 自覚 せず,誤った常識=仮構にしがみついているか らこそ,人事関係の惨胆たる失敗,従業員の信 頼の喪失,ひいて協働意志の欠如という状態が はびこっているのだ, という。ここに,上記の 機微をたぐる糸口がありそうである。旧ないし 仮構理念の廃棄, 新 な い し 現 実 的 理 念 の 自 覚 は,実は,以下に展開されるところの,労使交 渉(号労働組合)と労使協働(号ERPないし 会社組合)との対決,そのなかで後者(を選ぶ こと)の現実性・正当性を根拠づけるに必須の 論理,なりふりかまっていられない,いかに自 己否定的にみえようとも政策論として最小限の 説得性を具えるために必須の論理,を構築する 努力なのである。

B‑2.労使交渉

v s

労 使 協 働6)

個々の従業員の成長を第一目標とし,経営者 と従業員の間に真の協働意志を形成すること,

この人事関係の理想を実現するにふさわしい制 度的機構 formalmachineryはどのようなも のか?

当時のアメリカ企業とその人事担当者の眼前 には, ニ ュ ー デ ィ ー ル 政 策 の 重 要 支 柱 を な す 労働組合解放立法—--NIRA 第 7 条 a 項 (1933

6

月), そ の 継 承 発 展 と し て の ワ グ ナ ー 法 (1935年6月 ) _ と , そ れ に 勇 気 づ け ら れ て 再生した労働組合運動が立ちはだかっていた。

6)  collective  bargaining,  collective  cooper‑

ationは通常,団体交渉,労使協調と訳されるこ とが多い。ここでは,協働 vsコンフリクトの文 脈において両者を対照させるために,あえて,労 使交渉,労使協働と訳した。

(12)

従業員福祉活動とならんで20年 代 の 人 事 管 理

(が主導する労使関係)の中軸として多くの大 企業において育成されてきた

ERP

は,

NIRA

7aによって従業員の自主的な団結・団体交渉 権がみとめられ使用者の干渉が禁じられた事態 に対応して,形式的に使用者から独立し,使用 者との間に団体協約を結ぶ「労働組合」=いわ ゆる会社組合に再編され, AFL•CIO その 他外部からのオルグ活動によって 独立組合 の樹立をめざす運動と対決せねばならなくなっ た。さらに,バーナードの講演の 3ヶ月前に成 立したワグナー法, なかんづく 「不当労働行 為」規定とその有効な取締りを保障する全国労 働関係委員会

NLRB

の設置とは,大企業とそ の経営者にとって,

ERP

の会社組合化によっ て従前の労使関係の実質を維持しようという,

かれらの労働政策の前途を,ひときわ険悪なら しめるものであった。

そのような時点に立ってバーナードはいう。

―一労使交渉は何を意味し,経営者・従業員双 方に何をもたらすか? (p. 19) 

a .

従業員にとって

(l)  交渉力の増進と固守。これは組織ができ る,費用がかかる,個人及び少数意見の人 人に対する強制,を意味する。

(2)  交渉上の地歩の維持。これは労働協約と いう限界をこえて使用者との協働関係が拡 大することを抑えつけ, (労使間の)縄張 りの問題を過度に強調し,関連して多大の 時間を空費させる。

(3)  交渉戦術にこること。これは専門家依存 となって高価につく。作為的なものの強 調,枝葉末節の誇張,不信感や論争的な態 度を煽り立てることになる。

b.

経営者にとっても,ほぼ同様に,

(1)  交渉上の地歩の維持。成功すれば従業員 の利益になるプロジェクトに対しても,失 敗すれば取返しがつかぬというので保守的 な態度をとることになる。

(2)  戦術上の立場の維持。一歩を譲れば百歩 につながるというので一歩も譲らない。当 然提供してよいものでも,要求されるまで

は留保しておく。

(3)  労働というものは市場でなるべく安く買 うべき商品だ, という考え方を増長させ る。

(4)  非協働的な精神的態度。従業員の福祉や 個々人に対する関心の極小化。

(5)  採用,一時解雇,個々の従業員業績に対 する冷たい態度。

(6)  秘密主義。不信感。従業員が経営に対し て多少とも利害関心をもっていることを認 めたがらない。

こうなっては暗胆たるものである。対するに 労使協働は何をもたらすか? (p. 20) 

a ' .

従業員にとって

(1)  摩擦も費用も伴なうことなく,個人・集 団・少数派が強制状態から解放される。

(2)  交渉上の立場にこだわる必要がなく,従 業員の現実の基本的な利害や,仕事の上で の親密で自由な関係を維持すべく,協働に 注意を向けるようになる。縄張り問題や,

それに関連した時間のロスがなくなる。会 社の現状や,すべての人々の利益になるよ うな相互調整の問題に注意する機会が得ら れる。

(3)  仕事信頼,安定性に対する関心が高ま る。

b ' .

経営者にとっては

(1)  労働条件を改善していく実際的な方策を

(13)

経 済 学 研 究

推進する責任を, すすんで担うようにな る。

(2)  経 営 活 動 に 参 加 し て い る す べ て の 人 々

(労働者だけは除外する,というのではな く)の利益になるように,会社の成長に全 力をあげる。

(3)  新規の事業やプロジェクトについて,労 働者にも対等以上の立場で協力してもらお

ぅ,という意欲がわく。

(4)  協働的な精神的態度が増長する。労働者 の地位を,単なる市場ないし契約商品以上 のものとして可能なかぎり高めること,従 業員が企業の業績や景気の状態に対して利 害関係をもち,解雇されるのを避けたいと いう願望や意志をもつのは当然だと認め,

従業員の個人・集団に対して注意を向ける 余裕ができる。

c o l l e c t i v e   bargaining

c o l l e c t i v e c o ‑ o p e r a t i o n

についての, こ の よ う な バ ー ナ ー

ドの対比は,やや単純・極端といった印象を与 えるが, 問 題 が 理 念 の レ ベ ル で 語 ら れ る ば あ ぃ, 当 然 の 成 行 で あ ろ う 。 バ ー ナ ー ド は い う ー 「 私 は , 現 実 に は 大 差 な い こ と を 作 為 的 に 区 別 し て い る の で は な い 。 両 者 の 差 異 は 大 き

<,かつ重要なのだ。」 (p.21) 

バーナードは,交渉=独立組合,協働=会社 組 合 と い う 対 応 関 係 を 主 張 し て い る の で あ る が,完全直結は避けている。独立組合にも会社 組合にも,多種多様な類型や条件があり,した がって,協働精神を具えた独立組合や交渉精神 に貫ぬかれた会社組合も存在しうるし,現に存 在している,ことを認める。しかし, 「一般的 には,独立組合が協働的な考え方を維持するこ とは,可能ではあるが困難を伴なうであろうこ とはたしかである。他方,会社組合が交渉的な

第44巻 第4• 5 • 6号

態度を維持しつづけることは容易ではないだろ ぅ,と認めてよい」のである (p.21)。

バーナードはさらに慎重に譲歩していう一一 労働移動が激しいなどの理由で,会社組合によ る 協 働 が 事 実 上 困 難 な 産 業 も あ る 。 そ こ で は

「横断的」なタイプの組合が適合的であろう。

また,経営者一従業員間の信頼関係がすでに失 われていて,協働が全く不可能な産業や企業が 存在する,ということもわかっている。そのば あいには,交渉ないしは激しい争議を経て労働 組合ができることも, (たとえ実際的の利益は 期待できなくとも)やむを得ないものとして正 当化しうるだろう

( p p .

21‑2)。

バーナードの念頭には,おそらく,前者の例 として炭鉱や衣服, 建 築 の よ う な 競 争 的 産 業 が,後者としては自動車産業,とりわけフォー ドが浮んでいたのでもあろうか 。 ひきつづい ていう一ー「これらの事実から,労使協働が可

7)  「……1910年代から登場してきたという特殊性 から,この産業はとくに南部の黒人および農業労 働者等をひきつけ, かつ大企業は繁忙期のため に,労働者を周辺に不断に滞留させておくことが 必要であったから……労働移動がはげしく, ミシ ガン州およびその周辺の自動車工場地帯には厖大 な数の求職者があふれ,不熟練・半熟練労働者の 賃金率は継続的に切下げられ,現場監督者が雇用

・解雇の権限を独占していたことから,労働者の 労働意欲はきわめて低かった。このことに対応し て,自動車産業では他の産業とことなって,福利 厚生制度を欠き,従業員代表制も設置されること なく,いわゆる 原生的労使関係 の段階にあっ た, ということができる。」津田真激『アメリカ 労働運動史』 1972年.総合労働研究所, p.255. 

「1925年以降,自動車産業労働者の実質賃金は大 巾に下っており,頻繁に賃金切り下げがおこなわ れた。たとえば,クライスラー・ビュイック工場 では12時間労働で1日9 10ドルから, 13時間)

で6 7ドルに下っている。なかんづく著名なの はフォードの方法であって,繁忙期に1日6.8 7. 2ドルに上った労働者は閑散期に一時解雇され ると,再雇用時には1日5ドルの初任給からはじ めなくてはならなかった……」同上, p.256,注 5. 

‑48‑

(14)

能であるか,あるいは現に協働が存在している ところにも,労使交渉を強制し,あるいは強制 しようと試みることを正当化する,などという ことは断固否定さるべきである。それはすでに 文明が存在しているところに野蛮を強制するよ

うなものである。」 (p.22) 

あきらかにバーナードは, A,T 

Tの会 社 組 合 体 制 を 脅 か し 独 立 組 合 へ の 転 換 を 強 制 す

るかにみえるわグナー法に対し,断固抵抗する 決意を表明し,共に闘うことをよびかけている のである。状況は前途多難であり,他の産業で は敗れるかも知れないが, 電 信 電 話 事 業 だ け は, A,T 

T の会社組合だけは,生き残る ことができるし,生き残らせねばならない。そ れ は 経 営 者 と 従 業 員 の 相 互 信 頼 と 協 働 の 模 範 で あり,

1 5

年 以 上 も の 間 , 理 想 的 に 機 能 し つ づ けたものであった。この時点のバーナードは,

その実績に自信をもち,従業員の忠誠に深く信 伶 し , 会 社 組 合 護 持 の 信 念 に 燃 え て い た の で あ

る。

「私が諸君に話していることは,ほとんどお なじ言葉で,私の会社の従業員に話したことで ある。おもうに,かれらもまた,かれら自身の 言葉で,おなじことを話すであろう。」 (pp.22 

3) 

V .   A, T  & T

会 社 組 合 の 消 長1)

1)  本節の記述はほとんどもっぱら Schaft,J. H. 

"Toward Industrial  Unionism; Bell  Tele‑

phone Workers and Company Union  1919‑ 1937"; Labor History,  Vol.  16,  No.  1によ っている。筆者は,この領域の基本文献とおもわ れる Barbash,

J . :  

Unions and Telephones; 

The Story of  the Communication Workers  of America (1951, NY)すら未だ参照しておら ず,格別の分析・考察をなしうる段階にはない。

ただ本稿の主題であるバーナードの労務管理論の 背景の一端として,紹介するまでである。なお,

バーナードの(労務管理を含む)管理実践にかん

1 .   A, T 

T

(ベル・システムと別称され る)の従業員代表制度=会社組合は, 1919年 に 設立され,功罪いりまじる種々の歴史的役割を 演じ, 1937年 春 ワグナー法合憲判決のギリ ギリまで維持・防衛をつづけたのち,独立組合

(当初は形式だけのもので会社に従属的だった が)に再組織されて,

1 8

年の生涯を閉じた。

前節でみたバーナードの講演ののち, 3年足ら ず の こ と で あ っ た 凡

A, T  &  T

の会社組合(以下,従業員会と いう)は,バーナードが自負したとおり,会社 組合の顕著な成功例といえるが,それは広汎.

周到な A,T 

T の人事管理体系—それ自 体が,さらに壮大なP Rないし社会関係政策の 一部を形成していた ー一のおそらく中心的な しては,最近,川田秀雄氏によって豊富な資料に もとづいて精力的に検討されつつあり,バーナー ド理論の背景の最も深刻な解明が果たされるもの と期待される。

C・I•バーナードの労務管理に

ついての一考察」日本経営学会関東部会報告,

1978ほか。

2)  A, T & T は一大持株会社である。本社は全 般管理のほか,研究開発及び長距離電話を直営す る。子会社(大半は100形ないし過半数持株によ り支配)として, 1州ないし数州を単位とする電 話運営会社 26社と, 機器の製作・修理に当るウ エスタン・エリクトリック社を傘下に擁する。子 会社に対する財務・人事管理面の統制はきびし く,子会社の社長は実質的には出先機関の長とし て上層中級管理者にちかい*(バーナードはこの地 位にあった)。会社組合は, 各電話運営会社の,

設備,通信,営業,経理の4部門毎に(従業員会)

associationと称して組織された。

*詳細には飯野春樹『バーナード研究」文真堂,

1978年. pp.12,...,21を参照。

3)  今世紀初頭,モルガン系金独資本の支援の下に 巨大な公益事業独占体となったA,T & T は, 国営ないし政府統制の可能性を念頭において P R 専任副社長を据え盛大・周到な世論操作,議会工 作を継続したが,その過程で全国に散在する多数 の従業員自体が,有力な P R資源であることを認 識するようになった。従業員を日常業務において 礼儀正しく親切,事故の際はエネルギッシュに働 き,仕事に誇りをもち,会社に忠誠であるよう に,訓練・教化することが人事管理の重点課題と なった。

‑ 49 ‑

(15)

経 済 学 研 究

環をなしている。

もともと,電信電話労働者は,社会的及び職 業的に,会社に従属的になりやすい特性をもっ ていた。

i)全ての電話運営会社を合計すると

3 0

万 人にちかい従業員になるが,電話システムの特 性上, 全アメリカ的に分散配置されている。

( 1 9 2 0

年 に

5 , 7 6 7

の電話 局

c e n t r a lo f f i c e  

があり,'

3 7

年には

6 , 9 4 5

局にふえた。) A,T 

& T本社, ウエスタン・エレクトリック社の 従業員も,長距離電話中継や機械修理施設の要 員は全国に散在している。

ii)多種類で, 相互に関係のうすい機能・職 業に分散している。各運営会社はそれぞれ設備

・通信・営業・経理の 4部門をもち,人員比は おおむね設備

20%

,通信

60%

,営業・経理を 合せて

20%

,通信部門の大半は女子交換手で ある。 (全従業員のなかの女子比率は

60 70

%)。設備部門の従業員はさらに作業場所・技 能・気質の異なる 4つのグループに分れる。

( i n d o o r  craftman, c a b l e  s p l i c e r s ,  j a n i t o r s ,   repairmen) 。

一般の製造会社と比較すれば営業・経理部門 の比重が大きいこともあって,ホワイトカラー の比率が高い

(20%

)。現業交換手も仕事内容 はブルーカラーだが,作業環境はホワイトに近 い。電話局の多くは市街の中心にあり,清潔な 職場で白衣をまとう。この点,紡績業等とは異 る。真のブルーカラーは設備部門及びウエスタ ン・エレクトリックの労働者のみ,全体の

1 / 4

ほどである。

全国的・多職種網羅的,という特性は,最初 の組織化を困難にするとはいえ,それ自体とし ては産業別全国規模組合に適合的であるが,当 時の集積密度(の不十分)をもって,巨大独占

第 44巻 第 4• 5 • 6号

企 業A,T

Tと対比すれば,力関係の懸隔は 著しいものがあった。現業に関しては完全に近 い買手独占であって他産業・企業への移動が困 難であり, 1社のストライキは他社の応援によ って無効となり,顧客が去っていくおそれは殆 んどない(この点はダイヤル化の進行によって 一段と著しくなった)。そして

A,T & T

の 周到な人事管理政策は,上記諸条件を徹底的に 活用するものであった。

2 .   A, T & T

は, 交換手についてアメリ 力生れの高校卒という,当時としては限定され た採用方針をとり,従業員の社会的均質度は例 外的に高かった。

この基盤の上に, ベル精神 が大量に注がれ る。採用は未経験者に限られ,技能訓練と併行 して,講義・討論・社内報などにより,電話事 業のもつ格別の相互依存性(他の部門の業務は どのようなものか,全体のなかでの自分の職務 の位置,を知的かつ心情的に理解すること)と 公共性(ベル・システムは全体として公共サー ヴィスを第一義とする偉大な制度であり,社長 以下全員,共同の責任・義務への傾倒を共有し ているのだ。)を教えこむのである。

A, T 

T は従業員福祉サーヴィスにおい て先進的だった。早くも

1 9 1 3

年,傷病給付,

有給休暇,会社払込の年金制度を創始し,長期 勤続・退職者の団体をつくり,福祉施設の終身 利用や親睦会を組織した。

' 1 5

年 に は 従 業 員 持 株制度をはじめた。事業所付属の保養所・食堂 その他は充実したものだった。

A, T 

T は, 従業員の長期勤続を奨励し た。上級職務の空席は殆んど必ず内部昇進で充 たされた。賃金は長期昇給計画にしたがって徐 徐に上る。

NewJersey B e l l

の交換手のばあ い,最高級に達するのは,技能のヒ°ークに達し

(16)

たはるか後, 採用後14年のことであった。各 種の付加給付は勤続年数によって差がついた。

…•••こうしてベルに勤め,会社に協力的であれ ば安全で長つづきする,という確固たる評判 ができた。

3.  A, T 

T の輝かしい人事管理メダル の裏面は,賃金及び配当政策の検討によってう かがえる。 1903‑26年の間, A,T & T従業 員の平均年収入は, 郵便労務者の約50%, 公 益事業(電カ・ガス等)平均の75%, 製造業 平均の 65 90%であった。 もっとも電話関係 の職務は特殊であって厳密に比較はできない。

A, T 

T 当局は, 比較可能な職務について は他産業と同等ないし以上である, と宣伝し た。その効果は著しく,電話産業の労働条件は 第 2次大戦後になるまで,権威ある挑戦を受け ることがなかった。一般に昇給計画は公表され ず,賃金の実状にかんする情報は従業員に知ら されなかった。

A, T 

T

は, 事業の公共性という理念と 関連して,利益の多少にかかわらず, 9 % (1  株当り 9ドル)の安定配当政策を堅持した。 20 年代の業績は好調で1株当り利益は平均 15ド ルに上ったので,約5.4億ドルの留保利益がで きた。この蓄積は不調期の雇用・賃金の維持に 充てられるものと期待された。大恐慌以後の不 況期にも A,T & Tは赤字を出すことはなか ったが, '33年の1株当り利益は5ドルに低下 した。配当は1株当り 9ドルを不況期中ずっと 維持しつづけ,配当総額は好況期よりも増大し た。というのは,'29,'35の2度にわたり,計 2.  8億ドル余の増資を行なったからである。そ れはダイヤル化投資に充てられた。

他方,不況による加入者・料金収入の減退に 対応して,賃率切下げはなかったが,電話連営

会社それぞれの実状に応じた措置(降格,昇給 停止,一時解雇等)がとられ,不況の甚しい時 期には広汎なパートタイミング(交代で休み,

週4日ないし週4日半勤務の体制)が実施さ れ,一時解雇換算6万人分の賃金節約効果を上 げた。

不況と合理化(ダイヤル化)投資が相乗し て, A,T &  

T

は過剰雇用となった。自発的 な自然退職に一時解雇と採用抑制が加わって

(一時解雇は世帯持ち従業員に及び,一旦解雇 されると,復職までに長期 少なくとも 1 年ーーを要したという。), 総従業員数は29年 45.5万 人 → 33年27.0万人へ, 40%以上減少

した。

しかし, 従業員の不満は内攻し, 30年代前 半には,労働組合への組織化の徴候は外からも 内からも,ほとんどなかった。従業員の大半は 長期勤続者となっており,他産業の状態に比べ ればずっとましであり,組合活動による解雇の 危険を冒すのははばかられた。この点を見通し て, AFL 系 •CIO 系ともに,電話産業の組 織化キャンペーンに気乗りせず,あとまわしに された。ここにおいて, A,T 

T 従業員会 の存在が大きく浮び上ってくる。それは一面で は不満のある程度の吐け口として,他面,外か らの組織化に対する防壁として,機能した。

4.  ベル従業員会は, 1919年7月,ベル史上 ではかなりの規模のストライキが契機となって 郵政長官バー)レスン将軍の承認を経て,各電話 運営会社の手で,部門毎に次々とつくられた。

それは

NJ

スタンダード石油や

U S

スチールな どの労務政策担当者と提携しつつ推進され,こ の計画を担当する専任副社長が雇い入れられ た。すでに若干の労働組合員が組織されている か,そのおそれの強かった設備・通信部門が先

(17)

経 済 学 研 究

行し,経理 •PR 部門やウエスタンエレクトリ ック社にも設立されたのは,

2 0

年代半ばのこ とであった。あきらかに,

1919‑20

年代初頭の 反組合攻勢,アメリカニゼーションの一環であ

った。

「われわれは,労働組合というものを,少く とも, そのやっていることが, そしておそら

<,  その考え方も甚だよろしくない

u t t e r l y wrong"

とおもっている。……そこで,われわ れの立てたプランは,従業員の友愛的な組織づ くりを奨励し,すべての従業員に会社の目的,

政策, 業績その他諸般の問題を系統的に知っ てもらうことだった。……結果は予想以上だっ た。」4)

従業員会は各運営会社の前記4部門毎に設立 されたが,大規模な運営会社ではさらに地域毎 に分割・再分割されて支部

c h a p t e r ,

分会

l o ‑ c a l

と称し,代表はヒ゜ラミッドの最末端から選 出されて次々と上層にせり上った。

従業員会の日常運営は,会社組合としての典 型的な特徴を具えていた。

1)  全員ないし大衆的規模の集会は,最下層の 支部でのみ,かつ不定期に開かれた。会場や 控室は会社が提供した。

2)  会費はしばしば無料。月額 25セントをこ えるものはなかった。

3)  入会は入社と連動ではないが,管理者が勧 告した。

4 )  

代表は会社側との協議会

conference

の 席上, 従業員の苦情を取次ぐことができた が,このことはあまり推奨されなかった。協 議会に持出すまえに,それぞれの関係の管理 4)  A, T & T社長Thayerの一株主への書簡。

1922年6月2日付 (Schaft, 

J .  

H.:  op.  cit.,  p. 19) 

第44巻 第4• 5 • 6号

者と話し合う方が好ましい, というのであ る。

5)  協議会に持出された苦情のほとんどは,重 要な労働条件というには遠い些事であった。

識場に据付けられた時計がおくれがちだ。仮 眠用のシーツが不足。カフェテリアの食事が 冷えている。トイレットペーバーが粗悪だ。

等々。

6)  従業員代表は協議会の記録をとることを禁 じられ,代りに会社作成のサマリーが回覧さ れた。

7)  役員の選出に,管理者が干渉するばあいが あった。一般従業員にとって代表として協議 会に出席することは,上司の好意を得るため

だ,と考えられた。

8)  代表が よからぬ考え を抱いたときは,

ー一さる副社長の言によれば一~ゃんわりと 諭してもらうことができた。代表の側からみ れば,この説諭は,時に叱責にちかいほど高 圧的であったり,時には 言わせたあとで,

カード・サイコロ・コーヒー付のちょっとし た一席に連れこまれる こともあった。

ベル従業員会は,ベル人事管理の政策体系に しっかりと編みこまれ,労働組合化の脅威が去 ったのちもひきつづき存続・活動した。協議会 に持出される些細な問題も,管理者には有益な 警報となったし,何よりも会社の方針・計画を 周知徹底させ,従業員を教化する不可欠の媒体 となった。従業員にとっても,会社の政策につ いで情報を得ること,労働条件の些細なものに ついてでも,定期的に協議できることは有益で あった。就中,従業員会を舞台に得られた諸経 験は,大恐慌ののち,政治・経済・労働情勢が 根本的に変化したとき,企業別かつ産業別組合

(全職種包括全国組合)へと転生するさいの好

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参照

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