技術研究報告( 東京大学地渓研究所) No. 1, 23‑29頁, 1996年.
Technical Research Report (Earthquake Research Institute, University of Tokyo), No. 1, p. 23‑29, 1996.
八ヶ岳地球電磁気観測所の観測システムの変遷と現状
小 山 茂*
A Review of the Observation System at Yatsugatake Geo‑Electromagnetic Observatory
Shigeru K O Y A M A *
Abstract
Yatsugatake Geomagnetic Observatory w a s established in 1970, as a standard geomagnetic station for the earthquake prediction research in the central part of Japan. T h e observatory's hisotry can be divided into three stages, i.e., 1970‑1980, 1981‑1987, a n d 1988 to present. In the first stage, geomagnetic total intensity a n d three component variations were recorded in a digital form b y a printer, as well as monitor recordings o n strip charts. In 1981, a cassette tape recording system w a s introduced, which w a s improved to a telemetry system in 1984. T h e present system, since 1988, consists of a proton precession magnetometer, a n Overhauser magnetometer, t w o three‑component fluxgate variometers, with a telemetry system a n d a backup power supply. T h e observatory also has five satellite magnetic stations in the Tokai district to study the regional characteristics of the geomagnetic secular varia‑
tions. Although it started as a geomagnetic observatory, its n a m e w a s changed to Yatsugatake Geo‑Electromagnetic Observatory in 1994 because of increased importance of electromagnetic observa‑
tions.
Key words: yα,tsugatα,ke Geomagnetic Observatory, Yatsugatake Geo‑Electromagnetic Observatory, elec‑
tromagnetic observation.
は じ め に
八ヶ岳地磁気観測所は,地震予知研究計画の一環として 1970年に長野県小海町に設置された. 以来全磁力,地磁気 3成分,地電流などの連続測定を行い,東海,甲信越地方の 基準観測所としての役割を果たしてきた. また観測データ は,地下構造調査のための移動観測データに対する基準と しても使用されることもあるなど,地震予知研究以外の分 野でも有効に利用されてきている.
当観測所の全儲)Jデータは,地震予知計画による全儲力 永年変化精密観測の中部日本を代表するデータとして,地 震予知連絡会に報告されている.
汚観測所の役割として,基準観測所としての観測のほか に,地殻活動に関連した電儲気現象の研究を行うことがあ げられる. そのために観測所開設当初から東海地方におい
1996年4月18日受十J . 1996年8月4日受理.
り九ヶ岳地球電磁気観測所, ( 東京大? 地震研究所) .
本Yatsugatake Geo‑Electromagnetic Observatory, (Earth‑
quake Research Institute, University of Tokyo)
23
て繰り返し磁気測量を実施して,同地域における地儲気永 年変化の異常の検出を目ざした. 1981年以降は東海地方の 5ヶ所において,地織気全磁力,地儲気3成分,地電位差変 化などの連続観測を実施して精度の向上に努めてきた. こ のうち地磁気全磁力のデータは,地震予知連絡会に定期的 に報告されている.
近年の地震予知研究を含む地球内部電磁気研究の分野で は,地儲気観測に限らず地電位差や電気抵抗などの諸観 測・研究の重要性も増してきたことから, 1994年に名祢を 八ヶ岳地球電磁気観測所と改称した.
八ヶ岳における観測システムは,観測開始以来2度にわ たって更新されて現紅に至っている. 本稿では,それぞれ の時代におけるシステムについて概説する.
観測開始時のシステム (1970‑1980)
観測施設は入工擾乱を避けるため, 観測所庁舎より約5 k m離れた山中( 1380 27' E, 360 04' N,標高1,170m) にあ
り,絶対観測宗,地下壕式変化計室,記録計室からなって いる. これらの施設は後に説明するように基本的に非磁性
図 1 地磁気絶対観測室の外観.
図 2. 地磁気変化計室の内部. 金属光沢をもった 3 台の装置は吊磁石式変化計のセンサーで,それぞれが水、ド成分・鉛 l立成 分・偏角の各成分を測定する. 中央奥の白い円筒型の装置は3成分フラックスゲート型磁) ] 計センサー.
八ヶ岳地球電磁気観測所の観測システムの変遷と現状 25
の材料で作られており,補強材としては鉄筋の代わりに F R P ( ガラス繊維強化プラスチック) などが丹H 、られてい る. 1970年には施設の建設の後,プロトン磁力計 (3組, 精度各0.1nT), GSI型一等儲気儀( 精度0. 1 ' ) ,地磁気3成 分変化計 (2式,感度0.1nT),地電流( 電極間隔: 東西68
m,南北7 5 m )などが設置され観測を開始した( 行武ほか,
1975).
地磁気の強さ( 全磁力) は,観測所敷地内の3 ヶ所にプ ロトン磁力計の検出器を設置してl分科に0.1n Tの精度 で迷続測定した. このような測定システムはアレイステー ション式プロトン儲}J計と呼ばれ,当時としては画期的な システムであった. プロトン磁) ] 計は,水中の陽子の核儲 気共鳴現象を利用して地織気の強さの絶対値を精度よく測 定する機器である. アレイ・ステイション式にしたのは,
磁気雑1Tの影響を少なくするためである. 当時は, 3ヶ所 それぞれのデジタル値と3ヶ所の平均値をプリンターでl 分毎にプリントアウトして記録を保与した. またモニタ‑
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として打点式記録計で記録を行った. このような方式に よるプロトン磁力計のデータの記録は, 1980年まで続けら れた.地磁気絶対観測室は無織性となるように設計され, F R P 材料を月H 、たかまぼこ型の建物である. この中のカコウ岩 のピラーの上にGSI塑 4等磁気儀が設置され,それを用い て偏角と伏角を士0.11' の精度で測定した. 磁気儀によっ て決定される偏角と伏角,および先に述べたプロトン磁力 計による全磁力値を用いて地磁気3成分( 偏角,水平分力,
鉛直分力) の絶対値を決定した.
地磁気変化計宅は,機器の温度変化,雌性の影響を少な くするために地ド4.3mの所にF R P製のかまぼこ型の建 物を埋設したものである. 変化計センサーは,吊儲石式の ものとフラックスゲート式の2種類のものが用いられた.
吊磁石式地織気変化計は,地磁気3成分を非常に細い水品 糸で吊した小さな俸磁石で,地磁気の時間変化に比例した 動きを光学的に連続測定するものである. これと並行し て,フラックスゲート型磁力計でも地磁気3成分変化を連 続測定した. フラックス型磁力計のセンサーは,高透磁本 のパーマロイに2組のコイルが巻かれてあり,一次コイル に交流電圧を加えると,二次コイルに地磁気変化に比例し た電圧が得られる. : l l i 時の技術では,フラックスゲート型 変化計はドリフトが大きく,吊磁石式変化計の補助という 位置 付けであった. 地磁気3成分の連続記録は,打点式記 録計で、チャートにそれぞれアナログ記録されていた. 向宇者 は直接アナログ記録で地磁気変化を見ることができるの で,直視式変化計と呼ばれた.
地電流( 地電位差) 観測は,敷地の中に東西6 8 m,南北
7 5 mのスパンをとり,電極は4 ヶ所の地下1 mの深さに
直径5 m .長さ 3 0 mのカーボン電極を埋設して行った
地電枕差2成分の連続記録も,打点式記録計ムによるアナロ グ記録のみが行われた.
このような観測所における観測を維持するとともに,ス タッフは地震や地殻活勤に伴う地織気変化を検出するた め,東海地方の地織気全般力繰り返し測量を行った. 磁気 測量は,磁気的なノイズの影響のない場所に非磁性の杭を 埋めて測量点とし,携帯用のプロトン磁)J計のセンサーを 正確に同じ場所に設寵して繰り返し行った. 測定時間は1
ズの影響を避けるために夜間に実施することが多かった.
この測量は1971 年の第l固から年1 ri)lの頻度で, 1979 年第13回測量まで繰り返し行われた ( H O N K U R A et al., 1980) .
八 ヶ 岳 観 測 所 の デ ー タ 集 録 方 式 の 改 良 と 東 海 地 方 の
1981年,観測所にデジタルデータ集録装置が設置され,
地磁気変化計 (2磁力計) 6チャネル,地磁気全磁) ) 4 チャ ネルのデータが日・時・分の時間データと共に毎分1回の ディジタル測定値( 1 分1n' O としてカセットテープに記録 されるようになった. またこの年,フラックス・ゲート型 直視磁)J計が,特t生の優れた新型フラックス・ゲート型磁 力計( 島津製) に更新された. 直視式地磁気変化計の光学
部分も L E D型投光器・受光器に変わり,地磁気の変化分
の打ち消し回路も更新された.
一方,東海地方における全磁力くり返し測定の信頼性を さらに高めるため, 1981年より富士宮市篠坂 ( S H N ),静
! 岡市俵降 ( T A W ) にプロトン磁力言" を, 浜岡町下朝比奈
( H A M ) に高精度4成分磁力計( プロトン磁力計,フラッ
クス・ゲート型磁力計) を設置し,さらに 1983年からは春 野町長蔵守 ( H R N ) や宮士宮市粟倉 ( F J M ) にもプロトン
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3 4 図3. 東海地)jの観測点と八ヶ岳観測所の位置図.
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図 4.
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うになり,データ処理の効率化を図った. また東海地方の データ処理のためパソコンが導入され,データをカセット テープからフロッピーディスクにまとめ,データ処理や結 果の表示などもできるようにな った.
(1988 現在)
1988年に,観測開始以来使用していたアレイ式プロトン 磁力計を新型プロトン磁力計 (YMP‑8110,国際電子製)
現在の観測システム 能力計を設置し,合計5ヵ所で連続測定を開始した. デー
タは,八ヶ岳観測所と同じく毎分l 回のデジタル測定値を カセットテープに記録し,そのデータから八ヶ岳 ( Y A T ) と各地点の 全磁力差の 変化を調べることを行った. 観測所 にはコンビ ュータがなかったため,データ処理はすべて本 所の 計算機を用いて行った.
さらに 1984年からは八ヶ岳観測所と庁舎をN T Tの専 用回線で結び,オンラインでデータを庁舎で集録できるよ
八ヶ岳地球電磁気観測所の観測システムの変遷と現状
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図 5. 春野
(HRN). 相良 (SAG) の全磁力変化 (5日平均値)
とオーバーハウザー磁力計(G S M ‑ l l A . 国際電子製) に更 新し,全磁力を2ヶ所で測定するようになった. それに伴 なってデータ集録処理装置 (YPM‑8210. 8220国際電 子 製) も更新された.
それまでの観測システムの大きな欠点に, 雷対策が十分 ではなかったことがあげられる. このため,特に夏期にお いてはしばしば落雷による欠測が発生した. 新しく導入さ れたシステムでは夏期の 雷対策のため,観測所にタイマー
付の無停電電源装置を導入し, 一定時間バッテリー 電源 に 切り換え るこ とにより, シス テムを交流ラインから 完全に 切り離すことができるよ うに した. これにより,落雷を原 因とするトラブルの数は激減した. またデータを庁舎に テ レメータで送ると同時に観測所の収録装置のE P‑R O Mで も記録し,データ伝送 のトラブルを 回避する ようにした.
オーノくー ノ、ウ ザー磁力計は, プロトン磁力言│ と同じく地磁 気全磁力の絶対偵を測定する機器である. プロトン磁力計
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1966 1967 1966 1969 1990
図 6.
( S A G) の全磁力変化 (5日平均値).
において,検出器のコイルに励磁電流を流しその電流を 切った時にのみ間欠的に測定が可能であるのに対して,
オーノくーハウザー磁力計においては, コイルに常時高周波 の電流が流されており常時測定が可能である. 以前は,地 磁気全磁力の測定はl分に 1[ I D サンプリングを行うだけで あったが,機器更新後,プロトン磁力計については正分を 挟んで7回,オーバーハウザー磁力計については正分を挟 んで31回のサンプリングが行われるようになった. そし て , そ の 平 均 を と っ てl 分値とするようになったので,
データの精度が向上した. また,絶対観測用のG S I型一等 磁気儀は, ドイツ製の絶対観測用儀気セオドライト( 角度 精度0. 1 つに更新された.
1990年には,東海地方観測点4ヶ所のデータをN T T公 衆回線を使った方式でテレメータを行なうようにした. こ のことによって,八ヶ岳観測所に対する東海地方各観測点 のデータ異常のチェックが速やかに行えるようになり,異
常現象の縫認がしやすくなった.
東 海 地 方 に お け る 観 測 の ま と め
東海地方における全磁力連続観測の結果は定期的に地震 予知連絡会に報告している( 例えば,東京大学地震研究 所・八ヶ岳地磁気観測所, 1993). 東海地方の観測点を図3 に示す. 八ヶ岳観測所を基準とした,篠坂 ( S H N ) ,俵峰 ( T A W ),春野 ( H R N ),相良 ( S A G ) の東海地方各観測点 における全磁力変化 (5 日平均値) の 1986‑1990 (図4), 1991‑1995 (図5) 10年間分のグラフと,春野 ( H R N ) を基 準とした他の3点の全磁力変化(5 日平均値) の 1986‑1990 ( 図的, 1991‑1995 (図7) 10年間分のグラフを示す.
近年,東海地方各観測点の人工擾乱によるデータ異常か 特に多くなった. 観測点によっては別の場所に移設するこ とも考えなければならないほどひどくなっている. これら の図はそのような人工的な変化をできるだけ取り除いて表
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八ヶ岳地球電磁気観測所の観測システムの変遷と現状 29
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図 7. 1995 :lf.の5年間における春野 (H R N)を基準とした,篠坂 (S H N ),俵峰 (T A W ),相良
(S A G ) の全磁力変化 (5日平均値) .
示したものである. このように人工的な変化以外にも全磁 力の地点差 の変化は,場所によって様子が異なっているこ
とがわかる. また同じ場所でも, 1986‑ 1990年の5年間と 1991 ‑1995年の5年 間 で 比 べ る と 変 化 の 様 子 が 変 わ っ て い ることもわかる. このような変化の原因は必ずしも十分に 用解されていない
お わ り に
1970年 以 来 の 八 ヶ 岳 地 球電磁 気 観 測 所 の 観 測 シ ス テ ム の変遷を概説してみた. この間システムにはさまざまな変 更が加えられたが,測定間隔だけは開始当初から l 分 で 続 けられてきた. しかしながら,近年のセンサーの性能の向 上や地電位差観測との併用などにより, どうしてもより 高 速のサンプリングでデータを取得する必要がでてきた. そ
のため,平成7年 度 の 地震 予知計画により,新型の3成 分 磁力言十( 毎秒、値,感度0.01 n T ) を導入した. これにより,
多様になった地球電磁気諸観測の基準観測所としての機能 を強化することができたと考えている.
文 献
Honkura, Y., K o y a m a, S. and Yoshino, T ., 1980, Surveys of the geomagnetic total intensity in the Tokai district (1 ) : Secu lar chang巴s during the period from 1971 to 1978. Bull.
Earthq. Res. Inst. 55, 449‑481.
行武 毅・小llJ 茂・吉野登志男, 1975,八ヶ岳地磁気観測所構
! 付およびその周辺地域における全磁力観測. 地震研究所嚢報, 50, 73‑81.
東京大学地震研究所・八 ヶ岳地磁気観測所, 1993,東海地方の全
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