矩形コイルを用いた直流磁場の測定
富山哲之*・谷本光穂*
(昭和59年10月31日受理)
Measurement of D.C.Magnetic Field arromd Rectangular Coils
Noriyuki TOMIYAMA and Mituho TANIMOTO
(Received Oct.31,1984)
1.はじめに
電気磁気の分野では,場の概念がでてくるが,それらの実体は目に見えないので学習指 導上でも無味乾燥になりがちであり,生徒自身には,特に理解しにくい。磁気に関しては,
鉄粉や方位磁針計で,直線状の直流電流の回りの磁場の観察がなされているが,磁力線の 様子は鉄粉を散布したときに,それが円になっているかどうかは不明瞭であるし,方位磁 針計による測定では,円の接線方向をたどってみると同心円を示さないなど,予想される 結果が得られない。
直流による静磁場は地磁気の影響を容易に受けるので,この影響を除くには交流磁場を 用いる方法がある。田中,水野の報告1)によれば,磁場検出コイルを用いて,細長い矩形コ イルが作る400Hzの交流磁場の磁力線の分布を求め,パーソナルコンピューターによる シュミレーションを行って,その精度の検討がなされている。この方法では,磁場検出コ イルは回転させる必要がないので,地磁気の影響を完全に取り除くことができる。しかし,
学習指導上,交流の概念は中学,高校(特に理科1)で充分深められておらず,これを教 材として用いるよりは,むしろ,鉄粉や方位磁針計で直流磁場の測定を行った方が望まし
い。
そこで,我々が開発し製作した磁場検出装置2)を用いて,本学部で課せられる学生実験
(物理)に使用しているものと同形の大形矩形コイルの回りの磁力線を測定し,地磁気の 効果を調べた。また,パーソナルコンピューターによるシュミレーション実験を行って,
前述の実測値とを比較検討した。
2.実験方法
[1] 磁場検出装置による磁力線の測定
回転している磁場検出コイルが磁力線を横切れば,コイルを通過する磁束φが変化し,
*長崎大学教育学部物理学教室
コイルに誘導起電力E=一4φ/漉が生じる。しかし,コイルの回転軸を磁力線の接線方向 に置くとφ二〇となり,E=0となるので,この位置をたどれば1本の連続した磁力線が得 られる。しかし,コイルの大きさに比べて,磁力線の向きの変化が急な場合は,図1のよ うに回転軸を置くとE=0になる所がある。このとき,コ
イルの断面を通過する磁束φ・とそれと逆向きの磁束φ一 の総数は0となる。即ち,
回転燭趣場検出用コイル
E=一4φ++4φ一_o (1) 一
漉
となる。従りて,近似的な磁力線醐れる(その精へ磁場冒i
度はコイルの大きさによって決まる)。
鉛直方向に無限長の直流導線を置くと,その水平面内 にのみ磁場ベクトルおよび磁力線はあるので,コイルの 回転軸をその面に平行に置いて移動すればよ
い。しかし,地磁気の効果を考慮すると,地 磁気はその場所における伏角方向を向くので 三次元的であり,これと電流が作る合成磁場 の磁力線は,起電力が最小になる位置をたど れば求められる。
測定に用いた直流磁場発生用のコイルとし ては,高さ2m×幅1mの1対の矩形コイル を用いた。それらのコイルは幅L5cmの角材 で作った木枠に沿って,直径約2.Ommのエ ナメル被履銅線を1回巻いたものである(図
図1 回転コイル法による磁場測 定の原理
ヂ2Z
L
LA L D
y gP
B E 0 BF X L
C電源 Fし
LF﹃
十一
2)。前報2)で述べたように,矩形コイルを設 置した本学部物理実験室は地磁気の乱れが大 きいので,比較的乱れの少ない場所を選んだ。
また,後の解析を容易にするために,磁気的 南北方向に平行に設置した(図3),矩形コィ ルの垂直二等分面上に木製の机を置き,その 上に模造紙を敷いて測定を行った。
測定に用いた装置は,前報の磁場検出装置 を,磁力線の急激な変化でも測定できるよう に小形化し,ヘッド部を図4のように改良し た。コイルはプラスチックの芯(長さ20mm,
1mm角)の周囲に直径0.10mmのエナメル 線を約300回巻いた。測定に用いたコイルの地 図3 磁気による誘導起電力は,毎分3000回転のも
とで,最大約2mVであった。特に,コイル を小さくすると測定精度は上がるが起電力が 小さく,逆に,コイルを大きくすると重量が
図2 矩形コイルの配置図 交点の座標:B(一∬2,0),
E(一∬1,0),BF(苅,0),
E〆(∬2,0)
諦 ㌧
ノオノノ ノゆ ノノ
ー一一ノー〃 〆フ
メィィ ノ ノワゆ イ ノノゲ
コニニ町コ彰多
1ノノ!/!/!9,ノ ノノノ////ノ7ノ!
づ〆
メ
弘本学部物理実験室の地磁気の分布図2)
A:矩形コイルの設置場所(矢印は地磁 気の方向と大きさを示す)
増し,滑らかな回転が得にくいなどの欠点が あるので,試作の結果前述の寸法にした。コ イル支持棒下部に,35mm間隔で1対の探針 を取り付けて,コイルに発生する最小な起電 力の値が常に一定になるような方向をたどり,
1本の磁力線を求めた。
測定装置を図5に示す。磁場検出コイルの 誘導起電力は,増幅器(約30dB)を通してディ
シャフトブラシ
3㎜
1 ヤ
φ2.5皿n
磁場検出用 コイル
㎞
10m皿
35㎜
1.5㎜
φ0.1【nm,300T
O
図4 磁場検出装置のヘッド部の概略図
講唇鵜藁製鍛籔蹴議鐵髄
コイルの回転状態を常時監視した。
[2] パーソナルコンピューターによる シュミレーション実験
図2のように,矩形コイルの垂直二等分面 の原点0を対称に矩形コイルを設置した。そ の面を塑平面とし,矩形コイルとその面と の交点の座標をB(一エ2,0),E(一苅,0),B〆
騨
.献
、,嚢鑛z
魏難
図5
雛欝
、鰹,鷺・
、箋醸.、、盤黙露…
、}翻縣轍灘 嚢 測定装置の概観
オシロスコープ(後方右側),増幅器(後 方中央),ディジタル電圧計(後方左側),
磁場検出装置(前方)から成る。
(∬1,0),E1(■2,0)とする。平面上の任意の点P(∬, )で電流が作る合成磁場Hは,次のよう に表わされる。
矩形コイルの縦方向の導線(ABC,DEF,A〆B〆C〆,D〆E〆E〆)が作る磁場(H⊥)の■, 成 分は,
ゑ島一猶〔(、+処、γ+ず〕前
2=1
2 ∬.2
重盗一鷺K.一瑳+ず〕_
Σ出・二2π揖〔(∬枕、岬〕痂需 1
エ十∬
ガ=1
2 琵2 工一工ガ
︵2︶
となる。ただし,Lは矩形コイルの短辺の長さ,1は電流である。
また,横方向の導線(AD,CF,A〆D〆,D■F〆)が作る磁場は,測定面が垂直二等分面であ るから, 成分しか持たず,その値をH〃とする。
矩形コイルの導線,DEFとD ET を流れる電流の向きが互いに同方向(平行電流)の
場合は,
揖磁二2π渇〔(エー∬、陶2〕一
H註二αΣ(∫ノ1ぼ一∫ノ虚)
ガ=1
Hず二一αΣ(H謁一H迄)
ガ=1
瑠一一≠粛{〔(琳許伽・惚一〔(∬一工勘2〕瑚
反平行電流の場合は,
︵3︶
π 二αΣ](π},∬十H慮)
ガ=1
H =一αΣ(H ,y−H迄)
ガ=1 2
珊一 ・≒温{〔(∬+げ+〃2〕砥+〔(∬一瑳+〃2鳳
︵4︶
ただし,電流が導線中をF→E→D(F→E〆→D〆)に向かうときに,α=+1とし,それ と反対のときに,α=一1とする。
従って,Hのエ,〃成分は,平行,反平行電流何れの場合も,合成磁場Hは,
H二〉齋 (5)
ただし,∬必=H註,篤=H +罵/である。
更に,地磁気(H.)は三次元的磁場を成しているが,実際には,方位磁針計はその水平成 分が観察されるので,コンピューターシュミレーションを行うときには,その水平成分だ
けを考慮すればよい。電流による磁場と地磁気による合成磁場H*は,
H*=暦 (6)
ただし,E慈二H註+正遅,HJ=H +鵡/+∬5である。
コンピューターシュミレーションでは,次のような操作を繰り返し行った。即ち,耀平 面の点P(∬, )を通る磁力線を想定し,単位磁荷を磁場H(∬, )に沿って移動させるもの とする。時間窃に∠s(、4∬,∠〃)だけ進んだ点P〆(ガ,〃 )を考えると,∠sや∠ごが充分小さ ければ、4sは,
1
∠s二一H(エ, )∠オ2 (7)
2
と近似される。そうすると各々の成分∠∬,∠〃は,
で表わされる。従って,P〆(/,4)の座標はそれぞれ,
/=∬+島(エ,〃)」s
H(∬,〃)
4一〃+寮矧∠s
/⑨
となる。
任意の点Pを出発点として,この操作を繰り返して行くと,1本の磁力線が得られる。
更に,HをE*に置き換えることにより,地磁気の効果を見ることができる。
以上のような計算式を設定し,パーソナルコンピューター(NEC製PC8801)で数値計 算を行った。
3.測定ならびに計算結果と考察
図2のように,1対の矩形コイルの中央部即ち床面から1mの高さに,磁場検出コイル を水平に保持し,最小の起電力を示す方向を探針でたどれば,1本の連続した磁力線が得 られる。磁力線の分布の測定は,主に矩形コイルのE,E1付近で行った。
測定結果とシュミレーション結果を図6(平行電流の場合),図7(反平行電流の場合)
に示す。直流電流が作る磁力線の分布の測定結果を図6(a),図7(a)に示す。地磁気 の効果を入れた場合は,図6(b),図7(b)のシュミレーション結果が得られて,何れ の場合も測定結果を再現している。
磁力線が円形を成す所は各導線の近傍に限られる,導線の中心から約5cmの所では既に 図6(d),図7(d)の分布から外れてきていることが判る。例えば,電流が30Aで導線 の中心から5cm離れた所では,電流による磁場は約1.2G,地磁気の水平成分は約0.3Gであ るから,その辺では地磁気の効果が大きく寄与することが判る。
実測して得られた個々の磁力線に着目し,これをシュミレーション結果と対比させると,
完全に一致してはいない(図8)。その原因として,磁場検出コイルの寸法が大きいため に,求めるべき磁力線の方向が次第にずれてきたからと考えられるので,更に小形化を目 指さなければならないが,本装置でもって磁力線の概略を知る上では,まず充分にその機 能を果たすことが判った。
地磁気の影響を取り除くためには,前述のように交流磁場を用い,磁場検出コイルの回 転を止めてその誘導起電力を測定すればよい。我々は60Hzの商用交流が作る磁場の磁力線 の分布を求めた。コイルの,いわゆる,回転軸を磁力線の方向に一致させると,最小起電 力OVを示す。その結果を図6(c),図7(c)に示す。(5)式を用いた各々のシュミレー
ション結果[図6(d),図7(d)]に良く似ている。このように,地磁気の影響を完全 に取り除きたいときには,田中,水野の方法1》が優れているのが判る。
しかし,田中,水野の方法は交流の場合にしか使用できないのに対し,我々が製作し開 発した磁場検出コイルを回転させることによって,電流と地磁気の合成磁場を測定できる し,その回転を止めれば地磁気の効果を完全に取り除いた測定ができる。従って,我々が 行った方法は地磁気の効果を見るという点で有用である。
尚,学生実験の指導に際しては,電流の作る磁力線の様子をできるだけ視覚化させるこ とが,電流と磁場の概念の育成に有用であろう。そのためには,これまでに述べたように 磁場検出装置による実測範囲の拡大,パーソナルコンピューターによるシュミレーション実 験は有用であると考える。
4.おわりに
今後の課題として,実測中の蓄積的な誤差を少なくするために,磁場検出コイルのヘッ ド部の小形化が必要である。今回は,大きさの決まった1対の矩形コイルについて測定を 行い,コンピューターシュミレーションとの比較を行い測定方法の信頼が得られたので,
学生あるいは生徒実験によく使用される他の形状のコイルについての測定を進めたい。
また,直線電流が作る磁力線の学生実験を行う際に,鉄粉や方位磁針計で磁力線の様子 を観察させるのと併せて,地磁気の効果や矩形コイルの他の辺が及ぽす磁場の効果を考慮 した測定結果やシュミレーション結果を取り入れた学習効果については今後の課題とした
い。
本稿は,日本物理学会物理教育分科(1984年4月,九州大学;同年10月,富山大学)で,
口頭発表した内容に加筆・修正を加えてまとめたものである。
/
\10cm I=32.0(A)
一
\
十・
(a)直流磁場による磁力線の測定結果
O O
(b)(a)のシュミレーション結果 ,・。 、 、.
の ヤ ゲ ヤ
,! ㌔
... ・・一 …● ● 噸・・・….9. \
10cm I;32.O(A)
(c)交流磁場による磁力線の測定結果 (d)(c)のシュミレーション結果 図6 平行電流による磁力線の分布
・◎〉
ノ(、、
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響.系(a)
10cm I=32.0(A)
直流磁場による磁力線の測定結果一
●
(b)(a)のシュミレーション結果
10cm Iニ32.0(A)
交流磁場による磁力線の測定結果 (d)(c)のシュミレーション結果 図7 反平行電流による磁力線の分布
一
十・
(c)
−1、32。(A)一伊z
図8 直流磁場の磁力線の実測値と計算値と の比較
参考文献
1)田中憲治,水野善右衛門:日本物理教育学会28(1980)4,同28(1980)136。
2)富山哲之,山本和佳,近藤貴子,谷本光穂:長崎大学教育学部教科教育学研究報告,第7号(1984)
47。