日 本 言 語 政 策 学 会
第 4 号
October 2004 Japall Association for Language Policy NewSletter No.4
言語政策の一つの基盤 をめぐつて
言語政策の一つの基盤 をめ く`
る問題 について、
個人の言語活動 を出発点 として考察 を進めてみた い。
個人が言語主体 として言語活動 を展 開 してい く ことが可能 なのは、主 として、そのイ国人が 自身の 中に形成 している言語 にかかわる潜在的 ・可能的 態勢、す なわち言語態勢 と名づけ られるべ きもの にもとづいている。その言語態勢 は、相互 に深 く関 連する三つの部面か ら構成 されているとみ られる。
第一 の部面 は言語知識 、第二の部 面 は言語技 能、第三の部面は言語感覚である。 まず言語知識 は、音声 ・文字 ・文法 ・語彙 ・談話文章 。文体 な ど、一つの言語体系 の各形式領域 における諸単位 とそれ らの選択 ・結合の諸規約 に関する慣習的知 識 として規定することがで きる。
また言語技能は、言語主体が獲得 している言語 知識 を、言語生活 の実 際的場面へ と顕現 させ る
「話す」 「聞 く」 「書 く」 「読 む」 「内言」 な どの言 語活動の諸技能 として規定することがで きる。 さ らに言語感覚 は、言語主体の言語知識 ・言語技能 を、言語生活の実際的場面へ と誘導 して言語活動 として展開 させる基礎的作用 として規定すること がで きる。
さて、そのような言語感覚は、言語主体の中で、
言語 を明確 に意識の対象 として位置づ けている状 態、すなわち言語意識 によつて支 え られつつ豊か さと鋭 さを加 えてい く。そ して、その言語意識そ の もの も、言語認識の深みへ と進展 してい くこと になる。
湊 吉 正 ( 桜 花 学 園 大 学 ) 個人は、その属す る生活世界の さまざまなこと が らを、主 として、その言語知識 の意味領域 を通 して把握 してい く。その ような言語 によることが らの把握作用の側面 を、言語認識 Aと して規定す る一方で、言語知識 の意味領域 を通 して言語体系 その ものを把握 してい く把握作用の側面 を、言語 認識 Bと して規定することがで きよう。言語認識 Aは 、世界観 。人生観 な どへの深化 の可能性 をも つのに対 し、言語認識 Bは 、言語観への深化の可 能性 をもつ ことになる。
以上、言語活動 に発 し言語意識 を経 て言語観ヘ と至 る個人的深 まりの方向 をみて きたが、ここで、
それを基盤 としつつそれに対応すべ き社会的広が りの方向 を簡単 にみてみたい。
個人の言語意識 の集合 的形態 においては、 さま ざまな言語 的テーマ をめ ぐって立場 や見方 の相 違 ・対立が生 じて くる。そ してそ こに、言語 につ いての社会的論議が呼び起 こされて くる。それは、
社会問題の一環 をなす もの としての言語問題 とな る。我が国の言語問題 は、母語 としての 日本語論 議、「国語国字問題」 を主 として きているが、国 際的観点 に立 っての 日本語 の問題、小学校への英 語の導入の問題 も、論議 の重要 なテーマ とな りつ つある。
その時機 の言語問題 の動向を、政治機関が特定 の方法 (我が国の国語審議 会の審議 な ど)を 通 し て とらえ、それに即 して政治政策 を進めてい くと き、その ような言語 に関す る政治政策 を、言語政 策 として規定することがで きる。
オリンピックと言語戦争
西 山教行 (新潟大学) 2004年夏のアテネオリンピックで、 日本人選手 は予想以上の健 闘を遂げ、明るいニュース に乏 し い中で、久 しぶ りに国民 を鼓舞する朗報 となった。
しか し、 この平和の祭典の影で 「言語戦争」が繰 り広 げ られていたことを日本のメデ イアは どの程 度報道 しただろ うか。ルモ ン ド紙 を手がか りに、
振 り返 ってみたい。
アテネ大会の競技場では、開催 国の公用語であ るギ リシア語 と並 んで、英語、 フランス語 による アナウンスが行 われていた。 これはオ リンピック 憲章第二十七条が フランス語 と英語 を公用語 と定 めているためである。近代 オ リンピックの創設者 ピエ ール ・ド ・クーベル タン (1863‑1937)がフ ランス人であったこと、1894年に第一回国際オリ ンピック委員会がパ リのソルボンヌ大学講堂 を会 場 として開催 されたことを思い起 こせば、 この選 択 には とりわけ果論の余地 はない。
フランス語は五大陸で何 らかの資格で使用 され ている言語であることか ら、それ を使用する国家 や地域 (フランス語圏)な どが結集 し、 フランコ フオニー国際機構 という政治運動 を組織 している。
この機構 は今回のアテネオ リンピックに特使 を派 遣 し、アテネ大会 におけるフランス語の使用状況 に関する調査 を行 った。公用語 としての フランス 語が英語 と比べて、 どの程度実際 に使用 されてい るか を調べたのである。
その結果 はフランス話者 にとって必ず しも満足 のい くものではなかった。ギ リシア全般 における フランス語の地位 についてはかな り高い評価 を得 たが、 オリンピック運営 に関わるフランス語使用 については零点 とい う厳 しい評価が下 された。
ギ リシアでの フランス語使用 に関する評価が比 較的高かったのには、い くつかの理由がある。1821 年か ら29年 のギ リシア独立戦争 にあた り、 フラン スは国家的軍事援助 を行 って きたこと、その後、
十九世紀 を通 じてフランスは宣教師などを派遣 し、
教育支援 を行 つて きたことな どが、 フランスに対 する親和力 を強めて きたのであ り、その結果 とし て、現在で もある程度のギ リシア人が フランス語
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を操 るのである。今 回、 フランス語 に堪能なアテ ネ市長 は フランス語 のボランテ ィアを積極的 に登 用 し、 イベ ン トなどでの言語サポー トに努めた。
一方、大会運営 については、フランス語が公用 語であ り、国際 オ リンピック委員会加盟国の中で も、五十六 カ国はフランコフォニー国際機構 の加 盟国で、 フランス語 を何 らかのかたちで使用 して いる国であるにもかかわ らず、アテネ大会はフラ ンス語 に相応の地位 を与 えなかったようだ。案内 などの掲示 にフランス語は見 あた らず、なかで も 特使が不満 を隠 さなかったのは国際オリンピック 委員会の運営手法である。百二十五名の委員の う ちフランス語話者が二十名、 フランス語 を理解す る ものが五十名、その中には次期大会で重要 な役 割 を果たす中国オリンピック委員会の事務局長や、
ロシアやチェコの代表委員 といったフランス語 を 得意 とする委員がいたにもかかわ らず、議場 で交 わされたのはグローバ ル化 の支配言語であった。
この ような一言語支配の傾向は開会前の警備 に 関する準備会合で飽和点 に達 した。英語のみで行 われた会議運営 に抗議 をして、西 アフリカの小国 ベナンの代表は退席 したが、それにしたがったの はフランス語圏 アフリカ諸国であ り、かつての宗 主国 フランスか らはなん らサポー トが なか った。
もはや、 フランス語 の地位 を守 る ものは、旧植民 地国だけなのだろうか。 フランス語が植民地主義 の媒体 として果 た した役割 を考 えるならば、何 と
も皮 肉な事態である。
特使 はつ ぎの ような見解 で報告 を結 んでい る。
「オ リンピック運動 に関 して、 フランスや フラン ス語圏諸国に働 きかけてフランス語の地位 を擁護 す ることは、決 して時代遅れの戦いではない。 グ ローバ リゼーシ ョンやそれに伴 う英語支配につい て熟慮す る必要がある。 フランス語話者は英語 を マス ターするとともに、新たにオリンピックの運 営言語 にあげ られているスペイン語 も学ぶ必要が ある。 (…)こ れは現代 の戦いであ り、後 ろ向 き の ものではないのだが、 フランス には言語 を擁護 する意思が欠けているのだ。」
北京大会で この言語戦争は どの ような展開 を見 せるだろ うか。 フランス語 は多少な りとも地位 の 回復 を図ることがで きるのだろ うか。四年後が楽
しみである。
日本語の正書法への ささやかな願 い
青 山文啓 (桜美林大学) 言語政策学会の事務局が桜美林大学 に置かれて か ら、 これ まで発表会場 の支援 をする一方で、会 場 の片隅に座 っていろいろ と耳学問をさせていた だいた。例 えば、 ロシアのモ ンゴル系共和国では 1920年代 か ら現在 まで に、11回 もの正書法 に関 す る改訂が行 なわれた、 とい う井上 ひさ しの小説 に出て くる ような、遠い国の不思議 な言語政策に は 目を丸 くした (第三 回大会)。確立 しようとす る正書法 に、あま りに短い間隔で改訂 を加えれば、
その基盤 もそのための努力 も台 な しになって しま うはずだ。 しか し、その発表 を聴 きなが ら、私 た ちの 日本語 に 「正書法」 と呼びうる実体がはた し て存在するのか と自問 してみる と、暗塘 とした気 持 ちにならざるをえなかった。
現在、 日本語の入力は、キーボー ドか らローマ 字 を通 してひらがな文字列 に変換 し、その文字列 を どの程度 まで どの漢字 (あるいは、 ひ らが な、
カタカナ、 ローマ字)に 変換するか を入力者が候 補 か ら選択 して、最終的に漢字仮名交 じり文 に到 達す る方式 を採 つている。確かに、 日本語の処理 過程 は入力後 を機械 まかせ にで きる欧米の ものに は ど遠 いが、 これは 日本で使われる漢字のせいだ とばか りはいえない。中国語で使用 される漢字は その数の多 さやそこか ら派生する問題 はあっても、
正書法の役害」を立派 に果た しているように見える。
日本語 の抱 える問題 は、一般 に使 われる漠字仮名 交 じり文の レベルに限って も、必然的 にひとつの 単語の表記 に複数の可能性 を許 して しまうところ にある。「馬が合 う」 は慣用句 だが 「馬が馬主 に 会 う」 ことも 「馬が事故 に遣 う」 ことも充分 に考 えられる (表記 「十分」 は単語 「じゅらぶん」 に も 「じゅうぶん」 に も対応するので、 ここでの表 記 には 「充分」 を使 った)。また、「お こなう」 も
「い く」 も五段活用 なので末尾一字 を送 り仮名 に してそれぞれ 「行 う」「行 く」 と表記 されるが、 こ の方式では音便形が ともに 「行 って」 とな り、 ど ち らの単語 に対応するか この文字列では決め手に 欠 ける。少 な くとも、文節の範囲内で問題 の表記
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力滅寸応す る単語 の数 を最低限 に押 さえる努力は必 要だろう。
これ まで以上 に、 日本語の平均的な文書か ら漢 字 は姿 を消 してゆ くだろうが、一定量 を維持 しな ければ分 かち書 きに向か うほかはない。 日本語が 分かち書 きな しで読 めるのは、異 なる種類 の文字 を使い分 けることで単語の先頭が見つけやすいか らだ といわれている。漢字が減 りつづ ければ、 こ う した異種類 の文字 による単語 の頭 出 し機能 を、
結果 として弱めることに もなる。例 えば、漢字の 含有量が低 い幼児 向けの物語では、読点 を多めに 打つか改行 を頻繁 に行 なって単語の識別 を助 けて いる。他方で、同 じ働 きはカタカナによって も代 行 されてきた。欧米の人名 の方は早 くか ら 「該撤」
ヤよ 「シーザー」 に、続いて地名の 「伯林」 は 「ベ ル リン」 と表記 された。現在 カタカナ表記は外来 語だけでな く凝音語や擬態語、動植物や食材 にま で及び、果 ては韓国の男優 が 「べ ・ヨンジュ ン」
と表記 されて もその漠字表記 を気 にもかけない。
このように、表記 システムに含 まれる文字、句読 点、スペース、補助記号 な どは、単語 に代表 され る様々な単位 を浮かび上が らせるために使 われる ので、その うちひとつだけを取 り出 して論 じるこ とはで きない。
この夏 は 「アテネを ミテネ」 といわれるまま、
夜 ごとオ リンピックを観戦 した。見ていて気づか されたのは、水泳や陸上の ように結果がはっきり 出る競技 と、柔道や新体操 の ように第三者の判定 に左右 される競技 との大 きな違いである。 どうも 日本の漢字仮名交 じり文 は後者 に近い気が してな らない。 とい うよ り、永遠 に夕陽に向かって走 り つづけな くてはならない、 ゴールのないマラソン の ようにも思 える。「技 ア リ」 「ユーコー」の乗道 はオリンピック種 目になったが、依然 として秘教 的な状態 にある表記上の覆い一 同 じことは鼎立 し たまま標準化 されない ローマ字入力方式 に もいえ る一 を日本語か ら取 りは らって、国内の小学生に も外国の学習者 に もハー ドルの低い表記 システム を計画的 に造成する必要がある。 このことは日本 語の国連公用語化問題 に とって も、有効かつ技あ りの条件 をひとつ整 えることになるにちがいない。
大会テーマ :グ ローバ リゼーションと言語政策 (その 4) 日 時 :2004年 11月 20日 (土)12:00‑17i20
11月 21日 (日)10:00‑18:00
会 場 :囲掌院大學 渋 谷キャンパス 120周年記念 2号 館 (15118440 渋谷区東 4‑1028)
(渋谷駅東日下車徒歩 15分/駅 か ら日赤医療セ ンター行バスで園學院大掌前下車)
参加費 :会員無料、非会員 3000円、非会員の学生 1500円 懇親会 :参加費 4500円
◆第 1 日目 : 1 1 月2 0 日( 土) 12:00 受 付
13:0013i30開 会式 【2303教室】
総合司会 佐 々木倫子 (桜美林大学) 開会の辞 水 谷 修 会長
会場校挨拶 安 蘇谷正彦 (園掌院大學学長) 13:30‑14i30講演
「ヒューマ ンセキュリティの基盤 としての言語政策J 講演者 平 高史也 (慶應義塾大学)
14i3015:10事 例報告
「言語サービスの現代的意義 一石川県の事例か ら一」
報告者 河 原俊昭 (金沢星稜大学)
「日本語指導 を必要 とするブラジル人児童生徒への対 応 一在住外国人少数地域 ・石川県小松市の事夕J―」
報告者 後 藤田遊子 (北陸学院短期大学) 休憩 (10分)
15:2い17:20パ ネルディスカ ッシ ョン
「自治体の言語サービスの現況 と課題J 司会報告 三 好重仁 (東京電機大学)
報告者 岡 戸浩子 (中京女子大学短期大学部) バ ックハウス P,(デ ュースブルク ・ エ ッセン大学大学院生)
榎木薗鉄也 (秋田県立大学) 統括報告者 田 中慎也 (桜美林大学) 17:30‑19:00懇親会 [院友会館 3階 ]
司 会 諸 星美智直 (園 學院大卑)
◆第 2 日目 : 1 1 月2 1 日( 日) 10:00‑11:30パネル発表 【2303教室】
「英語母語話者と非母語話者の二極性の再考察」
司 会 杉 野後子 (防衛大学校) 問題提起 モ リイ HP.L.
(テンプル大学 日本校大学院) 同山陽子 (茨城大学)
関川洋子 (立教大学) 阿部恵美佳 (大東文化大学) 11:30‑12:30昼休み
11:3012i30ポ ス ターセ ッシ ョン :発表者説明
「EU拡 大 と言語政策―イングランドの 『現代外 国語 教育 。国家戦略』一J
平尾節子 (愛知大学)
「ドイツの多文化共生事業 と新移民法」
松 岡洋子 (岩手大学) 足立祐子 (新潟大学) 12:31113:00総会 【2303教室】
13:0014:30研 究発表
【2402教室】司会 仲 矢信介 (長崎外国語大学)
「ソフ トウェア ・プログラムの多言語化に関する言 語計画的考察J
上村圭介 (国際大学)
「言語マイノリテイのエ ンパ ワメン トを実現 させる 言語計画条件 についての社会言語学的研究―在 日串 国 ・朝鮮人一世女性の言語意識 と民族言語継承行動 をめ ぐる質的研究か ら一」
猿橋順子
「今 日の中国社会の言語問題 ―民族語の危機 と漠語 の普及―」
カ シ ュンザ ン (中京大学大学院)
【2403教室】司会 木 村哲也 (杏林大学)
「戦後初期の台湾における言語政策‑1950年 代 を中 心 に一」 菅 野敦志 (早稲田大学大学院)
「教育と言語改革―ウズベキスタンの場合―」
池田寿美子 (中京大学大学院/」 ICA ウズベキス タン事務所)
「藤岡勝二の言語思想 とローマ字化運動」
柿木重宜 (滋賀女子短期大学) 休憩 (10分 )
14:4015i30【 2303教室】
発題講演 「国語教育の思想 ・理論 を聞い直すJ 講演者 田 中克彦 (中京大学) 司 会 野 村敏夫 (桜美林大学) 15:40〜17:40シ ンポジウム
「国語教育の思想 ・理論 を問い直す」
趣旨説明 野 村敏夫 (桜美林大学)
パネリス ト 田 近洵一 (東京学芸大学名誉教授) 細川英雄 (早稲 田大学)
矢澤真人 (筑波大学) 田中克彦 (中京大学) 司 会 水 谷 修 (名古屋外国語大学) 17,50‑18:00閉会式
司 会 山 川和彦 (麗澤大学) 閉会の辞 橋 好 碩 (囲學院大學)
2004年 10月 20日 発行 発行者 日 本言語政策学会
事務局 〒 194‑0294東京都 町田市常盤町 3758 桜美林大学 田 中慎也 研 究室 Te1 042‑797‑2661
URL:http:ん/コヽ″w2.obirin.ac.jp/`jalp/
E―maili [email protected]