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薄型吸音パネルによる会議室の聴き取りにくさ改善 [ PDF

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Academic year: 2021

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薄型吸音パネルによる会議室の聴き取りにくさ改善

大庭 ゆかり 1. はじめに 会議室には適切な音声の明瞭性が求められる1)。し かし一般的に壁や床の仕上げ材には石膏ボード等の反 射性の高い材が用いられる事が多く,響きが超過し音 声の聴き取りにくい環境となっていることが少なくな い。対策には吸音処理が良いとされるが, 吸音の分量 と対策の程度は必ずしも明確とは言えない。 そこで本研究では, 当研究室で開発した薄型吸音パ ネルにより,会議室の音環境の改善がどの程度図られ るかを調べると共に,パネルの必要枚数を検討した。 今回の対象は九州大学箱崎キャンパス内GP棟会議 室である。聴き取りにくさ改善の検証にはパネル設置 前後の実測と実音場を模した擬似音場での被験者実験 を行った。またパネルの設置量の検討には幾何音響シ ミュレーションによる解析を行った。 2. 実測調査 2.1 測定対象 九州大学箱崎キャンパス内GP棟会議室の展開図,平 面図及び測定点を図-1,図-2に示す。会議室は奥行き 約8.1 m,幅約6.1 m,高さ約2.4 mの比較的小さな室 である。室の諸元を表-1に示す。床面積,室容積,表 面積は,実測を基に筆者が算出した値である。 また室 は壁がモルタル仕上げ,床はビニルシート,天井は穴 あき板で構成されている。 2.2 測定概要 測定には統合測定システムIMS Ver.2.0を用いてイ East South West North 2,390 1,070 900 420 2,390 980 1,290 120 図-1 展開図 8,180 6,130 P1 P2 S P3 P4 P5 P6 P7 P8 図-2 平面図 ンパルス応答を計測し,残響時間,D50,RAS T Iを算 出した。音源の位置は会議を想定し, 室前方の入口向 かって左手(図中のS点)とし,無指向性12面体スピー カよりスイープパルスを発生させ, 受音には無指向性 マイクロフォンを用いた。同期加算回数は8回とした。 音源,測定点は共に床上1.2 mの位置とし,測定点は 図-2中に○で示す8点とした。 2.3 パネル概要 2種類の薄型吸音パネル2)を用いて測定した。パネ ルの大きさを表-2に,残響室法吸音率を図-3に示す。 パネルA,B共に低域の吸音に優れており,500 Hzで 最も吸音率が高くなり,パネルBの方が全体域で0.05 程度吸音率が大きい。 2.4 測定条件 測定は以下の3条件で行った。 0)パネル未設置の状態, 1)パネルAを計16枚(約10.9m2)設置, 2)パネルBを計20枚(約13m2)設置 2.5 測定結果及び考察 2.5.1残響時間 全測定点(8点)における測定結果の平均値を,同程 度の室容積を有する会議室の最適残響時間(図中着色範 囲)と比較して図-4に示す。現状(パネル未設置)で は125 Hzを除いて,いずれの帯域でも響き過ぎており 1,000 Hzで最大0.3 sの超過となっている。 パネルAを設置した条件では残響時間は4,000 Hzを 除いた周波数帯域で短くなったが, 新たに最適残響時 間となる周波数帯域は見られなかった。パネルBを設 置した場合は,4,000 Hzを除いた帯域で残響時間が短 くなり,250 Hz帯域では最適残響時間となった。 表-1 会議室の諸元 表-2 パネルサイズ ᗋ㠃✚ࠉ੍ ⾲㠃✚ࠉ੍ ᐊᐜ✚ࠉੑ 7\SH 㸿 㹀 㹕™㹆™㹒>PP@ ™™ ™™ 図-3 残響室法吸音率 42-1

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図-4 残響時間 図-5 D50 2.5.2 D50 インパルス応答より算出した各測定点のD50を図-5 に示す。図中の着色範囲が推奨値である。パネル未設 置の状態では音源から離れるほど値が下がり,推奨値 を満たす点は2点のみであった。 パネルAを設置した場合6点で値が向上し,その内 5点が新たに推奨値となった。またパネルBを設置し た場合5点で値が向上し,その内2点が新たに推奨値 となった。設置前は点ごとの値の開きが最大13%あっ たが,パネルBの設置により点ごとの値の差を7%に 減少できた。 2.5.3 RAST I インパルス応答より算出した各測定点の RAS T Iを 図-6に示す。図中の着色範囲は評価がGOODであり, その他の範囲は評価がFAIRとなっている。パネル未 設置の状態ではすべての点で評価がFAIRであった。 パネル設置後はどちらのパネルでも全点でRAST I の値が向上した。パネルAを設置した場合ではP04と P05の2点で,パネルBではP05とP07,P08の3点 で評価がGOODに向上した。パネルAでは室中央に, パネルBでは室後方により効果があったといえる。 2.5.4実測まとめ 実測からパネルを設置していない条件では音が響き 過ぎて,聴き取りにくい環境となっていると思われた が,2種類のパネル設置により残響時間,D50,RAST I の向上が見られた。特に RAS T Iの結果ではパネルA の設置により室中央のP03とP04が,パネルBの設 置により室後方のP07とP08が特に聴き取りにくさが 改善されたと思われる。 この効果を聴感上でも検証するため被験者を用いた 単語了解度試験を行った。 図-6 RAST I 設置前後の正答率の差 (%) 図-7 単語了解度(%) 3. 単語了解度試験 3.1 実験の目的と概要 聴感上でのパネルの効果を検証するため, 無響室内 にGP棟会議室の模擬音場を構成して, 被験者を用い た単語了解度試験を行った。試験ではパネルAを設置 した条件とパネルBを設置した条件をそれぞれパネル 未設置の条件と比較した。 なお被験者には正常な聴力 を有する22歳∼ 25歳の男女計7名を用いた。 3.2 試験用音声 単語了解度試験には「NTTアドバンステクノロジ株 式会社 親密度別単語了解度試験用音声データベース」 3) に収録されている単語の中から,親密度群3(親密度 4.0∼ 5.5)のもの400種類を2回ずつ使用し,計800語 用いた。 インパルス応答は,RAS T I値に差のみられたパネ ルAのP03とP04,パネルBのP07とP08,各点の 基本条件において測定したもの計8種類を用いた。各 点の設置前後のインパルス応答を同じ単語に畳み込ん だ。なお,提示する音源の音圧レベルは,各単語のピー ク値が52 dB∼ 58 dBとした。 3.3 実験方法 200単語ずつに分けた試験音源をランダムに被験者 に提示する試験を計4回行った。試験では,回答用紙 に「聞こえた単語」 を記入させ,さらに「聴き取りに くさ」4)を4段階で評価してもらった。単語の学習効 果を防ぐため,中1日以上空け次の試験を行い,1回 の試験の中で同単語が来ないようにした。 また聴き取りにくさの評価基準とする音源を試験前 に提示した。聴き取りにくくは無い基準音源には収録 音源そのものを, 非常に聴き取りにくい基準音源には 残 響 時 間6 sの イ ン パ ル ス 応 答 を 畳 み 込 んだ 音源 を用 いた。 42-2

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聴 き 取 り に く さ (点) 図-8 パネルAの「聴き取りにくさ」評価 聴 き 取 り に く さ (点) 図-9 パネルBの「聴き取りにくさ」評価 3.4 了解度の結果 被 験 者7人 の 単 語 了 解 度 の 平 均 値(%)を 図-7に 示 す。単語了解度は,パネルAの設置で3.1%,パネルB の設置で2.4%が上昇し,吸音パネルによって音声の聴 きにくさの改善が確認できた。 またパネル設置前後の 比較では,パネルAでは有意水準1%,パネルBでは 有意水準5%で統計的に有意であった。 3.5 「聴き取りにくさ」評価 7人の被験者それぞれの「聴き取りにくさ」評価の 平均点推移を図-8と図-9に示す。●がパネル設置前の 平均点であり,○がパネル設置後の平均点である。被 験者ごとに設置前後の変化の程度は異なるが, パネル AとパネルBどちらの設置でも聴き取りにくいと答え た点数の減少が確認された。 このことからも音声の聞 きにくさにおける吸音パネルの効果が確認できた。 4. パネルの必要量検討 前項までで開発中のパネルを用いて会議室の聴き取 りにくさが改善されることを示した。 そのパネルをど の程度配置すれば効果が得られるかを検証するため,幾 何音響シミュレーションによる検討を行った。 4.1 シミュレーション概要 幾何音響シミュレーションには音線法によるソフト ウェア(CATT-Acoustics)を 用 い た 。シ ミュレ ー ショ ンの条件は,放射音線本数20,000本,音線の追跡打ち 切り時間600 ms,空気吸収の影響は無いものとした。 音源と受音点の位置は実測と同じとし, モデルの吸音 率は,残響時間が実測結果に近い値となるように設定 した。 4.2 実測値と解析値の比較 現状の会議室を再現したモデルの解析値を実測値と 比較した。D50の結果を図-10に示す。残響時間の差 は ほ と ん ど 無 く,RAS T I に お い て は 差 が 大 き かった P02でも6であり,他の点では3程度であり差は僅か 図-10 D50の実測値と再現値 表-3 各部材の表面積と吸音率(設定値) 㒊ᮦྡ ⾲㠃✚䠄䟝䠅 ྾㡢䝟䝛䝹 㻝㻞㻡㻴㼦 㻞㻡㻜㻴㼦 㻡㻜㻜㻴㼦 㻝䡇㻴㼦 㻞䡇㻴㼦 㻠䡇㻴㼦 㻜㻚㻠㻣 䝣䜵䝹䝖䜹䞊䝨䝑䝖 㻠 㻝ᯛ㻌㻜㻚㻢㻡 㻜㻚㻜㻡 㻜㻚㻝㻡 㻜㻚㻟㻤 㻜㻚㻢㻡 㻜㻚㻣㻤 㻜㻚㻤㻜 㻜㻚㻠㻞 㻜㻚㻠㻡 㻜㻚㻝㻥 㻜㻚㻞㻞 㻜㻚㻝㻢 ྾㡢⋡䚷 East South West North 2,390 1,070 900 420 A D D D A A A A A B B C B A A B C D C C 枚数 8 枚 A A + B A + B + C + D A + B + C 12 枚 16 枚 20 枚 組み合わせ 図-11 シミュレーションでのパネル位置 であると言える。しかし D50においては差が最も大き かったP04では20%であり,差が小さかったP05でも 10%の差が見られた。これは対象の会議室が体積の小 さな室であり,音線到達の時間が短く時間比でのエネ ルギー量に差が生じづらいためと考えられる。 従って 解析値は残響時間と RAS T Iを検証に使用した。 4.3 シミュレーション条件 シミュレーションで用いたパネルの吸音率を表-3に 示す。低域の吸音率に優れたパネルBの設置を想定し, 吸音率はGP棟会議室のパネル設置前後の残響時間の 実測値を元に推定値を算出して用いた。 また,用いる パネルが低音域の吸音に優れており,高音域の吸音に 優れたカーペットとの併用がより効果的であると思わ れたため,併用を想定したカーペットの吸音率も載せ ている。パネルの必要枚数の検討では20枚,16枚,12 枚,8枚を検討した。シミュレーションでのパネルの配 置位置と組み合わせを図-11に,カーペットの位置を 図-12に示す。 4.4 解析結果 4.4.1残響時間 全測定点(8点)における測定結果の平均値を,同程 度 の 室 容 積 を 有 す る 会 議室 の最 適残響 時間(図 中 着 色 範囲)と比較して図-13に示す。パネルの配置枚数が増 えるにつれ残響時間が抑えられ,20枚配置すれば低域 42-3

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8,180 6,130 P1 P2 S P3 P4 P5 P6 P7 P8 &DUSHW 図-12 カーペット位置 図-13 枚数による残響時間の変化 図-14 枚数による RAS T Iの変化 (125 Hz∼ 500 Hz)で最適残響時間となる結果となった。 また16枚の配置でも500 Hzにおていの超過は0.03 s と僅かであったため,十分に効果があると思われる。 4.4.2 RAST I 各測定点と平均値の RAS T Iを図-14に示す。図中 の 着 色 範 囲 は 評 価 がGOODで あ り,そ の 他 の 範 囲 は 評価がFAIRとなっている。配置枚数が増えるにつれ て RAS T Iは向上し,12枚以上の配置で全点の評価が GOODとなった。しかし現状の解析値がもともと実測 値より値が大きくなっていたため,16枚程度の配置は 必要と思われる。 4.5 カーペットを含めた解析結果 4.5.1残響時間 全測定点(8点)における測定結果の平均値を,同程 度の室容積を有する会議室の最適残響時間(図中着色範 囲)と比較して図-15に示す。パネルとカーペットを配 置することにより,パネルのみを配置した場合に比べ 高域(2 kHz∼ 4 kHz)においても残響時間が抑えられ,8 枚のパネルとカーペットを配置した場合でも4 kHzで 最適残響時間となる結果となった。 図-15 枚数による残響時間の変化(カーペット設置) 図-16 枚数による RAS T Iの変化(カーペット設置) 4.5.2 RAST I 各測定点と平均値の RAS T Iを図-16に示す。図中 の着色範囲は評価がGOODであり,その他の範囲は評 価がFAIRとなっている。パネルとカーペットを配置 することにより,パネルのみを配置した場合に比べ全 点のRAST I は向上し,評価もFAIRからGOODと なった。基本条件の解析値が実測値よりも大きくなっ ていることを考慮しても,16枚のパネルとカーペット の配置により全測定点でRAST Iの評価はGOODと なると思われる。 5. むすび GP棟会議室を対象に当研究室で開発を行ってきた薄 型吸音パネルにより音声の聴き取りにくさの改善が図 られるかを調査した。現状では音が響き過ぎ,RAST I の値にも不足が見られたが, パネル設置後は残響時間 が最適残響時間に近づき,RAS T Iの評価からも改善 の効果が見られた。また単語了解度試験により,聴感 上でも聴き取りにくさが軽減されていることを確認で きた。さらにパネルの必要枚数を検討する為に幾何音 響シミュレーションを用いて解析を行い,パネルBで あれば16枚程度の使用が望ましく,パネルの吸音特性 を考慮すれば高域の吸音に優れたカーペットとの併用 がより効果的であることを示した。 参考文献

1) J.Pope: Sound in the meeting room - A listener’s perspec-tive,J.Acoust.Soc.Am.,94(3),1770(1993) 2) 川口卓郎:ヘルムホルツ共鳴器を用いた薄型吸音パネルの開発研 究,平成27年度修士論文(2015) 3) 天野成昭,近藤公久,坂本修一,鈴木陽一: 親密度別単語了解度 試験音声データベース(FW03), NTTアドバンステクノロジ株 式会社(2003) 4) 佐藤逸人,森本政之,佐藤洋: “聴き取りにくさ”による音声伝 達性能の評価,日本音響学会誌, 63(5)(2007) 42-4

図 -4 残響時間 図 -5 D 50 2.5.2 D 50 インパルス応答より算出した各測定点の D 50 を図 -5 に示す。図中の着色範囲が推奨値である。パネル未設 置の状態では音源から離れるほど値が下がり,推奨値 を満たす点は 2 点のみであった。 パネル A を設置した場合 6 点で値が向上し,その内 5 点が新たに推奨値となった。またパネル B を設置し た場合 5 点で値が向上し,その内 2 点が新たに推奨値 となった。設置前は点ごとの値の開きが最大 13 %あっ たが,パネル B の設置によ

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