社会人対象の職業教育訓練における品質管理の実態と課題―マネジメント分野及びOA分野の講師インタビューを通して― [ PDF
4
0
0
全文
(2) 学習成果の設定及び評価に取り組むのは、プロバイダー. ある計画・準備段階(P①②)の品質管理に大半のケースで. (教育訓練を提供する事業主体)が想定されている。. 講師が関与していた。この段階に講師が全く関与してい. しかし、職業教育訓練の実施を担当しているのは、. ないのは、47 ケース中 3 ケースである。一方で、評価の. 「契約講師」と呼ばれるプロバイダーとは別の事業主体. 開発・実施段階(P③C)はプロバイダー主導で進められて. である場合が大半である (矢野経済研究所 2011)。この. おり、講師が関与しているのは 2 ケースである。. 事業構造は品質管理にどう関係しているのか。また、. しかし、改善段階(A) 、特にプログラムの改善にプロ. OffJT には、公開講座と企業内研修という実施形態があ. バイダーが開発・実施する評価(評価方法の回答を得た. る。この違いは品質管理に影響しないのか。さらに、比. 35 ケース中 30 ケースが受講生アンケート)結果は反映. 較的 OA 分野は品質管理の取り組みがなされており、 マネ. されていない。プロバイダーはプログラムの改善に関与. ジメント分野はなされていないという調査がある. しておらず、講師が D で得た受講生からの情報をもとに. (JIL-PT:労働政策研究・研修機構 2010) 。この違いをも. 改善を進めている。プログラムの改善をプロバイダーと. たらしているものは何なのか。. 講師が協働的に進めているケースは 2 ケースである。. (3) そこで本研究では、①職業教育訓練の 4 領域―OA. (2) 次に、 OA 分野の品質管理の実態からは、 MOS 講座 (マ. 分野及びマネジメント分野の公開講座及び企業内研修―. イクロソフト社が自社商品 office の操作技能の習得を. で行われている品質管理の実態を、〈プロバイダーと契. 認定する 「MOS:マイクロソフトオフィススペシャリスト」. 約講師という事業構造〉を加味した視点で把握し、②各. という資格取得をめざす講座)の特異性が目立つ結果と. 領域の取り組みの特徴から、PDCA サイクルが機能する条. なった。学習成果を特定し、試験によって測定・評価を. 件を特定した上で、③今後の課題を明らかにすることを. しているのは、OA 分野・マネジメント分野を通じて MOS. 作業課題として設定した。. 講座のみである。また、計画・準備段階及び評価の開発・. 分析の枠組として、厚生労働省が策定・普及を計画し. 実施段階に講師が関与せず、プロバイダーが開発した受. ている「ガイドライン」をベースに、講座や研修で得ら. 講生アンケートで講師をモニタリングしてインストラク. れた成果を測定・評価しているかを分析するため「学習. ション技術の改善を促しており、 A が P①に循環して反映. 成果」の概念を加えた PDCA サイクルモデルを設定した。. されている点は OA 分野では MOS 講座のみの特徴である。. これによって、OA 分野・マネジメント分野の各 5 人ず. MOS 講座以外の OA 分野では、計画・準備段階(P①②). つの講師インタビューから得られた、OA 分野の公開講座. に講師が何らかの関与をしている。これはマネジメント. 10 ケース及び企業内研修 12 ケース、マネジメント分野. 分野と類似している。もっとも、プロバイダーが教材を. の公開講座 10 ケース及び企業内研修 15 ケースを対象に、. 準備(多くは市販テキストの選定)しており、この点は. 計画・準備段階(P) 、実施段階(D) 、評価段階(C) 、改. マネジメント分野には見られない OA 分野の特徴である。. 善段階(A)について分析を行った。PDCA サイクルは各. それ以外は、評価の開発・実施段階(P③C)でプロバイ. 段階での取り組みを行うと同時に、それが循環すること. ダーが開発した受講生アンケートを導入している点、プ. で品質管理をする仕組みであるため、その循環が成立し. ログラムの改善 (A) にプロバイダーが関与していない点、. ているかどうかの視点での分析でも行った。. 改善段階(A)が次の計画・準備段階(P)へ反映されてい. PDCAサイクルモデル. ない点など、マネジメント分野との類似点が多い。 (3) マネジメント分野の特徴は、実施段階(D)の直前. P① 期待する学 習成果・ニー ズの特定 P③ P①の評価 基準と測定 方法の開発. P② P ①に基づ いた プログラム・教材 の開発. D P②に基づい たプログラム の実施. A Cに基づいた プログラムの 改善. 段階である P②において、プログラム・教材の開発を講 師が専任している点が挙げられる。講師専任型ではない ケースは 3 ケースのみである。このうちの公開講座の 1. C P③に基づい た評価の実 施. ケース(プロバイダーが講師ランセンスを付与している ケース。以下「ライセンス型」 )と企業内研修の 1 ケース (プロバイダーと講師が全ての段階で協働しているケー. 第一章. ス。以下「協働型」 )だけが、改善段階(A)が計画・準. Off-JT 型の職業教育訓練の品質管理の実態. 備段階 (P) に反映されている点で他のケースとは異なり、. (1) まず、契約講師は、公開講座や企業内研修の実施段. PDCA サイクルが機能している。. 階(D)だけを担当しているわけではない。その前段階で 2.
(3) (4) JIL-PT の調査(2010)では、OA 分野はマネジメ. ンタビューの回答から講師自身が MOS 及び MOT の取得者. ント分野に比べて品質管理の取り組みが進んでいたが、. であるために、この程度の「カリキュラム」でも対応で. 本研究のケースで見る限りは、2 つの分野間に差がある. きていることがわかった。つまり、MOS 講座のプログラ. という評価はできなかった。かたや、PDCA サイクルが機. ムを実質的に開発しているのは、プロバイダーではなく. 能しているケースだけを比較すると、公開講座と企業内. マイクロソフト社であると評価することができる。. 研修という実施形態において特徴的な違いが認められた。. このことは MOS 講座とライセンス型講座との間では、. 品質管理が機能している公開講座の 2 ケース(MOS 講座. プログラムの改善段階(A)に違いとなって現れている。 自. とライセンス型のケース)は、計画・準備段階(P①②). 社で独自にプログラムと教材を開発しているマネジメン. と評価の開発・実施段階(P③C )をプロバイダーが専任. ト講座のプロバイダーは講師を定期的に集めて「プログ. しており講師の関与が認められない。一方、企業内研修. ラム」の改善会議を主催している。かたや、MOS 講座の. の協働型では実施段階(D)を除いて全ての段階において. 改善は、講師の「インストラクション技能」に関するも. プロバイダーと講師の協働が認められた。. のとなっており、プログラムと教材をプロバイダーが独 自に改善していない。. 第二章 Off-JT 型の職業教育訓練の品質管理の分析. 以上から、公開講座はプロバイダーが「汎用性のある. (1) 本研究の調査では、 公開講座と企業内研修という実. 体系化された基礎的・原理的な知識・技能」についてプ. 施形態において品質管理に特徴的な違いが認められた。. ログラム・教材を「独自に」開発することが、PDCA サイ. そこで、実施形態別に、PDCA サイクルで品質管理を行う. クルを機能させるための条件だと考えられる。盤石な経. 上での条件の特定を試みる。また、学習成果の測定・評. 営基盤を持たないプロバイダーが、プログラム・教材を. 価方法については、最後にまとめて考察を行う。. 独自に開発することは簡単なことではない。 『第 9 次職. (2). 品質管理が機能している公開講座の 2 ケース. 業能力開発基本計画』では職業能力開発総合大学校等が. (MOS 講座とライセンス型のケース)はプロバイダーが. 開発したプログラム等を民間プロバイダー等に普及しよ. プログラム・教材の開発を専任している。OffJT の中で. うとしているが、これで品質管理は機能するのか。. も公開講座は、不特定多数の(企業から)受講生を集客. 吉本(2010)によれば、教育の質保証のアプローチに. する実施形態であるから、「直接職場では習得しえない. は、「学習のプロセス」「学習のインプット」「学習のア. 知識、技能を体系的、基礎的、原理的にしかも効率的に. ウトカム」の 3 つの統制方法がある。 『第 9 次』が想定す. 習得する」 機能がより強く妥当する。 「体系化された基礎. る構造は、プログラム・教材の品質は管理( 「学習のプロ. 的・原理的な知識・技能」は、それゆえに「汎用性」を. セス」の統制)はできるが、それが受講生や企業の学習. 持つ可能性が高く、その教材も汎用性が高いので、その. 成果を達成させるか( 「学習のアウトカム」の統制)とい. 開発に投資をしても回収の可能性が高い。. う、OffJT の目的をなおざりにする可能性がある。. 公開講座の 2 ケースは、PDCA サイクル「外」にも共通. (3) 一方、企業内研修の場合、品質管理が機能している. の特徴がある。それは、講師がライセンスを事前に取得. 協働型のケースと他との違いは、 実施段階(D)以外はプロ. していることである。 「汎用性」はライセンス制度を機能. バイダーと講師、そして企業が協働している点である。. させる。ライセンスを取得するためには投資が必要であ. このケースは、講師が経済的な動機からプロバイダーと. り、その回収が見込めない限り、プロバイダーとは別の. 企業との協働を行っているが、それを可能にしている条. 事業主体である講師のライセンス取得を促進できないか. 件は、このケースが数年度にわたって複数回行う「継続. が、 「汎用性」は講座の多数開催を可能とし、講師の登壇. 型」の研修であることである。. のチャンス、すなわち回収の可能性を確保する。. これは、PDCA サイクルの改善段階(A)に端的に影響す. しかし、この 2 ケースはライセンスを付与している機. る。単発で終わるのであれば、プロバイダーがプログラ. 関に違いがある。MOS 講座はマイクロソフト社が、ライ. ムの改善に関わらないのは経済的に合理的な態度である。. センス型講座はプロバイダー自身が付与している。MOS. また、マネジメント分野の企業内研修は全ケースで、プ. 講座では、プロバイダーが準備した「カリキュラム」を. ログラム・教材の開発を講師が専任している。講師が開. 講師は「 (MOS 取得のために開発された市販の)テキスト. 発したプログラムを自社以外では使わないという特殊な. のもくじに振り分けた」程度のものと評していたが、イ. 契約がない限り、競合プロバイダーでも使われる可能性 3.
(4) があるのだから、別の事業主体であるプロバイダーがプ. ら重要に思える。しかし、測定・評価の結果、プロバイ. ログラム改善に関わらないのは当然である。. ダー自身が提供したプログラムの学習成果が期待された. しかし、職業教育訓練の品質管理という観点で考えた. 水準に達していない場合、競合に置き換わられるという. 場合、そこに問題はないか。. 事業上のリスクを孕んでいる。. プロバイダーは、企業と講師の接点に位置するから、 仮に他の全てを外注しても、 「企業や受講生が期待する学. 終章 結論と今後の課題. 習成果・ニーズの特定」の機能だけは構造的に手放すこ. 以上より、OffJT の品質管理は、決してプロバイダー. とはできない。もっとも、期待する学習成果等が特定で. だけで行えることでも、行うべきことでもない。 「ガイド. きても、それを実現する適切な手段が選択・提供されな. ライン」 型の PDCA サイクルによって OffJT の品質管理を. ければ、目的は達成できない。つまり、プロバイダーは. 行うのであれば、プロバイダー以上に企業がその取り組. 「講師・プログラムを適切に選択する機能」を持たなけ. みを行うことが条件となり、その促進を図ることが今後. ればならない。ところが、プロバイダーはプログラムの. の課題といえる。もっとも、このことはプロバイダーが. 改善に関与せず、講師は受講生の反応をもとにプログラ. 品質管理に関与しなくていいことを意味しない。プロバ. ムの改善を行っているから、仮に研修をオブザーブして. イダーは企業から OffJT を受託している以上、企業が行. も、その時把握した情報だけでは「適切な手段を選択す. うべき品質管理を理解し、契約講師とも必要な情報を共. る機能」が十全に果たせることは保証されない。. 有することが条件となる。. 以上から、企業内研修を PDCA サイクルで品質管理を. 高度化する知識経済社会の中で、プロバイダーが高い. 行うための条件として、プロバイダーには「講師・プロ. 専門性を持つことは、日本の今後の職業教育訓練にとっ. グラムを適切に選択する機能」が必要なことが指摘でき. て望ましいことに違いない。しかし、プロバイダー及び. る。 プロバイダーがプログラムの改善に関与することは、. プロバイダーへの委託主である企業とプロバイダーから. その機能を得ることを可能にするが、 「継続型」の研修以. の委託先である契約講師を別々に議論するのではなく、 3. 外では経済的判断の点から難しいという問題がある。. 者を包含した視点から議論を活発化することが、品質管. (4) 今回の調査では、学習成果の達成を測定・評価して. 理の実践のために必要である。. いるのは、全ケースを通して MOS 講座だけであった。こ. その点、本研究は講師のみを対象とした分析であり、. れは、単にプロバイダーに評価のノウハウがないだけな. プロバイダー、企業及び受講生という利害関係者全体の. のか。それ以外の条件が必要なのか。. 視点からの検証が欠けている。また、一地方都市におけ. プロバイダーに評価・測定のノウハウがあっても、企. る少数事例の分析であり、今後、追加的な調査を行うこ. 業が同一プロバイダーに継続的に企業内研修を委託する. とにより、 広範囲な取り組み事例から PDCA サイクルが機. 保証がないならば、プロバイダーにとっては測定・評価. 能する条件を検証することが必要である。. する意味が経済的に見出しにくい。公開講座の場合は、 プロバイダー自身が継続的開催の判断者ではあるが、経. 主要参考文献. 済的に盤石なプロバイダー以外、プログラムの開発・改. 岩田克彦(2010) 、 「改革が進む欧州各国の職業教育訓練. 善は経済的に困難である。. と日本―日本においても職業教育訓練の総合的強化. OffJT の学習成果の測定・評価の目的は、企業が期待. が急務」 、 『日本労働研究雑誌』No.595. した学習成果を従業員である受講生が講座・研修によっ. 独立行政法人労働政策研究・研修機構(2010) 、 『社会人. て達成しているか、達成していない場合どのような改善. を対象とした教育関連活動・事業の運営と品質管理』 、. が必要かを特定するためである。であるならば、本来は. 調査シリーズ No.73. 学習成果・ニーズの測定・評価をすべきは企業である。. 矢野経済研究所(2011) 、 『企業向け研修サービス市場の. 協働型のケースでは、企業がプログラムの改善会議に参. 実態と展望 2011』 、矢野総合研究所. 加するなど積極的な関与が見られているが、それ以外の. 吉本圭一(2010) 、 「高等教育の職業キャリアへの有用性. ケースでは企業も学習成果の測定・評価をできていない. ―ラーニングアウトカムをどう設定するかー」、『大. 実態が推察された。プロバイダーが、それを「支援する. 学と学生』 (2010 年 7 月号) 、独立行政法人日本学生. 機能」を持つことは、職業教育訓練の品質管理の観点か. 支援機構 4.
(5)
関連したドキュメント
「1 建設分野の課題と BIM/CIM」では、建設分野を取り巻く課題や BIM/CIM を行う理由等 の社会的背景や社会的要求を学習する。「2
2.認定看護管理者教育課程サードレベル修了者以外の受験者について、看護系大学院の修士課程
目標を、子どもと教師のオリエンテーションでいくつかの文節に分け」、学習課題としている。例
リスク研究の分野では、 「リスク」 を検証する際にその対になる言葉と して 「ベネフ ィッ ト」
市民的その他のあらゆる分野において、他の 者との平等を基礎として全ての人権及び基本
⑤ 日常生活・社会生活を習得するための社会参加適応訓練 4.
2 保健及び医療分野においては、ろう 者は保健及び医療に関する情報及び自己
り分けることを通して,訴訟事件を計画的に処理し,訴訟の迅速化および低