- 41 -
小学校国語教科書の内容分析にもとづく 価値志向性及び文化類型に関する日中比較史研究
専 攻 人間教育専攻 コース
氏 名
人間形成コース 斑 捧
研究の目的
日本語を学習し、日本を知るにつれ、ますま す日中間国民の価値観や考え方の違いに気づ、く
ことが増える。このような違いはどのように生 まれるのであろう。われわれの価値観は、自分 を囲んでいる周りの環境と深く関わっている。
言い換えれば、それぞれの国の歴史、文化、社 会などの諸状況に影響されながら、われわれの 価値観や考え方が形成してし、く。これらの諸状 況は、様々な媒介項を通して人の観念に浸透す る。そのなかで1つ重要な媒介項は国民教育と しての学校教育である。学校教育は果たして、
人間の価値観形成上にどのような役割を果たし ているのだろうか。このような問題関心から、
国民教育における基盤的機能を担っている小学 校教育に関心を置き、とりわけ国語教育に目を 向けた。
本研究では、小学校国語教育の分析資料とし て、日本と中国の教科書を取りあげる。歴史的 観点から考察するため、両国の 1950年代から 2000年代までのものを収集分析し、歴史や社会 の変動のなかで国語教科書に潜むメッセージが どう変わり、あるいはその変動のなかでも変わ らない基層的メッセージはあるのかを究明し、
日中間の人間形成をめぐる共通的基盤や差異を 明らかにした。
近年、国民育成メデ、ィアとして教科書に着目 する研究が進んでいる。そして、国際的比較分
指導教員 梶 井 一 暁
析に関する研究も数多く挙げられる。しかし、
集中的に日中両国の教科書を対象として取り扱 う研究といえばそれほど多くない。また、日中 の国語教科書比較というとさらに研究が薄弱で あり、管見の限り、付宜紅『日中国語教育の比 較研究一小学校物語文の学習指導を中心に』
(2000)と李広『中日小学語文課程価値取向跨文 化研究Jl(2008)が、まとまった成果を挙げてい
るほどである。
2つの先行研究を踏まえた上で、さらに歴史
的視座を投げ入れ、 20世紀後半から 21世紀初 頭までの変動と推移に関する比較的考察を試み たのが本研究である。また、近年のメディア史 研究の動向を踏まえ、教科書が有する国民教育 メディアの作用に着目するのも本研究の視点の 特色である。研究の内容
本研究では、以下のように検討を進めた。
序章では、本研究の目的、研究対象と研究方 法を述べた。本研究では、 1950年代から 2000 年代までの教科書を10年ごとに集め、 6つの時 代を取り上げ、主として日本の小学校国語教科 書は光村図書版の『国語』、中国の小学校国語教 科書は中国人民教育出版社版『語文』を分析し た。また、全学年を分析するのは作業量的に難 しいので、 1,3,5学年の教科書を研究対象とし、
低学年、中学年、高学年をカバーした。教材数
- 42 - に関しては、宇国の教材 1041編、日本の教材 440編を取り上げた。教科書解読を通して、そ れぞれ現れた価値志向性と文化類型を整理し、
各時期における望まれる人間@人材像の異同を 分析した。
第一章では、戦後日本と中国の教科書制度の 歴史を整理した。また、中国の人民教育出版社 と日本の光村図書出版社の歴史も、教科書制度 とともにまとめた。
第二章では、まずは両国の学習指導要領から 教育観を分析した。そして、価値志向について、
上位
5
分類(個人・個性・独創、人格・修養、科 学・教養・論理、人間関係・他者理解、国家・民族ー世界)と下位 40分類(愛国、友愛・愛情、
想像力など)の指標を築くとともに、
7
つの文化 類型(一般文化、伝統文化、地域文化、年齢文化、階層文化、民族文化、性別文化)に基づき、両国 の教科書に現れる価値志向及び文化類型の分類 結果を統計し、比較分析を行った。
第三章では、第二章の量的比較分析の上で、
価値志向及び文化類型に関して、限られた教材 数であるが、具体的な教材を取り上げ、質的な 考察を集中的に試みた。
考察
本研究を通じ、下記の通りに結論を出した。
①求められる人間像の方向性:全体的に見る と、中国の教科書で最も顕著な価値志向性は「愛 国」である。全体の20.3%を占めている。これ は恐らく、建国が成ってからまだそれほど長く 経っていない中国にとって、国を愛して、国に 奉仕する人が望ましし、からだと考えられる。国 家が形成しようとする人間像(国民像)が、か なりストレートに表れている。一方、日本で最 も顕著なのは「友愛・愛情J
( 1 7 . 9 % )
である。こ こから、日本が、やさしい心を持って温かい人間関係を作り合う国民の形成を求めていること が推測できる。
②共有される人間像の要素:両国に共通で現 れた価値志向性が
3 3
項目(協力意識、平和、誠 実@信頼など)に達した。さらに、両国の価値志 向性のトップ10の中で、同じ項目が7項(友愛・愛情、想像力、国際理解など)であった。これは 正に日中に共通の歴史的文化基盤が存在してい る証だと考えられる。この共通性は、日中交流 の土台になっており、これからも日中交流で積 極的な役割をするだろう。
③「同じJのなかの「違しリ:中国と日本と、
それぞれ特色な価値志向性があった。さらに、
一見すると同じ価値志向であるが、細かな目線 を投じると、その価値に込められている微妙な 意味の違いに気づくO たとえば中国の「小さな 船」と日本の「ことりと木のは」を見ると、「想 像力jが価値志向として同じ分類であるが、感 性と想像、現実の捉え方が違う。同じ傾向に見 えて、実は異質さも含む価値志向への着目が重 要である。
④時代と社会のなかの価値志向性:両国の教 科書とも、時代の流れに連れ価値志向性に変遷 が見られた。教科書は、実際は時代と社会の枠 組みから自由でなく、特に教科書が含むメッセ ージたる価値志向性は、時代や社会、国家が求 める方向の影響を受けるとし、う教科書の思想J性 が改めて理解される。
今後の課題
本研究では李広氏らの研究で使われた価値 志向性の項目を見本に、価値志向性の項目立て を検討・修正した。さらに、如何に上手く、客 観性と追検証性を担保した、日本の教科書と中 国の教科書ともに適する項目を立てるかが、今 後の課題となる。