[7]建築振動学入門
振動の基礎
地震動に対する振動
建物の耐震性を考えようとすれば、地震によって建物がどのように揺れるのかを知らな ければなりません。 そのためには、建築振動学の基礎を皆さんは学ばなければなりません。 しかし、建築振動学は、皆さんにとっては難しいかもしれません。 この講義読本は、初心者にもわかるようにできるだけ易しく解説していますので、途中で 投げ出さずに、最後までよく読んでみてください。 そして、細かいことはともかく何が大事なのかを理解していただければ十分です。47
構造物の振動系へのモデル化
建築物
骨組み
質点系モデル
質点
建物は大変複雑な構造をしています。 そこで、皆さんは、静定力学や不静定力学で、建物をはりや柱の骨組みに理想化して 考えることを学びましたね。 しかし、建物の振動を考えるときは、そのような骨組みに理想化しても複雑でやっかいな のです。 そこで、もっと思い切った理想化モデルを考えてやる必要があります。 それが、質点系モデルと呼ばれるものです。 質点系モデルは、上の図に示すように串団子のようなモデルをしています。 しかし、建物を質点系モデルに理想化しても不都合がないのでしょうか。 それを次に説明します。建築構造物をなぜ質点系モデル
に置換するのか
構造物の
重量分布を各層とも床面に集中
させて考える。→振動理論が簡単に。工学
的に見て、実際の挙動を十分再現できる。
建物に生ずる変位が同一層内にある限り
どこでも等しい運動をしていると考えられる
場合は、
層の動きを床面の重心の変位の
みに代表
させることができる。
建物の多くは、ラーメン構造で造られています。 この構造物は、はりや柱、床スラブなどで構成されていますが、各部材は部材内の至る 所に質量を持っています。 慣性力は、この質量とその質量部分に生じる加速度の積になりますから、厳密な挙動を 再現しようとするとスーパーコンピューターが必要になります。そこで、次のように理想化 します。 ラーメン構造の場合、高さ方向の質量分布は、床スラブの重量が大きいので、床面位 置で大きくなっています。そこで、建物の質量分布を各層とも床面位置に集中させて考 えます。この集中させた点を質点と呼んでいます。この質点系のモデル化によって、振 動理論は飛躍的に簡単になります。 また、高層以下のラーメン構造では、水平外力を受けたときの柱の伸びや縮みは、一般 的に小さいので、床面は水平方向のみに振動すると考えても問題はありません。しかも その床面に生じる変位は、その床面位置のどこでも同じであると考えて差し支えないで しょう。つまり、層の動きを床面の重心の変位のみに代表させることができます。49
せん断形構造物と曲げ形構造
物
せん断形構造物とは、床面が水平にのみ
動くと考えられるもの→通常のラーメン構
造物
ラーメン構造のように水平方向にのみに変位を起こす構造物のことをせん断形構造物と 呼んでいます。 一方、高層建築物や超高層建築物では、建物の中心にコアと呼ぶ昇降施設や給排水 管を納めた平面区域があります。このコア部分の壁を耐震壁にすることが多いのですが、 そのようにすると、建物全体がしなるために、コア壁の両側最下層柱の伸び縮みが大き くなり、上下方向の変位が無視できなくなります。このような構造物を曲げ形構造物と呼 んでいます。 せん断形構造物は、曲げ形構造物よりも、振動理論は単純になります。しかし、多質点系の振動は複雑
しかし、多質点系の振動はそれでも複雑。
振動の基本を把握するには、1質点系で。
しかし、せん断形構造物を取り扱うにしろ、多層建物では、通常、その層数分だけ質点 が存在しますので、応答は大変複雑になります。 そこで、現実的には少し無理がありますが、多質点系の振動モデルを1質点系の振動 モデルに置き換えて考えます。そうすると、実際の挙動とは当然異なる面も出てくるので すが、単純なだけに振動の基本を把握しやすくなります。 そこで、最初に1質点系の振動を考えていきます。51
D’Alembert
(ダランベール)の原理
振動は、刻一刻と変化する現象。いったい
どう考えれば良いのか。
加速度αを生じている質量mの質点は、こ
れに接している物体に-mαの慣性力を
及ぼす。
従って、運動している物体のある瞬間をと
らえて、
慣性力を含む力の釣り合い式を立
てればよい。
1質点系の振動現象を考える前に、振動現象をどう考えれば良いのかについて、説明 しておきましょう。 振動現象は、時間の関数を持っています。つまり、振動は、刻一刻と変化する現象です。 このような現象をどのように考えればよいのでしょうか。 ダランベールというフランスの学者がそのことについて解答を見いだしました。 彼は、加速度(a)を生じている質量(m)の質点は、これに接している物体に-maの慣性 力を及ぼすことを発見したのです。 この文章だけだと、何を言っているのかよくわかりませんね。 これは、運動している物体のある瞬間をとらえて、慣性力を含む力の釣り合い式を立て て解けばよい、ということを言っているのです。 つまり、動的な(時間関数を含んだ)問題を、静的な(時間関数を含まない)力の釣り合 い方程式をたてることによって、振動現象を解き明かすことができるのです。 しかし、加速度は、距離を時間で2回微分した物理量ですから、得られる方程式は微分 方程式になってしまいます。 微分方程式の解法は、大変難しいものがあります。 しかし、ここでは、解き方を勉強しようというのではありません。 微分方程式を解いた結果を使って、基本的な振動現象を学んでいきます。1層建物の自由振動
x
-
mx
-
mx=kx
mx+kx=0
加速度
慣性力
一質点系の方程式
m:質量、k:ばね定数
それでは、ダランベールの原理を1層建物の振動系に適用してみましょう。 質量mの質点に、今、加速度x ¨が生じているとすれば、慣性力は-m x ¨となります。 この質点はばね定数kを持つ層で支えられています。層にはkxの力が生じますので、慣 性力はこの力と等しいことになります。すなわち、 -m x ¨=kx 移行すると、 mx ¨+kx=0 という方程式が得られます。 この方程式は、減衰を含まない1層建物の自由振動を表しています。 減衰については、後で説明します。 自由振動というのは、建物をロープで引っ張っておいて、急にロープを放してやったと きの建物の振動を言います。53
一質点系方程式の解
一般解
A,Bは任意定数で、初期条件から決まる。
例えば、
の条件を与えれば、次式が決定される。
x=Acos
y
t+Bsin
y
t
t=0 ,
x=x
o,
x=v
ox= x
ocos
y
t+
y
v
osin
y
t
y= m k この微分方程式の一般解は、上の図に示すような正弦波を関数に持つ式で表されれま す。 一般解の中のA、Bは、初期条件を与えてやると、決定することができます。 たとえば、初期変位xoと、初速度voが与えられていれば、 x=xocosωt+(vo/ω)sinωt というように決定してやることができるのです。 皆さんは、一般解からこの式を導くことができますか。試しに挑戦してみてください。 この変位は正弦波関数を持ちますので、この振動系はある振幅(振動する系の最大応 答変位の大きさ)をいったりきたりすることがわかります。周期と振動数と円振動数
周期
(T)
振動数(f)
円振動数(ω)
o t x T=1/f 0 π 2π o ωt ωT=2π つまり、上の右側に示す図のような応答を繰り返すことになります。 そして、一方に振れてから反対の方向に振れ、それから最初の出発点に帰るまでの時 間を周期(T)と呼んでいます。また、周期の逆数を振動数と言います。振動数は、単位 時間に、何回いったり来たりを繰り返したかを表しています。 この振動現象は、円の曲線上を動く点になぞらえることができます。 点が一回転すると、一方に振れてから反対の方向に振れ、それから最初の出発点に 戻ってくることを表しますから、このとき、点は一周期分の運動をしたことになります。点 の運動を表す角度をωtとすると、一回転の角度は2πですから、固有周期Tは、 ωT=2πすなわちT=2π/ωとなります。ここで、ωを円振動数と言います。55
固有振動数と固有周期
固有振動数
固有周期
y= m k T=2p y =2p m k 1質点系の振動では、円振動数は、微分方程式の解法から、ω=√k/mで表されること がわかっていますので、固有周期はT=2π√m/kとなります。減衰を伴う振動系
粘性減衰
:空気抵抗や内部摩擦角によっ
て、速度に比例した抵抗を受けて、振動が
弱まると考えられている減衰。
-
mx=cx+kx
mx+cx+kx=0
しかしながら、実際に地震動を受けた建物は、揺れ続けずに次第に揺れは収まってし まいます。これは、振動を弱める力が存在するからです。このように振動が弱まる現象を 減衰と呼んでいます。 減衰には、いくつかの種類があります。代表的な減衰に粘性減衰があります。 粘性減衰は、空気抵抗や内部摩擦によって、速度に比例した抵抗を受けて、振動が弱 まると考えられている減衰です。 このときの減衰力は、速度x ・に比例するので減衰の能力を表す係数c(減衰係数)を用 いて、cx・と表せます。 ダランベールの原理を適用すれば、慣性力-m x ¨は、復元力kxと減衰力cx・の和と等 しくなります。すなわち、 -m x ¨=cx・+kx 移行して、 m x ¨+cx・+kx=057
減衰を伴う場合の一質点系運動
方程式の解
一般解
のときは振動現象を示さな
いことがわかる。
x=e-(c/2m)t Acos m k-
2m c 2 t+Bsin m k-
2m c 2 t 2m c 2≧
m k 大変複雑な式ですね。 もちろん、この式を覚える必要はありません。 大事なのは、平方根の中の値です。 平方根の中が正の値を持てば振動現象を起こしますが、零か負の値を持てば振動現 象を起こしません。 この振動を起こすか起こさないかの境の減衰を臨界減衰と呼んでいます。臨界減衰と減衰定数
臨界減衰
減衰定数(減衰比)
2m cc 2 = m k∴
cc=2 mkh=c/c
c cc=2 mk =2myo , h= 2myo c 減衰係数cと臨界減衰ccとの比を減衰定数と呼んで、hで表します。 減衰係数は、Nsec/mの次元を持っていますが、減衰定数は減衰の比ですから、次元 がありません。ですから、通常、減衰の能力を表すときは減衰定数hを用います。 ここで、減衰定数が1.0以上になれば、建物は振動しないことになります。 ということは、そのような減衰定数を持つ建物を造ればよいことになります。 しかし、残念ながら、現実にはそう簡単にはいきません。 鋼構造や鉄筋コンクリート造建物の減衰定数は、わずか0.02~0.05(2~5%)程度の減 衰能力しかないのです。59
無次元化した運動方程式とその
一般解
運動方程式
一般解
x+2h
y
ox+
y
o2x=0
x=e-hyot(Acos 1-
h2y
ot+Bsin 1-
h2y
ot) 最後に、運動方程式を、減衰定数と固有振動数で表す方がより一般性があります。 このときの一般解も示しておきましょう。減衰を伴う一質点系の自由振動
上の図は、減衰を伴う一質点系の自由振動の例です。 減衰定数が0.1(10%)を超えると比較的早く振動が収まることがわかりますね。 減衰定数を1.0(100%)にすることはできませんが、0.1~0.2(10~20%)程度にすること は可能です。 このように、減衰定数を何らかの方法で高める(例えばダンパーと呼ばれる減衰装置を 取り付ける)ことによって、振動を抑えようとする構造はすでに考えられています。例えば、 制震(振)構造とか免震構造と呼ばれている構造です。61
地動を受ける一層建物
運動方程式
m(x+y)+cx+kx=0
mx+cx+kx=
-
my
x+2h
y
ox+
y
o2x=
-
y
y:
地動加速度
これまでは、自由振動について説明してきました。 しかし、実際の建物の振動は、地盤が振動を起こしていることに起因しています。 そこで、地動を受ける建物について見ていきましょう。 上の図を見てください。 変位xは、地盤上の基準軸からの変位量を表しています。これを相対変位と言います。 しかし、この地盤も振動を起こしています。 そこで、地盤の動きとは無関係の基準軸を考えて、そこから地盤の動き(y)を観察します。 建物の変位は、地盤の動きとは関係ないこの基準軸からみますとx+yになります。この 変位を絶対変位と呼んでいます。 質点の運動を絶対変位で考えれば、運動方程式は、 m(x¨+y¨)+cx・+kx=0 となりますから、移行して、 mx¨+cx・+kx=-my¨ 両辺を質量mで割って、 x¨+2hωox・+ωo^2x=-y¨ を得ます。 このような運動方程式による振動を強制振動と呼んでいます。地動が正弦波の場合
地動の加速度
運動方程式
運動方程式の解
x+2h
y
ox+
y
o2x=
-
a
e
i(yt+x)y=
a
e
i(yt+x) o t y x=-
y
o2a
1-
(y
/y
o)2+4h2(y
/y
o)2 1 e i(yt+x-|) |=tan-1 1-
(y/yo)2 2h(y/yo) 最初に、地動が正弦波の場合を考えてみましょう。 地動加速度として正弦波を入力したときの振動を調和振動と呼んでいます。 式は難しいのですが、この微分方程式は解くことができます。 結果は、上の図に示す通りです。 もちろんこの式を覚える必要はありません。63
変位応答倍率
(1)
は慣性力に等しい外力が静的に
加わったときの変位を表す。
静的変位
変位応答倍率
-
a
/
y
o2x
s=
-
a
/
y
o2 xs x = 1-
(y
/y
o)2 +4h2(y
/y
o)2 1 一般解の中の-a/ωo^2は、慣性力に等しい外力が静的に加わったときの変位を表し ています。 また、e関数部分は減衰振動を表しています。 そこで、 -a/ωo^2を静的変位xsとおけば、x/xsは、変位の倍率を表しています。 その最大値は、上の図に示す式となります。これを変位応答倍率と呼んでいます。 変位応答倍率は、建物に対する地盤の振動数比(ω/ωo)と減衰定数(h)を関数に含 んでいます。変位応答倍率
(2)
剛構造
柔構造
横軸に建物に対する地盤の振動数比を、縦軸に変位応答倍率をとると、上の図のよう になります。 この図から、 ω/ωo→0になると、応答倍率は1.0になります。 これは、地盤の振動数が小さい、すなわち、地盤がゆっくりと振動し、建物の振動数が 大きい、すなわち固い構造(剛構造)であればあるほど、 建物と地盤の相対変位は0になることを示しています。 逆に、 ω/ωo→∞になると、応答倍率は0になります。 これは、地盤の振動数が大きい、すなわち、地盤が激しく振動し、建物の振動数が小さ い、すなわち柔らかい構造(柔構造)であればあるほど、 建物の絶対変位は小さくなる、すなわち、建物と地盤の相対変位は、地盤の変位に等 しくなります。65
共振
建物の固有周期(振動数)と地動の周期
(振動数)が等しくなると増幅率は非常に大
きくなる。これを共振という。
共振状態の時、増幅率は1/2hとなる。
また、ω/ωo≒1.0であれば、応答倍率は、1/2hになります。減衰定数が0であれば応答 倍率は無限大になります。減衰定数0.05で10倍、0.1で5倍です。 すなわち、建物の固有振動数(周期)と地盤の振動数(周期)が等しいと、応答倍率はき わめて大きくなります。この現象を共振と呼んでいます。 建物が共振現象を起こすと、きわめて甚大な被害を被ることがあります。最悪の場合は、 倒壊することも。 従って、共振現象は、建物にとって大変危険な現象と言えます。地震動に対する振動
x xo m K相対変位
質点
質量
剛性
地動加速度
質点での応答値
変位
速度
加速度
非常にたくさんの周期成分を持った波
それでは、地震動に対する振動を考えてみましょう。 運動方程式は、 x¨+2hωox・+ωo^2x=-y¨ で表されます。 ここで、右辺の項は、地動の加速度を表しています。 各地に設置されている強震計は、地動の加速度を時系列で測定します。 その記録地震波を使えば、地震動に対する建物の振動を調べることができます。 しかし、記録地震波は無数にありますし、地震波は、非常に多くの周期成分を持った波 です。 記録地震波を地動加速度として入力する場合は、地動加速度として正弦波を入力した 場合(調和振動)のように簡単に微分方程式を解くことはできません。 そこで、微分方程式を近似的に解く数値解法が様々に考案されました。この数値解法67
速度VとエネルギーEとの関係
応答速度が大きい。
建物に入力されるエネルギーが大きい。
建物を揺らし続けるエネルギーが大きい。
E=mV 2 2 建物の地震応答解析の結果を見ていくのですが、その前に基本的な事柄を勉強して おきましょう。 地震応答解析の結果は、質点での応答変位、応答速度、応答加速度の値を時系列で 求めることになります。 ここで、速度はエネルギーと深い関係があります。応答速度が大きいということは、建物 に入力される地震エネルギーが大きいということです。これは、言い換えれば、建物を 揺らし続けるエネルギーが大きいということを意味します。加速度αと力Fとの関係
応答加速度が大きい。
建物が受けるパンチ力が大きい。
F=m
a
また、加速度は力と深い関係にあります。 応答加速度が大きいということは、建物が受ける力が大きいということを意味します。 ある記録地震波について、建物の減衰定数を決めておいてから、建物の固有振動数 ωoを少しずつ変えながら、何度も微分方程式の近似解を求めていきます。 設計では、最大応答値が問題になってきます(最大応答値に対して建物が安全になる ように設計すれば良いので)。 そこで、横軸に建物の固有周期(または固有振動数)をとって、建物の固有周期(また は固有振動数)に対する最大応答値をプロットしていくと、地震動による建物の振動特 性を浮かび上がらせることができます。このような最大応答値をプロットした図のことを、 応答スペクトルと呼んでいます。 応答値は、変位と速度、加速度の3種類がありますので、それぞれ変位応答スペクトル、 速度応答スペクトルおよび加速度応答スペクトルと呼んでいます。様々な記録地震波に69
変位応答スペクトル
柔らかい(固有周期が長い)建物ほど応答
変位は大きくなる。
SD O T h=0.00 h=0.05 まず、変位応答スペクトルですが、その一例を上の図に示します。 (固有周期の小さい)固い建物では応答変位は小さく、超高層建築物のように(固有周 期の長い)柔らかい建物では、応答変位は大きくなります。 これは、想像できますね。速度応答スペクトル
(1)
T SV O h=0.00 h=0.05 次に、速度応答スペクトルはどのようになっているのでしょうか。 その一例を上の図に示します。 速度応答スペクトルは、固有周期の小さい範囲では固有周期が大きくなるに従って、最 大応答速度も大きくなってきますが、ある周期以上になると、応答スペクトルはほぼ一定 になる傾向にあります。 これは、どういうことを意味しているのでしょうか。71
速度応答スペクトル
(2)
固い(固有周期の短い)建物では、入力エ
ネルギーは小さい。
建物の固有周期が長くなるほど入力エネ
ルギーは大きくなる。
しかし、長周期構造物では、入力エネル
ギーは一定になる。
低層建築物のように固有周期の短い建物では、地震入力エネルギーは小さく、地震に よる建物の揺れはすぐに収まることを意味しています。 一方、超高層建築物のように固有周期の長い建物では、地震入力エネルギーは大きく、 地震による建物の揺れは収まりにくいことを意味します。 しかし、長周期構造物では、地震入力エネルギーは一定になることに着目してください。 このことが日本で超高層建築物を建てることのできる理由の一つです。 一方、先に示した変位応答スペクトルからは、超高層建築物では、建物頂部での変位 は、きわめて大きくなります。しかし、一層分の最大変位は、建物頂部の最大変位を層 数分で割った大きさになりますから、一層の変位としては小さくなります。これも超高層 建築物の成立理由の一つです。 そして、超高層建築物の成立の決め手となるのが、最後の加速度応答スペクトルです。加速度応答スペクトル
(1)
SA O T h=0.00 h=0.05卓越周期
加速度応答スペクトルの例を上の図に示します。 長周期構造物では、応答加速度の最大値は小さくなります。 すなわち、超高層建築物に加わる力は小さくなるのです。 つまり、柳の木のように地震による力を受け流すことができるのです。 以上が、日本で超高層建築物を建てることができる理由です。73
加速度応答スペクトル
(2)
地震波は多くの周期成分を持った波で構成され
ている。
固い地盤では、短い周期成分を持った波が勢力
を増し、逆に柔らかい地盤では、長い周期成分を
持った波が勢力を増す。
地震波において、勢力を増した周期帯を卓越周
期と呼んでいる。
卓越周期帯にある建物は共振を起こして揺れや
すいので注意を要する。
地震波は、多くの周期成分を持った波で構成されています。 固い地盤では、短い周期成分を持った波が勢力を増し、逆に柔らかい地盤では、長い 周期を持った波が勢力を増します。 地震波において、勢力を増した周期帯を卓越周期と呼んでいます。 卓越周期帯にある建物は、共振を起こしやすいので注意を要します。 昔、関東大震災がありました。関東地方の下町は、関東ローム層と呼ばれる非常に軟ら かい地盤の上にあります。一方、山の手は岩盤がすぐ下にありますので、固い地盤の上 にあります。大正時代なので、東京の町には、木造の住宅がたくさん建っていました。ま た、当時の住宅には、お倉が併設されていました。住宅は比較的柔らかい固有周期を、 一方、倉はそれ比べると短い固有周期を持っています。震災による被害を調べると、山 の手では倒壊した倉が多く、下町では住宅がたくさん倒壊していたと言われています。 すなわち、固い地盤の上では短い固有周期を持った倉の被害が多く、柔らかい地盤の 上では長い固有周期を持った木造住宅の被害が多かったということです。Rt:振動特性係数
地震動の卓越周期帯は、1秒以下であることが多いので、設計では、長周期建築物に 対して、層せん断力係数の低減率を大きくとれるように振動特性係数の中で決めてあり ます。 また、柔らかい地盤では長い固有周期を持った建築物はよく揺れるので、層せん断力 係数の低減は固い地盤より軟らかい地盤の方が小さくなるように振動特性係数の中で 決めてあります。75