• 検索結果がありません。

「破土器」の使用痕分析 : 良渚文化における石製 農具の機能 (4)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「破土器」の使用痕分析 : 良渚文化における石製 農具の機能 (4)"

Copied!
21
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

「破土器」の使用痕分析 : 良渚文化における石製 農具の機能 (4)

著者 原田 幹

雑誌名 日本考古学

号 38

ページ 1‑17

発行年 2014‑10‑10

URL http://hdl.handle.net/2297/47917

(2)

原 田 幹

「破土器」の使用痕分析

―良渚文化における石製農具の機能(4)―

(3)
(4)

原 田   幹

−論 文 要 旨−

 本研究は、実験使用痕研究に基づいた分析により、良渚文化の石器の機能を推定し、農耕技術の 実態を明らかにしようとする一連の研究のひとつである。

 長江下流域の新石器時代後期良渚文化の「破土器」「石犂」と呼ばれる石器は、主に耕起具とし ての機能・用途が想定されてきたが、これを疑問視する意見もある。本稿では浙江省・江蘇省・上 海市で出土した「破土器」の機能を明らかにするために、金属顕微鏡を用いた使用痕分析を実施し た。微小光沢面、線状痕などの使用痕を観察・記録することで、石器の使用部位、着柄・装着方 法、操作方法、作業対象物を推定した。

 分析の結果、破土器の使用痕には、①草本植物に関係する微小光沢面が認められる、②光沢面の 粗さが表裏で異なる、③使用痕の分布は表裏の広い範囲に及ぶ、④柄部に光沢の空白域が認められ る、⑤刃面では光沢の発達が弱い、⑥光沢の発達方向及び線状痕の方向は長側縁と平行する、⑦側 縁に顕著な摩滅と線状痕が認められる、といった特徴が得られた。使用痕からは、長側縁に平行す る柄に装着され、この柄を長側縁に対し平行に操作し、下辺の刃部で草本植物を切断する機能が推 定された。使用痕の一部に、土との接触が想定されるものの、直接土を対象として用いられた耕起 具ではなく、草本植物の切断に用いた除草具のような性格の石器ではないかと考えられる。

 また破土器の使用方法について検討するために、操作方法、土壌といった条件を設定し、復元石 器による実験を行った。出土石器の使用痕と比較した結果、密集した草本植物を根元で土の中に押 し込むようにして切断するものと考えた。

 本分析結果は、破土器を耕起具とするこれまでの見解に見直しをうながすものであり、良渚文化 の農耕技術についてあらためて検討する必要がある。

受付:2014年2月14日 受理:2014年8月4日

キーワード

対象時代 新石器時代

対象地域 中国、長江下流域、浙江省、江蘇省、上海市 研究対象 良渚文化、破土器、石器使用痕分析

はじめに

Ⅰ.形態と用途の諸説

Ⅱ.使用痕分析

Ⅲ.破土器の使用痕と機能

Ⅳ.実験的検討

Ⅴ.破土器の使用方法 おわりに

「破土器」の使用痕分析

―良渚文化における石製農具の機能(4)―

(5)

 はじめに

 新石器時代における長江下流域の経済的基盤は、稲作 を主体とする農耕生産にもとめられる。新石器時代後期 の良渚文化では、多種多様な形態に分化した精緻な磨製 石器が存在し、石鎌・石刀・耘田器・破土器・石犂など の特徴的な石器は、農耕技術の一定の到達度を示す資料 として評価されてきた(厳1995、中村2002b)。しか し、個々の石器の具体的な機能・用途については諸説が あり、見解の一致をみていないこともまた事実である。

良渚文化の農耕技術を正しく位置付けるためには、これ らの石器の機能・用途を特定する研究が不可欠である。

 筆者は、浙江省・江蘇省・上海市で行われた良渚文化 石器の調査に参加し、高倍率の顕微鏡観察と実験使用痕 分析の方法論を用いて、良渚文化の石器の機能的な検討 を行ってきた。使用によって生じた痕跡をもとに、使用 部位、操作方法、作業対象物といった石器の基礎的な機 能を把握し、最終的には、石器の農具としての役割を再 評価することを目的としている。この分析調査の成果と して、それまで除草具、耕起具、収穫具など諸説あった

「耘田器」と呼ばれる石器が、イネ科等草本植物を対象 とした収穫具であり、現在も東南アジアにみられる「押 し切り」による操作方法と同じように用いられたという 新しい見解を発表した(原田2011)。この成果に関連し て、有柄石刀の機能(原田2013a)、良渚文化前後の収穫 具の使用方法の変化(原田2013b)について検討を行っ てきた。また、収穫に関連する石器として、石鎌の使用 痕と機能についても別途論考を発表した(原田2014)。

 本稿及び次稿では、良渚文化石器の一連の分析とし て、「破土器」「石犂」と呼ばれている石器の機能につ いて検討する。これらの石器は、その名称があらわすよ うに、主に耕起具としての機能・用途が想定されてき た。ただし、その根拠は、主に石器の形態的な特徴によ るものであり、耕起具としての機能を疑問視する意見も 存在する。まず本稿では、「破土器」と称される大形の

三角形石器をとりあげ、中国で実施した石器使用痕分析 の成果に基づき、石器の使用部位、操作方法、作業対象 物について検討する。次に、破土器を想定した使用実 験、農学的な視点からの検討を加え、これらの石器の機 能・用途について考察する。

 Ⅰ.形態と用途の諸説

  (1)形 態

 破土器は、浙江省・江蘇省・上海市など太湖周辺の地 域を中心に分布する石器である。年代的には、良渚文化 に入ってから出現し、青銅器時代の馬橋文化まで存続す る(中村2002b)。

 平面形は三角形を呈し、一辺に刃部を有する。刃部の 反対側に長側辺を延長させた突出部をつけるもの、短側 辺に抉りを入れるもの、器面に1ないし数個の孔を穿つ ものなど、形態的なバリエーションがある。大形品が多 く、なかには50㎝を超える特大のものもある。刃部は片 刃で、比較的鋭く研ぎ出されている。刃面を表とした場 合、左斜辺に三角形の長側辺がくるのが通有の形態であ る。本稿では、図1のように、刃がつけられている面を a面、平坦な面をb面と表記する。

  (2)機能・用途の諸説

 破土器、石犂の機能・用途については、様々な論考で 述べられているが、その多くはこれらの石器を耕起具と して位置付けるものである。

 破土器の特徴的な突出部は、柄の装着部として復元さ れる。この石器の機能・用途は、牽引して使用する犁の

図1 破土器の形態と各部名称 図2 破土器の復元(牟・宋1981)

刃部 刃面

柄(把手)部 長側辺

短側辺

表主面 裏主面

先端部

a面 b面

(6)

一種とする説が定説化しているが、その他にも、伐採・

除草の機能をもった石器、解体・調理用の石器などの意 見もみられる。

 牟永抗・宋兆麟は、破土器を4型式に分類し、その着 柄方法の復元も行っている(図2)。牟・宋は、破土器 を犁の一種と考え、水田灌漑のための溝を切り開くため の土掘り具とし、牽引して使用されたと想定した(牟・

宋1981)。

 中村慎一は牟・宋の説を支持し、破土器が他の遺物を 伴わず単独で発見されることがあり、それは集落から離 れた耕地またはその近辺に遺棄された結果ではないかと 指摘した(中村1986)。

 劉軍・王海明は、中耕除草用の畑作農具とする見解を 述べている(劉・王1993)。

 梶山勝は、オシガマなどの日本の農具を参考に、畦の 側面に生えた雑草を削り落とす除草具ではないかとし、

畑作との関係を想定している(梶山1989)。

 また、この他にも、解体・調理用の大形の包丁とみる 意見もある(安1988)。

 Ⅱ.使用痕分析

  (1)分析資料

 本分析は、日中共同研究「良渚文化における石器の生 産と流通」(中村2002a、原田ほか2003)の一環として 実施したものである。浙江省・江蘇省・上海市の各研究 機関に所蔵されている破土器を分析した(図3)。図 4・5に掲載した遺物実測図は、共同研究調査において 作成した図面を使用している。これらの資料には、発掘 調査の出土品だけでなく、採集資料なども含まれてい る。帰属時期が不明確な資料もあるが、形態的に良渚文 化あるいはこれに前後するとみられるものをとりあげて 分析を行った。

 破土器は、9点の資料をとりあげる(図4・5)。図 4−1〜4は浙江省内各地で出土したもので、平面形が 不整三角形を呈するものである。図4−5〜8は上海博 物館所蔵の馬橋遺跡出土資料である。これらの多くは、

形態的には良渚文化に後続する馬橋文化のものを含むと みられる。図5−9は刃長50㎝を超える特大の破土器で ある。

  (2)分析の方法

 使用痕分析は、使用という人間行動の結果と使用によ って石器に生じた物理的・化学的な痕跡との関係を理解 し、道具としての機能や使われた環境など使用に関する 情報を得ようとする分析手法である。本分析は、実験資 料に基づいて使用痕を観察・解釈する実験使用痕分析に

立脚したものである(阿子島1989・1999、御堂島2005、

山田2007など)。高倍率の落射照明型顕微鏡を使用し、

主に微小光沢面(以下、光沢面)や微細な線状痕を観察 する高倍率法(Keeley1980)による分析を実施した。

 光沢面は、顕微鏡下で石器表面が光沢をおびたなめら かな面として観察されるもので、作業対象物との接触に よって石器表面が摩耗することで形成される。光沢面の 特徴は、平面的な広がり方、高低差、表面のきめ、明る さ、ピットや線状痕などの付属的な属性によって、いく つかのパターンに分けられている。この光沢面のパター ンは、作業対象物の種類(イネ科等の草本植物、木、

骨・角、皮、肉、土など)やその状態(乾燥状態、水分 を含むなど)と一定の関係をもつことが、実験的に確か められている(梶原・阿子島1981、御堂島1988)。

 線状痕は、石器の運動方向に沿って形成される線状の 痕跡で、石器の操作方向を推定する手がかりになる。本 分析では、主に光沢面の表面に形成されたきわめて微小 な線状痕を観察対象としている。また、彗星状ピットも 光沢面の属性の一つで、石器の操作方向を特定する手が かりとなる痕跡である。

  (3)観察と記録

 使用痕の観察には、同軸落射照明装置を内蔵する金属 顕微鏡(オリンパス製BX30M)を使用した。観察倍率 は、100・200・500倍(対物レンズ10・20・50倍と接眼 レンズ10倍の組み合わせ)である。資料の観察にあたっ て特別な前処理は行っていないが、観察前にアルコール

図3 分析資料出土地位置図

上海

杭州 南京

浙江省 江蘇省

上海市

紹興 寧波

舟山群島

金華 湖洲 嘉興

太湖 蘇州 無錫 常州

揚州 泰州

南通

富春 長江

0 100 200

km

1: 昆山市内(4)、2:青浦果園村(9)、3:馬橋遺跡(5 〜 8)、4::湖 州市内(1)、5:廟前遺跡(3)、6:舟山市内(2)

*( )は図 4・5 の資料番号に対応

5 4

6

(7)

で石器表面に付着した脂分などの汚れを拭き取った。

 使用痕は、主に光沢面と線状痕を観察し、肉眼やルー ペで観察される剥離痕・擦痕(規模の大きな線状痕)・

摩滅痕などを補足的な情報として記録した。実際の観察 では、まず石器の刃部を中心に使用痕の有無を確認し、

使用痕が観察された石器については、光沢面の特徴や分 布範囲、線状痕の方向等を実測図上に記録した。あわせ て、デジタルカメラ(カシオ製QV-2300UX)で使用痕 の写真を撮影した。

 破土器の石材はホルンフェルスあるいは粘板岩といっ た石材が用いられている。なかには風化によって表面が 白色化し、使用痕の検出が難しい石器もあったが、総じ て石材表面の遺存状態は良好で、分析には条件の良い資 料であった。

 本分析で観察された光沢面のタイプ(梶原・阿子島 1981)は、Aタイプ及びBタイプの光沢面である。Aタ イプは明るくなめらかで広い範囲を覆うように発達する 特徴的な光沢面で、イネ科草本植物に対する作業で特徴 的に現れる。Bタイプは明るくなめらかで丸みをおび、

水滴状の外観を呈することがあり、木に対する作業や草 本植物に関する作業に関係する。また、破土器の機能・

用途において想定される光沢面にはXタイプがある。X タイプは、表面のコントラストは鈍く、全面が凹みや線 状痕で覆われ荒れた外観が特徴である。この光沢は土に 対する作業や作業時に土が混入することで生じる。

 AタイプあるいはBタイプの光沢面の残存状況が良好 な資料については、光沢面の発達程度を実測図上に記入 した光沢強度分布図を作成した(図4)。光沢強度分布 図は、阿子島香が石庖丁の分析に導入した手法である(須 藤・阿子島1984・1985)。草本植物など光沢面の分布範 囲が広く、漸移的に発達を強める光沢面に有効で、石器 の使用方法を復元する上で有益な情報が得られる。本分 析では、主に200倍観察視野中に占める光沢面の広がり 方を目安とし、光沢面の発達に応じて、次のように区分 した。

 強:光沢面パッチが大きく発達した状態。平面的に広    範囲に広がるものを含む。

 中:小さな光沢面が密集または連接し広がりつつある    状態。

 弱:小さな光沢面が単独で散在する状態。

 なし:光沢面が認められない状態。

 光沢面の大きさ、面積等は厳密に計測していないが、

強は概ね径100μm以上、中は50〜100μm、弱は50μm 以下を目安としている。

 また、実測図中に記載された写真番号は、顕微鏡写真 の番号に対応し、写真番号キャプションの向きは、顕微 鏡写真の向きと対応している。

 Ⅲ.破土器の使用痕と機能

  (1)観察結果の概要

 石器番号は図4・5の番号に対応し、( )内は筆者 分析番号である。写真番号は図6〜8に対応する。

図4−1(S-01013)

 完形品で、遺存状態は良い。三角形の器体に長方形の 抉りを入れ、柄部を作出している。刃部は片刃で鋭く研 ぎ出され、刃面には斜行する直線的な擦痕が認められる

(図6−写真2)。刃部には、数ミリ以上の大きめな剥 離痕があり(図6−写真1)、使用によるものとみられ る。この資料は、刃面を表にした場合、柄部が左側に付 き、通常とは左右逆の作りになっている。

 両面に光沢面が認められる。光沢面は水滴状の丸みを もち、明るく非光沢部とのコントラストが強い(図7−

写真5・6)。Bタイプが主で、一部Aタイプに近いも のも認められる。光沢面は表裏で分布範囲と発達程度に 差が認められる。平坦なb面ではa面より広範囲に光沢 が分布し、光沢の発達も強い。発達した部分では線状痕 と線状の構造をもつピットが観察される。a面では光沢 の発達は裏面に比べ相対的に弱い。抉りが入れられてい る部分とその延長線上を境に光沢の分布がみられない部 分がある。刃面では研磨による擦痕が顕著に観察される が、光沢面の発達は弱い(図7−写真7)。

図4−2(S-01019)

 肉眼による観察では石材の遺存状況は良好である。左 側縁に沿って、2孔穿孔がある。側縁には二次加工によ る剥離痕がみられるが、全体的に摩滅し剥離の稜が潰れ 丸みをもっている。

 使用痕と考えられる光沢面が両面で観察された。光沢 面はBタイプおよびAタイプに分類される(図7−写真 8)。b面ではa面より光沢の発達が強い。刃縁に沿っ て光沢の発達した部分が広がり、光沢部が連接し大きく 発達している。光沢面の発達が強い部分では線状痕と線 状の構造をもつピットが観察され、刃部に平行ないしは やや斜行する方向性をもつ。a面では光沢の発達はb面 に比べ相対的に弱く、水滴状のパッチが斑状に散在す る。刃面では光沢面の発達は微弱である。両面とも、短 い側辺の突起状の部分から穿孔部を結ぶラインを境に非 光沢部が広がっている。

図4−3(S-01015)

 器面はやや白っぽく風化している。刃部には使用によ るとみられる大きな剥離痕が観察され、b面側で顕著で ある。側縁には二次加工による剥離が残されている。

 a面は風化が強く、光沢面はほとんど確認できなかっ

た。b面も風化の影響を受けているが、使用痕とみられ

(8)

図4 破土器使用痕分布図(1)

1.湖洲市内出土(湖洲市博物館)、2.舟山市内出土(馬嶴博物館)、3.廟前遺跡(浙江省文物考古研究所)、

4.昆山市内出土(昆山市文化管理所)、5〜8.馬橋遺跡(上海博物館)

0 20cm

(S-02006)

(S-02007)

(S-02008)

(S-02009)

  光沢強

  光沢中

  光沢弱

  光沢なし

  不明・観察不能 凡例

線状痕の方向 光沢強度の境界 1

2 3

4 5 6

7 8

写真1 写真 2

写真 3 写真4 写真 5

写真6

写真 7 写真8 写真9

写真10

写真11 写真 12

写真 14

写真 15

写真 16

写真 17 写真18

写真 19

(S-01013)

(S-01019) (S-01015)

(S-02039)

光沢空白域

光沢空白域 光沢空白域

光沢空白域

写真13

光沢空白域

(9)

る光沢は黒色の鉱物上で観察される(図7−写真9)。

光沢面は器面の広範囲に分布し、刃縁で最も発達してい る。光沢面は明るくなめらかで縁辺は丸みをもつ。全体 に水滴状の丸みをもつもの、比較的平坦な発達を示すも のがあり、Bタイプ、Aタイプの光沢面に近い。風化の 影響によりやや荒れたものが多く、発達の弱い柄部側で は鉱物の摩滅面との識別が難しく、正確な光沢分布範囲 は不明である。比較的発達した刃縁では線状痕および線 状の構造をもつピットが観察され、刃部に対し斜行、長 側縁と平行するものが多い。

図4−4(S-02039)

 両側縁に一次加工の剥離痕を残す。長側縁では摩滅が 強く、若干光沢を帯びる。

 観察される使用痕は、Aタイプ、Bタイプの光沢面で ある。両面ともに光沢は発達しているが、b面の発達が 若干強いと思われる。光沢面は比較的なめらかで、点状 の光沢が大きく発達している(図7−写真11)。長側縁 の縁辺の光沢は発達が強く光沢面も非常になめらかであ る(図7−写真10)。側縁と平行する線状痕が明瞭に観 察される。

図4−5(S-02009)

 刃部は片刃だが、刃面と主面との境界となる稜はあま り明瞭ではない。石材表面は大部分が剥落し、原表面は 部分的にしか残っていない。表面が残存している部分で は、肉眼でも光沢が観察される。

 原表面が遺存している部分のみ光沢面が残存し、きわ めて発達したAタイプの光沢面が観察される(図7−写 真12)。線状痕は長側縁から柄部に平行する方向性をも つ。a面の光沢表面が比較的なめらかなのに対し、b面 で観察される光沢表面は若干荒れている。

図4−6(S-02008)

 側縁は弧状を呈し、刃部は内彎する。刃縁にはわずか に剥離痕が認められる(図6−写真3)。側縁は摩滅し ている(図6−写真4)。

 光沢面はBタイプ、Aタイプである。使用痕は両面に 分布するが、a面で強く発達している。b面は剥落部分 が多く、観察できない範囲が広い。光沢面はa面が比較 的なめらかなのに対し(図8−写真14)、b面では石材 表面が荒れ光沢表面も若干なめらかさを欠く(図8−写 真13)。線状痕は柄部・長側縁と平行する。柄部ではa 面で帯状に、b面で全体が光沢の空白域となっている。

図4−7(S-02007)

 紡錘形の器面に、突出する柄部が付く。側縁から柄部 にかけて二次加工の剥離痕を残す。刃部に連続する剥離 痕があり、先端部側に顕著である。

 使用痕は両面の広範囲で観察される。光沢面はAタイ プ、Bタイプ。やや粗い線状痕が発達しており、両面と も長側縁と平行する方向性が認められる。また、a面の 光沢面は比較的表面がなめらかなのに対し、b面では光 沢面がやや荒れており、キズ状の線状痕の頻度が高い。

両側縁には平行する荒い線状痕が観察される。柄部先端 にも光沢面が分布するが(図8−写真15)、a面では帯 状に、b面では全体が光沢の空白域となっている。

図4−8(S-02006)

 図4−7と同様にやや小型で、外湾する刃部を持つ。

刃縁には使用による剥離痕がみられる他、刃縁は光沢を おびている。

 使用痕は両面の広範囲で観察される。光沢面はAタイ プ、Bタイプで、全体に強く発達している。やや粗い線 状痕が発達しており、両面とも柄部と平行する方向性が

図5 破土器使用痕分布図(2) 9.青浦果園村採集(上海博物館)

0 20cm 9

写真 20

(S-02012)

写真 20

(10)

認められる。また、a面の光沢面は比較的表面がなめら かなのに対し(図8−写真17)、b面では光沢面がやや 荒れており(図8−写真18)、キズ状の線状痕の頻度が 高い。両側縁には粗い線状痕が観察され、発達した光沢 面が認められる(図8−写真16)。柄部はa面では帯状 に、b面では全体が光沢の空白域となっている(図8−

写真19)。a面の刃面もほとんど光沢面は観察できない。

図5−9(S-02012)

 幅50㎝を超える特大サイズの破土器である。柄部の延 長線上に1孔穿孔がある。刃部は外湾刃で、片刃である。

 非常に大きな資料のため、全面の分析は行わず、刃縁 を中心に観察した。両面ともにAタイプまたはBタイプ の明瞭な光沢面が観察された(図8−写真20)。分布範 囲も側縁及び柄に近い部分でも同様な光沢面が観察され る。光沢面の特徴及びその分布の仕方は、基本的に他の 小中型サイズのものとかわらないものとみられる。

  (2)使用痕の特徴

 9点の資料で使用痕を検出した。観察された使用痕 は、石器の形態・大きさの違いに関わらず、ほぼ共通し た特徴をもっている。以下、使用痕の特徴についてまと

めていこう。

 ① 観察された光沢面は、Aタイプ、Bタイプを主体 とする。

  破土器で観察された光沢面は、非常に明るくなめら かなで、石器器面の広い範囲にわたって面的に分布し ている。光沢面の外観は面状を呈し、発達の弱い部分 は、連接または点状の部分もみられる。断面は比較的 平坦で、細部ではなめらかな丸みをもつ。光沢表面の きめはなめらかで、ピット、彗星状ピット、溝状また は微細な線状痕などの付属的な属性が観察された。光 沢面の分類では、面的に広く発達したものがAタイ プ、発達の弱い部分はBタイプの特徴に近い。ただ し、これらの明瞭な光沢面の周辺部に少し荒れた鈍い 光沢面がともない、光沢表面に溝状の線状痕や表面が やや荒れている部分もみられる。

 ② 光沢表面の荒れが表裏面で異なる場合がある。

  a面(刃面側)では比較的なめらかな光沢がみられ るが、b面(平坦面側)では光沢表面が荒れたものが 多く、キズ状の線状痕を伴うものもある。

 ③ 使用痕はa・b両面の広い範囲に分布している。

  光沢面の発達は刃縁に沿った部分で最も発達してい

図6 破土器各部位拡大写真

写真 1 1 b面刃部拡大 写真 2 1 a面刃部拡大

写真 3 6 a面刃部拡大 写真 4 6 a面側縁部拡大

(11)

図7 使用痕顕微鏡写真(1)

写真 5 1 a面主面(対物 20 倍) 写真 6 1 b面刃部(対物 20 倍)

写真 7 1 a面刃面(対物 20 倍) 写真 8 2 b面刃部(対物 50 倍)

写真 9 3 b面刃部(対物 20 倍) 写真 10 4 b面長側縁(対物 20 倍)

写真 11 4 b面刃部(対物 20 倍) 写真 12 5 a面主面(対物 20 倍)

(12)

図8 使用痕顕微鏡写真(2)

写真 13 6 b面刃部(対物 20 倍) 写真 14 6 a面主面(対物 20 倍)

写真 15 7 a面柄部(対物 20 倍) 写真 16 8 a面長側縁(対物 20 倍)

写真 17 8 a面主面(対物 20 倍) 写真 18 8 b面主面(対物 20 倍)

写真 19 8 a面柄部(対物 20 倍) 写真 20 9 a面刃部(対物 50 倍)

01013̲11 20X 09080032

(13)

るが、器面の広い範囲に発達した光沢面が広がってい る。図4−1・6〜8については、主面だけでなく、

柄部にも光沢面が観察され、作業対象物の接触範囲が 石器の大半に及んでいることがわかる。

 ④ 柄部に光沢の空白域が認められることがある。

  光沢はほぼ全面に分布するが、不自然に光沢が途切 れ、空白域となっているものがみられる。a面とb面 では、光沢の空白域のあり方が異なる場合がある。図 4−1・6〜8では、a面は横方向の帯状に、b面は 全体に空白域が広がっている。

 ⑤ 刃面では研磨による擦痕が顕著で、光沢面が微弱 であるか観察されないことが多い。

  刃面には、刃と平行あるいは斜めに研磨が施され、

特徴的な擦痕が観察される。この部分では、使用痕光 沢面の発達が弱い場合が多い。

 ⑥ 光沢の発達方向及び線状痕の方向は、表裏とも長 側辺と平行する。

  刃縁では、刃部と平行する線状痕もみられるが、多 くは刃部と斜行し、石器の長い方の側縁、すなわち柄 部の突出する方向と平行する関係にある。

 ⑦ 側縁の摩滅と線状痕

  側縁の摩滅部では、比較的深くストロークの長い直 線的な線状痕が多く見られる。この部分には発達した 光沢面が顕著であるが、これらの光沢は線状痕の後に 形成されている。

  (3)機能の検討

 以上が顕微鏡観察で得られた破土器の使用痕の特徴で ある。次にこれらの特徴に基づいて破土器の機能につい て検討する。ここでは石器の使用部位、着柄・装着方法の 復元、石器の操作方法、作業対象物の順に推定していく。

使用部位

 光沢面の発達状況からすると、下辺の刃部が主な機能

部と考えられる。ただし、石器のほぼ全面が作業対象物 と接触し、石器の運動範囲も大きなことが推測される

(特徴③)。

着柄・装着方法

 特徴④の柄部における光沢面の空白域は、この部分が 柄などの器具に装着され、露出していなかったことを示 している。図4−1・6〜8のような例から、図9のよ うに、裏面に柄をあてがい表面にかけて紐状のもので緊 縛していたと考えられる。

操作方法

 線状痕の方向から推定すると、石器の運動方向は柄の 方向(長側辺)と平行し、対象物に対し刃は斜めに接触 している(特徴⑥)。これは、柄を石器の長側縁と平行 に装着し、この柄を平行方向に前後に動かすことで石器 を操作したことを表している。

作業対象物

 特徴①の光沢面の特徴からすると、直接の作業対象物 はイネ科等の草本植物と考えられる。特徴②のa面とb 面の光沢表面の違いは、面の使い分けがなされていたこ とを示唆する。b面の光沢表面の荒れは土の混入による 可能性が考えられ、b面を地面の側に向けて地表に近い 部分で使われたと考えられる。

その他

 特徴⑥によれば刃面は度々研ぎ直しを受け、この部分 では光沢は弱くなっている。また特徴⑦の側縁の摩耗痕 や擦痕は、植物に起因する光沢の形成以前に生じたもの である。顕微鏡下の観察では土による痕跡よりも研磨の 痕跡に近く、使用痕ではなく加工痕とすべきであろう。

 以上の観察所見から考えると、破土器は溝切りや耕起 の道具とは考えにくく、むしろ草本植物を伐採する除草 具のような性格をもった石器と考えた方が使用痕の状況 を理解しやすい。破土器の使用方法については、次節に おいて、実験的な検討を加えていくことにしたい。

 Ⅳ.実験的検討

  (1)目 的

 使用痕分析の結果、従来耕起具と考えられてきた破土 器から、植物との関係が想定される光沢面が検出され た。この分析結果により、筆者は破土器の機能・用途に ついて、耕起具とは考えにくく、除草など草本植物と関 係する別の用途ではないかとする意見を述べてきた。

 これについては、分析を行った際の意見交換の場など

で、耕作地に残された作物の残稈などが関与してできた

使用痕ではないかという反論、指摘を受けている。確か

に破土器で観察された光沢面は非常に特徴的ではある

が、石庖丁など収穫具の分析をとおして認識されてきた

図9 使用痕分析による破土器の復元図

(14)

の形態は実際の破土器の縮小版で、形も三角形に単純化 したものである。使用痕の分布から復元したように、木 製の柄を装着し、柄への固定には市販のクランプを使用 した(図10−13〜16)。

b.実験の条件

 植物の除草と土の開削作業の違いの他、土壌の種類と 植物の有無、操作方法の違いを考慮して、以下の実験条 件を設定した。

【実験1】S-269 休耕田での除草(図10−1〜3)

 休耕田に生えた雑草をすき取る作業を行った。柄を長 側縁に対し平行に動かし、植物を根本で土中に押し込む 光沢面の特徴とは若干異なっている点もある。また、こ

れまでの実験使用痕分析では、単純な土の掘削実験は行 ってきたが、土壌の状態や石器の操作方法を考慮した実 験はまだ限定的である(原田2013c)。

 以上のような問題をふまえ、破土器の使用を想定した 予備的な実験を行うことで、良渚文化の破土器、石犂の 使用痕を検討していくための一助としたい。

  (2)実験の概要

a.実験石器

 石材は江蘇省採集のホルンフェルスを使用した。石器

図10 実験石器使用法

v v

稲株

v v

v v

草本植物

v v

正面から 上から

上から

上から

2. 実験 1 作業状況

1. 実験 1 草本のすき取り 3. 実験 1 作業後の状況

13. 実験 1 実験石器着柄状況

5. 実験 2 土 ( 水田 ) の開削

4. 実験 2 土(水田)の開削 6. 実験 2 作業後の状況

14. 実験 1 着柄部拡大

8. 実験 3 土 ( シルト ) の開削

10. 実験 3 土(シルト)の開削

7. 実験 3 土(シルト)の開削 6. 実験 3 作業後の状況

15. 実験 3 実験石器着柄状況

11. 実験 4 土 ( シルト ) の掘削 12. 実験 4 作業後の状況

16. 実験 4 実験石器着柄状況

(15)

ようにして、切断またはなぎ倒す動作を繰り返した。

【実験2】S-270 (イネ根株を含む)水田での土の開 削(図10−4〜6)

 収穫後の水田で、柄を長側縁に対し平行に押しだし、

土壌を切り開いていく作業を行った。土中にはイネの根 株が残っており、根に引っかかるたびにこれを押し切り ながら作業を進めた。

【実験3】S-274 (植物を含まない)土の開削(図10

−7〜9)

 操作方法は実験2と同様だが、沖積地のシルト質の土 壌(遺跡の基盤層)で、植物を含まない条件で実施した。

【実験4】S-275 (植物を含まない)土の掘削(図10

−10〜12)

 実験3と同じ条件の土壌。操作方法を切り開く動作で はなく、掘り棒のように刃を土に打ち込みながら掘削す る作業を行った。

c.実験の経過

 実験1と実験2は、静岡市登呂博物館の復元水田で実 施した

1)

。実験3と実験4は、愛知県稲沢市の遺跡発 掘調査現場において行った

2)

 各作業の内容は大きく異なるため、単純に作業量を比 較することはできない。実験1は作業時間約60分、面積 にして約12㎡分の範囲を除草した。石器部分は強い衝撃 を受け、最終的には、石材の節理面で破損し、使用でき

図11 実験石器光沢分布図、拡大写真

光沢微弱

  光沢強

  光沢中

  光沢弱

  光沢なし 凡例

線状痕の方向

0 10cm

実験 1

実験 2

実験 3

実験 4

S-269

S-270

S-274

S-275

写真 1 写真 2

写真 3 写真 4

写真 5 写真 6

写真 7 写真 8

1. 実験 1 長側縁

2. 実験 1 刃部

3. 実験 2 刃部

6. 実験 4 刃部 4. 実験 3 長側縁

5. 実験 3 刃部

(16)

図12 使用痕顕微鏡写真

写真 1 実験 1(対物 20 倍) 写真 2 実験 1(対物 20 倍)

写真 3 実験 2(対物 20 倍) 写真 4 実験 2(対物 20 倍)

写真 5 実験 3(対物 20 倍) 写真 6 実験 3(対物 20 倍)

写真 7 実験 4(対物 20 倍) 写真 8 実験 4(対物 20 倍)

(17)

なくなった。実験2は、水田の端から端までを折り返 し、通算約770m(作業時間約130分)の作業量を行っ た。実験3は、約5mを単位として計1,025m(作業時 間約80分)の作業を実施した。実験4は計5,000回(作 業時間37分)の掘削動作を行った。

  (3)実験石器の使用痕

 実験石器に形成された使用痕を出土石器と同じように 観察・記録した(図11・12)。使用痕の特徴は観察表に まとめた(表1)。この観察表は、肉眼、低倍率、高倍 率の各観察スケールで把握された使用痕の種類とその属 性に基づいて記録したもので、使用痕の種類、属性項目 等の観察基準は石器使用痕研究会の共同研究の成果に基 づいている

3)

a.肉眼観察

 摩滅、光沢、線状痕、剥離痕について比較した。摩滅 は、程度の差はあれ4つの実験いずれでも生じた。摩滅 の強度は、実験4の刃縁が最も顕著で、次いで実験3の 刃縁及び側縁が強く、実験1、実験2はあまり発達して いない。肉眼で識別できる光沢もすべての石器で認めら れる。実験1は刃縁、実験2は刃縁でも短側縁に近い部 分、実験3は刃縁の広い範囲にみられ、実験4は縁辺に 部分的にみられる。線状痕、剥離痕は、肉眼で観察でき

る変化は確認できなかった。

b.低倍率観察

 ここでも磨滅痕が顕著にあらわれ、実験4、実験3の 発達が強い。線状痕、微小剥離痕はほとんど確認できな かったが、実験4では刃縁の摩滅と一体的に、刃縁と斜 行する荒い線状痕が確認できる。

c.高倍率観察

 このスケールでは、光沢面の比較において、興味深い 痕跡が確認できた。まず、実験1(図12−写真1・2)

と実験2(図12−写真3・4)で刃縁に生じた光沢面 は、よく似ている。光沢面は、面的に広がり、断面は丸 みをもち、光沢表面はコントラストが強く非常になめら かである。この特徴は、草本植物と関係が強いAタイプ やBタイプの光沢面に近い。これらの光沢面の形成に は、実験1では地表付近ですき取った草本植物が、実験 2では水田土壌中に残されていた稲株が関与したと考え られる。なお、実験1では、わずかな差であるが、上を 向けて使用したa面の光沢面(図12−写真1)より、地 面に接したb面の光沢面(図12−写真2)の方が、光沢 周辺部が荒れている。

 次に、実験3だが、ここでも面的に広がる明るい光沢 面が形成された(図12−写真5・6)。光沢面の広がり 方や外観など、一見しただけでは、実験1、実験2の光

表1 実験石器の使用痕比較

実験番号 実験1 実験2 実験3 実験4

石器番号

実験内容 草本のすきとり 土・水田の開削 土・シルトの開削 土・シルトの掘削

程度 弱 弱 中 刃縁・側縁 強 刃縁が強く摩滅

有無 位置 有 刃縁 有 刃部短斜辺より 有 刃縁の広い範囲 有 縁辺に部分的

方向 不明 不明 不明 不明

分布 不明 不明 不明 不明

程度 中 刃縁、側縁 中 刃縁、側縁 強 刃縁、側縁 強 刃縁が強く摩滅

方向 不明 不明 不明 斜行

有無 不明 不明 摩滅により不明 不明

程度 弱 中 強 強

方向 不明 不明 平行? 不明

有無 有 有 有 不明 または限定的

分布 刃縁先端より 刃縁 刃縁全体 −

縁辺分布型 連続 連続 連続 −

分布境界型 漸移的 漸移的 漸移的 −

低部侵入度 中〜大 中〜大 大 一様に摩滅 −

平面形 面状 面状 面状 −

断面形 丸い〜平坦 平坦〜丸い 平坦〜丸い −

光沢面方向性 平行 平行 平行 大きな起伏 −

表面のきめ なめらか なめらか 中間〜なめらか −

コントラスト 強 強 強 −

ピット 少ない やや少ない やや多い −

彗星状ピット 少 平行 有 平行 有 平行 −

線状痕の方向 平行 平行 平行 −

線状痕種類 微細(少ない) 微細(やや多い)、溝状溝状、微細 −

クラック 不明 不明 不明 −

備考 裏面の光沢面は若干

荒れ、発達弱い。 実験①に比べるとわ

ずかに粗い。 光沢部をこえる粗い

溝状の線状痕。 摩滅面光沢なし。肉 眼光沢は研磨痕か。

高倍率 スケール 属性

肉眼

線状痕 摩滅 剥離痕 線状痕 低倍率

光沢 摩滅

線状痕 摩滅 微小剥離痕

微小光沢面 形 状

付随 属性 分布

(18)

沢面とよく似たようにみえるが、属性レベルで細かく比 較すると少し違った特徴がみえてくる。低部への侵入度 では、実験1・2は高所から光沢面が発達しているが、

実験3は低所まで一様に光沢に覆われている。光沢面の 発達に方向性があり、進行方向に沿った起伏がはげし い。また、光沢表面は、ピット、溝状の線状痕が多く、

やや荒れた外観を呈している。

 実験4は実験3と同じ土壌条件で用いられたものだ が、使用痕の状況は全く異なる。この石器では、摩滅痕 は発達しているが、明確な光沢面は形成されなかった

(図12−写真7・8)。

 以上、実験1及び実験2の光沢面は特徴がよく似てお り、草本植物が関与して形成されたものとみられる。特 に実験2は、水田中に残された稲株と根を巻き込んだこ とで形成されたとみられる。実験3は、植物を全く含ま ないことから、土によって生じたものとみられるが、従 来知られていたXタイプと異なり、かなりなめらかな光 沢面である。一見しただけでは、植物に関係したBタイ プ、Aタイプにも類似しているが、高所から低所まで一 様に形成されている点、明瞭な溝状の線状痕をともなう 点、輪郭のはっきりとした無数のピットに覆われている 点は、植物より土に近い特徴である。一方、実験3と同 じ土壌の実験4では光沢は形成されなかった。この違い は、実験3ではゆっくりと石器表面と土が接触し表面の 摩耗が徐々に進行したのに対し、実験4ではより強く土 と接触することで、光沢が形成されるより早く石材表面 の摩滅が進行し光沢面が失われたためだと考えられる。

同じ操作でも、水田で作業した実験2では、実験3のよ うな光沢面の広がりは認められない。操作方法だけでな く、土壌の条件も光沢面の形成に関与している可能性が 考えられる。

 Ⅴ.破土器の使用方法

 実験結果をⅢ−(2)で確認した破土器の使用痕の特 徴と比べてみよう。使用痕の特徴①(光沢面の特徴)

は、実験1、実験2で形成されたものに近い。特徴②

(表裏で光沢面の粗さが異なる)は、実験1で確認でき た。これは下面側が直接土と接触した影響だと考えられ る。特徴③(使用痕が広範囲に分布)も、草本植物との 接触範囲が広い、実験1の使用条件に合っている。今回 の実験では、実験3、実験4以外は、線状痕の発達は明 瞭ではないが、特徴⑥(線状痕の方向が長側縁と平行す る)は、柄を前後に押し出す実験1の操作方法により理 解できる。以上の点からみても、基本的には草本植物と の接触が主要な形成要因であり、間接的に土が介在する ような使用状況を想定するのが、より合理的な解釈であ ろう。なお、特徴④(柄部の光沢空白域)と特徴⑤(刃

面の光沢未発達)は、使用痕の性格上、今回の実験で は、再現されていない。

 以上のように、実験石器の使用痕をふまえ検討した結 果、出土資料の破土器の使用痕に最も近く、操作方法と して合理的に解釈できるのは、実験1の植物のすき取り である。これまで考えられてきた使用法では、除草具と しての性格が最も近い。これは、石器自体の重さを利用 して、密集した草本植物を根元で土に押しこむようにし て切断したものと考えられる。

 最後に破土器の使用方法についてまとめると、次のよ うな操作が推定される。まず、破土器には長側縁に平行 する柄がつけられていたとみられる。光沢面の分布から は、柄はb面(平坦面)の方にあてがわれ、紐などで緊 縛し固定されていたと復元される。使用時にはa面(刃 面側)を上、b面(平坦面)を下に向け、柄を長側縁に 対し平行に押し出すように動かし、下辺の刃部を用いて 密集した草本植物の根元を土の中に押し込むようにして 切断あるいは薙ぎ倒すように用いられたとみられる。道 具の性格としては、耕起具というよりも、植物をすき取 る除草具に近いものであったと考えられる。

 おわりに

 破土器は田畑で用いられた耕起具だというのがこれま での通説であったが、高倍率観察による使用痕分析の結 果、これとは異なる作業対象、使用方法が想定された。

実験的な検討により、主として草本植物を対象に用いら れた、除草具のような性格の石器だと推定した。

 今回の分析結果は、破土器や石犂といった独特の形態 の石器を耕起具とし、良渚文化期の農耕技術の集約性に 一定の評価をはらってきた従来の見方に対し、少なから ず見直しをうながすものである。この農具としての評価 については、別稿において、使用痕分析による石犂の機 能推定とあわせ、農学的な視点からも検討を加えていく ことにしたい。

 謝辞 本論文は、科学研究費補助金基盤研究(B)

「良渚文化における石器の生産と流通に関する研究」

(研究代表者:中村慎一、研究課題番号:12571030)の 課題の一つとして実施したものである。中国での調査に 始まり、本稿を作成するまでには、研究代表者の中村慎 一先生をはじめ多くの方々のお世話になった。中国での 調査分析に際し、様々な便宜を図っていただいた共同研 究者の皆様に、心からお礼を申し上げたい。

佐川正敏、宮本一夫、後藤雅彦、岩田修一、小柳美樹、

岩崎厚志、濱名弘二、村野正景、徳留大輔、松永篤知、

業天唯正、渡辺朋恵、石橋克崇(以上日本側)、趙輝、

張弛、曹錦炎、王明達、劉斌、孫国平、蒋衛東、方向

(19)

明、宋建、秦嶺(以上中国側)

 また日本で行った実験では静岡市立登呂博物館、愛知 県埋蔵文化財センターの協力を得た。中野宥、樋上昇ほ か実験に参加していただいた方々にお礼申し上げたい。

 最後に、日頃使用痕分析全般にご教示をいただいてい る阿子島香、岩瀬彬、上條信彦、斎野裕彦、澤田敦、高 瀬克範、高橋哲、御堂島正、藪下詩乃、山岡拓也、山田 しょうの各氏に厚く謝意を表したい。

 註

1)静岡市登呂遺跡では、復元水田として様々な種類のイネが栽 培されており、これまでにも石器による収穫実験を実施させ ていただいている。実験1は、休耕田としてイネが植えられ ていない水田で、7月頃雑草が膝上ぐらいまで生育している 状態で行った。実験2は、10月の刈り取り後の水田で、水は 落とされているが、土はまだぬかるんだ状態で行った。

2)植物の根などを含まない土だけの状態での実験を行うため に、発掘調査後の基盤層を対象として実験を行うことを計画 した。条件に合致する調査現場として、愛知県埋蔵文化財セ ンターが調査した稲沢市鎌倉街道周辺遺跡の発掘作業が終了 した調査区において実験を実施させていただいた。

3)使用痕の種類、属性項目等の観察基準は、石器使用痕研究会 が行っている共同研究「石器使用痕の分析方法に関する共同 研究」の検討成果に依拠している。この共同研究の成果全体 は未発表であるが、検討途中の使用痕の属性・凡例について は、下記資料において報告している。石器使用痕研究会共同 研究チーム 2014「『石器使用痕の分析方法に関する共同研 究』報告書作成に向けて」『石器使用痕研究会会報』№13  石器使用痕研究会 11-13頁。

 引用文献

阿子島香 1989『考古学ライブラリー56 石器の使用痕分析』ニ ュー・サイエンス社

阿子島香 1999「実験使用痕分析」『用語解説現代考古学の方法 と理論Ⅰ』安斎正人編 同成社 91-99頁

安志敏 1988「关于良渚文化的若干 念良渚文化 十周年而作」『考古』1988年第3期 中国社会科学院考古研究 所 236-245頁

梶原 洋・阿子島香 1981「頁岩製石器の実験使用痕研究−ポリ ッシュを中心とした機能推定の試み−」『考古学雑誌』第67巻 第1号 日本考古学会 1-36頁

梶山 勝 1989「長江下流域新石器時代の稲作と畑作に関する一

試論」『古文化談叢』第20集(下) 九州古文化研究会 179- 232頁

厳文明(菅谷文則訳) 1995 「中国史前の稲作農業」『東アジア の稲作起源と古代稲作文化 報告・論文集』和佐野喜久生編  209-214頁

須藤 隆・阿子島香 1984「下ノ内浦遺跡SK2土壙出土の石包 丁」『仙台市高速鉄道関係遺跡調査概報Ⅲ』仙台市教育委員会  59-66頁

須藤 隆・阿子島香 1985「東北地方の石庖丁」『日本考古学協 会第51回総会研究発表要旨』日本考古学協会 19頁

中村慎一 1986「長江下流域新石器文化の研究−栽培システムの 進化を中心に−」『東京大学文学部考古学研究室研究紀要』第 5号 東京大学文学部考古学研究室 125-194頁

中村慎一 2002a「良渚文化石器に関する日中共同調査」『中国考 古学』第2号 日本中国考古学会 134-135頁

中村慎一 2002b 『世界の考古学20 稲の考古学』同成社 原田 幹 2011「『耘田器』の使用痕分析−良渚文化における石

製農具の機能−」『古代文化』第63巻第1号 古代学協会  65-85頁

原田 幹 2013a「有柄石刀の使用痕分析−良渚文化における石製 農具の機能(2)−」『人間社会環境研究』第25号 金沢大学 大学院人間社会環境研究科 177-188頁

原田 幹 2013b「『耘田器』から石刀へ−長江下流域における 石製収穫具の使用方法−」『金沢大学考古学紀要』第34号 金 沢大学人文学類考古学研究室 1-9頁

原田 幹 2013c「『打製石斧』の使用痕」『論集馬見塚』考古学 フォーラム 207-222頁

原田 幹 2014「石鎌の使用痕分析−良渚文化における石製農具 の機能(3)−」『金沢大学考古学紀要』第34号 金沢大学人 文学類考古学研究室 1-11頁

原田 幹・中村慎一・小柳美樹 2003「良渚文化石器の使用痕分 析」『中国考古学』第3号 日本中国考古学会 121-123頁 御堂島正 1988「使用痕と石材−チャート,サヌカイト,凝灰岩

に形成されるポリッシュ−」『考古学雑誌』第74巻第2号 日 本考古学会 1-28頁

御堂島正 2005『石器使用痕の研究』同成社

牟永抗・宋兆麟 1981「江浙的石犁和破土器−試論我国犁耕的起 源」『農業考古』1981年第2期 江西省社会科学院他 75-84頁 山田しょう 2007「第一部第2章 石器の機能」『ゼミナール旧石

器考古学』佐藤宏之編 同成社 32-49頁

劉軍・王海明 1993「寧紹平原良渚文化初探」『東南文化』1993 年第1期 南京博物院 92-108頁

Keeley, L. H. 1980 Experimental Determination of Stone Tool Uses. Univ. of Chicago Press.

【原田 幹、連絡先:津市河辺町3053番地3】

(20)

Use-Wear Analysis of “Ground Breaking Tools”:

Function of Lithic Farming Implements in Liangzhu Culture (4) HARADA Motoki

  This is a part of a series of studies that aims to understand functions of lithic tools in Liangzhu Culture and clarify their farming technology through experimental use-wear analysis.

In this article, use-wear analysis was conducted on triangular stone knives(taditionally called “ground breaking tools”) excavated from Zhejiang and Jiangsu provinces to clarify their function, using a metallurgical microscope to hypothesize part use, attachment of handle/installation methodology, handling methodology, and what they were used on.

  From characteristics of use-wear marks recognized on the ground breaking tools, it was hypothesized that the function was to cut herbaceous plants with the lower blade by gripping the handle parallel to the long side rim, and moving the handle parallel to the long side rim. In an experiment using reconstructed lithic tools, use- marks similar to excavated samples were formed by cutting herbaceous plants and digging ground that included roots of gramineous plants. Distribution of polish marks on almost all the surface of the excavated lithic tools suggests they were used to comb out clustered herbaceous plants at the root. Rather than traditionally regarded plowing tool used on the ground, “ground breaking tools” are considered to be lithic tools for weeding, used to cut herbaceous plants.

Keywords :

 Studied period:Neolithic

 Studied region:China, Lower Yangtze River Basin, Zhejiang/Jiangsu/Shanghai

 Study subjects:Liangzhu Culture, ground breaking tool, lithic use-wear analysis

(21)

『日本考古学』第37号 正誤表

 頁 行・箇所 誤 正

 23 右段上から 35 行 (全 2000) (金 2000)

参照

関連したドキュメント