一次救命処置(BLS)や二次救命処置(ALS)は、意識消失や心肺停止に対して如何に迅速に対応 し救命するか、という目的で行なわれるものです。 しかし、日常、われわれ看護師が遭遇するのは、心肺停止の患者さんばかりではありません。殆どの患 者さんは、体調の変化→症状の悪化→循環動態の変化→ショック状態へと進行します。そして、最悪の状 態が心肺停止の状態なのです。 急変初期の発見をして患者さんの危険予測、ショック状態への移行予測や確認を早期に「気付き」行な うことが出来れば、一次救命処置(BLS)にまで至らなくて済む可能性もあります。急変に至った患者 の約70%は6~8時間前に何らかの徴候を示した、というデータも発表されております。 われわれ看護師は注意して観察し、悪しき結果を予見し、悪しき結果を避ける(結果予見義務―結果予 見可能性・結果回避義務―結果回避可能性)責任があります。患者さんのベッドサイドの一番近くに存在 するものとして、患者さんの「ちょっとおかしい」に気付く能力を身につけることが重要です。本企画に おいては患者さんの急変に対する時間軸のアセスメントに必要な知識・技術をファーストステップ、セカ ンドステップ、サードステップの3回にわたり解説いたします。
◆はじめに
な る ほ ど
そうだったのか!
シリーズ vol.5
急変予兆
~ 3 分 で わ か る 実 践 的 ア セ ス メ ン ト ~
時 間 別 で よ む 患 者 状 態
ステップ 所要時間 観察、実施項目 ファーストステップ 10秒 外観の第一印象 視診、聴診、触診 セカンドステップ 1分 バイタルサイン、視診、聴診、触診 問診、検査 サードステップ 3分 バイタルサイン、視診、聴診、触診BLS:Basic Life Support:一次救命処置 ALS:Advanced Life Support
「10秒で分かる」患者の異変 ファーストステップ
全体の印象をまず10秒で把握し、「意識、呼吸、循環」に大きな異常があった場合は、その後の対応 を考えた時に一人では対応困難ですので応援(他の看護師や医師等)を呼ぶ必要があります。◆第一印象
全体の印象をまず把握、明らかな異常があっ た場合は、一人での対応困難であり、応援(他 の看護師や医師等)を呼ぶ ステップ 所要時間 観察、実施項目 ファーストステップ 10秒 外観の第一印象、視診、聴診、触診1.視診・聴診・触診で外観・第一印象を見る
気道、呼吸、循環、神経学的障害、体温の生理学的特徴に大きな異常がないかどうかを迅速に調べます。 ●気道(Airway) 気道の開通状況を評価します。会話ができていれば、おおまかに気道は開通しています。しかしながら 急速に声が出づらくなっている場合や、頚部が急速に腫脹している場合等は気道閉塞の所見ですので要注 意です。 ●呼吸(Breathing) 換気(呼吸)状態を評価します。第一印象では、ぱっと 数秒で観察するため、患者さんが呼吸をしているのか?を 観察します。 ●循環(Circulation) 循環状態を評価します。まずは皮膚の状態(冷感、冷汗、 チアノーゼの有無)、脈拍の強さ、速さを確認しながら、 CRT(毛細血管再充填時間)も参考にするとよいでしょう。 同時に循環動態に影響するような出血の有無を確認します。 ●神経学的障害(Disability) 意識レベルの評価を行います。意識レベルが低下している場合には脳自体の問題、脳への酸素供給が低 下した状態が考えられます。低酸素状態やショックであれば脳自体に問題がないこともあります。つまり、 ABCの問題を解決した上で、意識レベルの低下や呼吸調節機構の異常がある場合には脳自体の異常を疑 います。 ●体温(Exposure) 低体温や高体温はそれだけでも代謝に影響を及ぼし、果ては呼吸数・症状に影響を及ぼします。とりあ えずの処置として、低体温であれば保温が、高体温であればクーリングが必要です。また、明らかな打撲 痕等外傷を示唆する所見がないかどうかを調べます。 CRT:爪を5秒ほど 押さえた後に何秒で 元に戻るかという時間で、 2秒以内が正常●その他、10秒で見るには限界がありますが観察しておきたいポイント 1.視診 ① 患者さんの現状(倒れているのか、訴えているのか、寝ているのか) 患者さんに意識があるのか、訴えができるのかによって緊急度が変化します。 低血糖では、顔面蒼白で皮膚は湿って冷たく、散瞳、動悸などの交感神経症状を認め、重症低血糖では 痙攣や昏睡を来します。意識障害の程度は様々です。 ②顔色、皮膚状態、表情、意識 外傷などで明らかな外出血や吐・下血がある場合には、すぐに推定できますが、そうでない場合にはま ず、以下の①-⑥の症状よりショックと診断します。 ① 顔面蒼白、多呼吸、乏尿 ② 脈拍120/分以上 ③ 皮膚所見:暗紫色(チアノーゼ)は低酸素症、蒼白は低灌流状態 ④ 不安、不穏、攻撃的な態度や無反応、昏睡などの意識レベルの低下 ⑤ 収縮期血圧90mmHg以下 ⑥ CRT(毛細血管再充填時間) 2秒以上 出血初期には末梢Hb値はあまり低下しないので注意を要します。 成人の場合、ショック指数(脈拍数/収縮期血圧)は推定出血量を表します(例:脈拍120/分、収 縮期血圧80mmHgのとき、推定出血量は120/80=1.5L)。 ③ 環境(自室、トイレ、廊下)など 排泄時にトイレでショック状態、または失神している状態で患者が発見されることは珍しくありません。 ショック状態であれば、ただちにショックに対する処置を開始する必要があります。失神し倒れた場合で は、失神のアセスメントと初期対応を開始する必要があります。
2.触診
① 脱力感、発熱、冷感・冷汗など ショックは、重要臓器組織の機能を維持するのに十分な血流が得られなくなった状態です。放置すると 種々の臓器障害から死に至ります。血圧90mmHg以下が基準となり、内因性のカテコラミン分泌により、 典型的には頻脈、顔面蒼白、冷汗を伴います。四肢の触診において冷感、冷汗など症状があればショック 症状を来していると判断できます。疼痛刺激に対する姿勢の異常としては除皮質硬直と除脳硬直が重要です。除皮質硬直とは上肢は内転、 屈曲、下肢は伸展、内旋を示すもので、内包から大脳脚にかけての皮質脊髄路の障害を意味します。除脳 硬直は、上肢は伸展、内転、内旋し、下肢は伸展し、主に中脳障害を示します。
3.体位・姿勢:臥位、起坐位、うつぶせ、除脳・除皮質
呼吸困難で最も顕著な病的体位は、仰臥位では呼吸困難が強いために座位をとる場合もあります。 (1)起座呼吸(Orthopnea) この体位は、肺内水分量増加による肺水腫状態、肺胞低換気を主病態とする肺気腫症や気管支喘息重積 状態などで出現します。 起坐呼吸となることで呼吸による仕事量の増加がやや軽減され、静脈還流を軽減するため、肺うっ血が 軽減します。また、上大静脈症候群による脳圧亢進症状も座位になることで側副血行路に還流し、多少と も軽減されることがあります。 閉塞性肺疾患による肺胞低換気では、呼気の顕著な延長とともに、補助呼吸筋や横隔膜の動きを助ける ためのやや前傾した姿勢が特徴的です。 その他の体位と呼吸器疾患 肺病変の多くは片側肺や片側胸腔が関与します。こうした場合、患者は側臥位の呼吸が楽であることに 気づき、その姿勢をとります。どちらの側を下にするかは病態により異なりますが、原則的には健常側を 下に、罹患側を上にします。換気血流の効率はこの姿勢のほうがよく、PaO2を実測しても患者のとる姿 勢で高くなっています。しかし、大量胸水の存在や、気胸の無気肺の程度によっては、縦隔の偏位、横隔 膜による相対的な肺容積の減少により、罹患側を下にする場合もあります。5.訴え・表現:どんな言葉が緊急度を告げているか
「今まで経験したことのない頭痛」「胸が痛い」「呼吸がしにくい」「息ができない」「背中が痛い」 「手足が急に動かなくなった」などキーワードの裏に隠れている疾病などを察知する能力が求められます。4.臭い:呼吸臭、出血臭、嘔吐臭、失禁臭など
呼吸臭から原因疾患が疑われるものにはアルコール臭(アルコール中毒)、アセトン臭(糖尿病性昏睡)、 尿臭(尿毒症)、アンモニア臭(肝性昏睡)などがあります。 除皮質硬直 除脳硬直・すぐに胸骨圧迫と人工呼吸を行いながら電気的除細動を施行する。 ・200Jから行い、戻らなければ電圧を上げていく(非同期)。 ・除細動できなければエピネフリン静注。 ・二次救命処置に基づき治療。 ■心室細動 ・QT延長にともない起こる心室頻拍(抗不整脈剤により引き起こされることが多い)。 ・波形がねじれるようになる。 <治療法> ・リドカインは無効のことがあり、Mg製剤が効果を示すことある。 ・ペーシングによるOver-Driveが有効。 ■torsade de pointes ・血行動態が維持でき、意識があればリドカインR を50mg静注(Cardioversion準備しておく) 止まらなければ、50mg追加。 それでも止まらなければ、Cardioversion施行かシンビットR を15mg静注。 ・血圧低下、心不全合併、意識消失などがあればCardioversion。 ・意識があればイソゾール(ラボナールR )などを前投薬として静注。 ■心室頻拍(急性期) 心電図では致死的心電図波形を見過ごしてはいけません。発見時には早期除細動の準備、AEDの依頼 が重要です。SpO2を測定すれば酸素飽和度はもちろん、脈拍の状態も把握できます。
6.検査データ:モニター心電図、SpO
2(経皮的酸素飽和度)
■ 心静止 ・波形の出現していない状態で循環停止状態 ・電気的除細動は無効 ・胸骨圧迫並びにエピネフリン投与 ■ 無脈性電気的除細動 ・波形は様々(明らかな異常波形であったり、ほぼ正常であったりする) ・心電図での判読は不可能 ・除細動は無効 ・胸骨圧迫並びにエピネフリン投与 ・原因の究明並びに原因の早期解除 以上が、ファーストステップです。10秒ですべてを細かく見ることは不可能ですが、それぞれの項目 を理解できていれば「おかしいかどうか」の判断はできますね。次回は「1分で見抜く」患者状態の変化 セカンドステップを解説いたします。