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81 展開した 165, 166) Sabin らや天野の主張は赤崎 (1952) の組織球や腹腔マクロファージなどの細胞を網内系細胞の枠内に包括する局所組織起源説とは明らかに見解を異にした 図 15 天野重安 ( 1903~1964) 超生体染色を用いての単球系ならびにマクロファージの研究 単球は

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(1)

熊本大学学術リポジトリ

Kumamoto University Repository System

Title

単核性食細胞系統 (mononuclear phagocyte system :

MPS)

Author(s)

高橋, 潔

Citation

マクロファージの起源、発生と分化 : メチニコフの食細

胞、アショッフ・清野の細網内皮系とファン・ファース

の単核性食細胞系の諸学説を踏まえて: 81-108

Issue date

2008

Type

Book

URL

http://hdl.handle.net/2298/10436

Right

(2)

81 展開した165, 166)Sabin らや天野の主張は赤崎 (1952)の組織球や腹腔マクロファージなど

の細胞を網内系細胞の枠内に包括する局所組織起源説とは明らかに見解を異にした。

マクロファージの研究は20 世紀も前半で用いられた生体染色、超生体染色、培養実験、

skin window 法、diffusion chamber 法などに引き続き、すでに述べた如く、網内系の研

究には 1950 年代に至り電顕的検索が行われた。 さらに、放射線キメラ実験 417)、パラビ オーシス418, 419)、染色体マーカー 420)、skin window 法421)、細胞化学422)、放射性同位元 素を用いてのオートラヂオグラフィー 423) などの方法によって無刺激定常状態や種々の炎 症巣における結合織内マクロファージ、腹腔マクロファージ、肺胞マクロファージの起源 が追求された。その結果、種々の被刺激状態や炎症巣内のマクロファージばかりではなく 無刺激正常組織内のものも血液単球に由来し、単球は骨髄内に起源する事実が相次で報告 された。「網内系学説のまとめ」の項(p. 68)で述べたように、生体染色では貪食能の微弱な 細胞でもパイノサイトーシスによって色素が摂取され、その細胞内貯留によって大型の顆 粒状物質になり、これが貪食によって取り込まれたものと区別が出来なくなるという欠点 がある。さらに、こう言った過程で取り込まれた色素がライソゾーム内に多量蓄積した細 胞が死滅すると、別のマクロファージによって取り込まれる過程の起ることが判明し、生 体染色には細胞の相互関係を究明する方法としては不適当である。これに対して、3H-サイ ミヂン・オートラヂオグラフイーではこの放射性同位元素が分裂前の DNA 合成中の細胞 核に選択的に取り込まれ、標識され、それをマーカーにして細胞の起源、動態、細胞回転 を追跡することが可能で、この方法が生体染色より信頼性が高く、当時は賞用された。

単核性食細胞系統 (mononuclear phagocyte system: MPS)

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MPS 学説の提唱と概念

このような情勢を背景に網内系の再検討が迫られ、欧米の研究者の間にマクロファージ を逐一検討し直してみようという機運が高まり、1969 年オランダのライデンで単核性食細 胞に関する国際会議が開催された。この会議でLangevoort、Cohn、Hirsch、Humphrey、 図15 天野重安( 1903~1964)。 超生体染色を用いての 単球系ならびにマクロファージの研究。単球は骨髄内に 独自の前駆細胞に起源する単芽球、前単球を経由し、組 織内でマクロファージへと分化する単球論を提唱。 (文献1)から転載)

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82

Spector、van Furth らは炎症巣内に滲出するマクロファージのみならず正常状態での生体 各所の臓器組織内に存在する固定性ならびに遊離状のマクロファージのすべてが骨髄内の 前駆細胞に起源し、前単球を経由して分化成熟する血液単球に由来するとの結論に達し、 これらのマクロファージ、単球およびその前駆細胞など一連の細胞を一つ細胞系に纏め、

これを単核性食細胞系統 (mononuclear phagocyte system: MPS)と呼ぶことを提唱した4)

この内容は最初Langevoort ら (1970) 4)により、次いでvan Furth ら(1972)によって報告

された5) 。その後、van Furth らによって研究が強力に推進され、本学説の正当性が主張 された(表 8 参照)425~427) 彼らがMPS に組み入れた細胞は正常状態における結合織内の組織球、肝 Kupffer 細胞、 脾ならびにリンパ節の遊離状ならびに固定性マクロファージ、骨髄の固定性マクロファー ジ、肺胞マクロファージ、胸腔ならびに腹腔などの漿液膜腔内のマクロファージ、その他 の組織内の組織マクロファージなどであり、当初は MPS の公算が大と見做されていた破 骨細胞や小膠細胞も1980 年の修正案では本系統に組み入れられた 427)。その他、リンパ節 の指状嵌入細胞、皮膚のランゲルハンス細胞、滑膜A 細胞なども疑問符付きで包括された。 さらに、炎症巣内あるいは被刺激状態に出現する滲出マクロファージ、滲出在住マクロフ ァージ、類上皮細胞、ラングハンス型あるいは異物型多核性巨細胞を組み入れた(表8参照)4, 5, 424~427)

しかしながら、van Furth らは脾やリンパ節などに存在する細網細胞や樹状細胞 (dend-

ritic cells)などは貪食能に乏しく、また内皮細胞、線維芽細胞、中皮細胞などは間葉細胞で あることから、MPS から除外した4,5)。このように、MPS 学説は網内系を解体し、それに 代わるものとして炎症巣内に滲出する貪食能の旺盛な単核性細胞や多核性巨細胞のみなら ず正常状態における生体各所の臓器、組織内に常在するマクロファージないし類縁細胞を 抽出し、これらの細胞の局所組織起源を否定する一方、これらの細胞はすべて骨髄内に起 源する前駆細胞から単球系細胞を経由して派生する血液単球に由来することを主張した。 この学説はSabin 一派(1925, 1936)の主張107, 108) や天野(1948)の単球論 164~166) をさらに

図 16 Ralph van Furth. 単核性食細胞学説を提

唱。炎症刺激状態のみならず正常無刺激状態で生体 各所の諸臓器、組織に分布するマクロファージのす べては骨髄に起源する単球系細胞を経由して分化す る単球に由来し、組織に移住し、局所で分化すると ともに、マクロファージは基本的に増殖能を欠き、 マクロファージは血液単球の補給によって維持され ると主張した。 (徳永徹著「マクロファージ」講談社、1986 から転載)

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83 表 8. 単核性食細胞系統 (van Furth 1980)426) 多分化性造血幹細胞 骨 髄 造血幹細胞 (committed) 単芽球 前単球 単 球 単 球 末梢血 マクロファージ 組織 正常状態 結合織 (組織球) 肝 (Kupffer 細胞) 肺 (肺胞マクロファージ) リンパ節 (遊離ならびに固定型マクロファージ、 指状嵌入細胞 ?) 脾 (遊離ならびに固定型マクロファージ) 骨髄 (固定性マクロファージ) 漿液膜腔 (胸腔ならびに腹腔マクロファージ) 骨 (破骨細胞) 神経組織 (小膠細胞:ミクログリア) 皮膚 (組織球、ランゲルハンス細胞 ?) 滑膜 (A 細胞 ?) その他の組織 (組織マクロファージ) 炎 症 滲出マクロファージ 滲出在住マクロファージ 類上皮細胞 多核性巨細胞 (ラングハンス型および異物型)

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84 拡大解釈し、さらに発展させたものである。 a) MPS の細胞同定基準 van Furth らは MPS 細胞の同定に当たり形態学的特徴を基本的なものとしながらも電 顕的観察をもってしても形態学的同定基準としては不十分であることを主張した。加えて、 非特異的エステラーゼ、ことにαナフチル・ブチレート・エステラーゼ(α-naphthyl butyrate esterase)、リゾチーム(ムラミダーゼ)、ペルオキシダーゼなどや原形質内のライ ソゾーム酵素をマーカーとしての酵素細胞化学的検出、5’-ヌクレオチダーゼ、ロイシン・ アミノペプチダーゼ、アルカリ性ホスホヂエステラーゼ-I などをマーカーとして推奨した。 しかしながら、彼らの考えの根底には、形態学的ならびに酵素細胞化学的同定法よりも機 能面を重視する思考がある。すなわち、本系統細胞は旺盛な貪食作用、パイノサイトーシ ス、ガラス表面への付着能、細胞膜上でのFc 受容体、C3 受容体の発現、これら受容体を 介しての免疫貪食(immune phagocytosis)を発揮し、これらの機能によって特徴づけられ る細胞系と見做した。 同時に、本系統には、免疫貪食のみならず旺盛なパイノサイトーシスをも重視され、こ れは主にマクロパイノサイトーシスによることを強調したが、パイノサイトーシスは多少 に拘わらずマクロファージ以外でもほとんどすべての細胞にある機能で、この機能で細胞 内への取り込みが出来る生体染色や墨汁投与で細胞系統を識別する試みは不適当であるこ とを指摘し、Aschoff や清野の行った生体染色による網内系の体系化を批判した4, 5)1980

年代の後半に至ってvan Furth は Nibbering ら(1985, 1987)とともに白血球抗原(30G12)、

Mac-2 抗原(M3/3)、Mac-3 抗原(M3/84)、F4/80 などの単球系細胞やマクロファージ、補体 受容体(M1/70: complement receptor III)、Fc 受容体(2.4.G2.)、Ia 抗原などの種々の表面 抗原を用いて免疫組織化学的に検索し、量的に測定し、単核性食細胞の分化に伴い、表面 抗原の表出状態は変化するが 427、428) 、マクロファージの免疫表現型は臓器、組織あるい は部位によって異なり、血液単球の組織マクロファージへの分化に際して特異的なパター ンを示すことはないと結論した428~430) b) MPS の分化と成熟 表9 に示したように、van Furth らは3H-サイミジン・オートラヂオグラフィーを主と する研究成績から MPS は骨髄内の多能性造血幹細胞から単球系前駆細胞を経て単芽球に 分化し、一個の単芽球が一回分裂して2 個の前単球に成り、前単球は一回分裂して 2 個の 単球に分化し、成熟することを明らかにした。すなわち、骨髄内で一個の単芽球は4 個の 単球になる。骨髄内で単球は成熟すると、単球骨髄から末梢血中に放出され、末梢血中を 循環し、組織内に侵入し、生体各所の組織に固有のマクロファージに分化すると説明した。 この分化成熟過程で、正常マウスの骨髄内で造血幹細胞から単球までの最終分化にまでは 28.1 時間で、ヒトでは 48.2 時間と算出され、マウス、ヒトとも骨髄内で 24 時間留まり、

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85 部位 分画 細胞 分画変遷時間 多能性造血幹細胞 (ヒト) (マウス) 骨髄 分裂分画 単芽球 11.9 時間 前単球 48.2 時間 16.2 時間 後分裂分画 単球 24 時間以内 24 時間以内 末梢血 通過分画 単球 71 時間 17.4 時間 肝 4.2 日 組織 機能分画 マクロファージ 1~5 週(?) 脾 6.0 日 肺 6.0 日 腹腔 14 日 成熟した後、末梢血中に放出される。単球は末梢血中をヒトでは 71.0 時間、マウスでは 17.4 時間程度循環し、その間に組織内に侵入、移住し、マクロファージに分化する。骨髄 内で単球前駆細胞、単芽球、前単球は分裂能を有するが、単球に分化すると、増殖能を失 い、マクロファージも同様に分裂能を欠き、組織内のマクロファージは原則的にすべて血 液単球から補給されることによって維持される細胞群と主張した。これが MPS の基本理 念で、マクロファージはすべて単球に由来し、分裂能を失った本系統の最終細胞と規定さ れている4, 5, 424~427, 431433) 表 9 MPS の分化、成熟と細胞回転 c) MPS の寿命と細胞回転 van Furth ら(1972)は MPS の概念の提唱に当たり、単球系細胞の最も未熟な細胞を前単 球とした4,5 ) 。その後、彼らは1975 年の報告では光顕的に単芽球と規定した423)。その後、 van Furth ら(1976、1979、1982)はヒトやマウスの骨髄細胞の培養で内因性ペルオキダー ゼ(PO)活性の局在を超微形態学的に検討し、マウスやヒトで単芽球を規定した434~436)。さ らに、van Furth は 1980 年にマクロファージの各組織内での生存期間についても報告し、 マクロファージの半減期は肝では3.8 日、脾、肺で 6.0 日、腹腔では 14.9 日で、マクロフ ァージは長くとも2 週間程度であることを明らかにした426, 427)。ヒトではマクロファージ

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86 の組織内での寿命は1~5 週程度と述べた (表 9 参照) 427)。このことから、無刺激定常状態 におけるマクロファージは組織内では短命であると言われる。マクロファージの局所組織 内での運命は明らかではないが、van Furth らはマクロファージが局所で死滅し、脾や所 属リンパ節に運ばれ、処理されると推定した5, 426, 427, 431, 432) 炎症、とりわけ急性炎症に際してマウスの骨髄内において単芽球、前単球の増殖率が亢 進し、前単球の細胞回転が短縮し、単球の骨髄内産生が亢進する。単球は末梢血中に放出、 動員され、炎症巣内に滲出し、病巣内で滲出マクロファージに分化する。急性炎症におけ る末梢血中での単球の移住は亢進する。しかし、末梢血中の単球は分裂、増殖しない 426, 427, ,431, 432, 437~440) 急性炎症におけるマクロファージの増加はマウスで炎症惹起後 2 日ま では末梢血から局所炎症巣への単球の流入に因るもので、局所でのマクロファージの増殖 に因るものではない。しかし、その後は局所炎症巣内でのマクロファージの増殖が起るが、 その程度は僅かであって、2 日以降でも専ら末梢血中からの単球の流入によって炎症巣内

のマクロファージは補充されると説明されている 426, 427, 431~433, 437443)van Furth は van

Waarde ら(1976, 1977)とともに、この時期の炎症反応では骨髄内での単芽球の増殖率の 亢進、前単球の増加ならびに細胞回転時間の短縮が証明され、急性炎症時に起る変化と同 様の現象が起り、マウスの末梢血中には骨髄内での単球造血を刺激する因子の存在を指摘

し、この因子を単球造血増強因子(factor increasing monocytopoiesis: FIM)と呼んだ 443,

444)。その後、Sluiter ら(1983)はこの因子をウサギの末梢血でも報告した445)。非刺激定常 状態で肺胞マクロファージは持続的にサーファクタントを貪食し、Kupffer 細胞、脾マク うロファージなどその他の組織のマクロファージでも貪食によってFIM を産生し、正常状 態でも骨髄の単球産生を維持する445)。しかし、正常時のマウスやウの末梢血中にはマクロ ファージの産生するFIM の量が僅かで、それまでの検出法では検出されなっかたと述べて いる446)。 van Waarde ら(1978)はその後の時期の炎症反応でマウスの血清中に単球造血 を 抑 制 す る 物 質 が 存 在 す る こ と を 主 張 し 、 そ の 物 質 を 単 球 産 生 抑 制 因 子(monocyte

production inhibitor: MPI)と呼んだ446)

d) MPS の増殖、分化と造血因子

1980 年代から造血因子(hematopoietic growth factors)が漸次明らかにされ、骨髄におけ る造血幹細胞から単球系細胞、さらにマクロファージに至る過程での造血因子の関与と役 割が明確となり、これらの研究で明らかにされた事実を加えて、van Furth (1993)は MPS の分化過程に於けるコロニー刺激因子(colony-stimulating factors: CSF)の作用を明示し た432)。血球の分化にはいろいろの造血因子が作用するが、多能性造血幹細胞から骨髄前駆 細胞(CFU-GEMM、CFU-GM)まではインターロイキン-3 (IL-3)、骨髄前駆細胞には顆粒 球・マクロファージ・コロニー刺激(GM-CSF)、単芽球、前単球にはマクロファージ・コ ロニー刺激因子(M-CSF)が作用し、増殖を起し、分化を促す433)。これらの増殖因子のうち、

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からCFU-GM の時期の細胞に働き、M-CSF は CFU-GM から CFU-M、単芽球、前単球

の増殖を惹起する。これに対して、van Furth (1993)によると、FIM は単芽球、前単球の

増殖を促すと説明されている (表 10 参照) 433) 表 10 MPS の増殖と分化過程におけるコロニー刺激因子の作用 (van Furth 1993) MPS コロニー刺激因子 IL-3 多能性造血幹細胞 GM-CSF CFU-GEMM CFU-GM 単芽球 前単球 単球 クマロファージ

CUF-GEMM: granulocyte-erythrocyte-macrophage-megakaryocyte colony-forming units, CUF-GM: granulocyte-macrophage colony-forming units, IL-3: interleukin-3、

GM-CSF: granulocyte-macrophage colony-stimulating factor, M-CSF: macrophage stimulating factor

FIM: factor increasing monocytopoiesis

2) MPS 学説の実験的根拠、問題点ならびに批判

van Furth ら(1972)の提唱した MPS の概念は、Aschoff、清野の網内系に代わるものと

してその後多くの研究者によって受け入れられた。本系統の提唱は、以前からSabin 一派 (1925) 107, 108)や天野(1948) 164, 165)の主張したマクロファージの単球由来を明確にし、その 後単球に由来するマクロファージの研究が著しく進歩した。MPS 提唱の根拠になった主な 実験を検証しつつ、それらの実験的論拠を紹介する。しかしながら、MPS 学説自体、その 提唱時から完全なものではなく、事実にそぐわない矛盾点がいろいろ指摘され 257, 258,341, 447)、それら問題になった事象に関して述べ、検討を加えることにする。 M-CSF FIM

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88 a) 全身放射線照射ならびに放射線キメラ実験 van Furth ら(1972、1975)はマクロファージの血液単球由来を裏付ける実験的根拠とし て放射線キメラ実験を行い、単球は骨髄に由来し、組織に入り、マクロファージに分化す ることを立証した 4, 5, 423, 424)。これはマウスの全身にあるいは骨髄を一部遮蔽して放射線 を大量照射し、骨髄細胞を移植し、放射線キメラマウスを作製し、染色体マーカー、エス テラーゼ染色、あるいは特異的血清などを用いて同定し、移植骨髄細胞を追跡し、その組 織内への単球/マクロファージの出現状況を調べる方法である。しかし、大量全身放射線照 射によって全身の組織は障害され、一種の炎症状態にあることから、局所組織には単球を 含む白血球の浸潤が惹起される。すなわち、これらの実験で得られた成績は炎症に滲出し たマクロファージの単球由来を立証したものであって、無刺激定常状態における組織マク ロファージの単球由来を裏付ける根拠にはならない341, 447) Tarling ら(1987)は骨髄分割放射線照射法によって骨髄以外の組織には何等障害を起す ことなく骨髄のみを選択的に照射したマウスに骨髄細胞の移植を行い、組織マクロファー ジ、ことに肺胞マクロファージと末梢血単球との関連を検討した448, 449)。その結果、この 放射線キメラマウスでは重篤な骨髄障害によって末梢血中には極度の単球減少が惹起され、 末梢血中には単球はほぼ完全に消失するが、肺胞マクロファージの減少は見られず、また 移植骨髄細胞の組織内への移住は証明されなかった448, 449) 。これらの事実から、彼らは組 織マクロファージと単球とは無関係で、組織マクロファージは増殖能を有し、自己再生に よって維持される細胞群であると主張した(「極度単球減少症惹起マウスを用いての組織マ クロファージの検討」の項(p. 255 )参照)。 b) パラビオーシス van Furth ら(1972)は MPS の提唱に際してパラビオーシスの動物実験成績を引用し、組 織マクロファージの単球由来の根拠として挙げた 5)。しかし、その後行われたパラビオー シスに関する研究では、相反する成績が提示された 450~454)。すなわち、Parwaresch ら (1984) 450)、Wacker ら(1986) 451) は頚静脈吻合によって2 匹の動物を結合し、パラビオー シスを作製し、3H-サイミジン・オートラヂオグラフィーで追跡した結果、腹腔マクロファ ージの半数、Kupffer 細胞のすべては末梢血中の単球に由来することを主張した。これに 対して、Volkman ら(1976) 452)、Sawyer (1986) 453) によるパラビオーシスの実験ではマク ロファージの単球由来が否定された。Collins ら(1980)は、末梢血中の単球に比較して肺胞 マクロファージの標識率が極めて少なく、肺胞マクロファージと末梢血単球との間の関連 性を否定した 454)。このように、van Furth らが MPS 学説の根拠の一つとして引用したマ クロファージの血液単球由来を巡るパラビオーシスの研究成績はまちまちで、すべてのマ クロファージが単球に由来することを決定付ける結論には至らなかった。 c) 単球減少症惹起実験

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89 van Furth ら(1970, 1981, 1985)は副腎皮質ホルモンの大量投与によって単球減少を惹 起させたマウスを検討し、肝Kupffer 細胞、肺胞マクロファージ、腹腔マクロファージの 数の減少は血液単球の減少と平行していることを指摘した。van Furth らは副腎皮質ホル モンの投与によって骨髄内の単芽球には変化はないが、前単球、単球の分裂、産生が障碍 されるために単球減少症を惹起することを実証した455~460)。このことから、彼らは組織内 のマクロファージの数の減少は末梢血中の単球減少に基づくものであると結論し、組織マ クロファージの単球由来を示す根拠と見做した 455~460)。しかしながら、副腎皮質ホルモン は組織マクロファージの増殖、分化や機能に障害を及ぼすことが明らかにされており 461, 462)、従って、副腎皮質ホルモンの大量投与による単球減少実験では、組織マクロファージ の減少が増殖や分化の障害によって惹起されることを考慮しなければならない。 Volkman (1982)は米国イースト・カロライナ大学医学部病理学教授で、Swayer らとと もに単球の髄外造血を起さないため脾摘したマウスにストロンチウム-89(89Sr)を投与し、 骨髄以外の組織には何等障害を起すことなく骨髄のみを障害し、極度の単球減少を惹起す る方法を考案した 463~465)(図 17 参照)。この方法によると、89Sr 投与 2 週後脾摘マウスの 末梢血中からは単球は完全に消失する。その後、単球が末梢血中に消失した状態がマクロ ファージの寿命がすでに過ぎた長期間経過しても腹腔マクロファージや肺胞マクロファー ジの数には減少は起らない463~465)。小木曽(1988)はラットに89Sr を投与し、極度単球減少 症を長期間惹起させても脾マクロファージや肺胞マクロファージの減少が起らないことを 実証した466) 筆者らも89Sr 誘発極度単球減少症惹起マウスでの検討を行い、対照群とし て用いた88Sr 投与脾摘マウスに比べて、89Sr 投与マウスの肝臓で Kupffer 細胞の数に変化 の起らないことを実証し、むしろ時期の経過に従いKupffer 細胞の増加を確認した 467, 468) 同様に末梢血中の極度の持続性単球減少状態はTarling ら(1982、1987)の考案した骨髄分 割放射線照射法によって惹起される。しかし、骨髄以外の諸臓器組織には何等障害をおこ さず、肺胞マクロファージの数には変化が起らない448, 449)。これらの知見はvan Furth ら の MPS 学説とは異なり、組織マクロファージと血液単球とは無関係で、単球の補給がな 図17 Alvin Volkman. 89Sr 投与持続性単球減 少症惹起マウスの作製に成功。このマウスで末梢 血からの単球の補給がなくても腹腔マクロファ ージや肺胞マクロファージは自己再生により維 持されることを実証、組織マクロファージが増殖 能を保有することを明らかにした。

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90 くとも組織マクロファージは自己再生によって維持されることを提示した(「極度単球減少 症惹起マウスを用いての組織マクロファージの検討」の項(p. 255)参照)。 d) 単球増多症惹起実験 van Furth ら(1972)は催炎実験や刺激実験によって骨髄内での単球系細胞の産生亢進、 末梢血中への単球の動員の亢進、炎症巣や被刺激組織への単球の滲出、局所組織内での単 球から滲出マクロファージへの分化亢進が起り、単球系細胞からマクロファージへの分化 を主張し、MPS 学説の正当性を裏付ける根拠と見做した5, 432, 434, 437~442)。 急性炎症反応 の初期では、骨髄で単芽球の増殖率の亢進、前単球数の増加と細胞回転時間の短縮を惹起 する単球産生増加因子(factor increasing monocytopoiesis: FIM)が関与し、末梢血中の単

球増多症を起すことを指摘した443, 444)。この事実はSabin ら(1925) 107, 108)や天野(1948)164, 165)によって主張された単球からマクロファージへの分化を裏付けたもので、単球/マクロ ファージ系の存在を確定的なものにした。 単球の血液から局所組織への浸潤には強力な単球遊走活性物質monocyte chemoattrac- tant protein-1 (MCP-1)が重要な役割を演じ、これは次に述べる実験結果からも実証され ている。筆者は山城、竹屋ら(1998)とともに MCP-1 をラットの皮下に注射し、局所での 単球の動態を検討した。その結果、MCP-1 投与部位の組織内に単球の血管内からの顕著な 浸潤が起り、単球は血管周囲に集積し、滲出マクロファージへと分化を示すことを実証し た469)。炎症が起り、刺激によって局所でMCP-1 が産生されると、単球は MCP-1 受容体 (CCR2)を介して MCP-1 と反応し、単球は局所に浸潤し、マクロファージに分化する。こ のマクロファージは単球由来で、炎症性マクロファージである。Lu ら(1998)は MCP -1 を コードする SCYA 遺伝子を破壊し、MCP-1 欠損マウスを作製し、チオグリコレート投与 やマンソン住血吸虫卵の感染で催炎実験を行った。しかし、MCP-1 欠損マウスでは催炎局 所には単球は浸潤せず、炎症性マクロファージの出現は起らない470)。この事実はMCP-1 が局所で産生されると、単球が局所に浸潤し、局所で炎症性マクロファージに分化、成熟 することを実証したものである。単球の保有するMCP-1 受容体(CCR2)の遺伝子欠損マウ スでは局所への単球浸潤が阻害される471, 472)。CCR2 欠損マウスでのグルカン投与による 肝肉芽腫形成実験472, 473) や股動脈閉塞実験474) でも野生型マウスに比べて、肝肉芽腫形 成や動脈周囲への単球浸潤が起らず、CCR2 の欠如によって単球の MCP-1 に対する反応 が起らない。これらの事実はMCP-1 や CCR2 は単球の組織内浸潤に関与し、単球の滲出 マクロファージへの分化を分子レベルで実証し、van Furth の MPS 学説の正当性を裏付 けている(「MCP-1/ CCR2 欠損マウスならびに MCP-1 遺伝子導入マウス」の項(p. 313 ) 参 照)。 しかしながら、MCP-1 の皮下注射実験では、滲出マクロファージと組織マクロファージ とを個別に認識するモノクロナール抗体を用いて検討すると、滲出マクロファージの著し い増加を起すが、組織マクロファージの増加は惹起されない 469)。Lu ら(1998)の行った

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91 MCP-1 欠損マウスでは野生型マウスと同様に肝 Kupffer 細胞や肺胞マクロファージなど の組織マクロファージは存在し、数の減少はない470, 471)。CCR2 欠損マウスでも各所組織 には組織マクロファージが存在し472~474)、肉芽腫形成実験でもマクロファージによって炎 症性肉芽腫が形成される472, 473)。以上の事実から、組織マクロファージはMCP-1 や CCR2 の欠損した状態でも単球とは無関係に組織内で発生することを意味し、これはvan Furth の MPS 学説で主張された単球から組織マクロファージへの分化、成熟とは明らかに矛盾 する。筆者はM-CSF の連日投与実験、あるいは M-CSF や GM-CSF を分泌するマウス線 維肉腫株NSFA のマウスへの移植実験では、末梢血中の単球は経時的に増加の一途を辿る が、肝、脾、腹腔などの組織マクロファージの数には著変はなく、組織に刺激が加わらな いと、血液単球の組織内浸入は起らず、マクロファージの増加も起らないことを明らかに した475~477)。この事実は無刺激状態の臓器、組織では、血中に単球増多を起しても血液単 球の組織内への侵入や移住は起らないことを意味し、このことは組織マクロファージが炎 症性マクロファージと同様に血液単球に由来すると言うvan Furth らの MPS 学説とは矛 盾する(「マクロファージの発生と分化に関する実験的解析」の項(p. 254)参照)。 e) 3H-サイミジン・オートラジオグラフィー van Furth らは MPS 学説の概念形成に際しては、3H-サイミジン・オートラヂオグラ フィーを基盤とした研究が重要な根拠となったが、1980 年代に入ると、BrdU (5-bromo -2-deoxyuridine)標識法を用いての研究成績が加えられ、van Furth ら (1976, 1979, 1980) はこれらの3H-サイミジンや BrdU 標識法に基づき、MPS の細胞系列を ① 分裂分画(骨 髄内で多能性造血幹細胞から前単球までの分化)、② 後分後裂分画(骨髄内での単球への分 化、成熟する時期)、③ 通過分画(末梢血内を単球が循環する時期)、④ 機能分画(組織内移 住後のマクロファージの生存期間)との4つの分画に区別した(表 8 参照)5, 424~427, 431433) すなわち、① は活発に細胞分裂を行い、前単球にまで分化する。しかし、② では単球へ 分化した後は分裂能を失い、③ は骨髄から放出された単球は末梢血中を循環する期間、④ は組織に単球が移住し、マクロファージに分化、成熟し、機能を発揮する期間と主張され ている。van Furth は生体各所の組織内では、3H-サイミジンで標識される細胞が存在す ることを指摘しているが、その標識率は 5%以下で、無視できると述べ、組織内でのマク ロファージの増殖能を否定した。さらに、彼はこの標識細胞は単球に分化、成熟する以前 に骨髄から放出された前単球が組織に流れ着いたばかりのものであって、局所組織でのマ クロファージの分裂によるものではないと主張した。 しかしながら、van Furth らによる MPS 学説の提唱前あるはそれ以降の時期でも、マ クロファージの分裂能を示す成績が腹腔マクロファージ、皮下マクロファージ、Kupffer 細胞、肺胞マクロファージ、脾マクロファージなどで報告され、既に「細網細胞と組織球(マ クロファージ)の分離」の項(p. 53 )で述べた如く、松田 (1980)はマウスとモルモットの皮 下組織球を超微形態レベルで検索し、PO 活性の局在上在住マクロファージと同定される

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92 細胞の核に3H-サイミジン標識を証明し、組織在住マクロファージは分裂し、増殖能を保 持することが明らかにされている 259)。さらに、前項でも述べたように、89Sr 投与あるい は骨髄分割放射線照射法による極度の単球減少症惹起マウスで、腹腔マクロファージ、肺 胞マクロファージ、肝Kupffer 細胞が増殖能を有するのに対して、末梢血内の単球系細胞 がほぼ完全に消失することから、組織内に検出された3H-サイミジン標識細胞は前単球で はないことが判明し、van Furth らとは明らかに見解を異にした 448, 449,463~4668) Parwaresch ら (1984)、Wacker ら (1986)によるパラビオーシス実験でも、腹腔マクロフ ァージの半数は分裂能を有し、自己再生をすることが報告され450, 451)、いずれもvan Furth の主張とは異なり、マクロファージは増殖能を保有することが提示された。 このような研究に対してvan Furth ら(1984)の主張にも一時的ながら変化が見られ、マ ウスの脾マクロファージで増殖能を報告し、脾マクロファージの55%は血液単球に由来す るが、残りの 45%はマクロファージの局所産生によると主張した 478)。しかしながら、こ の種の脾局所で増殖を示すマクロファージは骨髄から放出されたばかりの単球前駆細胞、 すなわち、前単球であると解釈し479)、マクロファージそのものではなく、脾で分化したマ クロファージ自体は増殖能を欠く細胞群であると主張し、全身各所のマクロファージは増 殖能を欠くと言う立場を終始取り続けた431, 432)。このvan Furth らの主張は、筆者らの研 究成果を含めて Volkman ら多くの研究者によって提示された無刺激定常状態での組織マ クロファージが増殖能を保有し、自己再生で維持されると言う研究成果とは明らかに矛盾 する。van Furth らが MPS 学説の提唱の基礎をなした3H-サイミジン・オートラヂオグラ フィーで用いた放射性同位元素3H-サイミジンは β 線を放射し、核内に取り込まれた場合、 それが低レベルでも核内での影響が遺伝子に及び、DNA 鎖を破損し、細胞の増殖を抑える ことが知られている480)。このことから、H-サイミジンをマーカーとしたマクロファージ の追跡は、それが長期に及ぶ場合、細胞の増殖を抑え、アポトーシスを惹起するので、こ の方法は生理学的状態のマクロファージの生存期間を検索するのには不都合である。 炎症におけるマクロファージに関してvan Furth らの主張は前述した如く、急性炎症で は、骨髄内での単芽球の増殖率の亢進、前単球の数の増加と細胞回転の短縮、単球の増加 と末梢血への放出、動員、局所炎症巣への単球の浸潤、局所での単球の滲出マクロファー ジへの分化、滲出マクロファージの増加と集積が起り、炎症初期では、専ら単球の浸潤に よってマクロファージが増加し、局所でのマクロファージの増殖によるものではない。し かし、筆者らの行ったラットの実験的研究によると、ブレオマイシンの気管内投与による 肺障害 481)、エンドトキシン・ショック482)I 型コラーゲン誘発関節炎 483)、グルカンやシ リカの気管内投与による肺肉芽腫性炎症 484) などの急性ないし慢性炎症では、局所炎症巣 内への、単球の浸潤、単球の滲出マクロファージへの分化、発症後3 日をピークとする滲 出マクロファージの増殖、組織マクロファージの増加と増殖が惹起された。ヒトの慢性炎 症性肺疾患でも、肺胞マクロファージの増殖率は正常時の2~15 倍に達することが知られ ている485)。このように、慢性遷延性炎症では、単球の血中からの組織内補給と炎症性マク

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93 ロファージへの分化の他に、組織マクロファージの増殖を惹起する。 著者らは 89Sr 投与長期極度単球減少症惹起マウスと骨大理石病マウス(op/op マウス)と の二つの単球欠如ないし減少マウス・モデルでの研究で、末梢血中には単球が欠如し、組 織内での単球からマクロファージへの分化が障害され、血中からの単球の補給やマクロフ ァージへの分化が起らなくとも組織マクロファージは存在することを実証した。上述した 如く、89Sr 投与長期極度単球減少症惹起マウスで 2 ヶ月以上に及ぶ長期間持続しても各所 臓器、組織において組織マクロファージの減少は起らず、肝臓では、むしろ増加の傾向が 見られ、電顕的に OP 活性の局在パターンが在住マクロファージの超微形態を示し、 Kupffer 細胞の形状を呈した467, 468)Op/opマウスはop遺伝子変異のためM-CSF 遺伝子 コード領域が障害され、M-CSF の産生が欠如し、そのため骨髄内での単球産生が起らず、 末梢血中の単球は欠如する。M-CSF の欠損の結果、組織マクロファージの分化、成熟が障 害され、その数は減少するが、減少の程度は臓器、組織によって異なり、小型、円形の未 熟なマクロファージの超微形態を示し、PO 電顕的に陰性である486)。この小型円形未熟マ クロファージは単球系細胞の分化段階を経由せずにそれ以前のマクロファージ前駆細胞に 由来する。Op/opマウスに M-CSF を注射すると、この未熟マクロファージは分化、成熟 し、核周と粗面小胞体にPO 活性が出現し、在住マクロファージに分化、成熟する487)。以 上の事実は組織マクロファージがすべて単球に由来するというvan Furth らの主張とは矛 盾し、組織マクロファージは単球系細胞とは無関係であることを物語るものである(「骨大 理石病マウス(op/opマウス)を用いての組織マクロファージの検討」の項(p. 260)参照)。 筆者はこれらの二種類の単球欠損マウス、すなわち89Sr 投与長期極度単球減少症惹起マ ウスとop/op マウスとのそれぞれにグルカンを投与し、肝肉芽腫の形成過程を検討した。 その結果、これらのマウスでは末梢血からの単球の補給が欠如しているためグルカン投与 後3 日まで肝肉芽腫の形成は起らないが、その後既存の Kupffer 細胞の増殖が起り、3 H-サイミジンやBrdU で標識され、Kupffer 細胞の増加、集積、種族によって肉芽腫が形成 され、10 日以降は対照マウスで形成された肝肉芽腫の数や大きさと同程度の肝肉芽腫に達 することが実証された487, 488)(「肉芽腫形成におけるマクロファージの実験的解析」の項(p. 336)参照)。 以上の諸事実から、van Furth らが繰り返し主張した「マクロファージはす べて分裂能を欠き、血中からの単球の補給によってのみ維持される」と言う MPS の基本 理念とは矛盾し、「マクロファージのうち、とりわけ組織マクロファージは分裂能を保有し、 その増殖によって自己再生可能である」ことが明らかである。さらに、単球の関与がない 状態でも局所組織のマクロファージの増殖によって慢性炎症性肉芽腫が形成されることが 実証された487, 488)。以上の知見から組織マクロファージは分裂し、増殖能を有する細胞群 であることが明らかにされ、従来多くの研究者によって報告された組織マクロファージの 分裂像が実験的に確証されたことになる。 f) 細胞化学的同定

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前述した如く、van Furth ら (1972)は種々の酵素を MPS の細胞学的同定基準として推 奨した。しかし、小島 (1990)はこれらの酵素の中には、細胞種によって著しい差異の見ら

れるものが存在し、細胞起源の差異を示唆するこを指摘した258)。その一つに形質膜酵素の

5’-ヌクレオチダーゼが指摘され、この酵素はマウスで血液単球や滲出マクロファージでは、

組織マクロファージに比べて著しく低く、Bursucker & Goldman (1979)は組織での在住マ

クロファージと炎症性の滲出マクロファージとは明らかにそれらの前駆細胞の分化段階か ら5’-ヌクレオチダーゼ活性の発現を異にする細胞に由来し489)Ginsel ら (1985)は単球や 滲出マクロファージと組織マクロファージとの細胞起源の差異をPO 活性の局在と 5’-ヌク レオチダーゼ活性との二重酵素電顕法で如実に実証した490)。小島 (1990)はβ-ガラクトシ ダーゼ、プラスミノーゲン活性化因子、ラミニン活性などは滲出マクロファージと組織マ クロファージとでは差異のあること、さらに組織マクロファージでも臓器、組織によって、 あるいは存在部位によって、あるいは個々の細胞によっても細胞化学的染色の陽性像を異

にすることを指摘した258)。 Morahan & Miller (1984)はラットやマウスの組織在住マク

ロファージの活性化に際して5’-ヌクレオチダーゼ、ロイシン・アミノペプチダーゼ、アル カリ性ホスフォデイエステラーゼ、DNA ヌクレオシダーゼの 4 種の細胞外酵素 (ectoenzy- mes)の発現には差異を報告した 491)。マクロファージにおける PO 活性の細胞内局在に関 しては、Daems ら (1972)の研究255)を端緒として 組織マクロファージの起源を巡って van Furth らの MPS 学説と相反する見解が提示され、この問題について論議が沸き起った。 この議論の推移は次項で詳述する。 g) 内因性ペルオキシダーゼ反応 (1) 在住マクロファージと滲出マクロファージ(炎症性マクロファージ) van Furth ら(1972)は MPS の細胞同定に関して超微形態学的解析では不十分であると 主張した頃、同じライデン大学の電子顕微鏡研究所のDaems は Brederoo とともに酵素 電顕的に内因性ペルオキシダーゼ (PO)活性の局在をモルモットの腹腔マクロファージを 検索し、PO 活性の局在を異にする 2 種類の細胞を発見し、両者は超微形態学的にも差異 のあることを明らかにした255)。無刺激状態のモルモットの腹腔マクロファージは核周や組 面小胞体およびGolgi 装置に PO 反応が局在し、この反応はアミノトリアゾール処理で消 失する。この種のマクロファージは直径10μ、核は偏在し、深くくびれて、弯入側には中 心体を囲んでGolgi 装置が発達し、それと反対側に好んで組面小胞体が分布し、ライソゾ ーム顆粒が豊富、細胞表面には多くの微絨毛突起を突出している。Daems はこの細胞を在 住マクロファージ (resident macrophages)と呼んだ(図 19 参照)255)。これに対して、無菌 的刺激によって得られた腹腔滲出液内のマクロファージは卵円形ないし馬蹄形の核を有し、 Golgi 装置、組面小胞体、その他の細胞内小器官の発達は比較的乏しく、細胞突起や ruffles はあまり著明ではない。この種の細胞は特殊顆粒を保有し、PO 反応はこの顆粒のみに陽 性で、アミノトリアゾール処理に抵抗性を示し、これらの性状は単球と軌を一にすること

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から単球由来と考えられ、Daems は滲出マクロファージ(exudate macrophages)と名付け

た(図19 参照)255)Daems 一派 (1972~1980) 255, 492~496)や小島一門 (1976~1980)の研究 256, 259~262, 497, 488)によってモルモット以外でもラット、マウス、ヒトなどでも証明され、無 刺激状態下では腹腔などの体腔内のマクロファージのみならず、皮下結合織内組織球、肝 Kupffer 細胞、肺胞マクロファージ、リンパ節やリンパ組織のマクロファージなどのマク ロファージは在住マクロファージと同様のPO 反応陽性像を示すことを確認し、これらの マクロファージに発現するPO 活性は安定して発現する。在住マクロファージは組織内に 常在するマクロファージであることから、組織マクロファージ(tissue macrophages)ある いは組織球(histiocytes)とも呼ばれ、小島 (1976)は正常刺激個体の生体各所の臓器、組織 図19 成熟マウスのマクロファージの内因性ペルオキシダーゼ活性の局在。 A: 滲出マクロファージで、単球同様に PO 反応は顆粒のみ陽性。 B: 在住マクロファージで、核周と粗面小胞体に PO 活性の局在を示す。

内に広く分布するマクロファ―ジを組織球系統 (histiocytic cell system)として統括した。

その根拠としては無刺激ラットの腹腔内でマクロファージの約 80%が在住マクロファー ジであって、PO 肺胞マクロファージもほぼ同様、これらの在住マクロファージは単球由 図18 W. T. Daems. 内因性ペルオキシダー ゼの局在を酵素電顕的に検出し、PO 活性の局 在を異にする 2 種類のマクロファージの存在 を発見、滲出マクロファージと在住マクロフ ァージと命名し、後者の単球由来を否定した。 (文献1)から転載)

A

B

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96 来とは異なると推定されたからである。急性炎症や被刺激状態では、単球が浸潤し、滲出 マクロファージに分化し、殆どのマクロファージは滲出マクロファージで占められるが、 やがて炎症が沈静化すると、滲出マクロファージは減少、消退し、在住マクロファージが 主体となる。この過程で、問題となるのは、(1) 滲出マクロファージが減少、死滅し、在 住マクロファージが増殖によって増加し、在住マクロファージが主体の元の状態に戻るの か、あるいは(2) 炎症の沈静化に伴い、滲出マクロファージが在住マクロファージに変態 する可能性であり、後者はvan Furth らの主張した MPS 学説を支持する重要な根拠と見 做された。 (2) いわゆる“滲出・在住マクロファージ”について このように、PO 活性の局在から単球由来の滲出マクロファージと無刺激定常状態の組 織に存在する在住マクロファージとが識別されたが、Bodel ら (1977、1978)はウサギの血 液単球の培養実験で、ガラスに付着した単球の一部の細胞に在住マクロファージと同様核 周、組面小胞体にPO 活性の発現が観察され、この所見を単球が在住マクロファージに分 化、成熟する過程と見做し、MPS の正当性を裏付ける根拠と主張した499, 500)。この現象は その後、ウサギのみならずヒト、ラット、マウス、モルモットなどでの単球の培養実験で も報告され、生体内でも刺激状態では顆粒、核周、組面小胞体にPO 活性の局在を示すマ

クロファージが観察され、Beelen ら(1979, 1980)501~503)、Bainton (1980) 504)、Deimann

(1984)505) は滲出マクロファージから在住マクロファージへの移行像ないし中間型と見做 し、滲出・在住マクロファージ(exudate-resident macrophages)と命名した。さらに、Bain- ton ら(1980)はウサギやモルモットの腹腔内にプラスチックカバーを挿入し、それに付着 した滲出マクロファージで顆粒のみならず核周、組面小胞体にPO 活性が出現し、滲出・ 在住マクロファージが生体内でも発現することを証明した504)。このマクロファージは催炎 実験でも生体内で観察され、滲出マクロファージから在住マクロファージへの移行像ない し中間型として単球が組織内で滲出マクロファージに分化し、最終的に組織マクロファー ジになる過程を物語るもので、MPS 学説を支持する根拠と考えられた(図 20 参照)。 これに対して、いわゆる“滲出・在住マクロファージ”の本態を巡って単球由来の滲出 マクロファージから組織マクロファージへの移行像ないし中間型とは見做し難いと言う反 論が小島一門497, 498)Daems 一派492~496)によって提示された。その根拠を総括的に整理 すると、(1) いわゆる“滲出・在住マクロファージ”の核周や組面小胞体に発現する PO 反応は一過性で、短時間(3~6 時間程度)であり、在住マクロファージに安定して恒常的に 発現するPO 反応とは異なること 497, 498)、(2) 骨髄細胞の体外培養で、核周や組面小胞体 に於けるPO 反応の出現は成熟した単球に見られ、滲出マクロファージでは起らないこと から、いわゆる“滲出・在住マクロファージ”は滲出マクロファージの前段階と見做され ること497, 498, 505)、(3)在住マクロファージの核周や組面小胞体における PO 活性はカタラ ーゼで、単球と滲出マクロファージの特殊顆粒のPO 活性はミエロペルオキシダーゼによ

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97 るもので、両種の細胞内小器官におけるPO 活性は生化学的に性状を異にすること495, 496) (4) 単球や顆粒球から放出された PO 顆粒が在住マクロファージによって貪食されると、 いわゆる“滲出・在住マクロファージ”との識別ができないこと506~508)、(5) 非刺激定常 組織では、いわゆる“滲出・在住マクロファージ”は検出されないこと257, 258) などが挙げ られ、これらの諸事実から滲出・在住マクロファージが単球から滲出マクロファージを経 て在住マクロファージに移行する中間型の細胞とは見なすことは出来ないことなどが指摘 された。以上のように、いわゆる“滲出・在住マクロファージ”の本態を巡ってはまった く異なった見解が提示された。 単球系細胞の分化の過程で、核周や粗面小胞体におけるPO 活性の局在は在住マクロフ ァージやいわゆる“滲出・在住マクロファージ”のみならず前単球、単芽球の分化段階で

も出現し、前単球ではGolgi 装置にも観察される。Deimann (1984)は Daems ら(1980)の

主張と同様に PO には二種類あって、性状を異にし、前単球では核周、粗面小胞体で PO が合成され、Golgi 装置を経由して顆粒に放出され、ミエロペルオキシダーゼとして顆粒 内に貯留することを示した505)。しかし、単球に分化すると、核周、粗面小胞体でのPO 合 成は停止し、顆粒のみがPO 活性を示すようになる。Daems ら(1980)はアミノトリアゾー ルなどの阻害剤の検討から在住マクロファージの核周や粗面小胞体内のPO がミエロペル オキシダーゼではなく、カタラーゼと見做した496)が、Deimann (1984)は培養で単球の核 周、粗面小胞体に出現するPO 活性はプロスタグランヂンの変換に関連し、プロスタノイ ド合成によって出現すると述べ、PO の生化学的性状が異なることを主張した505)。これら の諸事実から、いわゆる“滲出・在住マクロファージ”が単球から在住マクロファージが 滲出マクロファージから在住マクロファージへ移行する中間段階の細胞と理解することに は問題が残り、さらに、二重酵素細胞化学的ないし免疫細胞化学的解析が加えられた。 図 20 モルモットのいわゆる “滲出・在住マクロファージ” の内因性ペルオキシダーゼ活性 の局在。PO 反応は核周や粗面小 胞体(細い長い矢印)、顆粒(太い 短い矢印)に陽性で、このマクロ ファージは在住マクロファージ と滲出マクロファージの中間型 ないし移行像と見做された。

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98

(3) 二重酵素細胞化学的ないし免疫細胞化学的解析

Daems 一派の Ginsel ら(1985)は形質膜酵素の一つ 5’-ヌクレオチダーゼや小麦胚芽アグ ルチニン(wheat-germ agglutinin: WGA)と PO を同時に検出する二重酵素細胞化学的方

法で単球とマクロファージとを超微形態レベルで検討した490)。その結果、在住マクロファ ージの細胞膜は5’-ヌクレオチダーゼ活性あるいは WGA の局在を示し、単球ならびに単球 由来の滲出マクロファージと同様にいわゆる“滲出・在住マクロファージ”では 5’-ヌクレ オチダーゼ活性やWGA は局在せず、これらの知見に基づきいわゆる“滲出・在住マクロ ファージ”は滲出マクロファージと在住マクロファージとの中間型ではなく、単球系マク ロファージの一亜型であって、在住マクロファージは起源を異にする細胞と推定した490) 次項で詳述するように、1980 年代に入り、抗マクロファ-ジモノクロナール抗体の作製 が進み、数多くの抗マクロファ-ジモノクロナール抗体が作製され、それらの免疫細胞化 学的方法がマクロファージの研究に用いられた。マクロファージの細胞膜を認識するモノ クロナール抗体を用いての免疫細胞化学とPO 酵素細胞化学との二重検出法で、超微形態 レベルでの検索が可能と成った。Beelen ら(1987)は 3 種類の抗ラットマクロファージ・モ ノクロナール抗体、ED-1(CD68)、ED-2(CD163)、ED-3(CD169)を用いて二重超微形態学 的検出法で検索し、ED-1 は単球と単球が分化したばかりの未熟マクロファージ、ED-3 は 滲出マクロファージ、ED-2 は在住マクロファージに陽性で、単球/マクロファージの各分 化段階に於けるこれら3 種類のモノクロナール抗体の表出から単球から滲出マクロファー ジ、さらに組織マクロファージ(在住マクロファージ)への分化、成熟過程を裏付ける根拠 と見做し、MPS 学説を支持した509)。これに対して、筆者らの滲出マクロファージと組織 マクロファージとのそれぞれを特異的に認識する抗ラットマクロファージ・モノクロナー ル抗体、TRPM-3(CD169)と ED-2(CD163)、Ki-M2R とを用いての検討から、いわゆる“滲 出・在住マクロファージ”は単球由来の滲出マクロファージと同様にTRPM-3 によって認 識され、他方ED-2、Ki-M2R とは反応せず、単球や滲出マクロファージと同一の免疫表現 型を示し、組織マクロファージとは異なり、単球由来の滲出マクロファージの一亜型と見 做された341, 475~477, 510)。従って、いわゆる“滲出・在住マクロファージ”は MPS 学説を 裏付ける根拠と見做された滲出マクロファージから組織マクロファージへの移行像あるい は中間型ではないことが判明した。 h) モノクロナール抗体を用いての免疫細胞化学的解析 上述した如く、マクロファージの同定上最も信頼性のある方法としてマクロファージに 特異的な物質に対するモノクロナール抗体が作製され、モノクロナール抗体を用いての免 疫組織化学的ないし免疫細胞化学的同定法が開発され、van Furth らの提唱した MPS 学 説に関してNibbering ら (1985, 1987)は免疫細胞化学的解析を行った。彼らは F4/80、共

通白血球抗原 (common leukocyte antigen: CLA)、Mac-2、Mac-3、Ia 抗原、Fc 受容体、 C3 受容体などに対するモノクロナール抗体を用いて個々の細胞の表面抗原を免疫細胞学

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99 的に検索し、それらの抗原量を個々の細胞表面に就いて定量的に測定し、培養によって単 球やマクロファージの抗原量の変化を検討した427~429)。その結果、彼らは単球系細胞の分 化と単球から組織マクロファージへの分化における抗原の表出は一定のパターンを示すこ とを想定した428~430)。しかし、彼らの検討結果によると、抗原によってその表出はそれぞ れ異なり、一定のパターンは見られないこと、さらに組織マクロファージが臓器、組織に よって、あるいは同一臓器、組織でも存在部位によって表面抗原量を異にし、組織マクロ ファージは多様性を示すことが判明した428~430)。このことは、小島(1976、1987)が指摘し たマクロファージの多様性を裏付けるものである256~258) モノクロナール抗体の開発が進むにつれて、組織マクロファージに関して同一臓器、組 織内でも存在部位が異なると、異なった免疫細胞化学的性状を示し、それらの組織マクロ ファージを特異的に認識するモノクロナール抗体が作製され、それらの抗体を用いてそれ ぞれのマクロファージ群を同定することができるようになった。前述したように、それぞ れのマクロファージ群を特異的に認識するモノクロナール抗体を用いて同時にPO 活性の 細胞内局在を証明出来る二重免疫細胞化学・酵素細胞化学的検出法によると、単球由来の 滲出マクロファージと組織マクロファージとを識別可能になった。組織マクロファージに 関しても、例えば、マウスの脾では赤脾髄のマクロファージ、白脾髄の濾胞辺縁帯に分布 する2 種類のマクロファージ(辺縁性メタル好性マクロファージ、濾胞辺縁帯マクロファー ジ)のそれぞれを特異的に認識するモノクロナール抗体が作製されており、これらのモノク ロナール抗体で免疫組織化学的に同定される。さらに、マクロファージの細胞膜上に発現 する受容体や細胞内の物質を認識するモノクロナール抗体も作製され、臓器、組織に分布 する組織マクロファージの形態と機能の関連、形態学的ならびに機能的多様性が明らかに された1) (「マクロファージとその亜群ならびに近縁細胞」の項(p. 239)参照)。 i) マクロファージの寿命と細胞回転 van Furth らの主張によると、マクロファージは MPS の最終分化段階に位置付けられ、 最早分裂能を欠き、血中からの単球の補給によって維持される細胞群と主張された。マク ロファージは組織内で早晩死滅する運命を辿り、あるいは血流を介し脾に運ばれ、リンパ 流を経て所属リンパ節に至り、処理される。マクロファージの寿命は半減期でマウスでは 長くとも2 週間程度、ヒトでは 5 週間と主張した。このように、単球由来のマクロファー ジは短命で、細胞回転も速い細胞群と解釈される426, 431) これに対して、組織マクロファージに関しては、研究者によってまちまちな成績が提示 されているが、いずれも単球系マクロファージの生存期間より長く、組織マクロファージ

は長命な細胞群と理解される。例えば、de Bakker & Daems (1981) はマーカーに Imferon

を用いて腹腔マクロファージを経時的に追求し、少なくとも 16 週間はマーカーが保持さ

れ、腹腔マクロファージは単球系マクロファージよりも8 倍以上長生きしたことになる511)

(21)

100 間以上を過ぎても蛍光を発しており、この研究でも腹腔マクロファージは長命であること が判る512)。しかし、これらのマーカーはラベルされた細胞が死滅すると、他のマクロファ ージに取り込まれる可能性があり、生存期間を正確に測定するのには疑問が残る。そのた め、3H-サイミジン、BrdU や性染色体などの核を標識する方法が用いられる。筆者らの行 ったマウスでの3H-サイミジン閃光標識法を用いて肝 Kupffer 細胞の寿命を調べると、ほ ぼ 5 週間であることが判明し、単球系マクロファージよりも長命であることが判る 513) Bouwens ら (1986)は成熟ラット肝で Kupffer 細胞が4ヵ月(約 120 日)程度生存する514) ヒトの肝移植では、ドナー肝のKupffer 細胞はレシピエントのマクロファージによって漸 次置き換えられ、完全に置換されるには1 年以上(14 ヵ月)を要する515)。中田ら(1999)は骨 髄移植による肺胞マクロファージの置き換わりを検討した結果、レシピエントの肺胞マク ロファージがドナー由来のマクロファージで置換されるには少なくとも 81 日以上かかる ことを報告した516)。既に「単球減少症惹起実験」の項 (p. 89)で述べた如く、89Sr 投与や 骨髄分割放射線照射で極度の単球減少症を惹起したマウスでは、腹腔マクロファージ、肺 胞マクロファージ、肝Kupffer 細胞は単球の補給に因らずとも自己再生によって維持され、 長命であることが明らかにされている。 以上の知見を総括すると、van Furth らの提示した単球由来のマクロファージの寿命が 長くとも2 週間と短命であるのに対して、組織マクロファージは一般的に長命で、その入 れ換わり(細胞回転率 turnover rate)は緩やかに起り、あるいは自己再生すると考えられる。 筆者らの89Sr 投与単球減少症惹起摘脾マウスでの計算によると、Kupffer 細胞は 6~7 週 に1 回分裂すると、維持される。しかし、筆者らが行った3H-サイミジン閃光標識法での マウスの検索では、肝 Kupffer 細胞の寿命は 5 週間で、血液単球の補給を欠く状態で Kupffer 細胞が維持されるのには生存期間が 1~2 週間不足することになる。単球減少症惹 起摘脾マウスでは、末梢血中には造血幹細胞に相当する未熟骨髄細胞 (CFU-S)が検出され、 Kupffer 細胞の3H-サイミジン標識率は 5 週以降増加傾向を示した467, 468)。これらの事実 から、① 未熟骨髄細胞からの補給とKupffer 細胞への分化、あるいは ② Kupffer 細胞の 増殖亢進による代償機構の発現の二つの可能性が考慮される 1)。しかし、いずれにしても 組織マクロファージは単球系マクロファージとは異なり、増殖能を発揮し、あるいは単球 系細胞以前の分化段階の未熟造血前駆細胞から補給され、長命の細胞群と理解される。 j) マクロファージの増殖や分化と造血因子 すでに述べたように、van Furth (1993) 432) MPS の各分化段階における造血因子の作

用を明示し、多能性造血幹細胞から CFU-GM の分化 IL-3 が作用し、CFU-GEMM から

CFU-GM の分化段階には GM-CSF が作用し、MPS の CFU-M から単芽球、前単球の増殖、

さらに単球、マクロファージの分化にはM-CSF が作用すると説明し、MPS の増殖と分化

にはM-CSF の重要性を強調し、MPS の正当性を造血因子の作用の観点から無理なく説明

(22)

101 もしもvan Furth らの MPS 学説が正しく、生体内のすべてのマクロファージが単球系 細胞の分化段階を経由して分化した単球に由来するならば、単球系細胞の増殖と単球、マ クロファージへの分化に重要な作用を発揮する M-CSF が欠損する状態では生体内ではマ クロファージのすべてが欠如する筈である。しかし、上述した如く、自然発症突然変異マ ウスであるop/opマウスはM-CSF 遺伝子の突然変異によって M-CSF の機能活性を示す蛋 白が産生されず、そのため破骨細胞の分化が障害され、成熟した多核性の破骨細胞が欠損 し、骨吸収が障害され、骨大理石病を発症する486, 517~519)Op/opマウスでは、M-CSF の 欠損によって骨髄での単球系細胞の産生、発達、分化が障害され、末梢血中に単球が欠如 し、生体各所の組織で単球由来のマクロファージは欠損する 486, 519) 。この事実は上記の van Furth の主張を裏付け、MPS の発達と分化における M-CSF の重要性を支持している。 しかしながら、op/op マウスの諸臓器、組織には未熟な小型のマクロファージは存在し、 酵素電顕的にPO 活性は陰性で、この種の未熟マクロファージは M-CSF 以外の GM-CSF あるいはIL-3 などの造血因子で発達、分化した組織マクロファージの前駆細胞である486) ほぼ同様の病態はM-CSF 受容体遺伝子欠損マウスでも発現し、これらは M-CSF 受容体欠 損によってM-CSF に対して反応しないためで、血中には野生型マウスの 40 倍にも達する M- CSF の増量が起り、この点が M-CSF の欠如したop/opマウスとは異なる521)Op/op マウスや M-CSF 受容体欠損マウスで発生する未熟なマクロファージ、すなわち、組織マ クロファージ前駆細胞は単球系細胞の分化段階を経由せずに分化した細胞で、単球に由来 したものではなく、正常成熟マウスの骨髄細胞にIl-6、IL-3、GM-CSF などの造血因子を 加えて培養すると、GM-CSF を加えて培養した細胞が組織マクロファージ前駆細胞に超微 形態学的ならびに免疫表現型上類似性を示し、これらの事実は組織マクロファージが単球 系細胞以前の分化段階から由来することを物語る486, 519)Op/opマウスでは、単核性破骨 細胞、すなわち前破骨細胞 (preosteoclasts: 破骨前駆細胞)は少数ながら存在し、この細胞 もまた組織マクロファージ前駆細胞と同様に単球系細胞以前の分化段階から発達したもの である。Op/opマウスが老化すると、骨大理石病は改善され、op/opマウスにGM-CSF や IL-3 を投与すると、破骨細胞が出現し、同時に組織マクロファージも増加する 520)。これ らの事実は単球系細胞の増殖、分化を支持する M-CSF が欠如した状態でも未熟な組織マ クロファージや少数の破骨前駆細胞が発生し、これらの細胞は単球系細胞以前の分化段階 のマクロファージ前駆細胞に由来することを物語る。 Op/opマウスに M-CSF を連日投与すると、骨髄での単球系細胞の発達、単球の末梢血 出現が見られ、組織でのマクロファージの増加を来たし、この事実は MPS 学説を支持す るものである 519)。しかしながら、未熟な組織マクロファージ前駆細胞や前破骨細胞に M-CSF が作用し、それぞれ組織マクロファージや多核性破骨細胞に分化、成熟し、前者は 粗面小胞体、核周にPO 活性が発現し、在住マクロファージの超微形態を示し519)、筆者ら の詳細な経時的検索では、M-CSF に反応して惹起された組織マクロファージ前駆細胞から 組織マクロファージへの分化、成熟は単球の末梢血中出現と単球由来のマクロファージの

図 16  Ralph van Furth.  単核性食細胞学説を提 唱。炎症刺激状態のみならず正常無刺激状態で生体 各所の諸臓器、組織に分布するマクロファージのす べては骨髄に起源する単球系細胞を経由して分化す る単球に由来し、組織に移住し、局所で分化すると ともに、マクロファージは基本的に増殖能を欠き、 マクロファージは血液単球の補給によって維持され ると主張した。  (徳永徹著「マクロファージ」講談社、1986 から転載)

参照

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