研究論文
タイの外資政策 と労働関連法
丹野 勲
要 旨
本論文では、タイの外資政策 の変遷 について考察 し、タイの中心的な労働 関連法である 1998年労働者保護法、お よび1975年労働 関係法 を中心 として、タイの労働法の特徴 、お よ びその法制に基づ くタイ企業の人的資源 の特徴 について論述す る。 その際、タイ労働 関連 法 と人的資源管理、 日本 の労働法 との比較、お よびILO条約 との関連 な どについて も触 れ る。
タイの労働法の特徴 として以下を指摘 した。第 1は、タイの労働者法 による労働条件 は
I LO
の最低基準に準 じた規定が多い。第2
は、タイでは最低賃金が実質的に労働者 の賃金 決定の基準 となっている。第3は、残業 に関す る賃金 の割増率については高水準である。第 4は、解雇手当の支給が法制化 され てい る。第 5は、20人以上の労働者 を有す る事業 所 は文書 による雇用条件協約(労働協約)を義務づ けてい る。第6は、労働組合登録制度 の 存在 である。労働組合 を結成できるのは、労使 関係法で 「同 じ使用者 の下に働 く労働者」、
または 「同業者 の労働 に従事 してい る労働者」でなけれ ばな らない と規定 してお り、労働 組合形態は、企業別 、または業種別 に限 られ ることになる。 したがって、一般組合や地域 別組合 は認 め られない。第7は、労使 関係 において、労働組合 のみ な らず労働者委員会 も 重要である。
キ ー ワー ド :タイの外資政策 、 タイ労働者保護法 、 タイ労働 関係 法
、I LO
(国際労働機 構)、タイの人的資源管理は じめに
本稿 では、タイの外資政策 の変遷 について考 察 し、タイの中心的な労働 関連法である1998年 労働者保護 法、お よび1975年労働 関係法 を中心 として、タイの労働法の特徴 、お よびその法制 に基づ くタイ企業の人的資源 の特徴 について論 述す る。 その際、タイ労働 関連法 と人的資源管 理、 日本 の労働 法 との比較 、お よび
I LO
条約 と の関連 な どについて も触れ る。なお、本論文は、文部科学省科学研 究費補助 金基盤研究
C
「アジア ・太平洋のフロンテ ィア地域 の国際経営」 (課題番 号18530309)の研 究 成果で もある。
第
1
節 タイの外資政策タイは、アジアの中で最 も早 く外国資本 を積 極的に受 け入れ、外資導入 による工業化 に成功 した国の 1つである。 タイの戦後の外資政策 の 変遷 についてみてみ ることに しよ う。
第 1段階は、1960年代か ら70年代初期 までの 輸入代替工業化政策 を採 った時期である。60年 代か ら、外資奨励政策 の環境面での整備 、お よ
び輸入代替 を 目的 とす る外資政策 を行 なった。
60年 には、外国投資の促進 のための機 関 として 投資委員会 (BoardoHnvestment:BOI) が設 立 された。 また、同年 に、それ までの産業奨励法 を改正 し,「産業投資奨励 法」 を制 定 した。 タ イ政府 は、国家経済社会開発計画 として、61年 か ら第1次5カ年計画 を開始 した。 この国家計 画の政策 目標 は、民間活力 の活用、イ ンフラの 整備 、国内外の民間企業の投資促進 に重点 をお いた。その政策 に沿って、62年 に、産業投資奨 励法 を大幅に改正 した 「1962年産業投資奨励法」
を制定 した。 この産業奨励法は、外資 を積極的 に導入 し、輸入代替型 の工業 を育成す ることを 狙い としている。政府 は、繊維製 品、消費財等 の輸入 関税 を大幅に引き上げる一方、国内産業
‑の外国資本投資を税制面で奨励す る政策をとっ た。外資 に対す る法人税 の免除期間の延長 、利 益送金 の保証等の優遇措置 を行 なった。65年 に は、投資委員会 の権 限強化 を 目的 とした機構 改 革 を行 ない、総理府 の直轄機 関 とした。 この時 期は、国内産業保護 のために導入 された高関税 を回避 し、タイ市場 を確保す る輸入代替 を 目的 とし、政府 の産業投資奨励法 にも誘発 されて、
日系企業 を初 め とす る外 国企業は盛んにタイ に 直接投資 を行 ない企業進 出を果た した。 この輸 入代替型産業の育成 は、タイの工業化や国内の 産業基盤 の強化には一定の効果 をもた らしたが、
他方では国内生産のために必要な部品、機械設 備等 の資本財 の輸入が増大 し、国際収支 の悪化 を招 いた。 また、狭除な国内市場 によ り規模 の 経済が追求できない、関税障壁 によ り国際競争 か ら隔離 されていた等か ら、 この時期 のタイ企 業の生産性は低 く、国際競争力は低い状態であっ た。
第 2段階は、1970年代前半期の輸 出産業の奨 励 と選択的外資導入政策 を採 った時期である。
70年代前半に、新投資奨励法 によ り輸 出産業の 奨励 が開始 された。72年 には、従来の輸入代替 政策か ら輸 出志向政策 を 目的 とす る 「1972年投 資奨励法」(1)が制定 された。72年か ら、輸 出志 向型産業振興 に重点をおいた第3次5カ年計画
が開始 された。この時期は、72年の10月に起 こっ たタイ大丸事件 をきっかけ とす る 日本製 品不買 運動、73年10月の学生革命 を契機 としてタノム 政権が倒れ文民政権 の誕生、74年 の 田中元首相 訪 タイ時の反 日運動、等の政治状況下で奨励企 業の選別 を強化す るとい う外資規制措置が実施 された。輸 出産業‑の外 国資本 か らの投資 を期 待 しなが らも 「外国企業規制法」 (1972年11月)、
「外 国人職業制限法」 (1973年12月) を制定 して 外 国企業の投資 を規制 した。 さらに、非輸 出産 莱 (輸 出が売上 げの20%以下) は、現地側パー トナー が資本 の60%以上 を所有す るべ きであ る とす る 「新投資ガイ ドライ ン」の設定 (1975年) によ り、資本 の現地化 を強化 した。 しか し、 こ の現地化 の規制の強化 は、軍部 の反 クーデ ター (1967年10月) 以降緩和 の方 向に向か うこ とに なる。
第3段階は、1970年代後半か ら現在 までの輸 出志 向工業化 の時期である。70年代後半か ら直 接投資 を歓迎す る奨励策が打 ち出 され、輸 出志 向政策 が さらに強化 された。77年4月に従来の 投資奨励法が大幅 に改正 され、 「1977年投資奨 励法」(2)が制定 された。輸 出志向型産業 を さら に育成す るために、78年7月 には外国人職業規 制法の改正、78年7月 と82年4月には外国企業 法の規制緩和、お よび83年 1月 にはBOIの通達 が実施 された。 特 に83年 のBOI通達 は、外 国資 本 の投資比率の緩和が行 なわれた。すなわち、
外 国投資家 は、製 品の50%以上 を輸 出す る場合 は過半数、100%輸 出の場合 は100%の資本所有が 認 め られた。 なお、主に国内市場 向けの企業で は、 タイ側 が登録資本 の51%以上の株 を所有す ることとした (例外 として、農業、動物飼育業、
漁業、鉱業、サー ビス業の場合 のみ、タイ側 は 60%以上の資本所有が可能である)。以上の よ う に、タイ政府 は、外 国資本 の資本所有 に関 して も100%外資が株式 を保有す る完全所有 を認 める 外資優遇政策 を打ち出 し、本格的な外資導入 に
よる輸 出志向工業化政策 を採 った。
タイの外資政策の現状についてみてみ よ う(3)0
「1977年投資奨励 法」 は、 1991年 と2001年 に‑
部改正 された。投資奨励業種 は、国の経済社会 開発 と安全保障で重要 な産業、輸 出志 向産業、
資本集約的、労働集約的または高度 なサー ビス 産業、農産物 または天然資源 を原料 として使用 す る産 業 で あ り、BOIが奨励 業種 を公表 す る (投資奨励法第16条) としてい る。 また、2000 年か ら 「1999年外国人事業法」が施行 された。
1999年外国人事業法では、特 に規制 されてい る 業種(4)では、外資の参入が規制 されてい るが、
その他 の業種では外資100%出資 を認 めてい る。
製造業は、100%出資の外資を原則 として認 めて いる。農業、漁業、鉱業、サー ビス業の一部は、
外資 出資規制 があ り、51%以上 をタイ資本 に し なけれ ばな らない としてい る。
第
2
節 タイの労働関連法 と人的資源管理タイ の人 口は、約6,400万人 で、 国土面積 は 51.3万km2(日本 の約1.4倍 ) で あ る。 タイ 国民 は、タイ族 (シャム族 な ど)が約8割、華人系 (約 1割)、マ レー系、カ ンボジア系、山岳民族 (カ レン族 、モ ン族等) な どがい る。 タイは、
華人 とタイ人 との混血が多 く、華人 とタイ人 と の同化 が進 んでいる。 タイの文化 についてみ る と、宗教 は南方上座部仏教が中心で、ユニー ク な文化 を持っている。(5)公用語 はタイ語である。
1. タイ労働者保護法の適用範囲
タイ労働者保護法では、 中央、地方、地 区の 行政機 関、国営企業労働 関係法 に基づ く国営企 業、省令で定めた機 関 ・組織 は適用 しない (労 働者保護法第4条) としている。す なわち、労 働者保護法は、国や地方の機 関、国営企業 を除 く、企業、組織 な どの労働者 に適用 され る。た だ し、家内労働者 には適用 され ない。
2.労働契約
タイでの労働 契約 については、民商法典第3 編第6章 (第575条か ら第586条 まで)、労働者
保護法な どに規定 されてい る。
労働契約 とは、労働者が使用者 のために労働 す ることに合意 し、使用者 が賃金 を支払 うこと に合意 した契約 をい う (労働者保護法第5条)。 タイでは、労働契約 を書面で行 う義務規定はな い。 また、労働契約 に関す る厳密 な規定がタイ の労働法規 にはない。
タイの雇用契約 は、①期 限の定めのない無期 労働契約 、②期 限の定めのある有期労働契約、
がある。期 間の定めのある有期雇用契約 は、使 用者 の通常の業務 ではない特別 のプ ロジェク ト に係 る雇用、臨時的性格 を有す る業務 、季節的 業務 、2年 間で終了す る業務 で書面契約 を締結 して い る もの につ いて のみ行 うこ とがで き る (労働者保護法第118条)0
す なわち有期雇用労働者 の規制 によ り、近年 ではタイの製造の業務では、特段 の理 由な く有 期の雇用契約 をおこな うことは認め られなくなっ てきている(6)。 また、 この有期雇用労働者 の規 制強化 によ り、人材派遣会社 による派遣労働者 が増加 してい る とい う指摘 もある(7)0
3.労働 時間 ・休 日
タイの法定労働 時間は、1日8時間、週48時 間である。 ただ し、省令で定める危険有害 な業 務 については、1日7時間以内、週42時間以内 である。業務 の性質 ・状況 によ り始業お よび終 業時刻 を特定できない場合 には、1日8時間以 内、かつ週の労働 時間の合計が48時間以内で1
日の労働 時間を使用者 と労働者 が合意 して定め ることができる (労働者保護法第23条)0
す なわち、 タイの法定労働 時間はILOの最低 基準 (ILO第1号条約)の週48時間労働 である。
また、使用者 と労働者 が合意す ることによ り変 形労働 時間制度 を法定労働 時間の範囲内で採 る
ことができる。
1日の就業時間中に1時間以上の休憩時間を、
労働 の開始か ら5時間以内に与 える。使用者 と 労働者 との事前合意 によ り1回の休憩時間を1 時間以内にできるが、 1日の休憩時間の合計は
1時間以上でなけれ ばな らない。就業 中の休憩 時間は労働 時間に算入 しない。ただ し、休憩時 間の合計が1日に2時間を超 える場合 には、2 時 間 を超 える時 間 を所 定労働 時 間 に算入す る
(労働者保護法第27条)0
使用者 は労働者 に 1週間に 1日以上の週休 日 を、次の週休 日との間を6日以内で与 えなけれ ばな らない。使用者 と労働者 は特定 日を週休 日
として事前 に合意ができる (労働者保護 法第28 条)。
満1年 間勤務 の労働者 は、1年 に6日以上の 年次休暇 を取得す る権利 を有す る。次年以降、
使用者 は年次休暇 を6日以上付与できる。未使 用の年次休暇は、翌年以降に繰 り越 しできる。
1年未満勤続 の労働者 は勤続期間に比例 して年 次休暇 を定 めることができる (労働者保護法第 30条)。
す なわち、タイの年次有給の規定は、満 1年 間継続 して労働 した場合 は、年間6日以上の年 次休暇を取得す る権利 があるとしている。また、
未消化 の年次休暇については、翌年以降の繰 り 越 しを認 めてい る。ただ し、勤務年数 が増 える に したがって年次休暇が何 日増 えるとい う具合 的な規定はない。 タイの年6日間の年次有給休 暇 は
、I LO
第52号条約 (継続 して1
年以上就業 した労働者 は、6労働 日の有給休暇 を与 える) に準ず る規定であろ う。日本 の労働基準法では、6ケ月以上勤務 し8 割以上出勤 した労働者 は、年 に10日以上の年次 有給休暇 を与 えなければな らない。 さらに勤務 件数 が1.5‑2.5年未満 の場合11日、2.5‑3.5年未 満の場合12日、3.5‑4.5年未満の場合14日、4.5‑ 5.5年未満 の場合16日、5.5‑6.5年未満 の場合18
日、6.5年 以上 の場合20日、少 な くて も年次有 給休暇 を与 えな くてはな らない (日本労働基準 法第39条)。未 消化 の年次休暇 については、 1 年 に限 り繰 り越 し (2年 の消滅時効のため)が 認 め られてい る (日本労働基準法第115条)0
4.賃金
同種 、同質、同量の労働 については、労働者 の性別 を問わず、使用者 は同一の賃金 ・手 当を 定めなけれ ばな らない (労働者保護法第53条) とし、同一労働 同一賃金の原則 を規定 しているo 使用者 は、賃金 をタイ通貨 によ り支払わなけれ ばな らないが、労働者 の承諾 を得てい る場合、
小切 手 また は外 国通 貨 で支払 うこ ともで き る (労働者保護法第54条)。すなわち、賃金支払は、
原則 としてタイ通貨で、現金 で支払 う必要があ る。
(∋使用者 が労働者 に残業 を させ た場合、150
%増 しの残業手 当を支払 なけれ ばな らない (労 働者保護法第61条)0②休 日の労働 させ た場合 、 200%増 しの休 日手 当を支払 なけれ ばな らない
(労働者保護法第62条)0③休 日の残業 させ た場 合、300%増 しの休 日残 業手 当を支払 なけれ ば な らない (労働者保護 法第63条)。 賃金 の支払 は、原則 として少 な くとも月に1回以上支払わ なけれ ばな らない (労働者保護法第70条)。
タイ 日系企業の賃金の特徴 として、資格 ある いは職階を縦軸 に、横軸 に勤続 を とった査定つ き昇給 による基本給が一般 的であ り、学歴 間格 差の大きい賃金構造であるとい う指摘がある(8)0 著者 の 日系企業の聞き取 り調査 において もほぼ 同様 な意見である。 タイの 日系企業では、現場 作業職 、監督職 、管理職 な どにおいて職階を分 類 して、各職階の基本給の レンジ (最低額 と最 高額) を決 め、人事考課 に基づいて勤務年数 に よ り昇給す るとい う形が一般 的である。
5.最低賃金
使用者 は、国が決 めた最低賃金 を下回 る賃金 を労働者 に支払 ってはな らない (労働者保護法 第90条)。 最低賃金制度 は、国際労働 基準 とし て
I LO
がその原則( I LO
第26号条約、I LO
第131 号条約 な ど) を定めてお り、タイ を含 めたほ と ん どの国でその基準が使用 されてい る。タイでの最低賃金決定のための機 関は、賃金
委員会である。賃金委員会 は、労働社会福祉事 務次官を委員長 とし、政府側 を代表す る者4人、
使用者側及び労働者側 を代表す る者各5人で内 閣の任命す る者 を委員 とす る (労働者保護法第 78条)。 賃金委員会 は、賃金 に関す る政策 、制 度、決定、改定な どを内閣に答 申す ること、基 礎最低賃金 を定めること、な どの権限責務 があ る (労働者保護法第79条)。 賃金委員会 は労働 者 の現行 の賃金額、生活費指数、イ ンフ レ率、
生活水準、製造原価、物価、事業所の支払能力、
労働 生産性 、国内総生産及び経済社会 の状況 を 参考に して基準最低賃金お よび最低賃金 を決定 す る。最低賃金 は、業種別 または地域別 に定め ることができる。最低賃金の審議決定は、賃金 委員会 の定 めた基礎最低賃金 を下回ってはな ら ず、最低賃金の定めがない地域 については基礎 最低賃金 を当該地域の最低賃金 とみなす (労働 者保護法第87条)0
す なわち、タイの最低賃金決定の機 関は賃金 委員会であ り、その委員会がタイ全体の基準最 低賃金 を決定す る。最低賃金 は、業種別 または 地域別 に定 めることができることか ら、基礎最 低賃金 を基準 として、業種別 による最低賃金ま たは地域別 による最低賃金 を決定 してい る。 タ イでは、現実には業種別 よ り地域別 の最低賃金 が一般的である。現行 の最低賃金制度では、地 域 ごとに 日額最低賃金が設定 されてお り、バ ン コクお よびその周辺5県が184バーツ、プーケ ッ ト186バー ツ、アユタヤ160バーツ、チェンマイ 159バーツ、 ソンクラー152バーツ、チ ェンライ 146バーツで、最低 はナ‑ ンで143バーツ となっ てい る(9)(現在1バー ツが 日本 円で3円程度 で あ̲a)0
6.就業規則
従業員数 が10人以上の使用者は、タイ語 の就 業規則 を作成 しけれ ばな らず、その就業規則 に は少 な くとも、①労働 日、通常労働 時間及び休 憩時間、②休 日及び休 日に関す る原則 、③時間 外労働及び休 日労働 に関す る原則、(参賃金の支
給 目お よび支給場所、⑤休暇 目及び休暇 に関す る原則、⑥服務規律及び懲戒、⑦苦情 申立て、
⑧解雇 、解雇手 当及び特別解雇手当、が含 まれ ていなければな らない (労働者保護法第108条)0
す なわち、 タイではタイ語 の就 業規則 を制定 す ることが法律 で明記 されてお り、就業規則 を 設 けない ことは法律違反 となる。
7.解雇予告
労働者 の解雇予告 については、以下の よ うに 規定 されてい る。
(∋雇用契約 で定 めた期間が満 了 した ときは、予 告 を行 わな くとも雇用契約 は終了す る。
②期 間の定 めのない雇用契約 の場合 は、賃金支 払期 間前またはそれ以前 に他方の当事者 に文書 で予告す ることによ り使用者 または労働者 は雇 用契約 を終了 させ ることができる。 ただ し、3 か月以上前 に予告す る必要 はない。
③使用者 は予告 によ り定め られた契約終了の と きまで支払 わなけれ ばな らない額の賃金 を支払
うことによ り労働者 を即時解雇す ることができ る。
④労働者 の責 めに帰すべ き事 由がある場合、予 告 も損害賠償 な しに解約 できる (労働者保護法 第17条)0
第1の解雇予告の規定は、期 間の定めのある 労働契約 の場合 は、予告 な しで雇用が終了 し解 雇 とな る。
第 2の規定では、期 間の定 めのない雇用契約 の場合 は、賃金支払期間前 に解雇予告す る必要 があるとしてい る。 タイの労働者 は通常は月 ご とに賃金 を支払 う月給制が一般 的であるが、月 給制の労働者 の場合 は 1ケ月前 の解雇予告 とい うことになる。 また、賃金 は毎月1回以上支払 うとい う条文 (労働者保護法第70条)があるの で、最大1ケ月の予告期間 とい うこ とになる。
しか し、タイでは、2週間に1回、週給、 日給 な どの賃金支払い形態 もあるので、1ケ月以内 の短期 間で解雇予告 し労働契約 を終了す ること も可能である。 さらにこの規定で重要なのは、
解雇予告 は文書で行い、解雇理 由を明記す る必 要がある とい う点である。
ただ し、この条項 には以下のよ うな例外規定 がある。使用者 が他 の場所 に事業所 を移転 し、
その ことによ り労働者や家族 の通常生活 に影響 が及ぶ場合、使用者 は少 な くとも事業所移転 の 30日以上前に労働者 に予告 しなければな らない。
また、機械 の導入 、機械 の更新、 も しくは技術 革新 によ り、使用者 が、生産、販売サー ビスの 方式、組織 を改善す るとい う事情のため、使用 者が労働者 を解雇す る場合 には、使用者 は、解 雇 の 日、解雇理 由及び労働者名 を解雇 の 日の少 な とも60日以上前 に、労働監督官及び解雇 され る労働者 に予告通知 しなければな らない (労働 者保護法第121条)。
第3の規定では、予告期間に支払 うべ き賃金 (予告手 当) を支払 えば、使 用者 は労働者 を即 時解雇 できる。
なお、 日本 の労働基準法では、使用者 が労働 者 を解雇 しよ うとす る場合、少な くとも30日前 にその予告 を しなけれ ばな らず、それ を しない 場合 は30日分以上の平均賃金 (予告手 当て) を 支払わなけれ ばな らない と規定 している (労働 者保護 法第20条1項)。 さらに、 日本 では、文 書が必要 とい う規定はない。
第4の規定では、労働者の責めに帰すべ き事 由がある場合 、予告 も損害賠償 な しに解雇 でき る。労働者 の責めに帰すべ き事 由 として、(∋職 務 に対す る不正 または使用者 に対 し故意 に刑事 犯罪 を犯 した とき、②使用者 に対 し故意 に損害 を与 えた とき、③過失 によ り使用者 に重大な損 害 を与 えた とき、④労働者が就業規則、規程 ま たは使用者 の合法的かつ正 当な命令 に違反 し、
使用者か ら書面で警告 を受 けた場合 (ただ し重 大 な違反 の場合 には警告 を要 しない)、⑤正 当 な理 由な く3日連続 して職務放棄 した とき、⑥ 最終判決 によ り禁周刑 を受 けた とき (ただ し過 失 に よる罪 または軽罰 を除 く)、である (労働 者保護法第119条)0
タイの 日系企業では、書面 による警告 を行 っ た後 に、解雇す る場合 も多い。 これは、就業規
則や業務命令 に違反 して企業か ら文書で警告 を 出 し、それ を守 らなかった場合 、解雇 とす るの である。解雇理 由を明確 に し、突然 の解雇 とい う労働者 の反発 を和 らげること、訴訟 となった 場合 の解雇理 由の正 当化、な どのため警告書 を 発す ることがかな り一般 な してい る。 なお、労 働者 の責めに帰すべ き事 由によ り解雇 では、予 告手 当を支払 う義務 はない。
8.解雇手当
使用者 は雇用終了す る労働者 に次の よ うに解 雇手 当を支払わなけれ ばな らない。
① 120日以上 1年末満勤務 した労働者 には、最 終賃金 の30日分、② 1年以上3年末満勤務 し た労働者 には、最終賃金 の90日分 、③ 3年以 上6年末満勤務 した労働者 には、最終賃金の180
日分、④6年以上10年未満勤務 した労働者 には、
最終賃金 の240日分 、⑤10年以上継続 して勤務 した労働者 には、最終賃金 の300日分、 の労働 賃金以上 を支払わなけれ ばな らない。
ただ しこの解雇手 当の規定は、雇用期 間が明 確 に定め られてお り、当該期 間の定 めに従 って 雇用 を終了す る有期雇用労働者 に対 しては適用 しない (労働者保護法第118条)。 また、労働者 の責 めに帰すべ き事 由がある場合 、解雇手 当を 支払 う必要 はない (労働者保護法第119条)。
なお、事業所移転 による労働者 の転勤 を望ま ない場合、または機械 の導入、機械 の更新 、技 術革新 によ り、労働者 を解雇す るよ うな場合 、 特別解雇手 当を支給す るとい う規定がある (労 働者保護法第120条、第121条)0
9.労働組合 と労使関係
(1)労働組合の設立
タイでは、労働者 の団結権が認 め られてお り、
1975年労働 関係法で労働組合 、労使 関係 な どが 法的に規定 されてい る。
労働組合 は、労働 関係法の規定に基づいての み設 立で きる (労働 関係 法第86条)。 労働組合
は規定を作成 し登録官に届 け出なければな らず、
登録後労働組合 は法人格 を有す る (労働 関係法 第87条)。労働組合 を結成す る権利 のある者 は、
同 じ使用者 の下に働 く労働者 、または使用者 の 数 に関係 な く同業者 の労働 に従事 してい る労働 者でなけれ ばな らず、かつ法行為能力 を有 し、
タイ国籍 を有す る者でなけれ ばな らない (労働 関係 法第88条)。 労働組合 の登録 申請 にあたっ ては労働組合 を結成す る権利 のある10人以上の 労働者 を発起人 としなけれ ばな らない (労働 関 係法第89条)0
(2)労働組合の組合員
労働組合 に加入できる者 は同一使用者 の下に 働 く労働者 か、または同業種 で働 く労働者 で、
かつ15才以上でなければな らない。公営企業労 働 関係法 に基づ く従業員お よび経営陣は、労働 組合 の組合員 になることはできない。労働者 を 雇用 、減給、解雇、懲戒す る権限を有す る監督 的労働者 はその他の労働者 が結成 した、 も しく はその他 の労働者 が組合員 になってい る労働組 合の組合員 にはなれない。 その他 の労働者 は監 督的労働者 が結成 した、 もしくは監督的労働者 が組合員 になってい る労働組合 の組合員 にはな れない (労働 関係法第95条)。
す なわち、労働組合の加入 は、公営企業 を除 く、15才以上の同一企業、または同一業種 の労 働者 である。 また、管理職 の よ うな監督的労働 者 も労働組合 を結成す ることができる。ただ し、
この場合、監督的労働者 は、一般労働者 と同一 の組合 に加入できない。
(3)労働組合 の権限 と責務 と刑事 ・民事責任 労働組合の権限 と責務 として、(D要求の提 出、
交渉、仲裁決定の受理、協約締結、②組合員 の 利益のための活動の企画 ・執行、③職業紹介 に 関す る情報サー ビスの提供、④経営 ・労働 に関 す る問題 の解決 、紛争 の解消のための助言 、⑤ 組合員の福祉 、公共の利益 のための資金 ・財産 の提供、⑥組合費の徴収、がある (労働 関係法 第98条)0
労働組合 が組合員 の利益 をはか る 目的で政治 に関係 しない(∋労使交渉、② ス トライキな どの 争議行為、(診労働争議‑の説 明 ・宣伝 、な どの 活動 を行 うとき、労働者 、労働組合、労働組合 委員 な どは刑事 または民事責任 を問わない。 た だ し、その活動 が国民の安全、生命や身体 ある いは、 自由や名誉、財産 に脅威 を与 えるよ うな 性質の刑事犯罪 を構成す る場合 は この限 りでは ない (労働 関係法第99条)。
労働組合 の委員である労働者 は労働者 を代表 して労働争議 について交渉、調停 、仲裁裁定の 承認 を行 う (労働 関係法第102条)0
( 4)
労働組合 の上部団体一 労働組合連合、労 働者団体評議会労働組合 間の良好 な関係 を助成 し、また、組 合員 と労組 との利益 を守 るために、登録 して労 働 組合連合 (Federation)を結成す るこ とがで きる (労働 関係法第112条)。 労働組合連合の結 成 は、労働組合員 の投票 によ り全会員 の過半数 の賛成 が必要である。登録後、労働組合連合 は 法人格 を有す る (労働 関係法第113条)。 タイの 代表的労働組合連合 として、タイ繊維 ・衣服労 働組合連合 (TWFT:TexitileGermentandLeather workers'FederationsofThailand)、タイ石油 ・ 化学労働組合連合 (TGFT:TexitileGermentand LeatherWorkers'Federations ofThailand)な
どがある。
15以上の労働組合 または労働組合連合 は、労 働者 団体評議会 (Congress)を設 けることがで きる。労働者 団体評議会 は登録 しなければな ら ない。登録 によ り労働者 団体評議会 は法人格 を 取得す る (労働 関係法第120条)。労働者 団体評 議会は、ナシ ョナルセ ンター とい う性格 を持つ。
タイの代表的な労働者 団体評議会 として、タイ 労働者評議会 (LCT:LaborCongressofThailan d)、タイ 労働 組 合評 議 会 (TTUC :ThaiTrade Union Congress)な どがある。
タイの登録 されてい る労働組合 は1369、労働 組合連合 は18、労働組合評議会 は10である。 タ イの労働組合 の特徴 としては、組織率が数パー
セ ン トと著 しく低 い こ とである。 また、個 々の 労働組合 は、ナ シ ョナルセ ンター に直接加盟 し てい るため、産業別 の活動が行われ に くい こ と である(10)。
10.雇用条件協約 (労働協約)
20人以上 の労働者 を有す る事業所 は文書 に よ る雇用条件協約 (労働 協約)が必要である。事 業所 に雇用条件協約 がない場合、労働保護法 に 基づ き使用者 が義務付 け られ てい る就業規則 を 雇 用条件協約 とみ なす (労働 関係 法第10条)。
雇用条件協約 は少 な くとも、①雇用 も しくは労 働条件 、② 労働 日お よび労働 時間の特定、③賃 金 、④福利厚生、⑤雇用終了、⑥労働者 の苦情 申立て、⑦雇用条件協約 の改訂 も しくは更新 、 を含 む ものでなけれ ばな らない (労働 関係 法第 11条)0
雇用条件協約 は20人以上の労働者 を有す る事 業所 に義務づ けてい る。雇用条件協約 は使用者 と労働者 間で合意 した期 間有効 とす るが、3年 を超 えてはな らない。協約 に期 限の記載 がない 場合 、協約 は 1年 間有効 とす る。雇用条件協約 が終 了 し新 たに交渉が開始 され ない場合 は、協 約 を更 に 1年 間有効 な もの とす る (労働 関係 法 第12条)。
雇用条件協約 の制定 も しくは改訂 を要求す る 場合 、使用者 または労働者 は他方 に対 し要求書 を書面で提示 しな くてはな らない (労働 関係 法 第13条)。
使用者 は雇用条件協約 に反す る、または矛盾 す る雇用契約 を労働者 との間に締結 してはな ら ないが、雇用契約 が労働者 に有利 な場合 はこの 限 りではない (労働 関係 法第20条)。
ll.労働者委員会
労働者 が50人以上の事業所 においては労働者 委員会 を設置す るこ とができる。事業所 の全 労 働者数 の20%を以上 の労働者 が労働組合員 であ る場合 、労働者委員会 の委員 は、労働組合任命
委員 のほ うが、非組合員労働者 の委員 よ り1人 以上多 くなけれ ばな らない。事業所 の全 労働者 数 の50%以上の労働者 が労働組合員 である場合、
労働組合 は労働者委員会 の全 ての委員 を任命す るこ とがで き る (労働 関係 法第45条)。 労働 者 委員 会委員 の任 期 は3年 とし、再選 または再任 できる (労働 関係 法第47条)。
使用者 は、最低3ケ月 に1度労働者委員会 を 開催 しなけれ ばな らない。 また、①福利厚 生、
②服務規定の協議、③苦情の検討 、④紛争解決、
に関す る協議 のために、労働者委員会委員 の過 半数 または、労働組合 よ り正 当な理 由で開催 の 要求があれ ば、労働者委員会 を開催 しなけれ ば な らない。使用者 の行為 が不公正 または労働者 に対 して苛酷 な ものである と労働者委員会 が判 断 した場合 、労働者委員会 、労働者 、労働組合 は労働裁判所 に対 して裁 定 を求 めて提訴す る権 利 を有す る (労働 関係 法第50条)。
第
3
節I LO
とタイ労働 法タイ の労働法 において、ILO(国際労働機構) の影響 が大 きい。ILO条約 は基本 的 には世界標 準 の労働 基準 で あ る こ とか ら、ILOに加盟 して い る諸国は、それ を遵守す ることが要求 され る。
タイ はILO加 盟 国で あ り、 タイ 労働 法 において もILO基準 に合 致す る法整備 が求 め られ るので ある。
ILOの国際労働 基 準 として、①結社 の 自由、
②団結権お よび団体交渉権、③強制労働 の禁止 、
④差別待遇 の禁止 、⑤児童 労働 、⑥賃金 、⑦ 労 働 時間 ・休 日 ・休 暇、な どがある(ll)0
第 1の結社 の 自由 とは、いかなる差別 もな く、
労働者 お よび使用者 はそれ ぞれ の利益 を促進 し 擁護す るこ とを 目的 として、それぞれ の選択す
る団体 を設 立 し、加盟す る権利 を有す るもので あ る (ILO第87号条約 )。 労働 者 は労働組 合 団 体 を、使 用者 は使用者 団体 を、人種 ・国籍 ・性 別 ・政治信条 な どで差別 な く、設 立 ・加盟す る 権利 で ある。 労働組合 のス トライ キ権 も認 めて い る。
第2の団結権お よび団体交渉権 とは、労使 間 の相互不干渉原則 を通 して組合権利 を、使用者 と労働者 との間で保護 しよ うとす るものであ り、
反 組 合 的 差 別 行 為(12)、 干 渉 行 為 に対 す る保 護(13)、 団体交渉 の促進 な どを規 定 してい る。
具体的には、組合員であることを理 由 とす る雇 用拒否、解雇 、差別待遇 (配置転換、転勤、降 格 、報酬 な ど)な どの不利益 な取 り扱 いを受 け ない ことである。
第3の強制 労働 の禁止 とは、処罰 の脅威 の下 に強制 され、 自らの意思によるものでない一切 の労苦 と定義 され る強制労働 の禁止規定 (強制 労働 条約 (第29号条約第2条)) である。 この 第29条 を補強 ・補完す る 目的で、 よ り人権保 障 的な 「強制労働の廃止 に関す る条約」 (第105号) が採択 された (l∫l)0
第4の差別待遇 の禁止 とは、同一価値労働 に ついての報酬差別 (第100号条約)、人種 ・皮膚 の色 ・性 ・宗教 ・政治的意見 ・出身 な どによる 差別待遇 (第111号条約)、な どを禁止す ること である。すなわち、男女労働者 に対す る同一報 酬の原則 、お よび雇用お よび職業 についての差 別待遇 を除去す るために機会 ・待遇 の均等 を促 進す ることを 目的 とした ものである。
第 5の児童労働 については、就業の最低年齢 (第138号条約)、最悪 な形態 の年少 労働 の禁止 お よび廃絶 (第182号条約)、な どを規定 してい る。就業 の年齢 については、教育 を重視す る観 点か ら、就業 の最低年齢 について義務教育終了 年齢 であ り、いかなる場合 も15歳 を下回 らない もの とす るとしてい る。 しか し、発展途上国に ついては、関係労使団体 と協議の上、当初 は14 歳 とす ることができる とされ てい る (第138号 条約第2条)。 ただ し、就業 の最低年齢 は、 16 歳まで漸進的 に引き上げることを 目標 にすべ き であるとしている (第146条勧告)。最悪 な形態 の年少労働 の禁止お よび廃絶 については、18歳 未満 のすべての年少者 は、強制労働 、売春 ・ポ ル ノ、麻薬取引などの不正な活動、健康 ・安全 ・ 道徳 に害 の あ る最悪 の形態 の労働(15)を禁 止 し てい る。
第6の賃金 については、最低賃金 (第26号条 約 、第131号条約)、賃金保護 (第95号条約)、
同一賃金 ・均等待遇 (第138号条約)、な どを規 定 してい る。最低賃金 に関 しては、最低賃金制 度 を設置す るこ と、最低賃金 の決定については 労使 の協議 ・合意 の上決定す ること、最低賃金 は法的拘束力 を持つ こと、な どとしてい る。賃 金保護 については、賃金 の支払い方法、賃金か らの控除、支払 の定期性 な どについて定 めてい る。賃金 の支払い方法は原則 として通貨 ・現金 で労働 に直接支払 うこと、賃金 か らの控除は法 律 ・労働協約 な どで定 めるもののみ認 め られ、
労働供給 を 目的 とした前貸 しは禁止す ること、
賃金は法律や労働協約 で定 め られた間隔で定期 的に支払 うこと、な どを規定 してい る。
第7の労働 時間 ・休 日 ・休暇 については、労 働時間を原則 として1日8時間、週48時間以内、
超過 時 間に対す る賃金 の割増率 を25%以上 とす る(16)(第1号条約)、労働者 は7日ごとに1度少 な く と も継 続 して24時 間 の休 日を取 得 で き る(17)(第14号条約)、継続 して1年就 労 した労 働者 については6労働 日の有給休暇 を取得 でき
る (18)(第52号条約)、な どを定めてい る。
タイな どのアジア諸国では、以上のよ うなILO の国際労働基準 に沿 った形 で、各国労働法の多
くの規定が制定 され ている といえよ う。
おわ りに
タイの労働者保護法、労使 関係法 を中心 とし た労働 関連法の特徴 、お よびそれ に関連す るタ イの人的資源管理 の特徴 について考察 してみ よ
う。
第 1は、タイの労働者保護法 による労働条件 はILOの最低基準 に準 じた規定 が多い とい う特 徴 がある。 タイの法定労働 時間はILOの最低基 準の週48時間労働 (ILO第1号条約) で ある。 年次有給休暇 は、1年 に6日以上 (ILO第52号 条約) とい う規定である。 労働 時間、休 日、年 次有給休暇な どの労働条件 は、先進諸国の水準 を 下 回 るILOの 最 低 基 準 に 準 じて い る。
ILO (国 際 労 働 機 関 :International Labor Organization)は、第 1次大戦後 の1919年 に国際 連合 の姉妹機 関 として創設 された。第2次大戦 後、労働者問題 を担当す る国連の専門機 関となっ た(19)。ILOの 目的 ・任務 は憲章前文、お よび フィ ラデル フィア宣言 (国際労働機 関の 目的に関す る宣言)に記 されてい る(20)0 ILO憲章前文では、
世界 の永続す る平和は、社会正義 を基礎 として のみ確立す ることができ、世界の平和や協調が 危険にいた るほ ど大 きな社会不安 を起 こす よ う な不正、困苦 ・貧困を多数 の人々にもた らす労 働条件が存在す る場合には、①労働時間の規制、
②労働力供給の調整 、③失業の防止、④妥 当な 生活賃金の支給、⑤疾病、疾患、負傷‑の保護、
⑥児童、年少者、女性 の保護 、⑦、老年 ・廃疾 に対す る給付、⑧外国人労働者 の利益の保護 、
⑨ 同一価値労働 に対す る同一報酬の原則、⑩結 社 の 自由の原則の承認 、⑪職業 ・技術教育の促 進、などの措置を講ずることが急務であると謳 っ てい る。 また、1944年 に採択 された フィラデル フィア宣言では、ILOの基本原則 として、(D労 働 は商品ではない、②表現お よび結社 の 自由は 不断の進歩 のために欠 くことができない、③一 部の貧 困は全体の繁栄 に とって危険である、④ 欠乏に対す る戦いは労働者お よび使用者 と同等 の地位 において遂行す ること、であると謳 って い る。
ILOは、国際労働基準 として条約 (議 定書 を 含む) と勧告 とい う2つの形式がある。条約 は、
国際的な最低 の労働基準 を定めてお り、加盟国 は批准 によ り受諾す る。勧告 は、批准 がな く、
拘束力がない、加盟各国が国内法や労働協約 な どで任意 に採用で きる国際労働基準である。条 約数 は185、勧告数 は195であるが、 日本 は47の 条約 を批准 してい る。 なお、加盟 国平均 の条約 批准数 は41、OECD加盟 国平均では72となって お り、 日本 の批准率 の低 さが 目立つ(2‑)。ILO条 約 には、 中核 的8条約 があ り、 これ を尊重 し、
促進 し、実現す る義務があ り、そのためにあ ら ゆる措置 を とるよ うに求 めてい る。 ILOの中核 的8条約 とは、(∋結社 の 自由 と団体交渉 (87号
条約、98号条約)、②強制労働 の廃止 (29号条 約、 105号条約)、③児童労働 の廃止 (138号条 約、 182号条約 )、④雇用 ・職 業 の差別 の廃止 (100号条約、 111号条約)、である。 なお、ILO 加 盟 国は178カ 国、 タイ はILOに正式加 盟 して いる。
第2は、タイでは最低賃金が実質的に労働者 の賃金決定の基準 となっているとい う点である。
現場 ワーカーの初任給の決定において、最低賃 金 プラスアル ファーが賃金水準 とな り、賃上 げ 率 において も最低賃金のア ップ率が参考 に され ている。 タイの最低賃金決定機 関は、賃金委員 会である。最低賃金制度 は、国際労働基準 とし てILOがその原則 を定 めてお り、 タイ を含 めた かな りの国でその基準が使用 され てい る。 ILO 第26号条約 「最低賃金決定制度 の創設 に関す る 条約」、お よび第131条 「開発途上 にある国を特 に考慮 した最低賃金 の決定に関す る条約」な ど が、最低賃金についての原則 を定めている。ILO 第131号条約 では、特 に発展途上国を考慮 して、
最低賃金 の水準 の決定に当たって考慮すべ き要 因 として、①国内の賃金の一般的水準、生計費、
社会保 険給付お よび他 の社会的集 団の相対的な 生活水準 を考慮 に入れた労働者お よびその家族 が必要な水準、②経済開発上の要請、生産性 の 水準並びに高水準の雇用 を達成 し、維持す る と い う経済的要素、であるとしてい る。
第3は、残業 に関す る賃金 の割増率について は高水準である点である。通常の残業の割増率 は150%増 し、休 日労働 は200%増 し、休 日残業 は300%増 しの残業手 当を支払 うとい う規 定で ある。
第4は、解雇 手当の支給が法制化 されてい る 点である。使用者 は雇用終了す る労働者 に対 し て、 120日以上 1年未満 勤務 の労働者 は最終賃 金の30日分か ら、10年以上勤務 した労働者 は最 終賃金 の300日分 の労働 賃金以上 を支払 わなけ れ ばな らない と規定 してい る。
第 5は、20人以上の労働者 を有す る事業所 は 文書 による雇用条件協約 (労働協約) を義務づ けてい る点である。 タイの雇用条件協約 は、集
団的労働 関係 としての労使 の団体交渉 を経 て締 結 され る労働協約 に近い ものである。 ただ し、
この雇用条件協約 は個別 的労働 関係 としての就 業規則 とい う性格 もあわせ持つ。 労働組合 と会 社側 との交渉 に よ り、労働 協約 としての雇用条 件協約 を締結す るのが原則 であるが、 タイでは 労働組合組織率 が低 いため、労働組合 が存在 し ていない場合 が問題 とな る。 その場合 、事業所 の全労働者 の15%以上 の氏名 お よび署名 が集 ま れ ば、労働組合 と同様 に要求書 を提 出 し、雇用 条件協約 の制定 も しくは改訂 に関す る交渉がで きる としてい る。
第6は、労働組合登録制度 がある点である。
労働組合 は、労働 関係 法の規定に基づいてのみ 設立で き、労働組合 は規定 を作成 し登録官 に届 け出て、登録官 が申請 が適法 と判 断すれ ば登記 を認 める。 登録後労働組合 は法人格 を有す る。
つま り、 タイでは、組合 の設 立認 可主義 が採 ら れてい る。 この組合登録制度 は、政府 の関与す る程度 が高い制度で あ り、組合 の設 立 ・運営の 自由が制約 され てい る とい う特徴 がある。 タイ では、労働組合 を設立す る権利 があるが、中国 やベ トナムのよ うに労働組合設立の義務 はない。
労働組合 を結成 できるのは、労使 関係 法で 「同 じ使 用者 の下 に働 く労働者 」、または 「同業者 の労働 に従事 してい る労働者」でなけれ ばな ら ない と規定 していることか ら、労働組合形態は、
企業別 、または業種別 に限 られ ることになる。
したが って、一般組合や地域別組合 は認 め られ ない こ とにな る。 タイでの労働組合形態 は、以 上の よ うな法律 的制約 もあ り、企業別組合 が一 般 的である。 タイの 日系企業 において も、企業 別組合 が一般的 となってい る。 ただ し、組合 の 上部 団体 (労働組合連合 、労働者 団体評議会 な ど)では、企業別組合 が業種別 に加盟 した業種 別 ・産業別 の形態がみ られ る。
第7は、労使 関係 において、労働組合 のみ な らず労働者委員会 も重要であるとい う点である。
従業員50人以上の事業所 においては、労働組合 とは別 に労働者委員会 を任意 に設置 で きる。 タ イでの労働者委員会 は、労働組合組織率 が低 い
現状 の中で、労使 関係 にお ける労働者側 に とっ て重要 な存在 となってい る。 労働者委員会 が、
労働者 の各種 の要求、福利厚生、苦情処理 、紛 争処理 、労働裁判所‑ の提訴 な どを行 う労働者 の代表組織 となってい る。企業 に労働組合 があ る場合 、労働組合 とは別 に労使 の協議機 関 とし ての労働者委員会 が存在す る形 とな るが、労働 者委員会 のメンバー は労働組合執行委員 な どの 幹部 が兼任 してい るケー ス も多い。
注
(1)「1972年新投資奨励法」の概要は以下である。
①輸出産業の重点的奨励。輸出商品生産のための 原材料 ・部品 ・機械 の輸入に対す る輸入税お よび 営業税の免除、等の優遇措置の導入。
②工業立地の地方分散。地方開発、地域間格差の 解消のため、特定地域 に立地 した企業に税制上の 恩恵 を与える。
③法人所得税の免除。法人所得税は、 3年間以上、
最高8年間免除 され る。
④奨励企業に対す る各種の国家保証。国は奨励企 業の産業活動 と競合す るいかなる新規産業活動 を も行なわない。 国はいかなる民間企業をも国有化 しない。生産 された製品の輸 出はつねに許可 され る。
⑤移民法によって規定 されている割 当枠 (1国あ た り200人) を越 えて、必要な期 間、外 国人熟練 労働者または専門家、およびその妻子の入国を認 める。
(2)「1977年投資奨励法」による外資企業‑の優 遇措置および追加優遇措置の主要な内容は以下で
ある。
第1に、外資系企業‑の保証措置 として、(∋当 該企業 を国有化か ら保護す る、(∋同企業 と競合す る国営企業の新規設立を不許可 とす る、③同業種 の既存国営企業による市場の独 占を禁止す る、④ 価格統制を実施 しない、⑤製品の輸出認可を常時 保証す る、⑥政府系機 関、国営企業の取 り扱 う競 合製品に対す る免税 を禁止す る、などがある。
第2に、外資系企業の許可 として、①投資関連 活動 を 目的 とした外国人のタイ国‑の入国を認 め る、②奨励対象企業に必要な外国人熟練労働者、
技術者、その家族は投資委員会の承認のもとに、
通常の割 り当て以外にタイでの居住を認 められる、
③奨励活動実施のため土地を所有できる、④海外
‑の外貨持ち出 し、あるいは送金 を認 める、な ど がある。
第3に外資系企業‑の税制上の優遇措置 として、
①奨励対象企業が機械類 を輸入す る場合、輸入税 ・ 営業税 を全額免 除または半額免 除す る、②原材料 の輸入 に対す る輸入税 、営業税 の90%まで免 除す る、③法人税 (3年〜 8年) の免 除、期 間中欠損 が生 じた場合 、免 除期 間終 了後 、最高5年 間繰 り 越 し欠損 として経費 を計上で きる、④投資委員会 よ り事前 に承認 を受 けた契約 に基づ く営業権 、 ロ イヤ リテ ィ、技術指導料 の海外送金 に対す る源泉 課税 を5年 間免 除す る、⑤所得税免 除期 間 中、配 当を課税対象所得 よ り除外す る、な どがある。
第4に投資奨励地域 (theInvestmentPromotion Zones)に対す る外資系企業‑ の優遇措置 として、
①5年 間の範 囲内で、営業税 を最高90%まで免 除 す る、②通常の所得税免 除期 間終了後 、または所 得税免 除 を受 けていない場合 は所得 の発 生後 、 さ
らに5年 間にわた り法人税 の50%を免 除す る、③ 輸送 費 、電気 ・水道費 の実際 の経費 の25%を課税 対象法人所得 よ り控 除す る、④通常の減価償却 の ほか、法人所得が生 じた時点 よ り10年 間以 内に限 り、任意 の年 に、イ ンフラ建設 に要 した経費の25
%を課税対象法人所得 よ り控除す る、な どが ある。
第5に輸 出志 向型産業 に対す る外資系企業‑ の 優遇措置 として、①輸 出向け製 品に使用 され る輸 入原材料 に対す る輸入税 、営業税 を免 除す る、国 産原材料 の買入れ に対す る営業税 を免 除す る、② 再輸 出品に対す る輸入税 、営業税 を免 除す る、③ 輸入税 、営業税 を免 除す る、④運賃 ・保険料 を除 く、対前年輸 出増加 分 の5%相 当を課税対象法人 所得か ら控除す る、な どがある。
(3)元 田時男 (2008)、1‑11ペー ジ。
(4)「1999年外国人事業法」での外 国人の定義、
お よび、外 国人の参入 を特 に規制 されてい る業種 として以下がある。
この法律 に よる外 国人の定義 としては、① タイ 国籍 のない 自然人、②外 国の法律 によ り設立 され た法人、③ タイ国の法律 で設立 された法人 で、資 本金 の2分 の1以上が① または② によって保 有 され ている法人、または有限または普通パー トナーシ ッ プの代表社員 または執行社員 がタイ国籍者 でない 場合、④ タイ国の法律で設立 された法人であるが、
資本金 の2分 の1以上が(丑、② 、または③ によっ て保有 され る法人以下の通 りである (外 国人事業 法第4条)。 以上か ら、外 国人 の持分 が50%未満 で あれ ば外 国人 とはな らない。
「外国人事業法」の規制業種 として以下がある。
第1は、特別 の事 由によ り外 国人が営む ことの できない業種 である。新 聞、 ラジオ放送、テ レビ 放送事業、稲作、畑作、園芸、家畜飼 育、林業、
漁業、土地の売買な ど。
第2は、国家の安全 、伝統 ・芸術 ・地方 の伝統
工芸、天然資源 または環境 に影響 を与 える事業 な ど。武器 の製造販売、国内の陸上、水上、航空輸 送、古物 ・美術 品、 タイの伝統工芸 品の製造、製 糖 、木材加 工な ど。
第3は、外 国人 との競争力がまだっいていない 事業。外 国人事業委員会 の了承 によ り、 タイ人 の 持分 が50%未満 で あれ ば商務省 の商業発展 局長 が 許可す る。精米 、米お よび穀物 の製粉 、養魚 に よ る漁業、植林 、合板等 の製造、石灰 の製造、会計 サー ビス、法律サー ビス、建築サー ビス、エ ンジ ニア リングサー ビス、一部の建設、一部の仲買業 ・ 代理業、最低資本金額 が1億 バー ツ未満 または1店 舗 当た りの最低資本金額が2000万バー ツ未満 の全 種類 の小売業、 1店舗 当た りの最低資本金額 が1 億 バー ツ未潤 の全商 品の卸売業 、広告業 、ホテル 業、観光業、飲食店 な ど。
(5) 著者 は、 タイ の文化 と経 営 とい う視 点で重 要 なのは以下であると考 えてい る。
(∋宗教文化‑小乗仏教
タイ は仏教 国家である。 タイの文化 に、仏教 の 影響 が色濃 く存在 してい る。 タイ の仏教 は小乗仏 教である とい う特徴 がある。 タイの小乗仏教 の民 衆 レベル での理解 について考 えてみ よ う。
タイの小乗仏教 の基本思想 の第1として、因果応 報観 がある。 この思想 は、善行 を行 なえば善果 を 得 るこ とができ、悪行 を行 なえば悪果 を得 る、 と い う考 え方 で ある。 悪果 には、 「地獄 」 の存在 も 内在 してい る。
第2の基本 思想 と して、功徳(ブ ン)とよばれ る 考 え方である。す なわち、人 間は、生前 に行 なっ た善行 と、悪行 との帳尻 に よ り、死後 の運命 が決 定 され る と考 え、善行 の結果 として得 られ る功徳 (ブ ン)が悪行 を上 回 っていれ ば、死後 で も幸福 な 状態であるとす る。
第3は、輪廻転生の思想 である。人間は この世 で終 わ るものではな く、人 間は生 まれかわ り死 に かわ りして とどまることがない。現在 の人間の生 存 の状態 は、過去 の無数 の生存 にお ける帳尻 の総 和 としての業(カ ム)に よ り決 定 され る と考 える。
この思想 は、ある種 の宿命論 であろ う。 しか し実 際には、タイ人 は宿命論特有 の暗 さがない。 それ は、功徳 の蓄積 に よって、死後 の運命 を現世 にお いて さえも、 ある程度変 えるこ とがで きる とい う 希望的楽観観 が内在 されてい るためである。
第4は、地獄(バー プ)の存在 が示 され てい るこ とである。悪行 が善行 を上回れ ば、死後の世界 と しての地獄 の存在 が指摘 され てい る。反対 に、善 行 が悪行 を上 回 る功徳 の状態 で あれ ば、天 国(サ ワン)が ある とす る。 タイ の民衆 は、天 国 よ りむ しろ人 間の世 に生 まれ て、富貴権勢 に恵 まれた現 世 の幸福 の状況 を功徳(ブ ン)に対応す るもの とし
て理解 してい るよ うである。功徳 を積 んで、死後 再び この世 に戻 って、王様や大金持 ちになって楽 しく暮 らせ るよ うにな りたい、 とい うのはその代 表的考 え方である。
第5は、出家が功徳 を得 るための最 良の手段 と して認識 されてい ることである。 タイでは、男性 は若 い時期 に出家す る とい う習慣 が一般 的 になっ てい る。
この よ うなタイの小乗仏教 の思想 は、 タイ従業 員の価値観 にも大 きな影響 を与 えてい る。
②現実享楽主義
タイ の文化 ・価値構造 として指摘 したいのは、
現実享楽主義である。 タイの人 は、与 え られ た現 実のなかで、一 日を楽 しく生 きよ うとす る。 タイ 人は、サヌ ック(楽 しむ)を大切 にす る とい う。 将 来のために現在 を犠牲 にす るよ り、現在 の生活 を 重視す る。楽 しく生 き、美味 しい もの を食べ、一 日一 日が平穏無事 に過 ぎ行 くこ とがタイ人 の心情 であ る。企業で タイ人 は残業 を したが らない とい う声 を聞 くが、 タイ人 は仕事 よ り家族生活 を重視 す る。 タイの町 を歩 くと、夕方か ら家族や親戚 同 士が屋台や飲食店で食事 を楽 しんでい る姿 をよ く 見かける し、バ ンコクの よ うな大都会では夜遅 く までデパー トでシ ョッピング してい る家族づれが 見 られ る。 この よ うな ことは、 日本 にはあま りな い ことであろ う。 タイ人のほ うが 日本人 よ り生活 を楽 しむ術 を心得てい るよ うに もみ える。 日本 は 確 かに経済的には豊かになったが、その反面 、現 在 の生活 を楽 しみ享受す る生活 が犠牲 になってい ないだろ うか。 タイは経済は貧 しいが、 日本 では 忘れてい る何 かがあるよ うに思 う。
③権威 主義‑ナ‑イの社会
タイ人 は、勤勉価値 はあま り重要視 され て こな かった。 また、タイのエ リー トは、肉体労働 、工 場現場 での労働 を低 く見てお り、軽蔑す る傾 向が ある。 日系企業 の 日本人は、タイ人 は怠 け者 で勤 勉 でな く、大卒技術者 が現場 に入 りたが らない と い う印象 を持つ人が多いが、それ は労働 に対す る 価値 が 日本 と相違 してい るためである。文化 的、
歴史的 に見 ると、それ はタイの 「チ ャオ ・ナ‑イ 社会」 に求 め られ る とい う。 チ ャオ ・ナ‑イ とい うのは、タイの旧社会の制度であるサクデ ィ ・ナ‑
制 にお ける高級貴族官史の ことである。 タイ社会 を特徴づ けるサ クデ ィ ・ナ‑制 とは、全 国民 を領 有す る国王が、平民に一定の土地の耕作権 を下賜 し、平民はその代償 として、賦役、兵役 、納税等 の義務 を果 たす とい う、封建制度 に近い社会制度 である。 サ クデ ィ ・ナ‑制 は、貴族官史が平民 を 支配 し、貴族階層 と平民階層 とい う2つの階層 の 階層分化 をもた らす結果 となった。 タイでは、現 在 で もエ リー トは、チ ャオ ・ナ‑イた る貴族官史
のよ うになること、チャオ ・ナ‑イのよ うな生活 ・ 価値観 を持つ ことが理想 とされてい る。 チ ャオ ・ ナ‑イの理想 的生活規範 は、手 を使 っての労働 、 肉体労働 を しない こと、金銭 的に出 し惜 しみ しな い ことだ とされ ていた。働 かないで、金 を浪費 し て生 きる とい う貴族官史の よ うな人が、 タイでは エ リー トの生活 の理想 であ り、社会 か ら威 光 を獲 得で きる人 なのである。 この よ うな価値観 が現代 のタイ社会 に依然 として存在 してい る。例 えば、
大学 において も優秀 な学生 は、官史 を 目指 して法 文系の学部 に集 中 し、技術 系学蔀 は人気 がない と い う。大卒者 は、会社 に入 って も生産現場 に入 り たが らない し、現場 を管理 した り技術的援助 を し たが らない とい う。 タイのある 日系企業 の工場長 は、工場長 である 自分 が率先 して働 けば、労働者 も働 くよ うにな る と思 って一生懸命 に働 いてみた が、 タイ従業員 で誰 もついて くるものがなかった と述懐 してい る。 これ は 日本 と勤労 に対す る考 え 方が相違 してい る好例 であろ う。 タイ社会 の最高 の価値 た るチ ャオ ・ナ‑イの理想 は、労働 しない ことであ り、 この工場長 は、 日本人 と同 じよ うに
「工場長 さえ こんなに働 いてい るのだか ら、我 々 も頑 張 らなけれ ば」 とタイの労働者 が考 えて くれ るだろ うとい う期待 があったのだ ろ う。 しか し、
現実 は、全 く逆 に軽蔑 され、おそ らく 「こんな暑 い ところまできて、あんなに働 かなけれ ばな らな いのは、 日本ではよほ ど使い物にな らない人間だっ たのだろ う」 とタイ人 に思われたためである。
④個人主義
タイの企業経営 に影響 を与 える文化 ・価値構造 として個人主義 的価値 が指摘 できる。 タイ文化 の 個人主義 といって も、それ は西洋 にお ける個人主 義 とは異質の ものである。周知の よ うに西洋 の個 人主義 は一神教た るキ リス ト教文化 を基盤 として 成 立 し、神 と人 間 との一対一 の関係 としての個人 主義 である。 タイ が個人主義的文化 を持つ といっ て も、それ は個人 が 自由で、独 立的であ り拘束 ・ 規制 を嫌 うとい う意味である。 では、なぜ タイで 個人主義が醸成 されたのであろ うか。
歴 史的に見 る とタイの村落社会 は、厳密 な階層 関係 が存在 していなかった。個人 の社会的位 置 を 支配す るよ うな固定 した規則 がな く、階層 的な人 間関係や共 同労働 的ま とま りはあるが、それ は全 面的服従 を意味す るものではなかった。 タイの村 落社会 では、村 民個人 の独立性 ・自主性 が守 られ た上での、村長 と村 民、老若 のあ る種 の社会的位 置 ・階層 が認 定 されてい るくらいで ある。 ただ、
年長 ・先輩 とい った年功的要因は、かな り村落 で の人間関係 で重視 され ていた。 この よ うなタイの 村落での個人主義的価値観 は、現在 で も依然 とし てタイの文化 の特徴 として大 き く残 ってい る。
さらに、 タイ にお ける個人主義 の醸成 の原 因 と して考 え られ るのは、タイ社会の家族制度 が核 家 族 であった とい うことである。 タイでは、中国の よ うな拡大家族 、 日本 の よ うな直系家族 とは異 な り、結婚す る と双方の両親 か ら離れて独立 して家 を構 える核家族形態 が村落 において一般 的であっ た。核家族制は、個人 の独 立、 自主性や 自由を助 長 し、個人主義的価値 を植 え付 ける。 タイ人の個 人主義的文化が、タイ人従業員は集団‑の忠誠心 ・ 一体感 が希薄である、独立 したが る、規律 を守 ら ない、上下関係 ・年功 を重視す るとい った タイ の 企業経営風土の特徴 を生み出 してい る。
(6)バ ンコク 日本人商工会議所 (2007)、172ペ‑
ー、l1
I.I.‑;̲,I 吉 田美喜夫 (2007)、320ペー ジ。
日本労働 協会 (1990)、235ペー ジ。 「タイ の 労働事情」235)
(9)バ ンコク 日本人商工会議所 (2007)、184ペー ジ。
(10)バ ンコク 日本人商工会議所 (2007)、178‑17 ヽ、ヽ
9ベー ン。
(ll)ILOについては、 日本ILO協会 (1999、2004)、 中山 (1998)、吾郷 (2005)に詳 しい解説 がある。
(12)反組合 的差別行為 に関す る主要 な規 定 は以 下で あ る。 「労働者 は、雇 用 に関す る反組 合 的 な 差別待遇 に対 して十分 な保護 を受 ける。 労働組合 に加入せず 、または労働組合 か ら脱退す ることを 労働者 の雇用条件 とす ること、お よび、組合員 で ある とい う理 由または労働 時間外 に も しくは使用 者 の同意 を得 て労働 時間内に参加 したい とい う理 由で、労働者 を解雇 し、その他 その者 に対 して不 利 益 な取 り扱 い をす る こ と」、 を禁 止 して い る (団結お よび団体交渉権条約 (第98号条約第1条))0 (13)干渉行為 に対す る保護 に関す る主要 な規定 は以下で あ る。 「労働 者 団体 を使用者 または使 用 者 団体 の支配下 にお くために、使用者 も しくは使 用者 団体 に支配 され る労働者団体の設立を促進 し、
または労働者 団体 に経理上の援助その他 の援助 を 与 える行為 」、 を禁止 してい る (団結 お よび 団体 交渉権条約 (第98号条約第2条))。
(14) 1957年 に採択 され た 「強制労働 の廃 止 に関 す る条約」 (第105号条約) の第1条の規定は以下 で あ る。 「この条約 を批准す る国際労働機 関の加 盟 国は、次 に掲 げる手段 、制裁 、又 は方法 として の全ての形態 の強制労働 を禁止 し、かつ、 これ を 利用 しない ことを約束す る。(a)政治的な圧制 も し くは教育の手段 、または政治的見解 も しくは既存 の政治的 ・社会的 ・経済的制度 に思想 的 に反対す る見解 を抱いた り、発表す ることに対す る制裁。
(b)経済発展 の 目的のために、労働力 を動員、使用 す る方法。 (C)労働 規律 の手段。 (d)同盟 罷業 に参
加 した ことに対す る制裁。 (e)人種的、社会的、国 民的、または宗教的差別待遇 の手段。
(15) 1999年 に採択 され た 「最悪 な形態 の年少 労 働 の禁止お よび廃絶」 (第182号条約第 3条) での 最悪 の形態 の労働 の定義 は以 下で あ る。「(a)年少 者 の売買、債務 による拘束お よび農奴 、武力衝突 に使用す るために強制的又は制度的な年少者 の徴 用 を含 む強制労働又 は義務 労働 等、あ らゆる形態 の奴隷制度又 はそれ に類似す る慣習。 (b)売春 、ポ ル ノの制作又 は卑猿 な演技のために年少者 を使用、
斡旋又 は供給す るこ と。(C)不正 な活動 、特 に関連 す る国際条約 で定義 され た麻薬 の生産や密 売 に年 少者 を使用、斡旋又 は供給す ること。 (d)業務 の性 格 に よ り、又 はそれ が行 なわれ る状況 によ り、年 少者 の健康 、安全 、又 は道徳 を損 な う恐れ のある 業務。」
(16)第1号条約 で は、労働 時 間につ いては、 労 働 時間 を原則 として1日8時間、週48時間以内 し てい るが、以 下の適用 除外 を認 めてい る。「(a)監 督又 は管理 の地位 にあるもの又 は機密 の事務 を処 理す るもの、(b)週 の うち 1日又 はそれ以上の 日の 労働 が8時間 よ り少 ない場合 で、その分 を他 の 日 に追加す るこ とはで きるが、追加 は1日1時間を 越 えてはな らない、 (C)交代制 の労働 の場合 は、 3 週以下の‑期 間内での労働 時間の平均が条約 の一 般基準 を超 えてはな らない。」
(17)日本 は第14号条約 (「工業的記号 にお ける週 休 の適用 に関す る条約」(1921年制定)) を、批准 していない。 日本 が批准 しない理 由は、労働基準 法が原則 として毎週1回の休 日を与 えなけれ ばな らない としてい るが、 4週4日の休 日も認 めてい るこ と (同法35条) な どのためである。
(18)日本 は第52号条約 (「年 次有給休 暇 に関す る条約」(1936年制定)) を、批准 していない。
(19)ILOについては、 日本ILO協会 (1999、2004)、 中山 (1998)、吾郷 (2005)に詳 しい解説 がある。
(20)ILO憲章前文、お よび フィラデル フィア宣言 (国際労働機 関の 目的 に関す る宣言) については、
日本ILO協会 (1999)に 日本語訳がある。
(21) 日本ILO協会 (2005)、20ペー ジ。