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雑誌名 同志社法學

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流通市場における不実開示に対する民事責任と発行 会社の「過失」について

著者 伊藤 浩紀

雑誌名 同志社法學

巻 70

号 2

ページ 673‑763

発行年 2018‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000341

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   同志社法学 七〇巻二号二六一六七三

 

           

    沿                           

(3)

   同志社法学 七〇巻二号二六二六七四       

                          

第一章  はじめに   金融商品取引法(以下、「金商法」)は、発行市場において有価証券を発行し、当該有価証券を金融商品取引所等の流通市場に上場させる会社に対し、財務会計をはじめとする重要情報を記載した開示書類の提出を義務づけている。このような強制開示制度は、投資者の投資判断に必要かつ十分で正確な情報を提供することにより、投資者と発行会社の間における「情報の非対称性」を是正し、また、資本市場において、有価証券の公正な価格形成の実現を図ることを目的としている

。もっとも、かかる目的が実現されるには、発行会社の重要情報が開示書類に正しく記載される必要がある。しかしながら、現実には、粉飾決算をはじめとする不実開示の事件は後を絶たない。このような発行会社による不実開示の事件を受け、平成一六年の証券取引法改正(以下、「平成一六年改正」)においては、流通市場における不実開示に

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   同志社法学 七〇巻二号二六三六七五 関する発行会社の民事責任規定や、課徴金制度が導入された。そして、証券取引法が現在の金商法に改題された平成一八年の改正では、内部統制報告書制度が導入されるなど、不実開示を抑止し、開示規制のエンフォースメントを確保する取り組みがなされてきたところである。

  そのような取り組みがなされてきたところ、平成二六年の金商法改正(以下、「平成二六年改正」)では、流通市場における不実開示に対する発行会社の民事責任規定について見直しが行われた。平成一六年改正において導入された発行会社の民事責任は、当初は「無過失責任」とされた。このような立法は、開示規制のエンフォースメントの強化に繋がったものの、無過失責任を課すことにはさまざまな問題点が指摘され、その見直しが求められてきた。そこで、平成二六年改正は、かかる無過失責任を立証責任の転換された「過失責任」に改める変更を行った。しかし、その結果、発行会社すなわち法人の「過失」とは何かという新たな解釈上の問題が生じている。

  本稿は、金商法二一条の二第二項が定める発行会社の「過失」について、解釈論としてその具体的内容を検討することを目的とする。第二章では、平成一六年の民事責任制度導入から平成二六年改正において過失責任化するに至るまでの経緯を整理する。第三章では、発行会社の「過失」に関する解釈問題が生じていることを指摘し、これまでに提案されてきた解釈論を整理し、その内容を検討する。そのうえで、平成一六年改正前の無過失責任に対して向けられてきた批判を踏まえ、解釈論を検討するにあたっての問題設定を行う。第四章は、わが国の制度に一定の示唆を得ることを目的に、伝統的な代理法のアプローチ(「認識帰属」ないし「代位責任」の法理)を採用した判例を中心に、アメリカにおける発行会社の民事責任に関する議論を考察する。そして、第五章では、第四章までの検討内容を踏まえ、金商法二一条の二第二項における発行会社の「過失」に関する具体的な解釈論を提案したい。

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   同志社法学 七〇巻二号二六四六七六

』( 、経、二 』(』( 〕(』〔〕(』〔 )」』() 

第二章  不実開示に対する発行会社の民事責任制度の沿革 第一節  金商法二一条の二の立法経緯   金商法二一条の二は、流通市場における不実開示に対する発行会社の民事責任を定めている。すなわち、同条一項は、二五条一項各号により公衆縦覧に供される開示書類(五号および九号を除く)のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているとき、発行会社は、当該開示書類が公衆縦覧に供される間に募集または売出しによらないで当該発行会社の有価証券を取得または処分した者に対し、一九条一項の規定の例により算出した額

を超えない限度において、記載が虚偽であり、または欠けていることにより生じた損害を賠償する責任を負うとする。

  金商法二一条の二は、平成一六年改正において導入された民事責任規定である。証券取引法は、発行市場における不実開示(有価証券届出書等の虚偽記載等)に関しては、アメリカ一九三三年証券法一一条にならい、制定当初より発行

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   同志社法学 七〇巻二号二六五六七七 会社の民事責任を定めていた(一八条)

。昭和四六年の改正では、昭和二八年改正で一度廃止された役員等の民事責任が再度規定され、これに併せて、流通市場における不実開示に関しても、役員等が民事責任を負うことが定められた(二二条)。しかし、昭和四六年改正では、発行会社の民事責任に関する拡大はなされず、それ以降平成一六年改正まで、流通市場における不実開示に対する発行会社の民事責任規定は存在しなかった

  もっとも、平成一六年改正前においても、学説では不実開示に関して代表取締役に故意・過失が認められる場合には、民法七〇九条または会社法三五〇条(平成一七年改正前民法旧四四条)

により発行会社に民事責任を課すことが可能であることが有力に主張されてきた

。しかし、民法の規定によると、発行会社の過失や発行会社の違法行為と投資者が被った損害との因果関係および、投資者における損害額については、原則として原告が立証しなければならないところ、それらの立証は、原告にとって必ずしも容易ではない。この点で、民法の規定による民事責任の追及には高いハードルが存在することが指摘されていた

。実際に、民法七〇九条発行会社の民事責任が追及された裁判例は、それほど多いとはいえない状況であった 8

。このような状況に対し、わが国の開示規制は「アンダーエンフォースメント」の状態にあるとの指摘がなされ、国内外から、開示規制のエンフォースメントの強化に関する要望が寄せられてきた

  このような要望を踏まえ、政府の統合規制改革会議は、次のように、開示規制のエンフォースメントを強化すべきであるとする答申を公表した。すなわち、答申では、証券市場監視を強化する観点から、民事・行政的な制裁的負担を付加する制度の導入等、エンフォースメント手段の強化・拡充・複線化について検討すべきであるとする報告がなされている ((

。また、金融審議会金融分科会第一部会では、このような答申の内容を踏まえ、開示規制のエンフォースメント手段のあり方に関する検討が行われ、次のような内容の報告書が取りまとめられた。同報告書では、「証券取引法違反に対する民事訴訟を通じた責任追及があまり行われていない」ことが指摘され ((

、市場監視機能・体制の強化の一環として、

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   同志社法学 七〇巻二号二六六六七八

民事責任規定の見直しを行い、責任追及を行う原告の立証責任を緩和するための損害額の推定に関する規定を置くなど、一定の立法上の措置を設けることが望ましいと述べられている ((

。二一条の二の立法は、このような一連の議論が反映されたものである。

第二節  金商法二一条の二の意義と問題点   ところで、立法当初の二一条の二の規定は、次のような特徴を有していた。すなわち、第一に、発行会社の損害賠償責任は無過失責任であると解される点 ((

、第二に、損害額の推定規定を設けることにより、不実開示と損害の因果関係に関する原告の立証責任のハードルを下げ、一般不法行為の規定による賠償請求の場合に比べ、発行会社に対する責任追及が容易になったという点である ((

。このような民事責任規定の導入により、民事責任を追及するハードルが下がったことで、発行会社に対する民事訴訟が急増したことが指摘されている ((

  もっとも、流通市場における不実開示に関して、このような無過失責任としての民事責任を発行会社に課す規制は、わが国以外にほとんどみられない ((

。このような民事責任規定を設けた理由は、次のように説明されている。まず、証券取引法に民事責任規定を設けた理由は、原告における損害額の立証が困難であることなどの理由により、開示規制の違反行為に対する民事手続を通じた責任追及が行われていないことが背景にあるとされている ((

。そのうえで、無過失責任としたことについては、開示書類に不実記載がある場合において、発行会社自体に故意・過失がないということは考えられないので、無過失による免責を認めるべきではなく、したがって、流通市場における発行会社の責任についても、発行市場の場合と平仄を合わせ無過失責任としたと説明されている ((

  しかし、金融審議会金融分科会第一部会の報告書では、発行会社の民事責任に関する規定および、損害額の推定に関

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   同志社法学 七〇巻二号二六七六七九 する規定を設けることが提言されているが、無過失責任に関する記述はない。この点に関して、発行会社の主観的要件に関する直接的な議論は、金融審議会ではなされていなかったことが明らかになっており ((

、法文化段階で、発行会社の民事責任を無過失責任とすべきであると判断されたようである。その理由は、どの役員または従業員が虚偽記載に関与したかの証明や、それらの者の帰責事由の立証を要求することは、投資者に負担が大きく、責任追及を困難にするとして、「被害者救済」という観点から、発行会社自体の無過失責任を定めるという一種の「割切り」をしたものであるとされている ((

  しかし、発行会社におおよそ過失がないということがありえないのであれば、過失責任であるとしても発行会社は事実上免責を得ることは難しく、無過失責任とする必然性はないという考え方もありうる ((

。他方で、発行会社全体の過失の有無ではなく、たとえば不実開示を防止するための内部統制システムを適切に整備していたなど、代表取締役その他の役員等において故意・過失が認定されない場合には、発行会社に故意・過失はないとみることもできることも指摘されている ((

  これらの見解のように、二一条の二が発行会社の無過失責任を定めたことについて、学説では、立法当初より以下のような批判的な見解が有力であった。

  ①流通市場における不実開示は発行開示における不実開示と同視できるか   既述のように、二一条の二の責任を無過失責任とした理由は、発行市場における不実開示に関して発行会社の民事責任を定めた一八条と平仄を合わせることであると説明されている ((

。これに対しては、発行市場における不実開示によって生じる投資者の損害と、流通市場において投資者に生じる損害は、同じとはいえないことが指摘されている。すなわち、前者においては、発行会社と投資者が直接の取引関係に立ち、発行会社は、虚偽の情報によって本来の価格よりも

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   同志社法学 七〇巻二号二六八六八〇

高い価格で時価発行を行い、投資者から金銭を取得したことになる。このような発行会社の利得に鑑みると、発行会社に無過失責任を課すことは、不実開示によって生じた高い価格と本来の価格との差額分を返還する(いわゆる「原状回復」としての賠償)という意義が認められる ((

。しかし、流通市場の場合は、同様の意味での利得が発行会社に生じることは考えられないため、発行市場と平仄を合わせたとする立案担当者の説明は疑問視されてい ((

((

  ②発行会社の経営を萎縮させる可能性があること   発行会社に無過失責任を課すことは、発行会社の活動を萎縮させる可能性があることが指摘されている。この点について、平成二六年改正前の学説では、二一条の二の規定は、無過失責任を課しているために、グローバル化する金融経済における日本企業の活動を萎縮させているとして、その改正が「急務」であるとの主張がなされていた ((

  また、法と経済学における不法行為法に関する議論をもとに、流通市場における不実開示について発行会社に無過失責任を課すことは、発行会社にとって、不実開示を抑止するための最適な注意・活動水準を選択するインセンティブとはならないことを指摘する見解もある ((

。この見解は、このような場合に発行会社に無過失責任を課すと、発行会社は、不実開示による損害を回避するために、過剰な注意水準および過少な活動水準を選択してしまうと指摘する ((

。この過剰な注意水準とは、たとえば、不正会計などを防止するために(効果に見合わないほど)過剰なレベルの内部統制システムを整備してしまうことなどが考えられる。他方で、過少な活動水準とは、資本市場からの資金調達規模を抑制する、または、会社の事業規模が大きければ大きいほど、もしくは子会社の数が多ければ多いほど社内組織は複雑化し、内部統制整備のコストも増大し、不実開示が生じるリスクが高まるとすれば、企業買収に躊躇するもしくは事業規模、子会社数を縮小・削減し、多角化の程度を小さくするという選択をすることなどが考えられる。

  ③株主間の利益移転が生じること

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   同志社法学 七〇巻二号二六九六八一   流通市場における不実開示による投資者の損害を発行会社に賠償責任を負担させた場合、発行会社の株主間において、利益の移転が生じることになる ((

。これは、損害賠償請求をした株主(投資者)と、(損害賠償請求権を持たないなどの理由で)そのような請求をしない(することができない)者とが存在していることにより生じる問題である ((

。前者に対する賠償責任が認められると、本来後者にも持分に応じて平等に帰属するはずの取り分が、実質的に前者に移転することになる。このことは、発行会社の民事責任を認める場合に不可避的に生じる構造的問題である。しかし、過失責任の場合は、発行会社が免責されることで、賠償に伴う株主間の財産の移転は生じない可能性があるが、無過失責任の場合には、このような財産の移転は回避することができないという点で、問題はより深刻であると思われる。

  ④会社債権者との利益衝突   流通市場における不実開示について発行会社に民事責任を課すことには、株主(投資者)と他の会社債権者との利益衝突が生じることも指摘されている。粉飾決算は、発行会社の経営状態が悪化しているときに、株価の維持・吊り上げや、対外的な信用の悪化の回避のために行われる。粉飾決算が発覚すれば、株価が下落するのみならず、対外的な信用の低下により資金繰りが困難となり、経営破綻に至る事例もある ((

。とりわけ流通市場における不実開示は、発行会社の経営状態が悪化している局面における粉飾決算が原因であることが多く、当該不実開示が発覚した後に、発行会社が倒産手続に入ることも少なくない。このような場合に投資者の損害賠償請求権を認めることは、他の取引債権者や不法行為債権者との間における利益衝突を招くおそれがある。この点に関して、学説では、投資者の有する損害賠償請求債権を他の会社債権者と同列に扱うことが妥当であるかなど、そのような損害賠償請求債権の劣後化の可能性などが議論されている ((

。もっとも、会社債権者との利益衝突の問題についても、株主間の利益移転の問題と同様に、発行会社に民事責任を課すこと自体から生じる問題であるので、無過失責任規定に特有の問題ではないことに留意しなければならない。

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   同志社法学 七〇巻二号二七〇六八二

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図 の 内 容 が 問 題 と さ れ て い る 。 こ こ で は 、 そ の よ う な 判 例 の 展 開 に つ い て 、 あ ら た め て 整 理 し て お く 。 て い る 。 す な わ ち 、 伝 統 的 な 代 理 法 の ア プ ロ ー チ の 下 で は 、 発 行 会 社 の 欺 罔 の 意 図 は 、 権 限 の あ る 者 に お け る 欺 罔 の 意 す る 役 員 そ の 他 の 者 ( 代 理 人 ) に お け る 認 識 ( 欺 罔 の 意 図 ) が 発

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期におけ る義経の笈掛け松伝承(注2)との関係で解説している。同書及び社 伝よ れば在3)、 ①宇多須神社