韓国の交通犯罪
著者 呉 貞勇
雑誌名 同志社法學
巻 69
号 8
ページ 3493‑3511
発行年 2018‑03‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000328
( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号七七三四九三
韓 国 の 交 通 犯 罪
呉 貞 勇
Ⅰ はじめにⅡ 韓国の交通犯罪の現状Ⅲ 交通犯罪に適用される法律Ⅳ 交通犯罪処罰の最近の動向(危険運転致死傷罪を中心に)Ⅴ 終わりに
Ⅰ は じ め に
車が私たちの生活に欠かせないものになってから、飲酒運転は現代社会に現れる危険原因の一つになった。飲酒運転に対しては以前から道路交通法などを通じて規制してきたが、死傷結果に対する加重処罰をする規定を設けたのは最近( )同志社法学 六九巻八号七八韓国の交通犯罪三四九四
のことである。日本には危険運転致死傷罪があるが、韓国も日本での立法過程を参考にして飲酒運転などのような危険運転に対して加重処罰ができる立法が推進され、現在「特定犯罪加重処罰などに関する法律」に「危険運転致死傷罪」という名称で立法された。これは現代の危険社会に対処するためのものとして評価することができる。もちろん、このような刑事法的な対応は新たな現代社会の危険原因を統制するための手段であるという肯定的な評価ができるのであるが、むしろそれが度を超えると、それによる被害も必ず発生するという点から、より明確でありながら十分な法的基準で、その正当性が評価されるべきである。
このようなことを考慮に入れ、以下では、韓国の交通犯罪に関する概括的な現況や、交通犯罪に対する適用法律、そして最近立法化された「危険運転致死傷罪」のいくつかの問題を検討することにする。
Ⅱ 韓 国 の 交 通 犯 罪 の 現 状 1 犯 罪 類 型 に よ る 交 通 犯 罪
我々は、今の社会を危険社会であると言う。特に、その中で自動車交通は欠かせないものになっており、それによる被害も相当なものである。つまり、現代社会に既に普遍化していることによって、自動車に対する最高の安全措置をとろうとしても、法益侵害の危険はいつでも存在するのである。それにしても、車はもう我々の暮らしに深く関連しているから、事故発生を予見していてもそれを認めなければならない現実に置かれている。二〇一五年の警視庁による統計を見ると、全体犯罪発生類型の中で交通犯罪が占める比率は非常に高い。全体犯罪の中で交通犯罪と関連したものは三〇%を占めており、特に二〇一四年からはその比率が二%以上増えている。また、犯
( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号七九三四九五 罪類型を強力犯罪、窃盗犯罪、暴力犯罪、知能犯罪、交通犯罪と区別して見ても、その構成比も一番大きくなっている。 もちろん、すべての交通犯罪が通常の刑法犯と全く同じであるとは言えない。全体交通犯罪の中での事故区分別の発生件数からわかるように、「交通事故」と「交通事故以外」の類型は、だいたい半分ぐらいの割合になっている。それに年を重ねることによって交通事故の増加推移が相対的に高くなる傾向を見せている。
2 主 な 交 通 犯 罪 現 況
⑴ 交 通 事 故 に よ る 被 害 現 況
二〇一四年に起きた交通事故は、総計二二万三五五二件が発生して、二〇一三年に比べ三・八%増加し、負傷者も三三万七四九七名と増えている。全体的には交通事故による死亡者数は減少する傾向であるが、自動車一万台当たりの交通事故による死亡者数は約二・〇名を上回っており、OECDの国家の平均(二〇一二年)に比べると、相変わらず高い数値である。当然のことであるが、交通事故は事故当事者とその家族のみならず、国家発展の障害要因になり、また国民経済にも悪影響を与える。韓国の道路交通公団の二〇一一年の統計によると、交通事故による社会的な費用が約一二兆七六〇〇億ウォン(約一兆二〇〇〇億円)であると予想されたことがある。また、二〇一四年に発生した交通事故を原因別に分析して見ると、全交通事故の五六・五%が運転者の安全運転義務に違反したものであり、それによる死亡者は全交通事故の死亡者の七〇・八%に該当する。
一方、交通事故の被害現況の中で特異な点は、老人の交通事故死亡者が多いということである。二〇一三年の年齢による死亡者数を見ると、全体死亡者五〇九二名の中で七一歳以上が一二八二名であり、全体の二五・二%を占めている。それに六〇歳以上の死亡者数で計算してみると、全体の死亡者の中で四二・二%に至る。これはある年に限定された数
( )同志社法学 六九巻八号八〇韓国の交通犯罪三四九六
値ではなく、以前から引き続き現れている老人に対する交通事故死亡者の推移である。このような原因には、次第に高齢化社会になっているということが考えられるのである。 )(
(韓国統計庁の人口推計によると、全体人口の中六五%以上の高齢者が二〇〇〇年に七・二%を超えて、高齢化社会に入り、二〇一七年には一四・〇%、二〇二六年には二〇・八%ぐらいになると予想されている。そして、最近の運転免許を持っている者は毎年二・七%ぐらい増加していることに比べ、六五歳以上の高齢運転者は約二〇〇万人であり、七・〇四%を占めている。 )(
(
⑵ ひ き 逃 げ 犯 罪
交通事故を起こした運転者が被害者に対する救護などの必要な事後措置をしないまま逃走する、いわゆる「ひき逃げ犯罪」は被害者と加害者に身体および精神的・経済的に深刻な被害を与える。ひき逃げ犯罪が全交通犯罪の中で占める比率は低いが、他の交通犯罪よりもその害悪性が重く、またそれに対する検挙も相対的に簡単ではない。二〇一四年のひき逃げ犯罪は総八七七一件であり、前年より八・七%減少し、二〇七名の死亡者と一万三六二二名の負傷者が発生しており、それは全体交通犯罪の三・九%を構成している。そして二〇〇五年に全交通事故の六・九%を記録した後、ますます減少していく傾向を見せている。一方、警察は一九九七年九月一日から、ひき逃げ犯罪を担当する機関を設置してその検挙率を高めることに力を注いでいる。そして警察教育院では「ひき逃げ犯罪の調査官養成プログラム」を作り、毎年六〇名に科学的な捜査法を教育する計画を推進している。二〇一四年、総八七七一件のひき逃げ犯罪の中で七九五〇件を検挙し、特に二〇一〇年からはその検挙率が九〇%を超えている。
( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号八一三四九七
⑶ 飲 酒 運 転 に よ る 交 通 犯 罪
飲酒運転による交通事故は、道路交通法上で運転者が血中アルコール濃度〇・〇五%以上の状態で運転をして交通事故を起こした場合であり、運転者が運転免許を持っているか否かとは関係なく、血中アルコール濃度が〇・〇五%以上であったらすべてがそれに該当する。そして血中アルコール濃度が〇・一〇%以上の場合は一般的に泥酔運転と呼ばれる。二〇一四年の飲酒運転による交通事故は二万四〇四三件が発生し、そのうち死亡者が五九二名、負傷者は四万二七七二名であり、次第に減少していく傾向にある。また、常習的な飲酒運転に対しては、その予防策として処罰するとともに十分な教育および専門家の相談などを通じて、誤った運転習慣を矯正した後に運転免許を再取得することができるようにしている。つまり以前は飲酒運転の違反回数に関わらず一律的に六時間の特別交通安全教育のみを受けることにしていたが、二〇一二年六月一日からは飲酒運転の違反回数によってその教育時間を区別しており )(
(、三回以上の常習運転者に対しては教育内容に「シミュレーター」を利用した飲酒運転体験および心理相談プログラムを追加するなど、教育を強化している。
Ⅲ 交 通 犯 罪 に 適 用 さ れ る 法 律
交通犯罪の中で重要な刑法規定は第一五章における「交通妨害の罪」と第二六章における「過失致死傷の罪」である。交通妨害の罪は交通安全を主な保護法益としており、過失致死傷の罪は人の生命または身体を保護法益としている点に違いがある。それ以外にも交通機関を手段または対象にして犯される刑法上の犯罪や、交通取り締まりの規則違反に従って刑罰が科される行為に対しては特別法でも規律しているが、それを代表するものが「交通事故処理特例法」と「道( )同志社法学 六九巻八号八二韓国の交通犯罪三四九八
路交通法」である。
交通事故によって死傷の結果が発生した場合においては、刑法上の業務上過失致死傷罪(刑法第二六八条)が適用されるが、交通事故処理特例法第三条一項が「車の運転者が交通事故によって刑法第二六八条の罪を犯したときは、五年以下の禁固あるいは二〇〇〇万ウォン以下の罰金に処する」と規定していることによって同法が優先的に適用される。つまり刑法第二六八条は反意思不罰罪ではないが、交通事故処理特例法では業務上過失致死傷罪あるいは重過失致死傷罪を犯した運転者に対して被害者が明示した意思に反して公訴を提起することができなくなり(同法第三条第二項)、交通事故を起こした車が総合保険や共済会保険に加入した場合にも公訴を提起することができないように規定している(同法第四条第一項)。ただし業務上過失致死傷罪あるいは重過失致死傷罪を犯した運転者が被害者の救護など、道路交通法第五四条第一項の規定による措置をしないまま逃走したり、 )(
(被害者を事故場所から動かして遺棄して逃走した場合と、交通事故処理特例法第三条第二項における一定の事由に該当する場合には、被害者の意思とは関係なく公訴を提起することができる(同法第三条第二項但書)。
一方、道路交通法第四四条第一項では「酒に酔った状態で自動車などを運転してはいけない」として飲酒運転を禁止しており、第四五条では「過労、病気または薬物の影響と、その他の事由のせいで正常的な運転ができないおそれがある状態で自動車などを運転してはいけない」として過労運転などを禁止している。したがって、飲酒や薬物などの影響で正常な運転が困難な状態で運転し、人に死傷の結果を起こした者に対しては道路交通法第四四条第一項ないし交通事故処理特例法第三条第一項によって処罰されることになるのである。
飲酒運転は、交通法規違反はもちろん、人に対する死傷の結果や財物損壊などの二次的な被害につながるはずであり、そこに死亡の結果や重傷害の結果が起きた場合には事故現場を離脱する行為に出る可能性も大きいのである。これに対
( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号八三三四九九 処するための法律として「特定犯罪加重処罰などに関する法律」を挙げることができる。同法第五条の三は一九七三年の改正を通じて「道路交通法第二条に規定された自動車・原動機装置自転車の交通によって刑法第二六八条の罪を犯した該当車両の運転者が救護するなど、道路交通法第五四条第一項による措置をしないまま逃走したときは、次の区分によって加重処罰する」とし、①被害者を死亡に至るようにして逃走したり、逃走後に被害者が死亡したときは無期または五年以上の懲役、②被害者を傷害したときは一年以上の懲役または五〇〇万ウォン以上三〇〇〇万ウォン以下の罰金に処する、と規定した。 )(
( ところが、この場合においても飲酒運転による死傷事故に対する別の加重処罰規定はなかった。このような問題に対し、二〇〇七年に特定犯罪加重処罰などに関する法律の改正が行われ、その処罰が可能となった。つまり「危険運転致死傷罪」に関する規定が二〇〇七年「特定犯罪加重処罰などに関する法律第五条の一一」に新しく規定され、飲酒や薬物などの影響で正常な運転が困難な状態で自動車を運転して死傷事故を起こした場合にも加重処罰ができるようにしたのである。
Ⅳ 交 通 犯 罪 処 罰 の 最 近 の 動 向 ( 危 険 運 転 致 死 傷 罪 を 中 心 に )
1 危 険 運 転 致 死 傷 罪 の 導 入 背 景 と 立 法 趣 旨
交通事故による死傷事件を減少させるための様々な交通政策が要求されているが、その中で法的対応として重要な役割をするのがまさに刑法的な規律であると言える。特に飲酒運転による死傷事故に対して特別の加重処罰規定はなかったが、先に述べたように、二〇〇七年「特定犯罪加重処罰などに関する法律」の改正によってそれが可能となったのである。( )同志社法学 六九巻八号八四韓国の交通犯罪三五〇〇
それ以前には、道路交通法第一五〇条で「道路交通法第四四条第一項の規定に違反して酒に酔った状態で自動車などを運転した人」と「道路交通法第四五条の規定に違反し、薬物の影響で正常な運転ができないおそれがある状態で自動車などを運転した人」を二年以下の懲役、あるいは五〇〇万ウォン以下の罰金に処すると規定しており、また車の運転者が交通事故により刑法第二六八条の罪を犯したときには、交通事故処理特例法第三条第一項によって五年以下の禁固あるいは二〇〇〇万ウォン以下の罰金に処すると規定していた。
このような規定があったにも関わらず、飲酒運転による交通事故が急増したため、死傷事故もますます増える状況であった。そして交通事故処理特例法上の飲酒運転に対する処罰規定は微弱にしか機能していなかったため、それを解決できる対策が要求されたのである。この政策の一環として多様な立法的対応が提案され、その過程で二〇〇七年一二月二一日に「特定犯罪加重処罰などに関する法律」に「危険運転致死傷罪」が規定されることとなった。 )((「危険運転致死傷罪」は交通事故処理特例法の第三条と道路交通法第一五〇条の違反行為を結合した形式であると言える。 )(
(
2 法 的 性 格
業務上過失致死傷罪は「業務者」という身分を考慮して過失致死傷罪の法定刑を加重した一種の身分犯としての性格を持っている。ちなみに業務者という身分によって一般的な過失致死傷罪に比べ、その刑が重くなる類型である。しかし、危険運転致死傷罪の場合は、危険運転行為をした者が死傷の結果を惹起した場合に刑を加重する犯罪であり、自動車を運転する者が業務者という身分を持つ必要はない。例えば、運転免許がない者が飲酒をした後、道路にある他人のバイクを好奇心で運転する途中に歩行者と衝突して歩行者が死亡した場合には業務上過失致死傷罪は成立しないが、危険運転致死傷罪が成立することがある。つまり、身分による刑の加重を内容としないという点から、業務上過失致死傷( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号八五三五〇一 罪とはその性質が異なると言えるであろう。
危険運転致死傷罪では、運転者が「飲酒や薬物の影響によって正常な運転が困難な状態であったか否か」という点が重要である。したがって、飲酒運転によって死傷事故が起きたことだけでは本罪は成立しないのであり、飲酒によって現実的な前方注視や自動車運転が困難な状態に陥って、正常な運転が困難な状態で運転行為をし、死傷の結果を惹起したときに本罪が成立するのである。
一方、危険運転致死傷罪は、故意による行為を行った結果で死傷が発生した罪として、結果的加重犯と類似の犯罪類型でもある。日本の場合は、立法当時の状況にかんがみると、危険運転の行為自体は道路交通法違反に当たるのであるから、わざと基本犯罪に関する別の規定は置かなかったのではないかと考えられる。ところが、危険運転行為という基本行為が刑法では処罰対象として考慮されないという点には問題があると思われる。つまり、危険運転行為が道路交通法に違反するとしても、その行為を危険運転致死傷罪の行為と同一視できるかという疑問があるからである。それは通常の結果的加重犯の基本犯罪が行政法規違反に比べ、一般的に不法の程度がより大きいという点からも説明できるであろう。したがって、飲酒や薬物などの影響であったかということより、少なくともそれによって正常な運転が困難な状態であったかという点、またそれによって死傷の結果がもたらされる危険性が具体的に存在する場合に限って、本罪を制限的に認める必要があると思われる。
3 危 険 運 転 致 死 傷 罪 に お け る 諸 問 題
⑴ 刑 法 典 へ の 編 入 の 問 題
危険運転致死傷罪が規定された理由には、まず既存の道路交通法と交通事故処理特例法の処罰では不十分であったと( )同志社法学 六九巻八号八六韓国の交通犯罪三五〇二
いう点にある。つまり、飲酒運転などによる死傷事故に対して、一般予防的な効果を期待したと言えるであろう。
しかし、そのような効果は期待通りではなかった。もちろん先に記述したように、交通事故による死亡事故が減ったことは事実である。しかし、それは二〇〇〇年以後から引き続き現れている現象であり、危険運転致死傷罪の規定による結果ではない。
このような状況下で、最近、危険運転致死傷罪を刑法典に編入すべきであるという主張が提起されている。 )((その理由は、危険運転致死傷罪の政策的な側面、そして法定刑においても特定犯罪加重処罰などに関する法律での他の犯罪類型に比べ重くないということである。これは、刑法に規定された危険運転致死傷罪を特別法に移した日本の場合とは正反対の状況である。それを参考にすれば、危険運転致死傷罪を刑法典に編入しようとすることは、もう一度検討すべきであろう。 )(
(
思うに、刑法典編入による特別法の廃止ということや、危険運転による死傷事故に対して重い処罰が必要であるということで、無理して刑法典に入れるよりは、むしろ刑事特別法から行政刑法に転換する案を考慮すれば良いのではないかと思われる。具体的には、刑事特別法を廃止して同罪を維持しようとするのであれば、交通犯罪の特殊性にかんがみて行政刑法である道路交通法に移す方法も考えることができるのであろう。
⑵ 重 罰 化 の 問 題
危険運転致死傷罪の問題の一つとして重罰化も挙げられる。危険運転致死傷罪を導入したきっかけの中で重要な理由は、刑法上での過失犯規定では適切な対応ができなかったという点にある。しかし、刑法による犯罪抑制は一般的にその限界を持っているにもかかわらず、政策的な解決のカギを刑事法のみに依存する態度には注意すべきである。そして( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号八七三五〇三 以前から危険運転に対しては厳罰化が行われているのである。 )((
(
特に、飲酒運転が初犯である場合には罰金刑に処して、危険運転致死傷罪が初犯である場合には懲役刑で処罰するなど、刑の均衡の問題もある。もちろん交通犯罪による被害者およびその家族の感情を考慮して危険運転致死傷罪のように重罰化がやむをえないことであるとしても、同一の飲酒運転行為であるにもかかわらず、結果発生によってその刑罰が異なるという点に対しては、その根拠と正当性について十分な検討が必要であろう。
⑶ 二 元 的 不 法 論 に 対 す る 理 論 的 な 問 題
危険運転致死傷罪や飲酒運転の場合にも、保護法益と適用範囲が大きく異ならないにもかかわらず、両者の法定刑に著しい違いがあるのは、飲酒後に運転をしたという危険性を含む行為より、それによる結果に着目したという点にある。しかし、行為無価値より結果無価値をより重視して危険運転致死傷罪を適用するのは、通常の二元的不法論に反する結果であると言える。つまり、不法は否定的に評価される意思活動を意味する「行為無価値(例えば、飲酒後に運転をする行為)」と、その行為が志向した結果が実際に実現されることを意味する「結果無価値(例えば、他人を死傷に至るようにしたこと)」を考慮すべきであるにもかかわらず、同罪の場合は後者を重点的に考慮しているという点に問題がある。したがって、先に述べたように、飲酒状態であったという点とそれによって死傷の結果が発生したという単純な条件関係を中心に把握するより、飲酒によって正常な運転が困難な状態であって、それによって死傷の結果がもたらされる危険性が存在したという点を、より明確に把握する必要がある。したがって、危険運転致死傷罪は、一般の危険運転行為を処罰対象とするのではなく、その中で具体的な死傷結果に関連する「実質的な危険」がある運転行為のみを対象とすべきであり、そのような具体的な死傷の結果と関連のない危
( )同志社法学 六九巻八号八八韓国の交通犯罪三五〇四
険性は、同罪から排除すべきであると思われる。いずれにしても、単純な危険運転行為と死傷の結果が存在するだけでは、十分な根拠となるとはいえないであろう。
⑷ そ の 他 の 問 題
その他、危険運転致死傷罪は結果的加重犯という犯罪類型であるにもかかわらず、その基本犯罪が明確ではないというところがある。飲酒もしくは薬物などの影響ではない他の危険要素によって正常な運転ができない状態で運転をして死傷の結果を起こしたときに、その処罰に対する規定がない。具体的に、自分に深刻な疾病があり、そのための薬物を飲まなかったことで意識を失う経験があったり、あるいはその認識があった場合に、正常な運転のための適切な措置をしないままで運転をした場合に、どのように処罰するのであろうかという問題もある。 )(((
Ⅴ 終 わ り に
現代社会は交通手段、科学技術などの発展に伴って、過去には問題とならなかったことが新しく問題をもたらしている。それで様々な法律と政策も要求されている。交通犯罪に関する問題も、そのような問題の一つであろう。特に、交通犯罪に対しては、危険運転によって人を死傷に至るようにした場合には、次第に重く処罰する傾向を見せているが、我々はそのような厳罰化が問題解決の全てではないということをよく知っている。そして、交通犯罪は他の犯罪とは異なり、予防的な教育が優先的に必要であるということも否定できない。したがって、先に述べたように、刑事的な制裁における重罰化の必要性のみを強調するよりは、予防的な次元からの
( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号八九三五〇五 交通文化の定着が重要な課題ではないかと思われる。もちろん時代の要求に従うための厳罰化が必要であるとしても、そのような刑事的な制裁には、必ず理論的な根拠を十分にする義務が伴うであろう。
*
本稿は、二〇一六年一一月一八日に同志社大学で開催されたシンポジウム「東アジアの交通犯罪」において行った報告に加筆したものである。( )同志社法学 六九巻八号九〇韓国の交通犯罪三五〇六
■犯罪類型別構成比率(2013-2015年)
犯罪類型 (0((年 (0((年 (0((年
発生件数 構成比 発生件数 構成比 発生件数 構成比 全体犯罪 (,(((,((( (00.0 (,(((,((( (00.0 (,(((,((( (00.0 強力犯罪 ((,((( (.( ((,((( (.( ((,((( (.(
窃盗犯罪 (((,((( ((.( (((,((( ((.0 (((,((( ((.(
暴力犯罪 (((,((( ((.( ((0,0(( ((.( (0(,((( ((.(
知能犯罪 (((,((( ((.( (((,((( ((.( (((,((( ((.0 風俗犯罪 ((,((( (.( ((,0(0 (.( ((,((( (.(
特別経済犯
罪 ((,0(( (.( ((,(0( (.( ((,((( (.(
麻薬犯罪 (,((( 0.( (,((( 0.( (,((( 0.(
保健犯罪 (0,((( (.( ((,((( 0.( ((,(0( 0.(
環境犯罪 (,((( 0.( (,((( 0.( (,((( 0.(
交通犯罪 (((,((( (0.( (((,((( ((.( (((,((( ((.(
労働犯罪 (,((( 0.( (,(0( 0.( (,((( 0.(
安保犯罪 ((( 0.0 (( 0.0 ((( 0.0
選挙犯罪 ((( 0.0 (,((( 0.( ((0 0.0
兵役犯罪 ((,((( (.( ((,((( (.( ((,((( (.0 その他の犯
罪 (((,((( (0.( ((0,((( (0.( (((,((( ((.(
■犯罪類型別構成比(2011-2015年)
2015 年
2014 年 2013 年 2012 年 2011 年
0 10
1.4 1.4
1.4 1.5
1.5 13.2
15 15.5 16.2 16.1
16.4 16.3 15.8 17.4 17.8
17
16 16.8 17.7 16.5
32.1 32.2 30.9 30.3 30.6 20
強力犯罪 窃盗犯罪 暴力犯罪 知能犯罪 交通犯罪
30 40 50 60 70 80 90
( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号九一三五〇七
■2014年罪種別交通犯罪の発生現況(2014年警察統計年報)
事故区分別 法律 発生件数 合計
交通犯罪
交通事故
交通事故処理特例法
(人被交通事故) (((,0((
(((,(((
(((,(((
道路交通法(物被交通事
故) ((,(0(
道路交通法(物被交通事
故未措置) ((,(0(
特定犯罪加重処罰などに
関する法律(逃走車両) ((,(((
特定犯罪加重処罰などに 関する法律(危険運転致 死傷)
(,(((
交通犯罪外
交通妨害の罪 (,(((
(((,(((
道路交通法(共同危険行
為) ((
道路交通法(無免許運転) ((,(((
道路交通法(飲酒運転) (((,(((
道路交通法(飲酒測定拒
否) (,(((
道路法 (((
他の交通犯罪 (
■年度別交通事故発生現況(2014年道路交通安全白書)
区分 (00( (00( (00( (0(0 (0(( (0(( (0(( (0((
発生
件数 (((,((( (((,((( (((,((0 (((,((( (((,((( (((,((( (((,((( (((,(((
死亡
者 (,((( (,((0 (,((( (,(0( (,((( (,((( (,0(( (,(((
負傷
者 (((,(0( (((,((( (((,((( (((,((( (((,((( (((,((( (((,((( (((,(((
( )同志社法学 六九巻八号九二韓国の交通犯罪三五〇八
■国家別交通事故死亡者平均(2014年道路交通安全白書)
区分 韓国 OECD
平均 米国 日本 フラ
ンス スペ イン 年度 `(( `(( `(( `(( `(( `(( `(( `(( `((
車(万台当り (.( (.( (.( (.0 (.( (.( 0.( 0.( 0.(
人口(0万当り (0.( (0.( (0.( (.( (.( (0.( (.( (.( (.(
■交通事故死亡者推移
■2014年法規違反行為別交通事故の死亡者現況(2014年道路交通安全白書)
区分 計
安 全 運 転 不 履 行
中 央 線 侵犯
ス ピ ー ド違反
信 号 違 反
安 全 距 離 未 確 保
歩 行 者 保 護 義 務違反
その他
死亡者 (,((( (,((( ((( ((0 ((( (( ((( (((
比率
(%) (00 (0.( (.( (.( (.( (.( (.( (.(
■2013年年齢別死亡者(2014年道路交通安全白書)
6歳以下
(-
((
((-
(0
((-
((
((-
(0
((-
((
((-
(0
((-
((
((-
(0
((-
((
((-
(0
((-
((
((-
(0
((歳
以上 計
死亡者 (( (( ((( ((( ((( ((( ((( (0( (0( ((( ((( ((( ((( (,((( (,0((
比率 0.( 0.( (.( (.( (.( (.( (.( (.( (.0 (.( (.0 (.( (0.( ((.( (00.0
0 1000
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 5,092 5,392 5,229 5,505 5,838 5,870 6,166 6,327 6,376 6,563 7,212
2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000
( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号九三三五〇九
■ひき逃げ犯罪による交通事故(2015年警察白書)
区分 0( 0( 0( 0( 0( (0 (( (( (( ((
事故(*)((,((( ((,((0 ((,((( ((,((( ((,((( ((,((( ((,(0( ((,((( (,(0( (,(((
((.()((.()((.0)((.()((.()((.()((.()((.()((.()((.()
死亡者 ((0 ((0 ((0 ((( ((( ((( ((( ((( ((( (0(
負傷者 ((,((( ((,((0 (0,0(( ((,((( (0,((( ((,0(( ((,((( ((,((( ((,((( ((,(((
(*)は全体交通事故の中での占有率
■ひき逃げ犯罪に対する検挙現況(2015年警察白書)
区分 0( 0( 0( 0( 0( (0 (( (( (( ((
事故 ((,((( ((,((0 ((,((( ((,((( ((,((( ((,((( ((,(0( ((,((( (,(0( (,(((
検挙 (0,((( (0,((( (0,((( (0,((( ((,((( ((,0(( (0,((( (0,((( (,((( (,((0 検挙率 ((.( ((.( (0.( ((.0 ((.( ((.( ((.( ((.( (0.( (0.(
■飲酒運転による交通事故(2015年警察白書)
区分 0( 0( 0( 0( 0( (0 (( (( (( ((
事故件数 ((,((0 ((,((0 ((,((( ((,((( ((,(0( ((,((( ((,((( ((,0(( ((,((( ((,0((
死亡者 ((0 ((0 ((( ((( ((( ((( ((( ((( ((( (((
負傷者 ((,((( ((,((( ((,((0 ((,((( (0,((( ((,((( ((,((( ((,((( ((,((( ((,(((
■飲酒運転取り締まり及び3回以上の摘発現況(2015年警察白書)
区分 0( (0 (( (( (( ((
計 (((,(0( (0(,(0( (((,((( (((,((( (((,((( (((,(((
(回以上 ((,0((
(((.(%)
((,(0(
(((.(%)
((,(((
(((.(%)
((,((0
(((.0%)
((,(((
(((.(%)
((,(((
(((.(%)
( )同志社法学 六九巻八号九四韓国の交通犯罪三五一〇
【交通犯罪適用法律】
交通犯罪
交通事故
交通事故処理特例法(人被交
通事故) 交通事故処理特例法
道路交通法(物被交通事故)
道路交通法(第((条、第((条、
第((条第1項と第2項、第((
条第1項除外)
道路交通法(物被交通事故未
措置) 道路交通法第((条第1項)
特定犯罪加重処罰などに関す る法律(逃走車両)
特定犯罪加重処罰などに関す る法律第5条の3
特定犯罪加重処罰などに関す る法律(危険運転致死傷)
特定犯罪加重処罰などに関す る法律第5条の((
交通事故外
交通妨害の罪 刑法第(((条ないし第(((条
道路交通法(共同危険行為) 道路交通法第((条
道路交通法(無免許運転) 道路交通法第((条
道路交通法(飲酒運転) 道路交通法第((条第1項
道路交通法(飲酒運転測定拒
否) 道路交通法第((条第2項
道路法 道路法
他の交通犯罪
交通安全法
海上交通安全法違反 道路運送車両法違反
( )韓国の交通犯罪同志社法学 六九巻八号九五三五一一 (
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( (①罪②の場合も重傷害のり下限と同じである。、あのけ場合は殺人罪におる) 法定刑の下限と同じで
(법구연책정사형」,응대적입) 한대에전운험위,「디잔김제
( ((제2.면802,610),3권701제권통(호호
( と罪以上の性質があるというこを合示しているとも言えるだろう。犯 (そが懲の上以年一はに時たし生発果、結の亡死ていおに刑定法、だた役結し) て傷害の結果が発生した時には〇の年以下の懲役とするなど、通常一
( (전연)」,형사정책연구원구법총서,2008참조.률한지안연,「형사특별법정비방() 특정범죄가중처벌등에관 강の、れら作が名汚ういと」国天法れ刑別特「めたの法刑別特の上以そで〇る。(るあでのたれ現が張主ういとあ、できべす決解を題問なうよのこ個 () 編今、はに景背るすとうよし入にで典法刑を法刑別特、合場の国韓まの一をりまつ。るきでがとこるす摘指用立濫限権るす対に法刑別特の者法五 우예/신양균,「위험운전치사상죄의형법전편입문제」,형사정책연구원연구총서
(0-
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질교통사범에대한일본의입법례와우리에대한시사점」,법조589,2005,210면이하참조.(
((準るす当該に罪傷死致転運険危は) ていおに本日、合場なうよのこ。