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李 正華

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(1)

要旨:広東省は中国において急速な経済的発 展を遂げた地域のひとつに挙げられる。そ の知的財産権対策は中国国内でトップクラ スである。知的財産に関する企業の保護意 識や戦略,裁判実務は国内外の注目を集め ている(広東省の企業は市場競争において 知的財産権戦略を用いて発展を推進してき たものの,知的財産権保護に関する意識が 低いという問題も抱えている)。また,広 東省の知的財産権関連の裁判実務において は,件数においても,事件の斬新さの面に おいても,中国を代表するレベルといえる。

外国資本が投資する場合は,広東省の実状 に即した効果的な方法により,中国国内企 業の知的財産権保護を尊重するとともに,

自らの知的財産権を保護すべきである。

キーワード:広東,企業,知的財産権,司法 保護

WTO

加盟後の中国の経済発展は世界と歩 調をあわせ,その知的財産権保護も国際知的 財産権保護組織の体制下に置かれるように なった。広東は中国で最初に改革解放を実施 した地域のひとつであり,中国が最初に設置

した4ヶ所の経済特区のうち3ヶ所が広東に ある1。また,深 が香港と,珠海がマカオ と隣接しており,3つの経済特区は珠江デル タという有利な地理的条件を共有している。

このような背景のもと,広東省は中国におい て経済的発展が急速に進んだ地域のひとつと なった。経済発展と同時に,広東の知的財産 権対策も大きな成果を得て,他省より先んじ ているため,広東省企業の知的財産権を巡る 状況および裁判実務は国内外の注目を集めて いる。

一.知的財産権大省―広東省における 知的財産権の概況

ó 国内トップを誇る特許・商標出願件数 知的財産権は経済,技術,人材,政策およ び制度にかかわる問題である。これは企業の みならず,政府,裁判所および消費者にも関 連する。通常,経済や技術がより発達してい る地域では,その知的財産権が整備されるテ ンポも速い。諸外国を概観すれば,アメリカ,

日本,イギリス,ドイツなどの経済や技術が 発達している国家では,その知的財産権制度 も完備している。中国大陸において,広東省 は改革開放を最も早く推進した地域であり,

その経済や技術の発展が速く,知的財産権の 問題についても代表的な地位を有する。

2004 年の広東省特許出願件数および権利 付与件数はそれぞれ5万件と3万件超で,前 年度比 21 %と8%増であり,全国の 19 %と 21 %を占める。広東省の累計特許出願件数

広東省における企業の知的財産権を 巡る状況および知的財産権関連裁判 について

李 正華

* 李正華(1963−),法学博士,中山大学法 学院,知的産権学院助教授,修士課程大学院 生指導教師,中国知的財産権研究会会員,広 東省法学会知的財産権法学研究会副総幹事,

広東省知的財産権研究会理事,広東 南律師 事務所弁護士,広州仲裁委員会仲裁員。研究 分野は知的財産権法。日本松下電工・万宝電 器(広州)有限公司の長期法律顧問を務めた。

(2)

と権利付与件数はそれぞれ 26 万件超と 17 万 件超であり,いずれも全国一位である。これ らはそれぞれ全国の 14 %と 16 %を占めてお り,年平均増加率は 32 %と 73 %である。特 許出願件数と権利付与件数は 10 年連続で全 国一位である。2004 年の広東省商標登録出 願は 92

,

729 件で,前年度比 21 %増である。

登録を受けたのは 44

,

050 件であり,前年度比 14 %増となる。商標出願件数と登録件数の いずれも全国の 16 %を占める。2004 年末ま での,広東省の登録商標は 28 万件あまりに 達し,全国の8分の1を占める。商標の年度 出願件数,年度登録件数は 10 年連続で全国 一位である2

電子情報産業においても,広東省は全国で 圧倒的な優位を誇っている。その生産高は 11 年連続で全国トップである3

広東省の知的財産権の展開は中国ではリー ダー的な地位にある。これは経済発展と密接 な関係がある。中国改革開放の最前方にある 広東省の経済発展は,スタートが早く,持続 的な発展を経て,いまやかなり高い水準に達 している。広東省は経済的に最も発展してい る省の一つであり,知的財産権のニーズが高 い。さらに,広東省は対外貿易が盛んで,早 い時期から多くの外国企業と連携してきた。

知的財産権をもって,重点産業領域の核心的 な競争力および国際競争力を増強させること は,広東省の一大特色である。

経済のグローバル化のなか,中国で特許出 願および商標登録をする外国企業が増加しつ つある。日本を例にすれば,2003 年末まで に , 日 本 の 中 国 大 陸 で の 商 標 登 録 は 合 計 214

,

187 件である4。2004 年末までに,日本の 中国大陸での特許出願は合計 185

,

697 件(そ のうち,権利付与を受けたのは 80

,

568 件)で ある5

ô 政府による知的財産権の保護

中国は知的財産権の保護において,行政と 司法の「二軌道制」を推進しているが,行政

による保護が優勢な状況である。わが国は

TRIPS

規定に依拠して,訴訟前の「暫定措置」,

税関の水際保護などの臨時措置を採っている。

世界各国の成功例に鑑みると,「弱い保護」

(保護程度が比較的に低く,緩やか)から

「強い保護」(保護程度が比較的に高く,厳し い)への知的財産権保護の推移は,まさに低 い段階から高い段階への経済水準の変化の過 程と一致している。アメリカ,イギリス,日 本,韓国などの諸国の具体的な経験から,国 民1人当たり

GDP

が1万米ドルを超えた時 点から,知的財産権の保護が「弱い保護」か ら「強い保護」へとシフトするが,国民1人 当たり

GDP

が3万米ドルに到達すると,正 式に「強い保護」の状態に移行するのである。

2004 年 12 月 21 日,最高人民法院と最高人 民検察院は共同で「知的財産権侵害刑事案件 を取扱う際の具体的な法適用に関する若干の 問題についての解釈」(「関于弁理侵害知識産 権刑事案件具体応用法律若干問題的解釈」)

を公布した。これをもって,著作権,特許権,

商標権などの伝統的知的財産権の侵害行為に 新たな刑事保護規定を提示し,商標偽造,特 許模倣などの犯罪を追及する際の「敷居」を 低くした。すなわち,違法経営額が5万元,

違法所得が3万元に達していれば,3年以下 の有期懲役または拘留に処することができる のである。これと同時に,単独で罰金に処す ることもできる。当該司法解釈に従えば,直 接他人の知的財産権を侵害した場合に刑事処 罰を受けるだけではなく,他人の犯罪を幇助 した場合,ひいては共同犯罪にかかわった場 合にも相応する刑事責任を負うことになる。

知的財産権にかかわる刑事犯罪の取締りに 関して,広東省公安機関は 2004 年に知的財 産権侵害にかかわる犯罪,偽造や劣悪製品の 生産販売にかかわる犯罪案件 512 件を捜査し,

399 件を解決した。案件総額は 3

.

86 億元を超 える。取り戻した経済的損失は 1

,

885 万元に 達する。身柄拘束された容疑者は 1

,

514 人に のぼる6

(3)

知的財産権の行政保護に関して,広東省各 レベルの知的財産権局が 2004 年に捜査,処 理した各類型の特許にかかわる違法案件,指 導・解決した各類型の紛争は合計 1136 件で ある。そのうち,各類型の特許権侵害紛争案 件は 376 件である。広東省工商機関が立件,

捜査,処理した違法案件は 790 件である。そ のうち,渉外商標案件は 192 件で,罰金額は 534 万元近くにのぼる。広東省各レベルの版 権部門が捜査,処理した著作権侵害案件は 632 件であり,各類型の権利侵害に該当する 海賊版製品 24

,

463

,

198 件を没収した。広東省 文化機関は捜査に延べ 14

.

86 万人を出動させ,

違法録音・録画製品1億枚弱を発見し押収し た。公安機関はレザーディスクの違法生産ラ イン 15 本を検挙した。そのうち,文化部門 は公安部門の協力のもと,4本の生産ライン を検挙し,違法なレザーディスク合計 8200 万枚あまりを処分した。

税関による知的財産権保護に関しては,広 東の税関は 2004 年に知的財産権侵害案件 459 件を捜査,処理した。前年度比 23

.

97 %増で あり,3

,

787 万元相当となる。捜査,処理し た案件において,商標専用使用権の侵害にか かわる案件は 441 件,特許権にかかわる案件 は 17 件,オリンピックマークにかかわる案 件は3件である。

ほかには,広東省質量監督部門は 2004 年 に,第三者の工場名,住所,生産地,質量 マークを偽造または無断使用にかかわる案件 1

,

780 件を捜査,処理した7

2004 年には,広東省の知的財産権協力連 携体制が一段と進み,整備された。知的財産 権の保護ルートが開拓され,地域をまたがる 知的財産権侵害行為の迅速な処理や知的財産 権に対する地域保護の全体水準の向上に積極 的な役割を果たした。珠江デルタ地域の知的 財産権保護協力体制の設立に向けて,2004 年9月に,九つの省および区の工商局は広州 で「珠江デルタ地域工商行政管理連携協議」

に署名した。それの重要な内容の1つは,地

域内著名商標を共同で推進,育成および保護 すること,また,商標専用使用権に対する保 護の連携を強化させることである。同年 12 月 29 日 に , 広 東 省 知 的 財 産 権 弁 公 会 議 オ フィスは第1回「珠江デルタ地域知的財産権 の連携に関する共同会議」を開催した。珠江 地域の各省・区の知的財産権協調機関および 特許,商標,著作権部門の代表は会議に出席 し,「珠江デルタ地域知的財産権連携協議」

に署名した。これと同時に,広東と香港地域 の知的財産権保護の連携が一層緊密になった。

広東と香港間の知的財産権保護の連携に関す る専門責任グループ会議は2回にわたり開催 され,「真正版権真正商品」の承諾イベント が共同で催された。150 社の広東側の企業・

商店は自ら進んで「真正版権真正商品」承諾 イベントに参加した。広東と香港の税関は情 報の相互交換を強化させ,知的財産権保護に 関する大規模な辺境連合イベントを3回催し た。

政府によって設立された知的財産権局のほ か,民間では 1999 年7月 22 日に広東省版権 保護連合会が,2004 年3月に広東省知的財 産権保護協会が設立された。また,たとえば 順徳の家具業界など,各地に次々に成立され た業界レベルの知的財産権保護機関のように,

一部の市には業界保護機関が設立され,政府 の行政保護と企業の業界保護との間に有機的 な協調体制が形成された。

õ 知的財産権の教育および科学研究 知識経済社会は,多くの知識経済管理およ び知的財産権保護の専門的人材を必要とする。

改革開放以来,中国の教育は目覚しい発展を 遂げた。ところが,経済大省である広東省の 知的財産権教育はやや遅れている。広東はわ が国の特許大省,商標大省であり,特許,商 標の出願件数は数年連続で全国の首位を占め る。これと同時に,広東省の知的財産権案件 数も全国でトップクラスである。しかし,知 的財産権大省としての広東における知的財産

(4)

権の高度な人材の育成は,スタート時点から 出遅れている。人材の不足は広東の知的財産 権の発展,ひいては経済的発展の妨げとなっ ている。広東省知識産権局副局長唐善新氏は 次のように指摘する。「中国経済の急速な発 展に伴い,特許出願件数は増加し続けるであ ろう。今後相当期間,知的財産権人材の不足 は 改 善 さ れ な い 。 目 下 , 広 東 に お い て , 7

,

000 ないし 10

,

000 人ほどの知的財産権に関 して高い専門性を有する人材が不足している

8。」

知的財産権関連のハイレベルな人材を育成 するため,広東省知識産権局は 2004 年にそ れぞれ曁南大学,華南理工大学と共同で,両 大学に知識産権学院を設立した。また,中山 大学が 2005 年に知識産権学院を設立した際 に資金を提供した9。知識産権学院の設立に よって,広東省ではハイレベルな人材育成の 土台が形成された。1つの省が1年以内に 3ヶ所の大学に知識産権学院を設立したこと は,中国の知的財産権教育において類をみな いことである。知識産権学院は学生の募集範 囲,育成目標,育成方法などの面において,

取り上げる程の経験を有してはいないものの,

今後の知的財産権人材の育成に1つの方法を 提示した。知識経済の国際的な推進につれて,

知識産権学院の教育と科学研究も徐々に国際 化される。これは,今後の知的財産権教育の 国際連携によい条件を提供することになる。

広 東 省 は 1993 年 に 知 的 財 産 権 研 究 会 , 2004 年に広東省法学会知的財産権研究法学 会を設立した。また,広東金融学院は 2005 年4月 11 日に知識産権研究所を設立した。

これらの研究機関の誕生によって,広東省の 知的財産権保護に理論的な支援が実現した。

二.広東省の企業における知的財産権に 対する意識の欠如

広東省の知的財産権を巡る対策は一定の成 果をあげた。しかし,企業においては相変わ

らず問題点が散見されるが,特に問題なのが,

知的財産権に対する意識の希薄さである。

ó 知識創造革新意識の欠如

政府および関連部門による企業競争力強化 戦略の制定に根拠を与えるために,広東省企 業調査チームは 2004 年に 145 社の省内企業を 対象に,競争力の追跡調査を行った。調査結 果は次の通りである。2003 年の企業出費構 成において,各企業の研究開発費用が占める 割合はごく僅かで,平均 0

.

63 %である。過去 2年以内に新製品,新技術の開発,新特許の 取得について,なしと回答した企業は 75 社 であり,51

.

7 %を占める。57

.

6 %の企業は先 行技術を利用して新製品の開発が可能だが,

6割以上の企業は,先進的な研究開発設備の 提供,同業他社を上回る特許保有数,先端技 術に関する研究開発への多額な投資などを実 現することができない。55

.

9 %の企業は研究 および開発への投入増加に賛同する。しかし,

実際には,投入額が業界平均水準を超えた企 業はわずか 22

.

8 %しかない。

また,社員教育に関する割合も総じて低い。

企業の平均割合は 0

.

63 %であり,昨年比5%

の減少である。そのうち,27 社では社印教 育に対する投資を全く行なっておらず,85 社では0−1%である。8%という最も高い 割合に達した企業はわずか1社のみである。

社員教育にほとんど力を入れないという現状 は,従業員の作業ミスの減少を困難にし,従 業員の技術創造革新能力を生かすことができ ない10

特許件数のランキングを見ると,それが企 業の研究・開発力とほぼ正比例する。一部の 企業は技術の開発・研究に積極的である。た とえば,深 華為科学技術有限会社は 2004 年に 2

,

176 件の特許を出願した(そのうち,

発明は 2

,

309 件で,99 %以上を占める)。こ れは楽金電子(天津)電器有限会社の 2

,

327 件に次ぐものである11。科学研究・開発は資 金の問題だけではない。肝心なのは企業経営

(5)

者の知的財産権に対する意識である。広東省,

とりわけ珠江デルタ地域は中国における主要 な家電製品生産地である。だが,社内に科学 研究開発部門を有していない,または研究開 発を行なわない中小企業が圧倒的に多い。製 品のほとんどが市場の既存技術製品を模倣し て生産したものであり,製品の競争力は主と して価格面にあり,技術的な競争力は望めな い。

企業の研究・開発レベルが低いと,発展の 推進力は次第に低下する。2004 年の広東企 業の発明特許出願件数に増加が見られたもの の,発明特許の割合が 29

.

2 %強である外国企 業に大きく水をあけられている。家電,自動 車,情報産業などの重点業界も含めて,核心 的な特許技術を所有するのは外国企業である。

これによって,広東企業が大きな影響を受け,

成長が阻害されているのは争えない事実であ る。

ô 知的財産権保護に対する意識の不足 1.権利保護を重視するものの,権利創設

を軽視する

知的財産権において,商標権,特許権を保 護しようとすれば,企業はまず関連規定に従 い知的財産権行政管理部門に出願しなければ ならない。出願を経なければ商標権や特許権 は付与されない。今日,企業のほとんどは法 的ルートを通じて,すでに取得した登録商標 や特許の保護を求めることは認識している。

しかし,研究段階にある技術的アイディア,

企業秘密については,企業内部の守秘措置お よび相応する行政申請などにより,権利化を 図ることを知る企業が少ない。商標が先に登 録されたり,企業秘密の漏洩などの問題が生 じたりしてからようやく問題の重大さに気付 く場合が多い。近年,企業の商標が他者に先 に登録されるケースは後を経たない。15 % の中国著名商標は外国で先に登録されている。

そのうち,80 以上の商標はインドネシアで,

100 近くの商標は日本で,200 近くの商標は

オーストラリアで先に登録されている。五糧 液は韓国で,康佳は米国で,海信はドイツで,

科竜はシンガポールなどで次々と先に登録さ れている。中国において,国外で先に登録さ れる商標は例年 100 件を上回る12。実は,こ の問題は 80 年代から始まっており,80 年代 後半にはすでに国民の関心を広く集めた。し かし,今世紀においても,商標が先に登録さ れる事件は相変わらず後をたたない。ドメイ ン名が無形財産として先に登録されることも 頻発している。長年使用してきたドメイン名,

商標および自社開発の技術を直ちに登録せず,

「花が他所に落ちる」結果に陥るのは,企業 の権利保護意識の希薄に起因する。世界ブラ ンドランキングが 2004 年に発表した「500 の 最も価値のある中国ブランド」中,46 %は 米国で,50 %はオーストラリアで,54 %は カナダで,それぞれ未登録である。

EU

で未 登録の商標は 76 %に達する13

2.国内企業による知的財産権侵害への関 心が過剰

北京市高級人民法院知的財産権法廷副法廷 長陳錦川氏は,北京市各裁判所が受理した渉 外知的財産権事件のほとんどは外国側当事者 が勝訴すると示唆したことがある。無論,こ れらの当事者の合法的権利は,わが国の法律 にしたがい保護を受けるべきものであること から,勝訴し得たのである14。渉外知的財産 権紛争に関しては,各地の状況が大同小異で ある。知的財産権侵害が話題にのぼると,

人々の関心はもっぱら国内企業あるいは個人 による外国企業の知的財産権の侵害に向く。

実は,知的財産権侵害は中国大陸に限った問 題ではなく,米国,日本などの外国,中国の 台湾,香港,マカオ地域にもこのような問題 が存在する。中国企業だけが外国企業の知的 財産権を侵害するのではなく,多国籍企業が 中国大陸企業の知的財産権を侵害する事例も ある。広東太陽神グループが 2000 年3月に 北京市高級人民法院でコカ・コーラ社を相手 取り訴えた権利侵害事件は,1つの問題提起

(6)

となった。つまり,知的財産権侵害は決して 発展途上国の企業にのみ見られるものではな く,世界的に著名な企業にも同様な問題が存 在するのである。1999 年6月より,コカ・

コーラが中央および全国各地で放送した「ス プライト」の広告メロディー「日の出」は,

太陽神グループの広告ソングである「太陽が 昇る時」と類似のものである。太陽神社は,

コカ・コーラ社が勝手に当該ソングを採用し てスプライトの広告宣伝に用いることによっ て,太陽神の権利が侵害されたとした。中国 版権研究会版権鑑定委員会の発行した鑑定書 では,両作品間にはそれらを明確に区別でき る要素が存在せず,両作品がほぼ同一である と認めた。裁判所は最終的にコカ・コーラ社 の権利侵害が成立するとして,44

.

5 万元の賠 償を命じた。このように,知的財産権侵害は 決して発展途上国や地域の企業にしか見られ ない現象ではない。

渉外知的財産権紛争において,広東企業の 対応能力や経験が不足していると言えよう。

渉外知的財産権訴訟に直面すると,企業のほ とんどは為す術がなく,穏便な解決方法を模 索して,相手の言いなりになり,きわめて多 大な損害を被ることになる。

3.商標・特許権保護を重視し,著作権保 護は軽視

知的財産権の領域において,企業は商標権,

特許権のような工業所有権を重視するが,工 業化に直結しないような著作権,新しい分野 であるコンピュータ・ソフトウェア,特殊な 著作権,企業秘密およびインターネット上の 知的財産権などの新しい類型をさほど重視し ない。自らの権利を迅速に守ることすらでき ない場合がある。近年,音響映像製品の二次 使用問題をめぐる紛争の増加は,まさにこの 問題の現れと言えよう。

産業的に大量使用される撮影などの美術作 品は同時に著作権保護の問題を惹起せしめた。

たとえば,広東省スワトウ市粤東印刷工場有 限会社は 20 世紀 80 年代末から,広東省韶関

巻きタバコ工場に,粤東社が設計し印刷する

「逸品紅 ,「紅 王」シリーズの巻きたばこ 包装印刷物を供給してきた。1996 年に,原 告は被告たばこ工場に提案,同意の上で,た ばこ包装を新たに設計した。これには被告た ばこ工場の了承が得られている。ところが,

2003 年に,韶関巻きタバコ工場は原告の提 供した包装の品質に不満を抱き,原告との取 引関係を一方的に終了させて,スワトウ市竜 湖区黄金葉カラー印刷有限会社と取引をし,

同シリーズの巻きたばの包装を引き続き生産 し,使用することにした。原告は著作権侵害 を理由に,韶関巻きタバコ工場およびスワト ウ市竜湖区黄金葉カラー印刷有限会社を相手 取り提訴した。スワトウ市中級人民法院は審 理を経て,係訴タバコ標識と被告が登録した 白黒の商標デザインとの間には,全体的構造,

設計特徴および色彩の使用などにおいて,著 しい相違が存在しないとした。一審裁判所は,

「逸品紅 」,「紅 王」たばこ標識の設計に かかわる原告著作権の印刷,使用および販売 行為による侵害の差止めを両被告に命じた15

4.民事賠償を重視するものの,刑事取締 および行政保護は軽視

2004 年 12 月 21 日に,最高人民法院,最高 人民検察院は共同で「知的財産権侵害刑事事 件を取扱う際の具体的な法適用に関する若干 の問題についての解釈」を公布した。当該司 法解釈は登録商標の偽造,偽造登録商標を使 用した商品の販売,商標の違法製造,違法に 製造した商標の販売および著作権侵害の刑事 発動基準を大幅に下げた。違法経営額が5万 元以上,または,違法所得が3万元以上の場 合のいずれに対しても刑事責任を負わせるこ とができる。単純な民事弁償による救済手段 に比べると,刑事取締は一層強力である。さ らに,刑事取締と同時に,民事訴訟を提起す ることができる。刑事事件が確定された後の 証拠は直接民事賠償の認定に用いられる。し かし,実務においては,単に民事賠償の司法 救済方法を採用する企業が多く見られるが,

(7)

刑事告発と民事賠償を並行する方法を採用す る企業はさほど多くない。

õ 知的財産権を利用した競争意識の欠如 知的財産権は財産の一種であるのみならず,

隠れた競争力でもある。価値の高い知的財産 権を有する者は持続的に発展し得る競争力を 手に入れることになる。

昨今,百社以上の広東企業は国外で商標登 録を行った。そのうち,広東省食品輸出入グ ループは 70 余りの国家で国際商標を登録し,

登録商標国が最も多い広東企業となった。

「珠江ビール」,「珠江」,「虎頭電池」,「立白」

など,広東オリジナルの著名商標の多くは国 際市場の承認を得て,製品の国際市場進出に

「パイオニア」的な役割を果たした。立白グ ループは他者による悪意の登録を阻止するた めに,2000 年後以降,28 カ国で「立白」登 録商標を出願した。

EU

商標庁域内副委員長 アレクサンダー・シャウブ氏は次の2つの データを示した。中国大陸の昨年登録商標出 願件数が 60 万件に達したにもかかわらず,

EU

で出願し,登録が認められたのはわずか 600 件に過ぎない。氏の紹介によれば,

EU

で商標登録をすれば,

EU

の構成国 25 カ国で 法的保護を受けられる。これまでの

EU

登録 商標は 100 数万件に達する。そのうちの 30 % は

EU

域外の諸国からの出願である。規定に よれば,

EU

の登録商標には5年間の不使用 期間が認められる。多くの国,とりわけアメ リカと日本の企業はこのような緩衝性をもつ 優遇規定を充分に利用して,商標権における 地域囲い込みを展開してきた16

2004 年5月,広東省有名ブランド戦略共 同会議はメンバーに『2003 年広東省有名ブ ランド戦略総括および 2004 年重点』の文書 を配布し,各メンバーによる有名ブランド戦 略の貫徹・実施を期待している 17。知的財 産権を利用した競争は,企業にとっての賢明 な戦略的措置である。多国籍企業は先進国や 発展途上国で知的財産権の「地域囲い込み」

を展開し,場合によっては特許技術の標準技

術化を行ってきた。科学技術が急速に発展す る知識経済時代である現代において,先進的 な知的財産権技術を所有することは競争力を 保有することである。同時に,ブランド戦略 も知的財産権を利用して競争上の優勢を発揮 するにあたっての一措置である。

多国籍企業においては,「製品の発売に先 立って商標を登録する」手法がよく見られる。

とりわけ

EU

誕生後,

EU

で登録した商標が 同時に 25 の構成国での使用が可能なため,

日本,アメリカなどの企業はこのような優遇 措置を評価し,次々に商標を登録した。場合 によっては,今後の発展に向けて,しばらく 当該地域で販売する予定のない製品にまで商 標登録を出願する。一方,広東企業の多くは 国外での商標登録に「無関心」である。製品 を国外に販売する段階になって,商標がすで に現地の代理店に先に登録されたことによう やく気付くのである。このような場合,ブラ ンドを変更するか,かかる市場への進出をあ きらめるかしか選択肢がない。企業に国外で の商標登録という「先見の明」が欠けると,

往々にして,後になって後悔するのであろう。

三.広東省の知的財産権を巡る裁判

ó 発展段階,事件受理数および裁判機関 の設立

広東省の知的財産権裁判は概ね3つの時期 に分けることができる。第1の時期は初期段 階(1980 年代〜 1990 年代)である。この段 階において,知的財産権関連行政と民事紛争 事件が受理されるようになった。この時期で は,知的財産権事件が僅少である。1987 年 は 13 件のみで,1994 年は 146 件であった。第 2の時期は急速な発展段階(1995 年〜 2001 年)である。広州,深 ,仏山市に知的財産 権裁判法廷が設置され,知的財産権裁判の初 歩的なインフラが整った。第3の時期は全体 的なレベルアップの段階(2002 年以降)で ある。裁判能力が強化され,事件数が増加し,

(8)

裁判官数が充足され,裁判の質が高められた。

知的財産権事件数を分析すると,広東省各 裁判所の受理する知的財産権事件は増加傾向 にあり,いまや全国トップである。全国各裁 判所が 2004 年に受理した知的財産権事件は 9

,

323 件である。広東省は 2

,

644 件であり,全 国の 1

/

4 を占める。2004 年年末まで,広東省 は知的財産権事件 7

,

247 件を審理した。2004 年の広東省知的財産権事件数は引続き著しい 増加傾向にある。広東省裁判所が年内受理し た各類型の一審知的財産権事件は 2

,

644 件で ある。前年比 1

,

620 件増となり,増加率は 158 %に達する。案件受理数は全国の 1

/

4 強 を占め,全国の首位を占める18

知的財産権に関する民事紛争事件の専門性 に鑑みて,管轄レベルを引上げ,原則として は中級以上の裁判所がこれを管轄する。一部 の基層裁判所は最高人民法院の批准を経て一 部の知的財産権事件を受理することができる。

最高人民法院は 1996 年 10 月に知的財産権法 廷を設立した。北京,上海,天津,広東,福 建,江蘇,海南,四川,重慶,河南,遼寧な どの十数の省,直轄市の高級人民法院,また,

一部の都市の中級人民法院は知的財産権法廷 を設立した。さらには,ハイテク経済開発区 に位置する基層人民法院のなかにも知的財産 権法廷を設立して,知的財産権事件およびラ

イセンス契約事件の審理にあたる。特許紛争 の裁判を行うために,知的財産権法廷を設立 した 51 の中級人民法院のうち,5ヶ所(広 州,深 ,珠海,スワトウ,仏山)は広東省 にある。北京市海淀区,朝陽区,上海市浦東,

黄浦区基層裁判所が知的財産権事件を審理す る資格を有するようになった後,全国に設立 された 14 の知的財産権紛争事件を審理する ことができる基層裁判所のうち,8ヶ所は広 東省にある20

日本においては,知的財産訴訟事件が著し く増加し,「知的財産事件の審理が遅く,特 許技術に対する裁判官の理解が不足してい る」という世論のもと,知的財産訴訟の司法 改革は不可避となった。2004 年6月 11 日に 国会で可決された「知的財産高等裁判所設置 法」に基づき,2005 年4月1日に,東京高 等裁判所に所属する知的財産高等裁判所が時 運に応じて誕生した。当該裁判所は,知的財 産訴訟に精通する裁判官 18 名,調査官 10 名,

大学教授,研究者などの非専門職専門委員 100 名によって構成される。特許庁審決に対 する不服申立てに関する訴訟請求の第一審事 件,権利侵害損害賠償請求訴訟および権利侵 害差止請求の第二審事件の審理にあたる。重 大な影響を有する訴訟事件は,5名の裁判官 から構成する大合議部が審理に当たる。元東

1994 − 2004年広東各裁判所知的財産権−審案件の受理情況19

商 標 特 許 著作権 ライセンス契約 その他 合 計

1994 20 77 8 17 24 146

1995 15 125 31 18 0 189

1996 34 92 27 39 41 233

1997 18 81 22 15 28 164

1998 53 123 74 16 121 387

1999 57 119 165 25 166 532

2000 72 131 118 27 192 540

2001 121 161 144 16 206 648

2002 111 421 172 29 7 740

2003 117 395 460 35 17 1,024

2004 2,644

(9)

京高等裁判所裁判官篠原勝美判事は知的財産 高等裁判所の初代裁判所長兼大合議部部長に 任命されている。

中国大陸の知的財産権事件数は年々増加の 傾向を示している。事件の専門性もかなり高 い。中国の高級人民法院と一部の中級法院に は知的財産権裁判専門法廷が設立されている ため,知的財産権事件の裁判がほぼ解決され ている。各国はいずれも独自の司法体系を有 する。中国のかつての専門裁判所(軍事法院 を除く)が国家の情勢に適さなかったことは 事実が証明した。これらは次第に併合され,

または廃止された。そのため,中国裁判機関 は,根本的な体制変化が行われるまで,とり わけ行政区画に基づいて確定されている「四 級二審終審制」が変更されるまで,知的財産 権専門裁判所の設立はあり得ないのであろう。

今日,中国知的財産権裁判の問題は主として 以下の点が挙げられる。裁判の質を高めるた めに,裁判に携わる者の資質を充実させるこ と,専門的な事件の調査研究を増加すること および既存の裁判規則を探求,改革すること である。

ô 広東省知的財産権事件の特徴

まず,事件数が増加傾向にあり,地域間の ギャップが大きいことがあげられる。知的財 産権は経済,科学技術の発展に緊密に関連す る。経済発達地域の知的財産権出願件数は経 済後進地域のそれより多い。同様に,経済発 達地域には,知的成果の帰属をめぐる紛争,

不正競争紛争,知的財産権権利侵害事件が多 い。広東省において,知的財産権事件の発生 は広州,仏山,深 ,東莞,珠海,中山など の経済,文化発達地域や都市に集中する。

長年の統計によれば,広東省各裁判所の知 的財産権事件受理数は穏やかな増加傾向にあ る。それに,受理数の増加ペースがかなり速 い。事件の類型について言えば,80 年代に 多く見られた直接的な模倣を主とする権利侵 害から類似的な権利侵害の方向にシフトしつ

つある。しかし,著作権侵害,特許権侵害,

商標権侵害事件も相変わらず多数存在する。

次に,新しい類型の事件が絶えずに現われ ることがあげられる。社会経済,科学技術の 発展につれて,伝統的な特許模倣,商標偽造,

作品盗作などの権利侵害事件のほかにも,新 しい類型の紛争事件が多く出現した。例えば,

インターネット著作権侵害,音響映像製品へ の権利侵害,不正競争紛争,著作権の二次使 用紛争,ドメイン名紛争などの事件が生じた。

2004 年 11 月 17 日,広州中級人民法院知的財 産権法廷は香港華納レコード会社対広州越秀 区加州紅

KTV

の著作権侵害事件を審理した。

これとほぼ同時に,広州朝歌,銭 ,

TOP- KTV

の3つの

KTV

も似たような理由で被告 とされた。エンターテインメント業界では,

この一連の訴訟を「

KTV

権利維持の嵐」と 呼んでいる。広州市中級人民法院が 2004 年 に受理した 1

,

000 件弱の事件において,音響 映像製品事件を代表とする著作権紛争は全体 の半数以上を占める。前年同期比 200 %増で ある。華納事件訴訟は序の口と言えよう。こ れは,長期にわたり二次的音響映像製品を無 料で使用してきた国内企業に対する外国音響 映像製品企業の知的財産権をめぐる全面的な 清算を意味する。これによって,音響映像製 品の二次使用に関する団体管理制度の見直し が促された21

さらに,事件にかかわる法律関係が複雑で あることがあげられる。社会経済と科学技術 の急速な発展につれて,知的財産権事件に新 しい類型が現われるたびに,事件に関わる法 律関係の複雑さが増す。契約違反と権利侵害,

権利侵害と権利帰属紛争はしばしば絡みあう。

原告と被告が合法に保有している知的財産権 の間にも時々衝突が発生する。異なる法律関 係の共存もあれば,複数の法的責任の競合も ある。団体訴訟も絶えず増加している。ここ で特に言及しなければならないのは,知的財 産権には異なる領域が多く存在するため,監 視・管理に当たる行政機関も必ず同一ではな

(10)

い。例えば,商標と商号は工商行政管理部門,

特許は知的財産権管理局,音響映像製品は文 化管理部門,労働契約における競業禁止は労 働監察部門に所属する。また,たとえ同一の 管理部門に所属する場合においても,その規 制する法律,法規の違いから先願権利と後願 権利の衝突が生じやすい。例えば,商号権と 商標権の衝突,先願意匠権と後願意匠権の衝 突,著作権とネットワーク署名権や商標権の 衝突,商標権とドメイン名権の衝突などが挙 げられる。

知的財産権紛争事件は場合によって,不正 競争行為と重なることがある。他人の商標権,

特許権を直接侵害して商業上の競争優位を獲 得することは長い間,知的財産権侵害紛争事 件における典型例である。ところが,新しい 情勢のもと,不当に他人の営業秘密を利用す ること,権利抵触に隠れて他人の商号または 商標を不当に使用すること,知的財産権など を濫用することなどのような不正競争は絶え ず新たな姿で現われるのであろう。

最後に,国内外の権利侵害者が互いに結託 して,渉外的な海賊版,模倣行為を行うこと があげられる。知的財産権侵害は一国あるい は一地域に限った問題ではない。その主体を 分析すると,国内外が結託する現象や国境を またがる傾向が見受けられる。国外の違法行 為者は国内の者を騙したり,あるいは国内の 者と共謀したりして,海賊版の原版を国内に 持ち込んだ後に,いわゆる「権利者」の身分 で国内メーカーに生産を許諾したり,委託し たりしてから,侵害製品を現地で,または国 外に運送して販売しようとする。広東珠江デ ルタは委託加工の多い地域である。一部の違 法者は闇生産ラインを開設するか,直接に権 利侵害複製品を密輸するかによって,はばか りなく権利を侵害して,中国知的財産権市場 の秩序を乱してきた。

上述の特徴は知的財産権の司法保護に複雑 性と困難性をもたらした。

õ 司法裁判の困惑

1.訴訟時効と権利侵害行為の認定 知的財産権侵害紛争事件には通常の訴訟時 効,つまり2年の消滅時効が適用される(権 利者が侵害を受けたことを知った,または知 り得た時点から起算する)。権利侵害行為が 継続する場合,権利者が権利侵害行為存続期 間に訴訟時効を超過しない時点で訴訟を提起 していれば,訴訟時効を超過することなく,

権利が保護されるべきである。しかし,継続 された権利侵害時間が最後的に停止したが,

停止から起訴までに2年を超過した場合,権 利者は訴訟時効の超過で敗訴することになり 得る。権利侵害行為が2年以上継続した場合,

裁判所は権利者の損害賠償額を起訴の2年前 に遡って計算すが,2年を超過した後の権利 侵害には賠償を命じない。このように,訴訟 時効と賠償額の確定を区別して処理すること は,権利者の権利保護に有利であり,権利者 が直ちに権利を行使して権利侵害行為を制止 するように促すことになり,裁判所の証拠収 集および事案の解明にも資するのである。

知的財産権侵害事件における権利侵害行為 の認定は主として以下の理論に基づく。¸被 告が直接に権利侵害額数について抗弁する場 合は,それを権利侵害事実の自白とみなす。

権利者が権利侵害行為の成立について挙証す る必要はなくなる。¹権利者が権利侵害の差 止を申し立てる場合,行為者が法に禁止され ている権利侵害行為を行ったのであれば,権 利者は行為者が権利侵害行為実施の主観的な 故意を証明する必要がなく,裁判官も行為者 が過失を有するかどうかを考慮することなく,

直ちに権利侵害差止め仮執行の裁定また権利 侵害差止めの本案判決を下すことができる。

º権利侵害者が自ら主観的な故意がないこと について挙証して証明し,かつ民事的損害賠 償責任を負うべきではないことについての直 接な法的証拠を示した場合を除くほか,権利 侵害者は損害賠償責任を負わなければならな い。»知的財産権法に禁止される行為を行っ

(11)

たものの,行為者が主観的に善意であり,ま た知るはずがないことについての証拠が確た るものである場合,実際の情況を考慮して,

裁判官は不当利得の返還,かつフェア原則に 依拠して適切な損害賠償額を命ずるができる。

2.侵害賠償額の確定

立法および最高人民法院の司法解釈によれ ば,知的財産権損害賠償額の計算方法は主と して4種類がある。第1が,権利者が権利侵 害によって実際に受けた損害を損害賠償額と する方法である。第2は,権利侵害者が権利 侵害から取得した利益の全部を損害賠償額と する方法である。第3は,通常の使用許諾料 の合理的な倍数に下回らない額を損害賠償額 とする方法である。第4は,立法,司法解釈 などに基づいて損害賠償額の上限を確定した うえ,裁判所は当該上限内で情状を斟酌して 確定する方法である。そのうち,第4の損害 賠償額確定方法は法定賠償であるが,これが 定額賠償と呼ばれることがある。他の3種類 の賠償額計算方法は,権利者が情況に応じて 選択して確定することができる。

無論,権利侵害者が権利侵害によって得た 利益を賠償額とする場合,その証明責任は依 然として権利者にある。言い換えれば,権利 者は権利侵害行為者が権利侵害行為を行い,

かつ,権利侵害行為から実際に利益を得たこ とについて証拠を示して証明しなければなら ない。権利者がその賠償請求額の証明に成功 せず,かつ権利侵害者が権利侵害から得た利 益についての説明を拒否した場合に,権利者 は訴訟進行情況の変化に応じて,選択・確定 した方法を変更することができるかどうかは 問題になる。司法実務は往々にして,権利者 による再選択を認めずに,権利者の証明不能 を理由に,直ちに法定賠償を適用するのであ る。

知的財産権侵害事件の裁判実務において,

広東の裁判官はさらにいくつかの別の損害賠 償計算方法を思案して,蓄積した。商標権侵 害を計算するにあたり,権利侵害製品数に商

標権者が真正商品を生産した場合の合理的利 益を乗じて得た数字を損害賠償額の主な考慮 要素として,法定賠償額とあわせて考慮して 確定する方法がある。諸外国の「法定賠償」

の経験を参考に,権利者が損害を受けたもの の,その受けた損失と権利侵害者の得た利益 を明確にしにくい困難の場合は,定額変動差 を基準に賠償額を確定する方法を採用する。

定額変動差は 5

,

000 元から 30 万元までとする。

具体的な数は人民法院が侵害された知的財産 権の類型,評価価値,権利侵害の持続時間,

権利者が権利侵害によって受けたグッドウィ ルの損害などの要素に基づいて,定額変動差 内で確定する。一定の条件のもと,権利侵害 行為の差止め,解消に用いた費用および合理 的な弁護士費用は賠償範囲に算入される。

3.証拠の主張と採用

過失責任の責任帰属原則のもと,民事訴訟 における「主張者が証明する」旨の規定に依 拠すれば,私権に該当する知的財産権侵害の 訴えにおいては,原告は被告の権利侵害行為 を証明するための証拠を提出することになる。

これまでは賠償額に抗弁する権利侵害者が 多かったが,昨今では,権利侵害者が自らの 権利侵害行為を否認し,訴訟保全過程におい ては,生産道具(鋳型を含む),完成品,販 売ルートなどの生産または販売にかかわる直 接な証拠が収集されず,係訴侵害製品の包装 あるいは説明書にしか侵害者の工場名,住所,

電話などの情報がない事例が見られるように なった。市場で購入した権利侵害製品だけで は,被告と権利侵害行為との間の関係が証明 されない。権利者は往々にして,証明不能で 敗訴するのである。

4.審理過程での調停

訴訟は紛争解決方法の1つに過ぎない。私 権が侵害されたとき,権利者は協議,調停,

行政告発で調査・処分を求めること,司法救 済などの解決方法を選択することができる。

調停は問題解決の方法の1つである。裁判所 での訴訟段階において,調停で事件を解決で

(12)

きるかどうかはある程度,裁判官の裁判レベ ルを示す。そのため,広東省各級裁判所は知 的財産権事件の調停を重視している。仏山市 中級人民法院の知的財産権事件裁判実務にお いては,2005 年の調停案件が 278 件(当事者 間の和解による案件の取り下げを含む)であ るが,結審事件の 52

.

26 %を占めており,世 論の好評を博した22。知的財産権事件が絶え ず増加しているのにもかかわらず,裁判担当 者の大幅な増員が望めない現状のもと,広州 市中級人民法院は「あいまい調停」を試行し た。すなわち,事実が明らかにされていない 状況で調停を行うことによって,一部の紛争 が正式な審査や事実調べに先立って調停で解 決されることである。これによって「私権処 分」の役割が充分に発揮され,紛争の深刻化 が軽減され,紛争ができるだけ早急に解決さ れるのである。しかし,このような方法が事 実調べ後に調停を行うという民事訴訟法上の 訴訟手続要請に合致するか否かについては検 討の余地がある。裁判所での裁判調停は,事 実調べの後に行わなければならない。事実が 明らかにならなければ,裁判に携わる者は是 非を見分けることができず,法廷での調停も 推進しにくいのである。一方,当事者間が法 廷外で和解することは裁判範疇外にあるため,

「私権処分」の理論を用いて当該問題を解釈 することができる。

5.専門家証人

知的財産権事件,とりわけ特許紛争事件は 専門分野の技術問題にかかわる。しかし,審 理にあたる裁判官は必ずしも当該分野の専門 的知識を有するとは限らない。裁判所委託と いう鑑定手段を利用すると,コストの問題が 生じるだけではなく,審理期間が長期化する おそれがある。そのため,民事訴訟法上の規 定および最高人民法院の「民事訴訟証拠に関 する若干の規定」第 61 条で規定する「当事 者は,1ないし2名の専門知識を有する者が 法廷に出頭して事件の専門性問題について説 明することを人民法院に申し立てることがで

きる」に依拠して,専門家証人制度を利用す ることができる。これは効果的な方法である と言えよう。裁判所の承諾のもと,各当事者 は関連技術専門家を法廷に招き,関連技術を 対比させるなど,技術的,法的問題について 陳述させることができる。当該陳述は法的に,

当事者自らまたはその代理人の陳述とみなさ れる。裁判官は中立的立場にあり,裁判にお いて,より理にかなった当事者の陳述を判断 して採用する。

6.訴訟前暫定措置および証拠保全 侵害の生じる差し迫ったおそれがある権利 侵 害 (

Imminent Infringement

) の 理 論 は , 伝統的な民事権利侵害行為理論を超えるもの と考えられている。これによって,いくつか の法的欠陥を補うことができる。権利侵害行 為の開始に先立って,権利者はある行為がす ぐに自らの知的財産権に対する侵害を構成さ せるおそれがある,または当該行為の継続が 必然的に権利侵害を成立させることについて,

証拠をもって証明した場合,法に基づいて提 訴することができる。

TRIPS

協定第 50 条第 1項規定によれば,侵害の生じる差し迫った おそれがある権利侵害行為に対して,権利者 は申し立てる権力を有する。「司法当局は,

次のことを目的として迅速かつ効果的な暫定 措置をとることを命じる権限を有する。¸知 的所有権の侵害の発生を防止すること。¹物 品が管轄内の流通経路へ流入することを防止 すること,あるいは輸入物品が管轄内の流通 経路へ流入することを通関後直ちに防止する こと。º侵害に関連する証拠を保全すること,

すなわち証拠保全である。」

差し迫ったおそれがある権利侵害を要件と して,権利者は訴訟前に,裁判所に暫定措置 を求めることができる。中国民事訴訟法は訴 訟保全および訴訟前暫定措置に関する規定が ある。しかし,当該規定は証拠保全および財 産保全の採用に関するものに過ぎず,行為に ついての保全規定が設けられていない。効力 が発生された判決によって権利侵害行為が認

(13)

められ,権利侵害者に権利侵害の差止を命ず ることがすなわち西側諸国の「永久措置」に 類似するようなものであれば,中国はこれま でに訴訟段階における「暫定措置」を有しな かった。訴訟前措置は西側諸国の「暫定措置」

に類似する。改正後の中国特許法第 61 条,

商標法第 57,58 条,著作権法第 48 条は上記 内容についての規定を設けた。

四.広東省への投資および外資企業の知 的財産権保護戦略

ó 広東省への外国資本投資

広東は中国の改革開放の最前線であり,経 済発展が最も活発な地域の1つである。広東 省の

GDP

は中国大陸の 1

/

9,地方財政歳入は 1

/

7,輸出入貿易総額は 1

/

3,累計外資投入は 1

/

4 を占める。広東省は 200 余りの国家や地 域と安定した,長期的な経済交流関係を築き 上げた。広東省に投資した国家や地域は 100 余りに達する。世界 500 大企業のうち,広東 で企業を設立したのは 492 社である。広東省 において,許可を受けた外国投資企業は 10 万社を超える。広東省に投資する日本企業は 他の国より多い。広東省の総合経済実力は全 国の前列に位置し,外国資本投資のホット・

エリアになった23。広東省が 2003 年に実際に 利用した外国資本の直接投資額は 1

,

557

,

779 万ドルであり,2002 年比 18

.

82 %増である24。 税関の統計データによれば,2005 年の広東 省輸出入貿易総額は4千2百数億ドルに達し,

記録を更新し,前年同期比 19

.

8 %増とした。

全国輸出入総額の 30 %を占めており,全国 首位の地位を不動のものにした25

経済のグローバル化は異なる国家の企業へ の投資を後押しした。報道によると,2005 年4月 12 日に日本貿易振興機構が公表した

「在日外資企業の雇用と日本のビジネス環境,

魅力についての調査」の結果は次の通りであ る 。 つ ま り , 目 下 , 在 日 外 資 企 業 は 合 計 4

,

276 社である。雇用人数は 102

.

3441 万人で

あり,日本の全体雇用人数の 2

.

4 %を占める。

そのうち,在日中国大陸の企業は 61 社であ り,9位に位置する26。広東省省長黄華華が 指摘したように,日本は広東省の主な貿易相 手ならびに重要な投資国であり,両地域経済 の補完性が高く,提携の見通しが明るい。広 東は経済,貿易,科学技術などの領域におけ る日本との交流と協力の更なる発展を強く期 する27。日本の日中友好協会常務顧問村井隆 氏は次のように示唆した。つまり,日本企業 の中国投資ブームは3回あり,第1回は 80 年代半ばに深 を中心とするものである。第 2回は 90 年代初めに大連を中心にするもの である。薄煕来氏は当時の大連市市長であっ た。第3回の日本企業の中国投資ブームは 90 年代以降,上海を中心にするものである。

第4回のブームは再び広東になるのであろう。

というのは,「日本企業は広東を再認識して いる。広東に投資すると多くのメリットがあ ると考える。部品の多くは周辺で調達できる。

在中日本企業は深 などで生産されている部 品の品質に満足している。私が知る限り,大 連,上海にある日本企業の 30 %は広東から 部品を仕入れている。多くの企業は当初の選 択が賢明ではないと後悔している。珠海キヤ ノンの製品生産には部品の欠如が生じない。

いかなる製品を生産しようとしても,それの 部品を周辺で調達することができる。ところ が,大連キヤノンと蘇州キヤノンは部品供給 の制限を受けている。部品の大半を広東から 調達しなければならないことから,生産した いものをすべて生産できるわけではない」28。 日本繊維輸出機関(

JTEO

)は 2005 年 11 月 15 日に,広東国際大酒店で広く広東アパレ ル業界の代表を招待してガイダンスを開催し た。日本生地の研究開発機関,生産企業がい かに広東のアパレル企業,デザイナー,業界 組織と協力するかについて検討を行った29。 日本ホンダ自動車の広州工場が成功を収めた 後,トヨタ自動車も 2006 年に広州で生産を はじめる予定である。トヨタ自動車の広東投

(14)

資の影響を受けて,投資の視察に広東を訪ね る日本企業は後を絶たない。2006 年1月 25 日に,日本長崎の企業は広東省陽東県政府と 正式に調印し,主として自動車部品の生産,

電子製品の開発,農業副産物の加工および人 材資源開発などのプロジェクトの企業からな る日本長崎工業園を当該県の 20 万平方メー トルの土地内で建設することに合意した。日 本の中小企業の産業シフトの受け入れにエリ アを提供しようとした。二年以内には 10 社 前後の日本企業の移住が予測される。工業園 の年間生産高は 4

.

5 億元人民元に達すると予 想している30

日本の大企業は広東で素晴しい発展を遂げ た。しかし,同様の戦略を用いれば日本の中 小企業も必ず広東で発展を遂げられるとは限 らない。広東はかつての「低コスト生産基地」

ではなくなった。外国資本投資は広州産業の バージョンアップに着目し,広東の経済セン ターの地位を利用して双方の技術協力を強化 させて,ウィン・ウィンの関係を実現させる べきである。現在,広東が実現しなければな らないのは,中小企業向けのサービス提供機 関を設けることである。たとえば,珠海には 日本中小企業工業園があり,日本の中小企業 のために,工場を建設し,通訳者を提供して きた。これにより,日本中小企業の広東での 発展にレールが敷かれた。1

,

000 社以上の日 本中小企業が花都自動車工場にさまざまな部 品を提供している。中国広東において,中小 企業の集団発展の見通しが明るいことは既に 証明済みの事実である31

ô 外資企業の知的財産権保護

1.中国の知的財産権制度を正しく認識し,

尊重する

いかなる国の経済発展ならびに知的財産権 保護制度の発展にも歴史的過程がある。「実 際,輝かしい経済発展を有する伝説的な国家 や地域,たとえば 19 世紀のアメリカから 20 世紀の日本及びその東アジアの隣国である中

国の台湾と韓国,これらの諸国の経済はいず れも低いレベルの知的財産権保護から出発さ れたものである」。「国内の技術と本土の産業 が十分に発展されてからはじめて,有力な知 的財産権保護が自身にとって役に立つものに なる」32

われわれが認めなければならないのは,異 なる社会制度のもと,中日両国法制度の役割 と目的が根本的に相違するかもしれないこと である。これは政治的色彩の強い公法領域に だけ見られることではなく,所有権,契約,

財産の承継,知的財産権などの私法領域にお いても,法が達成しようとする目的や役割に 極めて大きな違いがある。中国は改革開放以 来,法制度の中の知的財産権制度が「ない」

から「ある」へ,更に国際条約の要請に合致 するような完全なものになった。中国は二十 数年というごく短期的な期間内で,先進国が 百年余りをかけて歩んできた道程を完走した。

これは大きな進歩であり,容易なことではな い。

広東省の企業は発展段階において,かつて の日本企業と同じく,模倣から自主的な創造 革新への過程を経過した。既存の問題をひた すら非難してもなんら役に立たない。権利侵 害,模倣,導入を正しく区別して,吸収,学 習および導入に正しく対応して,相互利益の もとで共に発展をはかってからはじめて共存 共栄が可能になる。まさにスタンフォード大 学法学院教授,知的財産権委員会委員長ジョ ン・バートン教授が指摘したように,「発展 途上国から模倣戦略を剥奪すると,それら諸 国の経済的飛躍のチャンスは甚だしく減らさ れるのである」33

日本の知的財産権制度をもって中国の実際 状況をはかることは非現実的である。同時に,

中国の現状をもって新しい発展情勢の受け入 れを拒絶することも不適切である。企業が海 外に投資する際,投資地の制度(知的財産権 制度を含む)に着目し,それを遵守してから はじめて現地の環境に溶け込むことが可能で,

(15)

一層大きな発展を遂げることができる。

2.技術的優位性を充分に発揮する これまで中国に投資した日本企業は,その 管理,技術の優勢をもって,中国大陸の安価 な労働力・原材料といったコストの面を利用 して発展を遂げてきた。

中国において,知力の成果に対する法的保 護,とりわけ知的財産権範囲内の成果に与え る法的保護には,制度が整備されている。実 際の状況分析によれば,中国に投資した日本 企業の知的財産権は充分な法的保護を受けて いる。広東省について言えば,広東省企業や 個人による日本企業(合資,独資企業を含む)

の侵害件数はさほど多くない。日本資本企業 の知的財産権は広東省で手厚く保護されてい る。ゆえに,日本企業はその技術的優位性を 発揮して,技術研究および製品開発を促進す ることができる。知的財産権保護は自主的な 創造成果が絶えず大量に出現するように促す ことができる。これによって,創造の成果が 有効に利用され,分散されているアイディア が有益な情報になり,飛躍的な創造革新に知 識の蓄積を行うことができる。したがって,

知的財産権の保護は同時に創造革新の保護を 意味する34。他者の知的財産権に対する保護 は,自らの今後の権利保護を意味する。

3.知的財産権戦略を正しく利用し,知的 財産権管理を強化する

メーカーにおいて,その設計図,取引先名 簿が営業秘密に該当するか否か,宣伝ビラを 著作物とするか否か,商標を登録するか否か,

特許出願の時期またはノウハウ(

Know-how

) の有無,営業秘密,企業がが従業員に秘密保 護の制約を課すには,労働法上の守秘条項で 行うのか,単独の秘密保護契約を締結して行 うのか,また,これらとは別に従業員と競業 禁止契約を締結する必要があるかどうか,企 業の知的財産権問題については総合的な保護 戦略をとるか,それとも単独な保護戦略をと るかは全体戦略に関する企業の政策にかかわ り,異なる国家にある企業にとって,現地の

環境が全く同一であることはあり得ないから である。

知的財産権管理は現代のハイテク企業にお ける重要な仕事の1つである。それは企業の 競争優位の保持および持続可能な発展にかか わる。広東では,長年の改革開放を経て経済 が比較的に発達する地域にあるいくつかの大 型企業は次々に知的財産権部門を設立して企 業の知的財産権の管理に当たっている。この ような情勢のもと,外国投資企業も完全な知 的財産権管理システムを設けるべきである。

企業の知的財産権管理は,現地企業の知的財 産権管理経験を参考することもできるが,現 地の投資環境に応じて独立した知的財産権管 理部門を設立して,著作権,商標権,特許権,

商業秘密,競業禁止,科学研究開発などの問 題を総合的に管理することもできる。

日本国内にある企業の採用する知的財産権 戦略は,中国大陸投資企業の知的財産権戦略 と異なるかもしれない。広東に投資した企業 と上海に投資した企業もまた環境の不一致に より,企業の知的財産権戦略を調整する必要 があるかもしれない。本土にある企業の知的 財産権戦略を一律に採用すると,投資先での 失敗につながりかねない。

4.現地の知的財産権保護資源を効果的に 利用する

各国の知的財産権制度には特殊性がある。

企業の投資は主として産品の開発,生産およ び販売に重点を置く。たとえ企業に法務部あ るいは知的財産権部を設立したとしても,

もっぱら企業内部の事を重視するのであろう。

現地の知的財産権関連教育機関(大学の知的 財産権学院),研究機関(知的財産権研究会), 政府の所轄官庁(知的財産権局,工商行政管 理局,新聞出版局,税関など),業界と専門 協会(知的財産権保護協会),弁護士(法律 顧問,知的財産権を専門とする弁護士)のい ずれも利用可能な社会資源である。

中国大陸で知的財産権問題に直面する外国 投資企業が現地資源を無視して,わざわざ本

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土から専門人材を調達して問題解決にあたる ことはよく目にする。実は,サービスの普及 化は中国大陸,とりわけ広東で実現されてお り,外国投資企業は現地で労働者を招聘する ことができると同様に,現地の知的財産権保 護資源を有効に利用して関連知識権問題を解 決することもできる。現地の知的財産権資源 を利用して知的財産権問題を解決することは,

経済的な節約につながるだけではなく,その 上,時間的な面においても,よいタイミング を捉えることができる。一層重要なことは,

現地の専門家は現地の実際状況に応じて問題 解決を図るので,より良い効果が得られる。

5.現地の訴訟手続を熟知し,法に基づい て権利を守る

国が違うと訴訟手続は異なる。実体的正義 を追求する際には,まず手続の正当性(手続 的正義)を重視すべきである。たとえ同一国 家においても,異なる地域における司法改革 推進過程,経済発展レベル,法執行レベルの 相違によって,若干の違いが存在するのであ ろう。

広東の経済発展は目覚しい。科学技術を多 数所有する企業はかつての単純模倣からプロ ジェクトの実施,社内開発の段階に移行した。

広東に見られる知的財産権侵害は,これまで の直接偽造型から今日の知的財産権衝突紛争 に変わった。これらの新しい動向は,知的財 産権行政管理機関,知的財産権審理裁判機関 および知的財産権教育,研究部門の注目を集 めた。

新しい情況に対応して,司法改革の推進の もと,外国投資企業は知的財産権訴訟を熟知 する現地の専門的な人材を確保し,法に基づ いて権利侵害の暫定措置を充分に活用し,訴 訟前禁止措置や税関保護措置を申し立てるこ とによって,自らの権利を保護するべきであ る。訴訟においては,挙証証明配分原則に基 づいて証拠交換を行い,自らの訴訟請求に根 拠を提供する。調停においては,実際の状況 に応じて,相応する対抗方法を決定する。

知識経済時代において,経済活動は単に経 済帳簿上の計算に限ったものではなく,経済 帳簿の背後に隠された知識こそ企業の生死運 命を握るものである。知的財産権訴訟は企業 の今後の発展に影響を及ぼすことがある。し たがって,現地の知的財産権訴訟手続を熟知 しなければ,自らの知的財産権を効果的に守 ることができない。

知的財産権制度のグローバル化は,世界レベ ル知的財産権の基本原則ならびに主要な規則 の普遍的な適応性を反映する。とはいえ,知 的財産権のグローバル化は,保護範囲,方法,

レベルなどの面における絶対的な一致を意味 するものではない。「ミニマム保護」の原則 に基づけば,締約国の立法が提供する知的財 産権の保護が国際条約上の基準を下回らなけ れば,グローバル化の要請に合致するのであ る。中国の知的財産権制度は逐次的な完全化 を実現させ,関連国際条約における基本的な 要請に合致するものとなったと同時に,大き な成果を収めた。

経済,政治,科学技術に影響され,知的財 産権保護の側面においては,各国にギャップ が見られる。たとえ同一国家においても,経 済発展程度が一様ではない地域間には知的財 産権発展不均衡の問題が存在する。広東は知 的財産権大省として,外国投資企業の知的財 産権に充分な保護を与えてきた。広東省の知 的財産権保護は必ずや今後の広東社会と経済 の調和発展に一層大きく貢献するのであろう。

1 1980年8月 26日,第5回全国人民大会常 務委員会第 15回会議は,広東省の深 ,珠 海,スワトウおよび福建省のアモイに経済特 区を設置するように決定した。

2 童文臻「知的財産権保護に関する万里行日 記(9月 20日):広東省はなぜ特許・商標出 願および権利付与件数における 10年連続中 国トップの座を維持し得たのか」,賽迪ネッ ト資料情報センター:http://news.ccidnet.

com/art/1032/20050922/338839_1.html

参照

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