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・基調講演:「地域創生に不可欠な人づくり」

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・基調講演:「地域創生に不可欠な人づくり」

日本政策投資銀行地域企画部特任顧問 藻谷浩介 氏

人づくりには、優秀な人材はいるけれど も、それを活かせていないという問題があ る。それに加えて、都会が良くて田舎はダ メだという社会通念、高校を卒業したら東 京へ行かなければ幸せになれないという 社会通念が人々を支配していることが問 題である。社会通念とは、個々の言語空間 内の人々の認識を支配するもの、言語空間 内に蓄積されている共通言語のことで、そ の最たるものが、日本人を支配している

「田舎はだめ、都会はよい」という認識だ。

個々人が社会通念に支配されてしまうのは、教育や企業における業績評価の姿勢に原因があ る。とにかく受験で、ペーパーテストで優劣をつけるという、成績至上主義が、教えられたこと、

皆が従っていることを疑わない、自分で検証してみない、という姿勢を作り出している。

例えば、日本の輸出はこの20年で年々減っていると思い込んでいる人は多い。国際競争力も 落ちていて、加えてリーマンショックや東日本大震災で、衰退しているというイメージが強いか らだ。しかし、実際に数字を見てみると、アメリカとの貿易では大幅な黒字を出し続けており、

対中国でも日本は貿易黒字である。国会議員から経済産業省の役人まで、実際の数字を自分で確 認せずに、日本の国際競争力が落ちたという議論を社会通念に基づいて行なっている。その原因 は、日本の学校教育で、社会通念を疑えという教育を一切していないことにある。皆が言ってい ることは間違っているかもしれない、という教育は日本の教育カリキュラムにはないのである。

同じように、田舎はだめで、都会は良いというのも、自分で考えずに、社会脳の支配を受け入 れているだけである。学校でも企業でも、組織の中にいる間は、その組織でどこまで上に上がれ るかということだけが重要とされる。だから、地元に、幾らでも自然があるような豊かな地域に いる子供が、近所へ遊びに行かずに、部活でひたすら全国どこでも同じバスケットボールばかり やっている。そうした方が学校で評価されて、都会でよいサラリーマンになることができる。な ぜよいサラリーマンにならなければいけないのかといえば、みんながそれをいいと言っている からである。本当は人より自然の方が好きで、あまり人がいないところがいいという子供はいる が、NHKの渋谷交差点の映像を見ているうちに、ああいうところが好きだと言わないと人間じゃ ないみたいに教育がなされていく。

実際に数字を見てみれば、東京へ集中して、東京に向かって生きて行くことはリスクが高く、

コストもかかる人生だということがわかるはずである。例えば、生活保護受給率が高い都道府県 は、地方や南の陽気な地域だと思われているかもしれないが、実際は荒廃した産炭地が残る福岡 と北海道を除けば、東京23区が特に高い。全国平均は人口100人あたり1.7人だが、23区では 2.4人になる。なぜなら、貯金を使い尽くした老人が一番多いからだ。東京は物がないから、現 金がなくなると生きていけない。ほかの地域は、物も仕事も余っていてもらえるので、たとえ現 金がなくとも、生活保護にはならない。一般通念とは逆に、生活保護から分かるのは、都会の無

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産階級が非常に厳しいという状態である。23 区に住むことは居住費も高く、生活コストが無駄 にかかることを意味している。

また、可住地人口密度をみると東京1平方キロあたり1万人が住んでいる。日本は地方に行く と人がいないので困っているというが、例えば栃木県の可住地人口密度(674人)は、ヨーロッ パの都市国家以外で一番密度が高いオランダ(563人)よりも多い。日本人は、この異常なほど の密度に向けて移住することが成功した人生だという奇妙な社会通念に強く支配されているの で、次世代が続かず、持続可能性がなくなってしまう(例えば、お台場に家を買うのが一番成り 上がった証だとされて、憧れる。ところが実際のお台場は、出生率が0.3ぐらいしかなく、つま り生き物として大量に密集して、かつ子供が生まれないところが一番いいのだというような奇 妙な社会通念が支配している)。

東京は人口が過密すぎて、生活コストも高く、貧困に陥るリスクも高い。それなのに、なぜか 地方の優秀な人材は東京へ出て行くことが当たり前、それが成功だと思ってしまっている。しか し問題はそれ以上に深刻である。人が集まっている東京でさえ、状況は楽観的ではないのだ。東 京、千葉、神奈川、埼玉で、最近5年間で73万人の住民票が増えている。全国各地から現役世 代に当たる人が64万人流入超過している。にもかかわらず0歳から14歳は7万人減っている。

他方で65歳以上が100万人増えて、14%増、75歳以上は77万人増で22%増。ここから分かる のは、地域創生の課題は、東京と若者の取り合いをすることではないということである。東京で さえ、人口が増えているのは高齢者の増加でしかない。日本の問題は、日本人全体が消滅に向か っていること、人口減少問題なのだ。それなのに、仕事がないとか国際競争力が落ちたとか関係 のないことが叫ばれるのは、社会通念がそう言っているからにすぎない。SDGs 的には、短期的 な問題は、子供が激減しているということ、要するに人間が循環再生産されていないことにある。

過疎地の場合はさらに深刻で、これ以上減ると本当に色々なものが支えられないレベルに達し ている。島根県のような、日本の過疎、高齢化の最先端では、75 歳以上の人はどんどん減って いる。高齢化という社会通念から、過疎地でも高齢者は増えていると思ってしまいがちだが、そ うではない。人口全体も減っているので、高齢化「率」を見ると、上がり続けているが、高齢者 の人口数は減っているのである。

人口減少にとって問題なのは、地域住民自らが地域らしさを否定してしまっていることであ る。可住地人口密度が1万人という異常な状態の東京に耐えられる、それに憧れる(渋谷を歩き たいというような)人間を大量に教育し、マスコミでも養成している。その結果として、住みに くく、コストもかかる東京で、生物としての人間の再生産すらしなくなってしまう人たちを増や し、人間を抑制して、疲弊してしまう。こうした流れに、問題のメカニズムがあるのである。重 要なのは、根拠のない社会通念(とにかく東京へ行くことが良いことだという異常な通念)を、

一人ひとりが問い直していくこと、そのための教育である。

文責 立教大学ESD研究所所長 阿部 治 作成 立教大学ESD研究所 リサーチアシスタント

安藤 有史 森本 悠人

参照

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