Gout and Nucleic Acid Metabolism Vol.39 No.1(2015) 1
1)Center for Genetics of Host Defense, UT Southwestern Medical Center Takuma Misawa 2)徳島大学疾患酵素学研究センター シグナル伝達と糖尿病研究部門 Tatsuya Saitoh 3)大阪大学免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学 Shizuo Akira 4)大阪大学微生物病研究所 自然免疫学 Shizuo Akira Key Words : NLRP3-inflammasome, microtubule, acetylation, mitochondria
連絡先:三澤拓馬 Center for Genetics of Host Defense, UT Southwestern Medical Center 5323 Harry Hines Blvd., Dallas, Texas 75390-8505, United State of America
の研究成果を中心に,尿酸塩結晶による NLRP3 インフラマソームの活性化メカニズムと,その痛 風関節炎発症機構への関与について解説する. 背 景 「 イ ン フ ラ マ ソ ー ム 」 と は プ ロ テ ア ー ゼ Caspase-1 を活性化し,炎症性サイトカインであ る IL-1βやIL-18の産生を制御するタンパク質複 合体の総称である.Nod-like receptorファミリー に 属 す る パ タ ー ン 認 識 受 容 体 NLRP3 ( 別 名 NALP3, Cryopyrin, CIAS)は,下流のアダプター分 子 で あ る apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD (ASC) およびCaspase-1と共に NLRP3インフラマソームを形成する (図1) 2,3).表 1に示すように,NLRP3インフラマソームは多種 多様な刺激によって活性化する.NLRP3 インフ ラマソームの本来の役割は,病原体からの生体防 はじめに 自然免疫機構は,パターン認識受容体と呼ばれ るセンサー群を介して,生体内に侵入した病原体 の構成成分等を特異的に感知し,それらを排除す るための炎症応答を惹起する1).生体防御応答に おける自然免疫機構の重要性に疑いの余地はな い.しかしながら,自然免疫機構の「暴走」は時 として重篤な炎症性疾患の発症に大きく寄与して しまう.パターン認識受容体である NLR family, pyrin domain cantaining 3 (NLRP3)は,過栄養によ り生体内に蓄積した刺激性の代謝物(尿酸塩結晶 や遊離脂肪酸等)に反応して,NLRP3 インフラ マソームと呼ばれる複合体を形成し,炎症性サイ トカインInterleukin(IL)-1βやIL-18の産生を誘導 する.NLRR3 インフラマソームの過度の活性化 は,痛風関節炎をはじめとした様々な炎症性疾患 の発症と密接に関わっている.本稿では,筆者ら 三澤 拓馬1) 齊藤 達哉2) 審良 静男3,4)
NLRP3インフラマソームと痛風関節炎
総説 (ATP) etc.Nigericin Valinomycin Maitotoxin Aerolysin etc.
御であると考えられるが,一方で NLRP3 インフ ラマソームには過栄養に伴い体内に蓄積した代謝 物(尿酸塩結晶,コレステロール結晶,そして遊 離脂肪酸等)に反応して過度に活性化し,痛風関 節炎や糖尿病といった様々な炎症性疾患の発症に 大きく寄与してしまう「負」の側面も存在する4-10). 図 2 には NLRP3 インフラマソームの活性化に起 因する痛風関節炎の発症メカニズムを示した.マ クロファージの貪食作用によって細胞内に取り込 まれた尿酸塩結晶は,NLRP3 インフラマソーム を活性化し,IL-1βの産生を促進する.IL-1βは 周囲の滑膜細胞に作用してケモカインの産生を誘 導する.ケモカインの働きによって,好中球等の 炎症性細胞が関節腔にリクルートされると,炎症 応答が過剰に惹起され,関節組織傷害を伴った痛 風関節炎症状が引き起こされる. かつては「贅沢病」とされた痛風関節炎も,飽 食と言われる現代社会においては非常に身近な疾 患となり,その患者数は増加の一途を辿っている. そのため,痛風関節炎の発症に大きく寄与する NLRP3 インフラマソームの適切な制御法の開発 は重要な課題であると言える.そこで筆者らは, 天然化合物ライブラリーを用いたスクリーニング 系を構築し,NLRP3 インフラマソームの活性を 抑制する化合物の探索とその作用機序の解明に取 り組んだ. 図1 NLRP3インフラマソームによるIL-1β/IL-18の産生機構
転写因子Nuclear factor-kappa BはToll-like receptorsやTumor necrosis factor receptor super familyを介したシグナルによって活性化し,IL-1βやIL-18前駆体, そしてNLRP3の発現量を高める.NLRP3インフラマソームが活性化すると,プロテ アーゼCaspase-1によって,IL-1βおよびIL-18の前駆体が切断され,活性化型となる. 細胞外に放出された活性化型IL-1βおよびIL-18は,その後の炎症応答を促進する.
Gout and Nucleic Acid Metabolism Vol.39 No.1(2015) 3 微小管は NLRP3インフラマソームの 活性化を制御する スクリーニングの結果,筆者らは古くから痛風 関節炎の治療薬として用いられてきたコルヒチン が,NLRP3 インフラマソームの活性化を特異的 に抑制することを見いだした11).コルヒチンは微 小管重合阻害剤としても広く知られている.微小 管はαおよびβチューブリンにより構成される管 状の構造体であり,細胞骨格の維持あるいはミト コンドリアや小胞体といったオルガネラの局在を 規定する役割を担っている.筆者らは微小管およ びオルガネラの役割に着目し,コルヒチンが NLRP3 インフラマソームの活性化を抑制するメ カニズムについて解析を進めた. 未 刺 激 条 件 下 の マ ク ロ フ ァ ー ジ に お い て, NLRP3 および ASC はそれぞれ小胞体とミトコン ドリア上に主に局在している.尿酸塩結晶でマク ロファージを刺激すると,ミトコンドリアの局在 が微小管中心方向に大きく変化する.その結果, 小胞体とミトコンドリアの接触頻度が高まり, NLRP3 と ASC が近接する.一方,コルヒチン処 理によって微小管構造を破壊すると,尿酸塩結晶 の刺激に応じたミトコンドリアの局在変化が抑制 され,それと一致するようにNLRP3-ASCの近接 頻度も減少する.これらのことから,微小管はミ トコンドリアの局在を制御することで,NLRP3 インフラマソームの活性化を促進していることが 考えられる. ダイニンは,微小管中心方向へ向けた細胞内物質 輸送を制御する分子モータータンパク質である12,13). ダイニン特異的な阻害剤14)を用いてマクロファー ジを処理すると,尿酸塩結晶の刺激に応じたミト コンドリアの局在変化,NLRP3-ASCの近接,そ して IL-1βの産生量が有意に低下する.つまり, 微小管を介したダイニン依存的なミトコンドリア の局在変化は,NLRP3 インフラマソームの活性 図2 痛風関節炎発症機構における NLRP3 インフラマソームの役割 マクロファージの貪食作用によって細胞内に取り込まれた尿酸塩結晶はNLRP3イ ンフラマソームを活性化して IL-1 βの産生を促す.周囲の滑膜細胞は,IL-1 βの作 用を受けてケモカインを産生し,好中球等の炎症性細胞を間接腔にリクルートする. その結果,炎症応答が増幅され,組織傷害を伴った痛風関節炎が発症する.
化を促進している. アセチル化された微小管は NLRP3 インフラマソームの活性化を亢進する 微小管の構成因子であるαチューブリンは, 様々な翻訳後修飾を受けることで細胞内の物質輸 送を制御している15).尿酸塩結晶でマクロファー ジを刺激すると,アセチル化されたαチューブリ ン(以下アセチル化αチューブリン)が顕著に増 加することが観察された.興味深い事に,アセチ ル化αチューブリンはミトコンドリア -小胞体間 の相互作用を高めることが報告されている16).そ こで筆者らは,アセチル化αチューブリンの NLRP3 インフラマソーム活性化機構における役 割について検証を行った.まず,αチューブリン に対する特異的なアセチル基転移酵素 MEC1717) の発現量を RNAiにより低下させると,αチュー ブリンのアセチル化が減少し,尿酸塩結晶の刺激 図3 微小管を介した NLRP3 インフラマソームの活性化機構 NLRP3インフラマソームの活性を促進する刺激によって,ミトコンドリアがダメー ジを受けると,細胞内の NAD+レベルが低下し,NAD+依存性脱アセチル化酵素で ある SIRT2 の働きが弱まる.その結果,微小管のアセチル化が亢進すると,ミトコ ンドリア上のASCと小胞体上のNLRP3の近接頻度が高まり,NLRP3インフラマソー ムの形成が促進される.その後,ミトコンドリア傷害により細胞内に蓄積した活性 酸素種はNLRP3インフラマソームの活性を更に増幅する.
Gout and Nucleic Acid Metabolism Vol.39 No.1(2015) 5 に応じたミトコンドリアの局在変化と,それに起 因する NLRP3 インフラマソームの形成が抑制さ れる.つまり,アセチル化αチューブリンは NLRP3 インフラマソームの活性化を促進してい る.次に,NAD+依存性脱アセチル化酵素SIRT218) に対する特異的な阻害剤でマクロファージを処理 すると,αチューブリンのアセチル化が亢進し, ミトコンドリアの局在変化が強く誘導される.更 に尿酸塩結晶でマクロファージを刺激すると,ミ トコンドリア傷害に起因して,SIRT2の補酵素で あるNAD+の量が大幅に減少する.これらの結果 から,NLRP3 インフラマソームの活性化機構は 図3の様に説明できる.まず,マクロファージの 貪食作用によって細胞内に尿酸塩結晶が取り込ま れると,ミトコンドリアが傷害を受ける.ミトコ ンドリア傷害によって細胞内のNAD+レベルが減 少すると,SIRT2 の酵素活性が低下し,αチュー ブリンのアセチル化が亢進する.アセチル化α チューブリンは,ダイニン依存的なミトコンドリ アの局在変化を促進することで,NLRP3 と ASC の近接頻度を高め,その後の NLRP3 インフラマ ソームの形成を誘導する.ミトコンドリア傷害に より細胞内に蓄積した活性酸素種はNLRP3インフ ラマソームの活性を増幅し,その後の炎症応答を 惹起する19). おわりに 過栄養により生じた尿酸塩結晶は,マクロ ファージによるIL-1βの産生を促進し,好中球を はじめとした炎症性細胞を間接腔に集積させ,痛 風関節炎の発症を促進する.古代ギリシャ時代の 記録にも残されているように,コルヒチンは痛風 関節炎の治療薬として長らく用いられてきた20). これまでの認識において,コルヒチンは炎症性細 胞の移動能を抑制することで抗炎症効果を発揮し ていると考えられてきた.そのような効果に加え て,コルヒチンは NLRP3 インフラマソームの形 成を抑制することで,その後の炎症応答を緩和し ていることが考えられる. コルヒチンは痛風関節炎に対する有効な治療薬 であるが,微小管構造を破壊することにより生じ る副作用は強く,長期にわたる服用が困難である. 本研究から,αチューブリンのアセチル化制御因 子である MEC17やSIRT2が,NLRP3インフラマ ソームの活性化に重要な役割を担っていることが 明らかとなった.これらの因子は微小管の機能を 特異的に調節するため副作用の少ない痛風関節炎 治療薬を開発する上で,理想的な分子標的になり 得る. 最新の研究から,筆者らはフィトケミカルであ るレスベラトロールが,アセチル化αチューブリ ン依存的な NLRP3インフラマソームの活性化を 抑制することを見いだした21)(図3).レスベラト ロールは細胞毒性が非常に低いため,長期に渡る 服用が可能であり,痛風関節炎の新たな治療薬と して期待できる.この他にも,筆者らは NLRP3 インフラマソームの活性を抑制する化合物を多数 同定しており,今後の解析を通じてそれらの作用 機序を解明すると共に,痛風治療薬としての可能 性を検証してきたいと考えている. 著者の COI(conflicts of interest)開示 : 本論文内容に関連して特に申告なし. References
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