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Jpn. J. Personality 19(2): (2010)

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問題と目的

境界性パーソナリティ障害 (borderline person-ality disorder: BPD) は,不安定な対人関係,自傷 行為や自殺企図,著しい気分の変動,衝動性の高 さ等によって特徴づけられるパーソナリティ障害 であり,他のパーソナリティ障害と比較しても, 社会的機能の適応水準が低いことが示唆されてい る(中尾,1995)。 さらに,非臨床群ではあるが,BPD の特徴を多 く有する BPD 周辺群の存在も指摘されており,特 に青年期においては,非臨床群にも BPD の特徴が 多く見られることが報告されている。 例えば, Trull, Useda, Confori, & Doan (1997) は,大学生の BPD周辺群を対象とした研究を行い,BPD の特徴 を有している青年期の非臨床群は,社会的機能に おいて逸脱した深刻なレベルの機能障害を示して いると述べている。そこで,本研究では,BPD 臨 床群ではないものの,BPD の特徴を多く有してお り,日常生活にも困難をきたしていると考えられ る BPD 周辺群を対象として研究を行うこととす る。BPD 周辺群を対象として研究を行うことで, BPDの徴候の悪化を防ぎ,社会的な機能不全を改 善するための,有用な示唆を提供できると考えら れる。 BPDおよびその周辺群に共通する特徴として, 見捨てられ不安の高さが挙げられる。見捨てられ 不安とは,「ある対象に見捨てられることに関す る過剰な不安」を指す概念である。見捨てられ不

見捨てられスキーマが境界性パーソナリティ周辺群の

徴候に及ぼす影響

1),2)

井 合 真 海 子

矢 澤 美 香 子

根 建 金 男

早稲田大学大学院人間科学研究科 早稲田大学人間総合研究センター 早稲田大学人間科学学術院

本研究では,境界性パーソナリティ障害 (borderline personality disorder: BPD) 周辺群を対象として,認 知行動理論的視点から,見捨てられスキーマと BPD 周辺群が示す BPD の徴候との関連を調べることを目的 とした。調査 1 · 2 では,大学生 452 名を対象に質問紙調査を実施し,見捨てられスキーマ尺度 (the Aban-donment Schema Questionnaire: ASQ)を作成した。その結果,ASQ は「恒常的な見捨てられ・孤独」,「親 密な関係に対するしがみつき・同一視」,「他者からの好意に対するあきらめ」の 3 因子構造であることが示 され,信頼性・妥当性も確認された。調査 3 においては,大学生 253 名を対象に,BPD 周辺群の徴候と見捨 てられスキーマの関連を調べた。パス解析の結果,見捨てられスキーマは,感情の不安定性を介して BPD 周辺群に顕著にみられる様々な行動化に影響を与えている,という因果モデルが導かれた。今後は,ASQ の 大学生以外の適応可能性を検討することが求められる。 キーワード:見捨てられスキーマ,認知行動理論,因果モデル © 日本パーソナリティ心理学会 2010

1) 本研究は,The 5th World Congress of Behavioural & Cognitive Therapies (2007, Spain),日本行動療法学 会第 33 回大会(2007 年,兵庫教育大学・早稲田大 学),日本認知療法学会第 8 回大会(2008 年,東京 大学)での発表に加筆・修正したものである。

2) 本研究はすべて,早稲田大学人間科学部研究倫理委

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安は,主に Mahler (e.g., 1971) の分離 – 個体化理 論の分離不安の概念から説明されてきた。Master-son(1981 富山・尾崎訳 1990)は,Mahler の理論 から,BPD の症状を分離 – 個体化段階(特に再接 近期)の発達停止と捉え,見捨てられ不安もこの 発達停止が要因となる,とした。つまり,母親と の分離 – 個体化を経験する段階で,自我の正常な 発達変化が何らかの要因で阻害されると,その後 も他者との分離に対して過剰な不安を示してしま うと解釈できる。さらに,見捨てられ不安は,親 密度が高まると深刻になり,より劇的な行動の誘 因になるといわれている (Mason & Kreger, 1998 新 井・野村・束原訳 2003)。 また,見捨てられ不安は,非臨床群においても 見られる現象であるとされている。佐々木・小川 (1994) は,近接する概念である「見捨てられ抑う つ」について検討している。「見捨てられ抑うつ」 とは,BPD の中心的な不安であり,抑うつ・怒り と憤り・恐怖・罪悪感・受け身性と無気力・空虚 感と空しさの 6 つの要素から成るとされている (Masterson, 1981 富山・尾崎訳 1990)。研究の結 果,臨床の場に限らず,多くの若者が「見捨てら れ抑うつ」として特徴づけられる心理状態や対人 関係の問題を抱えやすくなっていると述べている。 この見捨てられ不安に関して,認知行動理論の 視点から,「見捨てられること」に関連するスキー マ(個人内である程度一貫している認知的枠組み) の存在が指摘されている。Young (e.g., 1990, 1999) は,パーソナリティ障害への有効な治療法として, 認知的技法・行動的技法といった認知行動理論的 アプローチを取り入れた,スキーマ療法 (Schema Therapy: ST) を提唱したが,その治療の標的であ るスキーマ群を,人生早期に形成される「早期不 適応スキーマ」と命名している。そして,その一 つとして,「見捨てられ/不安定スキーマ」を挙 げている。本邦においては,井沢 (2005) が,BPD に対する認知行動論的介入を行う場合には,何ら かの認知的歪曲を客観的に同定する手段が必要で あるとして,BPD のためのスキーマ同定質問紙 (the Borderline Schemata Questionnaire: BSQ) を 作成した。この BSQ の中にも「見捨てられ感ス キーマ」が,BPD の中核的なスキーマの一つとし て位置づけられている。 以上の先行研究から,見捨てられ不安について, 伝統的な BPD に関する知見と認知行動理論を併 せると,BPD および BPD 周辺群において主要な 特徴であるとされる見捨てられ不安の高さには, 根底に見捨てられに関するスキーマ(以下,見捨 てられスキーマ)が存在していると解釈できる。 そして,この強固なスキーマにより,対人関係の あらゆる場面,特に親密な他者を対象とした場面 で容易にスキーマが活性化され,様々な行動化や, 感情の不安定さ等の様相を呈する,という仮説が 成り立つ。よって,見捨てられスキーマを詳細に 検討することは,BPD および BPD 周辺群の研究 を行う上で重要な視点であると考えられる。 しかしながら,本邦においては,見捨てられス キーマに関して詳細に検討した研究は少ない。ま た , the Schema Questionnaire (SQ; Young & Brown, 1990) や BSQ など BPD に特徴的なスキー マを測る尺度において,見捨てられスキーマに関 連する内容は 1 因子構造として扱われており,項 目数も少ないものが多い。よって,見捨てられス キーマを詳細に検討するためには,見捨てられス キーマに特化した尺度を用いる必要性があると考 えられる。 以上の知見を踏まえ,本研究では,まず,見捨 てられスキーマを測定するための,「見捨てられス キーマ尺度 (the Abandonment Schema Question-naire: ASQ)」を作成し,その信頼性・妥当性の検 討を行う。さらに,見捨てられスキーマが,Line-han (1993) が BPD の中核症状として提唱している 感情の不安定性や,BPD に多くみられる行動化 (しがみつき・むちゃ食い・自傷行為等)などの BPDの徴候とどのような関連を示すかについて, 相関分析やパス解析によって検討する。認知行動

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理論的な視点から,BPD 周辺群に特徴的なスキー マを捉えることによって,認知的再体制化や,ス キーマに由来する行動化のセルフコントロールと いった,認知行動理論的な介入の発展につながる と考えられる。 また,BPD の特徴を有する周辺群は,臨床群で はないものの,深刻な社会的な機能不全に陥って いる可能性があること (Trull et al., 1997),見捨て られ不安は BPD 病理の中心的な要素であり,BPD 周辺群においても示される徴候であることを踏ま えると,BPD 周辺群を対象に見捨てられスキーマ について研究を行うことは,BPD の徴候の悪化を 防ぐ,予防的介入に対する有用な知見を提供する ことにつながると考えられる。これは,治療行為 のみならず,予防的介入も役割としてみなす,“カ ウンセリング”の視点(林,1999)に立った研究 である。 なお,本研究では見捨てられ不安を,「ある対 象に見捨てられることに関する過剰な不安」,見 捨てられスキーマを「ある対象に見捨てられると いうことに関する一貫した認知的枠組み」と定義 して,研究を行う。

調 査 1

目的 予備調査で見捨てられスキーマ項目を抽 出し,本調査によって抽出した項目の因子分析を 行う。さらに,内的整合性を検討し,ASQ を作成 する。また,ASQ の再検査信頼性の検討も行う。 予備調査 見捨てられスキーマの項目を作成す るため,見捨てられ不安や見捨てられスキーマに 関する既存の尺度から 61 項目を収集した。項目 収集に用いた尺度は,(a) 見捨てられ抑うつ尺度 28項目(佐々木・小川,1994),(b) 青年期対象 関係尺度の見捨てられ不安項目 7 項目(井梅・平 井・青木・馬場,2006),(c) 愛着スタイル尺度 18項目(中尾・加藤,2004),(d) the Early Mal-adaptive Schema Questionnaire-Research (EMSQ-R; Cecero, Nelson, & Gilie, 2004) の見捨てられ不安に

関するスキーマ 5 項目,(e) BSQ(井沢,2005)の “見捨てられ感”因子 3 項目であった。また,研 究実施者が,先行研究の知見を参考に,見捨てら れスキーマを表すのにふさわしいと思う 8 項目を 新たに作成した。それら 69 項目を,臨床心理学 専攻の大学院生 3 名が,KJ 法に準じた方法で分類 した。分類された項目から,どのような見捨てら れスキーマが働いているかを検討し,見捨てられ スキーマに関する 26 項目を作成した。項目作成 の際は,原項目の内容を参考にして,本研究によ るオリジナルな項目内容を作成した。項目内容に 関して十分な妥当性を確保するため,BPD に対し て臨床経験をもち,なおかつスキーマの概念を理 解している臨床心理士 6 名に項目選定を依頼し た。“1. ふさわしい”―“3. ふさわしくない”の 3 件法で評定を求めて,26 項目のうち,評定平均が 2.0以下であった 6 項目を除外し,最終的に 20 項 目が選出された。よって,これらの項目を本調査 で用いた。 方 法 対象者と調査時期 2006年 7 月に,首都圏内 の大学生を対象に質問紙調査を行った。有効回答 者数は 230 名(男性 115 名,女性 114 名,不明 1 名, 平均年齢 20.48 歳, SD⫽1.89)であった。 また,再検査信頼性の検討を行うため,2006 年 10月⬃2009 年 5 月の期間に,首都圏内大学生 110 名(男性 60 名,女性 50 名,平均年齢 20.39 歳, SD⫽1.37)を対象に,同一の対象者に対して 2 回 にわたって質問紙調査を行った。なお,2006 年 7 月に行った調査の対象者と,再検査信頼性の検討 のため行った調査の対象者は全て異なる。 手続き 講義場面での一斉配布による質問紙調 査を行った。調査者が質問紙を配布し,その場で 回収した。本調査は強制ではないこと,回答内容 は統計的に処理され,個人情報が漏洩する心配の ないことを調査前に教示した。再検査信頼性に関 しては,講義場面での一斉調査,もしくは研究実 施者からの手渡しにより,同一の対象者に対して

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ASQへの回答を 2 回にわたって求めた。2 回目の 調査は 1 回目から 3 週⬃6 週の間隔を空けて行わ れた。 調査材料 予備調査で作成した見捨てられス キーマ 20 項目を用いた。「以下の質問は,あなた の普段の考え方について調べるものです。以下の 質問項目について,あなたの普段の考え方にあて はまる番号を○で囲んでください」と教示を行 なった。“1. 全く当てはまらない”―“4. とても当 てはまる”の 4 件法で回答を求めた。 分析 得られたデータについて因子分析を行っ た。分析には,SPSS 11.5 for Windows を用いた。 結果と考察 G–P分析 まず,項目の判別力の信頼性を調べ るために,見捨てられスキーマに関する 20 項目の 総得点を算出し,全体の 25% を基準として得点高 群(60 名,平均値 47.95,SD⫽6.10),低群(60 名,平均値 24.68,SD⫽4.51)に分け,G–P 分析を 行った。高群と低群について t 検定を行った結果, 全ての項目において,高群は低群より有意に見捨 てられスキーマに関する項目の得点が高いことが 示された(t (118)⫽5.72⬃13.74,p⬍.001)。このこ とから,全ての項目において,判別力の高さが確 認されたといえる。 探索的因子分析 予備調査で得られた見捨てら れスキーマに関する 20 項目に対して, 最尤法 Promax回転による因子分析を行った。その結果, 固有値 1 以上の因子が 3 因子抽出された。解釈の しやすさ,スクリープロットの落差から,3 因子 構造が妥当であると考えられた。そこで,3 因子 構造を仮定し,再度最尤法 Promax 回転による因 子分析を行った。因子負荷量が .40 に満たなかっ た 2 項目を削除し,再度同様の手続きを行った。 因子負荷量が .40 以上の因子が二つ以上ある多重 負荷項目はなかった。最終的に,解釈可能な 3 因 子 18 項目が抽出された。因子分析の結果と因子 間相関を Table 1 に示す。各因子の因子間相関に ついて中程度の値が得られた。BPD に関連するス キーマ群は,相互に密接に関連し合っていること が指摘されているため(井沢,2005),各因子間 の相関は無視できないといえる。よって,因子間 の相関を仮定する Promax 回転の結果を採用する ことが妥当であると判断した。因子分析の結果, 最終的に抽出された 18 項目を見捨てられスキー マ尺度 (the Abandonment Schema Questionnaire: ASQ) と命名した。 第 1 因子には,「私は生まれつき一人ぼっちだ」 など,人はいずれ自分の元から離れていき,自分 は孤独になるだろうという,恒常的な見捨てられ 感を示す項目が含まれている。よって,この因子 を,「恒常的な見捨てられ・孤独」因子と命名し た。この恒常的な見捨てられ・孤独因子は,BSQ の“見捨てられ感スキーマ”にある「私は人から 必要とされるような人間ではないだろう」といっ た項目と関係する内容であり,対象が誰であって も見捨てられ感を持つ可能性がある,と解釈でき る。 第 2 因子には,「人は私が大切に思うのと同じ くらい,私のことを大切に思わなければならない」 など,親密な関係に対する過度なしがみつきと同 一視が認められる項目が含まれている。よって, この因子を,「親密な関係に対するしがみつき・ 同一視」因子と命名した。恒常的な見捨てられ・ 孤独因子とは異なり,親密な他者という対象を想 定しているスキーマである。よって,BPD の病態 として挙げられている親密な対人関係上の問題に 関連しているスキーマであると考えられる。 第 3 因子には,「私が必要としていても,人は 私から離れていく」など,他者に対する一方向的 な自分の想いや,他者の自分への好意に対する過 小評価を示す項目が含まれている。よってこの因 子を,「他者からの好意に対するあきらめ」因子 と命名した。親密な関係に対するしがみつき・同 一視因子と同様に,親密な(あるいは親密になり たい)対象が想定されている。Cecero et al. (2004) は,Young の見捨てられ/不安定スキーマについ

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て,“重要な他者は,自分よりも魅力的で,知的 で,安定した人物の元に去ってしまうだろうとす る信念”と説明しているが,他者からの好意に対 するあきらめ因子はこれに近い概念であると考え られる。 これまでの BPD に関連するスキーマの尺度構成 では,見捨てられスキーマは 1 因子のみの構造で ある場合が多かったが,本研究で因子分析を行っ た結果,3 因子構造であった。また,各下位因子 の内容を検討すると,本研究で示された因子構造 は,SQ や BSQ など既存の尺度にあった内容を包 含する内容であると解釈できる。これらのことか ら,ASQ は,見捨てられスキーマを詳細に検討す るという本研究の目的に沿った尺度であるといえ る。 内的整合性の検討 信頼性を検討するために, Cronbachのa 係数を算出したところ,ASQ 全体 でa ⫽.89, 恒常的な見捨てられ・孤独因子で a⫽.86,親密な関係に対するしがみつき・同一視 因子でa⫽.82,他者からの好意に対するあきらめ 因子でa⫽.81 であった。したがって,高い内的整 合性が得られたといえる。 確証的因子分析 ASQ について,従来の尺度で 想定されていた 1 因子よりも,本研究で得られた 3因子構造の方が妥当であるかどうかを,確証的 因子分析を用いて検討した。分析には Aoms 5.0 を用いた。確証的因子分析の結果,3 因子構造の モデルでは,モデル適合度が CFI⫽.91,GFI⫽.89, AGFI⫽.86,RSMEA⫽.07 となり,1 因子構造のモデ ル で は , モ デ ル 適 合 度 が CFI⫽.71, GFI⫽.70, Table 1 見捨てられスキーマ項目の最終的因子分析結果,最尤法プロマックス回転 (a ⫽.89) 抽出因子 項目内容 I II III 共通性 第 1 因子 恒常的な見捨てられ・孤独 (a⫽.86) 私は生まれつき一人ぼっちだ。 .87 ⫺.06 ⫺.24 .52 自分のことを誰も助けてくれないだろう。 .78 ⫺.10 ⫺.00 .56 私はいつも見捨てられる。 .73 ⫺.00 .06 .59 人は簡単に私を裏切る。 .60 .03 .13 .51 私の人間関係はいつもうまくいかない。 .57 ⫺.08 .23 .50 人はいったん自分のところから去っていってしまったら,もう二度と戻ってこない。 .46 .13 .12 .38 その人から好かれるようなことをしないと,人は私の元を去っていく。 .44 .20 .15 .44 第 2 因子 親密な関係に対するしがみつき・同一視 (a⫽.82) 人は私が大切に思うのと同じくらい,私のことを大切に思わなければならない。 .11 .70 -.18 .44 親しい人は私が必要なときに側にいるべきだ。 ⫺.10 .70 .04 .46 親しい人は私とできるだけたくさんの時間を過ごすべきだ。 ⫺.05 .69 .12 .51 親しい人が私から離れていったら,私は生きていけない。 ⫺.08 .65 .06 .44 私には常に親しい二者関係が必要だ。 .07 .62 ⫺.13 .34 親しい人は,私の一部である。 ⫺.17 .60 .04 .33 私は全ての人に好かれなければならない。 .09 .49 .06 .32 誰かが私の考えを否定するということは,私のことが嫌いであるということだ。 .25 .41 ⫺.11 .24 第 3 因子 他者からの好意に対するあきらめ (a⫽.81) 私が必要としていても,人は私から離れていく。 .07 ⫺.17 .95 .85 人は私が想う以上に,私のことを想ってはくれない。 .05 .18 .60 .56 私が親密になりたいと思うほど,人はうんざりして離れていく。 .22 .14 .46 .50 因子間相関 I II III I − .40 .65 II − .56

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AGFI⫽.62,RSMEA⫽.12 となった。よって,3 因子 構造の方が,全てのモデル適合度の値が良いこと が示されたため,ASQ は 3 因子構造が妥当である といえる。 再検査信頼性の検討 ASQ の再検査信頼性の検 討を行うため,1 回目の調査と 2 回目の調査につ いての信頼性係数を求めたところ,ASQ 全体で r⫽.85,恒常的な見捨てられ・孤独因子が r⫽.83, 親密な関係に対するしがみつき・同一視因子が r⫽.77,他者からの好意に対するあきらめ因子が r⫽.77 であった。親密な関係に対するしがみつ き・同一視因子と他者からの好意に対するあきら め因子の信頼性係数が若干低いものの,.70 以上 あることから,許容できる範囲であると考えられ る。また,ASQ 全体では.85 と高い信頼性係数が 得られたことから,ASQ の再検査信頼性は示され たといえる。 調査 1 の結果から,ASQ について,内的整合 性,再検査信頼性それぞれが十分な値であること が,確認された。

調 査 2

目的 調査 1 で信頼性が確認された ASQ の併 存的妥当性の検討を目的とする。併存的妥当性を 検討する指標として,見捨てられ不安を測る尺度 と,BPD 傾向を測る尺度を使用する。見捨てられ 不安の根底には見捨てられスキーマがあると考え られるため,ASQ と見捨てられ不安を測る尺度は 有意な正の関連を示すことが仮定される。また, 見捨てられスキーマは BPD 周辺群の徴候と関連が あることが考えられるため,ASQ と BPD 傾向を測 る尺度は有意な正の関連を示すことが仮定される。 さらに,BPD と共存率が高いとされる抑うつの影 響を統制し,見捨てられスキーマと見捨てられ不 安および BPD 傾向との関連性をより明確に検討す るために,抑うつの程度を測定する尺度を制御変 数とする偏相関分析を行う。 方 法 対象者と調査時期 2006年 7 月⬃2009 年 5 月 に,首都圏内の大学生を対象に質問紙調査を行っ た。有効回答者数は 222 名(男性 115 名,女性 105名,不明 2 名,平均年齢 19.83 歳,SD⫽2.11) であった。 手続き 講義場面での一斉配布による質問紙調 査を行った。調査者が質問紙を配布し,その場で 回収した。本調査は強制ではないこと,回答内容 は統計的に処理され,個人情報が漏洩する心配の ないことを調査前に教示した。 調査材料 (a) ASQは,調査 1 で作成した尺度 で,見捨てられスキーマに関する内容 18 項目か ら構成される。 ASQの併存的妥当性を検討するための指標の詳 細は,以下の通りである。まず,(b) 愛着スタイ ル 尺 度 の 見 捨 て ら れ 不 安 項 目 ( 中 尾 ・ 加 藤 , 2004)は,ASQ と見捨てられ不安との関連を測る ために用いた。一般他者を想定した成人の愛着ス タイルを測る尺度の中の,見捨てられ不安に関す る内容 18 項目から構成される。“1. 全く当てはま らない”―“7. 非常によく当てはまる”の 7 件法 で回答を求めた。十分な信頼性・妥当性が確認さ れている。(c) DSM-Ⅳ-TR(American Psychiatric Association, 2000 高橋・大野・染矢訳 2002)の 見捨てられ不安の単項目は,ASQ と見捨てられ不 安との関連を測るために用いた。DSM-Ⅳ-TR の BPD診断項目の見捨てられ不安に関連する 1 項目 について,「はい」「いいえ」の 2 件法で回答を求 め た 。 (d) 日 本 語 版 the Personality Diagnostic Questionnaire-Revise: PDQ-R( 上 原 ・ 佐 藤 ・ 坂 戸・佐藤,1996)の BPD 項目は,ASQ と BPD 傾 向との関連を測るために用いた。人格障害の診断 を目的として作成された質問紙の BPD 診断項目 で,12 項目から構成される。「はい」「いいえ」の 2件法で回答を求めた。十分な信頼性・妥当性が

確認されている。(e) the Zung Self-Rating Depres-sion Scale: SDS(福田・小林,1973)の自殺項目

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を除いた 19 項目は,抑うつの程度を測るために 用いた。現在の抑うつ状態を測るための尺度であ る。“1. ほとんどない”―“4. ほとんどいつもある” の 4 件法で回答を求めた。十分な信頼性・妥当性 が確認されている。 以上の各尺度の提示順序に関しては,カウン ターバランスをとった。 結果と考察 ASQ得点と各尺度の得点の相関係数,平均値お よび標準偏差を Table 2 に示す。 併存的妥当性の検討 ASQ の併存的妥当性を確 認するため,ASQ 合計点と見捨てられ不安項目得 点との相関を求めた。その結果,ASQ と見捨てら れ不安項目間に有意な高い正の相関が得られた (r⫽.75, p⬍.001)。さらに,ASQ の各下位因子につ いても,有意な正の相関が得られた (p⬍.001)。相 関係数は,各下位因子が近接した値であった (r⫽ .59⬃.61)。また,抑うつの影響を統制するために, ASQ合計点と見捨てられ不安項目得点について, SDS得点を制御変数とした偏相関を求めた。その 結果,有意な高い正の相関が得られた (r⫽.67, p⬍.001)。このことから,ASQ は見捨てられ不安 と十分な関連を示したといえる。加えて,DSM-Ⅳ-TRの見捨てられ不安項目について,「はい」と答 えた群(41 名,ASQ 平均値⫽40.37,SD⫽8.09) と「いいえ」と答えた群(173 名,ASQ 平均値⫽ 34.99,SD⫽8.00)に分け,ASQ 合計点に関して一 元配置の分散分析を行った。その結果,群間で有 意差が得られた(F (1,212)⫽11.16, p⬍.001)。見捨 てられ不安項目について「はい」と答えた群の方 が,「いいえ」と答えた群よりも有意に ASQ 得点 が高かった。また,ASQ の各下位因子においても, 同様に分散分析を行った。その結果,恒常的な見 捨てられ・孤独因子 (F (1,212)⫽5.30, p⬍.05),親 密な関係に対するしがみつき・同一視因子( F (1,212)⫽8.52, p⬍.001),他者からの好意に対する あきらめ因子 (F (1,212)⫽8.36, p⬍.001) 全て群間で 有意差が得られた。「はい」と答えた群の方が「い いえ」と答えた群よりも有意に得点が高かった。 よって,BPD 病理の特徴として示されている見捨 てられ不安の内容に関しても,見捨てられスキー マと関連があることが確認された。 次に,ASQ と PDQ-R 得点の相関係数を見てみ ると,ASQ 合計点と PDQ-R 得点は中程度の相関 を示した (r⫽.56, p⬍.001)。最も相関係数が高かっ たのは恒常的な見捨てられ・孤独因子であり (r.58, p⬍.001),最も低かったのは親密な関係に対す るしがみつき・同一視因子であった (r⫽.30, p⬍ .001)。また,ASQ 合計点と PDQ-R 得点について, SDSの得点を制御変数とした偏相関係数を算出し たところ,有意な中程度の正の相関が得られた (r⫽.45, p⬍.001)。この結果から,抑うつの影響を 除外しても,見捨てられスキーマと BPD 傾向には 有意な関連が示された。 また,ASQ 合計点と SDS 得点については,有意 な中程度の正の相関が示された (r⫽.47, p⬍.001)。 これは,抑うつと BPD との共存率が高いという先 行研究 (e.g., McGlashan, Grilo, Skodol, Gunderson,

Table 2 ASQと見捨てられ不安項目,PDQ-R,SDS の Pearson の積率相関係数,平均値,標準偏差

見捨てられ不安 PDQ-R SDS M SD ASQ 合計点 .75*** .56*** .47*** 35.02 8.21 F1 .61*** .58*** .45*** 12.73 4.12 F2 .59*** .30*** .27** 15.99 4.09 F3 .60*** .48*** .43*** 6.31 1.99 ***p⬍.001 **p⬍.01 注.F1⫽ 恒常的な見捨てられ・孤独,F2⫽ 親密な関係に対するしがみつき・同一視,F3⫽ 他者からの好意に対するあきらめ

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Shera, Morey, Zanarini, & Stout, 2000) からも予測 される結果であるといえる。 以上のことから,ASQ の得点は,見捨てられ不 安の得点や BPD 傾向の得点,抑うつの得点と有 意に関連することが示された。よって,仮説は概 ね支持されたことから,ASQ の併存的妥当性は確 認されたといえる。さらに,相関分析の結果から, 見捨てられ不安については ASQ の各下位因子が同 程度の関連性を示しているが,BPD 傾向について は恒常的な見捨てられ・孤独因子が最も関連が強 い可能性が示された。

調 査 3

目 的 見捨てられスキーマが BPD 周辺群が示す BPD の徴候に与える影響の詳細な検討を行う。BPD 周 辺群の徴候として,感情の不安定性,しがみつ き・自傷行為・むちゃ食いなどの行動化に焦点を あてて,見捨てられスキーマの影響を相関分析, 回帰分析,パス解析によって検討する。なお,加 藤 (2005) は,感情不安定性を BPD の行動化の要 因と捉え,感情の不安定性→BPD の行動化とい うモデルを立て検討を行っている。よって,本研 究では,ASQ→ 感情の不安定性→行動化という因 果関係を仮定し,確認的にパス解析によって検討 を行う。 また,BPD は女性の方が有意に多いという報告 が多くなされているため (e.g., Johnson, Hurley, Benkelfat, Herpertz, & Taber, 2003),女性と男性で は BPD 周辺群の徴候が異なる可能性もある。性差 がある場合は,男女別に分析を行う必要があるた め,性差についても検討する。 方 法 対象者と調査時期 2006年 10 月⬃11 月に,首 都圏内の大学生を対象に質問紙調査を行った。有 効回答者数は 253 名(男性 158 名,女性名 95 名, 平均年齢 21.02 歳,SD⫽2.44)であった。 手続き 講義場面での一斉配布による質問紙調 査を実施した。調査者が質問紙を配布し,その場 で回収した。本調査は強制ではないこと,回答内 容は統計的に処理され,個人情報が漏洩する心配 のないことを調査前に教示した。 調査材料 (a) ASQは,見捨てられスキーマを 測るために用いた。18 項目から構成される。調査 1 · 2で信頼性・妥当性は確認されている。(b) 日 本語版感情不安定性尺度(the Affective Lability Scale: ALS; 加藤,2005)43 項目は,BPD の中核 症状とされる感情の不安定性を測るために用いた。 ALSは,第 1 因子「不安・抑うつの揺らぎ」16 項 目,第 2 因子「高揚感の揺らぎ」11 項目,第 3 因 子「怒りの揺らぎ」10 項目,第 4 因子「睡眠の揺 らぎ」6 項目の,計 4 因子から構成される。加藤 (2005) によって,十分な信頼性・妥当性が確認さ れている。(c) 日本語版 PDQ-R(上原他,1996) の BPD 項目は,BPD 傾向を測るために用いた。調 査 2 と同様の尺度である。なお,PDQ-R の行動化 項目については,多変量分析を目的とするため, “全くない”,“1 ヶ月に 1 回程度”,“1 週間に 1 回 程度”,“1 週間に 2⬃3 回程度”,“ほとんど毎日” の 5 件法に変更して回答を求めた。(d) Structured clinical interview for DSM-Ⅳ Axis II(SCID-II; First, Gibbon, Spitzer, Williams, & Benjamin, 1997 大曽根 訳 2002)より,行動的側面に関する 7 項目(し がみつき,不安定な対人関係,自殺企図,自傷行 為,かんしゃく,攻撃,易怒性)を抜粋して, BPDの行動的側面の徴候を測るために用いた。 SCIDの項目内容にある行動の頻度については, PDQ-Rと同様に 5 件法で回答を求めた。 以上の各尺度の提示順序に関しては,カウン ターバランスをとった。 結果と考察 性差 ASQ得点と PDQ-R 得点については,性 差は認められなかった(t (250)⫽.⫺1.22, n.s.,男 性 ASQ 平均値 33.41, 女性 ASQ 平均値 34.57; t (251)⫽⫺.23, n.s.,男性 PDQ-R 平均値 3.79,女性 PDQ-R平均値 3.86)。よって,分析は男女分けず

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に行うこととした。BPD は女性が有意に多いとさ れているが,大学生を対象として PDQ-R を用いた 研究においては,性差が有意ではなく,むしろ男 性の方が多かったとする報告 (Trull, 1995) もある。 今後は,性差について,対象の年齢層や文化差も 考慮する必要があるだろう。 相関分析・回帰分析 ASQ 得点と各尺度の得点 の相関係数,平均値および標準偏差を Table 3 に 示す。 まず,ASQ 合計点と ALS 合計点については,全 体的に高い値の相関係数が得られた (p⬍.001)。さ らに,ASQ を独立変数とし,ALS を従属変数とす る単回帰分析を行ったところ,比較的高い標準偏 回帰係数が示された (b⫽.69, p⬍.001)。よって,見 捨てられスキーマは感情の不安定性に対して,強 い影響力がある可能性が明らかとなった。さらに ASQの各下位因子得点を独立変数,ALS の各下位 因子得点を従属変数として,強制投入法による重 回帰分析を行った (Table 4)。その結果,ALS の 「不安・抑うつの揺らぎ」因子に対しては,ASQ の 3 因子すべてが有意な標準偏回帰係数を示した。 このことから,見捨てられに関するどのスキーマ が賦活されても,不安や抑うつの揺らぎが生じや すいと解釈できる。「高揚感の揺らぎ」因子には, ASQの親密な関係に対するしがみつき・同一視因 子と他者からの好意に対するあきらめ因子が有意 な影響を示していた。このことから,見捨てられ スキーマの中でも,親密な他者が想定される内容 のスキーマによって,高揚感の揺らぎが起こると 推測される。「怒りの揺らぎ」因子には,ASQ の 恒常的な見捨てられ・孤独因子が最も有意な影響 を示した。恒常的な見捨てられ感を抱えている者 は,怒り感情が起きやすいことが示唆された。「睡 眠の揺らぎ」因子には,ASQ の他者からの好意に 対するあきらめ因子が有意な影響を示した。よっ て,他者からの好意が得られないと考えることが, Table 4 ALSの各因子を従属変数とする重回帰分析 ALS 不安抑うつの揺らぎ 高揚感の揺らぎ 怒りの揺らぎ 睡眠の揺らぎ R (R2) .73 (.54)*** .59 (.35)*** .57 (.33)*** .47 (.22)*** ASQ F1 .27*** .10 .34*** .07 F2 .29*** .26*** .26*** .12† F3 .35*** .36*** .12 .36*** ***p⬍.001 p⬍.10 注.F1⫽ 恒常的な見捨てられ・孤独,F2⫽ 親密な関係に対するしがみつき・同一視,F3⫽ 他者からの好意に対するあきらめ Table 3 ASQと ALS,PDQ-R,SCID の Pearson の積率相関係数,平均値 (M),標準偏差 (SD)

ALS PDQ-R SCID 合計点 不安抑うつ 高揚感の 怒りの 睡眠の 合計点 行動化 行動化 M SD の揺らぎ 揺らぎ 揺らぎ 揺らぎ 得点 得点 ASQ 合計点 .69*** .73*** .57*** .57*** .45*** .49*** .16* .43*** 33.84 9.60 F1 .57*** .61*** .44*** .50*** .38*** .50*** .08 .38*** 10.84 4.24 F2 .46*** .48*** .42*** .38*** .27*** .22*** .19** .33*** 11.21 3.37 F3 .63*** .67*** .54*** .48*** .46*** .46*** .13* .34*** 6.35 2.25 ***p⬍.001 **p⬍.01 *p⬍.05 注.F1⫽ 恒常的な見捨てられ・孤独,F2⫽ 親密な関係に対するしがみつき・同一視,F3⫽ 他者からの好意に対するあきらめ

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睡眠を妨害する要因のひとつとなる可能性がある。 次に,ASQ 合計点と PDQ-R 得点との関連につ いて検討した結果,調査 2 と同様,ASQ は,PDQ-Rに対して,有意な相関係数を示した (r⫽.49, p⬍ .001)。各下位因子を検討したところ,ASQ の各下 位因子の中で,最も高い相関を示したのは恒常的 な見捨てられ・孤独因子であり (r⫽.50, p⬍.001), 最も低い相関を示したのは親密な関係に対するし がみつき・同一視因子であった (r⫽.22, p⬍.001)。 これは,調査 2 と同様の結果である。しかしなが ら,PDQ-R の行動化項目の総得点と ASQ 合計点 は,有意ではあるものの,相関係数は低い値で あった (r⫽.16, p⬍.05)。さらに,恒常的な見捨て られ・孤独因子については,有意な相関が示され なかった (r⫽.08, n.s.)。一方,SCID の行動化項目 合計得点と ASQ 合計点とは,有意な中程度の相 関を示した (r⫽.43, p⬍.001)。このように,PDQ-R の行動化得点より SCID の行動化得点の相関が高 くなったことには,PDQ-R の項目にはギャンブル や飲酒など多くの大学生が経験しやすい行動が含 まれていたことが関係しているかもしれない。一 方 SCID では,しがみつきや対人関係の不安定さ など,BPD に特徴的とされるような行動が項目に 多く含まれていたため,ASQ との相関が PDQ-R よ りも高く得られたと考えられる。

ASQの得点と ALS,PDQ-R および SCID の得点 との関連を検討した結果,ASQ の各下位因子に よって強く関連する BPD 周辺群の徴候が異なるこ とが示された。これは,感情の不安定性や各行動 化において,ASQ の各下位因子の役割が異なる可 能性を示唆しているといえる。 パス解析 ASQ→ALS→ 行動化という因果関係 を検証するために,パス解析を行った。なお,行 動化指標については,相関分析から,PDQ-R の行 動化得点よりも,SCID 行動化得点の方が,BPD 傾向をよく捉えている可能性が示された。よって, パス解析では SCID 得点のみを行動化指標として, モデルに投入した。さらに,パス解析におけるモ デルの男女の相違を検討するため,全てのパス係 数に等値制約を課さないモデル (Model 1) と,全 てのパス係数に等値制約を課すモデル (Model 2) を設定し,多母集団同時分析によるモデルの検証 を行った。モデルの採択の指標として,AIC およ び BCC を用い,モデルの適合度の指標として, GFI, AGFI, CFI, RMSEA を用いた。 分析には Amos 5.0を用いた。 パ ス 解 析 の 結 果 , Model 1 は , AIC⫽59.12, BCC⫽62.33,GFI⫽.99,AGFI⫽.92,CFI⫽1.00, RMSEA⫽.05,c2(2)⫽3.12 という値を示し,Model 2は , A I C⫽53.42, BCC⫽55.36, GFI⫽.97, AGFI⫽.93,CFI⫽.99,RMSEA⫽.05,c2(13)⫽19.42 という値を示した。この結果から,モデル適合度 は両モデルとも高い値であることが確認された。 さらに,AIC および BCC の値において,Model 2 の方が Model 1 よりも低い値を示したことから, Model 2を最良のモデルであると判断した。 よっ て,男女でモデルの傾向が異ならない Model 2 を 採択した。

採択した Model 2 を Figure 1 に示す。Model 2 を検討すると,ASQ の全ての因子は,ALS に対し て有意なパス係数を示した。さらに,ALS から行 動 化 に 有 意 な パ ス 係 数 が 示 さ れ た こ と か ら , ASQ→ALS→ 行動化という因果モデルが支持され たといえる。さらに,ASQ の恒常的な見捨てら れ・孤独因子から行動化に直接影響を与えるパス 係数は,恒常的な見捨てられ・孤独因子から ALS を媒介して,行動化に影響を与えるパス係数より も若干高かった。このことから,恒常的な見捨て られ・孤独因子は,感情の不安定性を媒介して行 動化に影響を与える場合と,直接的に行動化に影 響を与える場合が考えられる。一方,ASQ の親密 な関係に対するしがみつき・同一視因子は,行動 化に直接影響を与えるパス係数は ALS を媒介する パス係数よりも低く,他者からの好意に対するあ きらめ因子は,行動化に直接影響を与える有意な パス係数は示されなかった。よって,この 2 つの

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因子は,主に感情の不安定性を媒介して行動化に 影響を与えていると考えられる。 これらのことから,見捨てられスキーマが揺れ 動く感情のトリガーとなり,感情の不安定性を介 して各行動化に影響を与えているという仮説は概 ね支持された。

総合的考察

本研究では,BPD 周辺群を対象として,認知行 動理論的な視点から見捨てられスキーマに注目し, 見捨てられスキーマと BPD 周辺群が示す BPD の 徴候との関連性を実証的に検討した。 調査 1 と 2 では,ASQ を作成し,十分な信頼 性・妥当性を確認した。また,探索的因子分析と 確証的因子分析の結果,ASQ は 3 因子構造が妥当 であることが示された。先行研究における見捨て られスキーマを測定する尺度は 1 因子構造であっ たため,ASQ の 3 因子の内容が混在していたもの と考えられる。 3因子構造が得られた理由として,本研究が, 見捨てられスキーマに関連する項目を広範に収集 し,既存の尺度より多くの項目数を確保したこと が挙げられる。さらに,欧米との文化差の影響も 考えられるため,今後検討が求められる。 本研究において ASQ を作成し,混在していたス キーマの内容が分類されたことによって,見捨て られスキーマを詳細に検討する包含的な尺度が得 られたといえる。本研究によって,BPD 周辺群に 特徴的なスキーマを客観的に同定する指標が得ら れたことは,認知行動的アプローチを行う上で有 用なツールになると考えられるため,意義深い。 さらに,因子分析で得られた各下位因子の項目 内容から,親密な関係に対するしがみつき・同一 視因子と他者からの好意に対するあきらめ因子は, 親密な対象を想定した内容であると解釈できる。 このことから,これらの 2 因子は,親密な対象に なると行動化が激化すると言われている BPD の特 徴と関連がある可能性がある。よって,BPD 周辺 群に特徴的な対人関係上の問題については,親密 な関係に対するしがみつき・同一視因子と他者か らの好意に対するあきらめ因子のスキーマに介入 することが,問題解決の足がかりになると考えら れる。 続いて,調査 3 の相関分析において,ASQ が見 捨てられ不安項目のみならず ALS,PDQ-R,SCID とも有意な相関を示したことから,見捨てられス キーマは,見捨てられ不安だけではなく,感情の 不安定性,BPD 傾向や行動化など,様々な BPD の特徴とも関連があることが明らかとなった。 よって,見捨てられスキーマは BPD 周辺群の徴候 の中核部分に位置すると考えられることから, BPD周辺群の研究において見捨てられスキーマを Figure 1 パス解析の結果

(12)

検討する重要性を支持する結果が得られたといえ る。特に,調査 3 の相関分析の結果,ASQ と ALS は 高 い 相 関 係 数 を 示 し た こ と か ら (r⫽.73, p⬍ .001),見捨てられスキーマと感情の不安定性は高 い関連性があることが示唆された。また,パス解 析の結果では,見捨てられスキーマが感情の不安 定性のトリガーとなり,BPD に特徴的な行動化に 至っている可能性が示された。よって,感情の揺 らぎを引き起こさないためには,見捨てられス キーマに介入することが有効であることが示唆さ れたといえる。これは,認知的介入が BPD 周辺群 の徴候の改善に効果があると考えられるというこ とであり,認知行動理論の考え方に沿うものであ る。 また,調査 3 の相関分析とパス解析の結果から, 特に ASQ の恒常的な見捨てられ・孤独因子が,行 動化を中心とする BPD 傾向に強く関連している可 能性が示唆された。さらに,調査 3 の重回帰分析 の結果,ALS の各下位因子によって,強く関連す る ASQ の下位因子が異なることが示された。以上 のことから,ASQ の各下位因子によって強く関連 する BPD 周辺群の徴候が異なる可能性が示された といえる。よって,今後は見捨てられスキーマの 各下位因子が BPD 周辺群の徴候にどのように影響 しているかを詳細に検討することで,各徴候に合 わせて介入の標的を絞ることができると考えられ る。 また,本研究の結果から,BPD 周辺群において も,感情の不安定性や行動化などの BPD の特徴 から,機能不全に至っている可能性が示された。 よって,BPD 周辺群に対して,BPD の徴候の悪化 を防ぐという予防的観点は重要であり,カウンセ リング的な立場に立った本研究の意義は立証され たといえるだろう。 本研究の課題としては,対象が大学生に限られ ていることが挙げられる。したがって,対象の範 囲を広げ,ASQ の大学生以外の適応可能性を検討 することが求められる。 引用文献

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—2009.9.25受稿,2010.6.2 受理—

The Effect of Abandonment Schema on

Borderline Personality Features

Mamiko I

GO1

, Mikako Y

AZAWA2

and Kaneo N

EDATE3

1Graduate School of Human Sciences, Waseda University 2Advanced Research Center for Human Sciences, Waseda University

3Faculty of Human Sciences, Waseda University

THEJAPANESEJOURNAL OFPERSONALITY2010, Vol. 19 No. 2, 81–93

This study investigated the relationship between abandonment schema and borderline personality features from the standpoint of cognitive behavioral theory. In Studies 1 and 2, the authors developed the Abandon-ment Schema Questionnaire (ASQ) and examined its reliability and validity using a sample of 452 university students. Factor analysis of the ASQ yielded three factors: “Persistent abandonment and loneliness,” “Ob-session and identification with significant others,” and “Disappointment with affection from others.” The re-sults showed that the ASQ had adequate reliability and validity. In Study 3, the authors examined the rela-tionship between abandonment schema and borderline personality features. A survey was conducted using a sample of 253 university students. Analysis of the results was consistent with a causal model indicating that abandonment schema affect BPD features of acting out via affective dysregulation. Future studies are needed to examine whether the ASQ is applicable to populations other than university students.

Table 2 ASQ と見捨てられ不安項目,PDQ-R,SDS の Pearson の積率相関係数,平均値,標準偏差

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