熊本県緑川の川原の石の教材研究
―溶結凝灰岩を鍵にした小学校理科の単元構想と授業実践―
A study on river bed gravels of Midori River in Kumamoto as science teaching materials
- Unit plan and lesson practices in elementary science with a welded tuff as a key -
井手上 光博 渡邉 重義
IDEUE,Mitsuhiro WATANABE,Shigeyoshi 熊本大学大学院教育学研究科 熊本大学教育学部
Graduate School of Education, Kumamoto University Faculty of Education, Kumamoto University
[要約] 緑川の特徴を生かした,単元構想,教材開発を行い,第5学年の「流水の働き」の授業実践を通して地 域教材としての「緑川」の活用方法とその効果,および溶結凝灰岩の教材としての有用性などを検証した。授業 実践の結果,次のことが明らかになった。①生活の場にある地域の川と流水の働きを結びつけた学びを導くこと ができる。②溶結凝灰岩は,緑川の流水の働きを考えるときの教材として利用可能である。③溶結凝灰岩の侵食 されやすさ,大きさの違いを有効に活用するための教材開発が必要である。 [キーワード]緑川,川原の石,溶結凝灰岩, 野外活動,緑川ガイドマップ 1.はじめに 小学校理科B区分の「生命・地球」では,身の回り の事物・現象として地域素材が扱われることが多い。 川は地域素材の一つであり「流水の働き」(第5学年) や「土地のつくりと変化」(第6学年)の学習内容に関 連がある。 井手上・渡邉(2012)では,熊本県の中部を流れる 一級河川の緑川(全長 76km)を地域素材として選択し, 「流水の働き」「土地のつくりと変化」の学習に活用す るための教材研究を行った。教材研究の観点は,次の 3点である。①小学校理科教材として活用を視野に入 れて緑川の教材としての特徴を明らかにする。②川原 の石,特に溶結凝灰岩に注目した教材研究を行う。③ 溶結凝灰岩を鍵にした第5学年と第6学年の学習内容 のリンクを試みる。 本研究では,教材研究で明らかにした緑川の地域教 材としての特徴を生かした単元構想,教材開発を行い, 第5学年「流水の働き」の授業実践を通して,地域教 材の活用方法とその効果,および溶結凝灰岩の教材と しての有用性などを検証した。 2.緑川と川原の石に関する教材研究 1)緑川の特徴と川原の石 緑川本流の川原では,堆積岩の礫岩,砂岩,泥岩, チャート,石灰岩,粘板岩,酸性凝灰岩,輝緑凝灰岩, 火成岩の花崗岩,斑岩,閃緑岩,安山岩,溶結凝灰岩, ひん岩,変成岩の結晶片岩,結晶質石灰岩,蛇紋岩な ど多種類の石が観察された(井手上・渡邉 2011)。緑 川流域の地質の多様性が,川原の石の種類の豊富さに 反映している。溶結凝灰岩は,緑川の川原でよく観察 される岩石の一つであり,緑川の教材化の鍵として利 用可能な特徴を持つことがわかった(井手上・渡邉 2011)。 2)緑川の溶結凝灰岩 緑川の川原で採取した溶結凝灰岩には,見た目が異 なるものがあったので,本質レンズの扁平が顕著なA タイプ,本質レンズは比較的小さく丸みを帯びている Bタイプ,本質レンズが確認できないCタイプに分類 した(井手上・渡邉 2012)。火砕流堆積物の模式的岩 相変化(渡辺 2011)に対応させると,本質レンズの形 状から見たAタイプは強溶結部,Bタイプは弱溶結部, Cタイプは強溶結部の最下部が侵食されてできた岩石 ではないかと考えることができる。 緑川の川原の溶結凝灰岩の大きさをライン法で調べ た結果,上流域(河口から 31 ㎞)の調査地点では,握 りこぶし大(20 ㎝程度)より小さな溶結凝灰岩が 60% を占め,中流域(河口から 21 ㎞)の調査地点では 90% 科教研報 Vol.27 No.1
になった(井手上・渡邉 2012)。緑川では,溶結凝灰 岩の大きさに着目すると,数値データを根拠とした流 水の働きの学習が行えるのではないかと考えられる。 3.授業実践について 1)授業実践の概要 2012 年 10 月 1 日から 10 月 29 日にかけて,緑川上 流に位置する,熊本県美里町立R小学校(全校児童 50 名)の第5学年1学級5名のクラスで「流れる水のは たらき」の授業(全 15 時間)を行った。ここでは,1 次「緑川上流の観察」の1・2・3時『野外活動』と, 4次「緑川の上流・中流・下流の石の観察」の2・3時 『緑川ガイドマップづくり』を中心に報告する。 2)単元構想および主な開発教材 ①単元構想 緑川の溶結凝灰岩は,その特徴から小学校5年「流 水の働き」と小学校6年「土地のつくりと変化」の学 習を結びつける教材として利用可能である。また,「流 水の働き」では,緑川を地域教材として活用するため の鍵になると考えられる。そこで,授業実践に向けて, 「流水の働き」の教材をリンクするための鍵として, 溶結凝灰岩を利用するための単元構想図を作成した (井手上・渡邉 2012)。 単元構想図の概要を説明する。単元全体および野外 学習のためのオリエンテーションを1時間行ったあと, 1次「緑川上流の観察」,2次「流水の働きについての モデル実験」,3次「緑川の上流・中流・下流と土地の 様子の観察」,4次「緑川の上流・中流・下流の石の観 察」,5次「川とわたしたちのくらし」を行い,最後に 単元のまとめを1時間実施する。単元全体を貫く項目 として,科学的な知識・理解に関する目標である「侵 食」「運搬」「堆積」の欄を設けて,小単元の学習と3 つの作用との関連性の強さを,それぞれ「◎」「○」で 表した。そして,もう一つの,小単元の学習を結び付 ける鍵として「溶結凝灰岩」の欄を設け,溶結凝灰岩 が各小単元のどのような学習内容と結びつくのかを簡 潔に示した。また,各小単元の学習で重要となる用語 を四角で囲み,それらを線で結んで学習のつながりが わかるようにした。 ②主な開発教材 単元構想をもとに学習指導案を作成した。また,教 材研究の成果を活用して,表1に示すような教材を作 成した。 表1 授業で使用した主な教材 毎時間使用するワークシートには,教材研究で得た 写真データを活用し,地域教材として緑川の様子や川 原の石を繰り返し児童に提示できるようにした。また, 大雨時の緑川の様子がわかる写真や映像も準備した。 映像教材は,緑川の様子から,流水の運搬作用につい て実感を伴う理解を導く効果が期待できる。 3)緑川上流の観察(野外活動)・10 月2日実施 ①野外活動の目的と計画 単元の第1次に緑川の上流を観察する野外活動を位 置づけた。野外活動の場所には,学校に近い美里町の 内大臣と山都町の津留を選んだ。この2地点には,登 下校用のマイクロバスを利用すれば,学校から約 15 分で到着することができる。 内大臣橋と津留橋からの緑川上流の観察,川原での 石拾いは,児童にとって直接経験となり,川の上流に ついての実感を伴う理解を導くだけでなく,第2次以 降の学習と関連づけることができる。 次 時 使用した主な教材 1・2・3 緑川調査隊地図,観察記録用 WS①,石拾い 用サンプル写真(図1) 1 4 大雨時の緑川観察記録用 WS②,大雨時の映 像(津留) 1・2 流水実験道具(2セット),流水実験用記録 用 WS③ 2 3 流水実験の結果の記録と「侵食・運搬・堆積」 の学習用 WS④,流水実験時の写真と映像 3 1 緑川の上流・中流・下流の観察用写真,緑川 全体がわかる衛星写真(Google earth より), 緑川の観察記録用 WS⑤,緑川の勾配図 1 緑川の立体地図(熊本河川国道事務所),緑 川の上流・中流・下流の石の観察用写真とス ライド,緑川の石の観察用 WS⑥,緑川の大 雨時の映像(七曲) 4 2・3 緑川ガイドマップの台紙,緑川の様子や川原 の石の写真シール,緑川ガイドマップの作成 方法の提示用スライド 5 1 緑川および校区の洪水を防ぐ工夫の観察用 スライド
②実践の概要 1次の野外学習は,午前中の3時間扱いで実施した。 R小学校の第5学年(男子2人,女子3人)と第6学 年(男子5人,女子5人)は,2学年合わせて 15 人の 複式学級である。そのため,野外活動は,2学同で行 った。野外活動は,第6学年の児童にとって,前年度 の学習内容のふり返りの機会になる。また,緑川上流 の土地の様子の観察は「火山活動による土地の変化」, 石拾いは,「地層のつくり」の学習に関連付けることに した。 野外活動では,「内大臣橋からの緑川の様子の観察」 「津留橋からの緑川の様子の観察と記録」「川原の石拾 い」「川原の石の大きさ調べ」の4つ活動を行った。ま ず,遠くから緑川を眺めることで全体的に川の様子を 捉え,徐々に川に近づき,最後は川原で活動するとい うように児童と緑川の距離感を近づけていくことを意 識した活動の展開にした。 ③実践の結果と考察 ア.津留橋からの緑川の観察と記録 児童にとって川を対象とした観察は,漠然としてい るため,観察するポイントや記録の方法を具体的に示 す必要がある。そこで,津留橋の上流・下流の風景の アウトラインを示した図を準備して,そこに川の水, 川原の石などをスケッチできるようにした。また,水 量,水の色,流速,川原の様子といった観察のポイン トを指摘した。 児童5人のうち,3人が津留橋から上流(東)側を, 2人が下流(西)側を観察して記録した。児童の観察 記録をみると,川の縁(水位)は線で表され,川原や 川の中にある石が描かれていた。川の縁については, 下流側を観察した児童の1人は,線で明瞭に記すこと ができていなかった。石の大きさは,絵のみで表現し た児童が2人で,他の3人は,「大きい」「小さい」「中」 「小」など,絵に言葉を添えて記していた。水の色に ついては,児童1名を除いて,「緑」「エメラルドグリ ーン」「にごった」のいずれかの言葉を用いて記録して いた。流速については,「速い」の言葉を3人が使い, そのうち2人は,「外側」という言葉と一緒に用いてい た。川の流れの様子を表現するため,川の中に,水の 流れの方向に数本の線を描いた児童が4人いた。川原 の様子については,石を敷き詰めるように詳しく描い たり,石の大きさの違いを描き分けたりしていた。石 の形は,四角や丸で表現されていた。また,上流側に 見られる崖を4人,堰を3人,下流側に見られる護岸 のコンクリートを4人の児童が言葉で記していた。 イ.川原の石拾い 津留は上流でありながら,握りこぶし大の石が多く, 多様な種類の岩石が採取しやすい場所である。津留の 川原では, 12 種類の岩石が採取可能であることがわ かっている(井手上・渡邉 2011)。 市販のプラスチック製のツールボックスを1人に1 個ずつ準備して,採取した岩石を入れる容器にした。 採取する岩石は,礫岩,砂岩,泥岩,花崗岩,石灰岩, 溶結凝灰岩の6種類にした。礫岩,砂岩,泥岩は,6 年の地層の学習の堆積岩に関連があり,花崗岩と石灰 岩は,模様や色が目立つので採取しやすいと思われた ので選んだ。溶結凝灰岩は,5年「流水の働き」と6 年「土地のつくりと変化」の学習内容のリンクで鍵に なるので選んだ。 A B 図1 石拾い用サンプル写真 A:表,B:裏
石の種類を同定するために,実際に津留で採取した 石を撮影したA5サイズの写真(図1)を1人に1枚 ずつ準備し,教師も岩石の同定を手伝った。 児童は,意欲的に石を採取していたが,種類の同定 は容易ではないようであり,石の名前を教師に聞きに 来る児童が多かった。児童が採取した岩石の種類数を 調べたところ,11 種類が 1 人,10 種類が4人いた。6 種類以上採取できた児童は,10 人であった。15 人全員 が,6種類以上の岩石を採取することはできたが,教 師が指定した6種類の岩石を採取できていない児童は, 6年生が7人,5年生が2人であった。6種類の岩石 の中で,採取できない人数が最も多かった(6人)の は,礫岩であった。これは,津留の川原では,礫岩の 数が少なかったためではないかと考えられる。 溶結凝灰岩は,本質レンズを含むため児童にとって 区別しやすいのではないかと思われた。児童が採取し た岩石を調べてみると,15 人全員が,溶結凝灰岩を採 取できていた。溶結凝灰岩を2個以上採取している児 童もいた。溶結凝灰岩の個数をタイプ別にみると,A タイプのものが 14 個と多く,A,Bの混ざったタイ プが9個,Cタイプが 7 個,Bタイプが3個であった。 川原にある溶結凝灰岩は多様で,本質レンズが目立た ないCタイプのものもあるため,Cタイプを採取した 児童は,溶結凝灰岩と同定できなかったかも知れない。 そこで,緑川で石拾いの活動を行うならば,Cタイプ の石は扱わないようにする方法も考えられる。 野外活動後の5年生の児童の感想を表2に示す。ワ ークシートの学習の感想欄では,「わかったこと,疑問 に思ったこと,もっと知りたいことを書きましょう」 と質問した。 感想の内容をみると,全員が石に関連した記述を行 っていた。一方,川や川原の様相に関する内容を書い た児童は2人だった。石に対する児童の興味・関心は 高まったと考えられるが,具体的な石の名前を記述し ている児童はいなかった。児童cの「川の中やまわり に石がなぜ落ちているのか不思議に思った」という感 想は,「侵食・運搬・堆積」についての問題解決につな がるものである。そこで,児童の側から出た疑問を生 かすために,次時の流れる水の働きを予想する学習で 取り上げた。 表2 野外活動後の児童の感想 4)緑川のガイドマップづくり・10 月 19,22 日実施 ①緑川ガイドマップづくりの目的 「流れる水のはたらき」の単元のまとめとして,「緑 川ガイドマップづくり」を2時間扱いで行った。緑川 ガイドマップには,2次以降で学習した内容が反映さ れるため,単元の学習の総合的な評価が可能である。 そして,児童が自分の言葉で表現した内容から,地域 教材としての「緑川」の有効性と溶結凝灰岩が教材と して機能したのかが判断できる。 ②実践の概要 学習成果を緑川ガイドマップとしてまとめるために は,学習してきたことの視点を反映させたり,まとめ たりする方法のヒントが必要になると考えた。そこで, 緑川ガイドマップ作成のために緑川の地図を書き込ん だB4の台紙1枚と,学習に使用した緑川や川原の石 の様子を示した 16 枚の写真と緑川の勾配図が載って いるシールタイプのA4用紙 1 枚を準備した。そして, つくり方の手順をスライドや板書で示し,ガイドマッ プづくりのための観点を2つ与えた。1つ目は,知ら ない人が見たり読んだりしても,川の様子や川原の石 の様子がわかるようにまとめる。2つ目は,流れる水 児童 感想の内容 a 石の穴は,どうやってできたのか疑問に思った。石と石 でパズルみたいにしてもおもしろいと思った。大きくて も小さくても種類が変わらないという所がおもしろか った。石は違っても種類は同じという所がおもしろかっ た。 b いろんな石があり,模様まで様々でとても楽しく勉強に なった。金が入っているような石や白色の石があってお もしろかった。他にも砂岩など,面白い形の石,いろい ろ楽しく,おもしろく,いろんな体験ができた。 c 川原には,小さい石しかないと思ったけど大きな石もた くさんあったのでびっくりした。石はいろいろな種類が あったのでおもしろかった。川の中やまわりに石がなぜ 落ちているのか不思議に思った。 d 最初は川原の石がどういうものかなと思いました。でも 川原に行って石を見たらすごい形をしている石もあり ました。また石を見つけたら,この石は何だろうかと想 像してみたいです。 e 今日の学習で思ったことは,石拾いでの石の名前,特徴 がよくわかりました。内大臣,津留橋の下の川の流れ, 色,形などもわかりました。土地の利用がよくわかりま した。
のはたらきのキーワードを使うである。キーワードと して,侵食・運搬・堆積,流れの速さ,川幅,川原の 広さ,石の大きさや形を表す言葉を例に挙げた。 児童は,緑川ガイドマップに使用する写真を 16 枚の 中から自由に選んで切り取ったあと,写真を台紙の上 に並べてレイアウトを考えた。レイアウトを考える際, 川の特徴,石の大きさ,形の違いと緑川の上流・中流・ 下流の関係を意識しながら,台紙上の写真を並び替て いたようである。レイアウトが決まると,写真シール を貼り,説明を書き加えていった。 ③実践の結果と考察 児童bが作成した緑川ガイドマップを図2に示す。 児童bは,本単元の学習内容に興味・関心が高く,緑 川ガイドマップづくりにも意欲的に取り組んでいた児 童の 1 人である。「侵食」という用語が,上流の写真に 添えられ,「堆積」が,中流と下流の写真の説明に用い られていた。上流の大きな写真は,「水に侵食されてご つごつしている」と説明されていることから,「石」「水」 「侵食」が捉えられていると考えられる。石の形の表 現に注目すると,上流の石は「ごつごつ」,中流や下流 の石は「丸い」という表現が用いられていた。 石の大きさについては,上流の石も中流の川原の石 も「大きく」と表現されていて,区別されていなかっ た。下流の石には「小さい」という表現がなされてい た。川の上流と下流を比較するような表現を見ると, 児童bは,川の上流において「流れが速い」と説明し ていたが,下流の流速に触れた説明はなかった。他の 児童の中には,下流の流速について「ゆるやか」「おそ い」と表現した者もいた。 児童bのガイドマップでは,上流の柱状節理の写真 と川原の大きな石の写真が線で結ばれていた。この結 びつきは,川岸の崖が崩壊して石ができることを表し ていると考えられる。このような川原の石の誕生に注 目した説明は,児童cのガイドマップにも見られた。 児童cは,上流の川岸にみられる柱状節理の写真と上 流の川の様子を表す写真を線で結び,「崖が侵食された 様子がわかる」「侵食された石が運搬され堆積する」と 説明していた。「運搬」という用語は,5人の中で児童 cのみが用いていた。 図2 児童が作成した緑川ガイドマップ(児童b)
溶結凝灰岩の言葉に注目すると,緑川ガイドマップ に,児童bを含めて3人が使用していた。3人とも内 大臣橋下の柱状節理が顕著な露頭の写真の下に書いて いた。これは,授業中に同じ露頭の写真を紹介し,溶 結凝灰岩からできていることを解説したためではない かと考えられる。溶結凝灰岩という言葉は,児童に馴 染みがなく,難しい用語であろう。しかし,単元の学 習を進めていくうちに,児童が使用できるような用語 になったと考えられる。 5)事前・事後調査の比較 本単元では児童の実態把握のためのアンケートを単 元導入時と最終時の2回実施した。アンケートでは, 描画法を用い,その中に,川の絵を完成させる課題を 入れた。児童eが描いた川の絵を図3に示す。 単元導入時(A)は,川の近くに大きさや形が似た 石が無造作に描いてある。単元最終時(B)では,曲 がった川の内側に川原があることから堆積作用が意識 され,外側に崖が描かれていることから,侵食作用が 意識されていると考えられる。崖が描かれた理由とし ては,資料学習で用いた露頭の柱状節理の写真,Google earth の衛星写真,緑川ガイドマップづくりの影響が 考えられる。また,護岸ブロックが描かれているのは, 「洪水を防ぐ工夫」の学習が印象深かったと考えられ る。児童eの家の近くには砂防ダムがあり,洪水を防 ぐ施設が身近にあることを改めて知ったことも一因に なっている。 4.今後の課題 本単元の学習は,野外活動に始まり流水実験で侵 食・運搬・堆積の作用を見出し,緑川と流水による3 作用を結びつけた学習展開とした。今回の授業実践で は,曲がった川の外側と内側の侵食・堆積作用につい て野外活動や流水実験で確認することができなかった。 本研究では、野外活動を 1 次の最初に持ってきたが, 川の曲がり方や流速と流水の作用との関係を野外観察 で検証するためには,単元の中盤あるいは終盤に位置 づける展開も考えられる。 今回の授業実践から,流れる水のはたらきについて のまとめでは,石についての表記が目立つことがわか った。野外活動で上流域の川原や露頭の溶結凝灰岩を 目にしたり,触れたりといった体験により,石に対す る印象が深まったのではないかと考えられる。一方で, 「石」に対し,「水」という用語が事後アンケートなど で用いられることは少なかった。事象として観察した 川原の石から,流水の働きへとどのように展開させる かが,今後の課題になる。また,緑川の特徴や溶結凝 灰岩を生かした教材を生かしつつ「水」に焦点をあて た単元構想も必要になるであろう。 川原 ブロック がけ 図3 単元導入時(A)と単元最終時(B)の川の絵(児童e) A B 参考文献 (1)井手上光博・渡邉重義(2012)熊本県緑川の川 原の石の教材研究―溶結凝灰岩を鍵にした小学校 理科教材のリンク―.熊本大学教育学部紀要,自然 科学第 61 号,47-56.印刷中 (2)井手上光博・渡邉重義(2011)小学校理科にお ける地域の川の教材化―川原の石の教材研究―. 日本科学教育学会研究会研究報告,26(2),33-36. (3)渡辺一徳(2001)一の宮町史 自然と文化 阿 蘇選書⑦阿蘇火山の生い立ち.一の宮町,126. (4)渡辺一徳(1989)石材としての阿蘇溶結凝灰岩. 熊本地学会誌,91,6-12. (5)藤本雅太郎(1989)谷に流下し山脈を越えた阿 蘇火砕流堆積物.地学研究,38,65-74. (6)横山勝三(1983)大型火砕流堆積物の地形とそ の諸問題.熊本地学会誌,74,2-8.
校庭の樹木を活用した探究学習のための教材化
The trees in the schoolyard as science teaching materials for inquiry
永田昌大 渡邉重義NAGATA,Masaki WATANABE,Shigeyoshi 熊本大学教育学部
Faculty of Education, Kumamoto University
[要約] 校庭の樹木を活用した探究学習を行うための基礎調査と教材開発を行った。熊本大学教 育学部附属小学校の校庭の樹木について調査した結果,次のことがわかった。①附属小学校の校 庭には 55 種の樹木があり,その約半分は熊本市内の小学校でよく植栽される樹木と共通していた。 ②イチョウ,クスノキ,チシャノキの大木,クロガネモチの並木,バクチノキ,オオイタビなど の校庭の樹木としては稀な木が附属小学校では印象的であり,教材化の対象になる。③校庭で観 察された幼木の分布調査は,校庭の特徴を生かした探究活動のテーマになる。 [キーワード] 校庭の樹木,探究学習,教材化,分布調査 1.研究の目的 児童にとって最も身近にあって触れ合うことの できる自然は,校庭の自然である。校庭には様々 な樹木が学校ごとに植栽されており,児童も毎日 目にしている。小学校の理科では,3 年の太陽と かげの動きや 5 年の生命のつながりの学習などに 樹木を活用した活動がある。また,4 年の季節の 移り変わりの学習では,一年間を通して植物を観 察するときに,サクラなどの樹木が利用されるこ とがある。しかし,現行の小学校理科のカリキュ ラムでは,樹木について直接学習するような内容 はほとんどない。身近な自然である校庭の樹木は, 理科教育として十分に活用されているとはいえな いであろう。 そこで,本研究では校庭の樹木を理科教育とし て活用することを目的として,校庭の樹木調査と 教材化を行った。学校に植栽されている校庭の樹 木の種類は共通しているものも多いが,学校の所 在地,敷地の広さ,設立からの年数等によって, 樹木の種類や分布に違いがあるのではないかと考 えられる。したがって,校庭の樹木の実態に応じ た教材化が必要であり,そのための基礎調査も重 要になる。また,本研究では,学習指導要領(2008) で重視されている探究的な学習のための教材とし て校庭の樹木を利用することを試みた。 2.調査方法 校庭の樹木調査は,熊本大学教育学部附属小学 校で行った。附属小学校は熊本市の中心街に近い 住宅街にあり,同じ敷地内には附属中学校が隣接 している。本研究では,附属小学校の校舎および 運動場周辺の校庭に生えている樹木を調査対象に した。 樹木の調査は,2012 年 3 月 26 日,4 月 22 日, 6 月 28 日,9 月 6 日の 4 回行い,校庭内に生えて いる樹木の種類,植えられている場所を調べて, デジタルカメラで形態などを記録した。植えられ ている場所の調査には,Google 地図をトレースし て作成した校庭の白地図を利用して,確認した場 所に印をつけて記録した。樹木調査において,植 栽されたものとは異なる芽生えや幼木が観察され たため,2012 年 9 月 13 日,10 月 4 日,10 月 11 日,10 月 19 日の 4 回は,校庭内の幼木と種類と 分布を調査した。 科教研報 Vol.27 No.1
3.結果と考察 1) 熊本大学教育学部附属小学校の樹木の種類 調査の結果,附属小学校の校庭では,裸子植物 9 種,被子植物 46 種の合計 55 種の樹木を確認す ることができた(表1)。このうち 53 種は植栽さ れたものと考えられるが,山地に自生するイヌビ ワ,つる植物のテイカカズラは他所からの種子散 布によって生えてきた可能性が高い。附属小学校 の校庭の樹木では,春には美しく目立つ花を咲か せるハナミズキやサクラが児童の目に留まりやす いであろう。秋から冬にかけて赤い実をつけるク ロガネモチの並木,運動場の東側にある大きなイ チョウ,正門から玄関にかけての道の南側にある クスノキの大木,給食センターの北側にある「い こいの森」にあるチシャノキなどが,児童にとっ て印象の残りやすい樹木ではないかと考えられる。 熊本大学教育学部附属小学校の校庭の樹木調査 は,2004 年にも行われている(正元ほか 2004)。 そのときの調査では,52 種の樹木が確認されてい る。そのうち本研究で確認された樹木は40 種であ った。2004 年の調査で確認されたセンダン,コブ シ,ニワウルシなどは見つけられなかったが,校 庭の整備・管理の目的で伐採された可能性もある。 本研究で確認したユリノキやムクロジは成木とし て成長しているものであり,2004 年の調査では見 逃したか,調査範囲に入れていなかった可能性が ある。 正元・松尾(1992)は,「緑化コンクールの調 査報告書」を基に熊本市内の小・中学校の校庭に ある樹木種を調べている。熊本市内の小学校(61 校)についての調査結果をみると,1 校当たりの 樹木種の平均は41 種であった。本研究の調査では, 附属小学校で観察できた樹木種は55 種であり,当 時の平均値よりも多かった。熊本市内の小学校全 体で322 種の樹木が報告されていて,全体の 3 分 の1 に相当する 20 校以上で確認された樹木は 52 種であった。本研究の調査結果と比較すると,附 属小学校内の校庭の樹木の 31 種(56%)は熊本 市内の20 校以上にみられる樹木であった。熊本市 内の 20 校以上にあって附属小学校に無かった樹 木は,アオギリ,ウメ,サルスベリ,センダン, メタセコイア,モクレンなど12 種であった。一方, 熊本市内の小学校の2 校以上で見られた樹種には 無く,附属小学校で観察された樹木には,オオイ タビ,バクチノキ,ピラカンサの 3 種があった。 オオイタビはつる性の植物で,附属小学校ではイ ヌマキに巻きついていた。植栽される一般的な樹 木ではないため,緑化コンクールの報告書には記 録されていない可能性もあるが,校庭の樹木とし ては稀であろう。 「校庭の樹木」(岩瀬・川名1991)には,広島県 呉市,大阪府大阪市,千葉県安房君津の調査結果 表1 熊本大学教育学部附属小学校に植えられている樹木一覧 ソテツ(ソテツ科) イチョウ(イチョウ科) ヒマラヤスギ(マツ科) クロマツ(マツ科) ヒノキ(ヒノキ科) ヒヨクヒバ(ヒノキ科) カイヅカイブキ(ヒノキ科) イヌマキ(イヌマキ科) ナギ(イヌマキ科) アラカシ(ブナ科) エノキ(ニレ科) ケヤキ(ニレ科) アキニレ(ニレ科) オオイタビ(クワ科) イヌビワ(クワ科) オガタマノキ(モクレン科) ユリノキ(モクレン科) タイサンボク(モクレン科) クスノキ(クスノキ科) タブノキ(クスノキ科) ゲッケイジュ(クスノキ科) ツバキ(ツバキ科) サザンカ(ツバキ科) アジサイ(ユキノシタ科) サクラ(バラ科) バクチノキ(バラ科) ユキヤナギ(バラ科) ピラカンサ(バラ科) カナメモチ(バラ科) フジ(マメ科) ナンキンハゼ(トウダイグサ科) ユズリハ(ユズリハ科) ハゼノキ(ウルシ科) トウカエデ(カエデ科) ムクロジ(ムクロジ科) モチノキ(モチノキ科) クロガネモチ(モチノキ科) イヌツゲ(モチノキ科) マサキ(ニシキギ科) ニシキギ(ニシキギ科) ハナミズキ(ミズキ科) セイヨウキヅタ(ウコギ科) サツキツツジ(ツツジ科) マンリョウ(ヤブコウジ科) チシャノキ(エゴノキ科) キンモクセイ(モクセイ科) ヒイラギモクセイ(モクセイ科) ヒイラギ(モクセイ科) キョウチクトウ(キョウチクトウ科) テイカカズラ(キョウチクトウ科) キリ(ゴマノハグサ科) サンゴジュ(スイカヅラ科) ハナゾノツクバネウツキ(スイカヅラ科) トウジュロ(ヤシ科) フェニックス(ヤシ科)
を基にして,校庭でよく見られる樹木(33 種)が リストアップされている。附属小学校の樹木では, 21 種(38%)が共通していた。場所ごとに比べる と,呉市,大阪市,安房君津という順に共通する 樹木が多く,校庭の樹木にも地域性が関係してい ることがわかる。共通していた樹種は,ソテツ, イチョウ,ヒマラヤスギ,マツ,クスノキ,サザ ンカ,キンモクセイ,ヒイラギなどであり,これ らの附属小学校に植栽されている樹種を対象にし た教材化を行えば,多くの学校で共通した学習が 実施できるであろう。 2) 熊本大学教育学部附属小学校の樹木の分布 附属小学校の校庭の樹木の分布を図1 に示す。 地図の西側の通りが附属小学校と附属中学校の共 通の入り口になるがその通り沿いにはクロガネモ チがほぼ等間隔で植栽されていた。体育館の南側 と西側にはサザンカ,高学年棟の南側にはカイヅ カイブキ,中央の道沿いにはハナミズキ,トウカ 図1 熊本大学附属小学校の樹木の分布マップ
エデ,イヌマキが並んで植えられていた。附属小 学校の校庭で最も密度高く樹木が植えられていた のは,別紙参照とした南側のエリアで,クスノキ, バクチノキなどの高木が多く見られた。運動場の 南側と東側の塀沿いには,いろいろな種類の樹木 が植えられていた。校庭の北側の附属中学校体育 館の東側のスペースは,「いこいの森」と呼ばれて いて,チシャノキ,クスノキ,ヒノキの高木があ った。体育館北側の塀沿いには,高木のハゼノキ と,中~低木のサクラ,ヒイラギ,サンゴジュな どが見られた。 図2 正門横の成木と幼木の分布図 サザンカ,カイヅカイブキ,クロガネモチのよ うに一列に並べられた植物の分布は,校庭の樹木 の特徴の一つであり,並木になっている状態や理 由が教材化の鍵になるのではないかと考えられる。 クスノキ,バクチノキが植えられている場所は, それら高木の葉が生い茂っているため,木々の下 に暗い場所が生まれている。そこにユズリハ,キ ンモクセイ,アベリアなどの中~低木が植えられ ていて,階層的な構造を観察することができる。 この場所の樹木の根元では,いろいろな種類の幼 木や芽生えが観察できた。運動場の東の端に植え られているイチョウは高木であり,校舎周辺から 眺めたときに最も目立つ樹になっている。「いこい の森」のチシャノキも大木であり,附属小学校を 象徴する樹である。これらの児童にとって目立つ 樹木も教材化の対象になるであろう。 3)幼木を使った探究学習の調査 附属小学校の樹木調査では,クスノキ,バクチ ノキが植えられているエリア,クロガネモチの並 木の下に植えられているツツジの根元,運動場周 辺の樹木と塀の間などで,幼木や芽生えが多く観 察された。幼木や芽生えは植栽されたものではな く,種子が散布され,発芽して,枯死したり刈ら れたりすることなく成長したものと見なされる。 そこで,附属小学校の校庭で,葉の形態などから 同定が可能な大きさの幼木の分布を調べた。図2 に正門から正面玄関に向かう道の南側のエリアに おける成木と幼木の分布を示す。このエリアでは, マサキやツツジなど低木の根元から,別の樹種の 幼木が生えている様子が観察できた。根元から幼 木が生えているのは,他の部分に比べて踏みつけ られたり,抜かれたりすることが少ないためでは ないかと考えられる。校庭全体では,合計27 種の 幼木が確認された(表2)。 27 種のうち,21 種は附属小学校の校庭に成木 が植えられていて,そのうちの14 種については高 木にまで成長していた。したがって,それらの樹 種については,校庭内の樹木の種子散布によって 拡がったものではないかと考えられる。そこで, 特に多くの幼木が見つかった6 種について,その 成木と幼木の分布を分析した。 表 2 附属小学校に生えている幼木一覧 イチョウ イヌマキ アラカシ エノキ ケヤキ アキニレ ムクノキ※1 イヌビワ クスノキ ツバキ バクチノキ カナメモチ ナンキンハゼ ユズリハ センダン※1 ハゼノキ ムクロジ クロガネモチ イヌツゲ マサキ クスドイゲ※1 アオキ※1 セイヨウキヅタ ヤツデ※1 マンリョウ ネズミモチ※1 テイカカズラ ※1 附属小学校に成木がなかった幼木 クスノキの幼木は,運動場の東側の比較的に日 当たりのよい場所で多く確認できた。一方,成木 が多く,日照が遮られている正面玄関の南側のエ リアでは,幼木はほとんど確認できなかった。し たがって,クスノキの種子の発芽と成長には日光 が必要であることが示唆される(図3)。 イヌビワの成木は,2 カ所でしか分布していな い。しかし,幼木は校庭内のいろいろな場所でみ
図3 クスノキの成木と幼木の分布地図 図4 イヌビワの成木と幼木の分布地図
図5 バクチノキの成木と幼木の分布地図 図6 エノキの成木と幼木の分布地図
られた。イヌビワの種子は鳥によって散布される ので(叶内 2006),成木と幼木の場所が離れてい るのではないかと考えられる。イヌビワの成木も 鳥による種子散布によって生えてきたものではな いかと考えられる(図4)。 バクチノキの幼木は,高学年棟の北側を除いた 校庭全域で確認することができた。バクチノキの 成木は,南西の一部の場所に集中して生えている ため,鳥などによる種子散布によって拡がってい ったのではないかと推論できる(図5)。 エノキの成木は校庭内に数本確認できたが,実 がなっているのが確認できたのは北東にある1 本 だけであった。しかし,エノキの幼木は校庭全域 で観察された。エノキの実は,多くの鳥によって 食べられるため(叶内 2006),鳥によって種子散 布が行われたのではないかと推察される。運動場 の周辺にある若いエノキの成木も植えられたもの ではなく,鳥による種子散布によって生えたもの と考えられる(図6)。 イチョウの幼木は,運動場の南東に密集してい た。イチョウの雌の成木は,幼木が密集している 近くに1 本あるだけであった。このような分布状 況から,イチョウの種子散布は重力散布であるこ とが容易に推察できる(図7)。 ムクノキの成木は,附属小学校の校庭では観察 されなかった。したがって,校庭で観察された幼 木は他の場所から運ばれてきたものと考えられる (図8)。成木がないので,「この木はどうやって 生えたのか」という疑問を導きやすいであろう。 なお,イヌビワやエノキの場合も,附属小学校の 敷地外から運ばれてきた可能性は十分にある。 4.教材化 熊本大学教育学部附属小学校の校庭の樹木の特 徴を生かした教材化として,幼木の分布調査と, その調査結果を用いた学習が提案できる。分布調 査は,身長の低い児童の視点に合った活動であり, 校庭の自然と直接触れることができる。また,調 査結果を利用した学習では,種子散布の形態を推 察する探究的な学びが導けるであろう。しかし, 樹木の幼木を同定する活動は,児童にとっては容 易でないと考えられ,幼木を調べるためのカード のような教材が必要になる。また,本調査で作成 したような成木の分布図があると,幼木の分布と の対比に活用できる。 幼木を調べる前提として,成木のことをよく知 るための教材化を検討している。附属小学校内で 目立つ樹木および特徴的な樹木の合計11 種(イチ ョウ/カイヅカイブキ/エノキ/ケヤキ/オオイ タビ/クスノキ/バクチノキ/フジ/ムクロジ/ クロガネモチ/チシャノキ)について,形態的な特 徴,校庭内の分布状況などを示すオリジナル図鑑 を作成している。児童の共同的な学習活動として 図鑑づくりを実施することも可能であろう。 5.今後の課題 附属小学校の幼木の分布調査を児童の活動とし て実施するときの教材,学習展開などを構想して, 他の学校も同様の活動が実施できるかどうかを検 討する。また,他の学校についても校庭の植物の 分布調査を行い,附属小学校とは別の観点から教 材化を行いたい。 文献 (1) 正元和盛・高田聖也・前田健吾:「熊本大学 教育学部附属小学校の樹木電子図鑑」,熊本大 学教育学部紀亜,自然科学(53),2004,pp.1-6. (2) 正元和盛・松尾寛子:「熊本市小・中学校の 校内樹木種」,熊本大学教育学部紀亜,自然科 学(41),1992,pp.25-38. (3) 岩瀬徹・川名興:「校庭の樹木」,全国農村教 育協会,1991,pp.134-136. (4) 叶内拓哉:「野鳥と木の実」,文一総合出版, 2006,p.7, p.62.
熊本城公園の石垣に分布するシダ植物の調査と教材化
Application of field study on ferns on the stone walls in Kumamoto Castle Park to science lessons
木村美貴 渡邉重義KIMURA,Miki WATANABE,Shigeyoshi 熊本大学教育学部
Faculty of Education, Kumamoto University
[要約] 熊本城公園の石垣に生えているシダ植物の分布調査を行った。調査の結果,熊本城公園の 71 ヶ所の石垣の 65 ヶ所で 29 種のシダ植物を確認できた。出現率が高い種は,イノモトソウ,ト ラノオシダ,ノキシノブ,カニクサであった。石垣の向きや周辺の環境によって,観察されるシダ 植物の種類が異なっていた。石垣の環境調査とシダ植物の分布調査を組み合わせることで,探究的 な植物の分布調査が行えるであろう。 [キーワード] シダ植物,石垣,分布調査,環境 1.はじめに 石垣は,人が石を積み上げて作った壁であり, 住宅地,寺社,城などでよく目にする。植物の中 には,この人工構造物である石垣に生育するもの がある。石垣は栄養に富む場所ではなく,日中は 乾燥しやすいため,植物の生育にとって適した場 所とは言い難い。また,地面に対して垂直な状態 に適応して,根や茎を伸ばさなければならない。 清掃などによる人為的な撹乱を受けやすい場所で もある。このように植物にとって,厳しい条件下 にある石垣ではあるが,シダ植物の仲間がよく観 察される。そこで,本研究では,熊本城公園の石 垣を調査場所として,そこに生育するシダ植物の 種類と分布を調査した。 2.調査方法 調査場所は,熊本城公園(熊本市中央区)とその周 辺とした。熊本城は,加藤清正が 1607 年に築城 した日本三名城の一つとされる平山城である。武 者返しで有名な石垣の石は,金峰山や周辺の山か ら切り出された輝石安山岩とされている。これら の石垣は西南戦争でも壊れずにほとんどが現在ま で残っているが,保存のため毎年少しずつ積み替 え工事が行われている。また熊本城公園の石垣は, 城の建物自体の基礎となっている 20mを越える 高い石垣だけでなく,熊本城公園周辺の施設との 境界や土地の補強のための石垣もあり,それらの 中には1.5mよりも低い石垣もあった。 熊本城公園内の調査した石垣を図1に示す。石 垣の向きなどを基準として,71 ヶ所に区別した。 調査では,シダ植物の生育場所である石垣全体を デジタルカメラで記録した。また,生育している シダ植物の種類と分布を調べて,熊本城公園の地 図に記録した。野外での同定が困難なシダ植物は, デジタルカメラで形態を記録し,一部の個体は採 集して室内で詳しく調べた。野外調査は,2012 年 8 月 31 日,9 月6日/11 日/19 日/25 日,10 月3日/10日/15 日の合計 8 回実施した。 3.結果と考察 1)石垣のシダ植物の種類 熊本城公園の合計71 ヶ所の石垣で,合計 29 種 のシダ植物を確認した(表1)。表 1 で示した出現 率は,71 ヶ所の中でそのシダ植物が観察された石 垣の割合を示すもので,トラノオシダの場合は, 49 ヶ所(69%)で生育していたことになる。熊本 城公園の石垣でよく観察されたのは,イノモトソ ウ(72%)とトラノオシダ(69%)で,次にノキ 科教研報 Vol.27 No.1
図1 調査場所 (熊本城公園 熊本市中央区) 表 1 熊本城公園の石垣で観察されたシダ植物(出現率) 50%以上の場所で観察されたシダ イノモトソウ 72% トラノオシダ 69% 20-50%以上の場所で観察されたシダ ノキシノブ 39% カニクサ 38% 10-20%以上の場所で観察されたシダ マメヅタ 15% オオイタチシダ 14% ホシダ 14% ヤブソテツsp. * 13% 10%未満の場所で観察されたシダ ホソバシケシダ 8% フモトシダ 1% イヌケホシダ 7% ヒメウラジロ 1% イヌワラビ 7% タチシノブ 1% ベニシダ 4% チャセンシダ 1% コバノヒノキシダ 4% ハカタシダ 1% イヌシダ 3% ヌカイタチシダモドキ 1% トキワトラノオ 3% イノデモドキ 1% ヒメワラビ 3% ゲジゲジシダ 1% マツバラン 1% ヘビノネゴザ 1% スギナ 1% ホウライシダ 1% ツクシイワヘゴ 1% *同定が難しい未成熟の個体があったので,ヤブソテツ sp. とした. シノブ(39%)とカニクサ(38%)が多かった。 熊本博物館植物同好会が 2007 年に行った熊本 城公園の植物調査(熊本博物館植物同好会熊本城 植物調査チーム 2007)では,石垣を含む公園全体 で35 種のシダ植物が確認されている。本研究で確 認した29 種中の 22 種は 2007 年の調査で確認さ れたシダ植物に含まれていた。2007 年の調査結果 になかった7 種は,ホソバシケシダ,タチシノブ, イヌシダ,トキワトラノオ,イノデモドキ,ヘビ ノネゴザ,ツクシイワヘゴである。1967 年,1963 年,1975 年にも熊本城公園の植物調査は行われて いるが(熊本博物館植物同好会熊本城植物調査チ ーム 2007),ホソバシケシダ,イノデモドキ,ヘ ビノネゴザの記録はなかった。 東京で行われた石垣のシダ植物調査(松倉・犀川, 2007)の結果と比較すると,イノモトソウ,ヤブソ テツ,イヌワラビ,トラノオシダ,ホウライシダ, ゲジゲジシダ,ベニシダ,カニクサ,スギナ,ノ
キシノブが共通していた。東京の調査記録にあっ て熊本城公園の石垣で確認できなかった種は,オ オバノイノモトソウ,オウレンシダ,ミゾシダ, ミツデウラボシだった。ミツデウラボシについて は,熊本城公園の土壁で確認している。東京の石 垣調査の結果と比べると,調査範囲は狭く,熊本 城公園1ヵ所だけであったが,確認できたシダ植 物の種類は多かった。 2)熊本城公園におけるシダ植物の分布 調査した71 ヶ所の石垣は,14 ヶ所が東向き, 12 ヶ所が西向き,24 ヶ所が東北東から西北西に かけての北向き,21 ヶ所が東南東から西南西にか けての南向きであった(図1)。石垣の向きごとに 観察されたシダ植物の種数を調べたところ,東向 きが11 種,北向きが 24 種,南向きが 12 種,西 向きが18 種であった。石垣の面積が等しい訳では ないので単純に比較はできないが,北向きの石垣 でシダ植物の種数が多かった。 石垣の向きに関係なく,すべての向きの石垣で 確認できたシダ植物は,トラノオシダ,イノモト ソウ,ノキシノブ,カニクサ,ホシダ,イヌケホ シダの6 種であった。 トラノオシダとイノモトソウは,熊本城公園の 石垣で最も普通に見られたシダ植物である。両種 の分布している場所はほとんど共通していたが, 分布場所が重なっていない場所もあった(図2, 図3)。例えば,場所(41)ではイノモトソウが石垣 の一面に群生しており,トラノオシダはまったく 見られなかった。川沿いの長塀の石垣(67)では, トラノオシダのみが見られた。ノキシノブとカニ クサは,調査した約40%の場所に見られた。ノキ シノブは熊本城の本丸を囲む石垣でよく見られ, カニクサは,藤崎台球場のまわりでよく見られる という特徴があった(図 4,図 5)。ホシダとイヌケ ホシダの出現率は高くなかったが,すべての方位 の石垣に分布していた(図6,図 7)。共通して見 られた場所は(29)と(31)で,分布は重なっていない。 ホシダとイヌケホシダは形態的によく似ているた め,分布場所の違いは,探究学習のよいテーマに なるのではないかと考えられる。 図2 トラノオシダが見られた石垣 図3 イノモトソウが見られた石垣 図4 ノキシノブが見られた石垣
図5.カニクサが見られた石垣 図6 ホシダが見られた石垣 図7 イヌケホシダが見られた石垣 3)シダ植物が生えている石垣の状況 石垣の向きだけでなく,高さや周囲の状態など によってシダ植物の生育状況が異なっていた。シ ダ植物が10 種以上観察された場所は,(12)と(61) であった(図1)。石垣 (12)は西向きであり,西 日を受けて乾燥しやすいと考えられるが,石垣の 上方と前方に樹木が生えていて,直射日光が当た らないようになっていた(図8)。図 8 の樹木の陰 になっている石垣にはトラノオシダが群生してい た。図 8 の赤丸で囲んだ部分には,ハカタシダ, ベニシダ,オオイタチシダが見られた。 図8 石垣(12) 石垣(61)は北向きであり,石垣の表面を覆うよ うにマメヅタが群生していた(図9)。群生するマ メヅタの間からベニシダ(赤丸)のように,他の シダ植物が生えている場所もあった。 図9 石垣(61) マメヅタの群落とベニシダ シダ植物がまったく観察されなかった石垣は, (6),(11),(17),(24),(58)であった。石垣(24)は 成形された石が組み合わされているため,石と石 の間の隙間がなく,シダ植物が生育することがで きなかったのではないかと考えられる(図 10)。 また,図11 の石垣(48)では,赤丸で囲んだ部分に トラノオシダ1種しか観察されなかった。石垣 (24)と(48)は,石垣の前の地面がアスファルトで覆
われていた。一方,シダ植物の種数が多い石垣の 前は,図8 のように草が生えた土の地面である場 合が多かった。 図 10 石垣(24) 図 11 石垣(48) 4)石垣におけるシダ植物の生え方 石垣に生育するシダ植物の多くは,図12 のイノ モトソウのように,石と石のすき間に溜まった土 壌に根を張って成長していた。熊本城の石垣は, いろいろな形の石を組み合わせたものが多く,直 方体に整形された石を用いた石垣に比べてすき間 が多い。そのような場所が,シダ植物が生育する 空間として利用されていた。規則正しく積み上げ られた石垣でも,重なっている部分に少しでも土 が付着すれば,それに沿ってノキシノブのような シダが生えていた(図 13)。ノキシノブは,樹木 などに着生して生育する生活様式であるため,図 14 のように石の表面に直接着生しているものも あった。つる性のマメヅタも石垣の表面を覆うよ うに生えていた(図15)。 図12 石垣(52)とイノモトソウ 図13 石垣(32)とノキシノブ 図14 石垣(12)とノキシノブ 図15 石垣(7)とマメヅタ
5)教材化 植物の分布調査は,対象となる植物や目的によ って調査範囲が異なってくる。学校教育において 植物の分布調査を行う場合,調査範囲が限定され ると実践しやすくなる。本研究で行った石垣のシ ダ植物調査は,調査場所が限定されるのと,熊本 城公園のように一箇所で集中して調査が行えると いう利点がある。石垣という環境の特殊性とシダ 植物の生態を関連づけて考察することも可能であ る。本研究で行ったような分布調査を生徒用に修 正するためには,調査のための白地図や,石垣で よく観察されるシダ植物を同定するための図鑑が 必要になるであろう。現在,本研究で採集したシ ダ植物をスキャナで撮影して,形態の細部の特徴 がわかる図鑑の作成に取組んでいる。スキャナで 撮影した画像を用いると,胞子のう群のつき方も 確認できる。調査方法としては,石垣の向きや種 類で調査場所を分類できるように,場所を区分す る方法を工夫するとよい。 4.おわりに 本研究の調査によって,熊本城の石垣に生育す るシダ植物の種類や分布についての基礎的な情報 が得られた。しかし、石垣のシダ植物の生態につ いては,①石垣の上での生活史,②他の植物との 競争,③石垣の環境の影響,④草刈などの人為的 な撹乱の影響,⑤マツバラン,ヒメウラジロ,イ ヌケホシダなどの特定のシダ植物の分布に関する 分析等,多くの課題が残っている。現在,トラノ オシダの胞子から前葉体を栽培しているが,石垣 のシダ植物の生殖戦略も検討課題である。 今後は,石垣におけるシダ植物の垂直分布,石 垣の表面温度の調査などを行い,石垣の一区画で 実施する分布調査の教材化にも取り組みたい。 文 献 (1) 富田紘一(2008)『定本熊本城 築城 400 年・ 本丸御殿大広間復元完成記念出版』郷土出版社 (2) 熊本博物館植物同好会熊本城植物調査チーム (2007)『熊本城の植物』Terra 自然研究舎, 164-165. (3) 松倉愛,犀川政稔(2007)「東京の石垣とシダ 植物」『東京学芸大学紀要 自然科学系』第 59 号,69-75. (4) 北川淑子(2007)『シダ ハンドブック』文一 総合出版 (5) 池畑怜伸(2006)『写真でわかるシダ図鑑』ト ンボ出版 (6) 岩槻邦男(1992)『日本の野生植物シダ』平凡 社
小学校理科における金属,水,空気の熱膨張に関する教材開発
~同体積による体積変化の可視化~
Teaching-materials development on the thermal expansion of metal, water, and air ―Visualization of volume change by the same volume―
甲斐昌平 KAI,Shohei
福岡教育大学大学院教育学研究科
Graduate School of Education, Fukuoka University of Education
〔要約〕小学校理科4 年生の単元「ものの温度と体積」では,「空気の温度による体積変化が最も大き いこと」を確かめるための実験が教科書1)に記載されていないにも関わらず,教科書では「金ぞくの体 積のかわり方は,空気や水にくらべてとても小さい」といった結論を導いている。実験をせずにこのよ うな結論を子どもたちに教え込んだとしても,「実感を伴った理解」をさせることはできない。そこで, 金属,水,空気の熱膨張に関する教材開発を行い,その有効性を確かめるため,授業実践をした。 〔キーワード〕小学校,教材開発,ものの温度と体積,実感を伴った理解 1.はじめに 平成 20 年に改訂された小学校学習指導要領 2) において,「実感を伴った理解」という文言が理 科の目標に付加された。この「実感を伴った理解」 について,「①具体的な体験を通して形づくられ る理解」,「②主体的な問題解決を通して得られる 理解」,「③実際の自然や生活との関係への認識を 含む理解」の3 つの側面から説明がなされている。 日置光久3)は,「観察・実験が終わった後に,結果 をよく吟味して考察を深めて得られる確かな理 解こそ,実感を伴った理解である」と述べており, 子どもたちが「実感を伴った理解」をするために は,観察・実験結果に基づいて論理を導き出すこ とが重要である。しかし,単元「ものの温度と体 積(4 年生)」において,「空気の温度による体積 の変化が最も大きいこと」を学ばせる際に,それ ぞれの温度による体積変化を比較する実験がな いにも関わらず,教科書では「水の体積のかわり 方は,空気とくらべて小さい」,「金ぞくの体積の かわり方は,空気や水にくらべてとても小さい」 といった内容の記述が見られる。 このように,単元「ものの温度と体積」の授業 を実践する際には課題が存在する。今回,本単元 における課題を3 点に整理した。 1 点目の課題は,空気の膨張の実験についてで ある。教科書では,空気の温度と体積の関係を調 べる際,試験管に石鹸膜を張り,温めたときに膜 が膨らむ様子から「空気は温められると体積が増 える」ことを導き出す実験が扱われている(表1) ことがあるが,これは空気の「上昇」の概念にも 繋がってしまうため,ふさわしくない。 表1 教科書に記載されている実験の種類 教科書会社 空気 水 金属 学校図書 ・試験管の口に石 鹸膜をつくり温 めたり冷やした りする実験 ・注射器に空気を 閉じ込め、温め たり冷やしたり する実験 ・試験管の口まで水 を入れ、温めたり 冷 や し た り す る 実験 ・試験管にガラス管 を通したゴム栓を 通し,温めたり冷 やしたりする実験 ・金属球実験器を 温めたり冷やし たりする実験 教育出版 ・丸底フラスコに 注射器をつない で温めたり冷や したりする実験 ・丸底フラスコにガ ラス管のついたゴ ム栓をして温めた り冷やしたりする 実験 ・金属球実験器を 温めたり冷やし たりする実験 啓林館 ・密閉容器に閉じ 込めた空気を温 めたり冷やした りする実験 ・丸底フラスコにガ ラス管のついたゴ ム栓をして温めた り冷やしたりする 実験 ・金属球実験器を 温めたり冷やし たりする実験 大日本図書 ・試験管の口に石 鹸膜をつくり温 めたり冷やした りする実験 ・試験管の口まで水 を入れ、温めたり 冷 や し た り す る 実験 ・金属球実験器を 温めたり冷やし たりする実験 東京書籍 ・試験管にガラス 管を通したゴム 栓を通して空気 を閉じ込め、温 めたり冷やした りする実験 ・試験管にガラス管 を通したゴム栓を 通し,温めたり冷 やしたりする実験 ・金属球実験器を 温めたり冷やし たりする実験 科教研報 Vol.27 No.1
空気の膨張のみを観察できる実験を考案し,提 示する事象の順序を吟味する必要がある。 2 点目の課題は,金属の膨張の実験についてで ある。全ての教科書で,「金属は温められると体 積が増える,冷やされると体積が減る」というこ とを,金属球実験器を用いた実験で確かめている。 金属球実験器では,金属の体積が増える様子を目 で確かめることができない。そのため,金属の温 度による体積の変化を可視化して,実感を伴って 理解させる必要がある。 3 点目の課題は冒頭でも述べた,「空気の温度に よる体積変化が最も大きい」ことを確かめる実験 についてである。小学校学習指導要領解説理科編 には,単元「ものの温度と体積」の内容について, 「ア金属,水及び空気を温めると,それらの体積 は膨張し,冷やすと収縮する。その体積の変化の 様子は,金属,水及び空気によって違いがあり, これらの中では,空気の温度による体積の変化が 最も大きいことを実験結果に基づいてとらえ,温 度変化と物の体積の変化との関係をとらえるよ うにする」と記載されている。前半部分について は,教科書に記載されている実験方法によって確 かめることが可能である。しかし,後半部分の, 「これらの中では,空気の温度による体積の変化 が最も大きいことを実験結果に基づいてとらえ, 温度変化と物の体積の変化との関係をとらえる ようにする」については,金属,水,空気の実験 方法が異なるため,現在の教科書に記載されてい る実験では確かめることができない。 これらの課題を解決すべく,小学校理科におけ る金属,水,空気の熱膨張に関する教材開発を行 い,授業実践をした。 2.「ものの温度と体積」教材の開発 1) 空気の膨張に関する教材 空気の温度による体積変化を調べる場合,多く の教科書では試験管にゴム栓をはめたり,試験管 に石鹸膜を張ったりして,それらを温めたり冷や したりする実験が記載されている。しかし,これ らの実験のみでは空気の体積変化を捉えさせる 際に空気の温度変化による「上昇」も同時に捉え てしまう可能性がある。そこで,これらの実験と 同時に,ビーチボール,ゼリー容器,ペットボト ルなどの密閉容器を温めたり冷やしたりする実 験を取り入れることにした。これらの密閉容器は いずれも100 円程度で手に入れることができる。 これらの密閉容器を丸水槽の中に入れ,上から 急須などで湯をかけた後,これとは別の丸水槽に 入れた氷水に入れると空気の膨張,収縮を観察す ることができる。 2) 金属の膨張に関する教材 金属の温度による体積変化について森藤義孝 4) は,子どもたちにとって,「金属は,堅くて丈夫 な物であり,それが温度の変化に応じて大きさが 変わることなど信じられないことである」と述べ ている。金属の温度による体積変化は非常に小さ く,教科書で一般的に用いられている金属球実験 器では視覚的に金属の体積変化を捉えることは できない。そこで,金属の温度変化による膨張を 視覚的に捉えることのできる実験器具の開発を 行った。 主な材料は銅棒 ( 外 径 φ2 , L = 300mm)及びホー ムセンターなどで 売られているレン ガ(100mm×100mm×60mm)である。まず,レン ガに金属棒の端を布テープで固定した。次に金属 棒の先端がずれないよう,これらを向かい合わせ, 間隔を2mm 程度開けて置いた。次に,銅棒の先 端がずれないようこの下に高さ10cm の木材を設 置した。このようにすることで,アルコールラン プを2 本の固定された銅棒の下にそれぞれ設置し, 銅棒を温めることができる。この教材を用いれば, 金属の温度による体積変化を可視化できるだけ でなく,鉄道のレールの事象のミニチュア版とし て,日常で生起する事象との関連を持たせること も可能となる。 図1 金属の膨張に関する教材
3) 金属,水,空気の熱膨張を比較できる教材 ものの温度による体積変化を比較し,実験結果 に基づいて,「空気の温度による体積の変化が最 も大きいこと」を捉えさせるため,金属,水,空 気の熱膨張を比較できる教材を開発した。教材開 発を行う際,これらを同体積にすることを重視し た。金属,水,空気の体積をすべて同じにする必 要があることから,材料として,外形φ4,内径 φ2 のガラス管(L=380mm)2 本と油粘土,銅棒(外 径 φ2,L=300mm)を用いた。まず,一方のガ ラス管の端から30cm の位置に寒天を詰め,反対 側に油粘土を付けて空気を閉じ込める。次に他方 のガラス管の端から30cm の位置まで色水を入れ, 同様に油粘土を取り付け,水を閉じ込める。そし て,2 本のガラス管と 30cm の銅棒を図 2 のよう に加工した木材に設置する(木材はホームセンタ ーなどで販売している安価なものを使用した)。2 本のガラス管の30cm の位置に黒マジックで印を つけておけば,それぞれを温めた際に,どの程度 変化したのかを視覚的に捉えることができる。温 める際は,2 本のガラス 管を 90℃の熱湯で,銅 棒はアルコールランプ で温める。 予備実験を行った際, 「空気→水→金属」の順 で温度による体積の変化が大きいことを,視覚的 に捉えることができた。図3に予備実験の様子を 示す。対照実験とするためには,温度も統一する 必要があるが,ガラス管に閉じ込めた水をアルコ ールランプで温めると突沸してしまうため,空気, 水に関しては90℃の熱湯で温めることとした。 図3 同体積による体積膨張の可視化(左から空気,水,金属) 3.結果と考察 開発した教材を用いての授業実践を,福岡県内 の2 つの公立小学校にて,4 クラス(N=100)を 対象に行った。単元構成は表2 のとおりである。 ここでは,授業実践をしたうちの1 クラスを取り 上げて授業の概要を述べる。 表2 単元「ものの温度と体積」単元構成 時間 学習内容 第1次 (2 時間) 「空気の温度と体積」 容器に閉じ込めた空気を温めたり冷やしたりし て,体積の変わり方を捉える。 第2 次 (1 時間) 「水の温度と体積」 ガラス管付きの試験管に入れた水を温めたり冷 やしたりして,体積の変わり方を捉える。 第3 次 (1 時間) 「金属の温度と体積」 金属棒(銅棒)を温めたり冷やしたりして,体 積の変わり方を捉える。 第4 次 (2 時間) 「金属,水,空気の温度による体積変化の違い」 対照実験を行い,空気の温度による体積変化が 最も大きいことを捉え,ものの性質に関する考 えを深める。 1)空気の温度と体積 授業の導入で子ども たちは,空気を閉じ込め た密閉容器(ビーチボー ル,ゼリー容器,ペット ボトル)を温めたり冷や したりして,それらの体積変化を観察した。その 後,石鹸膜を張った試験管を温めたり冷やしたり する実験を行わせた。子どもたちはこの実験によ って,「空気は温めると体積が増え,冷やすと体 積が減る」ということを学んだ。 2)水の温度と体積 水の温度と体積の学習では,試験管にガラス管 付きのゴム栓をはめ,閉じ込めた水を60℃程度の 湯で温めたり,氷水で冷やしたりする実験を行わ せた。子どもたちは実験結果から,「水も空気と 同じように,温めると体積が増え,冷やすと体積 が減る」ということを学んだ。 3)金属の温度と体積 金属の温度と体積の学習では,鉄道のレールが 図2 金属,水,空気の熱膨張 を比較できる教材 図4 「空気の温度と体積」