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ドロバチ類と思われる昆虫が通勤用原動機付自転車のマフラー内部に 営巣したことで通勤に支障をきたした会社員の記録

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Academic year: 2021

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7 伊丹市昆虫館研究報告 第 3 号 2015 年 3 月

ドロバチ類と思われる昆虫が通勤用原動機付自転車のマフラー内部に

営巣したことで通勤に支障をきたした会社員の記録

「通勤害虫」の誕生

高田兼太

大阪市西淀川区(在野研究家)

Record of an office worker whose commute are disturbed by

nesting of eumenids in a muffler of his scooter

Creation of the concept "Pest which disturb commute to work"

Kenta TAKADA

Independent researcher of cultural entomology

問い合わせ先 〒 555-0011 大阪市西淀川区竹島 3-13-29

       3-13-29, Takeshima, Nishiyodogawa-ku, Osaka, 555-0011

(2014 年 12 月 16 日受理)  昆虫は、きわめて多様であるがゆえに、様々な形で人 類の生活に影響している。それゆえに、人と昆虫との相 互作用に関する研究は多いが、そのような研究では一般 的な応用昆虫学のように、昆虫に焦点をあてたものと 比較して、人を研究の主体としたものは少ないように思 われる。人と昆虫との相互作用に関する研究をするにあ たって、文化昆虫学や民族昆虫学のように、昆虫ではな く人に視点をあてることで、従来とは異なった新しい見 解が得られることが期待されるだろう。本報告文では、 そのような考えのもとで、ある一般的な会社員とドロバ チとの相互作用の事例を記録し、分析した結果について 報告したいと思う。  筆者は、ドロバチ類と思われる昆虫が通勤用原動機付 自転車のマフラー内部に営巣したことが原因で会社通勤 に支障をきたすという会社員としての体験をしたので、 ここに記録しておく(図 1,2)。このような記録は、これ までに報告されていないと思われ、少なくとも大変まれ な事例であると思われる。  筆者は、JR 魚住駅まで電車に乗り、JR 魚住駅から は駅近くの駐輪場に停めている原動機付自転車 ( 車種: ホンダ スーパーディオ AF27) に乗って通勤している。 2014 年 9 月 21 日の朝 7 時頃、いつものように原動機 付自転車のエンジンをかけようとしたところ、何度キッ クスターターをキックしてもエンジンがかからなかっ た。ゆるされるかぎりの時間ぎりぎりまで粘ったが、も うどうにもならず、結局その日は駅からタクシーでの出 勤を余儀無くされた。  会社での業務終了後、駐輪していた原動機付自転車を JR 魚住駅の最寄のバイク修理屋に持っていき、バイク の整備士に状況を見てもらった。整備士はキックスター ターを何度かキックすると、何か原因をつかんだらしく、 図 1.ドロバチ類と思われる昆虫が営巣した筆者の通勤 用原動機付自転車 図 2.ドロバチ類と思われる昆虫が営巣した原動機付自 転車のマフラー

(2)

8 高田兼太 キックを続けながらマフラーの排気口に手をあてはじめ た。どうやら、排気ガスの出方に異常があるようだった。 そして、プラグの交換とエアーフィルターの掃除を行っ た後で、さらにキックスターターをキックするが、それ でもかからない。そこで、整備士はおもむろにフックの ついた太いハリガネを持ってきて、排気口に突っ込み、 勢い良く引っ張り出した。すると、驚くべきことに中か ら数個体の昆虫の幼虫が出てきたのである(図 3)。その 後、キックスターターをキックすると無事エンジンがか かった。こうして、私の原動機付自転車の修理は完了し た。  対応してくださった整備士によると、故障の原因はハ チがマフラー内部に巣を作ったことによる糞詰まり ( 排 気口より排気ガスが出ないこと ) で、マフラーから出て きた昆虫はハチの幼虫であるという。つまるところ、原 動機付自転車の故障の原因は、整備不良ではなく自然の いたずらだったのである。なお整備士から、これに関連 するさらなる貴重な情報をえることができた。整備士に よれば、以前はちょくちょくとこのような事例があった ようで、マフラーの中から葉がでてくることや、マフラー の排気口に泥が覆いかぶさっているケースもあったらし い。最後に整備士は、このような修理対応はずいぶん久 しぶりだと言って笑っていた。  私は、まずはこの幼虫が何なのかを知りたく、整備士 が捨てる前にこっそり拾って撮影しておいた幼虫の写真 を某 SNS に投稿した。すると、ハチではなくガ ( おそら くハマキガ ) の幼虫であるとの回答を得るとともに、こ のガの幼虫をマフラーに詰め込んだのはドロバチ類であ ろうとご教示いただいた。 また、このように原動機付自 転車のマフラーにドロバチ類が営巣した事例は聞いたこ とがないとのコメントも頂戴した。なお、ドロバチ類は 地上の孔筒や空洞に営巣する借孔性の狩バチであり(久 松・鈴木 1988)、日本に 30 種以上知られ、主にガの 幼虫を狩るようである(参考:イカリ消毒オンライン シ ョ ッ プ http://www.ikari.jp/gaicyu/67010d.html  2014 年 9 月 27 日アクセス)。  ちなみに JR 魚住駅周辺は開けているが、駅から少し はずれるとずいぶんと二次的自然環境(耕作地)が残っ ているので、兵庫県の中心市街地に比べれば昆虫にとっ ては良好な環境が残っていると言えるのかもしれない。 しかしながら、今回のように原動機付自転車のマフラー 内部のように、営巣場所としては極めて不衛生な場所に ドロバチ類が営巣していることを考えると、この魚住駅 周辺はドロバチ類にとってはそれほど良好な環境ではな く、営巣場所をめぐっての熾烈な競争が起こっているの かもしれない。  今回のケースでは、筆者とドロバチ類(と思われる昆 虫)との関係性は明らかに「敵対的関係」であり、筆者 から見たドロバチは「害虫」である。イカリ消毒オン ラインショップ(http://www.ikari.jp/gaicyu/67010d. html 2014 年 9 月 27 日アクセス)によれば、「ドロバ チ類は、スズメバチのように攻撃的ではないが、家屋周 辺に営巣して恐怖感を与え、巣を壊したり、誤って触れ たりすると刺される。家屋の床下や軒先等に巣を作る種 類が、泥などの巣材によって建材や家具などを汚染する 被害を起こす。」とあるので、基本的には不快害虫、家 屋害虫、場合によっては衛生害虫ということになるので あろうが、筆者の今回のケースではこれらどのカテゴ リーにもあてはまらないように思われる。おそらく、こ のような害虫をぴったりと指し示す言葉は、会社員の通 勤に悪影響をおよぼしたので「通勤害虫」なのではない だろうか。  通常、このような記録は昆虫学者や昆虫愛好家の視座 からは、ドロバチ主体の報告書としてまとめられる。た とえば、タイトルにすると、「ドロバチ類と思われる昆 虫が原動機付自転車のマフラーに営巣した記録」になる だろう。しかしながら、今回のような事例では、本報告 文のように人を主題にしてまとめることも可能である。 このようにまとめることで、昆虫主体でまとめるよりも、 人間社会における昆虫の影響がより強く浮き彫りにされ る。こういった視座は、人と昆虫との関わり合いや人々 の自然観を考える上で重要になってくるであろう。  末筆ながら、村山茂樹氏、山内建生氏、坂本昇氏、海 原要氏にはドロバチの習性やガの幼虫についてご教示い ただいた。この場を借りてお礼申し上げる。また、貴重 な話をお聞かせくださったバイク修理店の整備士の方々 にも、感謝の意を表したい。 引用文献 久松正樹・鈴木健二 (1988) ドロバチの習性 . 千葉大学 教育学部研究紀要 (36): 83-92. 図 3.筆者の通勤用原動機付自転車のマフラーより修理 中にかきだされた昆虫の幼虫。おそらく、ハマキガの幼 虫であると思われる

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