ホルモンの合成と作用
平成27年2月2日
病態生化学分野
(生化学2)
学習の目標
・ ホルモンの分類について理解する
・ 細胞間情報伝達物質としてのホルモンを理解する
①ペプチドホルモン
②ステロイドホルモン
③アミノホルモン
①親水性ホルモン
②疎水性ホルモン
・ ホルモンの合成について理解する
・ ホルモンの制御機構について理解する
・ ホルモンの作用機構について理解する
ホルモンによる調節
ヒトが生きるためには常に変化する内外の環
境に対応・適応する必要がある
生体の恒常性を維持するシステム
ホルモン
微量(低濃度)で作用を発揮する物質である。
典型的なペプチドホルモンの血液中の濃度は、10
-9
mol/L(nmol/L)程度
動物の体内において、ある決まった器官で合成・分泌され、体液(血液)を通して体内
を循環し、別の決まった器官でその効果を発揮する。
いわゆる腺組織以外で産生されるホルモン
・消化管:セレクチン、ガストリン、グレリン など
・心臓:心房性Na利尿ペプチド(ANP)、脳性Na利尿ペプチド(BNP)
・血管:C型Na利尿ペプチド(CNP)
・脂肪組織:アディポネクチン、レプチン など
血中への分泌を介さない作用
・傍分泌型、自己分泌型 など
標的組織において機能タンパク質を新たに合成させたり、あるいは活性化させること
で生理作用を発揮する。
ひとつのホルモンが異なった細胞、組織では別の作用を示す。
細胞内情報伝達の多様性
内分泌型
神経型
パラクライン型
接触型
シグナル伝達の種類
ホルモン
神経伝達物質
局所仲介物質
膜結合シグナル物質
内分泌器:ホルモン(ペプチドホルモン、ステロイドホルモン)
視床下部GnRH - TRH - ドーパミン - CRH - GHRH - ソマトスタチン - ORX - MCH - MRH - MIH
脳下垂体後葉バソプレッシン - OXT
脳下垂体中葉 インテルメジン 脳下垂体前葉α サブユニット糖タンパク質ホルモン(FSH - LH - TSH) - GH - PRL - POMC(ACTH - MSH - エン
ドルフィン - リポトロピン)
副腎髄質副腎髄質ホルモン(アドレナリン - ノルアドレナリン - ドーパミン)
副腎皮質副腎皮質ホルモン(アルドステロン - コルチゾール - DHEA)
甲状腺甲状腺ホルモン(T
3- T
4- カルシトニン)
副甲状腺 PTH 精巣テストステロン - AMH - インヒビン
卵巣エストラジオール - プロゲステロン - インヒビン/アクチビン - リラキシン(妊娠時)
膵臓グルカゴン - インスリン - ソマトスタチン
松果体 メラトニン内分泌器でない器官
誘導タンパク質
その他の内分泌器
NGF - BDNF - NT-3
視床下部 - 脳下垂体
副腎
甲状腺
生殖腺
胎盤:hCG - HPL - エストロゲン - プロゲステロン - 腎臓:レニン - EPO - カルシトリオール - プロスタグランジン - 心
臓:ANP - BNP - ET - 胃:ガストリン - グレリン - 十二指腸:CCK - GIP - セクレチン - モチリン - VIP - 回腸:エンテ
ログルカゴン - 脂肪組織:レプチン - アディポネクチン - レジスチン - 胸腺:サイモシン - サイモポイエチン - サイムリ
ン - STF - THF - 肝臓:IGFs(IGF-1 - IGF-2) - 耳下腺:バロチン - 末梢神経系:CGRP - P物質
・ペプチド類
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)
ガストリン
バソプレシン、オキシトシン
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、エンドルフィン、リポトロピン
セレクチン、モチリン、血管作動性腸管ペプチド(VIP)
ソマトスタチン
・モノアミン類
アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン
セロトニン
ホルモンとしても働く神経伝達物質の例
ホルモンの分類-I
構造からの分類
①ペプチドホルモン
②ステロイドホルモン
③アミノホルモン(低分子ホルモン)
インスリン、グルカゴン、成長ホルモン、抗利尿ホルモン
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)など
副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン)
性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲンなど)
アドレナリン、甲状腺ホルモンなど
①
ペプチドホルモン
インスリン、グルカゴン、成長ホルモン、抗利尿ホルモンなど
DNA
mRNA
プロホルモン
ホルモン
転写
翻訳
タンパク質の切断
CAAT ボックス
TATA ボックス
cap site [ATG]
TAA TAG TGA [AATAAA] 5’ 3’ イントロン DNA NTP RNA ポリメラーゼII mRNA前駆体(hnRNA) スプライシング Me7G付加 ポリA付加 シグナルペプチダーゼ mRNA ペプチド(プレプロホルモン) プロホルモンプロセッシング 成熟ホルモン 分泌顆粒内 分泌 転写 transcription 転写後修飾 posttranscriptional modification 翻訳 transration 翻訳後修飾 posttransrational modification 核 細 胞 質 細 胞 外 ゴ ル ジ 装 置 粗 面 小 胞 体 Me7G ポリA Met シグナル ペプチド プロホルモン 糖鎖 S S S S
ペプチドホルモンの合成
<プロホルモン>
POMC:ACTH前駆体
複数のホルモンを有する
バゾプレッシン、オキシトシン前駆
体
細胞内輸送に必要なニューロ
フィシンをもつ
インスリン前駆体
α鎖とβ鎖の形態を保つのに必
要なconnecting peptideを有する
グレリン
脂肪酸付加:機能発現に重要
①プレプロインスリン RNA ポリメラーゼII mRNA前駆体(hnRNA) スプライシング Me7G付加 ポリA付加 シグナルペプチダーゼ mRNA プロホルモンプロセッシング 成熟ホルモン 分泌顆粒内 分泌 転写 transcription 転写後修飾 posttranscriptional modification 翻訳 transration 翻訳後修飾 posttransrational modification 核 細 胞 質 細 胞 外 ゴ ル ジ 装 置 粗 面 小 胞 体 DNA ①プレプロインスリン ②プロインスリン ③インスリン ④インスリン六量体
ペプチドホルモンの合成 (インスリンの例)
インスリン遺伝子 プロプレインスリンmRNAインスリン
ペプチドホルモンの合成 (POMCの例)
POMC(プロオピオメラノコルチ
ン)の組織特異的な翻訳後プロセッ
シングで2つの異なる組み合わせ
のポリペプチドホルモンを生じる。
脳下垂体前葉でも中葉でも、
POMCは分解されN末端断片、副
腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、βリ
ポトロピン(
β-LPH)を生じる。
これらのポリペプチドホルモンは
中葉だけでさらに分解され、γメラニ
ン細胞刺激ホルモン(
γ-MSH)、α-MSH、副腎皮質刺激ホルモン様中
葉ペプチド(CLIP)、γ-LPH、β-エン
ドルフィンを生じる。
②ステロイドホルモン
副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン)
性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲンなど)
HO
コレステロール
A
B
C
D
ステロイド核
(炭素原子19個)
O
HO
OH
CO
CH
2
OH
コルチゾール
1. 副腎皮質ホルモン
コルチゾール:糖質代謝、抗炎症作用
アルドステロン:Naイオン再吸収促進、細胞外液量維持
2. 性ホルモン
アンドロゲン:男性生殖器官発育・維持、第二次性徴
エストロゲン:女性生殖器官発育・維持、第二次性徴、
月経周期
プロゲステロン:妊娠の維持、乳腺発達
ステロイドホルモン産生組織
独立行政法人情報処理推進機構 教育用画像素材集より抜粋
[副腎皮質]
コルチゾール、アルドステロン
性ホルモン
[卵巣]
プロゲステロン、エストロゲン
[精巣]
アンドロゲン
ステロイドホルモン生合成経路1
HO
コレステロール
(炭素原子27個)
HO
CO
CH
3
プレグネノロン
(炭素原子21個)
P-450scc
17
1
5
8
9
10
11
13
14
17
18
19
ステロイドホルモンの重要な合成中間体
2
3
4
6
7
12
15
16
21
20
ステロイドホルモン生合成経路2
HO
CO
CH
3プレグネノロン
17
3
O
CO
CH
317
プロゲステロン
21
アルドステロン合成経路
HO
CO
CH
33
OH
CO
CH
3OH
O
21
コルチゾール合成経路
17
17
17-水酸化
プロゲステロン
17-水酸化
プレグネノロン
アンドロゲン
エストロゲン
合成経路
17
-hydroxylase
3-hydroxysteroid
dehydrogenase
21-hydroxylase
17,20-lyase
ステロイドホルモン生合成経路3
O
CO
CH
317
プロゲステロン
21
CO
CH
3OH
O
21
17
17-水酸化
プロゲステロン
21-hydroxylase
11-デオキシコルチゾール
11-hydroxylase
CO
CH
2OH
OH
O
OH
コルチゾール
21-hydroxylase
11-デオキシコルチコステロン
11-hydroxylase
コルチコステロン
18-水酸化コルチコステロン
18-hydroxylase
O
CO
18-oxidase
OH
CHO
アルドステロン
CH
2OH
炭素原子21個
炭素原子21個
ステロイドホルモン生合成経路4
CO
CH
33
OH
CO
CH
3OH
O
17
17
17-水酸化
プレグネノロン
17-水酸化
プロゲステロン
17,20-lyase
3-hydroxysteroid
dehydrogenase
HO
デヒドロエピ
アンドロステロン
アンドロステンジオン
17
-hydroxysteroid
dehydrogenase
O
OH
テストステロン
(アンドロゲン)
aromatase
HO
OH
エストラジオール
(エストロゲン)
O
O
HO
O
炭素原子19個
炭素原子18個
③アミノホルモン(低分子ホルモン)
アドレナリン、甲状腺ホルモンなど
HO
CH
2
CH
COOH
NH
2
チロシン(アミノ酸)
HO
CH
CH
2
NH
HO
OH
CH
3
アドレナリン
HO
O
CH
2
CH
COOH
NH
2
I
I
I
I
甲状腺ホルモン
(チロキシン)
アミノ酸誘導体ホルモン
アドレナリン
(エピネフリン)
副腎髄質
血圧上昇,平滑筋収縮/弛緩,肝・筋で
の解糖促進
脂肪組織での脂肪分解促進
ノルアドレナリン
(ノルエピネフリン)
副腎髄質
小動脈の収縮促進,抹消循環抑制,脂
肪分解促進
トリヨードチロニン(T3)
チロキシン(T4)
甲状腺 代謝促進
インドール,セロトニン,
メラトニン
松果腺 神経伝達
カテコールアミン-カテコールを共通の構造として持つ
アドレナリン(エピネフリン)
ノルアドレナリン
ドーパミン
組織によって合成の段階が異なる
脳細胞(一部):ドーパミンが最終カテコラミン
交感神経末端:ノルアドレナリンが最終カテコラミン
副腎髄質、中脳、心臓:アドレナリンまで合成
アドレナリン
ノルアドレナリン
ドーパミン
アミノホルモン(低分子ホルモン)の合成
(カテコールアミンの例)
飲食物からヨウ化物として摂取されるヨードは甲
状腺で濃縮されて,濾胞細胞内で有機ヨードに変
換される。
濾胞細胞はコロイドで満たされた空間を取り巻
いており,このコロイドは,基質内にチロシンを含
む糖蛋白サイログロブリンからなる。
チロシンは,1カ所(モノヨードチロシン)または2
カ所(ジヨードチロシン)でヨード化されて,互いに
結合して2種の甲状腺ホルモンを形成する(ジヨー
ドチロシン+ジヨードチロシン→T
4
;ジヨードチロシ
ン+モノヨードチロシン→T
3
)。
濾胞細胞がサイログロブリンを取り込むまでは,
T
3
およびT
4
は濾胞内のサイログロブリンに組み込
まれたままである。
甲状腺濾胞細胞内に入ると,T
3
およびT
4
はサイ
ログロブリンから切断され、分泌される。
サイログロブリン チロシン チロシン(MIT)モノヨード ジヨード チロシン(DIT) ヨード化 結合 T3 T4アミノホルモン(低分子ホルモン)の合成
(甲状腺ホルモンの例)
ホルモンの分類-II
作用機構(受容体)からの分類
①細胞膜受容体に作用するホルモン
②細胞内受容体に作用するホルモン
親水性分子:
ペプチドホルモン類
アミノホルモン類(カテコラミン)
疎水性分子:
ステロイドホルモン類
アミノホルモン類(チロキシン)
www.cellsignal.com/.../ Insulin_Receptor.jpgより抜粋
細胞膜受容体
ホルモン
細胞内情報伝達系
活性化
標的遺伝子発現調節
タンパク質
機能変化
ペプチドホルモンの作用 (インスリンの例)
核内受容体を介した作用機構(参考)
細胞内受容体
(核内受容体)
ホルモン
標的遺伝子発現調節
②細胞内受容体に作用するホルモン
ステロイドホルモン受容体=転写因子
Nuclear Receptor Signaling (2007) 5, e003.より抜粋
•甲状腺ホルモン(T3, T4)は脂溶性ホルモン
•甲状腺ホルモンT4、T3は細胞膜に局在する分子を介して細胞質内に取り込まれる。
•細胞質内でT4はT3に変換され、核内に局在する甲状腺ホルモン受容体(TR)に結合す
る。
•TRは転写因子のひとつであり、標的遺伝子のプロモーター上に存在する甲状腺ホルモ
ン応答領域に結合して遺伝子の転写活性を調節する。
甲状腺ホルモンの作用
①熱産生作用:酸素消費増大による基礎代謝率
↑
②脳機能の成熟↑:障害でクレチン病、うつ・記憶力↓
③骨成長
↑:低下で低身長、増加で骨粗鬆症
④心収縮力増強:心
βアドレナリン受容体↑
⑤ミオシン重鎖
α↑、Serca2↑
⑥脂質代謝促進:HMG-CoA R↓、肝リパーゼ活性↑
⑦血糖調節:低下でインスリン分泌・受容体
↓
増加で消化管からの糖吸収(食後過血糖)
↑
⑧皮膚グルコサミノグリカン産生
↓:低下で粘液水腫
⑨肝臓タンパク質代謝:りんご酸酵素活性
↑
⑩水・電解質代謝:ANP合成↑、Na、水の排泄↑
アミノホルモン(低分子ホルモン)の作用
(甲状腺ホルモンの例)
ホルモンの調節機構(1)
ネガティブフィードバック(Negative-feedback)
生体の内部環境の恒常性を維持するためのコントロール機序
ホルモンの標的細胞への効果が一定に達すると、その作用を抑制する
方向に作用する機序 - 過度の反応の抑制
1) 単一の内分泌腺による調節
血漿浸透圧上昇
→ ADH(抗利尿ホルモン)分泌増加 → 血漿浸透圧低下
2) 複数の内分泌腺による直列的な調節
視床下部ー下垂体ー標的内分泌腺(甲状腺、副腎、性腺)
3) 複数の内分泌腺による並列的な調節
血糖低下
→ インスリン分泌低下 → 血糖上昇
グルカゴン分泌増加
アドレナリン分泌増加
コルチゾール分泌増加
成長ホルモン分泌増加
ホルモンの調節機構(2)
2) 複数の内分泌腺による直列的な調節
内分泌腺
標的臓器
視床下部
食物摂取↓
エネルギー消費↑
レプチン
脂肪細胞
内分泌腺
下垂体
後葉
ADH
血漿浸透圧
標的臓器
腎
集合尿細管
1) 単一の内分泌腺による調節
CRH: corticotropin releasing hormone ACTH: adrenocorticotrophic hormone GRH: growth hormone releasing hormone SRIF: somatotropin release-inhibiting factor
(=somatostatin, SRIH, GIF GH: growth hormone
GnRH: gonadotropin-releasing hormone LH: luteinizing hormone
FSH: follicle stimulating hormone E2: Estradiol
T: testosterone
TRH: thyrotrophin releasing hormone TSH: thyroid stimulating hormone T3: triiodothyronine T4: thyroxine Hypothalamo- pituitary-adrenal axis Hypothalamo- pituitary-gonadal axis Hypothalamo- pituitary-thyroid axis バソプレッシン= 抗利尿ホルモン (antidiuretic hormon) レプチン欠損マウス (ob/ob)