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研究報告第17号

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受付:2012年11月25日,受理:2013年1月4日

原著論文

軸宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍雫 軸宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍雫

はじめに

 群馬県高崎市吉井南方には中新統の牛伏層が広く分布し ている.牛伏層は吉井町の南端にある牛伏山(標高491m) に広く分布することから,その名前が付けられた.牛伏層 は主として黄褐色の砂岩から構成され,一部に特徴的な赤 褐色の不規則な模様が発達している.この独特な模様や塊 状で産出すること,また加工が容易なことから古くから灯 籠,庭石および建築石材などに利用されてきた(例えば群 馬県林務部自然保護対策室,1981; 鈴木,1992).多胡石を 含む牛伏層の地質学的検討は古くからなされている(藤本・ 小林,1938; Matsumaru,1967; 神沢ほか,1968;松丸,1977; 高柳ほか,1978; 大石・高橋,1990; 高橋・林,2004)が,詳細 な柱状図は公表されていない.また多胡石の成因やその岩 石学的・堆積学的検討も行われていない.そこで本研究で は群馬県高崎市吉井町南方の大沢川においてルート調査を 行い,柱状図を作成するとともに吉井町塩に露出している 多胡石採石場跡地において露頭の野外観察を行った.ま た,岩石試料および微化石試料を採取し,多胡石を含めた 牛伏層の地質学的考察を行った.

群馬県高崎市吉井南方に分布する中新統牛伏層の地質学的考察

田中源吾

1

・茂木由行

2

・中嶋義明

2 1群馬県立自然史博物館:〒370-2345 群馬県富岡市上黒岩1674-1 (tanaka@gmnh.pref.gunma.jp) 2高崎市立吉井郷土資料館:〒370-2132 群馬県高崎市吉井町 285 要旨: 群馬県高崎市吉井町南方に分布する中新統牛伏層の岩石学的,堆積学的および古環境学的検討を行っ た.当該地域の牛伏層は黄褐色のアルコーズ質粗粒砂岩を主体とし,砂岩~泥岩へと漸移する一連の正級化を 示すタービダイトの繰り返しで特徴づけられる.縞模様の発達するいわゆる‘多胡石’は高密度のタービダイ ト流によって作られたコンボリュート,カレントリップルおよび平行葉理などの堆積構造であることが分かっ た.上方に整合で重なる小幡層(海底扇状地)と牛伏層中の底生有孔虫化石群から,牛伏層は陸棚斜面~漸深 海の貧酸素環境下で堆積したと考えられる. キーワード: 牛伏層,多胡石,中新統,底生有孔虫,タービダイト

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1

Gunma Museum ofNaturalHistory:1674-1 Kamikuroiwa,Tomioka,Gunma 370-2345,Japan (tanaka@gmnh.pref.gunma.jp)

2

YoshiiKyoudo Shiryo-kan:285 YoshiiTown,TakasakiCity,Gunma 370-2132,Japan

Abstract: Here we reported the lithological, sedimentological and paleoenvironmental analysis of the Miocene UshibuseFormation distributed in thesouthern partofYoshiiTown,TakasakiCity,GunmaPrefecture,centralJapan.The UshibuseFormation iscomposed mainly ofyellowish brown colored arkosiccoarsesandstone,and theformation is characterized by therepetitionsofturbidity depositswhich show normalgrading from coarsesandstoneto mudstone. ‘Tago-ishi’ which hasbeen used forstonemonumentsand building stonesbecauseofitsbeautifulstriped patern coming

from thesedimentary structures,such as,convolute-,ripple-and parallellamination.By considering thedepositional environmentoftheObataFormation which conformaly lieswith theuppermosthorizon oftheUshibuseFormation and thebenthicforaminiferalassemblages,theUshibuseFormation wasdeposited underthesubmarineshelfslopeto abyssal anoxicenvironment.

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地質概説

 群馬県西部には中新世海成層が広く分布し,地質学的研 究が精力的に行われてきた.近年の研究では,これらの中 新統は関東地方で広域的に認められている庭谷不整合(大 石・高橋,1990)によって,下位の富岡層群と上位の安中 層群に区分されている(高橋・林,2004).富岡層群は下位 より牛伏層,小幡層,および原田篠層で構成される(高橋・ 林,2004).  このうち,牛伏層についての研究史は下記の通りであ る.牛伏層は藤本・小林(1938)によって,高崎市吉井町 東谷付近から牛伏山・城山にかけて分布する硬質灰白色な いし淡黄褐色砂岩について命名された.模式地は高崎市吉 井町の東谷~牛伏山および城山付近である.その後,Mat -sumaru(1967)および松丸(1977)は,上位の砂岩泥岩互 層を小幡層とし,牛伏層から区別した.神沢ほか(1968) は,Matsumaru(1967)の牛伏層(牛伏累層)を牛伏砂岩 層と命名して,牛伏砂岩層を,砂泥互層(神戸砂泥互層) と同時異層および神戸砂泥互層の下位に位置づけている. 高柳ほか(1978)は,牛伏層の岩相は上方および側方に向 かい,砂岩・シルト岩互層に漸移しているとして,上位の 砂岩・泥岩互層も牛伏層に含まれるとした.その後,大石・ 高橋(1990)は,牛伏山にみられる層厚100mの硬質シルト 岩が側方に追跡でき,これを境として上位層と区別できる ため,Matsumaru(1967),神沢ほか(1968)および松丸(1977) に従い,牛伏層の層名を用いた.高橋・林(2004)は牛伏 層の定義について,大石・高橋(1990)を踏襲している. 本論でも大石・高橋(1990)の牛伏層の定義に従った.

試料と方法

 調査地域は群馬県高崎市吉井町南方の大沢川および吉井 町塩の旧採石場である(図1).大沢川については,吉井町 東谷南方の三波川変成岩類が露出する場所を起点として, 大石・高橋(1990)によって定義された牛伏層と小幡層の 境界である硬質シルト岩が認められる所までの下流域を調 査した.調査はクリノメーターと歩測を用いて行い,岩相 をフィールドノートに記載するとともに,特徴的な堆積構 造が見られた露頭について,デジタルカメラで撮影した. 途中,微化石が含まれていそうな岩石を随時サンプリング しながら調査を行った.大沢川ルートで採集した微化石試 料については,試料を1cm大のサイコロ状に砕いた後,恒 温器で岩石を乾燥させた.その後,80gごとに秤量し,ボロ ン法(安田ほか,1985)を用いて,岩石を軟化させた.軟 化した試料を16メッシュ(ふるいの開口径=1mm)および 115メッシュ(開口径=125μm)のふるいにかけ,16メッ シュと115メッシュの間に残った残渣を回収し,乾燥させ た.乾燥した試料を双眼実態顕微鏡(Nikon SMZ-10A)下 で観察し,微化石を拾い出した.  切片および薄片岩石試料は吉井町塩の旧採石場で採取し た.採取した岩石は岩石カッターを用いて切断し,研磨面を 出し,#180,#320,#600のカーボランダムを用いて研磨し,切 片試料とした.薄片については,岩石が半未固結であるた め,岩石チップを作成し,ペトロポキシ樹脂(液体)に包埋 し,真空ポンプをひいて岩石内の空隙に樹脂を浸みこませ た.その後,樹脂封入された岩石チップを60℃ の乾燥器で3 日間かけて樹脂を固結させた.固結後,樹脂封入試料を岩石 カッターで 切断した後,#180,#320,#600のカーボランダム および#1500,#3000のアランダムで研磨した.研磨面を水 洗,乾燥の後ペトロポキシ樹脂でスライドガラスに接着し, 研磨ののちカバーガラスをかけて岩石薄片を作成した. 図1.調査地域の地図.国土地理院25,000分の一地形図「富岡」に加筆.

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v.c. c. m. f. v.f. Sandstone silt clay Mudstone Gravel 400 410 420 430 440 450 460 470 480 490 500 510 M

Brownish gray colored

Brown colored Gray colored Brown colored with false gravel

White colored Brown colored 510 520 530 540 550 560 570 580 590 600 610 620 M

White colored Many small faults

Brownish gray colored

Fault N40W 40N

White colored

630

Whitish gray colored

Foraminifers v.c. c. m. f. v.f. Sandstone silt clay Mudstone Gravel 630 640 650 660 670 680 690 700 710 720 730 740 M 750 Obata Formation Ushibuse Formation

White colored Fault N50E 52N Fault N20E 60S

Fault N14E 30S Brown colored White colored White colored Gray colored v.c. c. m. f. v.f. Sandstone silt clay Mudstone Gravel

Sambagawa Green schist

0 10 20 30 40 50 60 M 6 0 70 80 90 100 11 0 120 130 140 150 160 170 M W e ll laminated < 1cm thickness

Light gray colored

Concreted

Brown colored Concreted

Brown colored Grayish brown colored Brownish laminated (thickness ca. 10 cm) Brownish colored

280 290 300 310 320 330 340 350 360 370 380 390 M v.c. c. m. f. v.f. Sandstone silt clay Mudstone Gravel

Grayish broun colored Grayish broun colored

170 180 190 200 210 220 230 240 250 260 270 280 M Ushibuse Fm.

Sambagawa Metamorphic rock (Mesozoic)

? v.c. c. m. f. v.f. Sandstone silt clay Mudstone Gravel 図2.吉井町大沢川に分布する牛伏層のルート柱状図.    v.f= very fine(極細粒),f.= fine(細粒),m.= medium(中粒),c.= coarse(粗粒),v.c.= very coarse(極粗粒).

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結  果

吉井町大沢川のルート柱状図:当該地域の南方には主に三 波川変成岩類から構成される急峻な山地がある.東谷南方 で大沢川は二分岐する.そのうち上流方向をみて左側の沢 には少なくとも厚さ6mの三波川緑色片岩が露出している. それより下流は500m以上,河床が礫で覆われていたり,コ ンクリートで護岸されていたりして露頭が確認できない. 牛伏層の灰褐色の塊状極粗粒砂岩が最初にあらわれる場所 の走向・傾斜から見積もられる欠損部分の層厚は約235mで ある.この間のどこかに三波川変成岩類と牛伏層の境界が あるが場所を特定することはできなかった(図2).本ルー トで確認できた牛伏層の最下部は灰褐色の塊状極粗粒砂岩 より構成され,厚さは約44mである.その上位に極粗粒砂 岩~極細粒砂岩へと一連の正級化を示す地層(層厚にして 約28m)が確認できる.粗粒砂岩の最上部と細粒砂岩の最 上部にそれぞれ厚さにして20cm程度の固結した珪質堆積 物が確認できる.極細粒砂岩の上位には,塊状極粗粒砂岩 から厚さ約1mの礫岩を挟んで,塊状中粒砂岩~極細粒砂 岩を経て極細粒砂岩とシルト岩の互層(1cm厚程度の葉理) に変化する,大局的には正級化を示す厚さ約17mの地層が 確認できる.最上部のシルト岩は上位に重なる塊状中粒砂 岩によって浸食されている.塊状中粒砂岩の層厚は約12m で,上位に厚さ約5mの極細粒砂岩とシルト岩の互層が重 なる.約5mの地層の欠落の後に,厚さ約6mの細粒砂岩と シルト岩の互層が確認できる.シルト岩の上位に厚さ約 29mの中粒砂岩層が重なる.約4mの地層の欠落を挟んで 上位には中粒砂岩と細粒砂岩の互層(厚さ10cm程度)が発 達する.最上部には生痕化石が確認できる.生痕化石の上 位には厚さ約10mの細粒砂岩とシルト岩の互層が発達す る.シルト岩の最上位は粗粒砂岩によって浸食され,その 上位には塊状褐色粗粒砂岩を主体とする正級化を示す地層 が層厚にして約39m重なる.その上位には白色の極細粒砂 岩が重なり,上位の極粗粒砂岩に浸食されている.極粗砂 岩層の厚さは約7mで,上方細粒化を示す.その上位は2m ほど欠損しているが,厚さ約8mの逆級化を示す礫岩~極 粗粒砂岩が重なる.その上位には粗粒砂岩~シルト岩へと 漸移する灰色堆積岩(厚さ約10m)が重なる.最上位のシ ルト岩はその上位に重なる褐色粗粒砂岩によって浸食され る.粗粒砂岩~中粒砂岩と細粒砂岩の互層,細粒砂岩とシ ルト岩の互層へと上方細粒化を示す.その一連の層厚は約 15mである.上位には,層厚約15mの褐灰色塊状細粒砂岩 が重なり,その上位には中粒砂岩~シルト岩へと正級化を 示す厚さ約7mの地層が重なる.シルト岩の最上部は浸食 面が確認でき,上位に上方細粒化を示す砂岩層(厚さ約 3m),細粒砂岩と極細粒砂岩の互層(層厚約7m)が重なる. 薄い砂岩層が2か所で確認できるものの,そこから厚さに して約72mの地層が確認できない.さらに下流に向かって 行くと,厚さ約5mの細粒砂岩とシルト岩の互層が露出す る(最下部のシルト岩より有孔虫化石を検出した).シルト 岩の上位には葉理が発達し,上方細粒化を示す砂岩(厚さ 約3m)がみられ,その上位には厚さ約2mの白色シルト岩が 重なる.シルト岩の上位は浸食され,塊状細粒砂岩(厚さ 約3m)が重なる.砂岩層の上部にN40°W,40°Nの断層が確 認できる.その上位約10mは地層が確認できないが,厚さ 約2mの上方細粒化を示す堆積岩が確認でき,その上位に は小断層が多数発達した白色の塊状中粒砂岩が厚さ15mほ ど発達している.白色塊状中粒砂岩の上位には細粒砂岩と シルト岩の互層が厚さ約5m確認でき,上位には厚さ約4m の塊状中粒砂岩が認められる.これらのシルト岩,砂岩に も小断層が認められる.塊状中粒砂岩の最上部から厚さ約 20mは露頭が確認できない.その上位には極粗粒砂岩~シ ルト岩へと正級化を示す厚さ約3mの地層が確認できる. シルト岩は上位の中粒砂岩(厚さ約5m)で浸食されている. そこから層厚にして約44m分の露頭は,コンクリート等で 護岸されて確認できない.その上位には厚さ約3mの白色 中粒砂岩が確認でき,生痕化石もみられる.その上位には 厚さ約8mの白色シルト岩が重なる.上位には厚さ2mほど の極粗粒砂岩~中粒砂岩へと級化する層があるが,上位が 粗粒砂岩(厚さ3m程度)によって浸食されている.その上 位には厚さ約7mの正級化を示す白色砂岩層が重なる.最 上部は白色細粒砂岩(厚さ2m程度)によって浸食されてい る.その上位には灰色の細粒砂岩とシルト岩の互層が重な る.この灰色細粒砂岩とシルト岩の互層から上位は小幡層 と判断できる. 吉井町塩の旧多胡石採石場の露頭観察:当該地域には高さ 約14 mの牛伏層中部に相当する地層が露出している(図3, 図版2).露頭が観察できる地面より高さ約1mは酸化鉄の 濃集による脈が入った黄褐色~灰色のアルコーズ質塊状極 粗粒砂岩から構成され,その上位約1.5 mまでは,平行ラミ ナおよびカレントリップルの発達した緑灰色砂岩層が重な る.砂岩層は粗粒砂岩→細粒砂岩へと正級化を示す.その 上位には厚さ約50cmのコンボルート葉理の発達した赤褐 色細粒砂岩が重なっている.カレントリップルの上位に は,厚さ約2mの黄灰色塊状砂岩が発達する.塊状砂岩は 極粗粒砂岩→中粒砂岩へと正級化を示す.塊状砂岩の上位 には厚さ約50cmの平行ラミナの発達した砂岩があり,下位 から中粒砂岩→細粒砂岩へと正級化を示す.平行ラミナお よびカレントリップルの発達した細粒砂岩の上位には厚さ 約10cmのコンボルート葉理の発達した灰白色細粒砂岩が 重なる.この細粒砂岩の上位には平行ラミナの発達した茶 褐色砂岩(厚さ約1.2m)が重なり,粗粒砂岩→極細粒砂岩 へと正級化を示す.極細粒砂岩の上位には,シルト岩→粘 土岩へと正級化を示すラミナの発達した青灰色泥岩(厚さ 約30cm)が見られる.この泥岩の上には厚さ約5.5mの黄褐

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色塊状極粗粒砂岩が重なる.極粗粒砂岩の最上部から表土 までは約1.2mあり,未固結の土壌で構成されている. 多胡石の岩石切片・薄片観察:塩の旧多胡石採石場より採 取した岩石試料2点(細粒砂岩および塊状極粗粒砂岩)につ い て 岩 石 切 片 を 作 成 し,肉 眼 観 察 を 行 っ た.細 粒 砂 岩 (GMNH-ER-2294)は,堆積時に形成された堆積構造(ス モールカレントリップル)に加え,鉄分が染みこみ酸化し た茶褐色の不規則な線が発達し,木目状の模様を呈する. スモールカレントリップルは厚さ1mmほどの緑褐色の葉 理と厚さ1mm未満~10mm程の黄褐色の葉理の互層で構成 されている(図4.1).薄片観察から,緑褐色の部分は長径 0.1mmほどの酸化鉄が濃集していることが分かった(図 5.1,5.2).細粒砂岩は,主として長径0.2mm~0.3mm程の石 英 お よ び 長 石 か ら 成 っ て い る.細 粒 砂 岩 (GMNH-ER-2295)は,塊状でマトリクスは白 色~灰色の石英や長石が大部分を占める.茶褐 色の部分は酸化鉄である.薄片観察から,正長 石もしくは石英のほか,角閃石や酸化鉄の粒子 も認められた.これらの造岩鉱物は長径0.2mm~0.5mmで 幾分円摩されている.正長石や石英,角閃石の周りには酸 化鉄がしみ込んでいる(図5.3,5.4). 図3.吉井町塩の旧多胡石採石場の柱状図.    はイタヤガイ類化石が産出した層準.    v.f= very fine(極細粒),f.= fine(細粒),m. = medium(中 粒),c.= coarse(粗 粒),v.c.= very coars(極粗粒).e 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 m v.c. c. m. f. v.f. Sandstone silt clay Mudstone GMNH-ER-2294 GMNH-ER-2295 図6.牛伏層中部の泥岩より産出した底生有孔虫化石.

   1, 2.Cyclammina cancellata Brady. 3. Spirosigmoilinella compressa Mat

-sunaga.4.Amphicoryna fukushimaensi(Ass ano).5.Martinotteiella nodulosa

(Cushman).スケールバーは100μm. 図5.吉井町塩の旧多胡石採石場から採取した砂岩の薄片写真.   上2つ(1,3)は開放ポーラ,下2つ(2,4)は直交ポーラ.1,2はスモー ルカレントリップルの発達した細粒砂岩;3,4は塊状粗粒砂岩.1~4の 黒色部分は磁鉄鉱ないしは酸化鉄,2の白色の部分は石英.2,4の灰色 部分は長石.4の番号右下の灰色の鉱物は角閃石. 図4.吉井町塩の旧多胡石採石場から採取した砂岩の岩石切片写真.    1はスモールカレントリップルの発達した細粒砂岩スラブ (GMNH-ER-2294);2は塊状粗粒砂岩スラブ(GMNH- ER-2295).

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底生有孔虫化石:大沢川ルートの牛伏層中部の泥岩より, 少なくとも4属4種の底生有孔虫化石が産出した(図6):Cy -clammina cancellata Brady,Spirosigmoilinella compressa Mat -sunaga,Amphicoryna fukushimaensis(Asano),Martinotteiella nodulosa(Cushman).これらはいずれも保存が悪く,膠着質 のものを除いて,石灰質の殻が溶脱あるいは部分的に溶脱 している.

議  論

 牛伏層の堆積環境について,これまで詳細な検討例はな い.神沢ほか(1968)は牛伏砂岩層中より,木片のほかに 貝殻片を報告している.大石・高橋(1990)の図2では牛伏 層の古水深を0~30mと見積もっている.一方,本研究で は,牛伏層は砂岩の発達した砂泥互層から形成されている ことがわかった.また塩の旧採石場での詳細な露頭観察と 岩石切片等の室内観察を行った結果,砂岩部~泥岩部に認 められた堆積構造は,Bouma(1969)によって報告された タービダイトのTa-cおよびTd-eとよく一致する.さらに牛 伏層中部より産出した底生有孔虫化石は,中期中新世の日 本海側の女川層や船川層下部の群集と一致する.また,島 根県の中期中新世の古江層の群集とも一致し,大陸棚外縁 から大陸棚斜面中部(漸深海)のグラーベン的凹地の貧酸 素化した深層を特徴づけることが知られている(野村, 1986; 田中・野村,2009).  多胡石に見られる赤褐色の不規則な模様は,砂岩中に含 まれていた磁鉄鉱などの鉄粒子が,堆積後(おそらく牛伏 層が陸上に隆起した後),雨や地下水が砂岩中の間隙にし み込んで二次的に形成されたものと思われる.これは,密 に詰まった細粒砂岩の緑褐色の葉理部分をルーペで観察し てみると,酸化されていない磁鉄鉱粒子がみられることか らもうかがえる.

謝  辞

 島根大学汽水域センター長の野村律夫教授には底生有孔 虫化石を同定して頂くとともに,有孔虫化石群から推定さ れる古環境について御示唆頂いた.  査読者の産業総合技術センターの高橋雅紀博士には本稿 の改善にあたって有益な助言を頂いた。

文  献

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Matsumaru,K.(1967):Geology oftheTomiokaarea,GunmaPrefecture, with anoteon “Lepidocyclina” from theAbutaLimestoneMember.

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図版1.吉井町大沢川に見られる露頭写真.    1.吉井町大沢南方で観察される三波川帯の緑色片岩.2.新屋敷の住吉神社付近にみられ る灰褐色極粗粒砂岩の露頭.3.吉井町神戸(ごう)付近に見られる断層に挟まれた小幡層 の小露頭.灰色細粒砂岩とシルト岩の互層(小幡層)が写真の右下にみられる.右上には礫 層(第四系?)が不整合で接している.4.神戸付近の牛伏層の露頭.左側には白色の塊状 細粒砂岩が,右側には極細粒砂岩とシルト岩の互層が確認できる.ハンマー(写真中央)の あたりのシルト岩より有孔虫化石を発見した.5.牛伏層最上部に近い白色塊状細粒砂岩の 露頭.6.5の露頭の底面に確認された生痕化石.7.牛伏層最上部.白色細粒砂岩に浸食さ れた灰色シルト岩が確認できる.8.神戸付近の牛伏層の上位に重なる小幡層の灰色細粒砂 岩とシルト岩の互層.ハンマー(写真左)の長さは約40cm.ハンマーのピックの部分の長さ は約10cm.

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図版2.吉井町塩の旧多胡石採石場の露頭写真および産出した大型化石.    1.露頭の最下部の写真.黄褐色~灰色のアルコーズ質砂岩が見られる.2.1の露頭を南側 から観察したところ.上部には,平行ラミナの発達した緑灰色砂岩層が確認できる.スケー ルのハンマーの長さは約40cm.3.平行ラミナ部の拡大写真.4.中粒砂岩に発達するカレ ントリップル.スケールのボールペンは約15cm.5.粗粒砂岩中の平行ラミナ.石英の脈や 小断層が確認できる.6.塩の露頭の中~上部層準の写真.7.平行ラミナの発達した細粒 砂岩部(ハンマーの柄の部分)およびその上位にかさなる灰白色の細粒砂岩.灰色の細粒砂 岩には上位の極粗粒砂岩の荷重によって形成されたコンボルート葉理が見られる.8.コン ボルート葉理とその上位に重なる極粗粒砂岩部分の拡大写真.9.塊状極粗粒砂岩中から産出 したイタヤガイ類の化石.

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