「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬ガイドライン」
-批判的吟味ー
“ A guideline for primary care physicians on the usage of psychotropic medications to treat BPSD”: a critical appraisal 110th JSPN 2014/06/27, Yokohama, JPN齊尾 武郎
フジ虎ノ門健康増進センター K&S産業精神保健コンサルティング saio@ppp.bekkoame.ne.jp日本精神神経学会
利益相反(CO I) 開示
筆頭発表者名: 齊尾 武郎 演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある 企業などはありません。 2“かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬ガイドライン”① • 厚生労働科学特別研究事業“認知症、特にBPSDへの適切な 薬物使用に関するガイドライン作成に関する研究班”作成 • 平成25年7月、厚生労働省のホームページ上で公開。 • http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000036k0c‐ att/2r98520000036k1t.pdf • 厚労省ホームページの”報道発表資料“のコーナーでの説明文 • “「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」では、その計画の一つとして 「認知症の薬物治療に関するガイドライン」の策定を予定していたところです。 今般、平成24年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業 において行われた「認知症、特にBPSDへの適切な薬物使用に関するガイドラ イン作成に関する研究」の成果として、当該ガイドラインが策定されましたので 公表いたします。 “
“かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬ガイドライン”② • 表紙・裏表紙を含め、全6ページのカラー刷りの冊子。 • インターネットでpdfで配布。 • http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000036k0c‐att/2r98520000036k1t.pdf • 形式面をAppraisal of Guidelines for Research and Evaluation (AGREE) ⅡInstrumentで評価すると、ステークホルダーの関与、 作成の厳密さ(エビデンスの収集・評価、改訂の方法など)、適 用可能性、編集の独立性(利益相反の開示)の点で重大な欠 陥がある。
http://www.agreetrust.org/wp‐content/uploads/2013/10/AGREE‐II‐ Users‐Manual‐and‐23‐item‐Instrument_2009_UPDATE_2013.pdf
AGREEⅡInstrument
• Appraisal of Guidelines for Research and Evaluation (AGREE)は、 診療ガイドライン評価方法の世界標準で、世界中の診療ガイド ライン作成者が共同で立ち上げたプロジェクト。2003年にAGREE Instrumentが公表された。AGREEⅡInstrumentはその改訂版で 2009年刊行。 • AGREEⅡInstrumentは23項目で構成され、それが①範囲と目的 (3項目)、②ステークホルダーの関与(3項目) 、③作成の厳密さ(8 項目) 、④提示の明確さ(3項目) 、⑤適用可能性(4項目) 、⑥編 集の独立(2項目)の6つのドメインに分類されている。この他に最 後に、ガイドラインの全体評価が2項目ある。AGREEⅡ/①範囲と目的(3項目) 1 ガイドライン全体の目的が具体的に記載さ れているか 2 点 /7 点 満 点 2 ガイドラインでカバーされる健康に関する疑 問は具体的に記載されているか 4 点 /7 点 満 点 3 ガイドラインの対象とする範囲(患者、一般 市民など)が具体的に記載されているか 3 点 /7 点 満 点
9/点21点
AGREEⅡ/②ステークホルダーの関与(3項目) 4 ガイドライン開発グループには、関係する すべての専門家グループから人が来てい るか 0 点 /7 点 満 点 5 対象集団(患者、一般市民など)の観点や 趣向が検討されているか 0 点 /7 点 満 点 6 ガイドラインの対象とする使用者が明確に 定義されているか 4 点 /7 点 満 点
4/点21点
AGREEⅡ/③作成の厳密さ(8項目) 7 エビデンスの検索に系統的な方法が用いられているか 0点/7点満点 8 エビデンスを選択する基準が明確に記載されているか 0点/7点満点 9 エビデンスの総体の強さと限界が明確に記載されているか 0点/7点満点 10 勧告を作成する方法が明確に記載されているか 0点/7点満点 11 健康上の便益、副作用、リスクが勧告の作成の際に考慮さ れているか 0点/7点満点 12 勧告とそれを支持するエビデンスとの間に明確な連絡はある か 0点/7点満点 13 ガイドラインは公表に先立って、外部の専門家の評価を受け ているか 0点/7点満点 14 ガイドライン改訂の手順が書かれているか 0点/7点満点
0/点56点
AGREEⅡ/提示の明確さ(3項目) 15 勧告は具体的であいまいなところはないか 4 点 /7 点 満 点 16 病気や健康問題の管理に関する別の選択 肢が明確に提示されているか 2 点 /7 点 満 点 17 重要な勧告は容易に認識できるか 5 点 /7 点 満 点
11/点21点
AGREEⅡ/⑤適用可能性(4項目) 18 ガイドラインの促進因子や阻害因子は記 載されているか 0 点 /7 点 満 点 19 勧告を実践するための助言やツールは用 意されているか 2 点 /7 点 満 点 20 勧告を適用する際に必要となる可能性の ある資源は考慮されているか 0 点 /7 点 満 点 21 ガイドラインに監視や監査の基準が示さ れているか 0 点 /7 点 満 点
2/点28点
AGREEⅡ/⑥編集の独立(2項目) 22 資金源の意見がガイドラインの内容を左 右していないか 2 点 /7 点 満 点 23 ガイドライン作成グループの利益相反が 記録・開示されているか 0 点 /7 点 満 点
2/点14点
AGREEⅡ/ガイドライン全体の評価(2項目) 1 ガイドライン全体の質の評価 2 点 /7 点 満 点 2 このガイドラインの使用を推奨するか 1 点 /7 点 満 点
3/点14点
AGREE Ⅱまとめ
• AGREE Ⅱ instrumentを用いてガイドラインを形式面から評価 したところ、すべてのドメインで評価が低かった。 • ただし、AGREEによる評価は、複数の評価者で行い、ドメインスコアをつけるの が基本であり、本発表での評価は、あくまでも発表者が試みに行ったものであ る。 • 特に③作成の厳密さは最低点であり、本ガイドラインがコンセ ンサスガイドラインであることが、最大の問題といえよう。 • この他、 ⑤適用可能性 、⑥編集の独立にも大きな難点があ る。 要するに、利益相反が不明で、エビデンスに欠け、実地で使用 されるかどうか怪しいガイドラインである。ガイドラインの勧告内容の評価
• “幻覚、妄想、攻撃性、焦燥”に対して、“メマンチ ン、コリン分解酵素阻害薬を使用し、改善しない場合 抗精神病薬の使用を検討する。DLB ではコリン分解酵 素阻害薬が第一選択となる”とし、“抑うつ症状、う つ病”に対しては、“コリン分解酵素阻害薬を用い、 改善しない場合抗うつ薬の使用を検討”としているが、 いずれもこれらを裏付ける十分なエビデンスは存在し なかった。文献検索
• コクランライブラリ
• Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaで検 索すると、Database of Abstracts of Reviews of Effects(DARE)=8件、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CCRCT)=49件であった。•
PubMed
• Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaで検 索すると402件ヒットし、controlled clinical trialsが4件、 randomized controlled trialsが22件、meta‐analysisが7件 、systematic reviewが34件、guidelinesがゼロ件であった 。BPSDに対する向精神薬療法のエビデンス①-1
• 〔系統的総説〕そもそも認知症患者の神経精神症状には、向精神薬 は限られた効果しかない(ほとんど効かない)。 • Sink KM, Holden KF, Yaffe K. Pharmacological treatment of neuropsychiatric symptoms of dementia: a review of the evidence. JAMA. 2005; 293(5): 596‐ 608. • 英語で書かれた文献を系統的に検索し、25 件のRCT と4 件のメタ分 析をレビューしたもの(抑うつのみをアウトカムとする研究を除く)。 • 従来型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の有効性を直接比較した研 究はない。 • 従来型抗精神病薬について有効性を示す論文はあるが、研究の質 が低く、副作用によるデメリットを差し引くと、なんともいえない。BPSDに対する向精神薬療法のエビデンス①-2
• 非定型抗精神病薬について、オランザピンとリスぺリドンは少量投 与にてやや有効だが、傾眠傾向が問題。リスぺリドンでは、錐体外 路症状や脳卒中も起こしうる。 • 抗うつ薬(SSRI)は認知症の抑うつ以外の症状に有効とはいえない。 • ドネペジルについては 2 件のRCT があるが、結果は相反している。 • ベンゾジアゼピンについては 1 件のRCT があるのみ(ロラゼパム、 • オランザピン、プラセボの比較)。BPSDに対する向精神薬療法のエビデンス②
• 〔コクランレビュー〕非定型抗精神病薬は、アルツハイマー病患者の 攻撃性や精神病性症状にはやや有効だが、重篤な副作用が多く、 同居者や介護者に身体の危険が及ぶときや行動異常が重いとき以 外は使うべきでない。 • Ballard CG, Waite J, Birks J.Atypical antipsychotics for aggression and psychosis in Alzheimer's disease. CDSR 2006, Issue 1. Art. No.CD003476. DOI: 10.1002/14651858.CD003476.pub2. • 16 件のRCT が存在したが、9 件のみがメタ分析に相応しい条件を揃 えていた。 • リスぺリドンとオランザピンは攻撃性を低下させたが、重篤な副作用 (脳卒中を含む)が見られ、また、錐体外路症状その他の副作用も • 多かった。また、ドロップアウトも多かったBPSDに対する向精神薬療法のエビデンス③
〔費用便益分析〕アルツハイマー病の患者のBPSD に非定型
抗精神病薬を使っても、質調整生存年(QALYs)に差はなく、プ
ラセボのほうが費用がずっと安く済む。
• Rosenheck RA, Leslie DL,et al. as Clinical Antipsychotic Trial of Intervention Effectiveness‐Alzheimer's Disease (CATIE‐AD) investigators. Cost‐benefit analysis of second‐generation antipsychotics and placebo in a randomized trial of the treatment of psychosis and aggression in Alzheimer disease. Arch
Gen Psychiat.2007; 64(11): 1259‐68.