• 検索結果がありません。

発達障害の子どもの ための学校支援 Ⅱ 適応に関する実態把握と教材 教具の開発を中心に

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "発達障害の子どもの ための学校支援 Ⅱ 適応に関する実態把握と教材 教具の開発を中心に"

Copied!
69
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

発達障害の子どもの

ための学校支援Ⅱ

―適応に関する実態把握と教材・教具の開発を中心に―

(2)

Ⅰ はじめに 1 1 Ⅱ.ICFの考え方を使っての現状分析 Ⅲ.学級集団の中での問題発生や悪化の予防 3 Ⅳ.子ども用の情緒や行動の包括的な質問紙の活用 4 Ⅴ.個別の指導計画の作成と指導や支援に対する評価 5 QU(Questionnaire-Utilities)について 5 事例1 ICF 使った指導計画の作成 ~小学校低学年の高機能広汎性発達障害の疑いのある児童を対象として~ 7 事例2 通常の学級における「困り感」のある児童への支援 ~「グレーゾーン」のA 児の事例より~ 18 事例3 中学校で通常学級に在籍するADHD と診断され、 LD(読み書き)の疑いのある生徒の指導事例 36 開発した教材 45 シニアアドバイザーによる研修 66 おわりに 68

(3)

Ⅰ . は じ め に

近 年 、 ADHD、 高 機 能 広 汎 性 発 達 障 害 で 不 登 校 等 の 二 次 障 害 に よ り 心 身 症 ・ 神 経 症 等 の 診 断 に て 、 小 児 科 、 児 童 精 神 科 に 入 院 し 、 特 別 支 援 学 校 (病 弱 養 護 学 校 )に 在 籍 す る 児 童 生 徒 が 増 加 し て お り 、 そ の 対 応 が 大 き な 教 育 の 課 題 と な っ て い る 。 こ れ ら の 児 童 生 徒 の 数 は 、 平 成 15 年 度 と 平 成 18 年 度 を 比 較 す る と 2 か ら 3 倍 に な っ て い る 。 そ の 多 く は 、 不 登 校 、 対 人 恐 怖 、 過 剰 な 不 安 状 態 な ど を 呈 し 、 心 身 症 や 適 応 障 害 、 不 安 障 害 等 の 診 断 で 入 院 し 、 病 院 に 隣 接 す る 特 別 支 援 学 校 に 在 籍 し て い る 。 こ れ ら の 児 童 生 徒 と 関 連 す る 小 中 学 校 の 児 童 生 徒 を 対 象 に 、 具 体 的 に 次 の 4 点 に つ い て 研 究 し 明 ら か に す る 。 ( )米 国1 T.M. Achenbach ら が 開 発 し 、 国 際 的 に 通 用 し て い る 子 ど も 用 の 情 緒 や 行 動 の 包 括 的 な 質 問 紙 [ 親 用 の CBCL =Child Behavior Checklist( )、 教 師 用 の TRF =Teacher's Report Form( )と 本 人 用 の YSR =Youth Self Report( )] を 使 用 し 、 親 、 教 師 、 本 人 の 三 者 の 立 場 か ら 多 面 的 に 情 緒 や 行 動 を 評 価 し 、 客 観 的 ・ 主 観 的 実 態 を 検 討 し 、 3 者 間 の ず れ 、 プ ロ フ ィ ー ル の 特 徴 を 解 析 し 、 心 理 、 行 動 特 性 を 明 ら か に し 、 自 尊 感 情 の 低 下 を 防 ぐ 。 ( ) 発 達 障 害 の 子 ど も が つ ま ず き や す い 聴 覚 情 報 を 視 覚 に 訴 え る い わ ゆ る 視 覚 支 援 教 材 の2 開 発 を 行 い 、 そ れ を 活 用 す る こ と に よ り 、 児 童 生 徒 が 「 で き た」、「 わ か っ た 」 と い う 学 習 面 で の 達 成 感 、 成 功 感 を 味 わ わ せ る 機 会 を 増 や し 、 自 尊 感 情 を 高 め る 機 会 を 確 保 す る 。 ( )本 人 、 親 、 教 師 の 評 価 が 著 し く ず れ て い る ケ ー ス や 、 適 応 状 態 に 改 善 が み ら れ た 児 童3 生 徒 の 事 例 研 究 を 行 い 、 学 校 適 応 (特 別 支 援 学 校 へ の 適 応 と 小 学 校 、 中 学 校 へ の 適 応 を 含 む ) へ の 障 壁 、 そ の 再 適 応 へ の 過 程 (心 理 面 と 学 習 面 の 両 方 )を 明 ら か に す る 。 ( )( )( )( )を 検 討 す る 中 で 、 個 々 の 児 童 生 徒 の 実 態 に 応 じ た 教 材 開 発 や 個 別 指 導 の 在 り4 1 2 3 方 (LD、ADHD 等 の 児 童 生 徒 に 配 慮 し た 教 科 学 習 の 内 容 ・ 方 法 )に つ い て 、 ガ イ ド ブ ッ ク を 作 成 し 、 教 育 現 場 に 配 布 す る 。 な お 、 こ の 研 究 を 進 め て い く 過 程 に お い て 、 I C F (WHO 国 際 生 活 機 能 分 類 ) の 考 え 方 を 使 っ て 現 状 分 析 を 行 い 、 問 題 発 生 予 防 の 考 え に 従 っ て 学 級 ・ 学 校 経 営 か ら 個 別 指 導 ま で の プ ロ セ ス を 明 ら か に す る 。

Ⅱ . I C F の 考 え 方 を 使 っ て の 現 状 分 析

1 . I C F と は 、 1980 障 害 に 関 す る 国 際 的 な 分 類 と し て は 、 こ れ ま で 、 世 界 保 健 機 関 ( 以 下 「 W H O ) が」 「 ( )」 「 ( ) 年 に 国 際 疾 病 分 類 I C D の 補 助 と し て 発 表 し た W H O 国 際 障 害 分 類 I C I D H が 用 い ら れ て き た が 、 W H O で は 、2001 年 5 月 の 第 54 回 総 会 に お い て 、 そ の 改 訂 版 と し て 「 I C F (International Classification of Functioning Disability and Health)」 を 採 択 し た 。

I C F は 、 人 間 の 生 活 機 能 と 障 害 に 関 し て 、 ア ル フ ァ ベ ッ ト と 数 字 を 組 み 合 わ せ た 方 式 で 分 類 す る も の で あ り 、 人 間 の 生 活 機 能 と 障 害 に つ い て 「 心 身 機 能 ・ 身 体 構 造 「 活 動 「 参」 」 加 」 の 3 つ の 次 元 及 び 「 環 境 因 子 」 等 の 影 響 を 及 ぼ す 因 子 で 構 成 さ れ て お り 、 約 1500 項 目 に 分 類 さ れ て い る 。 こ れ ま で の 「 I C I D H 」 が 身 体 機 能 の 障 害 に よ る 生 活 機 能 の 障 害 ( 社 会 的 不 利 を 分 類 す る と い う 考 え 方 が 中 心 で あ っ た の に 対 し 、 I C F は こ れ ら の 環 境 因 子 と い う 観 点 を 加 え 、 例 1

(4)

え ば 、 バ リ ア フ リ ー 等 の 環 境 を 評 価 で き る よ う に 構 成 さ れ て い る 。 こ の よ う な 考 え 方 は 、 今 後 、 障 害 者 は も と よ り 、 全 国 民 の 保 健 ・ 医 療 ・ 福 祉 サ ー ビ ス 、 社 会 シ ス テ ム や 技 術 の あ り 方 の 方 向 性 を 示 唆 し て い る も の と 考 え ら れ る 。 2 . I C F の 目 的 I C F は 多 く の 目 的 に 用 い ら れ う る 分 類 で あ り 、 さ ま ざ ま な 専 門 分 野 や 異 な っ た 領 域 で 役 立 つ こ と を 目 指 し て い る 。ICFの 目 的 を 個 別 に み る と 、 以 下 の と お り で あ る 。 、 、 、 。 ・ 健 康 状 況 と 健 康 関 連 状 況 結 果 決 定 因 子 を 理 解 し 研 究 す る た め の 科 学 的 基 盤 の 提 供 ・ 健 康 状 況 と 健 康 関 連 状 況 と を 表 現 す る た め の 共 通 言 語 を 確 立 し 、 そ れ に よ っ て 、 障 害 の あ る 人 々 を 含 む 、 保 健 医 療 従 事 者 、 研 究 者 、 政 策 立 案 者 、 一 般 市 民 な ど の さ ま ざ ま な 利 用 者 間 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 改 善 す る こ と 。 ・ 各 国 、 各 種 の 専 門 保 健 分 野 、 各 種 サ ー ビ ス 、 時 期 の 違 い を 超 え た デ ー タ の 比 較 。 ・ 健 康 情 報 シ ス テ ム に 用 い ら れ る 体 系 的 コ ー ド 化 用 分 類 リ ス ト の 提 供 。 こ の I C F の 考 え 方 は 、 特 別 支 援 学 校 の 学 習 指 導 要 領 改 訂 に も 大 き な 影 響 を 与 え 、 特 に 自 立 活 動 の 領 域 に お い て は 色 濃 く 反 映 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 発 達 障 害 の あ る 児 童 生 徒 の 環 境 や 個 人 特 性 を 考 え た 実 態 把 握 を I C F に よ り 分 析 し 指 導 に 役 立 て る も の で あ る 。 特 に 「 子 ど も 」 に か か わ る 複 数 の 教 師 が デ ィ ス カ ッ シ、 ョ ン を 行 い な が ら 分 析 を 行 う こ と に よ り 情 報 を 共 有 し て い く こ と が 重 要 で あ る 。 図 1 ICFの 構 成 要 素 間 の 相 互 作 用 健康状態(変調または病気)

ADHD

心身機能・身体構造 活動 参加 背景因子 環境因子 個人因子

ICFの分類

注意機能の問題 記憶機能の問題 情動機能の問題 など 教室から飛び出す トラブルを起こしやすい 授業に集中できない 一斉授業に参加しに くい 登校を渋る 薬の服用 オープンスペースの教室 排他的なクラスメート 学校を信頼できない保護者など 自尊感情の低下 自己効力感の低さ 2

(5)

用 語 の 説 明 心 身 機 能 (body functions) と は 、 身 体 系 の 生 理 的 機 能 ( 心 理 的 機 能 を 含 む ) で あ る 。 身 体 構 造 (body structures) と は 、 器 官 ・ 肢 体 と そ の 構 成 部 分 な ど の 、 身 体 の 解 剖 学 的 部 分 で あ る 。 機 能 障 害 ( 構 造 障 害 を 含 む () impairments) と は 、 著 し い 変 異 や 喪 失 な ど と い っ た 、 心 身 機 能 ま た は 身 体 構 造 上 の 問 題 で あ る 。 活 動 (activity) と は 、 課 題 や 行 為 の 個 人 に よ る 遂 行 の こ と で あ る 。

参 加 (participation) と は 、 生 活 ・ 人 生 場 面 (life situation) へ の 関 わ り の こ と で あ る 。

( ) 、 。 活 動 制 限 activity limitations と は 個 人 が 活 動 を 行 う と き に 生 じ る 難 し さ の こ と で あ る 参 加 制 約 (participation restrictions) と は 、 個 人 が 何 ら か の 生 活 ・ 人 生 場 面 に 関 わ る と き に 経 験 す る 難 し さ の こ と で あ る 。 環 境 因 子 (environmental factors) と は 、 人 々 が 生 活 し 、 人 生 を 送 っ て い る 物 的 な 環 境 や 社 会 的 環 境 、 人 々 の 社 会 的 な 態 度 に よ る 環 境 を 構 成 す る 因 子 の こ と で あ る 。 * 個 人 因 子 Ianes1)は 、 情 緒 と 行 動 の 個 人 因 子 と し て 、 帰 属 ス タ イ ル 、 自 己 効 力 感 、 自 尊 心 (セ ル フ ・ エ ス テ ィ ー ム )、 動 機 、 情 緒 等 を あ げ て い る 。 こ れ ら の 内 容 は 、 武 田 の 大 学 院 等 の 授 業 の 中 で 解 説 し て い る が 、 本 紙 で は 省 略 す る 。

1 Ianes, D., Celi, S., & Cramerotti, S 2003 Il Piano educativo individualizzato progetto di vita. Erickson.) ( )

Ⅲ . 学 級 集 団 の 中 で の 問 題 発 生 や 悪 化 の 予 防

問 題 の 発 生 を 予 防 す る こ と を 一 次 予 防 、 問 題 の 悪 化 を 防 ぐ こ と を 二 次 予 防 、 問 題 に よ る 二 次 的 な 社 会 的 不 利 益 を 防 ぐ こ と を 三 次 予 防 と い う ( 図 2 。)

一 次 予 防 は 、 一 般 的 な 予 防 (universal prevention) と 選 択 的 予 防 (selective prevention) に 分 け ら れ る 。 一 般 的 な 予 防 は 児 童 生 徒 全 員 を 対 象 に 行 う も の で あ る 。 例 え ば 、 発 達 障 害 な ど 特 別 な 教 育 的 ニ ー ズ の あ る 児 童 生 徒 が 在 籍 す る 学 級 に お い て 、 普 段 の 学 級 経 営 に お い て 発 言 の 仕 方 、 仲 良 く す る マ ナ ー な ど 学 級 生 活 に か か わ る ル ー ル を 決 め て お く こ と が 大 切 で あ る 。 い わ ゆ る 全 員 を 対 象 と し た メ ン タ ル ヘ ル ス ケ ア で あ る 。 河 村 (2006) が 開 発 し た Q U (Questionnaire-Utilities) な ど も 一 般 的 予 防 や 選 択 的 予 防 の 実 態 把 握 の た め に 有 効 で あ り 、 多 く の 学 校 で 活 用 さ れ て い る 。 ま た 、 一 次 予 防 に お い て 多 動 で あ っ た り 、 対 人 関 係 に 問 題 を 抱 え て い た り す る リ ス ク の 高 い 子 ど も た ち 数 人 に 対 し て 個 別 に 指 導 ・ 支 援 を 行 う こ と を 選 択 的 予 防 (selective prevention) と い う 。 二 次 予 防 は 、 教 室 を 飛 び 出 す 、 対 処 に 暴 力 を ふ る う な ど の 問 題 を 出 し て い る 子 ど も に 対 し indicated て 問 題 の 悪 化 を 防 ぐ こ と を 目 的 に し て 行 う。す な わ ち、適 用 根 拠 の あ る 必 要 な 予 防( ) で あ る 。 適 切 な 対 処 が 必 要 で あ り 、 保 護 者 や 専 門 機 関 等 と の 連 携 を 図 り な が ら 指 prevention 導 ・ 支 援 が 必 要 な 段 階 で あ る 。 三 次 予 防 は 、 不 登 校 等 の 非 社 会 的 行 動 や 非 行 等 の 反 社 会 的 行 動 、 ま た 、 心 身 症 等 の 身 体 症 状 に 対 し て 、 カ ウ ン セ リ ン グ や 治 療 を 行 う こ と に よ り 問 題 に よ る 二 次 的 な 社 会 的 不 利 益 を 防 ぐ こ と で あ る 。 3

(6)

図 2 問 題 発 生 の 予 防

Ⅳ . 子 ど も 用 の 情 緒 や 行 動 の 包 括 的 な 質 問 紙 の 活 用

幼 児 期 か ら 思 春 期 に い た る 子 ど も の 情 緒 や 行 動 を 包 括 的 に 評 価 す る 質 問 紙 と し て 、 米 国 Vernmont 大 学 の Achenbach が 開 発 し た 一 連 の 調 査 票 が あ る 。 保 護 者 が 記 入 す る Child Behavior 、 ほ ぼ 同 じ 内 容 で 本 人 が 回 答 す る 、 な ら び に 教 師 が 回 Checklist (CBCL) Youth Self Report (YSF)

答 す る Teacher’s Report Form (TRF)で す 。CBCL は 2-3 歳 の 幼 児 版 (CBCL/2-3) と 年 長 児 版 (CBCL/4-18) と に 分 か れ る 。 な ど 一 連 の 評 価 用 紙 の 構 成 の 特 徴 は 、 子 ど も の 情 緒 と 行 動 を 多 面 的 に 評 価 す る こ と CBCL で あ り 、 そ れ ぞ れ 男 女 別 に 標 準 化 さ れ て い る 。CBCL / 4-18 は 社 会 的 能 力 尺 度 と 問 題 行 動 尺 度 か ら 構 成 さ れ て い る 。 社 会 的 能 力 尺 度 は 、 子 ど も の 趣 味 や 友 達 関 係 、 家 族 関 係 な ど 生 活 状 況 を 調 べ る も の で あ る 。 問 題 行 動 尺 度 は 118 の 質 問 項 目 と 書 き こ み 可 能 な 1 項 目 か ら 構 成 さ れ て い る。こ れ ら の 質 問 に よ り 評 価 さ れ る 症 状 群 尺 度 は、「ひ き こ も り」、「身 体 的 訴 え」、「不 安 / 抑 う つ」、「 社 会 性 の 問 題」、「 思 考 の 問 題」、「 注 意 の 問 題」、「 非 行 的 行 動」、「 攻 撃 的 行 動 」 の 8 つ の 軸 か ら な り 、 さ ら に 「 ひ き こ も り」、「 身 体 的 訴 え」、「 不 安 / 抑 う つ 」 か ら な る 内 向 尺 度 「 非 行 的 行 動 」 と 「 攻 撃 的 行 動 」 か ら な る 外 的 尺 度 と 総 得 点 が あ る 。 こ れ ら の、 得 点 は 標 準 化 さ れ た プ ロ フ ィ ー ル 表 に プ ロ ッ ト す る と T 得 点 に 換 算 さ れ る 。 こ の プ ロ フ ィ ー ル 表 に は 2 つ の 点 線 が 記 入 さ れ て お り 、2 つ の 点 線 に は さ ま れ た 領 域 は 境 界 域 、 そ の 下 は 正 常 域 、 そ の 上 は 臨 床 域 と 評 価 さ れ る 図 3 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 子 ど も の 情 緒 面 及 び 行 動( ) 面 の 発 達 や 問 題 の 特 徴 を 一 目 で 包 括 的 に つ か む こ と が で き る 。 さ ら に 対 象 年 齢 が ひ ろ い こ と か ら 追 跡 調 査 に よ る そ の 子 ど も の 変 化 を 観 察 す る こ と が 可 能 で あ る 。 一般的な予防(universal prevention) 選択的予防(selective prevention) 適応根拠のある必要な予防 (indicated prevention) 臨床・治療(clinical / treatment)

一次予防

二次予防

三次予防

4

(7)

図 3 発 達 障 害 の あ る 児 童 の Teacher’s Report Form (TRF)の 結 果

Ⅴ . 個 別 の 指 導 計 画 の 作 成 と 指 導 や 支 援 に 対 す る 評 価

Ⅲ や 等 の 知 能 検 査 や 認 知 検 査 を 実 施 す る と 共 に 、 各 教 科 等 の 実 態 や 情 緒 及 WISC DN-CAS 、 。 、 、 び 行 動 の 実 態 を 把 握 し 個 別 の 指 導 計 画 を 作 成 す る 児 童 生 徒 本 人 に 対 し て の 評 価 そ し て 個 別 の 指 導 計 画 に 関 す る 形 成 的 評 価 を 経 て 、 指 導 や 支 援 に 対 す る 評 価 を 行 う 。 Q U (Questionnaire-Utilities) に つ い て Q U (Questionnaire-Utilities) は 、 現 在 、 h y p e r ‐ Q U に グ レ ー ド ア ッ プ さ れ て い る 。 Q U の 診 断 尺 度 ( 学 校 生 活 意 欲 尺 度 と 学 級 満 足 度 尺 度 ) に 加 え 、 対 人 関 係 を 築 く 際 に 必 要 -な ソ ー シ ャ ル ス キ ル 尺 度 で 構 成 さ れ て い る 。 ア ン ケ ー ト の 結 果 、 児 童 を 4 つ の 群 に 分 類 し 、 ど の 群 に 位 置 す る か に よ っ て 、 児 童 の 学 級 内 で の 相 対 的 な 位 置 を 確 認 で き る と 同 時 に 、 個 々 の 抱 え る 問 題 が わ か り 、 教 師 の 具 体 的 な 対 応 を 検 討 す る こ と が で き る も の で あ る ( 図 4 、 表 1 。 Q U は 、 問 題 発 生 の 予 防 と い う 視 点) か ら 、 一 般 的 予 防 や 選 択 的 予 防 の 実 態 把 握 の た め に 有 効 で あ り 、 広 く 小 中 学 校 で 活 用 さ れ て い る 。

臨床域

正常域

境界域

5

(8)

図4 Q-Uプロット図(小学生用 (河村,) 2004から引用) 表1 Q-Uの結果から得られる各群の特徴 群の名称 特 徴 学級生活満足群 承 認 得 点 が 高 く 、 被 害 得 点 が 低 い 児 童 で す 。 学 級 内 に 自 分 の 居 場 所をもち、生活を意欲的に送っていると考えられます。 非承認群 承 認 得 点 と 被 侵 害 得 点 が と も に 低 い 児 童 で す 。 不 適 応 感 や い じ め を 受 け て い る 可 能 性 は 低 い で す が 、 学 級 内 で 認 め ら れ る こ と が 少 なく、自主的に活動する気持ちが弱い児童と考えられます。 侵害行為認知群 承 認 得 点 と 侵 害 得 点 が と も に 高 い 児 童 で す 。 学 校 生 活 や 諸 々 の 活 動 に 意 欲 的 に 取 り 組 み ま す が 、 そ の プ ロ セ ス で ト ラ ブ ル が 生 じ て し ま う こ と が 多 い 児 童 と 考 え ら れ ま す 。 物 事 に 対 し て 、 過 敏 な 反 応を示す児童も含まれます。 学級生活不満足群 承 認 得 点 が 低 く 、 被 侵 害 得 点 が 高 い 児 童 で す 。 い じ め 被 害 や 悪 ふ ざ け を 受 け て い る 可 能 性 が 高 い と 思 わ れ ま す 。 学 級 集 団 へ の 適 応 感 は 低 く 、 不 登 校 に 至 る 可 能 性 も 高 い と 考 え ら れ ま す 。 中 で も 、 要支援群の児童には早急な対応が必要です。 文 献 厚 生 労 働 省 (2009)「 国 際 生 活 機 能 分 類 - 国 際 障 害 分 類 改 訂 版 - ( 日 本 語 版 ) の 厚 生 労 働 省」 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html ホ ー ム ペ ー ジ 掲 載 に つ い て 河 村 茂 雄 (2006) 学 級 づ り の た め のQ-U入 門 . 図 書 文 化 . 武 田 鉄 郎 (2008) L D , A D H D 等 で 適 応 障 害 の あ る 児 童 生 徒 の 心 理 ・ 行 動 特 性 及 び 支 援 体 制 に 関 す る 研 究 報 告 書 . 科 学 研 究 費 補 助 金 基 盤 研 究 (C)( 研 究 代 表 者 武 田 鉄 郎 研 究 課 題 番 号17530706) 武 田 鉄 郎 6

(9)

事例1

ICF 使った指導計画の作成

~小学校低学年の高機能広汎性発達障害の疑いのある児童を対象として~

(10)

1.対象児童の実態 主訴 自閉的な傾向がある本児は、1 年生のときには、みんなと一緒に教室で授業を受けられる ようになってきたが、2 年生になって、注意の持続が短く姿勢保持ができない、落ち着きが ない、課題の遂行が困難などの学校生活での困難さが目立つようになってきた。また、友 達との関わりでは、少しずつ良い関わりがとれるようになってきたが、友達とトラブルに なり、パニックになる事も多く、教室を飛び出してしまう事もある。集団の中で行動する 事に非常に緊張感が高まりその反動が攻撃的な行動に出るようである。 学習面の実態 一斉指導の中では、課題に対する理解が困難で、担任の個別の声かけが必要である。国 語では、板書を写す事にとても時間がかかり、書く事に対して困難さが見られる。また、 物語文では、登場人物の気持ちを言葉で表現する事も難しい。算数では、繰り上がりの足 し算で間違いが多く見られる。しかし、紙に計算式を書くと、時間はかかるが、間違いが 少ない。先生と一対一での個別指導では、課題を最後まで頑張る事が出来る。音楽では、 歌を歌ったり、楽器を使ったりする演奏に苦手意識が高く、学習に参加しようとしない。 情緒・行動面の実態 何か新しい活動に取り組む時や、時間割が変更されると、とても不安が高く、落ち着き がなくなり、常に担任の側にいようとする事が多い。また、自分の気持ちを表現する事が できない時、それがストレスとなり、友達とトラブルになったり、教室を飛び出す事もあ る。また、課題ができない時にも、不安を抑える事ができず、教科書を投げたり、教室を 飛び出したりする。 8

(11)

2.ICF による実態分析

家庭 学級の様子 担任 友人 愛情不足 母 19 歳で出産 1~2 歳まで母と離れて暮らす 駄々をこねることはなく 寂しい時涙をためていた。 家族構成 父、母、2 歳の弟 両親の理解を示すが、家庭での 支援は乏しい。 担任と家庭は連絡を密にしてい る。 通常学級に在籍 パニックを起こしても周り ははやし立てたりしない グループ活動の時、友人はA 君が活動に参加できるよう に声かけをよくしている。 パニックになり教室を飛び 出した時は、校長が対応して くれる。 担任を信頼している →不安な課題の前や問題行動を 起こした時でも担任の先生と コミック会話で気持ちを表現 できれば安心できる。 担任との関係はうまくいってい る →個別に声かけ・丁寧な説明を し、指導すると、理解するこ とができる。 担任の先生がいないと不安が る。 自分から友達を誘って遊ぶ 事はないが、誘われると仲間 に入る。 ☆友達とトラブルを起こし ても自分の非を認めること ができる。 高機能広汎性発達障害の疑い 参加 自分の気持ちを伝えられない事から友人とトラブルを起こしやすい。 パニック後、散歩等のタイムアウトを行えば気持ちが安定する 課題ができなかったり、自分の納得のいかない事があると教室を飛び出し たり課題を拒否したりする。 集団の中に入り一緒に活動することがかなりのプレッシャーになり、その 反動が行動に出る。→運動会の練習等 楽器演奏が苦手なために音楽の授業に参加できない ☆やることがパターン化されている活動(掃除、当番等)では、意欲的に取 り組むことができる。 活動 1 学期にできた事が 2 学期にできない事がある。 ☆「九九」が暗唱できないが、九九表を横に置くと計算 間違いをしない 自分の気持ちを言語化することが困難 宿題を一人で最後までやりきる事ができない。 書くスピードは遅い。 わからなくなると教科書を投げる ☆コミック会話を用いれば、自分の気持ちを表現するこ とができる 姿勢保持ができない。 場面に応じた言葉づかいや行動を行う事が難しい。 心身機能・身体構造 言語理解の能力に困難がある。 周りの空気を読むことが難しい。 落ち着きがない。 注意機能に困難さがある。 こだわりが強い。→自分の好きな色しか使わない 感情のコントロールをすることが難しい 個人因子 WISC-Ⅲ

FIQ 85 VIQ 82 PIQ 92 CBCL 臨床域 不安/抑うつ 注意の問題 境界域 引きこもり 身体的訴え 社会性の問題 思考の 問題 非行的行動 攻撃的行動 何か新しい事を行う時は不安が高い。 帰属スタイル 課題ができなかった時は、自分の能力が足りないと思い込む ことが多く、自信をなくしがちである。 自己効力感 成功体験が少なく、新しい課題に取り組む事に自信がなく、 時間がかかる 自尊感情が低い。 環境因子 9

(12)

学級 学校 家庭 一次予防 一般的な予防 ・スケジュール(一日、一週間、一か月)を時間割表(板書)やプリント などで知らせる。 ・大事なことは言葉と共に視覚支援教材を用いて、わかりやすい提示を行 う。 ・コミュニケーションルールや自分の気持ちを伝える方法を考えたり話し 合ったりする機会を作る。 ・自分のことや友達のことについて伝えたり、話し合ったりする機会を作 る。 ・学級活動で友達の「良いこと発見」をして一人ひとりの良さを認め合う 関係を作る。 ・学習につまづきが見られる児童に対して個別に対応する機会を設ける。 ・職員全体で学級や児童の様子を伝 え合い、情報を共有する。 ・友達関係に配慮して学級編成を行 う。 ・学校(担任、特別支援コーディネ ーター、学校長等)を中心にして支 援体制を充実する。 ・学校・学級便りなどで、学校での 取り組みを知らせる。 ・家庭訪問、懇談会などで保護者か らの願いを聞きニーズを把握する。 選択的な予防 ・「気持ちシート」使って自分の気持ちを伝える方法を知らせる(顔の絵、 感情の言葉カード、文章が書けるカード) ・全体に指示した後、個別に本児のわかりやすい方法で伝える。 ・本児のことを学級全体で理解するようにする。 ・褒めたり、みとめたりする機会を増やす。 ・リソースルーム(気持ちを落ち着 かせることができる場所)を確保す る。 ・個別対応ができる支援体制を整え ておく。 ・学校や家庭での出来事について、 電話や連絡帳を通じてやり取りする など担任と保護者との連携を密にす る。 ・家庭でも褒める事を増やす。 二次予防 適用根拠のある 必要な予防 ・トラブルが起こった時は、言葉や気持ちシートなどを使って、自分の気 持ちを表す事ができるよう促す。 ・パニックが起こった時は場所を移動して落ち着かせ本児の言い分をしっ かりと聞き気持ちを受け止める。 ・コミック会話を用いながら出来事を振り返らせ自分の行動に気付き、省 みることができるようにする。 ・リソースルーム(気持ちを落ち着 かせることができる場所)を確保す る。 ・個別対応ができる支援体制を整え ておく。 ・校内委員会を開き、現在の支援方 法を再検討する。 ・学校(担任、特別支援コーディネ ーター、学校長等)と保護者と懇談 を行い、方針を決める。 三次予防 問題による二次 的な社会的不利 益の予防 ・本児との関係が十分取れている教師が中心となり、本児の言い分を聞い てサポートを行う。 ・応用行動分析から指導の方略を導き出し、実施、経過観察を行う。 ・専門機関に相談をする。 ・校内委員会を開き、支援体制の確 認と新たな支援について検討する。 ・関係機関に相談し、連携を図る。 3 問題の発生と悪化の予防 10

(13)

4 個別の指導計画 作成日 平成 年 月 日 児童名 A (第 2 学年 男・女) 生年月日 平成14 年 ○ 月 ○ 日 満 8 歳 ○ヵ月 1.教育的ニーズ 1)通常学級教員 ・自分の気持ちを表現できる。 ・皆と一緒に集団活動に参加することができる。 ・最後まで諦めずに課題をやりとげる事ができる。 ・言葉を書く事や話す事ができる。 3)保護者・児童 ・自分の気持ちや表現を言葉で表現できるようになってほしい。 ・困った時やわからない時は、自分から聞けるようになってほしい。 ・途中で諦める事なく、最後までできるようになってほしい。 2.心理検査の結果 検査名 実施日 結果

WISC-Ⅲ CA : 7 歳0 ヶ月 FIQ : 85 VIQ PIQ : 82 : 92 VC PO : 82 : 95 FD PS : 79 : 80 CBCL 総得点 83 T 得点 75 内向尺度得点 28 内向 T 得点 77 外向尺度得点 22 外向 T 得点 68 所見 WISC-Ⅲ:学校で習うような一般的な知識は、身についている。また、時間の流れにそって物事を考えたり、結果を予測する力 を持っている。しかし、言葉で答える問題は、全般的に単語一語で答えていた。また、「ここ」「あそこ」というような答え方が多く 見られた。「算数」の問題がわからないというところから「言葉を使う、理解する」というところに困難さが考えられる。「数唱」で の課題から、「覚えておく」という事にも苦手さが見られる。「符号」で作業に時間がかかる事や、「記号」では筆圧が強過ぎている事 から、書く事の苦手さも考えられる。また、注意を向けておく時間の短さや、しなければならない事が何かという指示に従う事が苦 手かもしれない。したがって、学習場面では、絵や図を使う事も必要だと考えられる。そして、言葉での説明は、やさしい言葉で丁 寧に、短くきって説明することが好ましい。 3.授業・生活場面での実態(チェックリスト項目を学習・行動の場面別に分類) 学 習 面 授業名 実態把握 優先度 国語(書写) ・登場人物の気持ちを言葉で表現する事が難しい。 ・文字を書く速度が遅く、声かけが必要である。 ◎ ○ 算数 ・繰り上がりの足し算、繰り下がりの引き算が正確にできない。 ・計算するときに時間がかかる。 ・1対1の個別の指導を行うと頑張る事ができる。 ◎ 音楽 ・歌を歌う事は好きではない。 ・楽器の演奏は苦手意識が強く、参加しようとしない事が多い。 学 習 面 図工 ・自分のイメージした色や形ができないと、途中で投げ出してしまう。 体育 ・新しいゲームや運動を行う時、不安が高く、すぐに活動に参加できない。 その他 11

(14)

行 動 面 場面 実態把握 考えられる要因 優先度 行事、集会等 教室 授業、行事等 〃 〃 〃 遊び、行事等 〃 遊び、授業等 〃 遊び、行事等 〃 〃 遊び、授業等 〃 授業、行事等 学校生活全般 ・自分がやりたい事をうまく表現できず、からに閉じこもって しまう。 ・取りかかりが遅く、教師の声かけが必要である。聞く力が弱 い。 ・自分から友だちの中に入っていく事ができず、声をかけてく れるのを待っている事が多い。 ・新しい課題を行う時、スムーズに入れない。 ・相手の気持ちを考えた言動が難しい。 ・新しい事を行う時に、不安が高い。 ・周りの雰囲気や状況や判断が苦手である。 ・対人関係 ・対人関係・コミュニケーション ・周りの雰囲気や状況判断ができない。 ◎ ○ ◎ 4.支援の場と支援体制 支援の場 担当者 支援体制等 1) 通常学級 担任・TT 担当・専科・介護員・教育補助員・学級の協力的な児童 学年会、校内支援委員会 2) 特殊学級/通級指導教室 特殊学級担任・通級指導教室担当・介護員・ 3) 学校全体 生徒(生活)指導担当・養護教諭・スクールカウンセラー・ 4) 専門機関等 病院・児童相談所・適応指導教室・保健所・医者・相談員・カウンセラー・心理士・特別教育支援士 5) 家庭 母親・父親・家庭教師・スポーツコーチ・ 6) その他 12

(15)

目標 指導の内容 手立て 指導場面 担当者 期間 評価 具体的な進歩や改善すべき点 自分の気持ちを言葉 や絵で伝えることが できる。 相手に自分の気持 ちを伝える方法につ いて知る。 自分の気持ちを伝え たい時には、口で言 う・言えなかったら文 字や絵で表し伝え る。(気持ちシート) 学校生活全般 学級担任・学 級の児童たち 開始日 評価日    年   月   日 友達とのトラブルが あった時に、好まし い対処行動を身に 付ける。 本児の言い分をしっ かりと聞き、気持ち を受け止める。その 後、絵や文字を用い ながら話をし、どうす れば良かったのか 気づかせ、省みるよ うにする。(コミック会 話) 取り出し指導 学級担任 開始日 評価日    年   月   日 みんなと一緒に集団 活動をすることがで きる。 みんなで一緒にやっ て良かったと思える 経験を増やす。集団 行動でのルールを理 解させる。(ロールプレ イ・テリングストーリー) あらかじめ、集団行 動を行う前に、予定 を話しておき、不安 を軽減する。グルーフ 作りに配慮し、1人 でいる子には声かけ するように促す。 学校生活全般 特別活動 学級担任・学 級の児童たち 開始日 評価日    年   月   日 最後まであきらめず に、課題をやり遂げ ることができる。 できたという達成感 が味わえるように、 少し考えたらできる ような内容をする。 授業の課題や順番 などメモ書きし、先の 見通しを持ちやすく する。 スモールステップ で行う。できたらほ 学校生活全般 学級担任 開始日 評価日    年   月   日 文字を書くことや話 すことができる。 ひらがなを書く練習 や言葉で話す練習 をする。 楽しく取り組めるよう にゲームなどを取り入 れるようにする。 取り出し指導 学級担任 開始日 評価日    年   月   日 個別の指導計画2  作成日   H22. 1月 12日 児童生徒名 A 5.目標・指導の内容・手立て・評価 13

(16)

5 考察

担任の主訴を元に、A 児の実態を様々な角度から把握するために校内委員会を開き、支援方法 を考えた。その際、A 児に関わる全ての教員が、A 児の実態を共通理解し、支援の一貫性を持た せるために、ICF による実態分析を行った。

ICF

個人の困難さとして「自分の感情を表現する事がうまくできない」「見通しを持てない事に 対して不安がある(新しい事、自信のない事)」「集団活動で不適応」の 3 つの問題点が見え てきた。そして、この困難さが、自尊感情や自己効力感の低下に影響を与えていると考えられ た。環境要因として「愛情不足」「周囲の友達も A 児の気持ちをうまく理解できていない」等 があり、それらも A 児にとって学級での様子に影響していると考えられた。学校での対応を考 えていくうえで、A 児の実態を客観的に分析する事が必要であるため、アセスメント(WISC-Ⅲ、 CBCL(TRF))を行った。

WISC-Ⅲ

学校で習うような一般的な知識は、身についている。また、時間の流れにそって物事を考え たり、結果を予測したりする力を持っている。IQ を見ると、動作性 IQ が言語性 IQ よりも高い 事から、視覚優位である事がわかった。したがって、学習場面では、絵や図を使う事も必要だ と考えられる。また、反対に聴覚情報から情報処理する能力に弱さが見られる。よって、言葉 での説明は、やさしい言葉で丁寧に、短くきって説明することが好ましい。

CBCL(TRF)

不安/抑うつ、注意の問題が臨床域にある。これらのアセスメントから、学校生活において A 児の認知特性や対人関係の形成の困難さが不安や緊張を高める要因となり、それらが、学習面 と行動面の困難さに影響を与えていると考えられる。よってこれらの問題が続くと、非行的行 動や攻撃的行動、不登校等の二次障害に発展する恐れがある。

A 児に対する支援

A 児に対する支援は、武田のモデルによると、一次予防の一般的予防、選択的予防と二次予防 の段階から考えられる。一次的予防の一般的予防として、学級経営の段階で、一人ひとりの良 さを認め合う関係づくりを行った。また、A 児に対しては、一次予防の選択的予防として、対人 関係への支援として、「気持ちシート」を使って自分の気持ちを伝える方法を知らせるように 14

(17)

した。また、トラブル時などには、A 児の気持ちを落ち着かせる事のできるリソースルームの活 用や個別対応ができる支援体制を整えるようにした。学習面の支援として、A 児の視覚優位の認 知特性に合わせて、できるだけ絵や図、写真などの具体物を使って説明したり、言葉での説明 は短く、丁寧に行うようにした。今後は、A 児の言語発達を促すために、自分で体験することを 増やして、動作と言葉を結びつけたり、言葉の意味をカードにする事で語彙を増やしていく事 も必要である。また、漢字は意味も一緒に教えたり、特徴を言葉で言ったりして覚えるような 支援を考えられる。二次予防での対人関係の支援として、A 児がトラブルを起こした時や不安そ うな様子が見られた時に、コミック会話を用いて、A 児の気持ちを表現させる手助けや、自分の 行動を振り返る事ができるようにした。 これらの支援を行う事で、担任との一対一のコミック会話で、気持ちを表現する経験を通し て、様々な生活場面においても、自分の気持ちを表現する事ができるようになってきた。また、 周囲の子ども達もA 児に対して、優しく接するようになった。A 児の感情表現の力がついた事と 学級の親和的な雰囲気が良好な関係性を築く事に繋がった。

今後の課題

A 児は対人関係において良好な関係を築けつつあるが、よりコミュニケーションの力を向上さ せていく必要がある。学習場面では、視覚支援に加えて、言語発達を促すために、語彙、ひら がな、漢字を豊かにしたり、活用できるように支援する事が必要である。そのため、個別の指 導計画を再評価し、よりA 児のニーズに即した計画を立て直す必要がある。また、A 児の実態を 教職員全体で把握し、支援の一貫性を持たせるために用いたICF が、うまく活用されておらず、 一部関わっている担任と専科による支援が主になっている。そのため、コーディネーターを中 心に校内委員会を開き、再度 A 児についての情報を共有し、支援の方策を立てていく必要があ る。担任以外に個別に対応できるような体制づくりを検討する。また、家庭との連携をこれま で以上に密にし、学校と家庭での支援方法の一貫性を持たせる事も大切である。 コミック会話の例 15

(18)
(19)
(20)

通常の学級における

「困り感」のある児童への支援

~「グレーゾーン」の

A 児の事例より~

18

(21)

1.A 児のプロフィール

・小学校5年生(男子)

・家族・・・父、母、兄(中学1年生)

・診断は受けていない。

LD,ADHD の傾向あり

主訴

学習面・・・学習に対する苦手意識から、意欲が乏しい。

言語理解、表現が苦手である。「聞く」・「読む」に著し

い困難がある。

計算は出来るが、推論を要する問題は難しい。

行動面・・・課題への集中時間が短い。

高いところに登るなど危険なことを平気でする。

自分の持ち物の管理、整理整頓ができない。

対人関係・・・自己中心的な言動が目立つ。

友達と仲良くしたいという思いはあるが、友人関

係をうまく築けない。

19

(22)

2.ICF による実態分析

健康状態(ADHD,LD 傾向)

心身機能・身体構造

・注意を向けて話を聞けないが、興味

があることは聞ける。

(注意機能の問題)

・課題に集中する時間が短い。

(注意機能の問題)

・感情をコントロールすることが難し

い。(情動機能の問題)

・言語受容と表出の困難さ。

(言語に関する精神機能の問題)

参加

・運動会の練習や卒業式の練習

など集団での活動が困難で、ス

トレス要因となる。

・授業中、挙手をせずに発表して

しまうなど、学習のルールを守

れない。

活動

・読むことが苦手である。

・リコーダーの演奏に躓きがある。

・必要な物をなくしたり、壊したりし、忘れ

物が多い。

・危険な行動を平気でする。

・給食当番や掃除などの仕事がきちんと

できない。

・ルールを守れず、自己中心的な言動の

ため、友達とのトラブルが生じる。

個人因子

・自尊感情が低く、学習意欲が乏しい。

・学習面でのアンバランスが目立つ。

・注目欲求が強い。

・周囲の友達との差(社会性・思考の問題)が目立つ。

・人を求めているが、人との関係をうまく築けない。

・反抗的な面がある。

環境因子

担任は特別な支援の必要性を感じているが、一斉指導の中

で、個に応じた適切な支援ができているとはいえない。

・クラスメートは本児の特性を理解しているが、遊び仲間は

少数で限られている。

・学校にリソースルームがなく、人的資源が乏しい。

・両親は共働きで、父は関わりが薄く、母は子どもへの理解

はあるが、関わる時間が少ない。

困難の発生する要因は?

20

(23)
(24)

文部科学省のチェックリストの結果

(行動面「不注意」「多動性―衝動性」

(25)
(26)
(27)

TRF:子どもの行動チェックリスト(教師用)の結果

(28)

・学級目標を掲げ、一貫性のある指導をする ・校内委員会を設置する ・学校だよりで学校の取り組みを ・学級でのルールを明確に掲示する ・発達障害についての研修を行う  伝える ・視覚支援教材を取り入れる ・児童の実態把握をする ・学年だより、学級だより、学級懇  ex:掃除当番や、給食当番のグループごとの手順カードで ・児童や学級の様子を伝え合い  談会等で学級の様子や取り組みを    視覚提示する  情報を共有する  伝える  ex:一日の生活に見通しを持たせる(1時間ごとのスケジュール・学校生活のルールを明確化し、 ・保護者のニーズを把握する    で提示する)  共通理解を図る ・教室の前面はすっきりさせておく(学級の掲示物は教室の ・環境整備(どこに何があるか、何を置け  後ろにできるだけ集める)  ばよいかが一目でわかりやすいように ・わかりやすく、楽しい授業(学習規律・リズムとテンポ・指示は  構造化の工夫をする)  簡潔に・教材教具の工夫)を行う ・友達の心を傷つけない個を認め合う学級づくりを目指す (「ふわふわ言葉」、「ちくちく言葉」の活用) ・座席の位置・グループ構成メンバーを配慮する ・校内委員会で支援体制について検討 ・連絡帳や家庭訪問などで保護者 ・子どもの言動などに対して、肯定的な見方を心がける  する  との連絡を密にする ・指示を個別に伝達する ・個別の指導計画を作成する ・学校での対応について理解を促し ・活躍できる場をつくる(得意な体育の係で出番を設定する) ・リソースルームを確保する  家庭での関わり方、ルール作り等 ・専科担当、委員会担当などの教師集団による行動観察を ・関係機関と連携を図る  を提案し、実行してもらう  行い、共通理解及び一貫性のある支援を目指す ・クールダウンする場(リソースルーム)の活用 ・コミック会話やソーシャルスキルトレーニングを取り入れる ・日々の記録を行い、指導経過から、課題を検討する ・学級での話し合う機会を持ち、周囲の理解を図る ・成功体験を積み重ね、自尊感情を高める ・校内委員会で支援体制の確認と新た ・学校、関係機関と連携して、 ・約束ノートをつくり、ポイントカードを活用する  な支援について検討する  懇談を行い、方針に沿った関わり ・取り出し指導をする場、クールダウンする場として、リソース ・リソースルームの確保と個別対応で  をしてもらう  ルームを活用する  できる人的配置をする ・コミック会話やソーシャルスキルトレーニングを取り入れる ・関係機関に相談する ・学級で本児のことについてよく話し合い理解を深める ・本児の心身状態の把握に努める ・関係機関に相談し、連携を密にする ・学校、関係機関と連携し、 ・支援員等が本児のサポートをする ・校内委員会で支援体制の確認と新たな 理解をさらに深めて、適切な関わ ・学級で本児の状態を伝え、さらに理解を深める  支援について検討する りをしてもらう ・リソースルームを本児の1つの居場所  とし、個別対応をする 問題による 二次的な社会的 不利益を防ぐ 三 次 予 防 適用根拠のある 必要な予防 二 次 予 防

       支援の場 支援レベル 一般的な予防 一 次 予 防

選択的な予防

3. 問題の発生と悪化の予防

26

(29)

長期目標

短期目標

手立て

意欲的に学習に参

加することができる。

①英語活動の授業

で積極的に取り組む

ことができる。

②短いリコーダーの

曲を最後まで演奏す

ることができる。

①「絵入り単語カード」

を釣りゲームで取り入

れる。

②「リコーダーサポート

シール」と「カラフル運

指表」を使い、リコー

ダーの練習をする。

教科書をつまずかず

に音読できる。

行や段落を混同せ

ずに読むことができ

る。

「一行スリット」を使っ

て、音読の練習をす

る。

集中して話を聞くこと

ができる。

授業のスリーヒント

クイズの時間や朝の

会・終わりの会で先

生や友達の話を集

中して聞くことができ

る。

①授業の中でスリーヒ

ントクイズを取り入れる

②クラスで話を聞く時

のルールを明記した

「気づきカード」を示

す。

集中して課題に取り

組むことができる。

算数の「面積の求め

方を考えよう」で、求

め方を考え、立式す

ることができる。

ヒントカード、3ステップ

プリント(難易度の異な

る学習プリント)や「らく

らく図形セット」を取り

入れる。

社会的に不適切な

言動をしないよう、自

分の感情をコント

ロールできる。

クラスでの「みんな

遊び」に楽しく参加

することができる。

「みんな遊び」のルー

ルを事前に確認し、

「約束ノート」と「ポイン

トカード」を活用する。

自分の持ち物の管

理や身の回りの整

理整頓ができる。

連絡帳、学年だよ

り、学年通信や宿題

セットを家に持ち帰

り、母親に見せるこ

とができる。

机の横に「整理ボック

ス」を設置し、終わりの

会の前にランドセルに

入れるように声をか

け、習慣づける。

4. 個 別 の 指 導 計 画

27

(30)

A 君の「困り感」

学習面・・・学習に対する苦手意識から、意欲が乏しい。

言語理解、表現が苦手である。「聞く」「読む」に著しい困難がある。

行動面・・・課題への集中時間が短い。

自分の持ち物の管理や身の回りの整理整頓がうまくできない。

対人関係・・・幼い自己中心的な言動が目立つ。

友達と仲良くしたいという思いはあるが、友人関係をうまく築けな

い。

手立て

① 「絵入り単語カード」を釣りゲームで取り入れる。

② 「リコーダーサポートシール」と「カラフル運指表」を使い、リコーダーの練習を

する。

③ 「一行スリット」を使って、音読の練習をする

④ 授業の中でスリーヒントクイズを取り入れる。

クラスで話を聞く時のルールを明記した「気づきカード」を示す。

⑤ ヒントカード、3ステップ学習プリントや「らくらく図形セット」を取り入れる。

⑥ 「みんな遊び」のルールを事前に確認し、「約束ノート」と「ポイントカード」を活用

する。

⑦ 机の横に「整理ボックス」を設置し、終わりの会の前にランドセルに入れる

ように声をかけ、習慣づける。

その後・・・

② 英語活動では、得意の釣りゲームで意欲的に活動に参加できた。

②「リコーダーサポートシール」を使って、『オーラリー』を最後まで演奏することが

できるようになり、学年集会でもクラスのみんなと合奏ができた。

③「一行スリット」を繰り返し使い音読することによって、参観日の『わらぐつの中の

神様』の音読発表会では、自信を持って発表することができた。

④スリーヒントは最後まで聞き、意欲的に答えられた。朝の会・終わりの会での自分

勝手な発言が少なくなった。

⑤ヒントカードや3ステップ学習プリントは自分で選んで取り、問題に取り組むこと

ができた。

⑥「みんな遊び」でのトラブルが少なくなり、友だちからも認めてもらえる場面が

見られた。A 児の日記にも「みんなあそび、たのしかった。」と書かれていた。

⑦学年だよりと学級だよりを家に持ち帰り、母親に見せることができた。

28

(31)

A君の「困り感」への手立て

• 学習に対する苦手意識から、意欲が乏しい。

「 絵入り 単語カ ード 」 で釣り ゲームを 取り 入

れる 。

1

英語学習

• リコーダーの演奏に躓きがある。

「 リ コ ーダーサポート シ ール」

と 「 カ ラ フ ル・ 運指表」 を

使い、 リ コ ーダーの練習を する 。

・リ コ ーダーのそれぞれの穴の 周り に、 ク ッ シ ョ ン 性のある 素 材で 作っ たド ーナツ 型のシ ール を 貼り 、 指で 穴を ふさ ぎ やすく する 。 ・ それぞれの「 リ コ ーダー・ サ ポート シ ール」 に色を つけて お き 、 運指表を シ ールの色に対応 さ せて 作り 、 運指を わかり やす く する 。 2 29

(32)

• 読むことに著しい困難がある。

「一行スリット」を使って、

音読の練習をする。

一行ずつを ク ロ ーズア ッ プ し て、 読み 取り やすく す る 。 3

・聞くことに著しい困難がある。

見える部分では

答えがわかりに

くいように穴を

空ける。

動物の名前

漢字カード

を示す。

授業の中でスリ ーヒ ン

ト ク イ ズを 取り 入れる 。

4 30

(33)

• 幼い自己中心的な言動が目立ち、先生の話

や友達の発表を聞くことができない。

ク ラ スで話を 聞く 時のルールを 明

記し たカ ード を 掲示し たり 、

「 気づき カ ード 」 を そっ と 見せる 。

5

活動中、 個別にA君を 注意する と き は、 こ れら の

小さ な

「 気づきカード」

を 、 そっ と 見せる な ど し て 、 気づき を

促すこ と も 効果的だっ た。

聞こう

しずかに

目を見て

6

手のひらサイズ

31

(34)

・課題への集中時間が短い。

「 ら く ら く 図形セッ ト 」 を 使っ て、

面積の簡単な求め方を 考える 。

A A B B C C D D 7 ①多数決 ②あみだくじ ③じゃんけん ④ゆずりあう

みんなで決めよう

決まった意見には、したがう。 みんなで決めたことで、楽しく遊ぼう! サッカーがやり た か っ た け ど 、 まあいいか 私 は ト ラ ン プ の 方 が い い な・・・ ドッチボールが したかったんだ ~! え~おにごっこが いいのに・・・

「みんな遊び」

のルール

その1

8

・友達と仲良く

したいという

思いはあるが、

友人関係をう

まく築けない。

32

(35)

• 自分の持ち物の整理整頓ができない。

「整頓ボックス」を机の横に置き、終わりの

会の前に、自分の荷物をランドセルに入れ

る習慣をつける。

9 33

(36)

6.考察

通常の学級で学ぶ A 児への特別な配慮・支援

A 児を含めた学級全体のインクリュージョンに向けた取り組みという視点に

立った支援の方法を考察する。

学校教育法の一部改正(

2007 年 4 月施行)に伴い、特別支援教育が法的な根

拠を持って開始された。

「指導についての計画又は家庭や医療、福祉などの業務

を行う関係機関と連携した支援のための計画」であり、児童のニーズによる「個

別の指導計画」

「個別の教育支援計画」の作成により、通常の学級における「困

り感」のある児童生徒に対して、特別支援教育と発達障害の問題が位置づいた。

本事例の「グレーゾーン」とは「医師による診断や専門家による判断をされ

ていないが,行動観察やチェックリスト等の間接的アセスメントにおいて困難

が見られる児童の状態像」と定義する。

「勉強ができるようになりたい」「わるいことをしないようにしたい」「友達

と楽しく遊びたい」という

A 児の願いを踏まえ、今後は知能検査の個人内差等

により科学的に考察していきたいが、今回は間接的なアセスメントから本児の

自尊感情を高める支援を考えた。

まず、

ICF による実態分析から困難の発生要因が見えてきた。心身機能、身

体構造として、注意機能の問題、情動機能の問題、言語受容と表出に困難を抱

えていることが気になった。個人因子では、自尊感情が低く、学習意欲が乏し

いこと、学習面でのアンバランス、人を求めているが人との関係をうまく築け

ないことなどが挙げられた。環境因子としては、適切な学習支援の必要性や校

内体制の機能がうまく行われていないこと、家庭での両親との関わり方の問題

が浮かび上がった。

文部科学省のチェックリストでは

LD 傾向(「聞く」「読む」)に著しい困難が

あり、

ADHD(不注意優勢)傾向という結果が出た。LDI-R でも LD の可能性

が高いという判定が出た。

TRF の結果は、社会性・思考・注意の問題、非行的行動、攻撃的行動が臨床

域に達し、不安や抑うつは境界域にあることから、早期支援が必要とされる。

これらを総合的に判断すると、「問題の発生と悪化の予防」(武田モデル)の

二次予防の段階と考えられる。

A 児は運動能力に優れるという良い面も持ち合わせているにもかかわらず、

それが自己肯定感に繋がっていない。そこで、学習面においても「できた」

「わ

かった」という成功体験を味わい、自尊感情を高めるための教材・教具の開発

34

(37)

に取り組んだ。これは

A 児だけでなく、クラスのすべての児童の視点に立つユ

ニバーサルなものである。

さらに、

A 児が安心して学校生活を過ごすためには、リソースルームの設置

A 児の関係性に配慮できる人的資源を確保し、個別学習も考慮することが望

まれる。

また、保護者との対話と共同も重要である。学校での困難な状態だけでなく、

運動など得意な面も活かしていくことも伝えるなど、保護者との共感を目指し

ていきたい。

A 児の多動性・衝動性は学年が上がるにつれて低下しており、家

庭での困難さは少なくなってきているが、集団の中で個別の指導計画に基づい

た適切な支援を行うために、関係機関との連携も必要である。

しかし、教育現場では通常の学級に在籍する本児のような「グレーゾーン」

の児童のケースでは、知能検査実施に至らず、家庭が関係機関と繋がらないこ

とも多いと思われる。そのような場合は、クラス全員で行う読み書きスクリー

ニングテストや児童のノートや作文、テストの誤り等を丁寧に分析し、認知特

性を明らかにすることも有効である。これは「グレーゾーン」の児童だけでは

なく、クラス全員への支援にも繋がる。

これからの支援として、まず早急にケース会議を開き、担任だけでなく学校

全体の包括的な支援体制に切り替え、

A 児の「困り感」を共有することが挙げ

られる。そして、

ICF モデルからクラスや家庭の環境の調節を図るとともに、

WISC-Ⅲを実施・解釈し、より得意分野を伸ばす方法を考えていかなければな

らない。

TRF では支援の早期介入の段階に入っていることから二次予防に努め、

学校全体の「開かれた問題」として共通理解を深めることが大切である。担任

や保護者に加え、クラスの仲間の協力体制の下で、

A 児の希望や意見を尊重し

ながら、社会性の向上とソーシャルサポートによる対人ストレスの軽減を図っ

ていきたい。

学校側には

A 児の事例を含め、特別なニーズに合った支援の教育的なプログ

ラムの構築に努めることが求められる。

「グレーゾーン」の

A 児の支援を考えて

いくことは、すべての児童の学習やソーシャルスキルの獲得に向けたユニバー

サルな配慮・支援にリンクするという今後の方向性が見えてきた。

35

(38)

事例3

中学校で通常学級に在籍する

ADHD と診断され、LD(読み書き)の疑いのある生徒の指導事例

(39)

1.実 態 ・ 対 象 児 中 学 校 で 通 常 学 級 に 在 籍 す る 1 年 生 男 児 ・ 主 訴 医 療 機 関 で ADHD(不 注 意 優 勢 型 )、 LD(読 み 書 き )の 疑 い が あ る と 指 摘 さ れ た 。 別 の 医 療 機 関 で 行 っ た WISC-Ⅲ の 結 果 は 、 FIQ が 90 で 視 覚 優 位 。 自 己 肯 定 感 が 低 く 、 感 情 の コ ン ト ロ ー ル に 問 題 が 見 受 け ら れ る 。 ・ 概 要 小 学 校 で の 様 子 小 学 校 入 学 ま で 健 診 で は 発 達 に つ い て 問 題 は な く 、小 学 生 で は 通 常 学 級 に 在 籍 し て い た 。 し か し 、 5 年 生 頃 、 学 習 の 遅 れ が 目 立 ち は じ め 個 別 指 導 を 担 任 か ら 提 案 さ れ た が 、 本 人 は 拒 否 し 、 教 師 に 反 抗 的 な 態 度 を と り だ し た 。 中 学 校 で の 現 状 A は 通 常 学 級 に 在 籍 し て い る 。 ク ラ ス の 子 ど も た ち か ら は 好 か れ 、 休 憩 時 間 に は 友 だ ち と 一 緒 に 遊 ん で い る 。 ま た 、 ス ポ ー ツ 系 の 部 活 に 所 属 し て い た が 、 行 か な く な っ た 。 家 庭 よ り も 学 校 に い る と き の 方 が 落 ち 着 い て い る 。 最 近 は 深 夜 ま で ゲ ー ム に 熱 中 し 、 登 校 日 数 が 減 少 傾 向 に あ り 、 遅 刻 も 多 い 。 学 習 面 に 関 し て は 、 読 み 書 き が 苦 手 で 学 習 意 欲 が 低 い 。 学 習 の 遅 れ が 目 立 つ た め 、 学 校 か ら は 特 別 支 援 学 級 へ の 入 級 を 進 め ら れ 、 母 親 は 入 級 に 同 意 し て い る 。 し か し 、A は 障 害 者 に 対 す る 偏 見 が 強 く 、 特 別 支 援 学 級 へ の 入 級 や 個 別 指 導 を 受 け 入 れ る こ と が で き な い 。 ・ 家 庭 環 境 家 族 構 成 は 、 父 ・ 母 ・ 妹 ・A の 4 人 家 族 。 父 親 は 、 こ れ ま で 子 ど も の 養 育 に 関 し て 無 関 心 で あ っ た 。 し か し 最 近 、A の ソ ー シ ャ ル ス キ ル ト レ ー ニ ン グ(以 下 SST)に 付 き 添 っ て 行 っ た り 、 子 ど も の 養 育 に 関 し て 関 心 を 持 ち だ し た 。 母 親 は 、A と ど の よ う に 関 わ っ て い け ば よ い の か 不 安 に 思 い 、 A は 母 親 に 対 し て 反 抗 的 で あ る 。 妹 は 小 学 校 3 年 生 で 、 自 閉 症 で 特 別 支 援 学 級 に 入 級 し て い る 。 よ く 兄 ( A) と け ん か を す る 。A は 、 障 害 の あ る 妹 と 自 分 と を 区 別 し 、 差 別 的 な 態 度 を と る 。 ・ 今 後 の 見 通 し A へ の 今 後 の 支 援 の 見 通 し と し て 以 下 の 6 点 が 考 え ら れ る 。 ① 基 本 的 な 生 活 習 慣 を 確 立 し 、 遅 刻 ・ 欠 席 日 数 を 減 ら す ②A の 認 知 特 性 に 合 わ せ た 指 導 方 法 を 分 析 す る ③ 自 ら 興 味 ・ 関 心 を 持 て る 科 目 を 見 つ け る ④ 実 態 に 合 わ せ た 個 別 課 題 プ リ ン ト 学 習 等 を 行 う ⑤ 自 尊 感 情 を 高 め 、A の 興 味 ・ 関 心 の 幅 を 広 げ る ⑥ 学 年 全 体 で A の 情 報 を 共 有 し 、 共 通 理 解 を 深 め る 保 護 者 へ の 支 援 と し て 以 下 の 3 点 が 考 え ら れ る 。 ① 様 々 な 機 関 に 相 談 し 支 援 の 方 向 性 が 見 え な い の で 、 相 談 す る 機 関 を 整 理 す る ② 家 庭 と の 連 絡 を 密 に し 、 学 校 で の 状 況 を 保 護 者 に 伝 え る ③ 家 庭 で の 取 り 組 み ( ト ー ク ン 、 子 ど も の 良 さ を 認 め る ) を サ ポ ー ト す る 37

(40)

ICF による実態分析 *→良い行動 ・→課題となる行動、その他

家庭 学級の様子 学校 その他 父親 *今までは障害に理解を示 さず厳しく接してきたが、 最近は関係機関の SST に 参加する等変化してきた 母親 ・子どもの養育についてあ らゆる関係機関(病院、支 援学校の教育相談、障害者 センター等)に相談してい る 妹 小3(知的障害、自閉症) 支援学級に入級している *担任との関係は良い *学校のほうが落ち着いて いる *友達と遊ぶことができる *学級内に仲のいい友達が いる 担任 母親は家庭で気になること を毎日電話で報告する *学級活動の時間に活躍し、 周りから肯定的に評価さ れる場面を設定する コーディネーター *外部の専門機関との窓口 となる 養護教諭 *クールダウンしに来たと きに受け入れる体制を作 る スクールカウンセラー *母親に対する心理的なケ ア SST 実施時の様子 ・終始、暗い顔つき SST で「うれしい感情の表現」 を得点(100 点満点)で表現す る練習 ロールプレイングゲームをク リアーした時→50 点 友達にいっしょに遊びに行こ うと誘われた→50 点 かわいい女の子と話をした→ 30 点 お手伝いをしてほめられた→ 20 点 先生にほめられた→20 点 最新のミニカーを買ってもら った→10 点 次回の SST には「来たくな い」 健康状態 LD、ADHD(不注意優勢)の疑い 参加 *中学校では通常学級に在籍 ・登校日数減少気味 ・遅刻増加 ・スポーツ系の部活に所属しているが怪我をきっかけに行かなくな った ・本人が支援学級への入級を拒否している *友達と一緒に遊びたい *関係機関の SST に参加することができる *学校の行事には参加できる 活動 ・授業に対する意欲がかなり低い *授業はおとなしい ・勉強の内容が理解できていない ・テストは白紙(名前すら書かない) *休憩時間は特定の友だちとボール で遊ぶ *近所の友だちと遊ぶ ・ゲームが好きで、オンラインゲー ムをしている 心身機能・身体構造 ・注意機能の困難さ ・読み書きの困難さ ・情動機能の困難さ 個人因子 小学校 通常学級に在籍 ・個別指導は本人が拒否 ・高学年の時には教師に対して反抗的だった 中学校 ・障害児・者に対する偏見がある ・自分が障害者であるといあるというレッテルを貼ら れることに対して抵抗感を感じている ・うれしい、楽しいなどの感情表現が豊かではない ・母親対して反抗的な態度をとる 薬(ストラテラ)の服薬を医療機関から勧められてい るが、本人が拒否している *興味関心の高いこと(ゲーム)については、ある程度集 中できる。 ・注意力が持続しない *視覚優位、・言語性が低い ・家庭では衝動的に怒りだす ・自己肯定感が低い *関心のある分野のことに関する複雑な文章は理解で きる 環境因子 38

(41)

学級 学校 家庭 地域や関係機関 一般的な予防 ・教育環境を整備する。 ・予定をプリント等で事前に知らせ る。   ・学習支援を要す る生徒に対して、TTや個別に対応す る機会を設ける。 ・自分のことや友だちのことについ て、話し合う機会を設ける。 ・支援体制を整える。教職員全 体が、学級・生徒の様子につい て情報共有する ・発達障害について研修する。 ・生徒の問題行動について、多 面的に原因を考える。 ・学校便り等で、学校 での取り組みを知らせ る。 ・個人面談等で学校・ 家庭での様子を把握す る。 選択的な予防 ・座席の位置やグループ活動のメン バーに配慮する。 ・個別(小集団)での学習の場 を確保。 ・個別(小集団)対応ができる 支援体制を整える。 ・スクールカウンセラーと連携 する。 ・担任又は特別支援教 育コーディネーターと 保護者が、学校・家庭 での様子等について連 絡、連携を行う。 ・相談機関の情報を保 護者に伝える。 二 次 予 防 適用根拠のある 必要な予防 ・生徒と話し合い、納得した上で、 放課後等の個別(小集団)学習を行 う。 ・信頼する教師が話を聞く。 ・校内支援委員会を開き、支援 体制の整備。 ・学校(担任、学年主 任、特別支援教育コー ディネーター、管理 職)と保護者で懇談を 行う。支援について話 し合い、学校の方針に ついて保護者から了解 を得る。 ・特別支援学校の教育 相談を利用する。 ・関係機関と連携する 三 次 予 防 問題による二次的 な社会的不利益を 防ぐ ・生徒の様子や変化について把握す る。 ・関係機関と連携する        支援の場 支援レベル 一 次 予 防 ・学校、保護者、関係機関とケース会議を開催、支援の 方針を決める。 ・保護者と連携を密にして、生徒の現状を把握する。 39

図 2 問 題 発 生 の 予 防
図 3 発 達 障 害 の あ る 児 童 の Teacher ’ s Report Form (TRF) の 結 果 Ⅴ . 個 別 の 指 導 計 画 の 作 成 と 指 導 や 支 援 に 対 す る 評 価 Ⅲ や 等 の 知 能 検 査 や 認 知 検 査 を 実 施 す る と 共 に 、 各 教 科 等 の 実 態 や 情 緒 及 WISC DN-CAS 、 。 、 、び 行 動 の 実 態 を 把 握 し 個 別 の 指 導 計 画 を 作 成 す る 児 童 生 徒 本 人 に 対 し て

参照

関連したドキュメント

 調査の対象とした小学校は,金沢市の中心部 の1校と,金沢市から車で約60分の距離にある

などに名を残す数学者であるが、「ガロア理論 (Galois theory)」の教科書を

○本時のねらい これまでの学習を基に、ユニットテーマについて話し合い、自分の考えをまとめる 学習活動 時間 主な発問、予想される生徒の姿

出版社 教科書名 該当ページ 備考(海洋に関連する用語の記載) 相当領域(学習課題) 学習項目 2-4 海・漁港・船舶・鮨屋のイラスト A 生活・健康・安全 教育. 学校のまわり

実習と共に教材教具論のような実践的分野の重要性は高い。教材開発という実践的な形で、教員養

また、学内の専門スタッフである SC や養護教諭が外部の専門機関に援助を求める際、依頼後もその支援にか かわる対象校が

自由報告(4) 発達障害児の母親の生活困難に関する考察 ―1 年間の調査に基づいて―

イ小学校1~3年生 の兄・姉を有する ウ情緒障害児短期 治療施設通所部に 入所又は児童発達 支援若しくは医療型 児童発達支援を利