Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Designバ ウ
ハ
ウ
ス の
積
み
残
し
た も
の
An
ぐ)versight atBauhaus
稲 次
敏
郎
(
Inaj
i
Toshiro
)
宝 塚 造形 大 学
1.
は じめ に
1919年
、
グロ ピウスが 「バ ウハ ウスの宣 言 と網領
」を起草
し て 以 来、
75年 余の歳 月 が経過
したm その間
、
地球 を駆 け巡
る情
報
の内
か らデ ザ
インは 生 ま れてき た。
そ して一
方で は地球 規模
の情
報の内
に あっ て、
民 族・
地域
の独 自性
・
個性 を
主張
しな
が らデザ
インを作
っ てき た経緯 もあ
る。
し か し これ ら
のデ ザ
イン は1
多様化
」 の言 葉
の内
に 埋没
し て、一
一
っ のま とまっ た思潮
と は なっ て いないeいま
改
め て思
えば
私 は1924年 生 ま れ で あ り、
バウハ ウスの影響
を大
き く受 けた世代
の一
人であ る。
した がっ てバウ
ハウ
スの 網 領が予 測 し得 なかっ た今
日の状 況
、
お よびイ
ンター
ナショナ ル から環 境デ ザ
インが 生 ま れ て く る経 緯
な ど、
反 省 を含
めな
がら振
り返っ て み たい と思 う。
2 .
バ
ウハウスの網領
と国
際建
築
一
すべ て の芸 術的 制作 を統合
し、
す
べ てのコニ作的
技 術 と工学 的 訓 練 とを一
つ の新
し い建築
の もと に再 統 合 す る1.
注1
:
.
,
こ れ は グロ ピウ
ス の起草
し たバ ウハ ウス の宣
言 と網領
の 内容
であ るn「バ
ウ
ハウ
スの指導
原 理 は、
いわ ゆ る 純 粋 芸 術 と応
用 芸術
の差 別 を撤廃
し、
す
べ て の芸術 活動
を時代
の直接 的
顕 現 で あ る 建築
のも
とに統合
し、一
っの統
一
体
を創 造
し よ う とす る もの で あっ た」[
注
1
]
。
次
にこ の新
し い建 築
は、
国 際建
築
、
インター
ナショナ ルデザ
イン とし て 理論付
け られ る。
「建 築 は 常 に
個
性 的であるけ れども
、
3
個
の同心円一
個
人・
民 族・
人 類一
の内で最 後
のそし て最
大の円が他
の2
つ を包
括 す る 」:
注2
]
。
(1
)局 限 され た一
他方
の模 倣
再 現ではな く
、
建 築 自体
の機 能
を基
礎
とし、
その合
目的
性 を 追 求 す ること。
(
2
>
個性
の自由制 作
で は な くて、
科学 技 術
の上に立っ合
理的解
決
であ
る こ と。
(3>個
別的
工業
生産
で はな
くて、
世 界 共 通σ)機 械工業 的 生 産 による こと
。
「した がっ て材 料
・
工法
の共 通 性 は、
そ れ が人類
の生活
と直接
関係 が ある限り、
必然
に国 際的
に相 共 通 す る 建築 形式
に到 達す
る という
のであ
る」[
注2
]
。
75
年 余
の歳
月 に お け る 科学
技術
の進歩
、
生産 性
の向
上、
流
通機
構の整備
は、
グロ ピウ
スの予測 よ り遥
かに 早 かっ た と 思 われ る。
前述
の2
点
一
諸 芸 術の 「建築
」へ の統合
は、
新
たな
る [都
市
1
へ の再 統 合へ と進 み、
インター
ナシ ョナルへ の指 向
は、
イ ン ター
ナショナルを 越 えて、
グロー
バ ルを基 盤 とす
るロー
カル 指 向へ
と 向 かいつ つ あ る よう
に思
われ
る。
こ の
2
つ の言葉
と現 状 と
の矛盾
につ いて考 察
す ることが 本稿
の内容
であ
る。
3 .
「
建築
」 から
「都市
」へ3
.
1
建築 空 間
の概 念
西洋
の伝 統 的建 築
空 間 と東 洋の伝 統的 建 築
空 間 は、
概 念の質
に おい て基本 的
に異 な
る ものであ
る.
,
西 洋の建 築
空 間 は基
本的
に は包
み 囲う性 格
であ
り、
組積 造
の もっ宿 命
で あ る。
絵
画・
彫刻
・
工芸 な どの諸 芸術
は、
ロー
マ 以来こ の包み囲
わ れ た 空間
に おい て醸 成
されてき た。
それ ら諸
芸術
は教会
に お い て、
宮 殿
に おい て、
住
宅におい てす らも
包 み囲
わ れ た空間
が前 提
とな
る。
あり得
ない ことだ が、
もしも 西洋
の建築 空
間が ギ リシヤ 神 殿の柱
・
楯式構 造
で伝統
が 形成
さ れ てい た とす る な らば
、
西 洋の諸芸 術
は違
っ た様相
を 示 した と思 わ れ る。
17
世紀
バロ ッ ク に おい て庭
園 や広場
の進
展 を 見 るので あ る が、
その空 間 概 念 は庭 園
と して、
広 場
と しての独 立
空 間であっ て、
建
築
空 間の持っ概 念
と 同一
であ る と考
えてよい.
これに対し
東 洋
の建築
空間
は、
本 質 的
には常
に外 部 空 間
を と もな うも
の であ り、
内部
・
外 部
の慨 念
は 西洋
の空
間概 念
に比べ て希 薄
であ
る。
その ことは柱
・
桁
・
梁 で 構成
す る架
構 造のもっ宿 命
であ
っ た、
,
た とえ
そ れが 中
国の王宮
や一
・
般住
居の よ う に 高 い塀
で囲
わ れて い たと して も、
内部
の棟
々は 開 放的
で あ る。
し た がっ て絵 画
・
彫 刻 な
どの諸 芸 術
は、
宗 教 芸 術
を除
いて は 壁体
・
天井 を対象
とせず
、
扁額
・
軸物
・
襖 絵
・
絵 巻
のよ うに 移 動形式
と し て単
独 に 形 成 さ れ る。
庭 園 様
式
は 常 に 整 形 式 と 自然 風 景 形 式 とし て類
別 され る が、
整
形式
庭園
は上記の 西洋
建築 概 念
に対 応す
るも
の であ
り、
東洋
の自然
風 景 式庭 園 も同
じ よう
に内
・
外
の曖昧 な建 築概 念
に と も な う もの であっ た と考
えら
れ る。
ま た 西洋 建 築
の設計
はエ レ ベー
シ ョ ン、
外観
を重 視 す
る。
東 洋
において は宮 殿
・
宗教 建
築
・
門・
塔 な どシンボル性の強い建築
を 除い て は、
目に映
るエ レ ベー
シ ョ ンに全 体の姿
はなく
、
エ レ ベー
シ ョンは玄
関 な ど部分
とし て扱
わ れるtt こ れ も建 築 概念
の相 違
に と もな うもの と解
釈
でき る、
.
西
洋
に おけ る.
.
ヒ記の包
み 囲 う空 間 構 造 は、
19
世 紀 末以 降
、
20
世紀
に おいて、
鉄・
セメン ト・
ガ ラスに よ る架 け渡す構 造
へ
と移
行す
る。
石の時
代 か ら鉄の時 代へ
の移 行、
す な わ ち組積 造
から架 構 造
へ の移 行 は、
宿 命
的 に 相 反 していた 建築 空 間概 念
の歩
み寄
りを 促 す もの で あっ た。
し か し伝 統
の上に培
われ た空 間概
念
は、
建築 構造
の変 化
に ともな
っ て瞬 時
に移
行変
化 す る もので は ない, こ の移 行期
に お け る 混 沌 と した 混乱
が、
近代
デ ザ イン 諸 運 動の勃 興の契機
となっ たこ とは周
知の とお りである
。
バウ
ハ ウスの設 立 は、
アー
ト・
アン ド・
ク ラフ ト運動 以 降
に おけ
る 近 代 デ ザ イン の諸運 動
の、一
応
の集約
であ り
、
ま た次 な
る時代
へ
の出発
点でもあ
っ た。
それ
以降
の現 実
はグ
ロピウス の起 草
し たバ ウハ ウス の網 領 と 現代
の矛 盾の内
に 見 られ る と お りであ る。
44SPECIAL
ISSUE OF JSSD Vol.
2 No.
3 1994 デザ イン学 研 究 特 集号Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Design3.
2
建築
から都 市
へ前 述
の と お り石の時 代 か ら鉄の時代
へ
の移 行
は、
そ れ に とも
な う建
築
空間概念
の変化 を うなが す
もの で あっ た。
そ れ は包 み
囲 う建
築
空間概 念
から開
かれ
た空 間概 念
へ の移 行 で あ る。
こ の 開 か れ た 建築 空 間概念
は内外
の境
界 を 曖 昧 に しな がら
、
常
にそ の内部 空 間
は外部 空 間
を と も な う もの であり、
それは 周 辺 (外部 空 間) を含 む 点 (
建 築
) と、
隣接
する周
辺と点
を結
び な が ら拡 散す
る空 間概念
で あ る。
あ るい は 建築
と周
辺 は一
体
化して、
これ を新
たな 建築
とい うの か も しれ ない。
いず
れに して も包み囲 う空間 概念
から解 放 さ
れ た、
東 洋 に類似
す る新
た な る 空間概 念
であ
り、
この時点
に おいて従 来
の西 洋建
築
の概念
は解 体す
る。
こ の解 体
した建築 概 念
、
そ して拡 散 す る
新
た な る建 築概 念 を包 括す
る範
囲 ぽ新
た なる 「都 市
」 であ
る。
都 市
に おい ては個
々 の建築
は都 市
を 構成 す
る一
要素
であ る。
し たがっ て個
々 の建
築 が 有 機 的に結節
さ れる こ と に よっ て都
市 は構 成
される。
有
機体
と しての都
市 は、
個
一
群
、
人一
社 会
を 縦軸
と し、
ア メニ テ ィー、
コ ミュ ニ ケー
シ ョンを横 軸
と して 構成
さ
れる。 よ り具 体的
に言 うな らば
、
都 市
は建 築
と交 通・
通信
・
生
産・
流
通・
保安 等
あら
ゆ る生 活
・
社 会
要件
と を結節
す るも
の であ
り、
そ れ は ソフ ト的
に はア メニ テ ィ、
ハー
ド的
に は 環境
の 言葉
で 総括
され る。
こ の都 市
は新
たな
る大
地 に新
た に 建設
さ れ る もので はな く、
石の時 代
の都市
を 引 き継
い だ移行
・
変化
であ り、
そ の間
に保 存
問 題 な ど を 含 んでの緩 慢 な移 行
であ る。
実体
の 変 革に とも
なう
一
般 概 念
の移 行・
変化
に要す
る時 間
は、
1
世
紀 以 上 と 私は考
えて い る。 バ ウハウ
ス の網 領
のうち
に は 「都
市
」 の言 葉
は含
ま れ てい ない。
3.
3
日本
の建 築 空
間概念
日
本
の伝統 的 建
築
は 「屋根
が あっ て壁
のな
い家
」、
す
な わ ち 「傘
の家
」 といわ れる。
多
量の降
雨量
と夏季
の 高 温 多 湿の風 土条件
に 対応
し た 「夏
を む ね とする 」形 態
であっ た。
明 治 政 府 は 欧 風
都
市 建築
を指 向
し、
続
々 と石・
煉
瓦造
の 「包 み 囲 わ れ た 建築
」 を導
入す
る と共
に旧大名
屋敷 庭 園
お よ び仕寺
境 内を
公園
に指定
し、一
方
で欧
風 公園
を造 成
した。
更
に東 京 大
震 災 後
は防火 建築
を奨
励 し、
そ れ は欧風
へ
の憧 憬 を ともな
っ て木 質
モ ルタル造
に よ る 疑似
石造
建築
の流 行
とな
っ た、
戦後
の建
築
基準法
は耐震 防 火建 築
が第
1
要件
である。
加 えて建材
・
設 備 の進歩 は
「夏 をむ ね
とす
る」要件
を 消 滅 させ、
高密 度
化 は深い軒庇
を取 り去っ た。
「傘の家
」か ら 「壁の家
」へ の変 貌
で あ る。
このことは日本 建
築
のも
つ特質 を変 容
させ た。
一
例 を あげれ
ば
、
部
屋の呼称
と使
われ方
、
部屋
に付
属 す る庭
との関係
、
縁 側
の消失
、
さら
にトオ
リに 面す
る軒
内
の消滅
、
こ の ことは賑 わ
い の構 造 を変
え る と共 に 町 並景観
を一
変 さ
せ た。
日本 住居群
のも っ基
本的
構 造 と秩 序
を変
えた の であ
る。
しか し、
玄 関で靴
を脱 ぐこと に変
わ りは な く、
次
なる秩序
は未
だ見つかっ ていない。
4 .
インター
ナシ ョナルデ ザ イ ン から環 境 デ ザ イ
ンへ4.
13
個
の同心 円
前述
のイン ター
ナ ショナル の示す
「個 人
・
民族
・
人類
」 の3
個
の 同心
円 は、
果
た して同 心であ
っ たのか ど うか。
ま た正 円であ
っ たのか どう
か。
こ の同心のず れ、
ま た3
個
の円 弧の歪 み撓
みの内か ら、
い ま民族
問 題、
先 進国
・
途
上国
、
地 域格 差 な
どな
どの諸 問
題 が噴
出し、
現状
は その円弧
の撓
み 歪 み を如 実
に 物語
っ て い る。
この
円心
のず
れ、
円弧
の撓
み 歪 み を 埋 めるデ ザ イ
ンと して 「環境 デ ザ
イン」は 登 場 した。
一
一
見
、
イ
ンター
ナショナルデ ザ
イ
ン と環
境
デ ザ
インは 矛盾
し て いるかのよ うに 見 え る。
前 者 は マ クロ的
、
総 括的
であ り、
後者
は ミ クロ的
、
局 部 的であ る。
し か し人類
は 民族
に よっ て構 成 さ
れ、
民族
は個 人
に よっ て編成 さ
れ る。
し た がっ て前 述
の グロ ピウス の インター
ナシ ョナル解
説
、
(
D
〜
は
、
環 境デ ザ
インで は次
の とおり
とな
る。
(1
)
機 能 を基礎 と
し、
合
目的 追 求
の上 に 地域 的
であ ること。
(
2
)
科 学 技術
の合
理的成
果の上 に、
個性
の自
由であ
ること
。
(
3
}世界 共
通σ)機 械
工業
生 産の基 盤の上に個
別的
で あ るこ とeイ
ンタ
ー
ナシ ョナルデ ザ
イン はグロー
バ ル を もっ てn一
カルを包 括
し てい た。
環 境 デ ザ インは グロー
バル と m一
カル の均衡
の 上に成
立す る ものであ る。
4.
2
円卓
の 環境
デ ザ イン環
境
デ ザ インは1
個
人 で完 結
し得 るデ
ザ イン ではな
い。
そこ に は プロ ジェ ク トに関連 す
る多
くの専
門 分 野、
デ ザ イン分 野
が参
画 す る。
しかもそ
の諸分
野 は、
そ れ を代
表 するエ キスパー
ト の参 画
でな け
ればな らな
い.
環 境デ ザ
インは参画 す
る各 分
野の エ キ スパー
トが、
共 通 す る 「あ り よ う」 のも
とに円卓
に着
くこ とから始
ま り、
「見せ方
・
見 え 方」 の討 議の中
で そ のプロ ジェ ク トは進 行 す
る。
そして その プロ ジェ ク トに完 成
はあ
り得 な
い。
環境
デ ザイ ン は常
に時
間の推 移 を含
むも
の であ
る。
し た がっ てその完成 度
は80
% に お き、
残 る20
%
は移
りゆ く時
の経 緯
に ゆ だね
るべき
であ
ろ う 。 環境
デ ザ
インは今
は じまっ たば
か り であ
り、
その方
法 論 は未
だ完成
して いな
い。
5 .
お わ
りに日本の デ ザ イン
教育
はバウハ ウス教 育
を 基 調 と して 始 め られ た。
当 時 私達
は唯
一
の 理念
と し てその教 育
を受
け たの である
。
現 代 は
バウ
ハウ
ス の次
の時代
と して、3
個
の同
心円
のず
れ、
円
弧
の撓
み・
歪 みの間 を埋 め る 時代
と考
えて いる。
注
1
)山脇巌
:バ ウハ ウス の人々
、
彰 国 社、
1954
、
p.
10
2
)
蔵
田周 忠
:グロピウス、
彰 国社
、
1953
、
p,
31
ヂ ザ イ ン学 研 究 特 集 号 SPECIAL ISSUE OF JSSD Vol