• 検索結果がありません。

ローラーを用いた上肢トレーニングが脳卒中片麻痺患者の肩関節運動に及ぼす影響

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ローラーを用いた上肢トレーニングが脳卒中片麻痺患者の肩関節運動に及ぼす影響"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 44 巻第 1 号 47 ∼ 55 頁(2017 ローラー運動が片麻痺患者の肩関節運動に及ぼす影響 年). 47. 実践報告. ローラーを用いた上肢トレーニングが脳卒中片麻痺患者の 肩関節運動に及ぼす影響* 長 田 悠 路 1)# 本 島 直 之 1). 要旨 【目的】本研究の目的は片麻痺患者に対するローラーを用いた上肢トレーニングの効果を検討することで ある。【方法】三次元動作解析装置を用い,片麻痺患者 7 名のローラー運動 20 回後,40 回後,60 回後で 上肢最大挙上時の麻痺側肩関節屈曲角度の変化を分析した。その後同様に,片麻痺患者 21 名のローラー 運動 20 回の即時的効果,経時的効果(1日 20 回を 2 週間)を上肢挙上動作の違いと肩の痛みの変化の違 いから分析した。 【結果】20 回のローラー運動直後に即時的な肩関節屈曲角度の改善が見られた。経時的 な分析では,肩関節屈曲角度の改善が得られ(p<0.05),肩関節の痛みも改善する傾向を示した。 【結論】ロー ラー運動は即時的に麻痺側上肢挙上運動時の肩関節屈曲角度を増大させ,従来のリハビリテーションと併 用することでさらに肩関節痛の軽減効果が期待できることが示唆された。 キーワード 片麻痺患者,肩,痛み,セルフトレーニング,三次元動作解析. レーニングの効果としては,肩峰下インピンジメント症. はじめに. 候群を呈した患者への肩のセルフトレーニングが運動療 5). や,ローテー.  片麻痺患者にとって,上肢機能の完全な回復は決して. 法と同程度の改善効果があるという報告. 消えることのない,永遠の希望である。それにもかかわ. ターカフ損傷患者に対する理学療法は外科的治療と同程. らず,麻痺側上肢を日常生活動作で使用しない患者は多. 度の効果があるといった報告. く,麻痺側上肢を随意的に動かす機会は圧倒的に少ない. よる指導が有効であることが示されている。片麻痺患者. 印象がある。加えて,脳損傷によって生じる異常筋緊張. に対するセルフトレーニングとしては,ポジショニング. は痛みや拘縮をもたらし,麻痺側上肢の活動を阻害す. によって肩関節機能の低下を防ぐことができるという報. る. 1). 。活動に参加しなくなった麻痺側上肢は不良肢位. 告. 7‒10). 6). があり,セラピストに. は散見される。しかし,これらの対策は肩関節. (肘関節屈曲・肩関節内転内旋位)を取ることが多くな. の適正な可動域の保持を行うことのみであり,随意運動. り,上肢機能の回復の遅延や肩関節の痛みを引き起こす. を引きだすことには直結しないとも報告されてい. ことがある. 2‒4). 。麻痺側上肢の使用を促すために,セラ. る. 7)8). 。むしろポジショニングを行っている間は麻痺側. ピストはマンツーマンの治療だけでなく,麻痺側上肢の. 上肢を動かすことができないため,ボディイメージを悪. 管理方法やセルフトレーニングを指導することも多い。. 化させ,上肢の回復を妨げると述べる報告もある. しかし,片麻痺患者の肩関節に対するセルフトレーニン. また,運動を伴うセルフトレーニングであっても,プー. グとして痛みや機能回復に大きな効果をもたらす具体的. リー運動のように片麻痺患者の肩関節の痛みや腱板断裂. な治療方法の報告は少ない。. を誘発させることが明らかにされている.  片麻痺患者以外を対象とした上肢に関するセルフト. り,課題の選択には十分な吟味が必要である。さらに,. 11)12). 10). 。. ものもあ. 臨床的に有効であると思われる課題であっても,患者が *. Effects of Roller Training on the Shoulders of Hemiplegic Stroke Patients 1)農協共済中伊豆リハビリテーションセンター (〒 410‒2507 静岡県伊豆市冷川 1523‒108) Yuji Osada, PT, MS, Naoyuki Motojima, PT, MS: Nakaizu Rehabilitation Center # E-mail: wbcwb006@yahoo.co.jp (受付日 2016 年 5 月 6 日/受理日 2016 年 10 月 4 日) [J-STAGE での早期公開日 2016 年 11 月 22 日]. 一人で行えない,回数や課題の数が多い,課題の難度が 高いなどの問題があるとセルフトレーニングは継続され ないことが多い。  以上のことを考慮し,片麻痺患者が行う麻痺側上肢の セルフトレーニングにおける大切なこととして,ⓐセラ.

(2) 48. 理学療法学 第 44 巻第 1 号. 表 1 対象者内訳 分析①(n=7) 年齢(歳). 61.3 ± 8.8. 分析②(n=21). 分析③(n=18). 63.1 ± 10.1. 64.3 ± 10.0. 体重(kg). 60.5 ± 6.9. 63.0 ± 9.3. 身長(cm). 164.0 ± 9.0. 162.6 ± 7.3. 164.2 ± 6.9. BMI(kg/cm2). 22.4 ± 0.7. 23.8 ± 3.0. 23.6 ± 3.2. 性別(女 / 男). 1/6. 4/17. 1/17. 麻痺側(右 / 左). 5/2. 13/8. 13/5. 102.1 ± 49.4. 98.2 ± 43.0. 101.2 ± 43.1. 47.1 ± 18.2. 46.4 ± 19.5. 45.2 ± 20.2. BRS.:上肢(人)    Ⅱ:. 0. 2. 2.            Ⅲ:. 3. 4. 4.            Ⅳ:. 1. 2. 2.            Ⅴ:. 3. 13. 10. 発症期間(日) FMA:上肢機能(点). 63.7 ± 10.0. 平均値±標準偏差. ピストがあらかじめ準備のための治療を行わなくても患. 者として,分析①では 7 名の片麻痺患者,分析②では. 者が行えるものであること,ⓑ患者一人で行えること,. 21 名の片麻痺患者,分析③では分析②で継続して計測. ⓒ数が必要最小限であること,ⓓ代償性の筋活動や特に. が行えた 18 名の片麻痺患者を対象とした(表 1) 。. 痙縮や連合反応,過緊張が最小限に抑えられるものであ ることなどが挙げられている. 13)14). 。. 2.方法.  ローラーを用いた上肢トレーニング(以下,ローラー. 1)計測課題と介入方法. 運動)は,円柱状のローラー上に両手を組んで乗せ前後.  ローラー運動が麻痺側上肢・体幹に与える効果を検証. に転がす運動であり,片麻痺患者特有の頸部・体幹の伸. するために,麻痺側上肢を最大に挙上する動作を 3 試行. 展パターンや上肢の屈曲パターンを改善させることが目. 計測した。本研究で用いたローラーは塩化ビニールパイ. 的である。当センターでも,マンツーマンでのリハビリ. プ に 発 泡 ウ レ タ ン を 巻 き つ け た 直 径 150 mm, 幅. テーションの合間にセルフトレーニングとしてこのロー. 600 mm の筒状のものであり,林克樹氏(誠愛リハビリ. ラー運動を行う患者も多く,退院後に自宅でのセルフト. テーション病院)が 1990 年に有薗製作所と共同開発し. レーニングとして継続することも少なくない。しかし,. たものである(図 1) 。このローラーの特徴は,持ち運び. この運動は経験的に行われているだけであり,ローラー. やすいこと,適度なクッション性と太さによって,目的. 運動が上肢・体幹に及ぼす効果や,患者の適応,トレー. とするローラー運動が行いやすい点である。ローラー運. ニングの適切な量は明らかにされていない。. 動は,テーブル(幅 800 ×奥行 550 ×高さ 720 mm)に.  よって,本研究では,分析①でローラー運動の回数に. 乗せられたローラーを椅子(高さ 400 mm,背もたれな. よる検証を行った後,分析②でローラー運動の即時効果. し)に着座した状態で前後へ繰り返し転がすものとした。. の検証,分析③でローラー運動の経時的効果の検証を.  分析①では同一患者において,ローラー運動前,ロー. 行った。これらの 3 段階のプロセスを通して,ローラー. ラー運動 20 回後,40 回後,60 回後にそれぞれ上肢挙上. 運動の有効性に関して具体的かつ客観的評価に基づいて. 動作を計測した。分析②③で行うローラー運動の回数. 検討した。. は,分析①から得られた統計学的に有意な改善が得られ. 対象と方法. る最少の回数を採択した。分析②では,採択した回数に おける即時効果を分析するために,ローラー運動前後で. 1.対象. の上肢挙上動作の計測を行った。分析③ではその経時的.  対象者の選定基準は,当センターの回復期病棟に入院. 変化を分析するために,分析②の患者を A 群(はじめ. 中の患者であること,一側性の運動麻痺があり上肢. の 2 週間にローラー運動を行い,その後 2 週間通常のリ. Brunnstrom Recovery Stage( 以 下,BRS.) が II 以 上. ハのみを行う群)と,B 群(はじめの 2 週間は通常のリ. Ⅴ以下であること,肩関節の整形学的疾患の既往がない. ハのみを行い,後の 2 週間にローラー運動を行う群)に. こと,肩関節に著明な関節可動域制限がないこと,椅子. ランダムに振り分け,初回計測から 2 週間後,4 週間後. 座位がとれることとした。これら選定基準を満たした患. に上肢挙上動作を計測した(図 2) 。なお,対象患者が.

(3) ローラー運動が片麻痺患者の肩関節運動に及ぼす影響. 49. 図 1 ローラー運動 両上肢を前方で組み,痛みなく行える範囲まで前方に転がし,再び戻ってくる動作を 繰り返すことで麻痺側上肢・体幹の随意的な協調運動を行うことが可能である.. 図 2 分析方法 分析①では介入前,ローラー運動の回数別(20 回後,40 回後,60 回後)の間で比較を行い,ロー ラー運動の適切な回数を分析した.分析②・③では,分析①で導き出された最少の回数 20 回に ついてさらに症例数を増やして即時的効果,および経時的効果を分析した.経時的効果の分析で は患者群を 2 群(はじめの 2 週間に介入を行う群と,後の 2 週間に介入を行う群)に分け,それ ぞれ介入期間後のデータおよび,非介入期間後のデータを抽出し,介入前,介入期後,非介入期 後で比較を行った.. 研究に参加していることを作業療法士には伝えず,ロー. ローラー運動を行う際の注意点として,手を前方で組み. ラー運動は決められた期間・回数のみ,理学療法室にて. 両手掌部をできるだけ離さずに行うこと,前方へ転がし. 行うこととした。本研究の対象者における理学療法で. たときに頭部をできるだけ腕の間に前屈して入れこむよ. は,一般的に起立や歩行練習を中心とした治療を行い,. うにすることとした。なお,動作時に肩の痛みが生じる. 作業療法では可動域訓練や物品操作,畑作業・手芸など. 場合には,痛みのない運動範囲・速度内で既定の回数行. の作業活動を行っていた。. うものとした。.  ローラーを動かす速度は規定せず,至適速度とした。.

(4) 50. 理学療法学 第 44 巻第 1 号. 図 3 上肢のセグメント定義 肩関節点は肩峰角と烏口突起を結んだ線の中点として仮想マーカーを算出し,肩関節 点,外側上顆,内側上顆からなるセグメントに対する上部体幹セグメント(第 7 頸椎, 頸切痕,剣状突起)から肩関節角度の計算を行った.. 2)測定装置. 外 0 度)からの変化量を算出した。そして,3 試行の各.   課 題 動 作 は 三 次 元 動 作 解 析 装 置(VICON 社 製,. 指標の平均値を比較した。また,分析③では,Numer-. NEXUS:赤外線カメラ 8 台)にて計測した。反射マー. ical Rating Scale(以下,NRS)にて麻痺側上肢最大挙. カーを全身 25 ヵ所に貼付し,上腕セグメントは肩関節. 上時の肩の痛みの変化も加えて評価した。. 点(烏口突起と肩峰角の中点),内側上顆,外側上顆の.  分析①では,ローラー運動前,20 回後,40 回後,60. 3 点で定義した。上部体幹のセグメントは第 7 頸椎,頸. 回 後 の 各 々 の 値 に 対 し て 多 重 比 較( 対 応 の あ る. 切痕,剣状突起の合計 3 点で定義した。頭部セグメント. Bonferroni の方法)を行った。分析②では,ローラー前. を定義するために,4 点のマーカーが縫いこまれたヘア. 後の各評価指標を対応のある T 検定にて比較した。分. バンドを装着した。骨盤セグメントを定義するために,. 析③では,A 群,B 群それぞれの介入前,介入期後,非. 両側の上前腸骨棘,上後腸骨棘の合計 4 点に貼付し,両. 介 入 期 後 の デ ー タ に 対 し て 多 重 比 較( 対 応 の あ る. 側の上前腸骨棘の中点と両側の上後腸骨棘の 3 点で骨盤. Bonferroni の方法)を行った。. セグメントを定義した. 15). (図 3)。.  三次元動作解析装置のデータをサンプリング周波数 120 Hz でパーソナルコンピュータに同期して取りこみ, 肩関節角度変化,頸部角度変化,上部体幹角度変化,体.  なお,統計学的処理は Free JSTAT を使用し,有意 水準は 5%とした。 結   果. 幹相対角度変化の算出を行った。肩関節角度は上腕セグ.  分析①②③を通して,ローラー運動を行った後は,麻. メントに対する上部体幹セグメントから算出し,体幹角. 痺側上肢を挙上した際の肩関節屈曲角度・内旋角度が増. 度は骨盤セグメントに対する上部体幹セグメントから算. 大し,外転角度が減少する傾向を示した。また,体幹に. 出した。頸部角度は上部体幹セグメントに対する頭部セ. ついては,麻痺側方向への体幹の側屈や頸部の伸展が減. グメント角度から算出した。なお,すべての関節角度は. 少する傾向を示した。. オイラー角を用いて算出し,肩関節に関しては,屈曲伸.  分析①でローラー運動回数による違いを分析したとこ. 展方向,内外旋方向,内外転方向の順に回して計算を行っ. ろ,運動前,20 回後,40 回後,60 回後の順で,麻痺側. た。各関節運動の表記は日本整形外科学会・日本リハビ. 上肢最大挙上時の平均肩関節屈曲角度が 60.9 ± 39.4 度,. リテーション医学会が定める基準に準じて定義した。. 73.0 ± 35.8 度,77.0 ± 37.1 度,77.6 ± 38.6 度であり,ロー. 3)統計学的処理. ラー運動の回数が増大するにしたがい随意的な肩関節屈.  評価指標は麻痺側上肢挙上動作(自動運動)の最大挙. 曲角度は増大する傾向にあった。多重比較の結果では,. 上時の肩関節・体幹・頸部角度を抽出し,静止座位姿勢. ローラー運動前と比べてローラー運動 20 回後(p <. (肩関節屈曲・外転・内旋 0 度,肘屈曲 90 度,前腕回内. 0.05),40 回後(p < 0.01) ,60 回後(p < 0.01)それぞ.

(5) ローラー運動が片麻痺患者の肩関節運動に及ぼす影響. 51. 図 4 ローラー運動の回数による麻痺側上肢挙上時の肩関節屈曲角度の変化 写真はローラー運動の回数により変化が生じやすかった 1 例である.ローラーを 行う回数が増えるほど随意的な上肢挙上範囲は拡大しているが,最も大きな変化 を示したのはローラー運動を 20 回行った後である.. れに有意差が得られた。ローラー運動 20 回後と 40 回後. 少した(p < 0.05) 。また BRS. Ⅲ以上の患者のほとんど. の間,40 回後と 60 回後の間には有意差が得られなかっ. で屈曲角度が増大したが,BRS.II の患者では屈曲角度. た(図 4)。また,麻痺側上肢最大挙上時の肩関節内旋. が低下し,むしろ肩関節は伸展方向へ動き,肘関節も屈. 角度にも変化が得られ,運動前から順に,36.0 ± 16.9 度,. 曲が増大する傾向があった。. 45.5 ± 13.7 度,51.1 ± 14.2 度,50.6 ± 15.8 度とローラー.  分析③では分析①の結果を受け,ローラー運動 20 回. 運動回数の増加とともに内旋角度が増大する傾向を示し. をセルフトレーニングの規定値とし 2 週間の介入を行っ. た。多重比較の結果,運動前と 40 回後の間(p < 0.01) ,. たところ,B 群では介入期前や非介入期後と比較し,介. 運動前と 60 回後の間(p < 0.01)に有意差が見られた。. 入期後で麻痺側上肢最大挙上時の肩関節屈曲角度に有意. その他の角度に有意差は見られなかった。. 差(p < 0.05)がみられた(表 3)。A 群では介入前の.  図 5 に分析②における麻痺側上肢最大挙上時の肩関節. 時点での肩関節屈曲角度にばらつきがあり,介入効果に. 屈曲角度変化を示す。分析②ではローラー運動後に麻痺. もばらつきが見られた(図 6)。また,内旋角度は A 群,. 側上肢最大挙上時の肩関節屈曲・内旋角度が増大し,頸. B 群ともに介入前と非介入後の間に有意差(p < 0.05). 部の伸展角度が減少する傾向を示した。肩関節屈曲角度. があり,内旋角度の増大が生じていた。麻痺側肩関節の. は有意に増大した(p < 0.01)(表 2) 。分析①と同様,. 痛みに関しては,介入前の時点で痛みの訴えがあった患. 分析②でも肩関節内旋角度も増大する傾向を示したが,. 者は 18 人中 12 人(A 群 5 人,B 群 7 人)おり,非介入. 有意差は認められなかった。頸部の伸展角度は有意に減. 期に新たに痛みが出現した患者は 1 人(A 群)存在した。.

(6) 52. 理学療法学 第 44 巻第 1 号. 介入期に痛みが新たに出現したものはいなかった。痛み. 考   察. の変化に関して,各期間において NRS の値に有意差は なかったが,介入期前や非介入期後と比べて,介入期で.  今回,経験的に行われてきたローラー運動が上肢・体. は NRS の値が小さい傾向を示した(図 7) 。痛みの改善. 幹に及ぼす効果を 3 段階のプロセス(分析①∼③)にて. が見られなかった患者は,頸肋の存在が確認され,神経. 検証した。分析①ではローラー運動が何回でより効果が. 圧迫の可能性が示されたものや,頸部から両肩にかけて. 出現するのかについて分析したが,開始前と比較して. の持続的な神経痛を呈する患者であった。. 20 回後の時点で有意差が出現した後は,回数が増える にしたがい徐々に上肢挙上時の肩関節屈曲角度が増える 傾向があるのみで,20 回行った時と比較して,40 回後, 60 回後で有意差は出現しなかった。よって,分析②③ では効果が得られる最少の値として 20 回を採択し,即 時的・経時的な効果の検証を行った。  即時効果を検証した分析②では,ローラー運動直後に 麻痺側上肢挙上時の肩関節屈曲角度の増大や頸部の伸展 角度の減少が生じることが明らかになった。このことか ら,ローラー運動は麻痺側上肢を挙上する範囲を広げ, そのときの頸部の伸展パターンを減弱させる即時効果が あることが示唆された。  今回の対象者では,BRS. Ⅲ以上の患者のほとんどに ローラー運動後の屈曲角度の改善が得られ,ローラー運 動のおもな適応は BRS. Ⅲ以上であると推察される。  BRS.II の患者では上肢挙上時に肩関節屈曲角度の増 大は生じず,肘の屈曲と肩関節伸展方向に運動が増大し た。片岡らは BRS.II の患者は三角筋の活動がほとんど なく,上腕二頭筋と棘上筋の活動が高いと報告してい る. 16). 。BRS.II の患者では,活性の高い上腕二頭筋の活. 動が増大したことで肘関節が屈曲し,その結果相対的に 肩 関 節 伸 展 方 向 へ 上 腕 骨 が 動 か さ れ た と 思 わ れ る。 BRS.II の患者は通常の上肢挙上動作と逆方向の動きが 増大したとはいえ,随意的運動範囲は広がった。よって, ローラー運動の適応として,麻痺側肩関節の随意運動が 図 5 ローラー運動の即時効果 介入後には BRS. Ⅲ以上のほとんどの患者で即時的に 随意的な肩関節屈曲角度が増大している.BRS.II の 患者では変化が少なく,むしろ随意的な上肢挙上動作 時に伸展方向へ肩関節が動いている.. 少しでも発現可能な患者であれば,ローラー運動は上肢 の運動範囲を拡大させる可能性があると考える。  分析③(経時的効果の検証)では,肩関節の角度変化. 表 2 分析②の結果. 肩関節. 体幹. 頸部. 介入前. 介入後. p値. 屈曲. 63.2 ± 42.6. 72.1 ± 44.5. 0.002. 外転. 31.1 ± 16.4. 29.2 ± 15.8. 0.165. 内旋. 27.8 ± 20.1. 31.9 ± 22.0. 0.054. 伸展. 12.7 ± 7.1. 15.7 ± 16.6. 0.302. 麻痺側への側屈. ‒ 2.0 ± 5.1. ‒ 1.6 ± 8.1. 0.754. 麻痺側への回旋. ‒ 1.3 ± 13.0. ‒ 0.7 ± 7.3. 0.834. 伸展. ‒ 6.4 ± 16.1. ‒ 10.5 ± 16.8. 0.025. 麻痺側への側屈. 1.5 ± 5.1. 2.7 ± 5.9. 0.290. 麻痺側への回旋. ‒ 4.2 ± 8.5. ‒ 3.2 ± 8.6. 0.510. 角度数値の単位は度 平均値±標準偏差.

(7) ローラー運動が片麻痺患者の肩関節運動に及ぼす影響. 53. 表 3 分析③の結果 多重比較の結果 A 群(n=10) 肩関節. 体幹. 介入期後. 非介入期後. 屈曲. 68.51 ± 52.90. 72.56 ± 51.98. 72.29 ± 57.46. 外転. 27.46 ± 11.25. 25.01 ± 12.32. 23.99 ± 11.97. 内旋. 28.72 ± 21.40. 35.78 ± 16.69. 41.31 ± 18.04. 伸展. 11.42 ± 5.91. 11.16 ± 4.53. 12.75 ± 5.93. 麻痺側への側屈. ‒ 2.55 ± 5.29. ‒ 2.69 ± 3.32. ‒ 0.76 ± 6.68. ‒ 3.75 ± 5.31. ‒ 1.62 ± 4.68 ‒ 13.76 ± 10.64. 麻痺側への回旋 頸部. 介入前. 3.49 ± 16.04 ‒ 4.22 ± 18.27. ‒ 7.01 ± 12.59. 麻痺側への側屈. 1.89 ± 5.94. 1.86 ± 6.66. 0.39 ± 7.65. 麻痺側への回旋. 5.63 ± 8.51. 1.20 ± 5.13. 0.83 ± 2.05. 6.17 ± 3.54. 3.17 ± 2.64. 5.17 ± 3.06. 伸展. 痛み(NRS). 介入前− 介入期後. 介入前− 非介入期後. 介入期後− 非介入期後. *. 多重比較の結果 B 群(n=8) 肩関節. 体幹. 頸部. 介入前. 非介入期後. 介入期後. 屈曲. 62.51 ± 37.32. 64.72 ± 37.66. 77.08 ± 39.04. 外転. 33.35 ± 11.31. 25.00 ± 6.63. 24.60 ± 13.36. 内旋. 34.16 ± 17.85. 31.62 ± 12.49. 41.58 ± 8.52. 伸展. 14.25 ± 8.51. 11.86 ± 7.24. 11.86 ± 4.37. 麻痺側への側屈. ‒ 1.34 ± 5.22. ‒ 0.14 ± 3.86. 0.29 ± 2.70. 麻痺側への回旋. ‒ 1.46 ± 8.09. ‒ 0.69 ± 5.57. ‒ 1.46 ± 8.17. 伸展. ‒ 15.80 ± 9.97. ‒ 9.06 ± 13.49. ‒ 7.86 ± 16.16. 麻痺側への側屈. 1.05 ± 4.09. 1.21 ± 6.05. 0.97 ± 7.12. 麻痺側への回旋. 2.33 ± 8.58. 2.16 ± 4.88. ‒ 0.74 ± 4.20. 4.71 ± 2.81. 6.00 ± 3.16. 3.71 ± 2.93. 痛み(NRS). 介入前− 非介入期後. 介入前− 介入期後. 非介入期後− 介入期後. *. * *. *;p< 0.05 角度数値の単位は度,痛み(NRS)の単位は点 平均値±標準偏差. 図 6 麻痺側上肢挙上時の肩関節屈曲角度の経時的変化 A 群 B 群の各々の介入前,介入期後,非介入期後のデータを比較すると,介入前・非介入期後とくらべ,介入期では 麻痺側肩関節屈曲角度が増大する傾向を示し,特に B 群では有意な増大を示した.. において A 群・B 群ともに似た傾向を示したが,介入に. 期に肩関節屈曲角度が増大する傾向を示したが,有意差. より麻痺側上肢挙上時の肩関節屈曲角度が有意に増大し. はなかった。個別データ(図 6)を確認すると A 群は介. たのは B 群のみであった。A 群も平均値の比較では介入. 入前の時点での肩関節屈曲角度にばらつきが大きく,介.

(8) 54. 理学療法学 第 44 巻第 1 号. 図 7 肩の痛みの変化 A 群 B 群の各々の介入前,介入期後,非介入期後のデータを比較すると,介入前・非介入期後とくらべ,介入期では 肩の痛みが減少する傾向を示した.. 入前から上肢の挙上がほとんど行えていない者が 3 人含. い。これに関しては,今後,一般的な屈曲角度に対する. まれていた。また,非介入期は介入期の効果がなんらか. 内旋角度の割合を精査した後に改めて検証する必要が. の形で残存している可能性もあり,これらが A 群の肩. ある。. 関節屈曲角度に有意差が得られなかった原因のひとつだ.  肩の痛みの変化に関しては A 群・B 群ともに有意差. と考える。B 群では,ローラー運動が一部の患者に著明. はなかったが,介入期には NRS の値が減少する傾向を. な改善効果を与えた。著明な改善が得られた患者の特徴. 示した。先行研究. は,非介入期の間に屈曲角度に改善が見られず,むしろ. つれて,片麻痺患者の肩の痛みの発生率は増加するとい. 悪化していた者である。逆に,非介入期で屈曲角度が改. われているが,ローラー運動を組み入れることでその痛. 善しており,介入期では悪化するものも若干名存在した。. みの悪化や発現を予防できる可能性が示唆された。. このことから,ローラー運動の効果が出やすい症例や出.  片麻痺患者が行う上肢のセルフトレーニングの要件と. にくい症例がいることが示唆され,臨床でその適応と効. して挙げられている,「ⓐセラピストがあらかじめ準備. 果を再度判定する必要性があるといえる。また,今回の. のための治療を行わなくても患者が行えるものであるこ. ローラー運動回数は 20 回と設定したが,分析①の検証. と」,「ⓑ患者一人で行えること」に関しては本研究で紹. では回数が増えるほど効果を示す症例も存在したため,. 介したローラー運動はすでに満たしている。「ⓒ数が必. 症例によっては 1 日のローラー運動の回数をさらに増や. 要最小限であること」については,運動回数を 20 回か. せばより明確な効果が得られる可能性もある。. ら設定したため,それ以下の回数ではどのような効果が.  内旋角度については,A 群では介入前と比較して非. 得られるのかを分析することはできなかった。しかし,. 介入期後で有意に増大し,B 群では介入期と比べて非介. 少なくとも,20 ∼ 60 回の間での検証の中では効果的な. 入期で有意に増大していた。これら有意差の見られた時. 最少の運動回数を導きだすことができた。「ⓓ代償性の. 点は,両群ともに実験期間 4 週目であった。これは期間. 筋活動や特に痙縮や連合反応,過緊張が最小限に抑えら. の経過とともに上肢挙上時の内旋角度が増大していると. れるものであること」については,今回の研究方法では. も解釈でき,代償的な活動の増悪ともとれる。. 明らかにすることができなかったが,ローラー運動によ.  前方から上肢を挙上する際に,大結節は衝突を避ける. り代償的な外転角度の増大や,頸部体幹の側屈や回旋が. ために鳥口肩峰アーチのほぼ中央(anterior path)を通. 増悪する結果は観察されず,上肢挙上動作に関しては悪. り,上腕骨は屈曲とともに内旋する. 17). 。片麻痺患者の. 10)19)20). では発症期間が長くなるに. 影響を及ぼさないことが明らかになった。. 上肢挙上動作も,70 度以上の屈曲から肩甲上腕関節の.  これら片麻痺患者の上肢に対するセルフトレーニング. 内旋角度が増大していき,健常者よりもやや内旋が強い. の必須要件を満たしたうえで,ローラー運動は一部の症. 傾向にあるが,そのパターンは健常者と同様なものであ. 例に対して,上肢挙上動作時の肩関節屈曲角度や痛みの. る. 18). 。よって,本研究における介入期後の内旋角度の. 改善に寄与することが明らかになった。特に,脳卒中患 21). ため,上肢機. 増大は,屈曲角度の増大に伴って生じる運動学的に正常. 者の肩の痛みは生活の質を低下させる. な内旋角度の増大であると考えられる。よって,非介入. 能や肩の痛みの回復を強く望む片麻痺患者に対してひと. 期後では内旋角度のみが増大しているものの,内旋して. つの有効なセルフトレーニングを提案できたことは有意. しまうことをよいとも悪いとも判断することはできな. 義である。本研究ではローラー運動が麻痺側の肩の機能.

(9) ローラー運動が片麻痺患者の肩関節運動に及ぼす影響. や痛みを改善させたメカニズムまで検証することはでき ないが,ローラー運動の効果を提示できたことで,麻痺 側上肢に問題を抱える患者の退院指導や,病室での過ご し方を提案する際の手立てになると考える。また,本研 究ではローラー運動の有効な回数と適応を検証しようと 試みたものの,それらを明確にすることはできなかっ た。ローラー運動の回数については,20 回で即時効果 が出現することはわかったものの,より少ない回数での 効果の判定ができていないことや,より回数を増やした 場合の長期的効果などはさらなる検証が必要である。本 研究の分析①から,症例によって有効な回数が異なるこ とがわかった。20 回という回数はひとつの例とし,臨 床では個別性を考慮した回数の設定が必要である。 結   論  今回,ローラー運動が上肢・体幹に及ぼす影響を分析 した結果,ローラー運動は即時的に麻痺側上肢挙上時の 肩関節屈曲角度の増大や,頸部の伸展を減少させること がわかった。また,1 日 20 回のローラー運動を 2 週間 継続することで,一部の患者に肩関節の屈曲角度の増大 や痛みの改善が得られることが明らかになった。 倫理的配慮  本研究は中伊豆リハビリテーションセンター倫理委員 会の承諾(社中倫第 15001 号)を得て実施し,実験開始 前に研究の内容を文書により説明し,同意が得られた者 のみを対象とした。 謝辞:本論文執筆にあたり臨床的に有用なご助言をいた だきました,ローラー運動発案者の誠愛リハビリテー ション病院の林克樹先生に深く感謝いたします。また, 本研究の立案からデータ処理に至るまで多くのご助言を いただいた国際医療福祉大学大学院の山本澄子先生に感 謝の意を表します。 文  献 1)Teasell R: Musculoskeletal complications of hemiplegia following stroke. Semin Arthritis Rheum. 1991; 20(6): 385‒395. 2)Andrews W, Bohannon R: Decreased shoulder range of motion on paretic side after stroke. Phys Ther. 1989; 69(9): 768‒772. 3)Rajaratnam BVN, Kumar P, et al.: Predictability of Simple Clinical Tests to Identify Shoulder Pain After Stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2007; 88: 1016‒1021.. 55. 4)Zorowitz RD, Hughes MB, et al.: Shoulder pain and subluxation after stroke: correlation or coincidence? Am J Occup Ther. 1996; 50(3): 194‒201. 5)Granviken F, Vasseljen O: Home exercises and supervised exercises are similarly effective for people with subacromial impingement: a randomised trial. J Physiother. 2015; 61(3): 135‒141. 6)Brox JI, Staff PH, et al.: Arthroscopic surgery compared with supervised exercises in patients with rotator cuff disease (stage II impingement syndrome). BMJ. 1993; 307(6909): 899‒903. 7)Ada L, Goddard E, et al.: Thirty minutes of positioning reduces the development of shoulder external rotation contracture after stroke: A randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 2005; 86(2): 230‒234. 8)Dean CM, Mackey FH, et al.: Examination of shoulder positioning after stroke: A randomised controlled pilot trial. Aust J Physiother. 2000; 46(1): 35‒40. 9)Ada L, Foongchomcheay A, et al.: Supportive devices for preventing and treating subluxation of the shoulder after stroke. Stroke. 2005; 36(8): 1818‒1819. 10)Turner-Stokes L, Jackson D: Shoulder pain after stroke: a review of the evidence base to inform the development of an integrated care pathway. Clin Rehabil. 2002; 16(3): 276‒298. 11)Kumar R, Metter EJ, et al.: Shoulder pain in hemiplegia. The role of exercise. Am J Phys Med Rehabil. 1990; 69(4): 205‒208. 12)Najenson T, Yacubovich E, et al.: Rotator cuff injury in shoulder joints of hemiplegic patients. Scan J Rehab Med. 1971; 3(3): 131‒137. 13)PM デービス,富田昌夫,他:ステップス・トゥ・フォ ロー.シュプリンガー・フェアラーク,東京,2012,p. 402. 14)梶浦一郎,鈴木恒彦,他:脳卒中の治療・実践神経リハビ リテーション.市村出版,東京,2010,p. 132. 15)Mackey AH, Walt SE, et al.: Reliability of upper and lower limb three-dimensional kinematics in children with hemiplegia. Gait Posture. 2005; 22(1): 1‒9. 16)片岡泰文,浅山 滉,他:片麻痺患者における肩関節の 筋電図学的考察.整形外科と災害外科.1988; 36(4): 1094‒ 1097. 17)立花 孝:肩関節障害:肩の運動学(整形外科疾患:関 節障害に対する臨床運動学的アプローチ).理学療法学. 1994; 21(8): 494‒498. 18)Meskers CGM, Koppe PA, et al.: Kinematic alterations in the ipsilateral shoulder of patients with hemiplegia due to stroke. Am J Phys Med Rehabil. 2005; 84(2): 97‒105. 19)Brocklehurst JC, Andrews K, et al.: How much physical therapy for patients with stroke? Br Med J. 1978; 1: 1696‒ 1697. 20)Bohannon RW, Larkin PA, et al.: Shoulder pain in hemiplegia: statistical relationship with five variables. Arch Phys Med Rehabil. 1986; 67(8): 514‒516. 21)West IS, West IS, et al.: Poststroke Shoulder Pain: Its Relationship to Motor Impairment, Activity Limitation, and Quality of Life. Phys Med Rehabil. 2001; 88(3): 273‒ 404..

(10)

参照

関連したドキュメント

[r]

The theory of log-links and log-shells, both of which are closely related to the lo- cal units of number fields under consideration (Section 5, Section 12), together with the

We relate group-theoretic constructions (´ etale-like objects) and Frobenioid-theoretic constructions (Frobenius-like objects) by transforming them into mono-theta environments (and

The theory of log-links and log-shells, which arise from the local units of number fields under consideration (Section 5), together with the Kummer theory that relates

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

選定した理由

の改善に加え,歩行効率にも大きな改善が見られた。脳

本学陸上競技部に所属する三段跳のM.Y選手は