• 検索結果がありません。

基礎的理学療法研究から臨床応用への展開

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "基礎的理学療法研究から臨床応用への展開"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 704 42 巻第 8 号 704 ~ 705 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 大会シンポジウム 4. 基礎的理学療法研究から臨床応用への展開* 山 口 智 史 1)2). いて,その伝達と変化の可塑性を誘導することが,中枢神経損. はじめに. 傷後の歩行機能改善に重要であることが示唆されている 2)3)。. 近年の理学療法士の研究に対する意識の高まりにより,国内. 脊髄における可塑性変化,いわゆる,脊髄可塑性を誘導するた. 外の学会や学術誌において,研究報告が増えている。理学療法. めには,皮質興奮性を高めると同時に末梢からの感覚入力が重. 研究はその含有領域の広さから,モデル動物およびヒトを対象. 要であることが知られている 2)。. とした基礎研究から臨床研究まで幅広い領域がある。一方で,. これら基礎研究から明らかにされた『脊髄可塑性』に関する. 理学療法研究は,他の研究分野と同様に,基礎研究と臨床研究. 知見が,中枢神経損傷患者の歩行リハビリテーションへ応用さ. の間に垣根が存在し,基礎研究から得られた知見を臨床研究へ. れることに期待が高まっているが,脊髄可塑性を誘導する効果. 応用することが難しく,さらには両者の知見を臨床現場で適用. 的なリハビリテーション手法,その効果の射程や作用機序は十. することが困難であることを経験する。. 分に明らかにされていなかった。. 今回,基礎的および臨床的な理学療法研究を遂行する立場か ら,研究や臨床を研鑽する理学療法士に対して,さらに今後の. 基礎的理学療法研究から臨床研究への展開. 理学療法研究の発展に寄与することを希望して,我々が行って. Perez ら 4)によって報告された,patterned electrical stimu-. きた中枢神経損傷後の歩行機能改善をめざした研究の展開につ. lation(以下,PES)は,動物実験の知見から提案された電気. いて講演内容をまとめさせていただきたい。. 刺激パラメータであり,歩行時の前脛骨筋における afferent burst を模擬したパターン刺激を総腓骨神経に適用することで,. 中枢神経損傷後の歩行障害. 脊髄抑制性介在ニューロンである脊髄相反性抑制を増強し,. 理学療法において,脳卒中や脊髄損傷による中枢神経損傷後. 脊髄可塑性を誘導することが可能である。Fujiwara ら 5) は,. の歩行障害は重大な治療対象である。中枢神経損傷後の歩行障. PES による相反性抑制の増強効果は,経頭蓋直流電気刺激(以. 害の問題として,上位中枢の傷害による脊髄への下行性入力の. 下,tDCS)による皮質運動野の興奮性変化によって修飾でき. 減少,さらに末梢神経から上位中枢への上行性入力(感覚入力). ることを述べている。したがって,上位中枢から脊髄への下行. が減少することが大きな要因として挙げられる. 1). 。この下行性. 性入力が減少している中枢神経損傷後の患者において,皮質興. 入力の減少と感覚入力の減少は,臨床症状としての運動麻痺,. 奮性を高める anodal tDCS と PES を同時に行うことで,障害. 感覚障害,痙縮,そしてバランス能力低下などに関連する。さ. された脊髄相反性抑制とその後の脊髄可塑性が誘導できる可能. らに発症後の経過に伴う,神経回路の再編成や廃用を引き起こ. 性がある。そこで,不全脊髄損傷患者に対して,anodal tDCS. し,歩行にかかわる神経回路に影響する。これらの歩行制御に. と PES を同時に 20 分間適用した 6)。その結果,障害された脊. かかわる神経伝達量と神経回路の障害は,歩行時の適切な筋の. 髄相反性抑制が改善し,PES 単独よりも高い効果が得られ,そ. 適切なタイミングでの筋活動を妨げ,歩行障害を引き起こす。. の効果が少なくとも刺激後 20 分まで持続することを報告した。. 歩行機能再建のための基礎研究の知見. さらに,刺激後 20 分における脊髄相反性抑制の改善と足関節 運動機能の改善には,相関があることを明らかにした。. これまでの歩行リハビリテーションでは,歩行技能を再獲得. これらの知見は,ヒトにおいても,皮質興奮性と同時に感覚. する手段として歩行の反復が用いられてきた。一方で,モデル. 入力を高める電気刺激を行うことで脊髄可塑性が誘導され,運. 動物実験においては,歩行に関連した反射経路のシナプスにお. 動機能の改善に関連すること,さらに,中枢神経損傷後のリハ. *. From Basic Research of Physical Therapy Toward Clinical Application 1) 慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室 特任助教 (〒 160–8582 東京都新宿区信濃町 35) Tomofumi Yamaguchi, PT: Department of Rehabilitation Medicine, Keio University School of Medicine 2) 東京湾岸リハビリテーション病院 Tokyo Bay Rehabilitation Hospital キーワード:脊髄可塑性,電気刺激療法,歩行. ビリテーションとして,有効な治療法となる可能性を示して いる。. 基礎的理学療法研究から臨床への展開 基礎研究の知見を臨床に適用する場合,研究で使用される機 器が高価であり,臨床で使用するには操作が煩雑であることが 多い。さらに患者への適用には安全を十分に考慮する必要があ.

(2) 基礎的理学療法研究から臨床応用への展開. 705. る。これら臨床における実現性の問題は,我々の研究にもあて. ルまで展開し,臨床研究として現場の理学療法士と共同で検証. はまり,基礎研究や臨床研究で得られた知見を応用するには,. する。これらの研究の背景には,患者を少しでもよくするため. いくつもの問題を解決する必要がある。. にはどうすればよいかという,臨床の問いがある。. そこで,我々は,臨床現場で所有している施設が多く,歩行. 我々,理学療法士が,理学療法士として研究を行うのであれ. に類似した中枢神経系の活動および筋活動の賦活が可能なペダ. ば,常にその研究の背景に『臨床の問い』を意識したうえで,. リング運動と末梢神経からの感覚入力を増やす目的で治療的電. 基礎研究の知見を臨床応用し,患者の利益へ結びつけていく視. 気刺激を組み合わせた手法を提案し,その効果の検証を行っ. 点をもつことが重要であると考える。そのためには,臨床家と. た7. 研究者が協力し,基礎研究の知見を応用することで,その効果. –11). 。. まず,ペダリング運動が中枢神経可塑性に与える効果を検討. を検証し,実践していくことが必要である。これらのプロセス. するため,運動学習や機能回復との関連が報告されている皮質. の成果を,臨床と科学の発展のために,世界に向けて発信して. 内抑制の変化をペダリング運動前後で検討した. 8). 。その結果,. いくことが,理学療法士の責務であると考える。. 短時間,低負荷のペダリング運動によっても皮質内抑制回路に. 今後さらに,基礎的および臨床的な理学療法研究が発展する. 変化をきたし,脳の可塑的変化を誘導することが可能であるこ. とともに,その両者をつなぐ人材,さらには臨床家として臨床. とを明らかにした。ペダリング運動のような,交互の相反する. 現場で得られた知見を活かす視点をもった人材の育成が期待さ. リズミカルな運動は脳に可塑的変化をもたらすものと考えら. れる。. れ,中枢神経損傷後の歩行障害の治療へのペダリング応用の理 論的根拠を明らかにした。 ペダリング運動は歩行に類似した運動関連脳領域の賦活が 可能である. 12). 。そのため,治療的電気刺激と同期することで,. 脊髄可塑性を誘導し,有効な治療効果に結びつく可能性があ る。そこでペダリング運動に合わせて総腓骨神経に治療的電気 刺激を行い,脊髄相反性抑制の増強と持続に対する効果を健常 者において検討した. 9). 。その結果,ペダリング運動に電気刺激. を組み合わせることで,運動後の脊髄相反性抑制の修飾が認め られ,その修飾効果はそれぞれ単独と比較して長く持続した。 続いて,健常者で得られた知見から患者での効果を検証するた めに,回復期脳卒中患者 6 名を対象にシングルケースデザイン を用いて,歩行障害に対する効果を検証した。結果,両課題を 併用した患者のみにおいて,歩行中の下肢交互運動の改善が歩 行率を改善し,歩行速度を向上させるとともに,2 週間の介入 を含む 4 週間後において麻痺肢筋力が増強することを確認し た 10)。 この歩行機能への効果を高いエビデンスレベルで実証するた めに,全国 7 施設の臨床および研究で活躍する理学療法士と共 同で,多施設 RCT 研究を遂行した 11)。その結果,自然回復の 影響により歩行リハビリテーションの効果を実証することが困 難とされる回復期脳卒中患者に対して,3 週間の介入により, 個々単独の介入と比較して,歩行機能が改善すること,および, 介入終了後 6 週間においては,ペダリング運動単独と比較し, その効果が有意に持続することを明らかにし,新しい歩行リハ ビリテーション手法としての有効性を実証した。. おわりに 今回,提示した成果は,基礎研究と臨床研究が融合して得ら れたものである。動物実験などから得られた基礎研究の知見 を,健常者や患者に応用し,効果とその治療メカニズムを明ら かにする。さらに,得られた知見を臨床現場で実施可能なレベ. 文 献 1) Dietz V, Sinkjaer T: Spastic movement disorder: impaired reflex function and altered muscle mechanics. Lancet Neurol. 2007; 6: 725–733. 2) Wolpaw JR, Tennissen AM: Activity-dependent spinal cord plasticity in health and disease. Annu Rev Neurosci. 2001; 24: 807–843. 3) Rossignol S, Frigon A: Recovery of locomotion after spinal cord injury: some facts and mechanisms. Annu Rev Neurosci. 2011; 34: 413–440. 4) Perez MA, Field-Fote EC, et al.: Patterned sensory stimulation induces plasticity in reciprocal ia inhibition in humans. J Neurosci. 2003; 23: 2014–2018. 5) Fujiwara T, Tsuji T, et al.: Transcranial direct current stimulation modulates the spinal plasticity induced with patterned electrical stimulation. Clin Neurophysiol. 2011; 122: 1834–1837. 6) Yamaguchi T, Fujiwara T, et al.: The combined effects of anodal tDCS and patterned electrical stimulation on spinal inhibitory interneurons and motor function among patients with incomplete spinal cord injury. 30th International Congress of Clinical Neurophysiology. 2014; 125(Suppl 1): S26–S27. 7) Yamaguchi T, Sugawara K, et al.: Real-time changes in corticospinal excitability during voluntary contraction with concurrent electrical stimulation. PLoS ONE. 2012; 7: e46122. 8) Yamaguchi T, Fujiwara T, et al.: Effects of pedaling exercise on the intracorticalinhibition of cortical leg area. Exp Brain Res. 2012; 218: 401–406. 9) Yamaguchi T, Fujiwara T, et al.: The effect of active pedaling combined with electrical stimulation on spinal reciprocal inhibition. J Electromyogr Kinesiol. 2012; 23: 190–194. 10) 松永 玄,山口智史,他:ペダリング運動と治療的電気刺激の併 用が回復期脳卒中片麻痺患者の歩行能力へ及ぼす影響─シングル ケースデザインによる検討─.理学療法学.2013; 40: 371–377. 11) Yamaguchi T, Ikuno K, et al.: Pedaling exercise combined with sensory electrical stimulation improves gait performance in subacute stroke patients: a multicenter, sham-controlled randomized controlled trial. Physiotherapy. 2015; 101(Suppl 1): e1673. 12) Mehta JP, Verber MD, et al.: The effect of movement rate and complexity on functional magnetic resonance signal change during pedaling. Motor Control. 2012; 16: 158–175..

(3)

参照

関連したドキュメント

HU: hindlimb unweighting (HU) only group. ST: HU + stretching group. BW: body weight. MW: muscle wet weight. ML: muscle length. MC: muscle circumference. MP: myofibrillar protein.

10) Takaya Y, et al : Impact of cardiac rehabilitation on renal function in patients with and without chronic kidney disease after acute myocardial infarction. Circ J 78 :

ク ロー ン型

「心理学基礎研究の地域貢献を考える」が開かれた。フォー

氏名 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位授与の題目

これは基礎論的研究に端を発しつつ、計算機科学寄りの論理学の中で発展してきたもので ある。広義の構成主義者は、哲学思想や基礎論的な立場に縛られず、それどころかいわゆ

(Tokyo Institute of Technology) This talk is based on

Patel, “T,Si policy inventory model for deteriorating items with time proportional demand,” Journal of the Operational Research Society, vol.. Sachan, “On T, Si policy inventory