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八百屋とデザイン

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Academic year: 2021

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(1)42. 特集:共創・当事者デザイン. 鈴木辰徳 Suzuki Tatsunori 八百屋すず辰. Vegetable shop Suzutatsu. 八百屋とデザイン 青果仲卸マンガ「八百森のエリー」との共創 Design for Vegetable Shop The co-creation between Suzutatsu and the comic of vegetable middle trader,“Elie of YAOMORI”. 1.八百屋とデザイン 八百屋という商売は、四季の中で全国津々浦々から出てくる野菜・果物 を、その時期でよいものを選び、店のお客さんに提供する。店頭でお客さん の声を聴き、天候と農家さんの声を聴き、野菜そのものの状態を確かめ、そ れらを総合して最適な品ぞろえ・サービスを日々デザインしているとも言え る。そんな八百屋が出会った、とあるマンガとの共創関係について、少し書 きたい。. 1.1.「八百森のエリー」との出会い. マンガ業界初の青果仲卸マンガ「八百森のエリー」。青果仲卸会社に就職. した農学部卒の新人、エリーこと卯月瑛利(うづきえいり)の奮闘を描くお 仕事マンガで、2017年の9月から雑誌「モーニング注1)」で連載が始まる。 店主がこのマンガを知ったのは、連載から2か月経った9話目。青果の流通 業界がマンガに⁉、と、驚きとともに大きな喜びが押し寄せてきたのを覚え ている。あまりのうれしさにウェブで関連記事を検索。作者の仔鹿リナ氏の パートナー、タカシ氏が実際青果仲卸で働いており、「うちのダンナは野菜 バカ。」というマンガを過去に出していることを知る。そして、仔鹿氏のイ ンタビュー記事に、「青果関係者にネタを求む」とあったため、作者のブロ グページからメッセージを入れてみた。それがすべての始まりだった。. 1.2. 八百屋のネタがマンガになる. 送ったネタは、「なぜ北海道産の越冬ジャガイモは本州ではおいしくない. のか?」という話である。北海道産のジャガイモは、越冬中、零下ギリギリ の温度(0∼3度)に保管されるため、細胞中のでんぷんを糖化させ、糖分 濃度を高めることで凍結しないように変化する。結果、年明けの2∼3月あ たりのイモは甘みが増し、おいしくなる。しかし、これを「常温」に戻す と、凍る心配のなくなったイモは、糖度が落ちてしまい、本州では北海道の ようなおいしさを体感できない。北海道の農協組織であるホクレンでは、 4∼6月に最新鋭の冷蔵庫で貯蔵したジャガイモを『よくねたいも』という 商品名で出荷し、テレビ CM を打つが、せっかく甘くなったジャガイモもこ の時期本州は北海道よりも5度以上温度が高く暖かいため、糖度が下りおい. 注1)毎週木曜発行の青年向けマンガ雑誌(1982年創刊). 「宇宙兄弟」,「会長 島耕作」「クッキングパパ」「コ ウノドリ」などが連載されている.. しくないという悲しい結果に現状はなっている。 執筆中のマンガの世界が春の季節だったため、すぐに元ネタとして使用し.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.26-2 No.100. たいと作者から返事が。実際マンガ化に当り、ネタ提供者として、北海道 ジャガイモの旬の時期の確認や、越冬ジャガイモの糖化のしくみを分析した 論文(遠藤ら 2015)の解説などをメールでやり取り。この間、作者の仔鹿 氏だけでなく、担当編集者からのツッコミや、現役の仲卸であるタカシ氏の 意見を総合しつつ、具体的な話の構成ができていった。セリフの監修をする ことで、下絵を確認する一コマも。マンガ制作の一端を担っていることを実 感した瞬間である。. 1.3. お仕事マンガは共創チームにて. お仕事マンガだからこそ、話作りは現場への取材から始まる。今回でいう. と、作者である仔鹿さんが、業界人である仲卸のタカシ氏、八百屋の私、そ して、冷静なる伴走者である編集者の意見を聞きつつ、下書き(ネーム)が でき、清書されていく。この過程は、まさに“共創”である。青果流通のど 真ん中である「仲卸」の世界を描くからこそ、関係者は多岐にわたり、生産 者、農協、配送業者、卸会社、仲卸会社、スーパー、中食会社等々。マンガ の巻末にある協力先の名前(図1)を見るだけでも、多くの人たちへの取材 や協力(共創)の下、このお仕事マンガ「八百森のエリー」ができているこ とがわかる。作者も下野新聞のインタビューにて、「1人で描いているので なく、みんなで作っている感じ。それがすごく楽しい」と述べている。. 図1 八百森のエリー第2巻巻末 © 仔鹿リナ/講談社. やり取りする中で、特に担当編集者の力が大きいこともわかった。編集者 は、第3者の視点で、話が分かりやすいか、キャラクターはぶれていない か、話の盛り上がりはあるかなど、ツッコミを入れ、時にアイディアも出し ていく。まるで第2の創作者のようである。おもしろいマンガを生み出すた めに、時に作者とがっぷり四つでぶつかり合いながら、共創によりマンガを 作っていく。. 1.4. マンガだから伝わること. ネタ提供した越冬ジャガイモの件は、過去に私が運営する店のチラシや冊. 43.

(3) 44. 特集:共創・当事者デザイン. 子(すず辰マガジン vol.1)に書き、地元新聞の担当コラムでも書いてきた. が、特に反響はなかったもの。しかし、マンガになってみれば、食べたいと. の読者コメントが SNS 注2)に見られ、マンガを読んだ店の常連客から「越冬 ジャガイモまだあるの?」と問い合わせが入る。知り合いの仲卸からは. 「スーパーに提案してみる」との反応も。マンガという、画とストーリー、 そしてキャラクターで魅せる表現だからこそ強く伝わるのである。 図2は越冬ジャガイモの糖化のしくみについて、マンガの中で描かれたコ マの一部である。セリフは取材時に私が語った内容であるが、イモが擬人化 されることで、イモの状態がよりリアルに伝わりわかりやすい。そして「冷 蔵」の大切さをこれでもかと主人公エリーが強調。読者は、「越冬ジャガイ モは冷蔵保管」と深く胸に刻むのである。 . 図2 越冬ジャガイモの糖化のしくみ © 仔鹿リナ/講談社. そしてトドメは図3の画である。百聞は一見にしかず、というが、感情に 注2)ソーシャル・ネットワーキング・サービス(英語:. Social Networking Service).コミュニティ型の会員 制 の サ ー ビ ス.Twitter や face book,instagram な ど. がある.. 響く画・ストーリーは読者の食欲を刺激し、「食べたい」という思いを引き 起こす。これは八百屋だけではなかなかできない芸当である。 実際 SNS で「八百森のエリー」と検索すると以下のような感想がいくつ.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.26-2 No.100. 図3 越冬ジャガイモのおいしさを表現 © 仔鹿リナ/講談社. も出てくる。「野菜が愛おしくなる」、「野菜がもりもり食べたくなる」、「野 菜を買うのが楽しくなります」、「野菜が買いたくなる」など。 野菜愛にあふれるマンガは、その愛が読んだお客さんに伝わり、野菜が買 いたい!、食べたい!、になるのである。そして、こんな感想も。 「野菜が 食べたくなるし、何より安けりゃいいって考え方が消えた。(中略)作る人 動かす人があってこその私たち買う人なんだなーって思えてくる」。 これはとてもすごいことである。「東北食べる通信」の編集長である高橋 博之氏がその著書「都市と地方をかきまぜる」で「人間は食べなければ生き ていけない。だから食に関してはすべての国民が当事者なのだが、多くの人 にとっては他人事になっている」と現代の課題を述べている。その食への当 事者意識を「八百森のエリー」を読むことで読者は自然と獲得する。しかも 楽しみながら。なんとも貴重なマンガである。全国民必読のマンガでは、と 八百屋として深く思う次第である。. 1.5. 八百屋マンガを売る. こんなに読者の野菜愛を刺激するマンガであれば、八百屋やスーパーの青. 果売場でこそ売るべきでないかと考え、書店にて定価で仕入、店の顧客に定 価で売って来た。たまたま作者と、漫画に登場する野菜を複数入れた、ギフ トセットを作ろうと話していた中、編集者が知ることとなり、第2巻発売記 念のプレゼントとして野菜セットを企画することに。さらに地方では書店で コミックスが手に入りづらいとの話を聞き、「コミックス入りの野菜セット」 を売り出すことに(図4)。これぞ八百屋とマンガの共創の産物である。 今では特例ながら、出版社から直接サイン本を仕入れ売っている。「マン ガを売る八百屋」の誕生である。. 45.

(5) 46. 特集:共創・当事者デザイン. 図4 すず辰×八百森のエリー コラボ BOX. 2.まとめ ジャガイモ以降も、トマト、キュウリ、農協のことなど、八百屋として作 者とは意見交換を続け、作中で活かしてもらっている。青果仲卸マンガ「八 百森のエリー」の共創チームの一員として、野菜愛を世間に広く普及したい 八百屋である。 「八百森のエリー」と検索すると、講談社の公式ページから、第1話と第 2話が閲覧できる。ぜひお試しあれ。もちろん大学生協等でのコミックスの 取り寄せ注文も大歓迎である。 電子書籍と紙の書籍の両方の販売が混在している昨今、今までの販売方法 が通用しなくなっている厳しい出版事情を知ることとなった。書籍の販売に 関し、読者、他業界の流通業者(青果仲卸など)を交え、共創デザイン、当 事者デザインの力で、出版流通に変化を起こせるのではと思う今日この頃で ある。 【参考文献】 遠藤千絵・石黒浩二・瀧川重信・野田高弘・波佐康弘(2015):生食用ジャガイモ品種の低温貯蔵 による糖含量の増加特性,日本食品科学工学会誌 Vol. 62(2015)No. 1,p. 50-55,研究ノート.. 仔鹿リナ:八百森のエリー,講談社,2巻,2018.. 鈴木辰徳:「よくねたいも」は起こさない,週刊すず辰,vol. 1,p. 20,2016.. 下野新聞:宇都宮中央卸売市場など舞台,仲卸の奮闘が漫画に 「八百森のエリー」モーニング誌 連載,2017.https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/9343. 髙橋博之:都市と地方をかきまぜる 「食べる通信」の奇跡,光文社新書,p. 51,2016..

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