八百屋とデザイン
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(2) デザイン学研究特集号 Vol.26-2 No.100. たいと作者から返事が。実際マンガ化に当り、ネタ提供者として、北海道 ジャガイモの旬の時期の確認や、越冬ジャガイモの糖化のしくみを分析した 論文(遠藤ら 2015)の解説などをメールでやり取り。この間、作者の仔鹿 氏だけでなく、担当編集者からのツッコミや、現役の仲卸であるタカシ氏の 意見を総合しつつ、具体的な話の構成ができていった。セリフの監修をする ことで、下絵を確認する一コマも。マンガ制作の一端を担っていることを実 感した瞬間である。. 1.3. お仕事マンガは共創チームにて. お仕事マンガだからこそ、話作りは現場への取材から始まる。今回でいう. と、作者である仔鹿さんが、業界人である仲卸のタカシ氏、八百屋の私、そ して、冷静なる伴走者である編集者の意見を聞きつつ、下書き(ネーム)が でき、清書されていく。この過程は、まさに“共創”である。青果流通のど 真ん中である「仲卸」の世界を描くからこそ、関係者は多岐にわたり、生産 者、農協、配送業者、卸会社、仲卸会社、スーパー、中食会社等々。マンガ の巻末にある協力先の名前(図1)を見るだけでも、多くの人たちへの取材 や協力(共創)の下、このお仕事マンガ「八百森のエリー」ができているこ とがわかる。作者も下野新聞のインタビューにて、「1人で描いているので なく、みんなで作っている感じ。それがすごく楽しい」と述べている。. 図1 八百森のエリー第2巻巻末 © 仔鹿リナ/講談社. やり取りする中で、特に担当編集者の力が大きいこともわかった。編集者 は、第3者の視点で、話が分かりやすいか、キャラクターはぶれていない か、話の盛り上がりはあるかなど、ツッコミを入れ、時にアイディアも出し ていく。まるで第2の創作者のようである。おもしろいマンガを生み出すた めに、時に作者とがっぷり四つでぶつかり合いながら、共創によりマンガを 作っていく。. 1.4. マンガだから伝わること. ネタ提供した越冬ジャガイモの件は、過去に私が運営する店のチラシや冊. 43.
(3) 44. 特集:共創・当事者デザイン. 子(すず辰マガジン vol.1)に書き、地元新聞の担当コラムでも書いてきた. が、特に反響はなかったもの。しかし、マンガになってみれば、食べたいと. の読者コメントが SNS 注2)に見られ、マンガを読んだ店の常連客から「越冬 ジャガイモまだあるの?」と問い合わせが入る。知り合いの仲卸からは. 「スーパーに提案してみる」との反応も。マンガという、画とストーリー、 そしてキャラクターで魅せる表現だからこそ強く伝わるのである。 図2は越冬ジャガイモの糖化のしくみについて、マンガの中で描かれたコ マの一部である。セリフは取材時に私が語った内容であるが、イモが擬人化 されることで、イモの状態がよりリアルに伝わりわかりやすい。そして「冷 蔵」の大切さをこれでもかと主人公エリーが強調。読者は、「越冬ジャガイ モは冷蔵保管」と深く胸に刻むのである。 . 図2 越冬ジャガイモの糖化のしくみ © 仔鹿リナ/講談社. そしてトドメは図3の画である。百聞は一見にしかず、というが、感情に 注2)ソーシャル・ネットワーキング・サービス(英語:. Social Networking Service).コミュニティ型の会員 制 の サ ー ビ ス.Twitter や face book,instagram な ど. がある.. 響く画・ストーリーは読者の食欲を刺激し、「食べたい」という思いを引き 起こす。これは八百屋だけではなかなかできない芸当である。 実際 SNS で「八百森のエリー」と検索すると以下のような感想がいくつ.
(4) デザイン学研究特集号 Vol.26-2 No.100. 図3 越冬ジャガイモのおいしさを表現 © 仔鹿リナ/講談社. も出てくる。「野菜が愛おしくなる」、「野菜がもりもり食べたくなる」、「野 菜を買うのが楽しくなります」、「野菜が買いたくなる」など。 野菜愛にあふれるマンガは、その愛が読んだお客さんに伝わり、野菜が買 いたい!、食べたい!、になるのである。そして、こんな感想も。 「野菜が 食べたくなるし、何より安けりゃいいって考え方が消えた。(中略)作る人 動かす人があってこその私たち買う人なんだなーって思えてくる」。 これはとてもすごいことである。「東北食べる通信」の編集長である高橋 博之氏がその著書「都市と地方をかきまぜる」で「人間は食べなければ生き ていけない。だから食に関してはすべての国民が当事者なのだが、多くの人 にとっては他人事になっている」と現代の課題を述べている。その食への当 事者意識を「八百森のエリー」を読むことで読者は自然と獲得する。しかも 楽しみながら。なんとも貴重なマンガである。全国民必読のマンガでは、と 八百屋として深く思う次第である。. 1.5. 八百屋マンガを売る. こんなに読者の野菜愛を刺激するマンガであれば、八百屋やスーパーの青. 果売場でこそ売るべきでないかと考え、書店にて定価で仕入、店の顧客に定 価で売って来た。たまたま作者と、漫画に登場する野菜を複数入れた、ギフ トセットを作ろうと話していた中、編集者が知ることとなり、第2巻発売記 念のプレゼントとして野菜セットを企画することに。さらに地方では書店で コミックスが手に入りづらいとの話を聞き、「コミックス入りの野菜セット」 を売り出すことに(図4)。これぞ八百屋とマンガの共創の産物である。 今では特例ながら、出版社から直接サイン本を仕入れ売っている。「マン ガを売る八百屋」の誕生である。. 45.
(5) 46. 特集:共創・当事者デザイン. 図4 すず辰×八百森のエリー コラボ BOX. 2.まとめ ジャガイモ以降も、トマト、キュウリ、農協のことなど、八百屋として作 者とは意見交換を続け、作中で活かしてもらっている。青果仲卸マンガ「八 百森のエリー」の共創チームの一員として、野菜愛を世間に広く普及したい 八百屋である。 「八百森のエリー」と検索すると、講談社の公式ページから、第1話と第 2話が閲覧できる。ぜひお試しあれ。もちろん大学生協等でのコミックスの 取り寄せ注文も大歓迎である。 電子書籍と紙の書籍の両方の販売が混在している昨今、今までの販売方法 が通用しなくなっている厳しい出版事情を知ることとなった。書籍の販売に 関し、読者、他業界の流通業者(青果仲卸など)を交え、共創デザイン、当 事者デザインの力で、出版流通に変化を起こせるのではと思う今日この頃で ある。 【参考文献】 遠藤千絵・石黒浩二・瀧川重信・野田高弘・波佐康弘(2015):生食用ジャガイモ品種の低温貯蔵 による糖含量の増加特性,日本食品科学工学会誌 Vol. 62(2015)No. 1,p. 50-55,研究ノート.. 仔鹿リナ:八百森のエリー,講談社,2巻,2018.. 鈴木辰徳:「よくねたいも」は起こさない,週刊すず辰,vol. 1,p. 20,2016.. 下野新聞:宇都宮中央卸売市場など舞台,仲卸の奮闘が漫画に 「八百森のエリー」モーニング誌 連載,2017.https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/9343. 髙橋博之:都市と地方をかきまぜる 「食べる通信」の奇跡,光文社新書,p. 51,2016..
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