原
著
分娩後の骨盤底筋訓練を助産師が
経腟触診で指導することの実行可能性
A feasibility study of the postpartum pelvic floor muscle training program
using vaginal palpation by midwives
池 田 真 弓(Mayumi IKEDA)
*1, 2 抄 録 目 的 分娩後の骨盤底筋訓練を助産師が経腟触診にて指導することの実行可能性を,指導法を習得するため の手順書の作成と,助産師が指導法を習得するプロセスから検討することである。 方 法 第一段階として経腟触診による骨盤底筋訓練手順書を作成し,泌尿生殖系の治療・看護を専門とする 8名の医療職(助産師・看護師・医師)によってその適切性を検討した。第二段階として,助産師7名を 対象に修正した手順書を用いて研究者が30分程度のレクチャーを行った。その後同意を得られた産褥4 日目の褥婦に助産師が経腟触診による骨盤底筋訓練を実施した。実施後はリフレクションガイドを用い て振り返りを行い,質的記述的に分析した。 結 果 第一段階では,経腟分娩後の脆弱な骨盤底筋の状態を踏まえた具体的指導内容についての助言を得 た。実施場所と実施時期,所要時間,使用する潤滑剤について検討し手順書を修正した。第二段階で は,実施前は経腟触診の方法・経腟触診の評価指標であるOxford scaleについての質問があったが,実 際は困難なく実施できていた。助産師とのリフレクションの結果から,【技術の獲得】【経腟触診の体感】 【実践に向けた意識】のカテゴリが抽出された。対象となった褥婦からは実施後のインタビュー・無記 名式質問紙ともに否定的な意見はなく,肯定的な評価であった。実施にあたり問題となる点は見られな かった。 結 論 本研究に参加した助産師は,作成した手順書を用いて経腟触診による骨盤底筋訓練指導法を困難なく 習得でき,実施に問題は生じなかった。経腟触診による分娩後の骨盤底筋訓練は,助産ケアとして臨床 で実践できることが示唆された。 キーワード:経腟触診,骨盤底筋訓練,Oxford scale,助産師の習得,実行可能性 2018年8月27日受付 2019年3月25日採用 2019年6月30日公開*1聖路加国際大学大学院看護学研究科博士後期課程(St. Luke's International University, Graduate School of Nursing Science, Doctoral
Program)
*2帝京大学助産学専攻科(Teikyo University, Graduate Course of Midwifery)
Abstract Purpose
The purpose of this study was to evaluate the feasibility of midwives implementing postpartum pelvic floor muscle training using vaginal palpation. This occurred through developing a manual and a process of midwifery training by which midwives learned teaching techniques of vaginal palpation using the manual.
Methods
The first step was to develop a vaginal palpation pelvic floor training manual. Eight medical professionals (mid-wives, nurses & physicians) specializing in the treatment of the urogenital area considered the suitability of content. Next, using the resulting modified manual, researchers gave a 30-minute lecture for seven midwives. Then the mid-wives practiced their pelvic floor muscle training by vaginal palpation with consenting women on their fourth post-partum day. Following the pelvic floor muscle training by vaginal palpation, midwives did a guided reflection on their experience. The qualitative contents were thematically analyzed.
Results
During the first step, the contents of the procedure manual were modified according the condition of women with weakened pelvic floor muscles after vaginal delivery. Modification concerned the place and timing of implementation, the time required, and lubricants. In the second step, there were questions about the method of vaginal palpation and the use of the Oxford scale to evaluate pelvic floor muscle strength: the Oxford scale was easy to implement. Three categories were extracted from the results of reflection: (1) Learning of techniques, (2) Actual experience of vaginal palpation, and (3) Awareness of the practice. Based on interviews and a questionnaire survey the postpartum women had no negative reactions and comments and experiences were positive. There were no problems occurring in the implementation.
Conclusion
Midwives who participated in this study were able to master the teaching techniques of pelvic floor muscle training by vaginal palpation without difficulty using the prepared manual and found that there were no problems in implementation. It was suggested that postpartum pelvic floor muscle training by vaginal palpation could be practiced clinically as part of midwifery care.
Key words: vaginal palpation, pelvic floor muscle training, Oxford scale, midwifery training, feasibility
Ⅰ.諸 言
1.研究の背景
妊娠回数・経腟分娩の回数が増えるにつれ骨盤底の 支持組織を損傷する(Swift, 2000)ことはよく知られて いるが,MRI(Delancey, et al. 2003)や超音波(Dietz, et al. 2005)によれば,初産であっても経腟分娩をし た 20~36% において骨盤底筋群の重要な構成筋肉で ある肛門挙筋の損傷を起こす。肛門挙筋の異常である 肛門挙筋裂孔の拡張は妊娠中から起こっていることが 近 年 の 超 音 波 に よ る 知 見 か ら わ か っ て お り(van Veelen, et al. 2014),妊娠35週以降は帝王切開・経腟 分娩の分娩様式にかかわらず女性の骨盤底に影響を及 ぼす(Chan, et al. 2014)ため,出産経験のあるすべて の女性に対して何らかのケアが必要である。 妊娠・分娩により損傷を受け脆弱化した骨盤底を回 復 さ せ る 方 法 の 第 一 選 択 は 骨 盤 底 筋 訓 練 で あ る (Boyle, et al. 2014)。本邦のガイドラインでは,妊婦 または産後の女性に対する骨盤底筋訓練の尿失禁予防 効果について推奨グレードAとし,実施を強く勧めて いる(日本排尿機能学会女性下部尿路症状診療ガイド ライン作成委員会,2013,p.87)。骨盤底筋訓練の方 法は,口頭指導,パンフレットを渡すもの,フィット ネスと連動させるもの,膣や肛門からの触診により骨 盤底筋群を確認しながら収縮と弛緩を指導する方法, あるいはバイオフィードバック訓練を含むものなど, 方法が一定しておらず組み合わせ方法も種々である (日本排尿機能学会女性下部尿路症状診療ガイドライ ン作成委員会,2013,p.86)。女性尿失禁患者に対する 指導の実態を全国調査した結果(亀崎他,2015)では, 尿失禁患者に対して骨盤底筋訓練指導を行う時間は10 分未満が 60.5%で最も多く,その指導方法は「パンフ レットを使用する」が約7割で最も多かった。しかし, 骨盤底筋は可視化できないため,対象者が骨盤底筋の 動きを体得出来ているかの判断が難しい。初めて骨盤 底筋訓練を実施した女性の30%以上が骨盤底を収縮さ
せることができず,骨盤底筋群とは別の筋肉を代替的 に収縮させ,呼吸を止めていきみをかける等の骨盤底 を押し下げる間違った方法で行うため,正確な収縮方 法を指導するためには腟からの触診(以下,経腟触診) が適切である(Bø, 2005)。骨盤底障害の女性を対象に 調査した結果(Moen, et al. 2009)では,多くが口頭だ けの指導に加えて排尿時に尿を止めるという訓練方法 を指導されており,排尿中断法は有益でないばかりで なく骨盤底機能の悪化および排尿障害の原因となる可 能性があるとしており,適切な方法で指導できなけれ ばかえって尿失禁のリスクとなるため正しい指導方法 を提供することが重要である(Barton, et al. 2015)。日 本では,女性泌尿器科において経腟触診により骨盤底 筋訓練の指導がされているものの,産科では通常実施 されていない。助産師は分娩経過における内診は行う が骨盤底筋訓練を目的とした経腟触診の技術的な教育 は受けていないため,経腟触診による分娩後の骨盤底 筋訓練を助産ケアとして臨床で実践するためには,指 導法を習得するためのガイドになるような手順書を作 成する必要があると考えた。作成した手順書を用いて 助産師が経腟触診による骨盤底筋訓練を実施し指導法 を習得するプロセスから実行可能性を検討する。 本研究は,助産師が分娩後の褥婦に骨盤底筋訓練法 を指導する際に,経腟触診で指導する方法が助産ケア として臨床での実践に応用できるかという視点から検 討するため研究対象は助産師であるが,ケアの受け手 にとって有益であるかを精査するために褥婦からの意 見も収集した。 2.用語の定義 骨盤底筋訓練 骨盤底筋はおよそ 70% の遅筋と 30% の速筋で構成 され,筋収縮には遅筋と速筋両方の筋繊維が必要とさ れ,遅筋は持続的な収縮,速筋は瞬発的な収縮がなさ れる(Laycock, et al. 2001)。骨盤底筋訓練とは,肛門 挙筋および尿道周囲,膣周囲の括約筋群を随意的に収 縮させて行う下部尿路リハビリテーションである(泌 尿 器 科 領 域 の 治 療 標 準 化 に 関 す る 研 究 班, 2004, p.62)。骨盤底筋体操,骨盤底筋トレーニング,ケー ゲル体操等,名称は統一されていないが,本研究では 骨盤底筋訓練とする。 経腟触診 膣内に指2本を挿入し骨盤底筋収縮を確認すること をいう。通常の産婦人科診療における医師の内診とは 異なり,経腟触診または指診と表現されることが多い が,本研究では経腟触診とする。 Oxford scale 経腟触診での骨盤底筋力評価に使用される。0~5 の 6 段階で骨盤底筋の収縮力を測定する(Laycock, et al. 2001)。
Ⅱ.研 究 目 的
本研究の目的は,分娩後の骨盤底筋訓練を助産師が 経腟触診にて指導することの実行可能性を,指導法を 習得するための手順書の作成と,助産師が指導法を習 得するプロセスから検討することである。Ⅲ.研 究 方 法
1.研究期間 2017年4月~11月であった。 2.研究参加者 手順書の検討では,泌尿生殖系の治療・看護を専門 とする8名の医療職を機縁法でサンプリングした。 助産師が経腟触診による骨盤底筋訓練を習得するプ ロセスでは,東京都内1カ所の助産所に依頼し承諾を 得た後,施設長より研究に参加する助産師と褥婦の紹 介を受けた。助産師の選択基準は,院内助産で実施す ることを想定し,100 例以上の分娩介助経験のある 助産師とした。褥婦の選択基準は,母子ともに経過が 順調な経腟分娩後とし,初経産・尿失禁の有無は問わ なかった。会陰裂傷が大きい・痛みが強い等の経腟触 診による骨盤底筋評価が困難と予想される場合は除外 した。 3.データ収集方法 1)経腟触診による骨盤底筋訓練手順書の作成と適切 性の検討 研究者は,過去に経腟触診による骨盤底筋訓練につ いての講義と研修を受けている。先行研究の手順(池 田他,2016)と文献(一般社団法人日本創傷・オスト ミ ー ・ 失 禁 管 理 学 会, 2017 , pp.53-54; 谷 口 他, 2017,pp.178-183)を参考に経腟触診による骨盤底筋 訓練手順書を作成した。サンプリングした8名の専門 家に 30 分程度の構造化面接にて適切性の検討を依頼 し,追記・修正を経て手順書の完成とした(表1)。表1 手順書
経腟触診による⾻盤底筋訓練⼿順書
下記の 2 つから構成される。 I. Oxford scale による⾻盤底筋評価 II. 経腟触診による⾻盤底筋訓練指導 必要物品 医療⽤グローブ、潤滑剤(⾺油など) ⼿順 ・⾻盤底筋群の解剖学的位置が⼗分に理解できるように模型等を使⽤しながら説明する。 ・⾻盤底の収縮の仕⽅を⼝頭で説明する。 「膣と肛⾨をキュッとすぼめる感じ」「おしっこやおならを我慢するような感じ」など具体的な感覚が伝わりやすい。 ・注意点として、「呼吸を⽌めずに息を吐きながら」「お腹や太腿など他の部分には⼒を⼊れない」ことを伝える。 ・助産師は右⼿に潤滑油をたっぷり塗布したグローブを装着する。 ・対象者は、仰臥位で膝を⽴てた開脚位の姿勢が収縮感覚を理解しやすい。 Ⅰ.⾻盤底筋評価 ① 外陰部の観察(腫脹、縫合状態、痔核、悪露の状態)をしながら対象者に⾻盤底の収縮を促す。 ② ゆっくりと息を吐くように声をかけながら外陰部に触れ、助産師の右⼿のひらを上にしてゆっくりと膣内に⽰指を 2〜3㎝挿⼊する。次いで、中指を添わせるように優しく挿⼊する。 ③ 対象者に⾻盤底を締めるように指⽰する。 声かけとして、「指を締めつける感じ」「指を持ち上げお腹の⽅向に引き込む感じ」と説明をする。 対象者の腹部(臍下)に助産師の左⼿を置き、怒責・代替収縮を確認する *代替収縮は、腹筋・⼤腿四頭筋・臀筋に⼒が⼊りやすい。腰を浮かせていないかも確認する。 ④ 「呼吸を⽌めずに息を吐きながら、⾻盤底を持続して締めて下さい」と声をかけ Oxford scale にて 0~5 の 6 段階で測定する。 Ⅱ.⾻盤底筋訓練指導 ① 助産師は右⼿の 2 本(⽰指と中指)は膣内、左⼿は対象者の右⼿の同じ指 2 本(⽰指と中指)を握り、収縮ができて いれば指を握る、弛緩の際は指を緩める、という同じ動作を⾏い、感覚が掴めるように触覚的信号としてフィードバックする。 ② 収縮の感覚と⽅向をつかんでもらい、⾻盤底筋以外の部位に⼒を⼊れずに、正しい収縮が出来るように指導する。 速筋:収縮 1 秒、弛緩 1 秒の速い収縮の繰り返しを⾏う。 声かけとして、「速い収縮を繰り返しましょう。しめて、ゆるめて、しめて、ゆるめて、のリズムです」と説明をする。 遅筋:⾻盤底を持続して、6~8 秒収縮させ、10 秒弛緩させる。 収縮が持続できない場合は出来る範囲で実施する。 ③ どこをどう動かしてよいかわからない場合は、触診の指 2 本を縦⽅向に広げるようにし、これを押しつぶすように締めるように と説明する。または、外陰部に左⼿をおき、「この部分を意識して動かしてください」と声をかけ、「しめて〜ゆるめて〜」だけを ゆっくり促す。 ④ 怒責が⼊ってしまう場合は、声に出して数を数えながら収縮させるよう促す。 ⑤ 所要時間が 15 分間を超えないようにする。2)助産師が経腟触診による骨盤底筋訓練を実施し指 導法を習得するプロセス 手順書(表 1)と Oxford scale の評価指標(表 2)を示 しながら個別か 2~3人の小集団で30 分程度の事前レ クチャーを行った。レクチャーの際には,経腟触診の 手技と指導方法,評価指標となる Oxford scale の理解 について確認をした。 研究者同席のもと,事前レクチャーを受けた助産師 が手順書を用いて研究参加を希望した褥婦に実施し た。助産師1名につき1~3名の褥婦を対象とした。 実施の際は,助産師は経腟触診を右手で行い,左手 で研究者の右手 2 本(示指と中指)を握り,褥婦の収 縮状態を研究者にリアルタイムに伝える方法でOxford scaleの評価をすり合わせた。表1の手順書「II. 骨盤底 筋訓練指導」①に示したフィードバックと同じやり方 で助産師が研究者に収縮を伝えることにより,対象に フィードバックする際の練習になることを意図した。 実施直後に,研究者がリフレクションガイドを用い て助産師とふり返りの時間を持ち,出来た点や困難に 感じた点を表出してもらい,経腟触診による骨盤底筋 訓練法の習得を確認した。 3)経腟触診による骨盤底筋訓練の受け手である褥婦 からの意見 ケアの受け手である褥婦にとって有益であるかを精 査するために,実施直後に研究者が経腟触診による骨 盤底筋訓練の指導を受けた感想をインタビューし,1 か月後に無記名式質問紙を研究者宛に郵送することを 依頼した。無記名式質問紙では,指導の時期・指導に 要した時間・経腟触診の指導法のわかりやすさ・骨盤 底筋の収縮の仕方の理解,について質問し,良かった 点・良くなかった点・気になった点・苦痛だったこ と,について記述で回答を得た。 4.分析方法 経腟触診による骨盤底筋訓練手順書の適切性の検討 は,①臨床において実行可能であるか,②産褥期に適 した内容であるか,③対象となる褥婦に不利益がない か,④助産師が実施するうえでの困難はないか,の4 つの視点から分析した。 事前レクチャー時・実施中の助産師からの質問や反 応はありのままを記述した。実施後のリフレクション は逐語録を作成し,逐語録から骨盤底筋訓練法の習得 に関する意見・感想が含まれる内容をコード化し,類 似したコードを集約してサブカテゴリを抽出した。サ ブカテゴリ―の同質性に基づいてカテゴリを抽出した。 実施中に観察された内容で関係していることは分析の 際に参考にした。分析結果は,記述内容について助産 師によって確認を行い,データの妥当性を確保した。 5.倫理的配慮 研究協力の自由意思と拒否権,時間的拘束,個人情 報の保護,研究成果の公表等について,助産師と分娩 後の女性双方に,文書と口頭で説明し署名にて同意を 得た後に実施した。分娩後の女性に対しての説明で は,実施する助産師は研究者よりその手技についてレ クチャーを受けた後に実施をすること,通常の助産所 でのケアに加え臨床での実行可能性を確かめるための 研究の一環として実施することを文書と口頭で説明し 同意を得た。本研究は研究者の所属施設の研究倫理審 査委員会の審査を受け,承認を得た(承認番号 16-A096,17-A041)。
Ⅳ.結 果
1.経腟触診による骨盤底筋訓練手順書の適切性の 検討 手順書の適切性の検討を依頼した医療職の内訳は, 助産師 4 名(病院勤務の助産師 2 名,母性看護学・助 産学の研究者 2 名),泌尿器科外来で経腟触診による 骨盤底筋訓練を指導している看護師2名,主に外来で 骨盤底障害の治療に携わる泌尿器科医師1名,周産期 を専門とする産婦人科医師1名で全員女性であった。 表2 Oxford scale oxford scale による評価指標 補足説明 0 まったく収縮しない まったく動かない 1 わずかに収縮する わずかに動く 2 弱いが収縮は可能 収縮はあるが持続できない 3 収縮は可能で,骨盤底が拳上する 持続して収縮でき,指が少し持ち上がる 4 良好に収縮し,抵抗を加えても収縮できる 指が完全に持ち上がり,指を抜こうとしても収縮できる 5 強い収縮 指が奥に引き込まれるように締めつけられる1)臨床において実行可能であるか 助産師からは,主に実施のタイミングについて意見 があり,「入院中はどちらにしても退院診察で内診を するので引き続き骨盤底筋訓練を指導するのがス ムーズ」という一方で,「他にも診察者がいる時は内診 台を独占するよりもベッドサイドの方が対象者に とっても安楽」,外来で実施する場合には「赤ちゃん を預けて来ている人,赤ちゃん連れの人は時間が長い と負担」との意見が出された。入院中のベッドサイド でのケアおよび外来での個室スペースでの実施を想定 し,指導に要する時間は 15 分以内が適切である,と 判断し骨盤底筋訓練手順書に追記した。 2)産褥期に適した内容であるか 産褥早期の入院中に経腟触診による指導法を実施す ることに関して,助産師からは「会陰部の状態によ る」「ローリスクな分娩であれば可能だと思う」,医師 からは「排泄のコントロールが出来ていて産褥経過に 問題がなければ実施可能である」という見解を得た。 経腟触診による骨盤底筋訓練を実践している看護師 からは,分娩後の脆弱化した骨盤底筋の状態を踏まえ て以下の助言を得た。 ① 解剖的な図や模型を用いて骨盤底筋のイメー ジをつけた後で実施を行う。 ② 収縮できない場合の具体的指導方法としては, 締められなくてもいいから締めるイメージで, と伝える。恥骨から外陰部に手を当てて『ここ に力を入れてください』と言うとわかりやすい。 ③ 身体の色々なところに力が入るのでリラック スしてもらうのが一番大事。 ④ 筋力が弱いのではなく骨盤底の動かし方がわ からないだけの人がいて,そのような人は経腟 触診が向いている。 ⑤ 筋力だけでなく正しくタイミング良く収縮で きるかが大事。 ⑥ まったく出来ない人にはゆっくりと収縮を繰 り返すことを促す。 ⑦ 重力がかかると分かりにくいため初めは仰臥 位で膝を立ててやってもらい収縮感覚が掴めた 後は椅子に座ってやってもらう。産後は時間を 作るのが難しいので,座って出来れば生活の場 面で取り入れ易い。 ⑧ セルフケアの方法としては,自分で触診して 確認してもらうと良い。 ①~⑧の助言は表1の骨盤底筋訓練手順書の手順や 指導の部分に反映させ,助産師へのレクチャーの際に 活用した。 3)対象となる褥婦に不利益がないか 時間的拘束,羞恥心への配慮,実施の負担感,痛み に対する配慮についての知見が得られた。使用する潤 滑剤として,「女性泌尿器科外来ではワセリンを使用」 「馬油は産後の乳頭にも塗布するので適切かつ安全性 が高い」「ココナッツオイルは抗炎症作用があるので 産後に適している」「妊娠中に会陰マッサージを行っ ていた人は同じオイルを使用してもよい」との意見が 出された。 4)助産師が実施するうえでの困難はないか 助産師からは,「産褥期に内診をしたことがないの でイメージがつかない」「イラストでやり方を示して 欲しい」といった経腟触診に対する技術的な質問がみ られた。Oxford scale の日本語版(一般社団法人日本 創傷・オストミー・失禁管理学会,2017,p.54)に関 して,「『骨盤底が拳上する』『抵抗を加えても』の意味 が理解しづらい」との意見が複数からあったため,文 献(Laycock, et al. 2001, p.633;田中他,2007,p.219) を参考に説明を加えたものを経腟触診による骨盤底筋 訓練を実践している看護師や医師に見せて意見をもら い,表2の補足説明に反映させた。 2.助産師が経腟触診による骨盤底筋訓練を実施し指 導法を習得するプロセス 1)研究参加者の概要 研究に参加した助産師は 7 名で,平均経験年数 13 年,平均分娩介助数約300例で,経腟触診を用いた骨 盤底筋訓練は7名全員が初めてであった。4名はこれま で経腟触診以外の方法で骨盤底筋訓練指導を実施して いた。4名の内訳は,2名が妊娠期のクラスや産褥のケ アの際に口頭での指導を行い,あとの2名が産褥期の ケアの際に外陰部を観察しながら口頭で骨盤底筋の収 縮を指示し,膣口が締まるかどうかを観察していた。 研究に参加した褥婦は 14 名(初産 1 名・ 1 経産 4 名 ・ 2経産 9名)で,全員産褥 4日目に実施した。産褥 4 日目時点で 6 名に尿失禁がみられた。平均年齢は 34.9±3.7歳,平均非妊時BMIは19.9±1.3,妊娠中の平 均 体 重 増 加 量 は 10.4±2.7Kg, 平 均 分 娩 所 要 時 間 256.1±141.6分,平均出生児体重は 3330.7±450.2g で あった。軟産道裂傷なしが 10 名,会陰部擦過傷が 3 名,I度会陰裂傷が1名で,擦過傷は処置なし,I度裂 傷はクレンメにて処置され,会陰縫合術を受けた者は
いなかった。経腟触診実施時にはクレンメも抜去さ れていた。これまでに骨盤底筋訓練の指導を受けたこ とがあるのは 10 名で,口頭での指導がほとんどで あった。 2)作成した手順書を用いた事前レクチャー 経腟触診の手技と指導方法の確認では,触診指を挿 入する際の方法と,膣内での触診指の動かし方につい ての質問があった。評価指標となる Oxford scale の理 解の確認では,第一段階での適切性の検討でみられた 「骨盤底の挙上」「抵抗を加えても」の意味が理解しづ らいという意見を踏まえ補足を加えた表 2 を提示し, 理解しづらいという意見はなかったが,「scale3と4の 違いが難しそう」と2名からコメントがあった。 3)研究者同席で経腟触診による骨盤底筋訓練を実施 実施時期は,手順書の適切性の検討での助産師と医 師の意見を参考に,臨床での適応において退院診察で 実施することを想定し産褥4日目に実施した。 助産師は経腟触診を右手で行い,左手で研究者の右 手 2 本(示指と中指)を握り,褥婦の収縮状態を研究 者にリアルタイムに伝える方法で評価表(表2)を見な がら Oxford scale の評価のすり合わせを行った。助産 師が「わかりにくい」と言う時は,対象者の収縮が弱 く骨盤底筋を動かせない場合であった。そのようなと きは触診の指を2本縦方向に広げて,対象者にはその 指を押しつぶすようにと説明すると良いと助言する と,「わかりやすい」という反応に変化した。助産師が 判断に迷う時は,「筋肉の動きがあるか否か」「収縮が 持続するか否か」「指が持ち上がるかどうか」「引き込 まれる感じがあるかどうか」の指標を示すことにより Oxford scaleの判断ができ,1回目の実施の際から,研 究者と助産師との評価のずれはなく一致がみられた。 4)実施後のリフレクション 実施後のリフレクションから,経腟触診による骨盤 底筋訓練の指導法の習得について,【技術の獲得】【経 腟触診の体感】【実践に向けた意識】の3個のカテゴリ と9個のサブカテゴリが抽出された(表3)。カテゴリ は【 】で,サブカテゴリは『 』で,助産師の語りは 「斜体」で,研究者の補足箇所は( )で表記した。 ①【技術の獲得】 『実施に難しさを感じない』『経験により習得する』 『指導のコツをつかむ』の3つのサブカテゴリから生成 された。 『実施に難しさを感じない』は,初めて実施した経 腟触診による骨盤底筋訓練について,助産師7名全員 が,実際に実施した際に判断に迷うことはあっても 「出来ない」「わからない」といった事はなかった。 「scaleの評価は難しいと思っていましたが,1回目(の 実施)ですぐにわかりました」「十分に事前オリ(事前 のレクチャー)が出来たので難しいと思うことはな かったです」「指導してもらえれば難しくないかなと 思う」「レクチャーを受け,説明をいただきながら出 来たので,思っていたより難しくなかったです」「最 初にわかりやすい人だったので次は(収縮の)弱い人 でもわかると思います」と語られた。 『経験により習得する』は,「膣内は産後特有の柔ら かい感じなので最初わかりにくかった」「最初やり方 がわからなかったのですが,ポイントをつかむとわか りました」「最初全然動かなかったので自分がわから ないだけなのかと思ったんです。その後わずかに収縮 しているのがわかって,(練習した後は)確かに収縮し ているのがわかりました」と,実施しているうちにわ かるようになっていく過程が語られた。また,「最初 にやった時は少し時間がかかりましたが,2回目やっ てみて,慣れればスムーズに出来そうと思いました」 「まったく骨盤底を動かせない人だったので最初わか らなかったのですが,1回目の時と比較して動いてい ないとわかりました」と,前回の経験と比較して判断 できた事が語られた。実施回数が1回だった助産師か らは,「わかりやすい方だったのですぐにわかったけ ど,収縮のできない人にあたったらわからなかったか も」と経験の不足が述べられた。 『指導のコツを掴む』は,「最初わずかに動く程度 だったのが,指を縦に開いて押しつぶすようにと指導 した後上手になり収縮可能になりました」「わずかに 収縮する感じだったのが,指を縦に開くとわかりやす く,コツを掴んだ後はしっかりと持続して収縮できて いました」「指を縦に開くと自分もわかりやすいし, 対象者もわかりやすい」と,経腟触診の指を縦に開き これを押しつぶすように説明することで対象の反応を 実感でき,自分もわかりやすいことが語られた。ま た,「これまでお尻の穴を締めるように言っていたの ですが,(経腟触診後に)膣をうまく締められていたの で違うということがわかりました」「最初指1本で診て みたのですがわかりにくいといわれ,指2本の方がご 本人にわかりやすかった。対象者の反応が良かったの で,(経腟触診で行うのは)良いんだと思いました。」 と,指導のコツをつかんでいた。
②【経腟触診の体感】 『骨盤底の収縮を実感する』『対象者の変化を感じ取 る』『予想との違い・個人差を実感する』の3つのサブ カテゴリから生成された。 『骨盤底の収縮を実感する』は,「(経腟触診は)実践 してみないとわからないと思いました。締まる感じが とてもよくわかりました。直腸側(下側)が盛り上が る感じでscale3の骨盤底の拳上という感じがやってみ てわかりました」「3回目にやった人が今までの中で一 番わかりやすかった。すぐに最初からscale3以上だと わかりました。今までの人は手前だけが持ち上がって いたけど今回は膣全体がぐっと持ち上がるので全然 違った。引き込まれる感じはなかったのでscale4でし た」と語られ,骨盤底収縮の感覚や骨盤底拳上の感覚 を得られていた。実施前のレクチャーの際に聞かれた scale3と 4 の違いが分かるかどうかの心配は,実際の 実施場面では問題に挙がらなかった。「肛門だけを強 く収縮させていた時は指が持ち上がるのではなく下に 下がる感じでした」「お腹に力が入っていると指が押 し戻されて子宮が下がってくる感じがあった」と,腹 圧をかける間違ったやり方をしている場合に経腟触診 で実感できたことが語られた。 『対象者の変化を感じ取る』は,「練習すると上手に なるのがわかりました。最初手前だけで弱く収縮して いて練習すると指が持ち上がるようになりました」 「やっているうちにどんどん褥婦さんが上手になって 表3 経腟触診による骨盤底筋訓練の指導法の習得 カテゴリ サブカテゴリ コード 技術の獲得 実施に難しさを感じない すぐにわかった難しくなかった 次もわかると思う 経験により習得する 最初わかりにくかった ポイントをつかむとわかった 慣れればスムーズに出来そう 1回目と比較して動いていないとわかった 指導のコツを掴む 触診指を縦に開きこれを押しつぶすようにと説明する 膣内で指を縦に広げると収縮がわかりやすい お尻の穴を締めるという指導ではない 2本の触診指がわかりやすい 経腟触診の体感 骨盤底の収縮を実感する 骨盤底が締まる感じがとてもよくわかった Scale3の骨盤底の拳上の感覚は直腸側が盛り上がる感じ Scale4は手前だけが持ち上がるのではなく,膣全体がぐっと持ち上がる 肛門だけを強く収縮させていた時は指が持ち上がるのではなく下に下がる感じ お腹に力が入っていると指が押し戻されて子宮が下がってくる感じ 対象者の変化を実感する 最初手前だけで弱く収縮していたが練習すると指が持ち上がるようになった 指導した後は収縮可能になったのがわかった 練習するうちに短い時間で変化があった 実施前の観察では肛門に力が入っていたが実施後は膣が動いているのがわかった 長時間の実施は疲れて収縮が弱くなる 予想との違い・個人差を 実感する 産後なのにこんなに収縮が強いのか 運動をしていた人は骨盤底筋力が強いと思い込んでいたが違った 3人実施して3人とも違っていた 実践に向けた意識 意識が高まる 有効性がよくわかったので今後もケアの時にやっていきたい 女性が自身の身体,性に向き合う機会になるように関わっていきたい 勉強になった とても興味深い 実施について 思考する oxford scaleを小さい表にして見ながら実施する 尿意がしっかり戻り,外陰部の腫れがひいてくる4日目以降の時期の実施が良い 悪露が少ない人にはしっかり潤滑油をつけると良い 外陰部の観察で動きをみる 先に速い収縮をやってその後長い収縮をやってもらう方が良い 尿もれがある人などやったほうがいいと思う方に勧め易い 自分は出来ているという達成感が大事 適応を懸念する 会陰裂傷があると厳しいと思う便秘の場合は気になるかもしれない 尿もれなどなく特に困ったことがない人は内診での方法に抵抗がある
くるのがわかりました」「やっているうちに短い時間 で変化がありました」「実施前の観察では肛門に力が 入っていたのが実施後は肛門ではなく膣口が動いてい るのがわかりました」「遅筋の収縮は徐々にできるよ うになっていくというよりも長くやると疲れて収縮が 弱くなります」「何回もやると最後は疲れてきて最初 より続かなくなっていた感じ」と,実施による対象者 の変化を多くの助産師が体感していた。 『予想との違い・個人差を実感する』は,「先入観で, 産後なのでそんなに収縮が強くないだろうと思ってい たので,こんなに強いの?と思いました。」「(出産前 にアスリートで)運動をしていた人は骨盤底筋力が強 いと思い込んでいたが違いました」「3人実施して3人 とも違っていました」と,実施する前の予想との相違 や,個別性を発見していた。 ③【実践に向けた意識】 『意識が高まる』『実施について思考する』『適応を懸 念する』の3つのサブカテゴリから生成された。 『意識が高まる』は,「有効性が良くわかったので今 後もケアの時にやっていきたい」「骨盤底を収縮させ る時にお腹に力を入れてはいけないということを知ら なかったので自分もとても勉強になりました」「産後 の骨盤底筋の使い方を知るのは大切。とても参考にな りました。女性が自身の体,性に向き合う機会になる ように関わっていきたい」など,実践後の意識の高ま りがみられた。 『実施について思考する』は,「小さい表を作って Oxford scaleを見ながらやれば出来そう」「実施の時期 は,尿意がしっかり戻り外陰部の腫れがひいてくる4 日目以降が良いと思います」「悪露が少ない人には潤 滑油をたっぷり付けると良い」「速い収縮の方が皆さ ん出来るので,先に速い収縮をやってその後長い収縮 をやってもらう方が良いかも」「(経腟触診で)やった 方がいいと思う人は,尿もれがある人,どう動かして よいかわからない人,腹圧かけて押し出す人で,その ような人に勧め易い」「自分は出来ているという達成 感が大事。それがあれば家に帰ってからも続くので は?と思います」と,今後実践を視野に入れた提案が なされた。「内診しなくても最初に外陰部の動きをみ るだけである程度わかるのかもしれない」「会陰の痛 みがあって(経腟触診が)出来ない人は,外陰部の動 きを見るだけでも判断できるのでは?」と,複数名が 外陰部を観察しながら膣口の内向きの動きを観察する 方法について,判断の材料になると述べた。 『適応を懸念する』は,「会陰裂傷があると厳しいと 思う」「便秘の人の場合は(経腟触診時に)便が出そう になって(対象者が)気にされるかも」「尿漏れなどな く特に困ったことのない人は内診での方法に抵抗があ ると,(今回研究参加しなかった)褥婦さんからの声も ありました」と,経腟触診で骨盤底筋訓練を指導する ための対象者の適応について率直な意見が聞かれた。 3.経腟触診による骨盤底筋訓練の受け手である褥婦 からの意見 実施直後のインタビューによる感想および1か月後 の無記名式質問紙の記載から,経腟触診による骨盤底 筋訓練の指導方法について否定的な意見はみられな かった。実施の時期については無記名式質問紙に回答 した全員が「適切だった」と答えた。「退院後すぐにや れるので入院中で良かった」「退院後は自分の事は後 回しになる」「痛みもなく受け入れやすい時期」がその 理由であった。 経腟触診による指導法で骨盤底筋の収縮の仕方は理 解できたかどうかの反応は,「お尻をしめれば良いと 思っていたがそういうことではないとわかった」「よ り実感できた」「わかりやすかった」「筋肉の使い方が わかった」等であった。経腟触診を受ける事に対して 「直接の指導」という表現で肯定的に捉えられていた。
Ⅴ.考 察
1.経腟触診による骨盤底筋訓練手順書の適切性の 検討 1)臨床において実行可能であるか 経腟触診による骨盤底筋訓練をどのタイミングで実 施するかについて,退院診察時と外来での実施を想定 した意見が出され,その際に困難が生じるとされた のは指導の場所と時間についてであった。分娩後の 女性を対象に骨盤底筋訓練プログラムへの参加に影響 を与える要因を Web 調査した先行研究によると,プ ログラム時間は 15 分以内との希望が一番多かった (Moossdorff-Steinhauser, et al. 2015)。現行のケアに取 り入れるにあたり,15 分程度であれば授乳時間に支 障をきたすこともなく,他にも保健指導を受ける機会 の多い入院中や待ち時間の長い外来において褥婦の負 担を最小限に実施出来ると考える。加えて,安心でき る場所の確保は,実施において大切な要因である。2)産褥期に適した内容であるか 産褥期に適した内容であるかについては,分娩後の 脆弱化した骨盤底筋群の状況を踏まえ,「解剖的な図 や模型の使用でイメージをつける」「収縮できない場 合の具体的指導方法」など実践者からの有益な助言を 得た。骨盤底筋訓練を行うことで,筋繊維の肥大と結 合 組 織 の 強 化 に よ り 骨 盤 内 臓 器 を 保 持 し, 運 動 ニューロンの活発化により尿禁制のメカニズムを回復 させる(Bø, 2004)が,骨盤底筋を収縮させる目的は 必ずしも筋力を増加させることだけではない。腹腔内 圧の上昇時に意識的に骨盤底筋を収縮させることで尿 道圧を強め尿道周囲の括約筋の働きを促進することが 出来る(Thompson, et al. 2003)。くしゃみ・咳・重い 物を持ち上げる等の動作の直前に骨盤底を収縮させる 習慣をつけるよう指導することで1週間後の尿失禁が 改善することが報告されており(Miller, et al. 1998), 実践者である看護師からの「筋力の強さだけでなく正 しくタイミング良く収縮できるかが大事」という意見 からも,骨盤底筋訓練指導においては,収縮のタイミ ングを指導することが有用である。 骨盤底筋訓練を指導する時期については,助産師と 医師の意見から,退院診察の際に指導することを想定 し,産褥4日目の実施とした。また,入院中に骨盤底 筋訓練の指導を行うことで,正しい収縮の仕方を早期 から学ぶことができ,入院中であるため時間的余裕を 持って指導を受けることが出来ると考えた。外科的な 筋肉損傷の標準治療としては(Järvinen, et al. 2007), 損傷直後は患部の安静が必要であるが,その後損傷部 位を徐々に動かすことにより損傷後5日目には損傷の 再生部位の毛細血管が増殖する。動かさずに固定され ていた場合はこれらの再生がみられないことから,損 傷後の患部の安静は3~5日に限定し,損傷を受けた筋 の柔軟性と強度を回復させるためには早期のリハビリ の開始が必要である,とされていることから,骨盤底 筋訓練開始の時期として適切であると考えるが,本研 究は会陰部の損傷のほとんどない対象者であったが, 会陰部の状態によっては経腟触診による指導は難しい 対象者もいること,分娩後の骨盤底筋群の損傷が外科 的な筋肉損傷の治療に一致するとは限らないことを踏 まえ,経腟触診での指導を実施するかどうかは臨床的 判断と個別性を見極めた上での対応が必要である。 尿失禁に効果的とされる適用量について,システマ ティックレビュー(Mørkved, et al. 2014)では,一般 的な筋力トレーニングの原則に沿ったプロトコールを 適用し,1 回の収縮において 6~8 秒間の持続で 8~12 回を 1 セットとし 1 日に 3 回を週 3~4 回,最低でも 8 週間の実施が必要としている。効果を出すうえでプロ トコールの遵守は重要であるが,育児に奮闘する生活 で8週間の継続は困難であることが予測される。分娩 後の骨盤底筋力が十分に回復していないとしても,収 縮のコツや感覚を実感し,必要な時にこの感覚を思い 出して実施できるように指導をしておくことで,尿失 禁を減少させ QOL の低下を防ぐことにつながると期 待できる。骨盤底筋を正しく収縮させられるかどうか と過去の骨盤底筋訓練の実施経験には有意な相関があ ることを示した先行研究(Talasz, et al. 2008)から, 骨盤底筋訓練は経験が大切である。出産後1か月健診 までの時期は分娩をした女性全員へのアプローチが可 能であり,この時期を逃すと改めて来院してもらうこ とになるため指導の機会を逸してしまう。産褥期の観 察やケアの際,母乳外来や 1 か月健診で来院した際 に,骨盤底筋訓練の方法について正しく指導を受ける 機会があれば,その後は個々の必要性に応じてセルフ ケアを行うことが出来る。 3)対象となる褥婦に不利益がないか 対象となる褥婦に対する不利益については,特に痛 みに対する配慮について潤滑油の使用について助言が 得られた。ワセリン,馬油,ココナッツオイル等の提 案があり,安全性が担保されている商品であればいず れも使用可能である。ケアを受ける褥婦が痛みを感じ ることのないように十分に配慮が必要である。 4)助産師が実施するうえでの困難はないか 泌尿生殖系の治療・看護を専門とする8名の医療職 によって,経腟触診による骨盤底筋訓練指導のための 手順書の適切性を検討した結果,助産師が実施する上 で,経腟触診に対する技術面と Oxford scale の日本語 版の解釈について困難を感じるのではないかと推察さ れた。 また,第一段階で手順書を見た助産師からの「産褥 期に内診をしたことがないのでイメージがつかない」 等の意見からも,経腟触診による骨盤底筋訓練が助産 ケアとして浸透していない事が伺えた。骨盤底筋訓練 の具体的な援助技術は,助産師教育のミニマム・リク ワイアメンツ(全国助産師教育協議会,2012)に含ま れておらず,卒後教育として学ぶ機会も少ない。助産 ケアとして教育し臨床実践に組み込んでいくために は,産科領域における骨盤底筋訓練の効果についてエ ビデンスを蓄積していく必要がある。
2.助産師が経腟触診による骨盤底筋訓練を実施し指 導法を習得するプロセス 第一段階の適切性の検討により修正した手順書を使 用し,第二段階では実際に助産師に実施してもらい, 経腟触診による骨盤底筋訓練指導法を習得するプロセ スから実行可能性を検討した。本研究に参加した助産 師は助産経験の豊富なベテラン助産師であり分娩経過 における内診の技術をすでに習得しているが,骨盤底 筋収縮の確認を目的とした経腟触診の経験はこれまで 無かったため,事前レクチャーにおいて触診の具体的 方法についての質問が聞かれた。実際の実施場面で は,経腟触診の手技自体は難しさを感じることなく実 施できた。 初回の実施が骨盤底筋収縮の出来ない対象であった 場合には最初はわかりにくいと感じるが,褥婦の収縮 状態を触覚的方法で研究者にリアルタイムに伝える方 法で評価表(表2)の補足説明を見ながら評価のすり合 わせを行う方法が有効であった。判断に迷う時は, 「筋肉の動きがあるか否か」「収縮が持続するか否か」 「指が持ち上がるかどうか」「引き込まれる感じがある かどうか」の指標を示すことにより Oxford scale で骨 盤底筋評価を行うことが出来た。 骨盤底筋訓練指導においては,実際に経験すること により骨盤底筋訓練の指導のコツを掴み,技術を習得 していた。 経腟触診の体感では,対象者からの反応から骨盤底 の収縮を実感し,短い指導時間の中での対象者の変化 を感じ取り,予想との違いや個人差を発見していた。 実践に向けた意識では,経腟触診は対象者にとって 理解しやすい有効な指導方法であると認識し,今後の ケアに取り入れたいと意識を高めていた。一方で,経 腟触診で骨盤底筋訓練を実施するための対象者の適応 について思考を発展させ,どうすればケアの一環とし て実践できるかの具体的方法の提案や意見が聞か れた。 外陰部を観察しながら膣口の内向きの動きを観察す る方法については複数の助産師から判断の材料になる と示された。外陰部の動きは肛門挙筋と表層の会陰筋 との共収縮により生じるものであり尿道閉鎖機構には 影響を及ぼさない。逆にこの動きが明確でなくても骨 盤底筋の収縮ができていることもあり,特に肥満の女 性に関しては表面上観察で判断するのは困難な場合も ある(Bø, et al. 2004)。確実に判断するためには観察 以外の方法が必要であるが,対象者の状況によっては 経腟触診が難しい状況もあり,そのようなケースでは 外陰部の観察が臨床的に有用と考える。 骨盤底筋群を収縮させる際に起こりやすい代替部位 として,腹筋群,臀筋群,股関節内転筋群の収縮が挙 げられる(谷口他,2017)ため,代替収縮の確認が必 要である。対象者が腹圧をかけると「指が押し戻され る」という助産師の言葉通り,骨盤底筋に有害な怒責 が経腟触診ではわかりやすいというのが利点である。 経腟的に骨盤底の状態を確認しながら骨盤底筋の収縮 を指導する方法は,分娩介助や乳房ケアで手の感覚を 大事にしてきた助産師の技として適合しやすい技術で あり,分娩後の繊細な心身の状態に配慮し丁寧に骨盤 底のケアに関わることは,女性の健康を支援する助産 師として必要な能力と考える。
Ⅵ.研究の限界と今後の課題
助産所で働く平均分娩介助数約300例のベテラン助 産師が対象であった。新人レベルの助産師を対象とし た調査においても同様の結果が得られるかの検証が必 要である。今回は助産所で分娩した経過が順調な褥婦 に実施したが,臨床で適用するには幅広い対象者に適 した時期や内容を考える必要があり,経腟触診を受容 できない女性に関しては,経腟触診以外の方法での骨 盤底筋訓練を検討する必要がある。今後,ケアの受け 手である褥婦からの意見も分析し,女性泌尿器科外来 の看護師や理学療法士などの意見を聞き協働と連携を 進めるとともに,骨盤底ケアに関する助産師の意識を 啓発することが課題である。Ⅶ.結 論
経腟触診による分娩後の骨盤底筋訓練の指導法を, 助産師が習得するための手順書を作成した。手順書の 適切性の検討では,実際のケア場面を想定した困難な 状況を具体的に想起した意見として,指導の場所と実 施時期,所要時間,痛みに対する配慮としての潤滑 油,等について検討され,臨床における実行可能性が 検討された。分娩後で骨盤底筋が脆弱である状態を踏 まえ,解剖的な図や模型の使用でのイメージ付け,収 縮できない場合の具体的指導方法についての助言を得 て,手順書を完成させた。完成した手順書を用いて事 前レクチャーを行い,その後研究者同席で手順書を用 いて産褥4日目の褥婦に経腟触診による骨盤底筋訓練を指導した。実施後は助産師とリフレクションを 行った。 本研究に参加した平均分娩介助件数300例程度の経 験を持つ助産師は,作成した手順書を用いて経腟触診 による骨盤底筋訓練を困難なく習得でき,実施に問題 は生じなかった。対象となった褥婦からの反応は肯定 的であった。経腟触診による分娩後の骨盤底筋訓 練は,助産ケアとして臨床で実践できることが示唆さ れた。 謝 辞 本研究にご高配,ご協力いただきました皆さまに心 より感謝申し上げます。本論文を執筆するにあたりご 指導いただきました聖路加国際大学大学院の森明子教 授,研究過程においてご助言をいただきました山梨大 学大学院の谷口珠実先生に深く感謝申し上げます。 結果の一部は第 32 回日本助産学会学術集会で発表 した。 利益相反 論文内容に関し開示すべき利益相反の事項はない。 文 献
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