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組織における収束性と多様性--管理活動の基本的構造---香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第70巻 第2号 1997年9月 63-87

組織における収束性と多様性

一一管理活動の基本的構造一一

渡 辺 敏 雄

I 序 管理論においては,組織構成員に情報を受容させていって,統一的行動を確 保していく必要がある,という思考が見られる。サイモンの研究は,管理現象 を,組織内の意思決定過程の分析を通じて科学化した。その際,かれは,組織 が,組織内の構成員の意思決定前提に影響を与えて,かれらの意思決定を一定 方向へ向かわせるというように,組織内の現象を把握することによって,意思 決定過程の分析をなしたと見られる。 サイモンによる研究が発表された後,アメリカ経営学は管理論を中心に飛躍 的な発展を遂げ,管理論の内容もさまざまな方向に展開された。そこでは,例 えば組織内の情報の受容を重視するサイモン流の方向に結局は淵源をもちつつ もリーダーシップ論が展開されていき,また例えば組織内の構成員の欲求充足 という面が刷り込まれながら作業職場の管理論的認識が深化されていった。さ らに,こうした組織内の個人や集団の管理という側面のみではなく,組織構造 の理論的ならびに実証的解明とそれに基づく管理論的提言という研究も進み, また組織のとる戦略の策定も究明されるようになった。 そうしたアメリカにおける経営学的研究におけるさまざまな潮流を見るに, それぞれの潮流が管理論の研究の範鴎に入るかどうかがその都度意識されてき たというよりは,企業の成功裡の発展やその合理的運営ないし効率的運営に第

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次的関心が及びつつ理論的研究ならびに実証的研究が行われたと見られるの である。 ( 1) Simon [1945]参照。 (2 ) アメリカにおける管理論の発展については,例えば,占部[1966],権[1984],仲回[1985]

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-64ー 香川大学経済論叢 218 管理論を中心とするアメリカにおけるこうした展開とは対照的に, ドイツの 経営学界には,伝統的に経営経済学(Betriebswirtschaftslehre)の歴史があり, そこでは必ず、しも管理論的方向が古くから根づいていたわけではない。ところ が,特に第2次大戦後,ドイツの経営学界のなかからも徐々に,管理(Fuhrung oder Management)ないし管理論(Fuhrungs-oder Managementlehre)という 言葉を表題の一部に含んだ業績が公刊され始め,今日では,そうした表題をも ち,したがって管理論的研究に包摂されると考えうる公刊物は枚挙にいとまが なしそれ故,われわれは,管理論的研究がドイツ経営学界においても主流の 1つになったと言っても過言ではない。

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こうした現代のドイツ経営学界における管理論の研究者のなかにあって,そ の方法論的な基礎づけを行うとともに,アメリカの管理論的内容を同時代的に 吸収できていると考えられる学説にウェルナー・キルシュ (Wemer Kirsch,

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-)の経営学説がある。 われわれは,本稿では,キノレシュによって展開されている管理論のうち,方 法論的な基礎づ。)の方にではなく,特に実質的内容の方に興味をいだ、れなぜ なら,かれの管理論の実質的内容の方は,上記の通り,アメリカの管理論に影 響を受けているので,それを集中的に考察することによって,われわれは,現 代的管理論の内容的骨組を明確化できると考えられるからである。 こうしてわれわれの本稿における目的は,キルシュの管理論を遇して,現代 的管理論の内容的骨組を展望し,これをもって,管理活動の基本的構造を明確 化することである。 を参照のこと。 (3 ) ドイツにおける管理論的方向の経営学的研究を紹介検討した書物に,例えば, Thom-men [1983J, Dlugos[1984J,菅家 [1988J,菅家 [1991],今野 [1978J,今野 [1991J カまある。 ( 4) Kirsch[1977J, Kirsch[1984J参照。 (5 ) キルシュは,管理論的な立場をさらに発展させ,後年,企業戦略論の研究を開始した。 かれのこうした研究については,例えば, Kirsch und Roventa[1983J, Trux et al, [1984Jを参照のこと。 (6 ) キルシュの管理論を取り上げ集中的に議論し,したがって,本稿全般に関して参照され るべき文献として,渡辺 [1995Jがある。

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219 組j織における収束性と多様性 -65ー II 基本的組織観 キルシュの説は,まずは,組織における意思決定過程論として展開された。 そこでは,文字通り,組織における意思決定過程(Entscheidungsprozessein der Organisation)の特質が論じられることとなったが,そうした議論は,かれの管 理論の内容と当然ながら密接に関係している。 意思決定過程論に窺えるかれの管理論の内容は,組織構成員の意思決定に対 して事実的な情報と価値的な情報を与えていってそれらの受容を促進し,かれ らの行動を導こうとするものである。これを簡潔に言えば,かれの説は,情報 の意思決定前提としての受容の状態の確保を目指した管理論と言えるのであっ て,こうした内容は,組織の構成員の意思決定を一定方向へ向かわせるという ように組織内の現象を把握することによって組織内の意思決定過程の分析をな した時期のサイモンの研究に淵源をもっていると考えられる。 それ故われわれは,情報の意思決定前提としての受容の状態の確保という視 点、が貫かれているということを常に念頭におき,キルシュの管理論を解釈しな ければならない。 かれが組織を見るについては,システム志向的構想と意思決定志向的構想の 両構想に影響を受けている。かれは,これらの両構想のうちシステム論的認識 からは,超安定性(Ultrastabilitat)という概念を自らの思考に導入することと なるが,これは組織が開放的であることに関連しでもつべき特質と目される。 すなわち,超安定性は,環境からの妨害に対して均衡状態を維持する補償的 フィードパックの能力をもちあわせ,かつ元の均衡状態に戻れないような妨害 が発生した場合には,その構造を飛躍的に変化させることによって変化した環 境に適応しうることを意味する。 ( 7) Kirsch [1971J参照。 (8 ) キlレシュにおけるシステム志向的構想と窓思決定志向的構想の意味については,渡辺 [1995J,第l章参照。

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-66 香川大学経済論議‘ 220 この能力は,状態としての組織と状態としての環境との適応関係について 言ったものである。これに対して,情報の意思決定前提としての受容の状態の 確保を重視する思考が含まれる意思決定志向的構想は,状態へ志向するのでは なしむしろ過程へ志向すると考えられるので,こうした超安定性概念がもち こんだ組織の特性とは最初から平行線を辿るのみのように見なされうる。 キノレシュの見解における意思決定志向的構想は,意思決定過程の特質の指摘 にあらわれた。かれの見解によれば,組織内の意思決定は,中核集団 (Kern四 gruppe)と衛星集団(Satellitengruppe)の影響の与え合いのなかから形成され る。ある意思決定に権威づけの権限をもっ中核集団に対して,確かに権威づけ の権限はもたないものの影響を行使しようとする集団としての衛星集団が, 諸々の要求を提出し,これを中核集団がさまざまに考慮して意思決定の結論に 導くのである。 組織内の意思決定過程のこうした構図を前提すると,第

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に,最初に意思決 定が行われる際に,第2に,それの解釈が行われなければならない際に,第 3 に,いったん行われた解釈にしたがって行動が起こされた後にも葛藤の余地が ありそれを調整しなければならない際に,交渉の余地が発生しうるということ になる。そしてこの交渉は,組織と個人の双方から見て,それぞれの意味で都 合の良いように進められていくものであるから,そのうち組織の観点を選択す れば,交渉の場面は,価値的情報ならびに事実的情報が組織構成員に刷り込ま れていくよう試みが行われる場面であると言えるのである。 こうした構図には,特定の組織観があらわれているのである。つまり,最初 から完全に規定された組織目標があり,それが解釈の余地なく存在し,それが 下位に伝達される際にも組織構成員が完全にそれに従属するという像の否定が そこにはあらわれていると見なされるのである。 III 組織的理想状態としての収束性と多様性 最初から完全に規定された組織目標があり,それが解釈の余地なく存在し,

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67ー 組織における収束性と多様性 221 それが下位に伝達される際にも組織構成員が完全にそれに従属するとい また, う像の否定には,逆に,組織に関する一種の理想像があらわれている。 その理想像の要素が,まずは行為能力(Handlungsfahigkeit)の実現である。ま たさらに,行為能力の概念に導く 2つの変数として,感受性(Empfanglichkeit)と 認識進歩能力(Fahigkeitzur Erkenntnisfortschritt)が考えられている。 行為能力,感受性,認識進歩能力というこれら3つの要素から成るのが, ルシュの考える進歩能力のある組織(fortschrittsfahigeOrganisation)であり, かれは進歩能力のある組織の実現にこそ組織の理想像を見ているのである。 こでわれわれはこうした理想像としての進歩能力のある組織の概念の内容を以 下で窺いたい。 キ そ かれの意思決 進歩能力のある組織の3つの要素のうち第1の行為能力には, 定過程論の構想が受け継がれ,

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その能力は,意思決定を行い結論にまで導くこ とと,出された結論を影響を受ける人々に受容してもらうということから構成 そ それが下位に伝達される際にも組織構成員が完全 にそれに従属するという像の否定には,逆に,組織に関する一種の理想像があ と言ったが,行為能力にそれがあらわれていると解されるべき こうした意味の像の否定によって,組織構成員に情報を受 まさにその必要性とそれに関する理想像を言ってい される。われわれが,上記で,最初から完全に規定された組織目標があり, れが解釈の余地なく存在し, らわれている, である。なぜなら, 容させる必要性が発生し, るのが行為能力だからである。 進歩能力のある紅織の3つの要素のうち第2の感受性には,複数の欲求を意 思決定の結論に取り入れるという意味があり, 決定を結論に導くというのではなく, ここには単に少数の人々で意思 より広く欲求を意思決定の結論に取り入 れるという理想を実現する意欲が込められている。感受性をもつことによる長 (9 ) 組織能力については.Kirsch[1976J参照。 (10) キルシュの見解における組織能力については,渡辺 [1995J.第5章参照。 (ll) キルシュが,意思決定過程の結果に複数の欲求を取り入れるという意味の感受性を自 らの思考に取り込むに至ったのは,かれ自身も言うように.Etzioni[1968 Jによる影響が 大きい。

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-68ー 香川大学経済論叢 222 所は,欲求に対する門戸を聞き複数の人々を導入しかれらがもっところの複数 の価値観に基づく多面的な見方を汲み取ることであると解される。 そして,われわれの見解によるならば,より広く欲求を意思決定の結論に取 り入れるという理想を実現する方法については,単に意思決定過程から閉め出 された人々の欲求を内部から調査するという方法よりも意思決定過程に直接広 い範囲の人々を導き入れるという参加

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の方法が考えられる。 また,参加によって複数の人々が意J思決定過程に折角入ってきても,かれら が同じ欲求しかもち合わせていなければ,参加の意味がなく,ひいては感受性 も達成されないのである。なぜなら,上述のように,感受性をもつことによる 長所は,複数の価値観に基づく多面的な見方を汲み取るということにあると解 される故に,こうした意味における感受性をもつことによる長所が有意味にそ の機能を発揮するためには,手掛哉内に余りに完壁な欲求の一致ができていると いうことはかえって妨げになり,むしろ適切に欲求が分散していることが必要 であると考えられるからなのである。 さて,こうした意味での感受性と上述の行為能力,すなわち意思決定を行い 結論にまで導き,出た結論を影響を受ける人々に受容してもらうという能力と の関連をわれわれは考えてみよう。 われわれの見解によれば,一方では,感受性を高めることは,欲求に対する 門戸を聞き複数の人々を導入することを意味し,複数の人々の導入は意思決定 過程の複雑性が増す故に,意思決定過程を結論に導くという側面に関しては, 感受性を高めることは阻害要因になる。ところが他方では,感受性を高めるこ とは,複数の人々の導入によるかれらの欲求の汲み取りをなしているが故に, いったん出された結論を影響を受ける人々に受容してもらうという側面に関し ては,感受性を高めることは促進要因になる。 感受性を高めることの長所を享受したいという前提に立つ組織としては,意 思決定過程の複雑性が増しでもそのことによる行為能力上の困難を克服しなが ら感受性をもつことの利益を受け取ろうとするであろう。そうだとするならば, 感受性は,参加によって複数の欲求を表明する人々が入ってきた場合にも,見

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-69-組織における収束性と多様性 223 その重要な前 ここにわれわれは,参加によって複数の欲求を表明する人々が意思決定過程 に入ってきた場合に見解の取りまとめをつける能力としての「合意形成能力」 とも言うべき新たな能力の存在とその意義の重要性を指摘できるのである。合 解の取りまとめができて結論を見ることができるということを, 提とするのである。 意形成能力の存在とその程度に応じて,組織は,欲求に対する門戸の聞き方を このことによって人々を導入する程度を調節するのである。 この意味において合意形成能力は,組織にとって

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つ 調節し, われわれの見解では, の鍵となる能力である。 進歩能力のある組織の3つの要素のうち第3の認識進歩能力には,組織内に おげる事実的な情報が刷新されうるという意味がある。こうした意味での認識 進歩能力の実現のための原動力は,批判 (Kritik)が組織内に起こることである。 批判が抑制され阻害されてしまう場合としては,権力過程 (Machtprozeβ)が発 u v i f t t i -9 十 f l i p -f f t y g -﹄ ii 生する場合と組織内に合意 (Konsens)が存在する場合が考えられる。そして,批 判が抑制され阻害されてしまうこうした場合を指摘することによって,われわ れは,認識進歩能力と感受性との聞に存在する次のような関連の存在に気づく のである。 という関連で つまり,感受性が存在するならば,認識進歩能力も存在する, この関連成立の根拠は次のようである。 感受性の存在は,組織内に欲求が単一化しているのではなく分散しているこ とを前提とし,また感受性の存在は組織内の合意形成能力を前提としているこ ある。 それはひ このことを前提とするのならば, とをわれわれはここに想起しよう。 とり感受性の実現に有効に作用する条件であるばかりではなく,認識進歩能力 つまり批判が組織内に湧き起こってくることにもつ の条件が確保されること, ながるのである。なぜなら,組織内に合意がある場合ならびに,比較的大きな (12) エツィオニもまた,われわれがその存在と意義をここで指摘している合意形成能力に 棺当する概念を,社会的合意(societalconsensus)として重視し議論している(Etzioni [1968J. part four)

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-70- 香川大学経済論叢 224 不合意がありかつ権力過程に基づいて意見が貫徹されるという土壌がある場合 には,そもそも認識進歩能力の原動力たる批判が抑制されるのであって,これ とは対照的に,比較的大きな不合意がありかっ合意形成能力がある場合すなわ ち感受性がある場合に,認識進歩能力が確保されると考えられるからなのであ る。さらにこの関連を敷桁すれば,一方において,組織内に比較的大きな不合 意があれば,事実的情報に関する分散状態が用意され,他方において,そのう えに組織内に合意形成能力があれば,事実的情報に関する分散状態からも取り まとめができるという状態が確保されるということがそこでは言われているこ ととなるのである。つまり,感受性の存在が認識進歩能力に導くという関連が ここに成立するのである。 行為能力,感受性,認識進歩能力という進歩能力のある組織の3つの要素の 内容を見るに,われわれは,一方で,意思決定を駆り立てて結論を取りまとめ るということが重視されていることとならんで,他方で,複数の欲求ならびに 複数の事実的情報が意思決定の結果に吸収されるということが重視されている ことを理解しうるのである。 重視されているこれら両者のうち前者の関心については,それが意思決定を 駆り立てるということであることから,われわれはこれを促進

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の 関心であると言いうるであろう。また,後者の関心については,複数の欲求な らびに複数の事実的情報が意思決定の結果に吸収されるということが,意思決 定が生み出す問題解決の内容的な質を高めることに貢献するものであると解さ れ,これはひいては,組織を環境によりよく適応させ生存を確保することに貢 献するものであると解されうる故に,われわれはこれを対応

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の 関心と言いうるであろう。 われわれのこうした解釈を踏まえるならば,組織の管理活動をなす立場から 見た関心には,一方で促進の関心と,他方で対応の関心とがあるということが 理解されうるのであり,このことを踏まえて進歩能力のある組織の実体につい て図示すれば図1のようになるだろう。

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-71-組織における収束性と多様性

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認 識 進 歩 能 力 図1.進歩能力のある組織の実体 一方において,欲求に対する門戸を聞き,複数の人々を導入しかれ らがもっ複数の価値観に基づく多面的な見方を汲み取り,また事実的情報を集 めることができると同時に,他方において,導入された複数の人々の見解を取

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225 つまり, りまとめ結論にまでもち込めるような状態を形作ることが組織にとっては理想 となるのである。さらにそのためには,一方において,組織内部の状態につき, 事実的認識の確保にも導く,価値観につき分散状態あるいは多様な状態を酒養 するとともに,他方において,複数の欲求をもっ人々が入ってきたときに意思 決定過程を結論にまで導くための合意形成能力を酒養するという

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つの面を, 普段から組織的準備状態として実現することが問題となるのである。 組織的理想状態とその実現政策の体系

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こうした組織的理想状 われわれは前節で組織的理想状態の内容を窺ったが, それ故何故に理想と見なされうるのだろう われわれは,組織的理想状態のうち,特に対応の方を敷街しながらこのこと の議論をしたい。 態はそもそも何故に効力を発揮し, か。 とにかく組織と環境との対応という程度にしか理解さ 上述では,対応とは, れなかった。だが,対応とは,問題の解決の質に関することであるということ むしろより限定して,対応とは, 一方における問題 キルシュの見解における対応については,渡辺 [1995J,第6章参照。 は上述の通りである故に, (13)

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-72- 香川大学経済論叢 226 と,他方におけるこれを解決するシステムの適合関係のことなのである。 つまりわれわれの描いている組織の像では,組織は,環境から問題を認知し て,それを解決するために組織内に解決システムを形作る。その際の解決され るべき問題と解決するべき解決システムとの何らかの特質の適合関係が存在す る場合に,すなわち対応が存在する場合に,認知された問題に対して質の高い 解決が保証されるとわれわれは考えているのである。 それでは対応を語る場合の適合関係において問題となる,解決されるべき問 題と解決するべき解決システムとの何らかの特質とは何か。 その点に関しては,われわれの解釈によれば,組織は r複雑性」を重視する と解される。つまり,組織は,解決されるべき問題の複雑性と解決するべき解 決システムの複雑性との適合関係を形作ろうとすると解されうるのである。 対応はこのようであるとして,次に,その際の「問題」とは一体何を示して し〉るカ〉。 組織にとって問題とは,処理されるべき問題全てのことであるが,キ1レシュ の研究から示唆を受けているわれわれとしては,かれの研究を参照しながら問 題の意味をより限定していきたい。 上述のように,対応とは,解決されるべき問題と解決するべき解決システム の特質の適合のことを指し示すと解されたが,この解釈によると,解決システ ムとは,組織全体ではなくてその部分に形作られたものである。ここでわれわ れは,キルシュが,組織の形態をある形態から別の形態へと変更するという過 程についての経験的分析ならびに理論的分析を門下の研究者と押し進めたこと を想起したい。そうした形で研究を進めたかれにとっては,解決システムは特 別の問題を解決するための集団であると解され,その解決の対象は,組織の形 態を別の形態に変更するという組織変更(Reorganisation,Wandel von Or -ganisation)の問題であり,われわれも問題についてのこの解釈に基づきたいの (14) キルシュの見解における対応の概念の意味については, Kirsch[1978J参照。 (15) キルシュが紙織変更の過程について門下の研究者と共同でなした研究の成果として, Kirsch et al [1978J, Esser et aL [1979J, Kirsch et al 日979Jなどが挙げられる。

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227 組織における収束性と多様性 73-である。 問題の意味の限定はこのようであるとして,次に,解決システムの開放的特 質についてわれわれは取り上げたい。 われわれの見解によれば,解決システムは何ものからも切り離されたもので あるどころか,かえって,その他の影響要因のもとにあり,またその限りで解 決システムの特性は,そうした影響要因によって左右されうるのである。この 解釈に基づきながら,われわれは解決システムの特性に対する影響要因につい て議論したい。 その際われわれは,解決システムの特性の影響要因としては組織構造

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-ganisa ti onsstruktur)を考えている。解決システムの特性の影響要因としては 組織構造が挙げられるというこの指摘は,もちろん決してわれわれの思い付き などではなく,むしろ,キルシュの以下のような思考の枠組のなかから得られ た示唆なのである。 キ1レシュは,解決システムの特性に影響する組織内の特性として弾力性 (Flexibilitat)を考えているのである。 つまり,かれの見解によれば,組織が弾力性という特性をもつならば,それ が影響要因となって解決システムの特性に影響が及ぶのである。そしてさらに その弾力性の形成に関する影響要因があり,それが,経営学的研究において組 織構造として触れられているものに相当すると考えられるのである。こうした 事情がある故に,われわれは,解決システムの特性の影響要因として組織構造 を指摘したのである。 われわれは,組織構造から解決システムの特性への影響を先取りして議論し たが,ここで,組織構造から解決システムの特性への影響の経路をより微細に 窺うならば,その経路は,組織構造から組織の特性への影響の経路と,組織の 特性から解決システムの特性への影響の経路,という 2つの経路に分割され「組 織構造→組織の特性→解決システムの特性」という経路を考えることができる (16) 組織構造を解決システムの影響要因として位置づけるという解釈については, Kirsch et aI [1979J参照。

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-74- 香川大学経済論叢 228 のである。 「組織構造→組織の特性→解決システムの特性」というそうした経路にあら われる解決システムの特性としては,われわれが先に窺った組織的理想状態の 内容を想起する必要がある。 その際,そうした組織的理想状態として,一方において,組織内部の状態に つき,事実的認識の確保にも導く,価値観につき分散状態あるいは多様な状態 を酒養するとともに,他方において,複数の欲求をもっ人々が入ってきたとき に意思決定過程を結論にまで導くための合意形成能力を瓶養するという 2つの 面を,普段から組織的準備状態として実現することが考えられたのである。 ここで,上述でも触れられたように,組織の特性としては弾力性が考えられ ていることをわれわれは想起しよう。われわれの解釈では,弾力性の到達する 効果は,これらの

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つの面のうち,前者すなわち,組織内部の状態につき,事 実的認識の確保にも導く,価値観につき分散状態あるいは多様な状態を酒養す るということであると解され,その限りで弾力性はそうした事態に導く要因で あると解される。 組織内部の状態につき,事実的認識の確保にも導く,価値観につき分散状態 あるいは多様な状態を酒養するということが「多様性をもたらす」ことに相当 することをわれわれがさらに想起すると,組織構造から組織の特性への経路, 組織の特性から解決システムの特性への経路,という

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つの経路に分割した形 で考えられた上述の影響の経路は,組織構造から弾力性への経路,弾力性から 多様性への経路,という形で約言されうるのである。 われわれは,組織構造の特性と解決システムの特性との関連についての論述 に関してさらに次の点にも注意を払うべきであることに気づく。 その点、とは,組織の処理するべき問題の種類とそれにかかわる解決システム (17) 今後の課題として,弾力性なる概念を精微化する必要がある。そのために,われわれが 弾力性と称しているものを精級化しようとする際には,組織変更の過程をより詳細に把 握し,組織変更の際にどのような問題が発生しどのような意味で組織の特性がそれらの 問題の解決に貢献するのかということと併行的に考察を進めながら弾力性の概念の内容 を詰めていく必要を感じる。

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] 229 組織における収束性と多様性 -75-の境界についてである。 市場経済体制における私企業を例にとると,それは言うまでもなく,市場に 囲まれながらそこにおける需要についての自律的判断をなしてそのうえで財と 自 由 用役の供給活動を行うのであって,企業のそうした行動の結果がまた市場で判 定されるのである。ここに言う財と用役の供給活動こそ,私企業が日常的に果 たしていくべき課題であることについては賛言を要さないであろう。私企業の こうした例から判断するに,組織はそれが日常的に果たすべき第

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次的な課題 をもっていると解されうる。われわれは,こうした課題を,日常業務的問題と 呼んでおこう。 ところで,われわれの解釈によれば,組織は必ずしもこうした意味での日常 業務的問題の解決のみをなしているわけでもないし,その解決をなしておれば 十分であるということでもない。つまり,組織に発生する問題は,必ずしもこ うした意味での日常業務的問題であるのみならず,かえって組織は,臨時的で はあるが組織にとっては重要な任務をなす問題の解決をなしていく必要にも迫 られるのである。 われわれは,臨時的ではあるが組織にとっては重要な任務をなす問題の最た るもののlつとして,キノレシュも触れている,組織の形態を別の形態に変更す るという組織変更の問題を考えている。われわれは組織の形態の変更を内容と する,臨時的ではあるが組織にとっては重要な任務をなすそうした問題を,組 織革新的問題と呼んでおこう。 このような事態を踏まえるならば,組織は,一方で,日常業務的問題を解決 しなければならないとともに,他方で,組織革新的問題を解決しなければなら ないのである。 このうち,われわれが上記でも確認したように,日常業務的問題の解決こそ 「先にありき」問題として組織に解決を迫るのである。 (18) 田島 [1984J 参照。 (19) われわれが言う組織革新的問題は,組織理論のなかでは,組織変動の問題として取り上 げられている。組織変動についての税想の紹介整理について民例えば,野中・加護野・ 小松・奥村・坂下 [1978J,第 7章組織変動,参照。

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76- 香川大学経済論叢 230 それ故,組織革新的問題の解決による組織形態の変更の達成もまた日常業務 的問題の有効な解決にその効果があらわれてこそ,はじめてその意味をもっと 解されざるをえないのである。 また,日常業務的問題と紙織革新的問題というこれら両者の問題が意味のう えで相互に異なるという事態は,それらそれぞれを解決する解決システムもま た異なるということをあらわすのである。つまり,組織革新的問題に関しては, その問題の克服のために組織内で形成される問題解決の集団が解決システムで あるが,日常業務的問題に関しては,組織全体がその解決システムであると考 えられる。 上記において,組織の処理するべき問題の種類とそれにかかわる解決システ ムの境界について注意が払われるべきであるとわれわれが指摘したのはこのこ じつまり,組織の処理するべき問題の種類が異なれば,それにかかわる解決 システムの境界も異なるという事情があるからなのである。 組織の処理するべき問題の種類が異なれば,それにかかわる解決システムの 境界も異なるというこうした事情を通じて,さらに,それぞれの解決システム の特性に影響する組織構造もまた異なる可能性をもっと考えられるのである。 つまり,紙織革新的問題の解決システムの特性に対してもっている組出掛藷造 の意味は,日常業務的問題の解決をなす解決システムの特性に対してもってい る意味と異なりうるのである。 われわれはここで,一方で,日常業務的問題と組織革新的問題とは相異なる ものであり,他方で,前者が優先的に解決を迫られているという事情を想起す るならば,まず第

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に考慮するべきは,日常業務的問題の解決に助長の効果を もっ組織構造を形成することなのである。次に第 2に考慮するべきは,そうし た組織構造のなかで組織革新的問題の解決にも助長的な効果をもつものを探求 のうえ選択していくことなのであり,こうした

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段階の考慮こそ組織の管理の 課題とならざるをえないのである。 そして,組織革新的問題の解決にも助長的な効果をもっ組織の特性の内容的 側面について触れるならば,それに関する考察が未だに萌芽的であるものの,

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-77-組織における収束性と多様性 231 組織が弾力性

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をもつことであると解されたのである。 まず想起されることは,弾力性をもっこ このことを前提に考察を進めよう。 とこ 日常業務的問題の解決につき低品質の解決しかなすことのできない 組織が問題の解決の質を高める方途を組織変更をなす方向に求めるしかないの ならば,弾力性をもつことが現段階での日常業務的問題の解決の阻害になろう とも,組織変更をいったん行ってその後の日常業務的問題の解決により高い品 質が生まれるという希望を託す場合も考えうるのである。 このような場合を考えるのならば,組織は常にある程度の弾力性をもってい とが日常業務的問題の解決の阻害になってはならないということである。 ろが反面, て,組織変更の必要性を認識した場合にその必要性に実際に対処できるように 1つの施策として考えられるのである。 その際の問題は,上記でも触れたように, 日常業務的問題の解決の阻害となりうるのではないかということである。同じ く日常業務的問題の解決といっても, ある程度の弾力性をもつことが, しておくことが, それを要請する環境とのかかわりでその 特性を区別し, る組織構造を区別して考える必要があり,そのうえで,そうした日常業務的問 題の解決を促進する組織構造と,組織革新的問題の解決を促進する紙織構造と の両立関係あるいは競合関係を探求する必要をわれわれは感じる。 さらに特性のうえで区別された日常業務的問題の解決を促進す 守 色ー しかし, の点、を含めて克服されるべきこれ以外の問題については,われわれは第

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節「成 果と今後の課題」の部分において触れることとして議論を先に進めたい。 さて,先にも確認したように,組織的理想状態としては,一方において,組 織内部の状態につき,事実的認識の確保にも導く,価値観につき分散状態ある いは多様な状態を酒養するとともに,他方において,複数の欲求をもっ人々が 入ってきたときに意思決定過程を結論にまで導くための合意形成能力を酒養す 普段から組織的準備状態として実現することが考えられ を 面 の

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る う あ い で と の る た このうち前者の,多様性をもたらすこと 収束性と多様性の実現政策については,渡辺 [1995J,第7章参照。 何度も触れたように,組織構造は, (20)

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78- 香川大学経済論叢 232 に関連したのである。 ところでそうした組織的理想状態には, 前者の多様性をもたらすこととなら んで,後者の,複数の欲求をもっ人々が入ってきたときに意思決定過程を結論 にまで導くための合意形成能力を酒養するという面が含まれている。われわれ の解釈によれば, このことは,収束性をもたらすことであると解されうる。こ の事態を前提するのならば,収束性をもたらすことに関連する政策も当然存在 するのである。 こうした政策は何かを追求する際にまず最初に念頭におかなければならない のは,感受性ならびに認識進歩能力がその本来の有効性を発揮することとなら んで,意思決定過程は取りまとめられなければならないという事情があったこ とである。 そして,多様な欲求ならびに多様な事実的情報に関する見解が存在 する状態のなかから, 一方でそれらを有効に吸収しながらも,他方で意思決定 過程を結論にまでもち込むという,両方の事態の実現が必要であり,意思決定 過程を結論にまでもち込むという後者の事態が今まさに問題となっている収束 性をもたらすことと関連するわけである。 さらにまた,収束性をもたらすこととの関連で上述で重要な事態として触れ られたのは組織内に合意形成能力をもたらすことなのである。 すなわち, 合意形成能力こそ,多様な欲求に基づく価値観ならびに事実上の 見解が意思決定過程で表明される可能性があるにもかかわらず, これに一定の 枠をかけ,欲求ならびに事実的情報の分散の存在のなかからも結論に導く力が 組織内の構成員にそなわっていることを示すものなのである。 そうした事情であるから,収束性をもたらすことに関連する政策も当然存在 するはずであるというわれわれの先の指摘は, より詳しくは, 合意形成能力を 酒養することに導く政策が存在するはずでトあるというように換言できる。 こう してわれわれは合意形成能力との関連で政策を指摘せざるをえなくなったわけ であるが,そうした政策としては,われわれは各種の社会的技術(Sozial-Tech -nologie)を想起しうるのである。 なぜなら, われわれの見解によるならば,社会的技術の直接の目的は,組織

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233 組織における収束性と多様性 -79ー 内の人々を実践的な組織的状況に当てはめて,そのことによってかれらにおけ る状況の学習とそこへの習熟化をはかることであるとまずは考えられるからで ある。さらにこうした直接的目的を通じて社会的技術の効果として達成されう ると考えられるものは,簡潔にも,組織内の人々の忠誠心をもたらすことであ ると考えられるからなのである。この理由によってわれわれは,合意形成能力 をもたらす政策としては社会的技術を考えているのである。 収束性と多様性に導く要因を試みに図示すれば,図2のようになるだろう。

山一トフ回

争│弾力性│

2

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管理論における政策論の体系 V 成果と今後の課題 管理とは何か。 管理活動についての枝葉的特質ではなく,本質的特質を明確にすることが本 稿の目的である。 そうした特質は 2つの要素に還元される。 第lは,組織の目指すものならびに組織がなしている事実認識を組織内の構 成員の間で共通のものとしていくことである。この事態は,組織が構成員の諸 力をまとめて協働作業に仕立て上げ社会的な財を生産していくためにまずは欠 くべからざる特性である。組織の統一性確保の要素とも言いうるこうした活動 は,組織に収束性をもたらすことを目的としているのである。 第2は,環境のなかで生き抜くために組織内の考え方に分散をもたらすこと (21) われわれの言う社会的技術を組織変更との関連で,紹介し検討した研究に, HiIl et al [1976]がある。

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香川大学経済論叢 234 である。組織が環境の変化と共にそのなかで生存していくためには変化した環 境に即応した意思決定が必要になることは言うまでもないことであり,環境適 応的意思決定の質を確保するためには組織内の考えを分散しておく必要がある のである。組織内の構成員の考え方に分散をもたらすこうした活動は,組織内 に多様性をもたらすことを目的としているのである。 収束性と多様性の実現をなすことが管理の基本的活動になると考えられるの であり, われわれはそれらの実現に向かう政策をも考察したのである。 収束性と多様性の 2つの要素はその特質として相互に矛盾し相反するもので もある。であるから安易に両者を実現することが管理の理想的姿であると結論 づけるわけにはいかないのである。そこでこの点を巡って敷街して,今後の課 題としたい。 その際, われわれは収束性をもちながらも多様性を組織にもたらすという思 考の経路で考えることとしたい。 問題は,収束性の存在のうえにある程度の弾力性をもつことが, その都度の 日常業務的問題の解決の阻害となりうるのではないかということであった。 ここでわれわれが注意しなければならないのは,環境との関係あるいは環境 との対応と言っている際に,対応していると考えられているのは r現在とられ ている」組織内特性と「現在取り固まれている」環境との関連であって, 「次に とるべき将来的な組織形態を生み出しやすい」組織内特性と「現在取り固まれ ている」環境との関連ではないということである。 われわれは, 日常業務的問題を処理しやすい組織内特性と,組織革新的業務 すなわち組織変更をなしやすい組織内特性との区別をしているのである。この 区別をなしたうえでは, この点に関する組織の理想的な姿は,組織が組織変更 の必要を感じ次の組織形態への移行を思い立った際に,組織変更をなしやすい 組織内特性をもっているという状態である。 ω) われわれはここでトンプソン(J..D.. Thompson)の枠組を用いて話を進めよ う。 (22) Thompson [1967J, chap6参照。

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235 組織における収束性と多様性 -81 かれの見解では,環境は,等質的(homo)か異質的(hetero)かという次元と安 定的(stable)か動態的(shifting)かという次元の2つによって把握されている。 われわれの言う弾力性をもっということが多様性を与えることと関連してい るとするのならば,環境の分類のうちでは環境が動態化して組織が分権化する ということが一応,組織の内部に多様性を与えると考えられる。これに対して 等質的か異質的かという環境の尺度は,もちろん安定的か動態的かとは違うも う一方の次元である。 この事態を踏まえると,われわれの問題は,組織が動態的ではない環境のも とにあるとすれば,そこにおいて組織が弾力性の形成を欲したとして,動態的 な環境に適合した組織構造を導入することができるのであろうか,ということ である。また組織がそうした組織構造を導入してしまったとして,今度は,動 態的ではない環境のもとでの組織による日常業務的問題の処理が回害されない

ω

のであろうか,ということである。 トンプソンの枠組は,完成した組織構造と環境との関係について思考をした のである。これに対してわれわれの枠組は, トンプソンの枠組に時間と過程を 入れて,示品織が環境の特性上区別されるセルの聞を移動するという観点から思 考をしているのである。このことを前提すると,われわれの問題意識は,次の ように言えるのである。組織が,ある組織構造から別の組織構造へ行く際には, ないしわれわれの言い方ではある組織形態から別の組織形態へ行く際には,元 の組織構造あるいは組織形態を新たな別の組織構造あるいは組織形態へと変更 しなければならない。その際には,組織形態を変更するというこうした問題の 解決を容易にするための組織内特性というものがあるというのがわれわれの見 解である。 目 品 今, トンプソンの示す図にわれわれの問題意識を加筆した図3を見ょう。環 境が安定的かつ等質的である点から出発するとして,この地点からの移動の方 (23) より広く考えて,組織構造としての分権化だけが弾力性に関連しているのかを考察し, 組織構造の特質のなかで,分権化以外で弾力性と関連しているものがあればそれを投入 するということも検討課題として考えられる。 (24) Thompson [1967], p 72

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82 香 川 大 学 経 済 論 叢 236 向としては論理的に,水平右方向,垂直下方向,斜め右下方向の3方向の移動 を考えうる。環境が安定的なもとにある組織にとって,すなわち環境が動態化 して組織が分権化していなしユ組織にとって,いったい組織変更を容易に解決す る弾力性をどのようにして得るかが問題なのである。移動後のセルの環境が動 態的な特性をもち,その意味では組織内に将来的には弾力性が生まれることが 予想される移動方向(水平右方向ならびに斜め右下方向の移動)でも, この問題 は発生するし,また移動後のセルの環境がそもそも動態的な特性をもたないで, その意味では組織内に将来的にも弾力性が生まれる可能性がないことが予想さ れる移動(垂直下方向の移動)では, この問題は解決がより困難になることは想 像に難くない。 安定的 動態的 等質的 異質的 図

3

.

環境の分類と組織の移動方向 われわれの問題を約言すれば次のようになる。 第

1

に,これらの前者の移動の場合には,弾力性なる特性をそれを育成する 組織構造が作られる以前にもちうるのか,ということであり,後者の移動の場 合には弾力性なる特性をそれを育成する組織構造がそもそも作られないもとで もちうるのか,ということである。 第2に,前者ならびに後者のどの移動においても一般に,弾力性を育成する のは組織構造しか考えられないのかそれとも弾力性を育成できる別の組織内特 性がありうるのかということである。すなわち弾力性育成に関して組織構造の 機能的等価物は存在するのか,そしてそれはまた組織構造よりは短期的に形成 と消去が可能だという意味で操作可能性が高いのかどうかということである。 第3に, これも一般にどの移動でも,組織変更のために弾力性という特性が

(21)

237 組織における収束性と多様性 83-育成する組織内特性が,各セルに存在する組織の日常業務的問題の解決を阻害 しないようにするということである。 以上は弾力性について,問題をまとめてきたのであるが,ここで弾力性と対 をなす合意形成能力の存在を想起しよう。 今までわれわれは暗黙のうちに,組織には既に合意形成能力がそなわってお り,そのうえに弾力性を育成するのはどのようにするのか,という問題設定を とってきた。 ところが,多様性と収束性は矛盾するという前提から出発するならば,多様 性につながっている弾力性を育成することに成功すればするほど,収束性につ ながっている合意形成能力は弱体化することとなる。 こうした関連を踏まえるならば,収束性を実現した土壌に如何に多様性をも たらすのかという問題設定が管理の問題として重要になる。つまり収束性の中 にもそれ相応の多様性をもたらしていくことが問題になるのである。 ただし,われわれの見解によるならば,収束性のなかに多様性をもたらすこ とを i結束性をもっ建設的多様'1生J,i健全なる野党性をもった組織構成員の育 成」と言い換えてみたところで,それは単なる言葉の遊戯でしかなく直感的理 解にしか役に立たない。 それ故,組織変更の問題解決を容易にするために多様性につながっている弾 力性を育成することに成功すればするほど,収束性につながっている合意形成 能力は弱体化するという事態を踏まえて,われわれが発見し摘出した「合意形 成能力」から思考を開始して,組織のもっている合意形成能力の範囲内で多様 性の限度が決定されるという事態を直視することが,組織の政策上重要となっ てくるのである。 つまり,われわれは,当初は収束性をもちながらも多様性を組織にもたらす という思考の経路で問題を設定した。稿を進めるにしたがって,この問題設定 は,まず第lに,組織における「合意形成能力」の存在を前提し,次に第2に, 組織が育成できた合意形成能力の範囲内で,上記の

3

点にまとめられる組織変 更の問題の解決を容易にする弾力性育成のための組織内特性を考えるという経

(22)

-84- 香川大学経済論叢 238 路として浮かび、上がってきたのである。 そしてこの経路は,管理の基本的課題に関する本稿の根幹部の論理から帰結 する

1

つの結論めいたものである。 そうだとするとさらに普段から組織がその組織なりの「合意形成能力」の酒 養に努めることが管理の課題とされる。ただし合意形成能力という特性を議論 の対象とする際には,合意形成能力のそなわった組織内特性とは何かをより具 体的に問うことがもちろん直ちに問題になる。換言すれば,多様性の水準が上 がってきた組織内で意思決定が行われたときに,組織構成員の聞の見解の相違 は発現しながらも最後には諸々の見解が1つのまとまりある決定として収束す

i

るという組織内特性とは一体どのようなものであるかについて,具体的に追求 する必要があるのである。そのうえで,合意形成能力を育成する政策はなにか を追求する必要がある。そしてこれらの追求は今後の課題となるのである。

V

I

結 管理活動の基本的特質を探った結果,われわれは簡潔に次のように言える。 組織のなかに統一性をもたらし一定の方向へ組織を導いていくことがまずは 需品識の管理の基本的活動であった。組織構成員に対して価値や事実を刷り込ん でいくことがこの方向の努力として見られる。この活動は,われわれの位置づ けでは組織のなかの意思決定を円滑に促進することに貢献するものであると解 されうる。経営管理論の歴史のうちで対人的な管理論の流れはこうした事態を いかに実現するのかについての理論的実証的な研究の歴史であったと理解され うる。 さらにそうした活動のみならず組織構成員の考え方に分散性をもたらすこと がもうひとつの管理の基本的活動であった。この活動は,われわれの位置づけ では組織が環境のなかで,意思決定が生み出す問題解決の内容的な質を高める ことに貢献するものであると解され,これはひいては,組織を環境によりよく 対応させ存続を確保することに貢献するものであると解されうる。対応、なる事

(23)

239 組織における収束性と多様性 -85-態は,組織理論の歴史のうちでは組織構造論として取り上げられている。環境 との関連で機能的な組織構造はどのような特質をもつのかというのがその際の 問題意識のように解されうる。われわれは,組織構造と環境との関連を,いっ たんは問題の特質と組織構成員のもつ多様性との関連に組み替えて,さらにそ のうえで組織構成員の多様性をもたらすこととの関連で組織構造の機能を考察 することのうちにこそ管理論の本質にせまる組織構造の位置づけができるもの と見た。われわれは,組織構成員の特性という一種の微視的な現象と,環境対 組織構造という一種の巨視的な現象とのわれわれなりの連結を作ったと言いう るであろう。 われわれは,こうして促進と対応,または収束性と多様性を組織内にもたら すことこそ管理の基本的活動であることを窺い知ったのである。そして,収束 性と多様性という

2

つの相矛盾しうる特性を組織に定着させるための政策の体 系こそが管理活動の基本的構造なのである。 これを換言すれば,収束性のなかに多様性をもたらすことこそが,まずは, われわれの管理活動の基本的構造から見た本質的な問題なのである。 われわれは組織を主とした対象として議論をなしてきたが,組織ではなく全 体社会を取り上げて同種の議論をしている研究者にエツィオニがいる。かれは 一方で知識や'情報の進歩の意味を強調しつつも,他方で合意形成能力のある社 会を追求しているが,かれがそうした議論をしたのも全体社会についての管理 の基本的構造としてわれわれと同じく多様性と収束性に似た特質に辿り着いて いたからではないかと解される。ここにわれわれは管理の基本的活動が多様性 と収束性をもたらすことであることを一層確信するのである。 収束性のなかに多様性をもたらすうえでさらに重要な事態として,われわれ は合意形成能力を発見し摘出した。合意形成能力は,多様な欲求に基づく価値 観ならびに事実上の見解が意思決定過程で表明される可能性があるにもかかわ らず,これに一定の枠をかけ,欲求ならびに事実的情報の分散の存在のなかか らも結論に導く力が組織内の構成員にそなわっていることを示す力なのであ る。合意形成能力のこの意味を踏まえると,収束性のなかに多様性をもたらす

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-86ー 香川大学経済論叢 240 というわれわれの管理の基本的活動から見た本質的な問題の解決にとっては, 組織に合意形成能力がそなわっていることが前提条件となるのである。すなわ ち組織にそなわった合意形成能力の程度に応じ,収束性を最終的にはもたらす ことが可能でありながらも多様性を高めていく限度はどの程度かが決まってく る。その意味では合意形成能力は収束性を条件としながら多様性をもつための 重要な事態であり,組織にとってはその酒養が重要な課題となることは言うま でもないことである。 参 考 文 献 D!ugos, G.., Die Lehr巴vonder Unternehmungspolitikー 巴inevergleichend巴Analyseder Konzeptionen, in: Die Betriebswirtschajt, 44 Jahrg, 1984 Esser, W.. -M. und Kirsch, W , Die Einjuhrung von Planzω:gs-und Injormationssy -stemen-Ein emρirischer Verglezchー, Munchen 1979

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(25)

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参照

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