棘上筋の形態特性と筋力の関連
竹内 咲
<要約> 臨床における棘上筋の評価では,肩外転筋力測定が多く用いられるが,棘上筋の形態特性と関連する かは不明である.それゆえ,本研究の第1
の目的は,棘上筋形態特性と肩外転筋力との関連を検討する こととした.また,筋力測定時の肩外転角度は90°
が多く使用されてきたが,棘上筋はより低い外転角 度において肩外転に作用するとされる.それゆえ,第2
の目的は,形態特性との関連性から,棘上筋の 評価に最も適切な肩外転角度を明らかにすることとした.棘上筋の形態特性は,超音波画像診断装置を 使用し棘上筋横断面積,筋厚,羽状角を計測した.筋力測定はハンドヘルドダイナモメーターを使用し, 外転0°
,30°
,90°
における肩関節最大等尺性外転筋力を計測し,同時に表面筋電図により三角筋の筋 活動を計測した.その結果,棘上筋羽状角と外転0°
,30°
における筋力に有意な正の相関が得られた. 棘上筋羽状角の計測は棘上筋の筋力を反映するより客観的な指標になり得ると考えられる.また,三角 筋前部線維の筋活動が外転0°
で小さく,筋力と棘上筋羽状角が外転0°
で相関することから,外転0°
で の筋力評価がより選択的な棘上筋筋力評価となるかもしれない.Ⅰ.はじめに
肩関節は,骨性の安定性に乏しい関節構造であ る.上肢挙上時の動的安定性は,腱板筋による上 腕骨頭を関節窩に押し付ける力や,三角筋と棘上 筋のForce couple
によって保たれる1,2,17).腱板 筋の中でも棘上筋は腱板断裂や肩峰下インピン ジメント症候群において最も障害されやすい筋 であるため,棘上筋の機能評価は重要である 3).棘上筋の機能を評価する方法として,
full can test
と
empty can test
がある.
先行研究において,full can test
とempty can test
の検査陽性の基準 を疼痛,筋力低下に分け検討した研究において,MRI
所見との一致率を表す正確度から,筋力低 下を基準とすべきであると結論づけている4). そ のため,臨床においても棘上筋評価には肩関節外 転筋力測定が用いられている. また,筋力トレーニングと筋断面積,筋厚,羽 状角,線維束長などの筋形態特性との関連性が報 告されている.上腕三頭筋の筋力トレーニング後, 筋の解剖学的横断面積,生理学的横断面積,筋厚, 羽状角が増加したとの報告がある5).また棘上筋 においても,線維束長と筋内腱羽状角は最大筋力 を発揮する筋機能に直接的な影響を及ぼすと考 えられている 6).8
週間の肩外転トレーニングに よって,棘上筋の筋内腱羽状角,筋厚が増加した との報告や 6),投球後に棘上筋横断面積が増加し たとの報告があり 7),棘上筋の形態特性が筋機能 に影響する可能性が考えられる.近年,超音波画 像診断装置による棘上筋筋厚,筋断面積,羽状角 の信頼性の高い計測方法が報告された5,8,10).これ により,超音波画像診断装置を用いた,より信頼 性の高い棘上筋形態特性の評価ができると考え られる.しかしながら,従来用いられてきた肩関 節外転運動による棘上筋の評価は,三角筋と棘上 筋が相互的に働いており11),これら形態特性と関 連するかは明らかにされていない.それゆえ,本 研究の第一の目的は,筋横断面積,筋厚,筋内腱 羽状角を含む棘上筋の形態特性と肩関節外転筋 力との関連を検討することである.我々は,棘上 筋の形態特性と肩関節外転最大筋力に関連性が あると仮説を立てた.また,棘上筋筋力評価にお ける肩関節外転角度は,外転90°
が多く使用され ていたが 3,12),棘上筋は外転運動の初期に有利に 作用すると考えられている11).したがって,本研 究の第二の目的を,棘上筋形態特性との関連性か ら,棘上筋の評価に最も適切な肩関節外転角度を明らかにすることとした.我々は,三角筋の停止 部から上腕骨頭中心への外転方向に対するモー メントアームが最少となる肩関節外転
0°
での筋 力評価が,最も適切な棘上筋評価方法であると仮 説を立てた.Ⅱ.対象と方法
1.対象
本学医学部保健学科に所属する健常男子学生20
名 ( 平 均 年 齢22.3±1.11
歳 , 身 長173.54±5.04cm
,体重65.53±7.91kg
)を対象とし た.除外基準は肩関節に疼痛,神経学的および整 形外科的症状,既往を有する者とした.全例利き 手を対象とし,被験者は右利き19
名,左利き1
名であった.本研究は,本学保健科学研究院倫理 委員会の承認を得て行った.また,被験者には事 前に研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得 た.2.方法
(1)
測定方法 ①形態特性 被験者は椅子座位,上肢体側下垂位とした.超 音波画像診断装置(My Lab 25,Esaote
社製)を用いて棘上筋の横断面積(
cross sectional area,
以 下CSA
),筋厚,筋内腱羽状角を計測した.CSA
は,Kim
ら9)の方法に従い,肩甲上切痕の位置で 筋の短軸像を撮影した.撮影手順として,まず, 肩甲棘に沿わせてプローブを置き,超音波画像に おいて肩甲上切痕がプローブ中央にくるように した(図1A
).次に,プローブに対して垂直になる ようにコの字型発泡スチロール板を置き(図1B
), 発泡スチロール板の間にプローブを移動し,撮影 した.撮影した超音波画像において,肩甲棘,鎖 骨,棘上筋と僧帽筋との境界,肩甲棘表面とで囲 まれた面積を計測し,棘上筋のCSA
とした(図1C
).筋厚は,同画像上における鎖骨および肩甲 棘に接する垂線間の中点を通る,棘上筋表面から 肩甲棘表面までの垂直距離とした10) (図1D
) . 羽状角は,Kim
ら6)の方法に従い,筋の長軸に 沿って撮影した.撮影手順は,まず,肩峰外側縁 の中央に垂直になるように置かれた発砲スチロ ール板の間にプローブを置き(図2A
),必要に応じ て水平移動させて撮影した.画像上の筋内腱と筋 線維束の結合する角度を画像解析ソフトimage J
にて計測した6)(図2B
).各画像は3
枚ずつ撮影し, 3 回の平均値を統計解析に使用した.②
筋力 肩関節最大等尺性外転筋力の計測には,ハンド ヘルドダイナモメーター(Power TrackⅡ
com-mander, J TECH. Medical a zevex company,
U.S.A
)を使用して,椅子座位にて計測した.棘上 筋とともに肩関節外転運動に作用する三角筋の 筋厚 図1.CSA,筋厚の撮影,計測方法
(A)超音波画像上の肩甲上切痕位置,(B)発砲スチロール板位置 (C)CSA 計測方法:肩甲棘,鎖骨,棘上筋と僧帽筋との境界,肩甲棘表面とで囲まれた面積 (D)筋厚計測方法:鎖骨および肩甲棘に接する垂線間の中点を通る,棘上筋表面から肩甲棘表面までの垂直距離(A)
(B)
図2.羽状角の撮影,計測方法
(A)発砲スチロール板位置 (B)羽状角計測方法:筋内腱と筋線維束の結合する角度(A)
(B)
(C)
(D)
肩甲棘
鎖骨
肩甲棘
鎖骨
停止部から上腕骨頭中心までの外転方向に対す るモーメントアームの変化を考慮して11),肩関節
外転
0°
,30°,90°で
計測した(図3
).臨床において,肩関節外転筋力測定は内旋位
(empty can test)
や外旋位(
full can test
)で行われている3,12).先行研究では,
empty can test
とfull can test
の肢位での棘上筋の筋活動に差はなかったとの報告 3)や,
各肢位におけるトレーニング前後に棘上筋筋厚
を
MRI
で測定したところ差はなかったとの報告がある 12).疼痛を誘発しやすい
empty can test
よりも
full can test
の方が臨床現場では有益かもしれないとの報告もある 4).しかしながら,棘上
筋は従来考えられてきた付着部よりも上腕骨の より前方に停止するとの報告がある13).このこと
から,
full can test
で外転運動を行うことで,棘 上筋が肩関節の上方に位置し,より外転運動に有 利に働くと考えられる.よって,本研究における 外転筋力測定はfull can test
で行った.測定は各肢位において3 回反復し,被験者の疲労を避ける
ため,試行間で十分な休息を設けた.得られた値
の 3 回の平均値を算出し,統計解析に使用した.
また,
SENIAM
のガイドラインに準じて,三角筋前部線維(
anterior deltoid,
以下AD
),中部線維(middle deltoid, 以下 MD),後部線維(posterior deltoid, 以下 PD)に表面電極(
Blue sensor,Ambu
社製)を貼付し(図
4)
,表面筋電計(Myoresearch.
Noraxon
社製)を使用して三角筋筋活動を計測し た.設定した外転角度の誤差を減ずるため,計測 開始から徐々に筋力を発揮していき,経過3 秒で 最大筋力となるよう指示した.筋力計測課題にお ける試行順はExcel
の乱数を使用して無作為化し, 各試行は5
秒間継続した.得られた最大等尺性収 縮時の三角筋筋活動の解析は,全波整流,フィル ター処理(Band-pass filter,10-500Hz
),平滑化 を行い,最大筋力発揮時の安定した1
秒間の平均 値を算出した.各試行は3
回反復し,その平均値 を統計解析に使用した.(2)
統計解析SPSS
を用いて,棘上筋の形態特性と最大筋力と の関連性の検討にピアソンの相関係数を使用し た.また,各外転角度における最大筋力と三角筋 筋活動の差の検討に反復測定一元配置分散分析 を使用し,post hoc
にBonferroni
法を使用した. 有意水準は5%
未満とした.Ⅲ.結果
棘上筋形態特性と肩関節外転最大筋力との間 における相関係数(R
値),有意確率(P
値)を表1
および図5
に示した.棘上筋羽状角と外転0°
,30°
における最大筋力においてのみ,有意な正の 相関を認めた(図5A:
外転0°
の筋力と羽状角R=.465,P=.039,
図5B:
外転30°
の筋力と羽 状角R=.506,P=.023)
.他の形態特性と最大筋 力との間に有意な相関は認められなかった. 表1
.CSA
,筋厚,羽状角と最大筋力の関連abd0°
abd30°
abd90°
CSA
R
値.382
.263
.275
P
値.097
.262
.240
筋厚R
値.352
.136
.347
P
値.128
.568
.134
羽状角R
値.465
*.506
*.384
P
値.039
.023
.095
図 3.肩関節最大等尺性外転筋力計測肢位左から肩関節外転 0°,30°,90°,full can testで行った.
図
4
.表面電極貼付位置 三角筋前部,中部,後部線維に 貼付した.肩関節最大等尺性外転筋力,三角筋筋活動の各 外転角度における平均値,標準偏差(SD)を表
2 に
示した.外転0°
における最大筋力(23.8±4.0pond)
は外転30°(19.0±2.4pond),90°(19.6±4.3pond)
と比較して有意に大きかった(図6)
.また,外転0°
に お け るAD
の 筋 活 動(282.0±181.4)
は 外 転30°(336.7±185.5),
外転90°(356.6±158.4)
と比 較して有意に小さかった (図7A)
.MD および PD においては,各外転角度間での有意差は認めなか った (図7B,
図7C
). 表2
.最大筋力,三角筋筋活動の外転角度による 変化(平均値±SD
) 最大筋力(pond
)AD
筋活動abd0°
27.8±18.8
282.0±181.4
abd30°
20.8±15.7
336.7±185.5
abd90°
21.2±13.7
356.6±158.4
MD
筋活動PD
筋活動abd0°
248.2±95.4
253.9±147.0
abd30°
251.4±109.3
233.7±127.3
abd90°
267.8±104.8
183.7±172.6
図5.
筋力と羽状角の関連 (A)外転 0°の筋力と棘上筋羽状角が有意な正の相関を示した.(R=.465*,P=.039) (B)外転 30°の筋力と棘上筋羽状角が有意な正の相関を示した.(R=.506*,P=.023)(A)
(B)
P=.011
P=.010
90°
30°
0°
R=.465*
(pond) 図6.
筋力の外転角度による変化外転 0°における最大筋力が外転 30°,90°と比較して有意に 大きかった.(0°と 30°:P=.010,0°と 90°:P=.011)
R=.506*
P=.039
P=.023
30°
P=.007
90°
図7.三角筋筋活動の外転角度による変化
(A)三角筋前部線維の筋活動:外転 0°における筋活動が外転 30°,90°と比較して有意に小さかった. (0°と 30°:P=.021,0°と 90°:P=.007) (B)三角筋中部線維の筋活動:各外転角度間での有意差は認めなかった. (C)三角筋後部線維の筋活動:各外転角度間での有意差は認めなかった.0°
0°
90°
0°
(A)
(B)
(C)
30°
30°
90°
P=.021
Ⅳ.考察
本研究は,棘上筋の形態特性である棘上筋羽状 角のみが,外転0°,30°
のような低い外転角度で の肩関節外転最大筋力と関連することを明らか にした.これは,筋力トレーニングと棘上筋形態 特性との関連を報告した先行研究 6,7)を一部支持 する.外転角度が小さいほど三角筋の停止部から 上腕骨頭中心までの外転方向に対するモーメン トアームは短く,一方で棘上筋のモーメントアー ムは大きくなると言われている11).また,小さい 外転角度では棘上筋の力線のベクトルは上腕骨 が外転する方向に大きく,三角筋の力線のベクト ルは上腕骨を上方へ牽引する方向に大きく働き, 一方で,外転角度が増加するにつれて棘上筋の外 転方向へのベクトルは減少し,三角筋の外転方向 へのベクトルは増加すると考えられる14).それゆ え,外転角度が小さいほど機能的に棘上筋が有利 であると考えられる.それゆえ外転角度の小さい0°
および30°
での最大筋力と羽状角が関連した一 方で,外転90°
での最大筋力とは相関を示さなか ったのかもしれない. 本研究において,他の棘上筋形態特性であるCSA
および筋厚と最大筋力との間に有意な相関 は得られなかった.上腕二頭筋,上腕三頭筋にお いて,解剖学的筋断面積より生理学的断面積が筋 力を有意に反映したとの報告がある15).今回計測 した横断面積は生理学的横断面積とは限らない ため,筋力と関連しなかった可能性が考えられる. また,筋力トレーニングの効果は,筋肥大のみな らず運動ニューロン興奮性の増大などの神経系 変化ももたらすと考えられている 16).そのため, 棘上筋筋力と筋厚および CSA との間に相関関係 を認めなかったと考えられた. 本研究の第二の目的は,形態特性との関連から, 棘上筋の評価に最も適切な肩関節外転角度を明 らかにすることであった.結果より,full can test
で外転運動に優位に働くと思われる
AD
の筋活動 は,外転30°
および外転90°
での筋活動と比較し て,外転0°で
有意に小さかった.前述のように, 三角筋のモーメントアームは外転角度が小さい ほど短いため14),外転0°
では三角筋筋活動が小さ い結果となったと考えられる.そのため,外転0°
では棘上筋が有利に働いていることが考えられ る.加えて,本研究において棘上筋羽状角と外転0°
での最大筋力との間に有意な相関を示してい ることから,外転0°
での筋力評価は,より選択的 な棘上筋筋力評価を可能にするかもしれない. 臨床において棘上筋の評価法は統一されてお らず,また深部に存在するため客観的な評価が困 難である.本研究において,超音波画像診断装置 を使用して計測した棘上筋羽状角と肩外転筋力 における関連性が得られたことにより,超音波画 像診断装置による棘上筋羽状角の計測は,非侵襲 的,リアルタイム,かつ簡便に行うことができる, 客観的な棘上筋の評価法となり得ることが示唆 された.また,肩関節下垂位で計測可能であるた め,臨床現場において,疼痛や腱板損傷などを有 し筋力測定が行えない場合などに有用であると 考えられる.また,本研究は,AD
の筋活動が小 さい肩外転0°
での外転筋力が,棘上筋羽状角と相 関したことから,肩関節外転0°
での筋力測定が, より棘上筋機能を選択的に評価することが可能 であるかもしれない.しかしながら,臨床現場に おける棘上筋筋力測定肢位は様々に行われてお り,今後も研究の余地があると考える.謝辞
本研究を終えるにあたり,ご指導を賜りました 本学諸先生方,本学大学院保健科学院修士の石垣 智恒氏,廣川基氏,ならびに被験者を快諾してい ただきました本学学生の皆様に深く感謝致しま す.引用文献
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