向精神薬と
妊娠・授乳
東京医科歯科大学大学院
医歯学総合研究科
心療・緩和医療学分野
2014.07.19松島英介
東京精神医学会
第16回専門医制度生涯教育研修会
基礎知識
妊娠週数の数え方
最終月経起算では不正確のため、超音波検査で確定する。 22週からの人工妊娠中絶は禁止されている(母体保護法)。 3 0週0日~6日 最終月経の開始日から 1週0日~6日 2週0日~6日 受精(胎齢の開始日) 3週0日~6日 ここまでが妊娠1ヵ月 4週0日~6日 ここからが妊娠2ヵ月 36週0日~6日 ここまでが早産 37週0日~6日 ここから正(満)期産 38週0日~6日 39週0日~6日 40週0日~6日 0日が分娩予定日 41週0日~6日 ここまで正期産 42週0日~ 過期産 妊娠期間の区分 欧米は妊娠期間を三半期で区分し、 妊娠0週0日~13週6日を第1三半期、 妊娠14週0日~27週6日までを第2三 半期、28週0日以降を第3三半期と している。 一方、日本でもこれに合わせ、第1 三半期を妊娠初期、第2三半期を 妊娠中期、第3三半期を妊娠後期 とした(産科婦人科用語集・用語 解説集改訂第3版,2013年4月)。妊娠中の薬効別使用頻度
(虎ノ門病院「妊娠と薬相談外来」受診者45,386件) 4(林 昌洋:妊娠と薬,2010)
順位 薬効名 使用件数 1 解熱鎮痛薬 4,743 2 消化性潰瘍用薬 2,986 3 総合感冒薬 2,857 4 精神神経用薬 (抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬) 2,742 5 催眠鎮静薬、抗不安薬 2,680 6 抗生物質 2,534 7 抗アレルギー薬 1,634 8 漢方製剤 1,434 9 制吐薬 1,343 10 鎮咳薬 1,230 11 抗ヒスタミン薬 1,203 12 ビタミン剤 1,128日本の奇形の発生部位別頻度
心臓 28.0 心室中隔欠損 16.1 心房中隔欠損 6.0 動脈管開存 5.9 顔面 33.5 口唇口蓋裂 12.1 口唇裂 5.6 口蓋裂 4.2 耳介低位 7.5 耳介変形 4.1 四肢 18.3 多指症 8.0 合指症 5.4 多趾症 4.9 中枢神経 12.2 水頭症 7.6 二分脊椎 4.6 消化器 14.0 十二指腸・小腸閉塞 5.2 鎖肛 4.8 臍帯ヘルニア 4.0 泌尿器 7.4 嚢胞性腎奇形 3.7 尿道下裂 3.7 呼吸器 5.5 横隔膜ヘルニア 5.5(平原史樹.日産婦誌 59
: 246-250, 2007を改変)
(対1万児) 5形態形成異常(奇形)の原因
外的因子 5~10% 母体感染 風疹、ヘルペス、パルボ、サイトメガロウイルス、トキソ プラズマ、梅毒など 3~5% 母体疾患 糖尿病、アルコール中毒、葉酸欠乏など 4% 薬物 サリドマイド、ジエチルスチルベステロール、抗てんか ん薬、抗がん剤、抗凝固薬、ACE阻害薬など 1% 化学物質 メチル水銀、ダイオキシン、有機溶媒、農薬、金属など 1~2% 食品 酒、タバコ、ビタミンA(大量)、食品添加物など 不明 放射線(電磁波) 不明 内的因子 10~25% 染色体異常 遺伝子異常 その他 65~75% 特発性 原因不明 6(櫛田賢次,林昌洋監修:妊娠・授乳とくすりQ&A, 2008 より一部改変)
•
妊娠から出産,授乳に至る
各段階における薬物の影響
•
向精神薬が妊婦や胎児,新生児
・乳児に与える影響
•
妊娠中,授乳期の精神疾患患者
に対する向精神薬投与の原則
7妊娠から出産・授乳に至る
各段階における薬物の影響
妊娠初期:催奇形性
妊娠3週末まで(受精後2週間) に薬物の影響を受けた場合
には着床しなかったり、流産し消失するか、あるいは完全に
修復されて健児を出産する。
妊娠4週(受精後3週の初め)から7週までの時期は胎児の
中枢神経系、心臓、消化器、四肢などの重要な臓器が発生・
分化し、形態奇形(morphological teratogenicity)を生み出す
もっとも危険な臨界期(絶対過敏期)に当たる。したがって、
この時期の薬物の投与には十分慎重であるべきである。
妊娠8週から15週までの時期(相対過敏期)は、胎児の重
要な器官の形成は終わっているが、中枢神経系の発達は続
く上、口蓋の閉鎖や性器の分化などはこの時期におこなわ
れる。したがって、催奇形性のある薬物の投与にはなお慎重
であった方がよい。
910
胎児の発生
妊娠中・後期:胎児毒性
妊娠16週から分娩までの時期は、奇形のような形態的異常
は余り形成されないが、胎児の機能的成長に及ぼす影響や
発育の抑制、子宮内胎児死亡などを引き起こす。このように
胎児の発育や機能に悪影響を及ぼすことを胎児毒性(fetal
toxicity)という。
特に胎児の中枢神経系は妊娠期間中を通じて発達を続ける
ため、胎児脳の脳・血液関門が未発達なことと併せて考える
と、中枢神経系の発達に大きな影響を与える可能性もある。
すなわち、この時期に投与された薬物が機能(行動)奇形(
functional (behavioral) teratogenicity)として出生後の児の精
神神経発達に影響を及ぼす可能性についても考慮しなけれ
ばならない。
妊娠後期:新生児不適応症候群
妊娠後期に投与された薬物により、新生児に産後48時間以内
に出現し2~6日間続く、中毒症状ないしは離脱症状が生じるこ
とがある。これらは臨床的に区別できないこともあり、合わせて
新生児不適応症候群(poor neonatal adaptation syndrome:
PNAS)と呼ぶ。
12 オピオイド モルヒネなど 催眠・鎮静薬 バルビタール系薬物、フルニトラゼパムなど 抗てんかん薬 フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸など 抗精神病薬 クロルプロマジン、ハロペリドールなど 抗うつ薬 イミプラミン、ノルトリプチリン、SSRI など 抗不安薬 ジアゼパム、クロルジアゼポキシド、メタゼパムなど 鎮痛薬 ペンタゾシンなど 気管支拡張薬 テオフィリンなど(伊藤直樹:妊娠と授乳「抗うつ薬」, 2010を改変)
新生児不適応症候群の症状
13 一般的な症状 特殊な症状 中枢神経症状 神経過敏 筋緊張調節障害 振戦 睡眠困難 かん高く頻回に泣く 興奮/易刺激性 ミオクローヌス 胃腸症状 哺乳困難 呼吸器系症状 呼吸困難 中枢神経症状 けいれん 反射亢進 不活発 胃腸症状 下痢 吸啜不調和/吸啜力減弱 嘔吐/溢乳 自律神経症状 体温不安定 まだら皮膚 多汗 鼻閉新生児・乳児期:母乳
母乳へはほとんどの薬物が移行すると考えてよい。特に、生後1週間以内の
新生児は薬物を代謝する能力が不十分であり、血液・脳関門もまだ完成して
いないので注意する必要がある。
タンパク結合率 (%)
半減期(hr)
母の血中濃度に対する母乳中濃度: M/P比 (milk/plasma ratio)
1以下の薬物は母乳への移行が少ない
乳児相対摂取量(乳児摂取量(母乳中濃度×摂取した母乳量)(mg/kg/day)/
母体摂取量) (mg/kg/day):RID (relative infant dose)(%)
Hale授乳危険度カテゴリー
L1:両立できる L2: 両立できる可能性 L3: 両立できる可能性
L4:危険性がある L5: 危険
14
向精神薬が妊婦や
胎児・新生児・乳児に与える影響
抗精神病薬
定型抗精神病薬は、いずれも催奇形性は否定的。ただし、
ハロペリドールが日本では添付文書上妊婦には使用禁忌と
されている。また、妊娠第1三半期における多剤併用投与や
大量投与、注射剤(特に持効注)の使用は危険性が高くなる
と考えられる。
非定型抗精神病薬では、クロザピン、オランザピン、クエチ
アピン、リスペリドン、アリピプラゾールについては、使用頻
度の割に奇形の危険性が増加するという報告は少なく、ま
た妊婦の前向き研究においても、胎児に有意な影響は見ら
れなかった。
妊娠後期に用いられた抗精神病薬によって、母体が低血圧
や陣痛の微弱化を起こしたり、分娩後の新生児に呼吸抑制
や嗜眠、錐体外路症状などの副作用が出現したりすること
が報告されており、注意が必要である。
16抗精神病薬
17 妊娠60日前から出産 までのいずれかの時期 N /10,000出産 非定型抗精神病薬 quetiapine olanzapine risperidone aripiprazole clozapine paliperidone 4,223 72.0 1,786 30.5 1,342 22.9 970 16.5 443 7.6 12 0.2 <5 0.02 定型抗精神病薬 haloperidol chlorpromazine perphenazine 548 9.3 225 3.8 146 2.5 95 1.6(Toh SR et al. Arch Womens Ment Health 16: 149-157, 2013)
米国で2001~7年の間の585,615回の出産について調査したうち、抗精神病薬を服用 していたうつ病、双極性障害、統合失調症などの患者の4,223回の出産を検討した。
妊娠中ならびに産後を通じてクロルプロマジン平均50~
150mg/日を投与維持されていた母親から生まれた52名の
児の非対照研究では、5歳まで追跡した結果、子宮内でクロ
ルプロマジンの曝露を受けた子供達はそうでなかった子供
達に比べて行動や知的機能に差はなかった。
症例対照研究では、妊娠の後半に子宮内でクロルプロマジ
ンを主としたフェノチアジン系抗精神病薬の曝露を受けた68
名の子供達の9~10歳の時点での学校での行動を評価した
ところ、そうでなかった子供達と有意な差はなかった。
このように、クロルプロマジンを主としたフェノチアジン系抗精
神病薬については、症例数は少ないものの機能奇形はないと
一応結論付けられている。
抗精神病薬と機能奇形
18(Kris EB. Curr Ther Res 7: 785-789, 1965)
母乳中の主な抗精神病薬の薬物動態
一般名 タンパク 結合率 (%) 半減期 (hr) 母の血中濃度に 対する母乳中 濃度: M/P比 乳児相対 摂取量:RID (%) 授乳危険度 カテゴリー クロルプロマジン 95 30 <0.5 0.3 L3 ペルフェナジン - 8-20 0.7-1.1 0.1 L3 ハロペリドール 92 12-38 0.58-0.81 0.2-12 L3 スルピリド - 6-8 - 2.7-20.7 L2 リスペリドン 90 3-20 0.42 2.8-9.1 L3→L2 クエチアピン 83 6 0.29 0.07-0.1 L2 オランザピン 93 21-54 0.38 0.3-2.2 L2 アリピプラゾール 99 75 0.2 1 L3 クロザピン 95 8-12 2.8-4.3 1.4 L3(Hale TW:Medication and Mother’s milk 16
thed, 2014)
19
M/P比は1以内が、RIDは10%以内が目安
L2は両立できる可能性があるで、限られた症例数ではあるが、授乳中の女性で乳児に 副作用の増加がない、L3は両立できる可能性があるが、乳児に不都合な影響を与える 可能性はあるかもしれない。
抗うつ薬
三環系抗うつ薬の催奇形性は全体的に低い。ただし、妊娠初
期に自殺目的で多量に服用したり、大量注射をおこなった例
で多発奇形が報告されており、注意が必要である。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)も、奇形が多いと
いう統一した所見はない。ただしパロキセチンについては、と
くに心室中隔欠損をはじめとする心臓血管系の異常が増加す
る可能性が指摘されている。
セロトニン-ノルアドレナリ再取り込み阻害薬(SNRI)、ミルタザ
ピンについては、まとまった報告がない。
妊娠後期に抗うつ薬を服用した母親から生まれた新生児で筋
力低下、呼吸困難、嗜眠などの報告があり、またSSRIを服用
していた母親が出産した新生児において新生児遷延性肺高
血圧症の危険性が増加したとの報告がある。
20抗うつ薬と形態奇形
-スウェーデンの大規模研究-
21
1995-2007年にスウェーデンで妊娠早期に抗うつ薬を使用した、あるいは
妊娠中に出産前ケアとして抗うつ薬が処方された女性14,821名、児15,017名
(Reis M & Kallen B. Psychol Med 40: 1723-1733, 2010)
TCA N OR(95%CI) SSRI N OR(95%CI) SNRI N OR(95%CI) 比較的重度 の奇形 77 1.36 (1.07-1.72) 345 1.08 (0.97-1.12) 43 1.00 (0.73-1.37) いずれかの 心血管奇形 30 1.63 (1.12-2.36) 109 0.99 (0.82-1.20) 20 1.33 (0.84-2.09) VSDおよび/ またはASD 17 1.84 (1.13-2.97) 61 1.00 (0.77-1.29) 11 1.26 (0.63-2.26) 尿道下裂 9 1.93 (0.88-3.67) 38 1.30 (0.94-1.80) 6 1.47 (0.54-3.19)
TCAs(clomipramine>>amitriptyline>nortriptyline・imipramine・maprotiline等)
SSRIs(citalopram・sertraline>fluoxetine・paroxetine>escitalopram>fluvoxamine等)
SNRIs(venlafaxine>mirtazapine>mianserin>duloxetine等)
SSRIと形態奇形
-スウェーデンの大規模研究-
22
1995-2007年にスウェーデンで妊娠早期に抗うつ薬を使用した、あるいは
妊娠中に出産前ケアとして抗うつ薬が処方された女性14,821名、児15,017名
(Reis M & Kallen B. Psychol Med 40: 1723-1733, 2010)
fluoxetine N OR(95%CI) citalopram N OR(95%CI) paroxetine N OR(95%CI) sertraline N OR(95%CI) 比較的重度 の奇形 60 1.29 (1.00-1.67) 133 1.06 (0.88-1.26) 49 1.20 (0.90-1.61) 100 0.99 (0.81-1.21) いずれかの 心血管奇形 21 1.31 (0.85-2.02) 37 0.86 (0.62-1.20) 24 1.66 (1.09-2.53) 26 0.74 (0.50-1.09) 尿道下裂 5 1.10 (0.36-2.57) 38 1.30 (0.94-1.80) 9 2.45 (1.12-4.64) 8 0.89 (0.38-1.75)
パロキセチンで心血管奇形や尿道下裂が多い
SSRIと心奇形
-米国の大規模研究-
23
2000-2007年に米国で妊娠早期に抗うつ薬を使用した女性64,389名から
生まれた児に心奇形が出現する危険率を調べた。
(Huybrechts KF et al. N Engl J Med 370: 2397-2407, 2014)
母親がうつ病で妊娠第2、3三半期にTCAやSSRIなどの抗うつ薬の暴
露を受けた児415名と母親がうつ病で抗うつ薬の暴露を受けなかった
児489名について、6か月時点での発達の目安を調べたところ、暴露群
は非暴露群に比べて、助けなく座ったり、歩き回ったりすることが遅れ
るものの正常範囲内であった。また、19か月の時点ではひとりでいる
ことができる児が少なかった。
妊娠中に母親がうつ病でSSRIを服用していた児62名、同じくSNRIを服
用していた児62名、同じく何も服用していなかった児54名、および母親
が健康であった児62名についてIQや問題行動を比較したところ、母親
の服薬の有無にかかわらずうつ病の3群の間にIQは差がなく、またこ
の3群は母親が健康な群に比べて問題行動も多かった。したがって、
服薬以外の要素が大きいと考えられた。
抗うつ薬と機能奇形(1)
24(Pedersen LH et al. Pediatrics 125: e600-608, 2010)
自閉症スペクトラム障害児298名と対照児1,507名からなる北カリフォル
ニア地域住民を母集団とした症例対照研究で、このうち出産前に抗うつ
薬を曝露されていたのは前者で20名(6.7%)、後者で50名(3.3%)であっ
た。ロジスティック回帰分析をおこなうと、出産前の1年間にわたりSSRI
を服用していた母親から出生した児はそうでない児より2.2倍自閉症スペ
クトラム障害が増えることがわかった。
デンマークにおける626,875回の出産を対象にしたコホート研究で、妊娠
前~中においてSSRIを服用していなかった母親に比べて、妊娠中に服
用していた母親は自閉症スペクトラム障害の危険性が増えていなかった
(相対比 1.20;95%IC 0.90-1.61)。また、妊娠前にSSRIを服用し妊娠中
は中止していた母親は自閉症スペクトラム障害の危険性が増えていた(
相対比 1.46;95%IC 1.17-1.81)。この結果、妊娠中のSSRI服用とその
児の自閉症スペクトラム障害の発症とは関係がないことがわかった。
抗うつ薬と機能奇形(2)
25(Croen LA et al. Arch Gen Psychiatry 68: 1104-1112, 2011)
気分安定薬(リチウム)
心血管奇形の症例報告が多くされており、なかでもEbstein
奇形が多いといわれているが、近年はこれを否定するような
調査報告が多く、危険性はごく僅かで絶対数は他の副作用と
比べると少ないといわれている(一般的なEbstein奇形の発生
率は1/20,000出生に対して、リチウム服用による発生率は最
大で1/1,000出生)。ただし、日本では妊婦には使用禁忌とさ
れている。
妊娠後期に使用した場合、新生児に筋弛緩、嗜眠、哺乳力低
下、呼吸微弱、チアノーゼ、徐脈などの中毒症状が出現する
ことが報告されており、さらに一過性の甲状腺機能低下や甲
状腺腫が認められたという報告もある。
授乳に関しては、RIDが大きいため乳児の血中濃度は母体の
1/2に達することもあるとされており、筋緊張低下や嗜眠、低
体温、チアノーゼなどを引き起こす可能性がある。
26
リチウム児登録のデータより抽出された、少なくとも第1三半期に子宮
内でリチウムの暴露を受けた児60名と受けなかったその同胞を、5歳
以降に後方視的に比較をしたところ、母親の観察ではその後の精神
身体的発達に有意差はなかった。
北米で第1三半期にリチウムを使用していた22名の母親から生まれた
児について、各発達段階(微笑み、首のすわり、お座り、ハイハイ、つ
かまり立ち、おしゃべり、歩き始め)の達成を調べたところ、対照群との
間に差はなかった。
子宮内でリチウムの暴露を受けた15名の児について、3-15歳の時点
での神経学的発達を検査したところ、動作性IQが比較的低い児は多
かったものの、全体として認知行動的発達は正常範囲内であった。
気分安定薬と機能奇形
27(van der Lugt NM et al. Earl Hum Dev 88: 375-378, 2012)
(Schou M. Acta Psychiatr Scand 54: 193-197, 1976)
母乳中の主な抗うつ薬の薬物動態
一般名 タンパク 結合率 (%) 半減期 (hr) 母の血中濃度に 対する母乳中 濃度: M/P比 乳児相対 摂取量:RID (%) 授乳危険度 カテゴリー ノルトリプチリン 92 16-90 0.87-3.71 1.7-3.1 L2 アモキサピン 15-25 8 0.21 0.6 L2 フルボキサミン 80 15.6 1.34 0.3-1.4 L2 パロキセチン 95 21 0.056-1.3 1.2-2.8 L2 セルトラリン 98 26 0.89 0.4-2.2 L2→L1 エスシタロプラム 56 27-32 2.2 5.2-7.9 L2 ミルナシプラン 13 6-8 - - L3 デュロキセチン >90 12 0.267-1.29 0.1-1.1 L3 ミルタザピン 85 20-40 0.76 1.6-6.3 L3 炭酸リチウム - 17-24 0.24-0.66 12-30.1 L3→L4(Hale TW:Medication and Mother’s milk 16
thed, 2014)
28
M/P比は1以内が、RIDは10%以内が目安 L2、L3はともに両立できる可能性がある
抗不安薬
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、ケース・コントロール研究の
メタアナリシスでは大奇形全体および口唇口蓋裂の危険性が
増加したが、コホート研究のメタアナリシスでは両者の危険性
がともに認められなかったことで催奇形性は否定されている。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の多くは、分娩直前に投与する
と新生児に呼吸抑制、筋緊張低下、哺乳困難など、いわゆる
floppy infant syndrome がみられることがある。また、妊娠末
期に連用した場合、新生児に産後何日か経ってから、筋緊張
亢進、反射亢進、呼吸頻数、神経過敏などの離脱症状がみら
れることがあり、妊娠末期に大量に使用する場合や多剤併用
で用いる場合については慎重な投与が望まれる。
乳汁への移行については、一日30mg以上のジアゼパム投与
を受けた母親から授乳された児に嗜眠などの影響が出ること
が報告されている。
29睡眠薬
睡眠薬の妊婦や胎児、新生児に与える影響については、抗
不安薬と同じと考えてよい。
なお、非ベンゾジアゼピン系のゾルピデムやゾピクロンは、少
数例ではあるが催奇形性は否定されている。
また、ヒドロキシジンは日本では添付文書上妊婦には使用禁
忌とされているので、注意が必要である。
30
子宮内でクロルジアゼポキサイドまたはmeprobamateの暴露を受けた
児1,870名とそうではない児48,412名を比較したところ、8か月の精神運
動発達および4歳の知能指数に有意な差はなかった。
妊娠中ベンゾジアゼピンを使用していた母親から生まれた児17名を、
何の向精神薬も使用していなかった母親から生まれた児29名と前向
きに経過を追ってその後の神経発達を比較した。その結果、6ないし10
か月の時点では、全体的な運動発達の遅滞が見られたが、18か月の
時点ではほぼ正常であった。
抗不安薬と機能奇形
31(Hartz SC et al. N Engl J Med 292: 726-728, 1975)
母乳中の主な抗不安薬・睡眠薬の薬物動態
一般名 タンパク 結合率 (%) 半減期 (hr) 母の血中濃度に 対する母乳中 濃度: M/P比 乳児相対 摂取量:RID (%) 授乳危険度 カテゴリー ジアゼパム 99 43 0.2-2.7 7.1 L3 アルプラゾラム 80 12-15 0.36 8.5 L3 ロラゼパム 85 12 0.15-0.26 2.6-2.9 L3 ソルピデム 92.5 2.5-5 0.13-0.18 4.7-19.1 L3 ゾピクロン 45 4-5 0.51 1.5 L2 エスゾピクロン 59 6 - - L3 ラメルテオン 82 1-2.6 - - L3 32(Hale TW:Medication and Mother’s milk 16
thed, 2014)
M/P比は1以内が、RIDは10%以内が目安 L2、L3はともに両立できる可能性がある
抗てんかん薬(1)
抗てんかん薬全体を通じて、口唇裂、口蓋裂、心血管奇形の
頻度が高く、またバルプロ酸やカルバマゼピンについては二
分脊椎との関連を示す報告がある。
バルプロ酸は血中濃度に依存して奇形発現率が上がるため、
どうしても用いざるを得ない場合には1,000mg/日以下、しか
も日内変動が少ない徐放剤が望ましい。なお、日本ではバル
プロ酸は添付文書上妊婦には使用禁忌とされている。
新規抗てんかん薬ゾニサミド、クロバザム、ガバペンチン、レベ
チラセタム単剤での催奇形性については確定されていない。
また、ラモトリギンは奇形発現率が低いといわれている。
一方、トピラマートは口唇・口蓋裂の報告が最近多く、注意が
必要である。
33抗てんかん薬単剤による奇形発現率
34
(Hernandez-Diaz S et al. Neurology 78: 1692-1699, 2012)
抗てんかん薬と形態奇形
抗てんかん薬 一日服用量 女性の数 補正後オッズ比 (95%信頼区間) p値 カルバマゼピン<400mg 400-1000mg 1000mg- 148 1047 207 1.6(0.56-4.53) 2.5(1.45-4.48) 4.6(2.28-9.31) 0.3803 0.0012 <0.0001 ラモトリギン <300mg 300mg- 836 444 1(基準) 2.2(1.12-4.35) - 0.0221 フェノバール <150mg 150mg- 166 51 2.5(1.11-5.85) 8.2(3.16-21.53) 0.0275 <0.0001 バルプロ酸 <700mg 700-1500mg 1500mg- 431 480 99 2.8(1.46-5.30) 5.8(3.27-10.13) 16.1(8.22-31.54) 0.0019 <0.0001 <0.0001 35(Tomson T et al. Lancet Neurol 10, 2011)
すべての薬剤において用量依存的に奇形のリスクが上昇する
36
第一三半期に抗てんかん薬を単剤で曝露された児311名について
の前向き研究で、6歳の時点での認知機能を測定したところ、
バルプロ酸はカルバマゼピン、フェニトイン及びラモトリギンに比べ、
IQ、とくに言語および記憶の領域で有意に低かった。
カルバマゼピン ラモトリジン フェニトイン バルプロ酸 平均IQ(95%CI) 105 (102-108) * 108 (105-110) * 108 (104-112) * 97 (94-101) 言語性指数 104 (102-107)* 105 (102-107) * 106 (102-109) * 97 (94-100) 非言語性指数 104 (102-107) 108 (105-110) * 106 (103-109) 101 (98-104) 全般記憶指数 104 (100-108)* 106 (102-110) * 101 (96-107) * 92 (87-98) 実行機能指数 105 (103-108) 107 (104-109) * 103 (100-106) 101 (98-104) * VS バルプロ酸
(Meador KJ et al. Lancet Neurol 12: 244-252, 2013)
37
妊娠中に抗てんかん薬に曝露された児について平均8.84歳の時点で小児自閉症ならび に自閉症スペクトラム障害について検討したところ、バルプロ酸は他の抗てんかん薬に
比べて有意に発症率が高かった。
(Christensen J et al. JAMA 309: 1696-1703, 2013)
37
母乳中の主な抗てんかん薬の薬物動態
一般名 タンパク 結合率 (%) 半減期 (hr) 母の血中濃度に 対する母乳中 濃度: M/P比 乳児相対 摂取量:RID (%) 授乳危険度 カテゴリー フェノバルビタール 51 53-140 0.4-0.6 24 L3→L4 プリミドン 25 5-18 0.72 8.4-8.6 L3→L4 カルバマゼピン 74 18-54 0.69 3.8-5.9 L2 フェニトイン 89 6-24 0.18-0.45 0.6-7.7 L2 ゾニサミド 40 63 0.93 28.9-36.8 L4 バルプロ酸 94 14 0.42 1.4-1.7 L4 クロナゼパム 50-86 18-50 0.33 2.8 L3 ガバペンチン <3 5-7 0.7-1.3 6.6 L2 トピラマート 15 18-24 0.86 24.5 L3 ラモトリギン 55 29 0.562 9.2-18.3 L3→L2 レベチラセタム <10 6-8 1.0 3.4-7.8 L3→L238
(Hale TW:Medication and Mother’s milk 16
thed, 2014)
M/P比は1以内が、RIDは10%以内が目安
抗てんかん薬と授乳
39
(Meador KJ et al. JAMA Pediatr published online June 16, 2014)
4種の抗てんかん薬を妊娠中に単剤で服用していた妊婦から生まれた児が 6歳の時点でのIQを測定し、そのまま抗てんかん薬を服用して授乳を続けた 群と授乳を受けなかった群の2群で他の要因を補正後に比較した。 母乳栄養群 人工栄養群 P値 カルバマゼピン 107 (105-111) (n=23) 105 ( 99-110) (n=24) 0.61 ラモトリギン 113 (110-117) (n=27) 110 (107-113) (n=34) 0.23 フェニトイン 104 ( 99-110) (n=17) 108 (103-113) (n=20) 0.23 バルプロ酸 106 ( 97-115) (n=11) 94 ( 88-100) (n=25) 0.04 合計 108 (105-111) (n=78) 104 (101-106) (n=103) 0.04 4種の抗てんかん薬を妊娠中から続けて単剤で服用していた母親から 母乳栄養を受けた児は、6歳の時点でのIQが人工栄養の群と同じで高く、 少なくとも母乳中の抗てんかん薬が児のIQに与える影響はなく、むしろ 母乳により児のIQが改善する可能性も示唆された。
抗てんかん薬(2)
バルプロ酸による機能奇形が次々に報告されている。
妊娠末期に母親が多量のフェニトイン、フェノバルビタールな
どの抗てんかん薬を服用していると、児に直接的な鎮静作用
が起こり、生下時に異常におとなしく,筋緊張や吸啜力が極め
て弱く,時には呼吸の抑制をみることもある。また、生後しばら
くして著しい多動や啼泣,睡眠障害などといった行動異常とと
もに、振戦、ミオクローニー発作、筋緊張や深部反射の亢進、
過呼吸、嘔吐などの離脱症状がみられることがある。
授乳婦がフェノバルビタール、ゾニサミド、トピラマートのような
RIDの高い薬やプリミドンのようなタンパク結合率が低くRIDが
比較的高い薬を服用していると、乳児の血中濃度が高くなって
入眠してしまい、十分に栄養がとれず体重の増加に影響を与
えることがある。
慢性的に抗てんかん薬を服用中の母親から出産した新生児
に低カルシウム血症や出血傾向などが報告されている。
40妊娠中・授乳期の精神疾患患者
に対する向精神薬投与の原則
統合失調症
妊娠中および産後の精神疾患の有病率
(Vesga-Lopez O et al. Arch Gen Psychiatry 65, 2008)
43 精神疾患 妊娠中の 有病率 産後1年まで の有病率 1年以内に妊娠して いない女性の有病率 大うつ病 8.4% 9.3% 8.1% 気分変調症 0.9% 1.0% 2.0% 双極性障害 2.8% 2.9% 2.3% パニック障害 2.2% 2.5% 3.0% 社会不安障害 1.8% 1.0% 2.8% 全般性不安障害 1.3% 1.5% 1.8% 精神病性障害 0.4% 0.5% 0.3%精神疾患で入院歴のある女性の
産後の累積再入院率
44
(Munk-Olsen T et al. Arch Gen Psychiatry 66, 2009)
双極性障害統合失調症性障害
妊娠前の肥満と先天奇形の危険性
神経管欠損
1.87 (1.62-2.15)
二分脊椎
2.24 (1.86-2.69)
心血管奇形
1.30 (1.12-1.51)
心中隔奇形
1.20 (1.09-1.31)
口蓋裂
1.23 (1.03-1.47)
口唇口蓋裂
1.20 (1.03-1.40)
直腸肛門閉鎖
1.48 (1.12-1.97)
水頭症
1.68 (1.19-2.36)
四肢減損奇形
1.34 (1.03-1.73)
(Stothard KJ et al. JAMA 301: 636-650, 2009)
オッズ比(95%信頼区間)
18編の研究のメタ解析 45 その背景には、母体における診断されていない糖尿病や高血糖が 関係していると考えられている。肥満を来たしやすい抗精神病薬で は、注意が必要である。46 (週) 14 12 10 8 16 24 32 36 0 4 12 20 28 40 44 48 52 8 6 4 0 2
ベ
ー
ス
ラ
イ
ン
か
ら
の
体
重
変
化
(㎏)
オランザピン(12.5-17.5mg) オランザピン(全用量) クエチアピン リスペリドン アリピプラゾール非定型抗精神病薬服用患者の平均体重変化
危険性の分類
高:平均体重増加が5㎏以上および/または基線からの7%以上の
増加例が50%を超えると見込まれる。
中間:平均体重増加が2.5~5㎏および/または基線からの7%以上
の増加例が25~50%と見込まれる。
低:平均体重増加が1~2.5㎏および/または基線からの7%以上の
増加例が10~25%と見込まれる。
最低:平均体重1㎏未満の増減および/または基線からの7%以上
の増減例が10%と見込まれる。
(Hasnain M & Vieweg WV. Postgrad Med 125: 117-129, 2013)
主な向精神薬の体重増加の危険性(1)
向精神薬の種類 危険性 抗精神病薬 クロザピン オランザピン リスペリドン クエチアピン パリペリドン パーフェナジン アリピプラゾール 高 高 中間 中間 中間 低 最低 抗うつ薬 ミルタザピン パロキセチン フルボキサミン セルトラリン エスシタロプラム デュロキセチン トラゾドン 中間 低 最低 最低 最低 最低 最低
主な向精神薬の体重増加の危険性(2)
(6か月以上の長期) 向精神薬の種類 危険性 気分安定薬 リチウム 高 抗てんかん薬 バルプロ酸 カルバマゼピン ラモトリギン 高 低 最低 抗不安薬・睡眠薬 ジフェンヒドラミン ベンゾジアゼピン ゾピクロン ゾルピデム エスゾピクロン ラメルテオン 低 最低 最低 最低 最低 最低(Hasnain M & Vieweg WV. Postgrad Med 125: 117-129, 2013)
統合失調症の妊婦に対する
薬物療法の原則
49 統合失調症では、既に通院服用中の患者に妊娠が判明したり、
妊娠中に再発することによって精神科を再初診したりする場合
が多く、抗精神病薬による催奇形性の懸念よりも、母体の精神
症状の管理を重視して対応せざるをえないことが多い。
■抗精神病薬の中では、これまでの使用経験の相対的に長いク
ロルプロマジンやハロペリドールといった定型抗精神病薬が推
奨されているが、ハロペリドールは日本では使用禁忌である。
■非定型抗精神病薬の情報は定型抗精神病薬より限定されて
いるが、とくに母親への定型抗精神病薬の副作用を考えて、国
内外での使用経験が長いリスペリドン、クエチアピン、オランザ
ピン、アリピプラゾールなどを慎重に用いる。
既に多剤併用例や難治例では、これまでと別の薬物に変更す
ることによって再発する危険性よりも、これまでの処方を維持し
た方がうまくいくことが多い。
気分障害
抗うつ薬とうつ病の影響(1)
出生時の比較
抗うつ薬
うつ病
流産
妊娠初期の服用で危険性が
1.45倍高くなる
症例数が少なく、方法論的な問
題もあり、結論に達していない
発達への影響 頭囲増大が遅延する危険性
が高くなる
胎児の身体発達および頭囲増
大が遅延する危険性が高くなる
低出生体重
SSRIないしTCAの使用で危
険性が高くなる
危険性が高まるという研究もあ
るが、結論に達していない
胎齢より小さい SSRI使用で抗うつ薬未使用
よりも危険性が高くなる
危険性が高まるという研究もあ
るが、結論に達していない
早産(<37週) 危険性が高まるという研究も
あるが、結論に達していない
危険性が高まるという研究もあ
るが、結論に達していない
形態奇形
TCA、SSRI(とくにパロキセチ
ン)で両方の報告がある
研究報告がない
(Chaudron LH. Am J Psychiatry 170: 12-20, 2013)
51新生児の比較
抗うつ薬
うつ病
行動
TCAによる被刺激性、神経過
敏、けいれん、SSRIによる被
刺激性、頻呼吸、低血糖、体
温不安定、弱い/無叫声、け
いれんの危険性が高くなる
被刺激性、活動性や注意の
減弱、表情の乏しさなどの
危険性が高くなる
持続性肺高血
圧症
妊娠後期のSSRIにより危険
性が高まる、あるいは高まら
ないという両方の報告がある
研究報告がない
長期の成長、
IQおよび行動
ほとんどはSSRIないしTCAの
使用とは関係ないという報告
である
胎齢18-32週における抑う
つ症状により成長が大幅に
遅延する危険性が1.34倍高
くなるという報告もある
抗うつ薬とうつ病の影響(2)
52(Chaudron LH. Am J Psychiatry 170: 12-20, 2013)
53
突発的な自殺や精神病症状がない
中等度~重度のうつ病の症状がない
6か月以上抗うつ薬を服用している
反復性のうつ病の既往がない
⇩
服薬量を漸減し、妊娠前に中断することが適切と考える
1.服薬中で妊娠を検討しているうつ病患者
(Yonkers KA et al. Obstet Gynecol 114(3): 703-713, 2009)
(Yonkers KA et al. Gen Hosp Psychiatry 31: 403-413, 2009)
うつ病妊婦の治療指針
54
突発的な自殺や精神病症状がない
患者が薬物療法を望んでいない
⇩
心理療法を試みる
患者が薬物療法を望んでいる
心理療法だけではうまくいかないことがあった
⇩
母児に対する危険と恩恵を十分に考慮して
適切な抗うつ薬を用いる
2.服薬していないうつ病の妊婦
(Yonkers KA et al. Obstet Gynecol 114(3): 703-713, 2009)
(Yonkers KA et al. Gen Hosp Psychiatry 31: 403-413, 2009)
うつ病妊婦の治療指針
55
患者が薬物療法の中止を望んでいない
⇩
母児に対する危険と恩恵を十分に考慮して
薬物療法を継続する
患者が薬物療法の中止を望んでいる
中等度~重度のうつ病の症状がない
心理療法だけで失敗したことがない
⇩
服薬量を漸減し、症状が発現しなければ中止する
3.服薬しているうつ病の妊婦
(Yonkers KA et al. Obstet Gynecol 114(3): 703-713, 2009)
(Yonkers KA et al. Gen Hosp Psychiatry 31: 403-413, 2009)
うつ病妊婦の治療指針
双極性障害患者の妊娠中の再発
56妊娠前に双極性障害の既往が
あり、最近の月経周期前に少なく
とも4週間は気分が安定していた
患者で気分安定薬による治療を
受けていた89名のうち、治療継続
群27名と中断群62名を妊娠中の
40週間経過を追い、再発を調べた。
再発までの期間の中間値は、
中断群が9.0週であったのに対し
継続群は40週以上であった。
すべての再発患者63名の内訳は、
大うつ病41.3%、混合状態38.1%、
軽躁病11.1%、躁病9.5%であった。
57
リチウムをはじめとする気分安定薬を使用する目安
躁病相が軽く頻度も少ない場合は、
妊娠前に漸減して中止する。
躁病相がより強いものの短期間において再発
あるいは再燃の危険性が強くない場合は、
妊娠前に漸減・中止し、妊娠第
1三半期が過ぎた
後に再開する。
躁病相の症状が重篤で頻度も多い場合は、
第1三半期から継続して用いる。
(Viguera AC et al. Can J Psychiatry 47: 426-436, 2002)
気分障害の妊婦に対する
薬物療法の原則
58
うつ病では、抗うつ薬を服用中で妊娠を検討している患者には、
初回で軽症のうつ病の場合に限って、妊娠前までに服用量を
漸減し中断することが適切と考える。
抗うつ薬としては、これまでの使用経験が長い三環系抗うつ薬、
とくに副作用が少ないノリトリプチリンを用いるか、または母親
に対する副作用を考慮してフルボキサミンやセルトラリン、エス
シタロプラムを用いる。
双極性障害では、躁病相が軽く頻度も少ない場合は、妊娠前
までに漸減して中止することを試みてもよいが、妊娠中に継続
した方が妊娠中も産後も安定した精神状態を保てることが多い。
そう病相に対しては、日本ではリチウムが使用禁忌になっており、
また抗てんかん薬の催奇形性なども考えて、非定型抗精神病薬
やラモトリギンを用いる。
不安障害
不安障害の妊婦に対する
薬物療法の原則
60
不安障害の患者が妊娠を希望する場合には、あらかじめ向精
神薬を中止しておくことが望ましい。
パニック障害など一部を除き、基本的には症状があっても日常
生活に大きな支障を来さないことが多いので、十分な精神療法
や環境調整で対応するのが原則である。
薬物療法では、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は依存性の問題
もあり、できるだけ頓服で使用するようにし、パニック障害や強
迫性障害などではできる限り少量の三環系抗うつ薬ないしは
SSRI を使用するほうがよい。
眠剤は非ベンゾジアゼピン系のゾルピデムやゾピクロンを用い
るが、ヒドロキシジンは日本では使用禁忌とされているので、
注意が必要である。
てんかん
62
妊娠中のてんかん発作
発作の頻度と妊娠による変化については、70%以上の症例で発作頻度は
変化せず、約20%で増加、10%で減少する。
(兼子直.てんかん学の進歩(第3集): 189-201, 1996)
発作別に妊娠による変化をみると、服用が規則的であれば、全般発作の
83%、部分発作の76%で変化せず、逆に発作抑制が困難なことが多い複
雑部分発作で妊娠中に発作が増加しやすい。
(兼子直 他. てんかん治療研究振興財団研究年報 5 : 191-199, 1993)
妊娠前の発作抑制の程度がその後の発作発現の予測に役立つと考えら
れる。通常、発作の起こりやすい時期として妊娠初期が知られているが、
なかには妊娠初期と後期に多くなる二峰性を示すという報告もある。
(中根允文. てんかん学: 337-350, 1984)
葉酸の神経発達に及ぼす効果
63
(Meador KJ et al. Lancet Neurol 12: 244-252, 2013)
妊娠前後に葉酸を摂取 妊娠前後に葉酸を未摂取 平均106 (95%信頼区間102-110) 平均103 (95%信頼区間98-107) 葉酸の欠乏は神経系のアポトーシスを導き、神経前駆細胞を減少させるため、 このような現象が起こる。 抗てんかん薬を服用していた母親が、妊娠前後に葉酸を摂取していた群56名と 未摂取の群38名のそれぞれの児が6歳になった時点でのIQを比較した。
64
必要最小限の抗てんかん薬単剤で試みる。トリメタジオンは使用
せず、バルプロ酸投与が必要な症例では徐放剤が望ましい。単
剤での投与量の目安はプリミドン、カルバマゼピンは400mg、バル
プロ酸は1000mg、フェニトインは200mg/日以下が望ましい。
とくに避けるべき組み合わせは、フェニトインまたはカルバマゼピ
ンとバルビツール剤、バルプロ酸とカルバマゼピン。
妊娠前から葉酸の補充を行う(非妊娠時0.4mg/日、妊娠0.6mg/
日、授乳中0.5mg/日)。
定期的な胎児モニタリング、抗てんかん薬・葉酸濃度を測定する。
抗てんかん薬投与量の増量は服薬が規則的でかつ発作が悪化
したときのみ行う。
バルプロ酸、カルバマゼピンでは妊娠16週で血清AFPの測定、妊
娠18週で超音波診断を行う。
出産時には新生児出血を予防するため児にビタミンKを投与する。
授乳は原則的可能(ベンゾジアゼピンとバルビツール剤は注意)
(兼子 直ほか. てんかん研究 25(1): 27-31, 2007)
てんかんの妊婦に対する薬物療法の原則
(日本てんかん学会ガイドライン)
抗てんかん薬服用中の授乳は中止すべきか?
授乳は抗てんかん薬使用下でも原則的に可能である。
ただし、抗てんかん薬は母体血中から種々の割合で母乳中にも排泄されるが、
母乳中の濃度と母乳摂取乳児の血中濃度は必ずしも平行しない。母の抗てん
かん薬の母乳への移行にはタンパク結合率がもっとも大きく影響する。
■
プリミドンは母乳への移行(M/P比)が大きく、またフェノバルビタールは母乳
への移行は中等度だが半減期が長いため注意が必要である。
■
ゾニサミドやトピラマートは母乳への移行が大きく、乳児相対摂取量(RID)も
大きいため、やはり注意を要する。
これらの抗てんかん薬を服用している母親の場合は、新生児や乳児の状態を
注意深く観察し、離脱発作、傾眠、低緊張、哺乳力低下などの症状があれば、
母乳を控え、できれば血中濃度を測定するなどの臨機の対応をすべきである。
(てんかん治療ガイドライン2010, p125, 2010を改変)
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