氏 名 佐々木さ さ き 由ゆ梨り 学 位 の 種 類 博士 (医学) 学 位 記 番 号 乙第 734 号 学 位 授 与 年 月 日 平成 29 年 6 月 23 日 学 位 授 与 の 要 件 自治医科大学学位規定第4 条第 3 項該当 学 位 論 文 名 子宮頸がん検診におけるヒトパピローマウイルスDNA 検査の有用性 論 文 審 査 委 員 (委員長) 教授 藤 原 寛 行 (委 員) 教授 岡 本 宏 明 教授 水 上 浩 明
論文内容の要旨
1 研究目的 子宮頸癌の原因はヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus: 以下 HPV)の持続 感染であり、前癌病変を経て癌に進展する。従来先進諸外国の子宮頸がん検診は子宮頸部細 胞診によってなされてきたが、近年世界各国の研究結果により子宮頸がん検診の一次スクリ ーニングのモダリティーとしてHPV 検査を使用すべきという意見が一般的になりつつある。 しかしながら我が国の現状としては従来型の細胞診単独によるスクリーニングが未だ主流で ある。今後の日本の子宮頸がん検診にHPV 検査を導入するためのエビデンスを構築する目的 で、一次スクリーニングとしてHPV 検査と子宮頸部細胞診検査の両者を行った症例について 前向きコホート研究を行った。 2 研究方法 2005 年から 2006 年に子宮頸がん検診の一次スクリーングとして子宮頸部細胞診と HPV 検査を行った計5,065 例の女性を対象とした。尚、HPV 検査はハイブリッドキャプチャー2 (キアゲン;米国)を用いて、13 種のハイリスク HPV を検出した。ベースラインフェーズ として、エントリーした時点の細胞診およびHPV 検査の陽性率を 30 歳未満と 30 歳以上の 2 群で比較した。フォローアップフェーズではエントリー時に20-69 歳でかつ細胞診正常であ った症例に対し、HPV 陽性群と HPV 陰性群の 2 群に分けて前向きコホート研究を行った。 エンドポイントは子宮頸部上皮内病変(Cervical Intraepithelial Neoplasia; CIN)のうち CIN2 以上もしくは CIN3 以上の発生とし、2011 年の 12 月まで観察を行った。(n=2,383) 3 研究成果 ベースラインではエントリー時の HPV 陽性率は 30 歳未満で 20.7% (95% 信頼区間: 18.4–22.9; 255/1,234) と、30 歳以上の 7.2% (95% 信頼区間: 6.4–8.0; 275/3,831, p<0.001) を有意に上回るものであった。しかし、細胞診陽性率は30 歳未満で 2.7% (95% CI: 1.8–3.6; 33/1,234) 、30 歳以上で 2.4% (95% CI: 1.9-2.9; 91/3,831)と有意差を認めなかった。(p=0.55) フォローアップフェーズでは、エントリー時にHPV 陽性群が HPV 陰性群に比べて、CIN の 発生率が有意に高く (p<0.001)、HPV 陽性群の CIN2 以上を発生する相対リスクは陰性群の15.9 倍、CIN3 以上では 16.1 倍であった。 4 考察 子宮頸がん検診の効率的なプログラムをデザインするには、その国の検診精度や受診率、 経済状況、HPV 型の傾向の違いなどを加味して制定するものであり、国によってプロトコー ルが異なって然るべきである。海外においては子宮頸がん検診の一次スクリーニングとして 細胞診とHPV 検査を行った先行研究が複数存在するが、日本においては本研究が初めての長 期観察データでありこれからの日本の子宮頸がん検診の発展に貢献するものと期待する。 今後は細胞診とHPV 検査の併用検診あるいは HPV 単独検診のどちらがより効率的かという 検討と、HPV 検査を導入した場合の、対象年齢や検診間隔、フォローアップ方法などの具体 的項目のエビデンス構築が望まれる。 5 結論 HPV 検査は CIN2 ないし CIN3 以上の病変の発生予測に有用であり、初期スクリーニング ツールとして優れている。しかし、30 歳未満の若年層については偽陽性率が高いため細胞診 単独検診が適切である。
論文審査の結果の要旨
本学位論文は、子宮頸がん検診におけるヒトパピローマウイルス(HPV)DNA 検査の有用性を検証したものである。この検査を、検診で細胞診と併用で施行して いる地域において、検診データおよび精密検査結果を平均観察期間 80 か月以上と いう長期にわたってフォローした。ここから30歳未満は併用検診の適正年齢とは 言えないこと、またHPV-DNA 検査は将来の中等度、高度異形成への進展リスクの 高い集団を検診段階で抽出可能であることなどを示した。欧米ではこれらのデータ は存在するものの、本邦における併用検診のデータは少なく、我が国が精度の高い 検診を模索する現状においては貴重なデータと思われる。地域によって HPV 感染 率や検診受診率が異なるため、今回得られた本邦独自のデータは有意義なものであ る。特に精密検査施行施設が単施設であること、また病理判定を再度複数の病理医 によって行ったことなど、データの信頼度が高いことも評価される。 学位論文は、子宮頸がん発生メカニズムの記述追加、HPV-DNA 検査の詳細追加 (感度など)、誤字の修正、などの指示があったが、大きな変更、修正は要さなかっ た。 以上の観点から、学位論文として適当であり、委員全員一致で合格とした。試問の結果の要旨
申請者は、まず初めに子宮頸がんの病態、発生メカニズムを述べ、ヒトパピローマウイルス(HPV)が発生に強く関与していることを説明した。また検診において、より精度良く前がん 病変の段階、すなわち異形成で発見するためには、従来の細胞診による検診に加え、 HPV-DNA 検査を併用することの必要性、諸外国においては既に併用検診が行われている現 状などを述べた。本邦においてHPV-DNA 検査を検診において細胞診と併用した場合の詳細 なデータは無いため、多数のデータを長期に解析した本学位論文は我が国の併用検診制度の 確立へ向けての重要なデータとなることを解説した。 委員からはHPV がどのように子宮頸がん発生に関与しているのか、持続感染となるメカニ ズムは何か、特に宿主側の因子でわかっているものはないか、など発症メカニズムに関係す る質問があった。また HPV-DNA 検査そのものの精度や別の検査法などへの質問があった。 さらに、併用検診が全国で行われている割合や今後のあるべき検診像などの質問があった。 いずれの質問に対してもほぼ的確な回答をし、また真摯に答えていた。一部、回答が足りな い内容に関しては、論文修正で対応した。 以上、本領域に関して十分な知識を持っていると判断し、全員一致で合格とした。