• 検索結果がありません。

社会保障と世代間の公平(中嶌太一教授退官記念論文集)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "社会保障と世代間の公平(中嶌太一教授退官記念論文集)"

Copied!
19
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

社会保 障 と世代 間の公平

`よじ め に わが国の社会保障は高齢化社会 を迎 えて大 きな改革期 にあるが,改 革のキー ワー ドの 1つ になっているのが 「世代間の公平」である。年金,医 療,介 護サー ビスなど老後関連の制度では,世 代 間での負担 と給付の公平化 とい う観点か ら 改革が推進 されている。 年金の ような,世 代 間にわたる所得移転 を組織する制度では,負 担 と給付 に 関 して世代 間で大 きな不均衡が起 こらない ような一定のルール,基 準があるこ とがのぞましい。多 くの国民が納得で きる合理的なルール,基 準が確立 されれ ば,制 度の持続的安定 にも役立つであろう。 しか し,い われている 「世代間の公平」 を子細 に検討 してみると,そ の意味 や方法は必ず しも明瞭ではない。年金 と医療 とは制度的仕組みや問題の性格が 異 なってお り,一 概 には論 じられない。医療分野で世代間負担の公平 を図ると して拡大 されている高齢者負担 には,論 拠や実行可能性の疑わ しい点が多 々あ る。年金では,単 に給付や負担が世代 間で均衡 さえ していればよいのか,社 会 保障の 目的である老後生活保障はどの ように位置づ け られるのか といった問題 がある。 さらに,「世代 間の公平」は社会保障の レベルだけで考えてよいのか, 社会資本や家族関係 における世代 間の所得移転 も視野 に入れて トー タルに評価 すべ きではないか といった疑問 もある。 小論では,い まのべ た諸点 を検討 しなが ら,世 代 間公平の基準 を考 えてみた い 。 夫 立 目 瀬 成

(2)

48 中 葺太一教授退官記念論文集 (第315号 ) I.社 会保障改革 と世代間の公平問題 わが国の社会保障制度 において,世 代 間の給付や負担の格差が意識 され,そ の公平化が叫ばれるようになったのは1980年代以降である。い うまで もな く, その背景 には,人 口の少子 ・高齢化の急速 な進展がある。 年金 をめ く`る世代間公平問題の発瑞は,1973年 (昭和48年)の 制度改正にあっ た といって よいであろう。1973年改正は,そ れまで 「1万 円年金」 とか 「2万 円年金」 とか給付水準が単純 な一定額であった ものを,賃 金スライ ド制 を導入 して現在加入者の平均賃金の一定率 (60%)と し,過 去の標準報酬月額の再評 価 を導入 し,さ らに物価スライ ド制 を採用 した。それにともない,年 金の財政 方式 も,積 立方式か ら実質的に賦課方式へ と転換することになった。 この改正 は,公 的年金制度が国民の老後生活保障の柱 であることを認め,老 人の経済生 活 を現役世代 のそれか ら大 きく立 ち遅れない ようにす るものであ り,生 活水準 1 ) の世代 間公平 を図った ともいえる画期的な改革であった。だが,年 金の賦課方 式 は,人 口構造の変動の少 ない時期 には世代 間の格差 ・不均衡 といつた問題が 生 じないが,あ とで ものべ るように,人 口構造の急速な高齢化が進むとこうし た問題が生 じて くる。 1 9 8 0 年代以降,政 府 は,一 方では高齢化社会への対応 として基礎年金の導入 や女性の年金権の確立 などを図 りなが ら,他 方では人口構造の高齢化 による年 金財政の将来見通 しの悪化や年金 をめ ぐる世代 間の格差 ・不均衡のおそれを強 調す るようにな り,そ れ とのかかわ りで保険料の段階的引 き上げ,給 付額の段 階的引 き下げ,支 給開始年齢の引 き上げなどを推進 しは じめた。 9 0 年代 は,こ うした路線の もとで,年 金改革の論議 は,世 代間の負担の公平 をいかに確保す るか を中心 に展開されている。厚生省は,1997年12月厚生年金 の負担 と給付 のあ り方の枠組みについて 「5 つの選択」 を提示 した。その内容 は,現 行 (1994年改正)の 給付水準や支給開始年齢 を維持すれば,厚 生年金の 1)年 金制度の1973年改正の意義 については,牛 九聡 『公的年金の財政方式』東洋経済新報 社,1996年 ,第 6章 を参照。

(3)

社会保障と世代間の公平 4 9 最終保険料率 ( 2 0 2 5 年) は 月収の3 4 . 3 0 / 0 になる とい う案か ら,保 険料率 を30% 以内,20%程 度,現 状維持程度 に してそれぞれ給付 をその範囲内にお さまるよ うに抑 える案,さ らには公的年金は基礎年金のみ とし,厚 生年金 を廃止する案 まで を含んでいると厚生省の年金改革案は,国 民の老後生活保障における公的 年金制度の役割 を基本的に重視す る姿勢 を示 してはいるが, 給 付水準 は選択 さ れる保険料率の範囲内 とされ,公 的年金が今後 どの程度 に老後生活保障の水準 を維持すべ きかの考 え方や基準 は明確 にされていない。 医療 をめ く`る世代 間問題 は,老 人医療費の増大 とかかわっている。国民医療 費 に占める老人医療費の比重が年々高 くなっていることか ら, わ が国の医療費 の構造 は現役世代 か ら老人世代への所得移転 とい う性格 を強めている。 た だ し,医 療費の世代 間公平問題が議論 されているのは,そ れだけの理由ではない。 これまでの医療保障制度は,老 人世代が低所得であることを前提 に現役世代か ら老人への所得移転 を認めて きたが,現 在の老人はフロー所得の面では低所得 であるものの,ス トック (家 ・土地などの資産)面 では貧 しい とはいえないの ではないか とい うことが主張 されているのである。そこか ら,老 人にも積極的 に負担 をして もらうべ きであるとして,医 療費の一部負担の拡大や,現 行の老 人保健制度の代 わ りに高齢者 自身をも被保険者 とする独立 した高齢者医療保険 制度 を創設す る案が提起 されて きた。医療費の一部負担では,1997年 9月 1日 か ら,70歳 以上の老人息者の外来や入院時の負担が大幅に引 き上げられたが, 2 ) 厚 生省の F 平成 9 年 度版年金 白書』 は, 「 5 つ の選択肢」 を提示 した理由について, 「公 的年金制度 を長期的に安定 して運営 してい くためには, 給 付 と負担の均衡 を図ることが不 可欠です。 このため, 年 金改革 に当たっては, 給 付 と負担 をどの ような水準 で均衡 させ る かが最 も重要な課題 となってい ます。 また, そ の検討 を進める場合, そ れぞれの改革案の 具体 的内容 とそれが給付 や負担 に及ぼす影響 を具体 的数値 で示 さなければ, 年 金改革 をめ ぐる議論 は進展 しないで しょう」 とのべ てい る。 ( 厚生省年金局監1 夕『平成 9 年 度版年金 白書 - 2 1 世 紀 の年金 を 「選択」す る』側社会保険研 究所, 1 9 9 8 年, 5 - 8 ベ ージ。) 厚生省 の 「5 つ の選択肢」 は, 年 金の給付水準 は選択 される保険料率の範囲内 とされ, 要す るに 「安 か ろ う悪 かろ う」 「良か ろ う高か ろ う」 の選択 を追 る ものであ る。現状 よ り 高負担低給付 の方向 に世論誘導す るね らいが強いが, 問 題点 は, 本 文で触 れた ように, 公 的年金が今後 どの程度 に老後生活保障の水準 を維持すべ きかの考 え方や基準 を明確 に して いない こと, ま た財政方式や勤労者, 企 業, 国 の負担関係 などを明確 に示 していない こと である。

(4)

5 0 中 革太一教授退官記念論文集 (第315号) さらに老人息者 の負担 を定率制 に変更す る方針 が検討 されている。高齢者医療 3 ) 保険制度は,厚 生省が西暦2000年度か らの導入方針 を打 ち出 している。 社会保険 を高齢者 に対 しては別立てにす る とい う点で先鞭 をつけ, 高 齢者医 療保険導入の 「露払い」の役 とみなされているのが西暦2000年4月 1日 か らス ター トする公的介護保険制度である。介護保険制度では高齢者 自身が被保険者 とされ,年 金か ら保険料 (第1号保険料)が 源泉徴収 され,利 用料 も負担 しな 4 ) けれ ば な らない。 以上 の よ うに, 世 代 問公平 の観点 か らす る社 会保 障改革 は, 年 金 においては 現 役 世代 の負担軽 減 を理 由 と した給付 水準 の引 き下 げや支給 開始年齢 の引 き上 げ な どが, 医 療 や介護サ ー ビス においては高齢者 の直接負担 を導入 ・拡大 した り, 高 齢者 自身 を被保 険者 とす る社 会保険 を創設 した りす る方向が展 開 されて い る。 そ こで, ま ず高齢者負担 を導入 ・拡大す る こ との論拠 や内容 について, 少 し 詳 し く取 り上 げ て検 討 してみ よう。 3)厚 生省の高齢者医療保険制度の倉J設構想 については,「21世紀の医療保険制度 (厚生省 案)一 医療保険及 び医療供給体制の抜本 的改革の方向」,1997年 8月 7日 ,を 参照。 4)池 田省三 は,介 護保険制度や高齢者医療保険制度 といった 「高齢者保険」の登場 は, 「高齢者 を新 たな所得階層 として とらえ,新 たな負担 を求め ようとする動 きを示 している」 「従来,高 齢者 は所得のない 『社会的弱者』 として考 え られていたが,年 金制度の成熟 に よる所得保障が定着 しつつあ り,現 役世代 を上回る資産 を所有 している場合 も多い。今後 の高齢化の進捗 を踏 まえ,年 金,医 療,介 護の重複給付 を避け,年 金 とい う所得保障 を医 療,介 護サ ー ビスに還流 させ るシステムが構想 されている といって よい」 とし,ま た,介 護保 険の第1号保険料が年金給付 か ら源泉徴収 され ることは実質的 な年金給付水準 の引 き 下 げになる ことを指摘 してい る (池田省三 「社会福祉 政策 を転換す る介護保険」 Fジュ リ ス ト』No。11311998.4.1,参照)。 「高齢者医療保険」創設政策 は,ま さに高齢者 にその年金所得か ら医療費 も負担 させ て い くシステムづ くりであるといって よいが,年 金所得保障 自体 を長期的に抑制 しようとし ているので,そ の矛盾 はいっそ う大 きい といわなければならない。

(5)

社会保障と世代間の公平 5 1 正. 高 齢者 の負担拡大論 の問題点 1 , 「 老人は社会的弱者でない」論 高齢者負担 を導入 ・拡大す る論拠 とされているのは, す でに触れたように, わが国の高齢者はフローの面か らは低所得者であつて も資産保有の面か らは貧 しい とはいえず,「社会的弱者」では もはやないのではないか とい う認識であ る。 例 えば,漆 博雄は,「老人は基本的に年金生活 を送 つているか ら,フ ローの 所得 は若年者 に比べ ると低 い。 しか しなが ら,あ る人が社会的な弱者であるか どうかはフローの所得 とともにどれだけの資産 (ストック)を 保有 しているか にも依存する」 とし,高 山憲之達が明 らかに した,1984年 における老人世帯の 正味資産保有額が平均世帯の1.6倍であることに触れ,「このように多 くの資産 を保有 している老人が,は た して社会的弱者 といえるであろうか。整備 された 年金制度の もとで,多 くの資産 を保有 している老人は, もはや社会的弱者 とは いえない」「現行 の老人保健制度 は,老 人はすべ て社会的な弱者であるとい う ことを前提 としている。 しか しなが ら,老 人 といつて も本当に貧 しい老人か ら 資産保有額の多い老人 までいろいろである。社会的な弱者 とい うのは, 所 得が 少 な く資産保有額 も少 ない人の ことをい うのであって, 年 齢 によつて規定す る ものではない。貧 しい老人に対 して所得 を移転することは分配の公平性の観点 か ら望 ましいことであるが,老 人すべてに所得移転することは分配の公平性の 5 ) 観点か ら問題がある」 とのべ ている。 以上の ような論拠 に もとづいて高齢者の負担 を導入 ・拡大 しようとするさま 5)漆 博雄 「国民健康保険お よび老人保健制度の財源問題」社会保障研究所編 F社会保障の 財源政策』東京大学 出版会,1994年 ,153-154ページ。漆 は,「老人が社会的弱者でないと す る と,老 人医療費の うち老人が負担する害J合をもっと増やすべ き」であるとし,そ の方 法 と して,土 地信託 の ようにス トックをフロー化 して老人の一部負担 を増やす方法 と,老 人が 自分で積み立 てた保険料 か ら老人医療費が支払 われる長期型 の老 人医療保険制度の創 設 とい う方法 をあげている。 高 山等の研究 は,高 山憲之編著 『ス トック ・エ コノ ミー ー 資産形成 と貯蓄 ・年金の経 済分析―』東洋経済新報社 ,1992年 ,参 照。

(6)

5 2 中 阜太一教授退官記念論文集 (第315号) ざまなアイデアが出 されているが,そ れ らを取 り上げる前 に,「老人は社会的 弱者ではない」 とい う見解 について,若 子の問題 を指摘 しておこう。 社会的弱者 を定義する場合,経 済的弱者か どうか と,心 身の健康 にかかわる 生理的弱者か どうか とい う二つのポイン トが指摘 されよう。経済的弱者か どう かではフローの所得水準がやは り無視で きない し,生 理的弱者か どうかでは年 齢 とい う要素がやは り無視で きない と思われる。 第 1 に ,老 人世帯がス トックの保有面で平均以上の水準 にあるといって も, そ うしたス トックは通常,持 ち家 なら住 むには困 らない とい う意味であつて, それによって必ず しも日常の生活費が潤沢であることを意味するものではない。 ある高齢者が 自己の生活手段以上 に活用で きる土地や家屋 を保有 し,地 代や家 賃の収入 を得 てフロー所得の面で も潤 つているな らば,少 な くとも経済的弱者 とはいえないであろう。経済的弱者でない老人 とい うのは,こ のように自己の 生活手段 の範囲を超 えて資産 を保有 ・運用 し,収 入額 も多い層 とい うことにな るが,そ うした人々は老人層全体の中で きわめて限 られたな存在であると思わ れる。大半の高齢者の保有 しているス トックは生活手段 としての目的 ・範囲内 にある ものであって,資 産所得 を稼 ぎ出す手段ではない。 日常の生活費 とい う 点では,実 際 に重要なのはフローの所得である。 第 2 に ,人 は高齢化 にともなって身体的不 自由が増 し,病 気がちとな り,他 者 による看護や介護が必要 となる。個人差はあるとして も,高 齢者のほとんど が加齢 にともなって家族や社会的サービスに依存する度合いが高 くなってい く ことは避 け られない。乳幼児や低年齢児童,高 齢の老人は,こ のように年齢 に よって規定 される社会的弱者のグループである。社会 における年齢規範は時代 とともに変化する。現代 は老人を 「社会的弱者」扱いせず,就 労面や社会参加 面で活動的に位置づけ,「積極的な高齢期」が語 られる時代 である。 したが っ て,「何歳か ら老人か」 といつた規定 は難 しいが,身 心の能力の低下 と,そ の ために就労 による稼得能力や稼得機会が大 きく後退する年齢 は平均 して60歳代 の半 ばにあ り,70歳 を超 えることはまずあ りえないであろう。 以上の ように考 えると,老 人は一般 にはやは り社会的弱者であるとみなすべ

(7)

社会保障 と世代 間の公平 きであろう。 2.高 齢者負担の拡大方法 高齢者への負担を新たに導入 した り拡大 しようとする政策的アイデアには, 以下のようなものがある。 ① ス トックのフロー化政策 ス トックのフロー化政策にも2種 類ある。 1つ は,近 年アメリカなどで急速 に普及 している 「住宅資産活用」 (home equity converslon)などを参考に検 討 されているリバース ・モーゲージ (逆住宅担保貸付制度)で ,高 齢者が保有 する住宅や土地などの資産を担保に金融機関が生活資金を融資する制度を整備 しようとするものである。 もう1つ は,わ が国の武蔵野市の福祉公社のように, 資産を担保に,そ の価額の範囲内で在宅介護サービスを受けられるようにする ものである。

② ストック評価による負担増大政策

社会保障負担 との関連では,た とえば国民健康保険の保険料の応能割が所得 割以外 に資産割 も賦課することがで きるのに,現 状では一部の保険者が賦課 し てお らず,こ れを全保険者が賦課すべ きとするものであると ③ 医療保険の老人別立て政策 高齢者医療保険制度が導入されると,国 民は,若 年時から現行制度 と新制度 の二つに加入 して保険料を払い,高 齢者になっても新制度の被保険者として保 険料 を払い続けるかたちか,あ るいは若年時は現行制度に加入 し,高 齢者時に は新制度に移ってその被保険者 として保険料を払 うかたちなどが考えられる。 以上のアイディアについて,順 次検討 してみよう。 まず① のス トックのフロー化政策は,社 会保障の財源対策 として呆た して有 効であろうか。住宅資産活用の海外での状況に関する研究によれば,フ ランス, イギ リス,カ ナダ,ア メリカなどの動向が注 目されている。国によって制度の 6 ) こ うした全市町村国保 に資産割 を導入すべ きであるとい う主張 については, 岡 崎昭 『医 療保障 とその仕組み』晃洋書房, 1 9 9 5 年, 第 6 章 , 参 照。

(8)

5 4 中 革太一教授退官記念論文集 (第315号)

ヴ ァリエ ー シ ョンはあ るが,基 本 的 な形態 は公 的部 門や民 間金融機 関が個 人保 有 の住 宅 に対 して抵 当融資 を行 った り, 住 宅の売却代 金 を終 身年金化 した りし て,住 宅保有者 に老後生活資 金 を提供 す る ものであ る。 なかで も多彩 な事業が 展 開 され てい るの は ア メ リカで あ って, “住 宅 は所有 してい るが,収 入 に乏 し い (house rich and cash poor)"高齢 者層 の増 大 を背景 に, 地 方 自治体 や州 政府 な どの公 的部 門あ るいは民 間金融機 関 に よる逆住宅担保貸付制度が発展 し 7 ) て きた。 しか しなが ら,海 外 の事例 は,公 的な社会サービスの費用負担 とリンクさせ た り,社 会保障の財源 に取 り込 むような性質の ものではない。それ らは,個 人 の老後生活資金 を融通する制度であ り,持 ち家や土地持 ちの高齢者層の自助支 援策 にとどまるものであって,社 会保障 とは無関係 といってよい。公的な社会 サー ビスの費用負担 と直接 リンクさせた り,社 会保障の財源 に直接取 り込むよ うな方法は,今 の ところわが国の武蔵野市の福祉公社が数少ない事例であると 8 ) いえる。逆住宅 ロー ン制度 によるス トックのフロー化政策は,世 代問負担の公 平の観点か ら社会保障の財源 を高齢者 に拡大す る政策 とい うよりもむ しろ,そ う した高齢者の 自助 によって,「将来,社 会保障負担の増大 をい くらかで も抑 9 ) 制することが期待 される」 といった意味合いしか持たない政策 といってよいで あろう。 ② に関 しては,資 産保有の不平等 を固定資産税 などの税制で是正することは すでに行われてお り,高 齢者の保有する資産 も例外ではない。ただ し,社 会保 障の費用負担 とリンクさせ ようとすると,高 齢者の低水準のフロー所得 を圧迫 7)前 川寛 「住宅資産活用 による老後の生活保障J社 会保障研究所編 『社会保障の財源政策』, 前掲 ,参 照③ 8)武 蔵野市が1981年に始めた有料在宅福祉サー ビスは,わ が国における地方 自治体関連の リバ ー ス ・モーゲー ジの第1号である。1990年には東京 ・世田谷区が民間金融機関の融資 斡旋方式 を採用 し,現 在全国で17の自治体が導入 しているといわれている。神戸市 も,震 災対策が らみで リバ ース ・モーゲージによる融資制度 「神戸市被災高齢者向け終身生活貸 付」 を始 めた。 ただ し, リバ‐ス ・モーゲージは,地 価下落などで担保切れによる融資や サ ー ビスのス トップのおそれがあ り,武 蔵野市で も契約 は25世帯 に とどまっている (「老 後 アシス ト F逆ロー ン』」読売新 聞,1998年 8月 11日付 け)。 9)前 川寛,前 掲,247ベ ージ。

(9)

社会保障 と世代 間の公平 して負担能力 を超 える反福祉的な改革にな りかねない。国保料の場合,東 京都 区部や政令指定都市 を始め として都市部の保険者 (市町村)が 資産割 を賦課 し なかった り,か つては賦課 していたが相当以前 に賦課 しな くなったのは,居 住 用資産が多い こと,賃 貸 アパー トなど居住用以外の資産はその収入が所得割で 補足 されること,市 域外の固定資産や共有名義の資産は把握や害J合算定が難 し い ことなどの理由か らである。 また,す でに所得害Jが高水準になってお り,低 所得者の保険料の未納,未 徴収等が相当ひろがっている状況 もある。国保の全 保険者 に資産割 を一斉 に賦課 させ るとい うのは,か な り現実離れ したアイデア といわなければならない。 ③ の別立 て医療保険制度 に関 しては,老 人医療費問題 を新制度 に転嫁するだ けであつて,問 題 自体の解決が図 られるとは思われない。医療保険は,本 来的 に矛盾 を抱 えている。保険は元来事故発生率が同一 とみなされる集国内での リ ス ク分散 をはかる制度であるが,全 世代 をカバーする医療保険は,世 代間で疾 病率や受療率が大 きく異な り, しか もそれ ら疾病率や受療率が高い世代が負担 能力が低 い とい う問題 をかかえる。 この点か らいえば,高 齢者世代 を医療保険 に包摂することには基本的な限界がある。わが国の医療保険制度では,そ のた め全世代 をカバーする単一の医療保険制度は設置 されず,疾 病率や受療率の高 い老人層 は長 らく国民健康保険制度下 に置かれ,次 にはそれにかかる医療費負 担が老健制度 に移 されて きた。 それ を今度は高齢者 を主たる対象 とした新保険制度 を創設 しようとするわけ である。新 しい高齢者保険が,高 齢者 に対 して若い時期か ら積立てを行わせ る 「生涯型」の ものか,特 定年齢た とえば70歳以上の高齢者だけを囲い込むかた ちで被保険者 とするのか不明であるが,前 者であれば現役世代の保険料はこれ まで よ り軽減 されることはな く,新 制度分だけ重 くなる。後者の方式で高齢者 が介護保険の第 1号 保険料の ように年金給付か ら保険料 を源泉徴収 されること になれば,年 金給付 の実質的削減 となって,そ れに対する高齢者層の強い反発 が予想 される。いずれ に して も,老 人医療保険の創設 によって医療費負担の 「世代 間公平」が改善 されることにはならず,保 険方式で老人医療問題 を解決

(10)

5 6 中 阜太一教授退官記念論文集 (第315号)

することの無理, 限 界を反って際立たせることになろう。

皿.世 代間負担問題への視点 1.年 金 ・医療の世代 間負担関係 年金制度 をめ ぐって世代 間公平の問題が発生 したのは,す でに触れたように, 1973年の制度改正 によってである。年金受給者にも現役世代の生活水準か ら著 しく見劣 りしない生活水準 を保障するために給付額の賃金スライ ド制や物価ス ライ ド制が導入 され,年 金の給付財源の調達方式が実質賦課方式へ転換 された。 この ように年金の世代 間公平関係 においては,現 役世代か らともすれば取 り残 されが ちな高齢者世代 に生活水準の世代間公平 を実現するとい うのが まず基本 的な言果題 となる。 年金保険制度のあ り方か らいえば,完 全積立方式はこの課題 を達成で きない。 完全積立方式は,特 定世代 グループごとに保険料 を積立てて,そ の範囲で給付 を行 うとい う,保 険原理 に忠実な方式である。そこでは,世 代 間の関係 は遮断 され,世 代 間の公平や不公平 といったことは問題 にな りえない。 しか し,公 的 年金制度 は,保 険原理 に忠実であるだけではす まない。あ くまで高齢者の経済 生活の保障にその役割があ り,そ の役割 を担 うところに公的年金制度の公的た る所以があるか らである。高齢者の経済生活の保障において,完 全積立方式が 限界 をもつのは,周 知の ようにインフレーションや生活水準の変動 といった不 確実性 に対応で きない ことである。公的年金制度が,こ うした不確実性 に対応 しなが らなおかつ高齢者 に現役世代か ら取 り残 されない生活水準 を保障 しよう とすれば,給 付水準 を現役世代の賃金や物価水準 にスライ ドさせ,財 源の調達 方式 を賦課方式へ転換せ ざるをえない。 世代 間の問題 は,こ こか ら生 じる。賦課方式 は,い まのべたような世代間の 生活水準の公平 を優先すれば避け られない方式であるが,高 齢者の年金生活費 用 を現役世代へ負担転嫁する性格 をもち,ま た人口構造の変動か ら大 きな影響 を受ける。老年人口比率が安定 した社会では,各 世代の負担 と給付の水準 もだ いたい安定 して推移すると考 えられるが,人 口構造が大 きく変動 し老年人口比

(11)

社会保障と世代間の公平 5 7 率が急速 に高 くなってい くような時期 においては,給 付水準 を維持 しようとす れば現役世代の負担 は急速 に重 くなっていかざるをえない。現在わが国が直面 している年金の世代 間負担の不公平 とい う問題 は,以 上の ような急激な人口高 齢化の もとでの賦課方式が もつ問題である。 医療 については,老 人医療費の高い伸 び率の背景 に,医 療ニーズの相対的に 大 きい高齢者人口の増加があることは明 らかである。その結果医療費の中での 老人医療費の比重 も高 まっている。 しか し,こ うした傾向を世代 間の公平 ・不 公平問題 として とらえ,高 齢者 に対 してより重い負担 を課 してい くことには基 本的な問題がある と考 えられる。先 に,老 人は生理的弱者である とのべ たよう に,そ もそ も人間は健康面では年齢的に公平ではない。人口高齢化 によって世 の中で老人の数が増 えて,医 療費が老人にシフ トしてい く現象が強 まるのは当 然の傾 向であろう。それは,世 代 間の関係 として公平か,不 公平かを論 じる議 論 にな じまない問題 といえよう。換言すれば,医 療費の負担 に関 しては,老 後 においては自分 も公平 に医療サービスを受け られることを前提 に して,相 対的 に健丈 な現役世代が老人世代の医療費 を基本的に負担することは,人 間社会の 世代 間関係の当た り前の姿であると思われる。高齢化社会の到来は,こ うした 当た り前の姿の具現 を要請 していると考 えるべ きであろう。 国民医療費のなかで老人医療費が医療保険制度 に包摂す ることがな じみ に く い部分であるとするならば,公 的負担の拡大 によってカバーされるべ きもの と 考 えられる。 10)老 人医療費の割合が上昇 しているといって も,わ が国の国民医療費の増大の原因をもっ ぱ ら老人医療費 に求めることには根本的な疑問 も存在する。老人以外の医療費 も上昇 して いることや,医 療費の約 3割 を占める医薬品費が国際的に見て割高であることなどの指摘 が な されている。二木立 は, とくに,人 口高齢化が医療費増加の主因で,老 人の 「社会的 入院」が医療保険財政 を圧迫 して きた とい う常識論 に対 して,わ が国では老人保健法の施 行以来,老 人医療費 は過度 に抑制 されて きた と指摘 している (二木立 『日本の医療費一 国 際比較の視角か ら一 』医学書 院,1995年 ,第 1章 参照)。

(12)

5 8 中 革太一教授退官記念論文集 (第315号) 2 . 世 代 間所得移転 の トー タル な評価 社 会保 障改革 は,社 会 的保 障制度 内の世代 聞公平 の視点 に よって進 め られて い るが ,社 会保 障以外 か らも世代 間における所得移転 関係 を見 た とき,そ の関 係 は果 た して不均衡 ,不 公平 か どうか,実 は この点 に関 して も検討 を要す る。 第 1 に , 年 金や医療 で は,現 役 世代 や子 の世代 か ら高齢者 や親 の世代へ所得 移転 が な されてい る と して も,道 路 や学校 とい った社会資本 ,公 的教育サ ー ビ スの面 で は逆 の所得 移転が成立 してい る と考 え られる。社会資本 は,高 齢者世 代 や現役 世代 の負担 に よつて建設整備 され,現 役世代 も一定期 間利用す るが, よ り長期 的 には負担 しなか った将来世代 が主 な受益 者 になってい くと考 え られ 1 1 ) るか らである。 年金 を 「未来か らの贈 り物」 と呼べば,道 路や橋 などは 「過去か らの贈 り物」 である。ちなみに,わ が回は諸外国 と比べ ると公共投資の規模が異常 に大 きい。 わが国の一般政府固定資本形成の対GDP比 は5.6%,ア メリカは1.7%, ドイツ は2.2%,フ ランスは3.5%(い ずれ も1992年)で ある。公共投資 (行政投資) と社会保障給付費の財政規模 を比較すると,1994年 度の公共投資は約47兆8000 億 円,社 会保障給付費は約60兆4618億円 (内訳 は,医 療22兆8746億円,年 金 ・ その他31兆24億円)で ある。同年の社会保障給付費の うち高齢者関係給付費は 37兆3058億円 (内訳 は,年 金保険給付費28兆6188億円,老 人保健給付費7兆7804 億 円,老 人福祉サー ビス費9066億円)で ,社 会保障給付費の61.7%を占めてい る。公共投資の額は高齢者関連給付費の1.28倍,年 金保険給付費の約1.5倍の 規模 に達 している。公共投資 と年金の比較 にだけ目をやれば,わ が国は 「未来 か らの贈 り物」 よりも 「過去か らの贈 り物」がはるかに多い国 といってよい。 社会保障などによる負担の世代 間移転問題は,ア メリカで も福祉縮減や政府 予算の均衡化 を訴 える保守派によって政治的論争 となって きたが,ロ バー ト・ アイスナーは,連 邦政府の債務 を単純 に将来世代の正味の課税や負担の増大で 11)近 年では,有 料道路の料金決定 に も世代 間負担の公平の観点が取 り入れ られ ようとして いる。最近の道路審議会では,一 般有料道路の料金原則の一つである 「償還主義」 に関 し て,従 来償還期 間が30年以内 とされていたの を,料 金水準の抑制,世 代 間負担の公平性 の 観点か ら償還期 間の延長 をはかる議論が なされている。

(13)

社会保障と世代間の公平 5 9 あ り若 い世代 の将来 を奪 うものであ る とす る主張 に反論 し,社 会保 障 な どを通 じて親 を扶養す るため に生 じる公 的債務 は,他 方 ですべ ての子 どもや若 い世代 へ の保健 ,育 児,教 育 ,環 境保護の積極的 なプログラム を通 じて彼 らに彼 らの 1 2 ) 将来 を返す関係 にある とのべ ている。 第 2 に ,家 族関係では,親 か ら子へ,老 人世代か ら現役世代への さまざまな 所得移転関係が存在 している。宮島洋は,勤 労者世代が負担 し高齢者世代 に所 得移転 される年金保険料額 と,高 齢者世代が勤労者世代 に所得移転する遺産 ・ 贈与の額 とを比較 して,1992年 においては年金保険料額が25兆円,遺 産 ・贈与 1 3 ) 額 が20兆 円で あ る と推計 してい る。 この ような家族 関係 に よる世代 問負担 の相 殺 説 も,世 代 間負担 の公平 をめ く`って一方 的 に高齢者世代 有利 ,現 役世代不利 を描 く図式 に対 して有力 な反論 となってい る。 厚 生省 の F平成 9年 度版 年 金 自書 』 は,こ う した反論 を意識 してか,世 代 間 の公平 に関す る考 え方 について慎重 を装 い,以 下の ような留意点 をあげている。 「公 的年金 は,社 会保 障の 1つ であ り,必 要が あ る人 に給付 を行 うため に, その費用 は社会全体 で負担す る ものです。 このため,終 身年金 であ るこ と,実 質価値 の維持 が はか られてい る こ とな どの特徴 を もってい ます。公 的年金 は, 基本 的 に,払 った保 険料 が その まま戻 って くる とか こない とかい うような性格 の もので はあ りませ ん。公 的年金 は,社 会全体 の助 け合 いの制度 ですか ら,貯 蓄 や投 資 の ような損得論 は本 来 な じみ に くいのです。 ……現在年金 を受給 している世代は保険料負担は小 さいものの,厚 生年金制 度が本格的に適用 されなかった自分の親 を私的に扶養 して きています。 公的年金 は現役世代か ら高齢者世代への所得の移転 ととらえられますが, 逆 1 2 ) R o b e r t E i s n e r , T h e W I i s u n d e r s t o o d E c o n o m y : ヽV h a t c o u n t s a n d h o w t o c o u n t i t , H a t t a r d B u s i n e s s S c h o o l P r e s s , 1 9 9 4 . 都留重人監訳 『経済の誤解 を解 く』 日本経済新 聞社 , 1 9 9 5 年, 第 6 章 「赤 ん坊 と年寄 りを助 けること一社会保障 とその他世代 間移転 につ いての神話J , 参 照。 なお, 同 書の監訳者の都留重人は, 別 の ところでアイスナーの議論 に触れ, 「日本での 最近の論調 の中には, ア イスナーがアメリカで批判の対象 としている短絡的立言が少な く ない」 とのべ ている ( 都留重人 「社 会保 障制度 の課題 と問題点」 『季刊 ・社会保障研 究』 1 9 9 7 年春, V o l . 3 2 N O , 4 , 3 8 9 3 9 0 ページ) 。 1 3 ) 宮 島洋 『国民経済 と社会保障』 自治総研 ブ ックレッ ト4 6 , 1 9 9 5 年, 5 1 5 3 ペ ージ。

(14)

6 0 中 革太一教授退官記念論文集 (第315号) に高齢者世代 か ら現役世代へ の所得 の移転 もあ ります。年金 を受給 してい る高 齢 者 は教 育 費 , 住 宅取得費, 結 婚費用 な ど種種 の形 で現役世代 に経 済的援助 を 行 ってい ます し, 最 終 的 には高齢者 の財 産 は遺産 と して相続 され るこ とにな り ます。 また,高 齢者世代 の努力 で整備 されて きた教育や社会資本 を現役世代 や 将 来世代 は享受 で きる とい う面 もあ ります。年 金 の給付 と負担 だけ と りあ げて 世代 間の公平 を論 ず るの は必 ず しも適 当で ない とい えます。」 しか し,F白 書』では結局,将 来世代の負担があま りにも重 く,世 代 間の給 付 と負担の不均衡が大 きくなる と,若 い世代の年金への理解が得 られな くなる として,「高齢者世代 にも若い世代 に も納得で きる年金制度 に再構築 してい く 必要」 を説いている。 しか し以上の ように,社 会保障だけでな く社会資本や公 教育,家 族関係 などを通ずる所得移転関係 を トータルに評価すると,世 代 間の 関係 は一概 に高齢者世代 に有利,現 役世代 に不利で不公平だとはいえず, もっ ぱ ら年金や医療 だけの負担 と給付の世代 間不均衡 を理由に社会保障改革 を推 し 進めることには根本的な疑問が提示 される。 世代 間の所得移転関係 現役 。子から高齢者 ・親ヘ 高齢者 ・親から現役 ・子ヘ 社会保障 金 療 護 祉 福 △ ム 年 医 介 社 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ネ十考挙 家 族 児 育 護 養 続 産 育 教 介 扶 財 ○ ○ ○ ○   ○ ○ 14)厚 生省年金局監修 『平成9年度版年金 自書』,前掲 ,143-145ベ ージ。

(15)

社会保障と世代間の公平 6 1 Ⅳ . 世 代 間公平の基準 1.給 付の世代 間公平の考 え方 世代 間公平問題の基本的な視点は,す でにのべたように,現 役世代 と高齢者 世代のあいだの所得移転 を社会保障,社 会資本,学 校教育,家 族関係 などにつ いて トータルに評価する視点 に拠 るべ きであろう。ただ し,こ の基本的な視点 は,年 金制度 について完全積立方式の復活 を唱えた り,医 療 について別立ての 老人医療保険の創設 を主張するといった社会保障制度の枠内だけで均衡 を図ろ うとす る短絡的な立言 を批判する上では意義 をもつが,年 金制度のように世代 間の不均衡が大 きく進展することについては積極的対応 は生 まれてこない。す でにのべ たように,社 会保障制度が世代 間で大 きな不均衡 を生 まないよう,世 代 間公平の一定のルール,基 準 を立てることは,国 民的な理解や制度の持続的 安定 にとってのぞ ましい。 では,社 会保障の世代 間公平の基準 をどの ように考 えればよいであろうか。 まず,社 会保障が国民 にどの程度の水準の生活保障を行 うのかを後回 しにし, 負担の公平か ら議論す ることは適切ではない。社会保障はナシ ョナル ・ミニマ ム保障,わ が国の憲法でいう 「健康で文化的な最低限度の生活」 を国民に保障 す る役割 を担 っている。 この点か らいえば,世 代 間公平 とはいずれの世代 に対 して も等 しくナシ ヨナル ・ミニマムを保障すること,公 的年金制度であればい ずれの世代 に対 して も適切 な給付水準 によってナシ ョナル ・ミニマムといえる ような老後生活保障を行 うことである。考 え方の順序 としては,ま ずナショナ ル ・ミニマム として適切 な給付水準のあ り方 を明瞭に し,次 いでその世代間公 平の基準 を考 え, さらにそのあ とで負担の公平 を考 えるとい うことになろう。 考 え方の順序 は以上の ようであって も,人 口構造の高齢化で老年人口比率が 上昇 してい く時期 には,給 付水準の世代 間公平 と負担水準の世代 間公平 を両立 させることは難 しい。給付水準 を独立変数 とすれば,負 担水準は従属変数になっ て しまうか らである。 年金給付の世代 間公平 に関する説 としてポ ピュラーであると思われるのは可

(16)

6 2 中 革太一教授 退官記念論文集 ( 第3 1 5 号) 処分所得基準説である。山崎泰彦は,「世代間の均衡を図るためには,被 用者 年金の給付水準を勤労者世帯の可処分所得基準あるいは消費支出水準に改める 必要があろう。また,そ の際には,高 齢者の基礎的消費支出にリンクして水準 を設定 している基礎年金の水準についても,同 様な観点から見直す必要があろ 1 5 ) う」 とい う。給付水準 に関する世代 間公平の基準 として可処分所得あるいは消 費支出水準 に対す る割合 を用いて,い ずれの世代 において も等 しい割合 を維持 す る とい う考 え方は,常 識的でわか りやすい といえよう。 しか し,こ の場合 に も,ま ずナシ ヨナル ・ミニマム として適切 な給付水準 を設定 しない と, ミニマ ムな しの単 なる世代 間の均衡 になって しまう。 さらに,可 処分所得基準 を採用 す る と,現 役世代 の負担が高 まるにつれて適切 な給付水準 を維持で きない可能 ″性が出て くる。 た とえば,労 働組合のナシ ヨナル ・セ ンターである連合 (日本労働組合総連 合会)が 発表 している 「年金改革 に関す る討議資料」 (1998年4月 )は ,老 齢 年金 は 「老後の生計費の基本部分 を保障するに足 る給付水準」 を確保すること が必要であるとし,「基本部分」 として次の ような費 目と範囲を想定 している。 「最低生計費 (衣食住)」十 「税 ・社会保険料負担 十医療費 (含,そ の交通 費) 」十 「基本交通 ・通信費 (電話,手 紙,近 所の交通費等)」十 「基本教養娯 楽費 (新聞,ラ ジオ ・テ レビ,若 子の書籍代等)」十 「基本交際費 (親族 ・友 人な どどうして も欠かせない冠婚葬祭費等)」 また, 同 「討議資料」では,給 付の世代 間公平 に関 しては可処分所得基準 を 採用 し,給 付その もの も可処分所得ベースにして比較するよう提起 したうえで, 「手取 り賃金 と手取 り年金の比率 を一定 とすると,高 齢者比率が高 ま り現役世 代 の負担が増 えれば,年 金はそれを差 し引いた手取 り賃金の伸 びによって制約 される。 これは,人 口構造の変化への対応 を制度のなかに織 り込んだことを意 味す る もの」 とのべ ている。 年金の適切 な給付水準 を 「老後の生計費の基本部分 を保障するに足 る給付水 1 5 ) 山 崎泰彦 「年金改革 と財政基盤の強化策J 社 会保障研究所編 F 社会保障の財源政策』, 前掲, 1 0 7 ベージ。

(17)

社会保障と世代間の公平 63 準」 としていることは理論的に支持 される。 しか し,後 者の理解 には矛盾があ る。手取 り賃金 と手取 り年金の比率一定の もとで高齢者比率が高 まって現役世 代 の負担が高 まるならば,年 金給付水準 は相対的に低下せ ざるをえない。名 目 賃金の上昇がほとんどない時期 に負担が増大 し,手 取 り賃金が減少 した りすれ ば,手 取 り賃金 と手取 り年金の比率一定の もとでは年金給付額は確実に減る。 その場合 「老後の生計費の基本部分 を保障するに足 る給付水準」が維持で きな い状況が発生するであろう。要するに,あ るべ き給付の基準 を定めたとしても, 給付水準 を可処分所得の一定害J合とすると,負 担が増 えて可処分所得が減れば 給付水準 は下が り,あ るべ き給付の基準 を満たさな くなるおそれが出て くる。 年金 による老後の基本的な生活費の保障を独立変数的に考 えると,年 金の比 率 を可処分所得基準で一定 にすることはで きない。老後の基本的な生活費 を独 立変数的に考 えるとい うことは,理 論的には先の連合のような考え方にもとづ いて必要な生計費 目を定め,実 際の給付の額はその時点での各生計費 目の品目 の価格 を積み上げて決め られるもの となる。現役世代の手取 り賃金や消費支出 水準 とは直接 には関連 しない。 この方法は,ち ょうどマーケ ッ ト・バスケ ッ ト 方式 によって生活保護の給付水準 を決めるの とたい して違わない。む しろ,わ が国の年金制度の中でナシ ョナル ・ミニマム的な性格 をもつ基礎年金に関 して は,生 活保護の基準や給付水準が適切 に設定 されているならば,そ れを年金の 給付水準の設定 に役立てる方法 も考えられると 16)一 方で老後生活保障のために適切 な年金給付水準のあ り方 を決め,他 方で給付水準 を現 役世代 の可処分所得の一定比率 とする連合の説は,結 局給付水準 を二通 りの方法で決める ことである。前者の方法 を徹底 して採用すれば,給 付水準の可処分所得比率は結果的な意 味 しか もたない。給付水準の可処分所得比率一定 とい う考 え方 を優先すれば,給 付水準は 現役世代 の負担水準の変動 によって制約 される。 筆者 は,当 初は年金給付 の世代 間公平のあ り方 として可処分所得基準説 に関心 をもった が,老 後生活保障 と両立 しないので,小 論では 「ナシ ョナル ・ミニマム といえるような老 後生活保 障」 の世代 間公平 を優先する考 え方 をとっている。 なお,労 働組合の もう一つのナシ ョナル ・セ ンターである金労連 は,1998年 3月 に発表 した 「年金制度 に対する要求 (案)」で,「基礎年金制度 を全国民共通の最低保障年金 とし て位置づ け,財 源 は全額 国庫負担 として生活保護の水準 を保 障す ること」 としている。 (連合の 「年金改革 に関す る討議資料」お よび全労連の 「年金制度 に対す る要求 (案)J については,F賃 金 と社会保障』No.1228,1998年 6月 下旬号,収 録,参 照)。

(18)

6 4 中 昌太一教授退官記念論文集 (第315号) 2 . 負 担の世代 問公平の考 え方 世代 間において負担の公平 を考 えるとき,さ しあた りの困難は,人 口構造が 急速 に高齢化 してい く時期 には どうして も若年世代 の負担が高 まらざるをえな い ことである。年金の場合,先 にのべ たような内容の給付= 生 活水準の世代問 公平 を維持 し, しか も賦課方式で財源 を賄 っていこうとすれば,高 齢者世代の 人口割合が高 くなってい く過程では,後 になる世代 ほど負担水準が高 くなつて い くことは簡単 な算術で もわかることである。その限 りでは,高 山憲之のい う ように 「低負担 と高給付の双方 を両立 させ る魔法」 などはない。 しか しなが ら,こ の点 を過度 に強調すると,厚 生省流の 「高齢化危機」論, 「年金危機」論 に陥 って しまう。人口構造の高齢化の過程で老年人口比率 と同 じか,そ れを上回る率の経済成長がなされるならば,所 得の増加分の一部を高 齢者 に配分 し,現 役世代の負担 を引 き上げないようにすることがで きる。他方, 人口構造の高齢化 とともに少子化の傾向が続 くならば,子 どもの減少割合 に応 1 8 ) じて子 どもに向けられていた資源 を老人に向けてい くことも考 えられる。 したがって,真 の困難は,経 済成長が今後20年あまりのあいだほとんどない 場合である。そ う した状態はまず考 えられないが, 仮 にそ うした状態が生 じる とした ら,人 口構造の高齢化がお さま り,安 定するまでの期間,現 役世代 に高 負担 を耐 えて もらわざるをえない ことになる。 しか し, こ の場合 にも, 今 後単 純 に現役世代 に高負担 を求めてい くとい うわけではな く, 次 の ように考 えるベ きであろ う。 17)高 山憲之,厚 生省年金局監修 『平成 9年 度版年金 自書』,前 掲 ,139ページ。 18)こ うした考え方は,す でに多 くの研究者 によって提 出されている。た とえば武川正吾は, 「高齢社会 となって も,マ クロ的 に見れば,こ れ まで児童 に振 り向け られていた資源 を高 齢者 に振 り向ければ よい とい うことであ り, さらに一定程度の経済成長が期待で きるなら ば,そ うしたことも必要ではな く,所 得の増加部分の一部 を高齢者に振 り向ければよい と い うことである」 と指摘 している (武川正吾 「高齢社会 における社会政策」京極高宣・堀 勝洋編著 『長寿社会の社会保障』第一法規,1993年 ,11ペ ージ)。アイスナーは,「現在の 世代が負 うた債務 は結局 は将来世代 によ り何 とか支払 われねばな らぬ とい う考 えは,そ れ が適用 されない ところに数学的な弁済能力の原理 を使 お うとす る,人 を惑 わす または 自ら が混乱 している努力 にほかならない」 とし,成 長経済の もとでは国の所得の増大 と政府の 債務 は両立す る としている。 (都留重 人監訳 『経済の誤解 を解 く』,前 掲,174175ページ)。

(19)

社会保障と世代間の公平 6 5 第 1 に ,現 役世代 は,人 口構造の高齢化が進む時期 には高負担が求め られ, その間においては老人世代 との負担の不公平が発生するが,高 齢化が ピークを 過 ぎて人口構造が安定すると,そ れ以降の世代 とでは世代 間の負担の不均衡は 起 こらない。人口構造の安定期 に入ると,負 担の水準 は人口高齢化の ピーク時 での水準か,あ るいはそれ よりも少 し低めの水準で推移 し,世 代間の負担 も安 定 した均衡状態が続 くことになる。わが国の人口構造の ピークは西暦2020年代 の半ばか後半 と予測 されている。現在20,30歳 台の若年世代 は,確 かにそれ以 上の年齢世代 よ りも負担 は重 くなってい くが,自 分たちの後 に続 く世代 とは負 担の水準 はそれほど変わらないであろう。 こうした展望が理解 されるならば, 若年世代が公的年金制度 に不信 をもち,年 金離れを起 こす とは考 えられない。 要す るに,世 代 間の負担の不公平 は,人 口構造の安定化する時期 までの, し か も長期 にわたって経済成長がほ とん どない とい う特殊 な条件下での過渡的問 題 と考 えるべ きである。わが国の社会保障は高齢化時代 を迎 えて本格的な 「高 負担」 時代 に足 を踏み入れ るこ とになるが,人 口構造の安定期 にはそ うした 「高負担」 を常態 として世代 間の負担の公平が 自然 に維持 されてい くと考えて よいであろう。 第 2 に ,人 口構造が安定するまでの過渡期の 「高負担」 を誰が, どのような 方法で担 うかである。年金の財源は,労 使の負担する保険料 と税財源 による国 庫負担 とがあるが,一 般勤労者の負担 を急激 に高めないように配慮するばなら ば,企 業負担割合 を高めることや国庫負担 を大幅に拡大することが検討 される べ きである。 とくに,企 業の社会保障負担は,先 進諸国の中で も低水準にある。 それを高齢社会にふ さわ しい水準 に引 き上げてい くことは避けられない。 また, わが国の公共投資優位,社 会保障劣位型の国家財政構造は高齢社会に適応 した 構造 とはいえない。 ここで も,企 業の社会負担構造の転換 と合わせて国家財政 の構造改革が求め られる。

参照

関連したドキュメント

その結果、 「ことばの力」の付く場とは、実は外(日本語教室外)の世界なのではないだろ

Kneese教授が「ファウスト的取引」と題する論

を,松田教授開講20周年記念論文集1)に.発表してある

70年代の初頭,日系三世を中心にリドレス運動が始まる。リドレス運動とは,第二次世界大戦

被保険者証等の記号及び番号を記載すること。 なお、記号と番号の間にスペース「・」又は「-」を挿入すること。

最愛の隣人・中国と、相互理解を深める友愛のこころ

﹁地方議会における請願権﹂と題するこの分野では非常に数の少ない貴重な論文を執筆された吉田善明教授の御教示

本稿は、江戸時代の儒学者で経世論者の太宰春台(1680-1747)が 1729 年に刊行した『経 済録』の第 5 巻「食貨」の現代語訳とその解説である。ただし、第 5