手術後の肺がん患者に対する日常身体活動量の回復
プログラムがQOLに及ぼす効果
著者
伊藤 直
学位名
博士(心理学)
学位授与機関
関西学院大学
学位授与番号
34504甲第444号
URL
http://hdl.handle.net/10236/00028985
20124「
度
博 士 論 文
手 術 後 の肺 が ん 患者 に対 す る
日常 身 体 活 動 量 の 回復 プ ロ グ ラム が
QOLに
及 ぼす 効 果
関 西 学 院 大 学 大 学 院 文 学 研 究 科
伊 藤 直
要 約
手術 後 の肺 が ん患者 にお い て
,
日常 生 活 に復 帰す る期 間 はQOLの
低 下 が最 も大 きい (BalduyCk et al.,2007)。QOLと
は,
“現在 の生活経験 に基づいた 自分 の健康状態 に関す る主観 的評価"と
定義 され(Campbell,et al,1976),が
ん患者 のQOLは
,身
体面,日
常生 活機 能面,心
理 面,社
会面 の領域 か ら構成 され てい る (下妻,2001)。
この手術後 の肺 がん 患者 のQOL回
復 には,
“安静 に してい る状態 よ り多 くのエネル ギー を消費す る全ての動 き (厚生労働省,2006b)"と
定義 され る身体活動 が重要 な役割 を果 た してい る。本博 士論文 の 第1章
では,ま
ず,が
ん患者 に加 えて,慢
性 閉塞性肺疾患 を対象 とした身体活動研 究 を概観 し,身
体活動 の 中で も,手
術後 の肺 がん患者 のQOL回
復 には,低
強度 の運動 (e.gり ゆっ く りした散歩)や
生活活動 (e.gり 家事)を
通 した 日常身体活動量 の回復へ の支援 の有用性 を論 じた。特 に,こ
の 日常身体活動量 を正確 に評価す るための指標 として歩行数 を用 い ることが 有用 であ るこ とを指摘 した。 さらに,身
体・慢性疾患患者 (eogり 心臓疾患)に
対す る医療心 理学研 究の概観 か ら,
日常身体活動量の回復 に対す る 自己管理 を支援す る具体的 な方法 (セ ル フマネイ ジメン ト法)と
して,
日標 設定 とセル フモ ニ タ リングの有用性 を論 じた。 第2章
では,第
1章
の概観 に基づ く 日常身体活動量の回復 プ ログラムの有効性 を検討す る た めに行 つた一連 の研 究 を報告 した。研 究1で
は,退
院後 の肺 がん患者 の 日常身体活動量 とQOLの
関連 に関す るアセ スメン ト研 究 を行 った。日常身体活動量 の測定 には,加
速度計測装 置 付 歩 数 計。(Suzuken co.,Ltd.,Nagoya,Japan)を
, QOLの
測 定 に は, European
Organization for Research and Treatment of Cancer 30‐
item Core Quality Of Life QueStiOnnaire日 本 語 版 (Kobayashi et al。 ,1998)と Hospital Anxiety and Depression Scale日本 語 版 (東 ら
,1996)を
用 い た 。 そ の 結 果,手
術 後 の 肺 が ん 患 者(N=13)に
お け る 日常 身 体 活 動 量 (歩行 数)は
退 院 lヶ 月 半 後 の 時 点 で,入
院 前 の約65%ま
で 回 復 し,こ
の 退 院 後 の 日常 身 体 活 動 量 と,不
安 0抑うつ 得 点 に は負 の 相 関 関係 (不安:r=一
.49;抑 うつ:r=一
.46) が,身
体 機 能 得 点(r=.58)0日
常 生 活 機 能 得 点(r=.67)と
は 正 の 相 関 関係 が あ つ た こ とか研 究
2で
は,研
究1の
結果 を基 に作成 した 日常身体活動量 の回復 プ ログラムが手術後 の肺 がん患者 のQOLの
回復 に有効 であるかの検討 を行 つた。 プ ログラムの有効性 の検討 には,既存対照試験 (Historical cOntrol study:Friedman et al。
,2010)を
応 用 した研 究デザイ ンを 用 いた。研 究1の
分析対象者 を通 常治療群 (■=13)と
し,
日常身体活動量 の回復 プ ログラ ムを実施 した参加者 を身体活動支援群(m=9)と
した。日常身体活動量の回復 プ ログラムは, 主 に 目標設 定 (歩行数)及
びセル フモニ タ リング (歩行数 と 日常生活 の中で実施 可能 な低 強 度 の運動や生活活動)か
ら構成 され ていた。その結果,日 常身体活動 量の回復 プ ログラムは, 主 に,退
院後 の 日常身体活動 量 (歩行数)の
回復 に加 え,自
己評定 に よる身体機能得点 と 日 常生活機 能得点 の回復や不安 の緩和 に も一定の有効性 があることが示 され た。 研 究3で
は,研
究2の
身体活動支援群 を対象 に退院後 の 日常身体活動量 とQOLの
回復 に 関連 が あ るかの検討 を行 った。 その結果,支
援前後 の 日常身体活動量 (歩行数)の
変化 量 と 日常生活機 能得 点の変化量 には有意 に関連 してい る一方 で,身
体機 能得点及 び不安得点 につ いては有意 な関連 がな く,さ
らな る研 究 が必要 であることが示 され た。 研 究4で
は,
日常身体活動量の回復 プ ログラムがQOLに
及 ぼす有効性 が支援 終 了6ヶ
月 後 まで維持 してい るかの検討 を行 うことを 目的 とした。その結果,身体活動支援群 にお いて, プ ログラムのQOLに
対す る有効性 が支援終了6ヶ
月後 で も維持 していた一方 で,通
常治療 群 において も身体活動支援群 と同程度 までQOLが
回復す るこ とが示 され た。 以上 の4つ
研 究 か ら,患
者 自身 が 日常生活 の 中で実施 可能 な 目標設定 とセル フモニ タ リン グ とい うセル フマネイ ジメン ト法 を用 いて,低
強度 の運動や生活活動 を通 した 日常身体活動 量の回復 に着 目す るこ とが,
日常生活 に復帰す る期 間おいて,よ
り早 い時期 に,手
術後 の肺 がん患者 のQOLの
回復 を もた らす こ とが示 され た。 さらに,本
博 士論文研 究 は,医
師や看 護 師 と連携 し,肺
がん手術 の 日程 に合 わせ て患者 の 日常身体活動量 とQOLに
関す るアセ ス メン トと支援 プ ログラムの有効性 の検討 を行 った。 したがって,本
博 士論 文研 究 は,生
物¨ 心理由社会モデル(Engel,1977)を
基盤 として,が
ん患者 のQOLに
着 目した医療 を行 うがん 医療 チー ムに対 して,患
者 のQOLの
回復 に医療心理学 として貢献 で きた点 に意義 があ る。目次 第 1章 序 論
1-1
は じめ に 1‐2
手術後の肺がん患者における
QOL
1‐2‐1 1¨2‐2 1-3‐1 1‐3‐2 1‐3‐3 1-3-4 1-4セル フマネイジメン ト法
1-4-1 1‐4‐2 1-5-1 1‐5‐2 1‐5‐3 第2章2-1
り干 `先 1 2-1-1 2‐1‐2 2‐1‐3 2‐1‐4 2‐2 石汗多七2 2-2-1 2‐ 2‐2 2-2-3 2-2-4 2‐3
石干う七3 2-3-1 2‐ 3‐2 2‐3-32-4
石汗ラ七4 2‐ 4‐1がん患者における
QOLの
定義及び測定尺度
手術後の肺がん患者の
QOLに
関する研究
1‐3手術後の肺がん患者における身体活動と
QOLと
の関係
頁 1 1 5 5 7 10 10 1220
22
25
25
27
29
29
30
31 32 32 32 33 41 51 56 56 57 66 72 79 79 80 84 84 身体活動 の定義 と測定方法 手術後 の肺 がん患者 のQOL回 復 に対す る身体活動の役割 がん患者 に対す る運動療法の有効性 手術後 の肺 がん患者 に対す る身体活動 に着 目した支援 セル フマネイ ジメン トのプ ロセス と主な技法 身体・慢性疾患患者 の 日常身体活動量 に対す る 目標設 定 と セル フモニ タ リングの有効性 1‐5 博士論文研 究の 目的 博 士論 文研 究 の 目的 博 士論 文研 究 の研 究デ ザ イ ン 研 究 実施 医療機 関 と研 究助成手術後の肺がん患者に対す る 日常身体活動量の回復プログラムが
QOLに
及ぼす効果に関す る研究
手術 後 の肺 がん患者 の 日常身 体活 動 量 とQOLと
の 関係 背 景 と 目的 方 法 結果 考察 手術 後 の肺 がん患者 に対 す る 日常身 体活 動 量 の 回復 プ ログ ラムがQOLに
及 ぼす 効果 の検 討 背 景 と 目的 方 法 結果 考察:唇
]捺
落
島
12暴
循
f澪
話がえ
tλ
凡
纏
身
の
肺
が
ん
患
者
の
79
背 景 と 目的 方 法 結果 及 び考 察 手術 後 の肺 がん患者 に対 す る 日常身 体活 動 量 の 回復 プ ログ ラムの効果 に関す るフォ ロー ア ップ研 究 背 景 と 目的2‐4-3 2‐ 4‐ 4‐ 結 果 考 察 85 90 93 93 94 96 98 第 3章 総 合 論 議 3‐
1
博 士論 文研 究 の概 観 3‐2
博 士論 文研 究 か ら得 られ た知 見 3…3
博 士論 文研 究 の課題 References 付 録 Appendix 2‐2‐1日
常身体活動量の回復 プ ログラムに用いた ワー クシー ト (表) Appendix 2-2‐2日
常身体活動量の回復 プ ログラムに用いた ワー クシー ト (裏)第
1章
序 論1-1.は
じめ に 肺 が ん は が ん の 中で も罹 患者 数 の多 い もの の1つ
で あ る。 本 邦 で は,1年
間 に約8万
5 千 人 (男性 約6万
人;女
性 約2万 5千
人)が
月市が ん の診 断 を受 けて い る (国立 が ん研 究 セ ンター が ん対 策 情 報 セ ンター ,2011)。 肺 が ん に対す る医学 的治療 は,外
科 治 療 (手術), 化 学 療 法 (抗が ん斉J治療),放
射 線 治 療 の いず れ か を単独 も しくは これ らを組 み合 わせ た もの が適 用 され る (日本 肺 癌 学 会 (編),2005)。 そ の 中で も,手
術 は,そ
の実施 に よ り根 治 が可 能 で あ る と判 断 され た場 合 に適 用 され,わ
が 国 で は,肺
が ん患者 の 内 の55%前
後 が 手術 を受 けて い る (澤端 ら,2010)。 肺 の一 部切 除,も
しくは片方 の肺 全 体 の摘 出 を伴 う肺 が ん手術 に よ り,患
者 は身 体 面 だ け で な く,心
理 社 会 面 に も様 々 な影 響 を受 け る (eog.,Handy et al。,2002;Schulte,
Schniewind,Dohrmann,Kuchler,&Kurdow,2009)。
特 に,手
術 後 は,1週
間 か ら10日 で退 院 を迎 え る こ とが多 い た め,患
者 は肺 機 能 や 痛 み 0虐、苦 しさな どの身 体症 状 の 回復 が 十 分 で ない状 態 で,家
庭 で の生活 を始 め な けれ ば な らない。 よつて,患
者 は,息
切 れ や 痛 み な どに よ り,手
術 前 に は苦 労 な くで きて い た家 事 や 散 歩 な どの様 々 な活 動 をす るに も困 難 さを感 じる よ うに な るた め,入
院 前 よ りも 日常 生活 で身 体 を動 かす こ と (身体活 動)が
少 な くな る (Nazarian,2004)。 そ の た め,退
院 後 は,患
者 自身 が意 識 的 に,
日常生活 の 中で家 事 や 散 歩 な ど負 担 な くで き る こ とか ら始 め,少
しず つ 身 体 を動 か し,
日常生活 に復 帰す る こ とが望 まれ る。 しか し,こ
の よ うな患者 自身 に よる 自己管理 が上 手 くい かず,
日 常 生 活 で の身 体 活 動 量 (日 常 身 体 活 動 量)の
低 下 が続 く と,患
者 の肺 機 能 の 回復 が遅 れ(Jones,Eves,Waner,&Joy,2009),肺
炎 な どの合 併 症 な どの リス ク も高 ま る。 さ らに は,
日常身 体活 動 量や 身 体機 能 の回復 の遅 れ が続 く と,自
分 の体 力 に対 す る 自信 をな く し た り,家
族 の一員 と して の役 割 を果 たせ な くな った と感 じた りす る こ とで,不
安感 が生 じた り
,
日々 の生 活 の 中で 楽 しみ や 喜 び を感 じ られ な くな つ た りす る な ど心 理 社 会 面 に も 様 々 な悪 影 響 が生 じる可能性 が あ る。 した が って,こ
の 日常 生活 に復 帰す る過 程 にお い て,患
者 が 日常身 体活 動 量 を回復 させ るの を支援 す る具 体 的 な方 法 が あれ ば,手
術 に よつて低 下 した身 体機 能や 心理 社 会 的機 能 の改 善 を促 し,患
者 自身 が 回復 を実感 しなが ら,家
庭 で の療養 生活 を前 向 きに過 ごす こ と が で き る と考 え られ る。 特 に,近
年 の 医療 現 場 で は,医
療 費 削減 な どの た め に,入
院 日数 の短 縮 化 が進 んで い る こ とか ら (厚生 労働 省,2006a),患
者 自身 に よ る身 体症 状 (eogり 痛 み・ 呼 吸 困難)や
健 康 の 回復 や 増 進 をす るた めの行 動 (健康 行 動:eogり 運 動,食
事)の
形 成 や 維 持 を 自己管理 す る こ との必 要性 が拡 大 して い る (皆川 ら,2004;塚
原 ・ 黒瀬 ・ 湯 浅, 2003)。 しか し,肺が ん手術 だ けで な く,こ れ まで の が ん 医療 にお い て は,医学 的 治療 (e.gり 手術,化
学療 法)の
た め に入 院 して い る患者 に対 す る支援 が 中心 で あった た め,こ
の 日常 生活 に復 帰 す る過 程 にお い て,患
者 の 自己管理 行 動 の促 進 やQuality Of life(QOL)の
回 復 に対 す る具 体 的 な支 援 や 支 援 方 法 に 関す る研 究 は ほ とん ど行 われ て い な い (Cimprich et ale,2005;皆川 ら,2004)。 本 博 士論 文研 究 で は,手
術 を受 けた肺 が ん患者 が 日常 生活 に復 帰 す る期 間 にお い て,
日常身 体活 動 量 の 回復 に着 目 した プ ログ ラム を作成 し,こ
の プ ログ ラムが患者 のQOLに
及 ぼす 効果 の検 討 を行 うこ とを 目的 と した。 特 に,日 常身 体活 動 量 の 回復 に対 す る支 援 に関 して は,身
体・慢 性 疾 患 (eogり 心臓 疾 患・ 糖 尿 病)の
患者 を対 象 と した研 究 にお い て,歩
行 数 に対 す る 目標 設 定 とセル フモ ニ タ リン グ が 有 効 で あ る こ とが 一 貫 して 報 告 され て い る(e.g.,Ferrier,Blanchard,Vallis,&
Giacomantonio,20H)。
した が って,本
博 士論 文研 究 の 日常身 体 活 動 量 の 回復 プ ログ ラ ムで も,
日標 設 定 とセル フモ ニ タ リン グ を主 要 な技 法 と して用 い た。 我が国においては,2007年
に “がん対策基本法"が
成立 した ことか ら,患
者の生活の 質(Quality Of Life:QOL)に
着 目したケアや支援 を行 うことがこれまで以上に求め られ ている (厚生労働省,2007)。QOLと
は,
“現在の生活経験に基づいた 自分の健康状態に 関す る主観的評価"と 定義 され(Campbell,Converse,&Rogers,1976;Ringda&Ringdal,
1993),が
ん患者 のQOLを
評価す る際 には,身
体面,
日常生活機 能面,心
理面,社
会面 の領域 に関す る健康状態 の評価 が必要 とされてい る (下妻,2001)。
がん医療 の よ うな,高度化・専門化 した医療場面 において,この
QOLに
着 目したケアや支援 を行 うためには,生物‐心理 ¨社会モデル (bio口psyCho‐
social mOdel:Engel,1977)の
視 点 に立 ち,医
学的 な治療 だ けでな く
,心
理的苦痛 の緩和や 自己管理指導 な どの心理的支援,家
族 へ の援助や職 場復 帰支援 のな どの社会面のサポー トも含 めたケア を行 うチー ム医療 が求 め られ る (忠井,2008;丹
野,2009)。 患者 の心理 面 に関す る専 門家 と して位置づ け られ てい る心理 士 も,医
師,看
護 師,ソ
ー シャル ワーカーな どの様 々な専門家 と連携 し,患
者 のケアや支援 を行 う 医療 チー ムの一員 と して活動す るこ とが必要 である (鈴木,2008)。 そ して,医
療 チー ムに お いて,心
理士 は患者 の心理的苦痛 の緩和や 自己管理指導 を通 して (鈴木,2008),患
者 のQOLの
各領域 にお ける回復・ 向上 に貢献す るこ とが期待 され てい る。特 に
,エ
ビデ ンスに基づ く医療 (Evidence‐Based Medicine:EBM)が
求 め られ てい る 現代 医療 においては,心
理士 に も,エ
ビデ ンスに基づ く実践 (E宙dence‐Based Practice:EBP)が
求 め られ てい る (丹野,2009)。 がん医療チー ムの中で,心
理士がEBPを
行 うた めには,本
邦 のがん医療体制 の 中で,実
行 可能 なアセ スメン ト法や 心理的支援 の方法 に関 す る医療 心理学 の知 見 を積 み重ね る必要 があ る (平井,2005;2008)。 欧米諸 国では,医
療 心理 学 の一分野 であ る “サイ コオ ンコロジー (精神腫瘍学)"と
い う研 究領域 にお いて, これ までに数 多 くのがん患者 のQOLに
関す るアセ ス メン トや支援 に関す る研 究 が行 われ て きた。しか し,本
邦では,ま だ十分 な研 究知見の蓄積 が ある とは言 えない状態 にある(平 井,2005)。 そ の様 な現 状 の 中,筆
者 は,関
西 学 院 大学 で心理 学 にお け るEBPを
学 ぶ 一方 、博 士課 程 後 期 課 程 入 学 以 降,A大
学 をベ ー ス と した 医療 心理 学 の研 究 グル ー プ にお い て,主
に, が ん患者 へ の心理 的支援 に関す る研 究 に携 わ って きた。 この研 究 グル ー プ は,こ
れ ま で に 様 々 な 医療機 関 の 医師,看
護 師,心
理 士 との共 同研 究 に よ り,多
くの先 駆 的 な研 究 が数 多 く行 つて きた。 が ん患者 を対 象 と した研 究例 と して は,進
行 性 の肺 が ん患者 の 自己効 力感と心理 的適応 の 関係 に関す る研 究 (平井
,2001;平
井・鈴 木 0恒 藤 0池永・柏 木,2002;Hiraiet al。
,2002),が
ん患者 と家 族 の心理 的適 応 にお け る ソー シ ャル サ ポー トの役 割 に関す る研 究 (塩崎,2005)。 乳 が ん患者 の心理 的適 応 に関す る前 向 き観 察研 究
(Hirai&Shiozaki,
2007),が
ん患者 の心配評 価 尺度 の 開発 (Hirai et al.,2008;Ito et al。,2009)な
どが あ る。近 年 で は
,こ
れ らの アセ ス メ ン ト研 究 を も とに,生
物 ‐心理 由社 会 モ デ ル に基 づ く心理 学 的支援 (eegり 問題 解 決 療 法
)に
関す る研 究 も行 われ る よ うにな った (e.gりHirai et al.,2012;Hirai,Wada,Kanai,Ito,通
しMotooka,2010;
平井 ・ 塩:崎,2008)。本 博 士論 文 は
,そ
の 中で も,筆
者 が,主
に支援 プ ロ グ ラム の作 成,プ
ロ グ ラムの実施,デ ー タ収集 0解析 を担 当す るな ど
,研
究 の 中で主 要 な役 害Jを果 た して きた手 術 後 の肺 が ん 患 者 に対 す る 日常 身 体 活 動 量 の 回復 に着 目 した 支 援 に 関す る研 究 の 一 部 を ま とめ た もの で あ る。 当大 学 の 医療 心理 学研 究 グル ー プ で は,以
前 よ り,肺
が ん患者 にお け る身 体 活 動 とQOLに
関す る一連 の研 究 が行 われ て きた (e.g。,Arai,Hirai,Harada,&Tokoro,2010;
Hirai et ale,2007)。 例 えば
,Hirai et al.(2007)で
は,手
術 数 日後 か ら手術4週
間後 ま で の肺 が ん患者 を対 象 に 日常身 体活 動 量 (歩行 数)と
不 安・ 抑 うつ との 関連 の検 討 を行 っ て い る。Arai et al.(2010)に お い て は,化
学療 法 を受 け る進 行 性 の肺 が ん患者 を対象 に, 日常身 体活 動 量 (歩行 数)の
促 進 の た め に,歩
行 数 に関す る 目標 設 定 とフ ィー ドバ ック を 中心 的 な技 法 とす るプ ログ ラムの実行 可能性 の検 討 を行 つて い る。本博 士論 文研 究 は,こ
れ らの研 究知 見 を応 用 ・発 展 させ て実施 した もの で あ る。 本博 士論 文 は,第
1章
か ら第3章
に よ り構 成 され て い る。第1章
で は,主
に手術 後 の肺 が ん患者 にお け るQOLの
アセ ス メ ン ト研 究及 び が ん患者 にお け る身 体 活 動研 究 を概 観 し, 手術 後 の肺 が ん患者 のQOLに
対 す る支援 方 法 と して,
日常身 体活 動 量 の 回復 に着 目す る こ との意 義 につ い て述 べ る。第2章
で は,手
術 後 の肺 が ん患者 に対 す る 日常身 体活 動 量 の 回復 を支援す るこ とがQOLの
回復 に有効 であるかの検討 を行 うために実施 した一連 の研 究 を報告す る。第3章
では,第 2章
で実施 した一連 の研 究で得 られ た知見 をふ まえ,総
合 論議 を行 う。1-2
手 術 後 の 肺 が ん 患 者 に お け る00L
l…2…1が
ん 患 者 に お け る00Lの
定 義 及 び測 定 尺 度 肺 がん手術 は,手
術 の翌 日か ら食事 が とれ るな ど,他
のがん手術 と比べて,身
体的 な負 担 が軽 い と言 われ てい る (関根・渡辺 (監修),2011)。
特 に近年 では,胸
腔鏡補助 下手 術 な ど身体的負担 の少 ない手術法 の開発 も進 んでい る (中田・佐 伯 0栗 田・高嶋,2001)。 しか し,実
際 には,手
術後 の肺 がん患者 はQOLの
低 下 を長期 的 に経験す るこ とが報告 さ れ てい る (eogり Handy et al。,2002;Schulte et al。,2009)。QOLと
は,
“現在 の生活経 験 に基づいた 自分 の健康状態 に関す る主観 的評価"と
定義 され,様
々な生活領域 か ら構成 され る多面的 な概念 である(Campbell et al.,1976;Ringdal&Ringdal,1993)。
治療技 術 が進 歩 した現代 医療 にお いては,症
状 の改善や生存期 間な どの医学的 な評価 に加 え,こ
のQOLと
い う患者 自身 による評価 も,治
療 の計画や評価 を行 う際 に重要 な役割 を果 た し てい る(Aaronson,Bullinger,&Ahmedzai,1988;Niezgoda&Pater,1993)。
QOLは
複数 の領 域 か ら構成 され る概念 であ るこ とは先 に述べ たが,が
ん患者 にお けるQOLは
,身
体面(e.g"身
体機 能,痛
み等 の身体症状),
日常生活機 能面 (eogり 日常生活動作
,家
事等 の生活活動,仕
事),心
理 面 (e.gり 不安,抑
うつ,認
知機能,心
の痛み),社
会面 (eogり 家族や社会 との調和
,社
会的役害1,経
済環境)の
領域 か ら構成 され てい る (福原
,2001;下
妻,2001)。 このがん患者 のQOLの
各領域 にお ける健康状態 を評価す るた めに
,こ
れ まで に国内外 で様 々な 自己報告式 のQOL尺
度 が開発 され て きた (福原 ,2001)。 その 中で も,信
頼性 と妥 当性 が確認 され てい る代表 的 なQOL尺
度 には,the European
Organization for Research and Treatment of Cancer Quality Of Life
QueStiOnnaire‐Core questionnaire 30(EORTC QLQ‐
C30:Aaronson et ale,1983), がん 治療 の機 能評価i(the Functional Assessment of Cancer Therapy(FACT):Cella et al.,1993)な
どがあ る (下妻,2001)。 また,が
んを含む慢性疾患患者 のQOLを
測定す るために開発 された the Medica1 0utcomes Study 36‐ Item Short Form Health Survey(SF‐ 36:
れている
(Soni&Cella,2002)。
この4つ
のQOL尺
度は,い
ずれ も上述 したQOLの
4 つの領域 (身体面,
日常生活機能面,心
理面,社
会面)に
対応す る下位尺度 を含んでいる(T妻
,2001;Soni&Cella,2002)。
本博 士論文研 究 では
,が
ん患者 のQOLに
お ける4つ
の領域 の内,身
体面,
日常生活機 能面,社
会面の健康状態 を測定す るた めに,肺
がん患者 に対 して最 も頻繁 に用 い られ る尺度 の
1つ
であ るEORTC QLQ‐ C30の
日本語版 (Kobayashi et al。,1998)を
構成す る下位尺度 の一部 を用 いた
(Montazeri,Gillis,&McEwen,1998)。
EORTC QLQ¨ C30は ,が
ん に関す る調査 と治療 のための ヨー ロッパ機構 (European Organization for Research andTreatment Of Cancer:EORTC)の
QOL研
究 グル ープが,国
際的 な臨床試験 に参加 してい るがん患者 の
QOL状
態 を評価す るために開発 した もので ある (佐伯・ 江 口,2003)。
本邦 で も大腸 がん患者 を対象 と した研 究 (角 田 ら,2004)な
どで用 い られ てい る。 がん患者 のQOLを
構成す る領域 の1つ
である心理面 に関 しては,上
述 したQOL尺
度 の他 に,患
者 の気分/感
情状態や心理 的苦痛 (e.gり 抑 うつ・不安)な
どを評価す るための 自己報告式尺度や 面接法 を用 いた研 究 も数多 く行 われ て きた。 自己報告式尺度 を用 いた研 究 では,身
体疾患患者 にお ける不安 と抑 うつ を測定す るための病院環境 にお ける不安・抑うつ尺度
:(the Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS):ZigmOnd&Snaith,
1983),が
ん患者 に対 して適応 障害や うつ病 を簡便 にス ク リーニ ングす るた めのつ らさと支障度 の寒暖計
(Akizuki,Yamawaki,Akechi,Nakano,&Uchitomi,2005),患
者 の様 々 な気分状態 を測定す るための感情 プ ロフィール検査 (PrO■le Of Mood States(POMS):
MacNair,Lorr,&Droppleman,1971)な
どが一般 的 に用い られ る (平井,2008)。 本博 士 論文研 究では,患
者 のQOLに
お ける心理 面の健康状態 の測定 には,国
際的 に もがん患者 を対象 とした多 くの研 究で用い られてい るHADSの
日本語版 (東 ら,1996)を
用 いた。HADSは
,元
々は身体疾患 をもつ患者 の不安 と抑 うつ状態 を評価す るためにZigmOnd&
Snaith(1983)が
開発 した ものであ り,抑
うつや不安 に関 して,臨
床 的 な支援 が患者 のス ク リー ニ ングをす るた めの臨床 基準点 も設 定 され てい る(Kugaya,Akechi,Okuyama,
Okamura,&Uchitomi,1998)。
本 邦 にお い て も,乳
が ん患者 (角 田 ら,2005)や
消化 器 の が ん患者 (松下・ 松 島,2005)な
どを対 象 と した研 究 で用 い られ るな ど,一
般 的 な尺度 で あ る。1…
2-2
手 術 後 の 肺 が ん 患 者 の00Lに
関 す る研 究乳 がんな ど他 のがん種 と比べ て
,手
術後 の肺 がん患者 のQOLに
関す るアセ スメン ト研 究 の数 は少 ないが (Schulte et al。,2010;Sugimura&Yang,2006),い
くつ かの研 究 に より
,手
術 を受 ける肺 がん患者 は,QOLの
各領域 にお いて阻害や 困難 さを報告す るこ とが 示 され てい る。本項 では,手
術 を受 ける肺 がん患者 が手術前か ら手術後 にか けて どの よ う にQOLの
各領域 が変化す るのか,も
しくは回復す るのかに着 目す るために,特
に(1)手
術前,(2)手
術 直後 (退院 か ら手術 lヶ 月前後),(3)手
術 か ら3ヶ
月以降 に分 けて,こ
れ までのアセ ス メン ト研 究 を概観 す る。 まず,手
術 を受 け る肺 が ん患者 は,手
術 前 の時 点 でQOLの
低 下 が報 告 され て い る(Brunelli et al。,2007;Handy et al。,2002)。 frllぇ│ゴ, Handy et al。
(2002)は
, SF-36
(McHorney et al.,1993)を 用いた検討 を行 い
,手
術前 の肺 がん患者 (139名)が ,年
齢 をマ ッチ させ た健康 な成人 と比較 して,身
体機能得 点,
日常生活機 能得 点,精
神 的健康得 点が低 い と報告す ることを示 してい る。手術 を受 ける肺 がん患者191名
(分析対象156名
) に対 し,手
術 の 2日 前又 は 3日 前 にSF‐36(McHorney et al。
,1993)へ
の記入 を依頼 し た Brunelli et al.(2007)で は,一
般健 常者 にお ける標 準デー タ と比較 して,身
体機 能得 点,
日常生活機能得点,精
神 的健康得 点 に加 えて,社
会機能得 点 も低 い こ とも報告 され て い る。 そ して,肺
がん手術 に よ り,QOLが
手術前 よ りも低 下す る こ とが一貫 して報告 され て い る。まず,身
体面 につ いては,手
術後,肺
の最大酸素摂取量が15%か
ら30%減
少す るな ど (eog.,Nagamatsu et al。,2007),患
者 は肺機能 の低 下 を経験す るが,こ
の肺機能 の低 下 に伴 って,患
者 は主観 的 に も身体症状 (e.gり 息切れ,痛
み)の
経験や身体機 能 (eogり 長 い距離 の歩行 に対す る支障)の
低 下 を報告す る。例 えば,EORTC QLQ‐
C30(Aaronson et
al.,1983)を
用 い たWin et al.(2005)は
,手
術 lヶ 月後 の肺 が ん患者 (110名)が
,手
術 前 よ りも,痛
み得 点 ・ 息 苦 しさ得 点 が 高 く,身
体機 能 得 点 が低 い こ とを報 告 して い る。 そ の他 の 自己報 告 式 のQOL尺
度 を用 い た研 究 に よつて も,痛
み得 点 ・ 息 苦 しさ得 点及 び 身 体機 能 得 点 に関 して 同様 の結 果 が得 られ て い る (退院 時 :Schulte et al.,2009;Zieren,Muller,Hamberger,&Pichlmaier,1996;手
術 lヶ月後:Balduyck,Hendriks,Lauwers,
Sardari,Nia,&だ Van Schil,2007;Brunelli et al.,2007;Dales et al.,1994;Kenny et ale,2008)。
日常 生活機 能 面や 社 会 面 に関 して も
,Win et al.(2005)は
,手
術 前 よ りも手術 lヶ月後 に
,EORTC QLQ‐
C30(Aaronson et al。,1983)に
よつて測 定 され た 日常 生活機 能 得 点と社 会機 能 得 点 が低 下す る こ とを報 告 して い る1。 そ の他 に も,手術 前 と退 院 時 (Schulte et
ale,2009;Zieren et ale,1996)及 び手術子lヶ月後 (BalduyCk et al。 ,2007;Brunelli et al.,
2007(日
常 生活機 能 得 点 のみ))の
日常 生 活機 能 得 点0社
会機 能 得 点 の比 較 にお い て 同様 の結 果 を示 す研 究 知 見 が得 られ てい る。さ らに,心 理 面 に関 して は,手術 後 に多 くの患者 が′い理 的苦痛 を報 告 す る こ と(Uchitomi et ale,2000;Uchitomi et al。
,2003;Walker,Zona,&Fisher,2006)も
一 貫 して幸艮告 され て い る。 例 えば,Uchitomi et al。(2003)は
,212名
の手術 lヶ 月 後 の肺 が ん患者 に対 し て,精
神 疾 患 の診 断 0統計 マ ニ ュアル (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 3rd edn,rev(DSM‐ Ⅲ¨R);American Psychiatric Associatioon,1987)に
基 づく半構 造化 面接 を行 い
,8.0%の
患者 が うつ病 の診 断基 準 を満 たす こ とを報 告 して い る。ま た ,Walker et al。(2006)は
,手
術1週
間後 の肺 が ん患者(n=119)に
対 して,抑
うつ 症 状 を測 定す るベ ック抑 うつ 尺度(Beck Depression lnventory(BDI):Beck,Steer,&
Garbin,1988)を
実施 し,29%以
上 の患者 が 臨床 基 準 点 以 上 の得 点 を報 告 す る こ とを明 らl EORTC QLQ‐
C30に
おける 日常生活機能尺度の項 目には,“仕事 をす ることや 日常生活活動に支障があ りま したか
?"な
どが,社
会機 能尺度 の項 目には,“身体の調子や治療 の実施が
,家
族 の一員 と してのあなたの生活 の さまたげにな りま したか?"な
どが ある (他の項か に して い る。
この手術 直 後 にお け る
QOLの
低 下 が,手
術 後 どれ く らい の期 間 で手術 前 の状 態 に ま で 回復 す るの か,も
しくは手術 前 の状 態 にま で は回復 しない の か につ い て は一 貫 した結 果 が 得 られ て い な い (Balduyck et al.,2009)。 例 えば,手
術 直後 の身 体機 能 得 点 0日 常生 活機 能 得 点0社会機 能 得 点 の低 下 は手術 3ヶ月後 に (Balduyck et al.,2007;Win et al。,2005), 痛 み得 点 ・ 虐、切 れ 得 点 につ い て も手術 6ヶ月 後 に は (Win et al。,2005),手
術 前 と同程 度の状 態 まで 回復 す る こ とを報 告す る研 究 もあ る。 一方 で
,手
術6ヶ
月後 (Handy et al。,2002),
さ らに は手術 か ら2年
後 経過 した後 も,手
術 前 の状 態 ま で 回復 しない と報 告 す る こ とを示 す研 究 もあ る (Schulte et al。 ,2009;Schulte et al。 ,2010)。心理 面 につ い て は
,Uchitomi et al.(2003)が
,手
術 lヶ月後 に加 えて,3ヶ
月 後 と 12 ヶ月 後 に,DSM¨
Ⅲ‐R(American Psychiatric Associatioon,1987)に
基 づ く半構 造 化 面 接 を行 い,
うつ病 の診 断基 準 を満 たす 患者 の割 合 が,そ
れ ぞれ 8。0%,5。
2%,4.7%で
あ る こ とを報 告 して い る。 診 断基 準 を満 たす 患者 の害J合は,手
術 lヶ月 後 よ りも,3ヶ
月後 と 12ヶ月後 は減 少 して い るが,統
計 的 に は有 意 差 は ない こ とも報 告 され て い る。一 方 で,横
断研 究 で は,手
術 後1年
以 上 た った患者 を対象 にHADS(Zigmond&Snaith,1983)を
実施 した研 究 に よ り,臨床 基 準 点 以 上 の得 点 を示 した患者 の割 合 が,不安 症 状 で は20‐25%,
抑 うつ 症 状 で は5。6‐ 9。4%で
あ る こ とが報 告 され て い る (Feinstein et al.,2010;Myrdal,Valtysdottir,Lambe,&Stahle,2003;Ostroff et al.,2011)。 疫 学 用 抑 うつ 尺度 (Center fOr
Epidemiologic Studies Depression Scale(CES‐
D):Radloff,1977)を
用 い た横 断研 究 で も,20%以
上 の患者 が 臨床 基 準 点 以 上 の抑 うつ得 点 を報 告す る こ とが示 され て い る(Sarna et ale,2002;Sarna et al.,2010)。 しか し,手
術 後 の肺 が ん患者 にお け るQOLの
変化 を縦 断 的 に検 討 した研 究 は少 な い た た め (Schulte et al。,2010),今
後,さ
らな る研 究 の蓄積 が 必 要 で あ る。以上の結果 をま とめると
,手
術 を受 ける肺がん患者 におけるQOLの
各領域 (身体面・が最 も大 きい。 この
QOLの
低 下が,手
術後 どれ くらいの期 間で手術前 の状態 にまで回復 す るのか,も
しくは手術前 の状態 にまでは回復 しないのかについては一貫 した結果 が得 ら れ ていない。 しか し,手
術前 の状態 に回復 した として も,患
者 は手術 前か ら年齢 をマ ッチ した健康 な成人 と比較 して,QOLの
各領 域 にお け る阻害 を報告 してい る こ とか ら,手
術 後 の肺 がん患者 は,時
期 に関わ らず,QOLの
低 下 を経験 してい る と考 え られ る。我 が国 にお ける肺 がん手術 の標 準的な治療 日程 では,患
者 は手術1週
間か ら10日
後 に退院 を迎 える (関根・渡辺,2011)。
よつて,手
術後 の肺 がん患者 はQOLが
最 も低 下 してい る期 間に退院 し,家
庭 での 日常生活 に復帰 しな けれ ばな らない。 したが って,手
術後 の肺 がん 患者 に とって,
日常生活 に復帰す る期 間はQOLの
回復 に対す る支援 が必要 とされ る時期 の1つ
で ある と考 え られ る。 手術後 の肺 がん患者 のQOL回
復 に有効 である と考 え られ る支援方法の1つ
が身体活動 に着 目した支援 である。主 に乳 がん患者 を対象 とした研 究では,身
体活動 に着 目した支援 は患者 のQOLに
お ける各領域 の健康状態 の回復 に一定 の効果 があるこ とが示 され てい る(eoge,Speck,Courneya,Masse,Duval,&Schmitz,2010)。
次節 では, まず, 身体活動 の定義及 び測定方法 について概説 した上で,手
術後 の肺 がん患者 のQOL回
復 にお ける身 体活動 の役割 について概説す る。そ して,こ
れ まで に行 われ て きたがん患者 に対す る身体 活動 に着 目した支援 に関す る研 究 を概観 し,手
術後 の肺 がん患者 に対す る身体活動 に着 目 した支援 の意義 を論 じる。 1…3
手 術 後 の 肺 が ん 患 者 に お け る 身 体 活 動 と00Lと
の 関 係1-3-1
身 体 活 動 の 定 義 と測 定 方 法 身 体 活 動 とは,“安 静 に して い る状 態 よ り多 くのエ ネ ル ギー を消 費 す る全 て の動 き"と
定義 され,速
歩,ジ
ョギ ン グ,ス
トレ ッチ,ス
ポー ツ (e.gり 水 泳,テ
ニ ス)な
どの “運 動" と子 ども との遊 び,仕
事 や 余 暇 活 動,料
理 や 掃 除等 の家事 な どの “生活 活 動"に
分 け られ る (厚生 労働 省 ,2006b)。が ん患者 を対 象 と した研 究 で は
,自
己報 告 式尺 度 を用 い て身 体活 動 量 を測 定す る もの が 多 い (Lynch et al.,2010)。 代 表 的 な身 体活 動 量 の 自己報 告 式 尺度 に は,ゴ
ーデ ィン余 暇 時 間運 動 調 査 票(the Godin Leisure Time Exercise QueStiOnnaire:Godin&Shepherd,
1985)や 7日
間 身 体 活 動 回 想 調 査 票 (the Seven‐ Day Physical Activity Recall QueStiOnnaire:Blair et al.,1985)な どが あ る。 これ らの 自己報 告 式 尺度 で は,主
に あ る 一 定期 間 内 (e.gり 7日 間)に
つ い て,主
に身 体活 動 の 中で も “運 動"に
つ い て強度 別 (低強度 (e.gリ ヨガ
,軽
い歩行,ゴ
ル フ);中
強度 (eogり 速 歩,野
球,テ
ニ ス);高
強 度 (e.gりラ ンニ ン グ
,サ
ッカ ー,激
しい水 泳))に
頻 度 や 時 間 を回顧 的 に 回答 す る こ とを求 めて い る (Lynch et al。 ,2010)。 そ して,多
くの研 究 にお い て,ア
メ リカ にお け る公 衆衛 生 の ガ イ ドライ ンの基 準 量 (e.gり 中強度 以 上 の身 体 活動 を少 な く とも1週
間 に150分
以 上)を
満 たす 患 者 と満 た さな い 患 者 にお け るQOLの
比 較 を行 って い る (eogり Bellizzi et al.,2009;Vallance,Courneya,&Jones,2005)。
一 方 で,
日常 生 活 に復 帰 す る期 間 の手術 後 の肺 が ん患者 にお い て は,肺
機 能 が十 分 に回 復 して い ない た め,
日常 生活 の 中で行 って い る身 体 活 動 の大部 分 が,炊
事 等 の家 事 な どの “生活 活 動"や
ゆ っ く りと した散 歩 な どの低 強度 の “運 動"で
あ る。 そ して,
日常生活 に 復 帰 を 目指 す 手術 後 の患者 にお い て は,こ
の よ うな の “生活 活 動 "(e.gり 炊 事 等 の家 事) や 低 強度 の “運 動"(eog"ゆ
っ く りと した散 歩)が
で き る よ うに な る こ とが,手
術 後 の 回 復 具合 の指標 に な る と考 え られ る。 しか し,上
述 した よ うな身 体活 動 量 の 自己報 告 式 尺度 は,身
体 活 動 の 中で も,主
に “運 動"に
焦 点 を 当て た もの が多 い。 さ らに,“生 活 活 動" も含 めた測 定 を行 って い る もの で も,一定期 間 につ い て 回顧 的 な評 価・評 定 を求 め るた め, ス ポ ー ツ な どの活 動 の 開始 と終 了 が 明確 な “運 動"と
比 較 して,“生 活 活 動"の
頻 度 や 時 間 につ い て正確 に評価 を行1う こ とは 困難 で あ る(Ball,Owen,Salmon,Bauman,&Gore,
2001;Sallis&Saelens,2000)。 した が って,自
己報 告 式 尺度 で は,“生活 活 動"や
低 強度 の “運 動"を
通 した 日常 身 体 活 動 量 を 正 確 に測 定 す る こ とが 困難 で あ る と考 え られ るこれ らの課 題 を改 善す る方 法 の
1つ
が,日 常身 体 活 動 量 を歩 行 数 に よつて評 価 す る こ と で あ る (Lynch et al。 ,2010)。 日常生活 にお け る “生活 活 動"や
低 強度 の “運 動"も
含 め た 日常身 体活 動 量 を評 価 す る指標 と して,歩
行 数 は近 年 の研 究 で最 も一般 的 に用 い られ て い る (熊原 ら,2008)。 この歩行 数 の測 定 に用 い られ る歩 数 計 に は,振
り子 式 歩数 計 と加 速 度 計 測 装 置付 歩 数 計 が あ る (熊原 ら,2008)。 振 り子 式 歩 数 計 とは,一
定 レベ ル 以 上 の振 動 に よつて,内
蔵 され たバ ネ が伸 縮 し,そ
の伸縮 に伴 って,そ
のバ ネ と連 結 して い る振 り子 が上 下 に動 くこ とで歩行 数 をカ ウン トす る歩 数 計 の こ とで あ る (Tudor‐Locke,Williams, Reis,&Pluto,2002)。 この振 り子 式 歩数 計 には,速
度 の遅 い歩 行 に対す る測 定 の正確 性 が 低 い こ とも幸艮告 され て い る (CrOuter et al.,2003;Le Masurier&Tudor‐ Locke,2003)。 一 方 で,加
速 度 計 測 装 置 付 歩 数 計 は,身
体 が垂 直方 向 に動 い た ときに,そ
の加 速度 の変化 を測 定 し,そ
の加 速 度 を基 に歩 行 数 をカ ウン トす る歩数 計 の こ とで あ る (熊原 ら,2008)。 加 速 度 計 測 装 置 付 歩 数 計 は,国 内外 の研 究 に よ り(eogり CrOuter et al.,2005;熊原 ら,2008;Melanson et al.,2004),歩 行 速 度 及 び そ の変化 に関 わ らず
,歩
行 数 を正確 に測 定 で き る利 点 が あ る。 した が つて,本
博 士論 文研 究 で は,加
速 度 計 測 装 置 付 歩 数 計 (Life Coder Ex, Suzuken Co.,Ltd。,Nagoya,Japan)を
用 い て 日常身 体 活 動 量 の測 定 を行 った。 加 速 度 計 測 装 置 付 歩数 計 は,本
邦 にお い て,股
関節 疾 患 (小野 ら,2003),虚
血性 心疾 患 (二渡 ら,2004),糖
尿 病 (熊原 ら,2008;津
下 ら,1999;鈴
木 0高橋,2006)な
どの身 体疾 患・ 慢性 疾 患 を患 う患 者 を対 象 と した 日常 身 体 活 動 量 の アセ ス メ ン ト研 究 及 び 介 入 研 究 に用 い ら れ て い る。1-3-2
手 術 後 の 肺 が ん 患 者 の00L回
復 に 対 す る 身 体 活 動 の 役 割 手術後の肺がん患者 におけるQOL回
復 には,前
項で述べた身体活動が重要な役割 を果 た している。特に,
日常生活への復帰を 目指す手術後の肺がん患者のQOL回
復には,身
体活動の中で も,家
事な どの “生活活動"や
ゆつくりとした散歩な どの強度の低い運動 を 通 した 日常身体活動量の回復が重要であると考えられ る。(a)手
術後 の肺 がん患者 に お ける身体 活動 と肺機 能 との 関係 第1章 2節
2項
で述べ た よ うに
,手
術後 の肺 がん患者 は,QOLの
各領域 (身体面・ 心理面 0日 常生活機 能 面0社
会面)で
様 々な阻害 を経験 してい る。 この手術後 のQOLの
低 下 には,肺
がん手術 に よる肺機 能 の低 下が関連 してい る と指摘 され てい る (Jones et al。,2009)。 実際 に,Peddle et ale(2009)は
,手
術 前後 の肺 がん患者 の肺機 能 の変化 量がQOL尺
度 の一つ であ る
FACT(Cella et al.,1993)に
よつて測定 され た手術後 の身体機能得点や 日常生活機 能得点 と関連 してい るこ とを報告 してい る。そ して,こ
の肺機能 の低 下は,痛
みや息切れ な どに よって もた らされ る不 活 動 状態 に よって悪 化 す る可能性 が あ るた め (Jones et al.,2009;Nazarian,2004),日
常 生活 へ の復 帰 を 目指 す 手術 後 の肺 が ん患者 に とつて は,肺
機 能 の 回復 のた め に,家
事 な どの “生活 活 動"や
ゆ っ く りと した散 歩 な どの強度 の低 い運 動 な どに よ り,
日常 生活 の 中で,身
体 を動 かす こ と (身体活 動)を
意 識 的 に行 うこ とが必 要 で あ る。 手術 後 の肺 が ん患者 を対 象 と した研 究 は行 われ て い ない が,手
術 後 の肺 が ん患者 と同様 に肺 機 能 の低 下 を もた らす 慢性 閉塞性 月市疾 患 (ChrOnic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)の
患者 や 手術 前 の肺 が ん患者 を対 象 と した研 究 で は,
日常 生活 の 中で の身 体 活 動 量(日 常身 体 活 動 量 )が 肺 機 能 と関連 して い る こ とが一 貫 して報 告 され て い る(e.gり NOvoa,Varela,Jimenez,&Ramos,2011;SchonhOfer,Ardes,Geibel,Kohler,&Jones,1997)。
これ らの研 究 で は
,歩
数 計 に よつて測 定 され た歩 行 数 を 日常身 体 活 動 量 の指標 と して検 討 して い る。例 えば,SchonhOfer et al.(1997)は,肺
機 能 状 態 の指標 の1つ
で あ るFEVl%
(Foerced Expiratory Volume in lst second:1秒 率)が,歩 行 数 と有 意 な正 の相 関(r=.54,ρ
<.01)が
あ る こ とが示 され て い る (Fig。 1‐1参
照)。 ま た,歩
行 時 間 もFEVl%(1秒
率) と有 意 な正 の相 関 (r=。36,p<.05)が
あ る こ とが示 され て い る。FEVl%(1秒
率)と は, 息 を努 力 して 吐 き出 した量 (努力 肺 活 量)の
内,最
初 の1秒
間 に吐 き出 され た空気 量 (1 秒 量)の
割 合 を指 す 。 具 体 的 には,FEVl%(1秒
率)=1秒
量 ÷努 力肺 活 量 ×100と い う 式 で算 出 され る (黒澤,2011)。 つ ま り,Schonhofer et al.(1997)の
結 果 は,慢
性 閉塞性 肺 疾 患 患者 にお い て は,肺
機 能 が低 下 して い る患者 ほ ど,1日
の平均 歩行 数 及 び歩行 時 間1
l
J
1
1
l
J
1
1
七
ぎ
1 1 1︵
皿
\
氣
︶
黒
L
氣
S
丼
C
皿
H
1・
言
静 静 韓 静 静 義 静 彗 輔轄 春 軸 :轟
:藝:FEVl% (1秒
率) Fig。 1-1。 1曼性 閉塞 性 肺 疾 患 患 者 にお け る1日 の 平 均 歩行 数 (歩/日
)と
FEVl%(1秒
率)と
の 関係 。N=25,FEVl%(1秒
率)=息
を努 力 して 吐 き 出 し た 量 (努力 肺 活 量)の
内,最
初 の 1秒 間 に吐 き 出 され た 空 気 量 (1秒 量)の
割 合(1秒 率
),図
は''Evaluation of a movement detector to lneasure daily activity in patients with chronic lung disease'',by B.Schonhofer,R Ardes,Mo Gleibel,Do Kohler,&RW.Jones,1997,倒
生θ Eurttθ an Rθβplraιory及
フロ″2aム Ia p.2817を
使 用. が少 ない ことを示 してい る。手術前 の肺 がん患者 を対象 とした研 究 において も,歩
行数 が 最大酸素摂取量 と中程度 の正 の相 関関係(r=.40)が
あるこ とが示 され てい る (Novoa et al.,2011)。 したが って,手
術 後 の肺 がん患者 にお いて も,歩
行数 を指標 と した 日常身体 活動量 と肺機 能 には関連 が ある と推察 され る。 そのた め,手
術 か ら退院 までの期 間にお いては,手
術後 の肺機 能 の回復や合併症 の予防 を 目的 として,医
師や看護 師の指導 の も と手術 の翌 日か ら早期離床 と歩行 訓練 が開始 され る (中川・今井,2006)。
この手術後 の歩行 開始 までの 日数,つ
ま り離床 までの 日数 は肺 機 能 の回復 を予測す るこ とを報告す る研 究 もあ る (森沢 ら,2006)。
さらに,退
院前 の看 幹 韓 韓 韓 韓 響 彗 韓 善 韓酢
可
卸
丁
鶴
静載
I
轄l
轟
紳l
輔
︰
辮
護 師 か らの退 院指 導 にお い て も
,退
院 後 は肺機 能 や 体 力 の回復 の た め に,散
歩 の距離 を少 しず つ長 く して い くな ど,
日常生 活 の 中で少 しず つ 身 体 を動 かす こ と (日常身 体 活 動 量) を増 や す こ とが勧 め られ て い る (中川 ・ 今 井,2006)。(b)手
術 後 の 肺 が ん 患 者 に お け る 身 体 活 動 と00Lと
の 関 係 手術 後 の肺 が ん患者 にお け る家 事 な どの “生活 活 動"や
ゆ つ く りと した散 歩 な どの強度 の低 い運 動 を通 した 日 常身体活動 量 の回復 は,肺
機 能 だ けで な く,QOL回
復 に も重要 な役害1を果 た してい る。 がん患者 にお けるQOLに
お ける身体活動 の役割 について言及 したCourneya(2001)に
よる と,身
体活動,特
に “運動"の
実施 に よる心肺機 能や筋力 な ど改善が,仕
事・家事・ 余暇 な どの 日常生活機 能や他者 との関わ りな どの社会機 能 の向上 を もた らす。そ して,そ
の 日常生活機 能や社 会機 能 の向上 の結果 と して不安や抑 うつ が緩 和す るな どの心理 面 に もよい影響 が もた らされ る と説 明 され てい る。実際 に,乳 がん患者 を対象 と した研 究では, 自己報告式尺度 に よつて測 定 され た身体活動量が多い患者 ほ ど,QOLに
お ける各領域 (身 体面 0心 理面・社会面)の
健康状態 が よい と報告す るこ とが一貫 して報告 され てい る(eogり Valenti,Porzio,Aielli,Verna,Cannita,Manno et al.,2008)。 また,治
療後 の乳 がん患者 を対象 に,15週
間の有酸素運動 プ ログラムを実施 した結果,プ
ログラム前後 にお ける肺機 能 の回復 が,身
体機 能得 点及 び 日常生活機 能得点 と主観 的幸福感得点の改善 と有意 な関連 があ るこ とも示 され てい る (Courneya et al。 ,2003)。 一方で,手
術後 の肺 がん患者 を対象 に身体活動量 とQOLの
関連 に関す るアセ スメン ト 研 究 は近年始 まった ばか りで あ り,手
術後 の 日常生活 に復帰す る期 間に焦点 を当てた研 究 は,筆
者 の所属す る医療 心理学 の研 究チー ムで実施 した研 究以外行 われ ていない。手術後 の肺 がん患者 を対象 とした数少 ない研 究の1つ
で あ るCoups et al。(2009b)に
おいて も, 手術後1年
以上経過 した患者 (再発 のない手術 1‐6年
後 の肺 がん患者175名
)を
対象 と し てお り,身
体活動量 の測 定 も 自己報告式尺度 (ゴーデ ィン余暇時間運動調査票,Godin&
Shepherd,1985)を
用 いてい る。 このCoups et al.(2009b)の
研 究で は,“現在 (手術イ ンの基 準 量 (e.g"中強 度 以 上 の身 体 活 動 を少 な く とも
1週
間 に150分
以 上)を
満 たす 者 は満 た さな い患者 よ りも,QOL尺
度 の1つ
で あ るSF‐36(McHorney,Ware,&Raczek,
1993)によつて測 定 され た身 体機 能0日 常 生活機 能 状 態 が よ く,HADS(Zigmond&Snaith,
1983)に
よつて測 定 され た抑 うつ得 点 が低 い と報 告 す る こ とが示 され,乳
が ん患者 を対象 と した研 究知 見 と一 貫 して い た。一方 で,Coups et al.(2009b)は
,現
在 (手術 1¨6年
後) の1週
間 の平 均 運 動 時 間 に加 えて,肺
が ん診 断前 の6ヶ月 間 と診 断後 6ヶ月 間 の平均 運 動 時 間 に 関 して も ゴー デ ィン余 暇 時 間運 動 調 査 票(Godin&Shepherd,1985)を
用 い て,回
顧 的 に記 入 を依 頼 す る こ とで検 討 して い る。 そ の結 果,中
強度 以 上 の運 動 時 間 は,診
断 前6ヶ
月 間及 び 現 在 の状 態 よ りも診 断後6ヶ
月 間 は減 少 して い る一 方 で,低
強度 の運 動 時 間 は時期 に よる変化 は ない と報 告 す る こ とを示 して い る。 この結 果 は,診
断前 と比 べ て,診
断後 6ヶ月 間 は 中強度 以 上 の身 体活 動 の頻 度 や 時 間 は 減 少 す るが,軽
い散 歩 の よ うな低 強度 の運 動 時 間 は減 少 して い な い こ とを示 して い る。 し か し,第1章
3節 1項で述 べ た よ うに,ゴ ー デ ィン余 暇 時 間運 動 調 査 票(Godin&Shepherd,
1985)の
よ うな 自己報 告 式 尺度 で は,日 常 生活 に復 帰 す る期 間 にお け る手術 後 の肺 が ん患 者 が行 って い る身 体活 動 の大 半 を 占め る と考 え られ る “生活 活 動"や
低 強度 の “運 動"に
よ る身 体 活 動 量 を正 確 に評 価 で きて い な い 可 能 性 が あ る(Ball et ale,2001;Sallis&
Saelens,2000)。 実 際 に,歩
数 計 を用 い て手術 前 後 の肺 が ん患者 の 日常身 体活 動 量 の測 定 を行 ったNovoa et al。(2009)は
,手
術 前 よ りも手 術 後 に 日常身 体活 動 量 が減 少 す る こ と を報 告 して い る。Novoa et al.(2009)は
,肺
葉 切 除 も しくは片肺 全 摘 手術 を受 けた 21 名 の非 小 細胞 が ん患者 を対 象 に (平均 年 齢 63± 10。9歳
),歩
行 数 を指標 と した 日常身 体活 動 量 を測 定す るた め に,手
術 前 か ら手術 lヶ月後 ま で の 間,歩
数 計 の装 着 を依 頼 し,手
術 前 後 で の 1日 の歩行 数 の平均 の比較 を行 った。 そ の結 果,肺
葉 切 除(n=18)を
受 けた患 者 の1
日の平 均 歩t行数 (±SD)は
, 手術 前 が 10703±3807歩
,[手i術後 が 7978±4486
歩 で あ り,平
均25%減
少 す る こ とが示 され た (Figり 1‐2参
照)。 片肺 全 摘 手術(n=3)を
受 けた患者 は,手
術 前 が4809±828歩
,手
術 後 が2491±886歩
で あ り,平
均49%減
少 す16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 肺 葉切 除群 (n=18) 片肺 全摘 群 (n=3) Fig.1‐2。 肺がん手術前後における1日の平均歩行数 (歩/日
)の
変化.図は"Inttuence ofmttOr pull■onary resection on postoperative daily ambulatory activity of the patients",
by N.Novoa,G.Varela,M.E Jimenez,&J.L.Aranda,2009,Interact」 ive
の r」οyascuね r and tthara力 Suこ圏 、
2p0936を
参 考 に作成.る こ とが示 され た。 よつ て
,
日常 生活 に復 帰 す る期 間 の手術 後 の肺 が ん 患者 にお い て は, 手術 前 よ りも,生
活 活 動 や 低 強度 の運 動 に よつて 日常 生 活 の 中で身 体 を動 かす こ と (日常 身 体活 動 量)は
少 な くな って い る と考 え られ る。 一方 で,日
常生活 に復帰す る期 間にお ける手術後 の肺 がん患者 において,歩
行数 を指標 とした 日常身体活動量がQOLと
関連 してい るのかにつ いて検討 した研 究 は行 われ ていな い。そ こで,筆
者 が所属 してい る医療 心理学研 究チー ムでは,手
術後 の肺 がん患者 にお け る歩行数 を指標 と した 日常身体活動量 とQOLに
お ける心理面 の領域 との関連 につ いての アセ ス メン ト研 究が行 われ て きた (eeg"Hirai et al。 ,2007)。 Hirai et al.(2007)は,手
術後経過観 察 中の肺 がん患者20名
を対象 に,手
術後4週
間 の加速度計測装置歩数計 (Life Coder Ex,Suzuken Co。 ,Ltd。,Nagoya,Japan)の
装着 と手術後
1週
間 ご とに抑 うつ・不安 を測定す るための 自己報告式尺度へ の記入 を依頼 し(Fige ︵ 皿 \ 氣 ︶ 黒 こ 氣 拇 丼 O m = 華手術後30日 間丁
0
質問紙
万歩計装着
Fig.1‐3。 Hirai et al。 (2007)における研究の手続き.図は,"Physical activity and
psychological attustment in Japanese early‐ stage malignant pullnonary and lnediastinal
disease patients after surgery",by K.Hirai,H.Arai,So Yukawa,Ne Sawabata,T.Igura,T.
Ktagawa,。¨,7■It。 (2007),Paper presented at ιLθ Saα θり/Far lhιegrat」iye Mettcinθ 3rd Lιema″οnaf gan丘 刀℃nθθ,を「現豪こ竹三F文
1‐
3参
照),手
術 後 の肺 が ん患者 にお け る 日常身 体 活 動 量 と抑 うつ・不 安 との 関連 の検 討 を行 った。 不安 0抑 うつ の測 定 に は
,HADS日
本 語 版 (東ら,1996)が
用 い られ た。研 究 に 参加 へ 同意 した20名
の 内 の16名
(平均 年 齢 65。1±9。1歳
;IA:8名 ,IB:1名
,Ⅲ
A:3
名
,そ
の他:4名 )が
分析 対 象 と され た。 そ して,Tlの
抑 うつ,不
安,身
体 症 状 の得 点 を それ ぞれ 共変 量 とす る繰 り返 しの あ る共 分 散 分析 に よ り,手
術 後1週
間 と手術3週
間後(Week l)か
ら4週
間後 まで(Week 4)の
1日 の平均 歩行数 (身体 活 動 量)と
手術1週
間後(Tl)の
自己報 告 式 尺度 の得 点 の 関連 が分析 され た。そ の結 果,Week l及
びWeek 4
の平均 歩行数 (歩/日
)は
,Tlの
身 体 症 状 及 び不 安 の得 点 とは 関連 が見 られ ない一 方 で,Tlの
抑 うつ得 点 とは有 意 な 関連 が あ る こ とが示 され た。さ らに,抑
うつ得 点 の 中央値 で, 抑 うつ 高群 と低 群 を分 けて,分析 を行 つた結 果,抑 うつ得 点 が 高 い患者 は,低い患者 よ り, 1日 の平 均 歩行 数 (歩/日
)力`少 ない こ とが示 され た。 この結 果 は,個
人 の気 分 状 態 と 日常 生活 の 中で の行 動 活性 (Behavioral activation)の 程 度 との相 互 関係 に着 目 した抑 うつ の行 動 理 論(Lewinsohn,1975;Martell,Addis,&
Jacobson,2001)と
一 致 す る結 果 で あ り,歩
行 数 に よつて測 定 され た 日常 身 体 活 動 量 が, 抑 うつ の行 動 理 論 にお け る行 動 活 性 の程 度 の指標 と して も用 い る こ とが で き る こ とを示 して い る。つ ま り,Hirai et ale(2007)に
お け る抑 うつ得 点 が高 い肺 が ん患者 は,低
い患質問紙
万歩計回収
(退
院
)者 よ りも
,手
術後,“生活活動"や
低 強度 の “運動"を
通 した 日常身体活動 量が少 ない こ とが明 らか となつてお り,“生活活動"や
低 強度 の “運動"に
よつて一般 に もた らされ る ポ ジテ ィブな結果 (e.gり 部屋 が きれ い にな る,家
族 か ら感謝 され る,快
感情)を
経験す る 機 会 が得 られ ていない可能性 があ る と考 え られ る。抑 うつ の行動理論 に基づ く支援 は,こ
れ まで に,ア
メ リカ を中心 に研 究 が行 われ効果が認 め られてい る (eog。,Cuttpers,vanStraten,&Warmerdam,2007;Dimittian,Barrera,Martell,M[uioz,&Lewinsohn,
2011)。 本邦で も,近
年,大
学生 が対象 ではあるが,基
礎 的 なアセ ス メン ト研 究が行 われ るよ うになつて きてお り (伊藤,2010;伊
藤 ・松 見,2008;2009;2010;伊
藤 ・村 田・松 見, 2012)、 今後 は抑 うつ に対す る臨床的介入 に も取 り入れ られ るだ ろ う。 ‐Courneya(2001)及
び抑 うつの行動理論 に基づ くと,手
術後 の肺 がん患者 においては , 運動療法 で求 め られ る中強度以上 の “運動"で
な くて も,日 常生活 の中で,家
事 な どの “生 活活動"や
ゆつ く りとした散歩 な どの低強度 の “運動"を
通 した 日常身体活動量 の回復 を 支援す る こ とは,QOLに
お ける身体面 0日 常生活機 能 面0社
会面 の健康状態 の回復 に加 えて,心
理面 の健康状態 の回復 に貢献で きる と考 え られ る。 しか し,手
術後 の肺 がん患者 を対象 と した研 究 では,歩
行数 を指標 と した 日常身体活動 量がQOLに
お ける心理面以外 の領域 (身体面 0日 常生活機 能面・社会面)の
健康状態 と 関連 してい るかにつ いては研 究が行 われ ていない。さらに,手
術後 の肺 がん患者 において, この歩行数 を指標 と した 日常身体活動 量 自体 には どの よ うな要 因が影響 してい るか につ いて も明 らかになつていない。 これ までのがん患者 を対象 とした研 究では,主
に 自己報告式尺度 に よって測 定 され た 日常身体活動量 には
,人
口統計学的要因 (eogり C°ups et al。 ,2009a;Stevinson et al。
,2009)だ
けでな く,身
体 的要 因 (e.ge,Courneya et al。,2008;
Rogers et al。,2008)が
影響 してい るこ とも示 され てい る。Hirai et al.(2007)に お いて も,身
体症状 と 日常身体活動量 (歩行数)に
は関連 の検討 が行 われ てい るが,痛
みや 息苦しさな ど具体的な症状 との関連 は十分 に行 われ ていない。また,日 常身体活動量 (歩行数)
どの程度 まで減少す るのか
,も
しくは,ど
の程度 まで回復す るのか,さ
らには,そ
の 日常 身体活動量の変化 がQOLと
関連 してい るのかにつ いては明 らか となつていない。よつて, 本博 士論文研 究では,ま
ず,こ
れ らの課題 に着 目したアセ スメン ト研 究 を行 う (研究 1)。 さらに,肺
がんだ けでな く,乳
がん を始 め とした他 のがん患者 を対象 とした身体活動研 究では,手
術後 の 日常生活 に復帰す る期 間に焦点 を当て,身
体活動 の 中で も,“生活活動" や ゆつ く りとした散歩 な どの強度 の低 い “運動"に
着 目した研 究 は行 われ ていない。 これ までのがん患者 を対象 とした身体活動 の回復 0促 進 に着 目した研 究では,身
体活動 の 中で も,有
酸素運動や筋カ トレーニ ングの よ うな中強度 以上の “運動"を
定期 的 に実施 しす る 運動療 法 に関す る研 究が 中心で あった。 そ こで,次
節 では,こ
れ まで に行 われ て きたがん 患者 に対す る運 動療 法研 究 を概観 し,身
体 を動 かす こ と (身体活動)に
よるがん患者 のQOL回
復へ の有効性 について述べ る。1-3-3
が ん 患 者 に 対 す る運 動 療 法 の 有 効 性 がん患者 に対す る運動療法では,が
んや がん治療 に よつて もた らされた心肺機能・ 筋力 の低 下や屈、切れ な どの身体症状 の回復・改善 を通 して,
日常生活 の 中での活動や心理社会 的機 能 の回復 ・ 改 善 が もた らされ る こ とを意 図 してい る (Courneya et al。,2001;van
Weert et al.,2008)。 そ して