J.パーセル/S.ハチンソン「ライン管理職により規定される人材マネジメントの効果」(PDF:214KB)
2
0
0
全文
(2) . , 17 (1), 2007,. pp.3-20. 一橋大学大学院. はじめに HRM 研究の主要な課題として, 「どのような HRM ならば, 個人的・組織的な成果にプラスの貢献を果た すことができるか」 ということがある。 そこで近年関 心を持たれているのが, 因果関係の間のブラックボッ クスを埋めるための試みである。. 江夏幾多郎. ことなのか」 という問いの意義が大きくなる。 そして, 社会工学的なメタファーとは対極に立つ, 当事者の経 験や解釈から HRM を捉えようとする立場がクローズ アップされてくる。 研究のエッセンス 筆者らはブラックボックスの解明のため, (1)HRM. 今回紹介するパーセルとハチンソンの研究の主要な. に対する従業員の知覚, (2)従業員知覚と態度変数. 問題意識は, 「先行研究がそれを埋めるために着目し. (組織コミットメントや職務満足) や行動変数 (職務. たものよりも適した要因は何か」 というところにある。. 行動や組織市民行動 (OCB) や離職・欠勤行動) と. そこでまず, 彼らの研究を補足する意味でも, 一般的. の間の関係, に着目した。 この時, 従業員の HRM に. な HRM 研究の問題点について指摘したい。. 関する知覚は, その遂行に多くの責任を持つようになっ. 既存の HRM 研究のアポリア 一般的に HRM 研究では, 従業員の態度や行動に外 部から影響を与える客観的機構として HRM が捉えら. たライン管理職とのやり取りに関する経験によって大 きく左右される。 ライン管理職の HRM 関連やそれ以 外のリーダーシップ行動が, 意図していた HRM と実 現した HRM の間のギャップを構成するのである。. れている。 こうすることで, 少なくとも結果論を言え. ライン管理職のリーダーシップ行動に着目するに当. ば, HRM に対する従業員の反応は, 所定のプログラ. たり, 筆者らは LMX (Leader Member Exchange). ムに忠実に従う自動機械の動作と同様のものと描かれ. 論を参照している。 従業員の態度や行動は, 「自分が. てきた。 こうした認識方法が構成概念妥当性や外的妥. どういう組織からのサポートを受けているか」 という. 当性や信頼性を確保し, 広範な研究の流れを生み出し. 知覚に応じて, 等価交換の観点から主観的に決められ. た。. る。 従業員はライン管理職を所属組織の代理人と見て. 反面, その認識方法がゆえに, HRM 研究の応用学. おり, 彼らからのフィードバックや目標設定のための. 問としての地位は微妙なものになっている。 「現実の. 試みにより, 彼らに対して信頼や権威を付与し, その. HRM の運用のされ方は建前の HRM とは大いに異な. 見返りとして企業にとって望ましい態度や行動を示す。. る」 という実務家の感覚からすれば当然のことが, 研. こうした議論を要約したのが図である。 この枠組み. 究者の感覚から排除されてしまうのである。 さらに,. を構築・立証するためのサーベイやケーススタディが. 分析の厳密さを守るために捨ててきたものが, 相も変. 行われた。 サーベイでは破線の関係について, ケース. わらず HRM 研究における相反する主張の連鎖を生み. スタディでは実線の関係について, それぞれ議論された。. 出しているとも言える。 人事部とラインでの, さらには実務家と研究者の間. サーベイにおいては, リーダーシップ行動変数が HRM 変数や態度変数と高い相関をもつことが示され. での感覚のずれに改めて着目することで, 「そもそも. た。 さらに, 通常最小二乗法による回帰分析の結果,. HRM が組織的・個人的な影響を及ぼすとはどういう. リーダーシップ行動変数と HRM 変数のそれぞれが,. 88. No. 566/September 2007.
(3) 論文 Today. リーダーシップ開発 ・HRMによる選択・ 育成 ・自律的な学習 ・ライン管理職の上司 による指導や処遇を 通じた学習. 意図されたHRM ・施策の中身 ・ライン管理職への移 譲の度合い. 従業員の知覚・経験としての リーダーシップ行動 ・変革へのサポート ・部下の意見の傾聴 ・分け隔てない関係. 運用されたHRM ・諸施策への満足度 ・業績評価の有効性 ・チームワークの現実. 態度変数 ・組織コミット ・職務満足. 行動変数 ・職務上の行動 ・組織市民行動 ・離職∼欠勤. 成果変数 ・集団∼組 織レベル. 態度変数に対して有意な正の影響力を及ぼすことが示. にせよ, 従業員側の知覚に基づいた質問紙設計がされ. された。. ている。 しかし, 「客観的な側面だけを見るには限界. ケーススタディは, ある百貨店衣類部門でのライン. がある」 という問題意識がそうさせたとは言え, 客観. 管理者のリーダーシップ能力向上のための数年間にわ. 的な側面を見ないでいいわけではない。 例えば, 異な. たる取り組みを対象としたものである。 2000 年の第. る企業の 2 人が 「チームワークの意識が弱い」 という. 一次調査によると, 半分弱の従業員が業績評価システ. 同水準の知覚をした背景で, 「意図された HRM」 と. ムに対して満足しておらず, その理由はライン管理職. して客観的に示されたものが異なっている場合がある。. が業績評価手順を守らないことにある。 そういう従業. チームワークを重視する HRM かそうでない HRM か. 員は, 「自らの意見を表明する機会を管理者がくれな. で, 「チームワークの意識がある程度強い」 という従. い」 「経営側からのケアが感じられない」 と感じる傾. 業員知覚が 「期待通り」 にも 「期待外れ」 にもなりう. 向があった。. る。 その違いは, 従業員態度や行動への因果関係のあ. こうした結果を踏まえ, 店舗側により想定と現実の. り方に大きく影響するだろう。. ギャップを埋める取り組みが行われた。 全管理職に対. また, 「リーダーシップ行動への知覚と HRM への. して選抜試験を行い, 一部の管理職はその地位を奪. 知覚は相互影響的/相互補完的な関係にある」 という. された。 また, ライン管理者の評価基準に 「部下の育. 指摘にもかかわらず, それが交互作用項の投入や共分. 成」 「リーダーシップ行動」 という項目を付加した。. 散構造分析の活用という取り組みによってモデル化さ. こうした取り組みの中, 2001 年に 2000 年と同様の質. れていない。 通常最小二乗法による回帰分析や, 断片. 問調査をもう一度行い, 「職務満足」 「組織コミットメ. 記述的なケーススタディでは, 筆者らの (どちらかと. ント」 「職務での自己効力感」 「ライン管理者のリーダー. いえば楽天的な) 命題や仮説への反証に対して, 不十. シップ行動」 についての印象が改善していることが発. 分な対応しかできないだろう。. 見された。 売上高向上や離職率低下も実現した。. とはいえ, 「実証科学を志向するほど, 企業の現実. 2001 年以降, ライン管理者の役割定義が見直され,. を反映しない説明論理になってしまう」 という HRM. 採用やコーチングなど, HRM 関連の多くの職務が移. 研究が陥っているアポリアを乗り越えるため, 新たな. 譲された。 さらに, ライン管理者の能力を高めるため. 視点や多様な調査方法を駆使したことは, この研究の. のフォーラムを主体的に開催させたり, ライン管理者. 大きな意義であろう。 経営改革の最中に調査を行い,. の上司による公式的・非公式的なコーチングの機会が. 逆にその流れに示唆を与えるような臨床的なスタンス. 設けられたりするようになった。. も興味深い。 この研究は, それに従ったり批判的になっ. 課題と展望. たりすることで問題意識や作業仮説を生み出すための 母胎として, 価値があるだろう。. この研究は意欲的な取り組みである分, 消化不良の 部分も目立つ。 例えば, 意図された HRM と実際に知. えなつ・いくたろう 一橋大学大学院商学研究科博士課程。 最近の主な学会発表に 「非正規従業員増加の正規従業員への. 覚された HRM の間の違いに関して, その実像やその. 影響に関する分析. インパクトを描き出せていない。 回帰分析における独. して」 (経営行動科学学会第 9 回年次大会, 2006 年 11 月)。. 立変数においては, リーダーシップ行動にせよ HRM 日本労働研究雑誌. 均等処遇の進展度に応じた差異に着目. 人的資源管理論専攻。. 89.
(4)
関連したドキュメント
7.法第 25 条第 10 項の規定により準用する第 24 条の2第4項に定めた施設設置管理
• 競願により選定された新免 許人 は、プラチナバンドを有効 活用 することで、低廉な料 金の 実現等国 民へ の利益還元 を行 うことが
は︑公認会計士︵監査法人を含む︶または税理士︵税理士法人を含む︶でなければならないと同法に規定されている︒.
・職員一・人一・人が収支を意識できるような、分かりやすいバランスシートを管
保税地域における適正な貨物管理のため、関税法基本通達34の2-9(社内管理
41 の 2―1 法第 4l 条の 2 第 1 項に規定する「貨物管理者」とは、外国貨物又 は輸出しようとする貨物に関する入庫、保管、出庫その他の貨物の管理を自
可搬型設備は、地震、津波その他の 自然現象、設計基準事故対処設備及び
1号機では、これまでの調査により、真空破壊ライン ベローズおよびサンドクッションドレン配管の破断