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維持血液透析患者に対する効果的な栄養指導および栄養管理方策の構築

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Academic year: 2021

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氏 名 学位(専攻分野の名称) 博 士(環境共生学) 学 位 記 番 号 甲 第 676 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 26 年 3 月 20 日 学 位 論 文 題 目 維持血液透析患者に対する効果的な栄養指導および栄養管理 方策の構築 論 文 審 査 委 員 主査 教 授・博 士(医 学) 樫 村 修 生 教 授・博士(農芸化学) 石 田 裕 教 授・博 士(医 学) 田 中 越 郎 論 文 内 容 の 要 旨 【背景および目的】 2011 年,日本における患者調査の概況によると,主 な傷病の総患者数は,順に高血圧性疾患 907 万人,糖尿 病 270 万人,高脂血症 189 万人,心疾患 161 万人,悪性 新生物 153 万人,脳血管疾患 124 万人,腎疾患 116 万人 であり,腎疾患患者は 7 番目に多い患者数である。腎臓 の機能には身体の恒常性を保つため,尿生成と排泄,尿 成分の調節,血液濾過,糸球体濾過値の調節,体液量や 血圧の調節,造血と骨代謝などがある。腎疾患の種別は 原因別に細かく分類されているが,上記のすべての腎機 能の低下が関与する。末期腎不全となって必要となる腎 代替療法は,透析療法(血液透析,腹膜療法)と腎移植 がありその患者数は世界的に増加している。日本におけ るこの治療法は,血液透析が 96.9% とほとんどを占め ており,腎不全に陥った患者の代行治療としては血液の 老廃物除去,電解質維持および水分量維持を目的とした 治療がおこなわれる。 2012 年末,日本における慢性透析患者数は 309,946 人となった。この数は前年より 5,090 人の増加である。 日本における透析患者の生命予後は,平均寿命の延伸お よび透析機器,透析技術,エリスロポエチンや抗凝固剤 などの薬剤が登場したことで飛躍的に延びてきた。その ため,透析を 20 年以上行っている患者数は 2012 年現在 23,283 人に達し前年に比べ 819 人増加した。また,最 長透析歴は 44 年 9ヶ月であり透析患者の平均年齢は 66.87 歳で,前年に比べ 0.32 歳増加し,さらに 70 歳以 上の高齢者は透析患者全体の約 45% を占め,透析の長 期化と高齢化が進行している。一方,日本における糖尿 病患者の増加は,食生活の欧米化とモータリゼーション の発展が,確実に高カロリー摂取と低エネルギー消費を もたらしたと云える。しかしながら,このような患者 が,良好な生活習慣の是正ができず血糖の高い状態が 10 年以上も続くと,全身の動脈硬化が進行し始め,腎 臓に障害が及ぶと蛋白尿,ネフローゼ症候群等を経て慢 性腎不全に至る。透析導入になる患者の原疾患の 1 位は 糖尿病性腎症であり透析導入患者の約 45% となってい る。このような患者が増加していることも日本の透析医 療の特徴である。また透析患者の栄養問題として,低ア ルブミン血症,標準化たんぱく異化率(normalized pro-tein catabolic rate : nPCR)の至適レベル,体重増加 率,高リン血症,高カリウム血症を挙げている。透析患 者の臨床・栄養指標については高齢になるほど,あるい は透析歴が 20 年以上になると低アルブミン血症,たん ぱく質摂取量の低下,やせの頻度が増加し低栄養状態に あるとの報告がある。 以上のことから,日本における透析医療を行う上での 問題点は次のように整理できる。 1)糖尿病を原疾患とする透析患者は増加し続ける一方, 透析技術の発展に伴い透析治療は長期高齢化してい る。 2)透析の長期化は栄養素不足を招き,味覚障害や血管 障害等の代謝機能に影響を及ぼし,その要因として 不適切な栄養管理が挙げられる。 3)透析期間が長期化し患者が高齢化すると低栄養に陥 り易いため,透析導入早期から患者の栄養状態を把 握し,その変化を観察し評価した上での栄養管理を することは透析患者の予後改善に繋がる。しかし, 透析施設に十分な数の管理栄養士は配置されていな い。 これらの問題点を解決するためには患者の栄養管理を しつつ,適切な食事管理が可能になるような栄養指導を 効率よく継続して行っていくことが重要である。 そこで本研究における第一の目的は,某医療施設に通 院中の透析患者で毎月 1 回以上 10 年間継続しベットサ ─ 88 ─

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イドでの栄養指導を受けている患者 16 名(男性 7 名女 性 9 名)を対象とし,ドライウェイト,透析間体重増加 率,血液検査データ(血清カリウム,血清リン,血清ア ルブミン,n-PCR)の推移を検討し,これまで行って きた栄養指導の効果と問題点を明らかにした。第二の目 的は,栄養指導を行うことの効果と問題点から,味覚障 害についての実態を明らかにすることとした(調査 1)。 さらに,普段の食生活にアドオンしたテゾンの摂取によ り,亜鉛とビタミン類の摂取量を増加させ味覚障害を改 善させることが可能であるか介入研究(調査 2)を行っ た。 第三の目的は,某医療施設で透析を導入し継続的に栄 養指導を受けている透析患者群 59 名と,H 病院から他 施設へ転院し不定期での栄養指導を受けている透析患者 群 29 名の 2 群に分類し,年齢,性別,透析歴,また栄 養指導の際に目標値となる透析間体重増加率,収縮期血 圧,BUN,Cr,血清カリウム,血清リン,血清アルブ ミンおよび生存率について比較検討し,継続栄養指導に よる臨床指標への影響を検証した。 これらのことから維持血液透析患者に対する継続した 栄養管理および栄養指導の重要性を導き出すとともに, 効率的かつ効果的な栄養管理および栄養指導の方策を構 築することを総合目的とした。 3 つの研究とも,臨床研究に関する倫理指針(厚生労 働省)を厳守し,某医療施設の倫理審査委員会の承認を 受けた。 【方 法】 第一の研究では某医療施設に通院中の透析患者で毎月 1 回以上 10 年間継続しベットサイドでの栄養指導を受 けている患者 16 名(男性 7 名女性 9 名)を対象とし, ドライウェイト,透析間体重増加率,血液検査データ (血清カリウム,血清リン,血清アルブミン,n-PCR) の推移を検討し,これまで行ってきた栄養指導の効果と 問題点を明らかにした。 第二の研究における調査 1 では,某医療施設で血液透 析を行なっている患者 63 名を被験者とし,塩味認識閾 値の結果から 3 群に群分けを行い,血清亜鉛濃度,推定 食塩摂取量および透析間体重増加率を比較し,透析患者 の味覚障害と血清亜鉛濃度の違いを横断的に検討した。 また,調査 2 として,承認を得られた 19 名の患者を微 量ミネラル補給飲料(テゾン)の摂取群と対照群に分 け,2ヶ月間の摂取期間の前後での 4 基本味の認識閾値, 血清亜鉛濃度,血清銅濃度および血清銅濃度/血清亜鉛 濃度比の変化を検討し,通常の食生活に加えテゾンを摂 取することで亜鉛とビタミン類の摂取量を増加させ味覚 障害を改善させることが可能であるかを介入研究で検証 した。第三の研究では,H 病院で透析を導入し継続的 に栄養指導を受けている患者群 59 名と,某医療施設か ら他施設へ転院し不定期での栄養指導を受けている透析 患者群 29 名を 2 群にランダムに分類し,年齢,性別, 透析歴,また栄養指導の際に目標値となる透析間体重増 加率,収縮期血圧,BUN,Cr,血清カリウム,血清リ ン,血清アルブミンおよび生存率について比較検討し, 継続栄養指導による臨床指標への影響を検証した。 【結 果】 第一の研究より栄養指導を行なうことで,血清カリウ ム値,血清リン値および透析間体重増加率は維持されて いたが血清アルブミン値は有意に低下した(p<0.05)。 第二の研究から,調査 1 の結果より血清亜鉛濃度は基 準値として提案されている 80mg/dL より全ての被験者 が下回っていた。推定食塩摂取量と透析間体重増加率に は群間に有意差が認められ,推定食塩摂取量には正常群 と測定不能群の間に有意差(p<0.05)が認められた。 調査 2 の結果より,テゾン摂取期間の前後での 4 基本味 の認識閾値の変化をみると,摂取群と対照群の間で酸味 にのみ有意差(p<0.05)が認められ,4 基本味の全体 での変化でも有意差(p<0.05)が認められた。しかし, 血清亜鉛濃度と血清銅濃度には変化がなかった。第三の 研究から継続指導の有無による臨床指標の影響は,不定 期で栄養指導を行っている施設で,累積生存率の低下が 早く,透析間体重増加率が有意に高くコントロールが悪 化していた(p<0.05)。 【考 察】 第一の研究では栄養指導を行なうことで血清カリウム 値,血清リン値および透析間体重増加率の維持に影響が あったことが示唆された。また,長期透析における患者 の血清アルブミン値は有意に低下し,徐々に栄養状態は 悪化したと考えられた。長期透析におけるアルブミン濃 度の低下は,透析患者の生命予後に直結するため,食事 からのリン制限やカリウム制限の指導だけではなく,薬 物療法や透析条件も考慮した包括的な栄養管理が必要で あることが考えられた。第二の研究では,研究における 調査 1 の結果より,塩味を感知できない被験者ではより 多くの塩分を摂取し,透析間での体重増加を引き起こす ことが示唆された。調査 2 の結果からは,2ヶ月間のテ ゾンの摂取は認識閾値の改善には有効である可能性が考 えられた。第三の研究では,透析患者に対して継続的栄 ─ 89 ─

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養指導が透析間体重増加率を目標値内に維持することが 有用であり,累積生存率が低下することが示唆された。 しかし,栄養状態の指標となる血清アルブミン値につい ては自施設患者群および他施設患者群ともに長期透析を 行うことで徐々に低下した。この原因として,栄養状態 の評価が不十分であったことが考えられた。これらのこ とから,透析導入時における患者に対する栄養指導の充 実をはかり,透析治療の中で状況に合わせた栄養管理を 実施していくことが患者 QOL につながると考える。ま た,実際の運用において透析療法の特殊性も考慮して, より効率的な栄養評価システムを構築すべきと考える。 【総 括】 本研究から,維持血液透析患者に対する継続した栄養 管理および栄養指導の重要性を導き出し,導入期から維 持期における指導および管理のポイントを整理すること で,より効率的かつ効果的な栄養管理および栄養指導の 方策を構築した。 1)透析導入時 : 徹底した初期段階での栄養教育 安定した透析生活を送るために,適正な血清カリウム およびリン値をコントロールすることにより導入時の教 育を実施し,初期段階で今後注意すべき食生活上での食 品の選び方のポイントおよび栄養摂取量の確保の重要性 などの栄養管理および食事療法の重要性を認識してもら う。摂取エネルギー量の確保の重要性についても再確認 し,導入時の指導は栄養教育を中心に行う。 2)透析導入時・透析維持期 : 体組成計測および味覚調 査の実施による栄養状態の把握 定期的に体組成を計測するとともに,長期透析患者で 多くみられる味覚障害を確認するための味覚調査を行な い,患者の栄養状態の変化を捉え,食塩や水分摂取量の 経過観察を行い栄養指導に生かす。 3)透析維持期 : 継続的な栄養指導によるセルフモニタ リングの推奨 毎月の定時採血時において,直接食事内容が関連する 血清カリウム値およびリン値と透析間体重増加率(食塩 摂取量)の観察を行い,異常値に対する問題点を抽出 し,問題点の改善のための頻回指導を行い,臨床データ のコントロール維持を促すための指導を実施する。 4)透析維持期 : 定期的な透析医療チームでの包括的栄 養管理 半年から 1 年ごとには栄養状態,長期透析予後を見据 えた血清アルブミン値や透析間体重増加率(ドライウェ イトの推移も含めた)をもとにした栄養評価を行い医 師,看護師,管理栄養士,臨床工学技士などのチームメ ンバーで検討する。 本栄養評価システムは,透析医療の特殊性を考慮した ものであり,透析患者の QOL の向上の一助になると考 える。 審 査 報 告 概 要 これまでに,維持透析患者に対する効率的かつ効果的 な栄養管理および栄養指導の方策は確立していない。本 研究では,透析患者に対する継続栄養指導の効果と問題 点を明らかにし,また栄養指導を行うことの効果と問題 点から,味覚障害についての実態を明らかにすることと した。さらに,普段の食生活にアドオンしたテゾンの摂 取により,亜鉛とビタミン類の摂取量を増加させ味覚障 害を改善させることが可能であるか介入研究を行った。 さらに,継続栄養指導の有無による臨床指標への影響に ついて調査した。これらの研究結果から,栄養管理及び 栄養指導の重要性を導き出し,効率的かつ効果的な栄養 管理,栄養指導の方策を次のように構築した。①透析導 入時 : 徹底した初期段階での栄養教育,②透析導入時・ 透析維持期 : 体組成計測および味覚調査の実施による栄 養状態の把握,③透析維持期 : 継続的な栄養指導による セルフモニタリングの推奨,④透析維持期 : 定期的な透 析医療チームでの包括的栄養管理。本研究において検討 された栄養評価システムは,透析医療の特殊性を考慮し たものであり,透析患者の QOL の向上の一助になる貴 重な知見を示すものである。 よって,審査員一同は博士(環境共生学)の学位を授 与する価値があると判断した。 ─ 90 ─

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