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〈研究ノート〉
淑徳大学千葉キャンパス学生の生命倫理観
北 野 大
要 約 2015年度及び2016年度に淑徳大学千葉キャンパスに学ぶ総合福祉学部及び看護栄養学部 の学生を対象に実施した講義「生命科学と生命倫理」において、講義終了後に実施した学生 からのリアクションペーパーを基に、上記学生たちの生命倫理観についてまとめた。今回は そのうち、人の生と死に関する項目について記述した。また、他機関で同種のアンケート調査 が行われている項目についてはそれらの結果と対比して、本学学生の特色について考察した。 キーワード 生命倫理 命の始まり 非配偶者間人工受精 出生前診断 人工妊娠中絶 母体保護法 安楽死 平成 28 年9月 25 日受付 平成 28 年 11 月 23 日受理 きたの まさる:淑徳大学 人文学部 教授1.初めに
著者は本学千葉キャンパスにおいて 2012 年度より「生命科学と生命倫理」の講義を担当している。こ の授業で扱う生命倫理の各テーマはいわゆる正解というものがなく、それぞれの学生のこれまで育って きた間に培われた人生観、宗教観、また現在学んでいる授業内容などにより左右されるものと考えられる。 この論文は淑徳大学総合福祉学部(社会福祉学科、教育福祉学科、実践心理学科)および看護栄養学 部(看護学科、栄養学科)の学生を対象に 2015 及び 2016 年度に行った上記授業のリアクションペー パーの内容、とくに人の生と死を対象にした質問に対する内容、を集計したものであり、男女学生によ る考え方の差、学部間による学生の考え方の差が生じているか否か、さらには本学の受講学生の考え方 が一般人を対象としたアンケート結果と果たして差があるのか、無いのか、あるとすればその理由は何 かの解析をこころみたものである。2 表−1 受講学生の分布 学年 学科 2015年度 2016年度 総合計 1年 2年 3年 4年 合計 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 17(4) 2(1) 17(9) 36(14) 3(0) 11(2) 4(1) 13(5) 31(8) 67(22) 教育福祉 9(0) 19(2) 17(3) 45(5) 6(0) 6(0) 51(5) 実践心理 4(0) 24(5) 3(1) 31(6) 7(1) 10(4) 15(6) 32(11) 63(17) 看 護 29(1) 29(1) 29(1) 栄 養 11(1) 1(1) 12(2) 12(2) 合 計 17(4) 13(0) 45(8) 37(13) 112(25) 43(2) 18(3) 14(5) 35(12) 110(22) 222(47) ( )は男子学生内数
2.受講学生及び調査方法
受講した学生の学科別、学年別の分布を表−1に示す。 2015 年度および 2016 年度の総受講学生数は 222 人であり、そのうち男子学生数は 47 人であった。学 部別では総合福祉学部学生が181 人、看護栄養学部学生が 41 人である。なお、学生にはそれぞれの項目 について、著者の考えが出ないように講義した。参考までに講義内容の概要をそれぞれの項目ごとに示 した。そのあと、それぞれの質問について学生の意見、その根拠をリアクションペーパーに記述させた。 質問項目は教科書として用いた今井道夫著「生命科学と生命倫理」をもとにしたが、一部著者の独自 の質問も加えた。また、比較参考とした一般人の考え方については下記の文献を参照に用いた。 河野啓、村田ひろこ「日本人は いのち をどうとらえているか」放送研究と調査 20−53 (2015) この調査はNHKが 2014 年 10 月に全国の 16 歳以上の人を対象に住民基本台帳から層化無作為2段 抽出により選出した 3600 人に配布回収法により回答を得た結果であり、回収率は 68.6%である。以降 NHK調査と略す。3.結果
3−1 人の命の始まりはいつと考えるか 3−1−1 講義内容 欧米を中心にカソリック教会の人たちは受精をもって命の始まりと考えている。しかし、一般的には 出産をもって人とするという考え方が我が国では広く受け入れられており、民法 721 条「胎児は損害 賠償の請求権については既に生まれたるものと看做す」および民法第 886 条「胎児は相続については、 すでに生まれたものと看做す」という規定は出産をもって人と看做すという民法の基準の例外として認 められたものと考えられている。 授業では受精以降、以下の4つの時点に区分して講義をした。 (1)卵子が受精した瞬間をもって人の始まりとする考え方。 この時点で父親の精子や母親の卵子とは異なる新しい命が始まるという考えであり、カソリッ ク教会はこの考え方を支持している。 (2)胎動をもって人のはじまりとする考え方。 胎動は通常、妊娠 10 数週目から始まり、胎児としての形を整えてくる。一般的にはこれ以前を 胚、以降を胎児と呼んでいる。3 (3)妊娠 22 週以降の胎児を人の始まりとする考え方。 胎児が外界で生活できる条件としては、妊娠 37 週以降であるが医療技術の進歩により現在では 妊娠 22 週以降なら外界で生育可能と考えられている。 (4)出産をもって人の始まりとする考え方。 外的環境の中で自らの力で呼吸し、消化することが可能。また法的にも名前が付けられ、戸籍 に登録される。 3−1−2 集計結果 集計結果を表−2−1に示す。なお、表−2−1中の意見欄及び表−2−1を基に集団ごとに集計し なおした表−2−2中の回答の(1)から(4)は前述の(1)から(4)に対応する意見の数および割 合である。 表−2−2からわかるように受講した全学生の回答割合は(1)受精直後が 57%であり、その主な理 由はその時点では人の形をしていなくても将来人になる、卵子や精子と異なる新しい生命、発達心理学 や児童心理学での定義をあげている。(2)胎動の始まりは 18%であり、その主な理由は胎動が見られ ることで、妊婦もお腹の中に赤ちゃんがいることを実感、(3)22 週以降は 13%であり、その主な理由 は母体外で生育できることが人としての始まり、(4)出産後は 12%であり、その主な理由は母親の胎 内にいるうちは母親の一部と考えてよい、年齢が出産した時から数えられている、レイプなどの望まな い妊娠もあるため、出産後にしないと殺人になる恐れがあるといったものであった。なお、この最後の意 見であるが、我が国では母体保護法によりレイプにより妊娠した場合は法的には中絶が認められている。 受精直後を人の始まりとする(1)の回答についてさらに詳しく見ていくと、男女別では男子学生は 42%、女子学生は 61%であり、予想したごとく女子学生のほうが受精直後を人の始まりとする割合が 多く見られた。また学部別では総合福祉学部では 54%であるのに対し看護栄養学部では 69%と明らか に差が生じている。看護栄養学部の学生はほとんどが女子学生であり、両学部の差は学部間の差よりも 男女学生の差と考えるべきである。さらに、学部別の男女の相違であるが、総合福祉学部の女子学生は 58%が受精直後と答えているが、看護栄養学部では 68%である。 注目されるのは看護栄養学部の学生は(4)出産後と回答した学生は皆無であることである。この差 の理由として、生まれた後の子供の福祉を主に考える総合福祉学部学生と、生まれる以前からのひとの 生命を重視する看護栄養学部の学生の差と考えてみた。 NHKの調査では「受精卵(胚)」と「精子や卵子」を分けているがその合計は 39%である、また上 述の(2)と(3)を合わせて胎児というくくりをしており、その合計の割合は 52%である。区分の仕 方が多少異なるため、両者の厳密な比較は困難であるが、本学学生の受精直後を人の始まりとする考え が多いのが注目される。特に看護学科の学生は 69%がこのように考えており、人の命に携わる学生の 考え方として尊重したい。日本では社会的、法律的には出産をもって人の始まりとしているが、このよ うに考える人は本学学生が 12%、NHKの調査では8%であり大差が見られない。 3−2 非配偶者間人工受精(AID)について 3−2−1 講義内容 不妊治療の一つとして人工受精がある。人工受精には配偶者間人工受精(AIH)と非配偶者間人工 受精(AID)がる。後者は提供された第3者の精液を用いて妊娠する治療法である。現在まで約1万 人以上の子供がこの方法で生まれていると言われている。精子提供者には厳格な条件があり精液所見が
4 表−2−2 人の始まりをいつと考えるか 回 答 全学生 (%) 男女別(%) 学部別(%) 学部別 男女別(%) 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 男子学生 女子学生 (1) 57 42 61 54 69 41 58 100 68 (2) 18 24 17 17 23 25 14 0 24 (3) 13 12 13 14 8 13 15 0 8 (4) 12 21 10 15 0 22 13 0 0 ( )は男子学生内数 年度 2015年度 2016年度 総合計 学科 意見 1年 2年 3年 4年 合計 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 (1) 8(1) 8(4) 16(5) 2(0) 2(0) 3(2) 7(2) 23(7) (2) 3(1) 1(1) 4(3) 8(5) 1(0) 2(0) 1(0) 4(0) 12(5) (3) 2(1) 1(0) 3(1) 3(1) 3(2) 6(3) 9(4) (4) 2(1) 1(1) 3(2) 1(0) 2(1) 3(1) 6(3) 教育福祉 (1) 6(0) 8(1) 9(2) 23(3) 23(3) (2) (3) (4) 3(0) 1(0) 4(1) 8(1) 8(1) 実践心理 (1) 1(0) 12(1) 2(0) 15(1) 3(0) 5(2) 6(0) 14(2) 29(3) (2) 1(0) 1(0) 1(1) 3(1) 1(0) 2(1) 5(1) 8(2) 11(3) (3) 7(0) 7(0) 1(0) 3(0) 4(0) 11(0) (4) 1(0) 4(3) 5(3) 1(0) 1(1) 2(1) 7(4) 看 護 (1) 21(1) 21(1) 21(1) (2) 4(0) 4(0) 4(0) (3) 2(0) 2(0) 2(0) (4) 栄 養 (1) 6(0) 6(0) 6(0) (2) 4(0) 1(0) 5(0) 5(0) (3) 1(0) 1(0) 1(0) (4) 合 計 15(4) 12(0) 34(6) 30(12) 91(22) 41(1) 13(1) 9(3) 24(7) 87(12) 178(33) 表−2−1 人の始まりをいつと考えるか ( )は男子学生内数 正常、肝炎やAIDSを含む性感染症等に感染していないことが必要である。 またこれは完全に匿名性で行われており、精子の提供を受けた夫婦や生まれてきた子供は提供者のこ とを知ることができない。 生まれてきた子供は夫婦の子供として戸籍に入るため、AIDにより生まれたことはわかることはな い。問題は生まれてきた子供の「出自を知る権利」が認められていないこと、またどの時点でAIDに より生まれたことを告知すべきか、または絶対に告知すべきでは無いのかという親の悩み、また告知さ れた子供がどのような感情を持つかなどの点がある。 3−2−2 集計結果 集計結果を表−3−1に、集団ごとに集計しなおした結果を表−3−2に示す。なお、表−3−1中 の意見の欄、および表−3−2中の回答の(1)、(2)、(3)はそれぞれ(1)AIDは認められる、(2)
5 表−3−1 非配偶者間人工受精(AID)について 年度 2015年度 2016年度 総合計 学科 意見 1年 2年 3年 4年 合計 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 (1) 5(2) 5(4) 10(6) 2(0) 3(1) 1(0) 4(2) 10(3) 20(9) (2) 11(2) 3(2) 14(4) 1(0) 3(0) 2(1) 5(3) 11(4) 25(8) (3) 1(0) 1(0) 1(0) 1(0) 2(0) 教育福祉 (1) 5(0) 9(1) 13(2) 27(3) 5(0) 5(0) 32(3) (2) 4(0) 10(1) 3(1) 17(2) 1(0) 1(0) 18(2) (3) 実践心理 (1) 2(0) 6(3) 8(3) 3(1) 3(3) 6(4) 14(7) (2) 2(0) 7(1) 9(1) 3(1) 5(4) 4(1) 12(6) 21(7) (3) 1(0) 1(0) 2(0) 1(0) 3(0) 4(0) 看 護 (1) 12(0) 12(0) 12(0) (2) 12(1) 12(1) 12(1) (3) 4(0) 4(0) 4(0) 栄 養 (1) 6(1) 6(1) 6(1) (2) 4(0) 4(0) 4(0) (3) 合 計 17(4) 13(0) 32(6) 25(9) 87(19) 41(2) 10(2) 13(6) 23(9) 87(19) 174(38) ( )は男子学生内数 表−3−2 非配偶者間人工受精(AID)について 回 答 全学生 (%) 男女別(%) 学部別(%) 学部別 男女別(%) 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 男子学生 女子学生 (1) 48 53 47 49 47 53 47 50 47 (2) 47 47 46 47 42 47 47 50 42 (3) 6 0 7 4 11 0 6 0 11 ( )は男子学生内数 認められない及び(3)他の意見の数、または割合を示す。 受講した全学生の結果は表−3−2に示すように(1)認められる 48.0%、(2)認められない 47% (3)その他の意見6%であった。 NHKの調査での夫以外の精子と妻の卵子による体外受精については、認められる、どちらかと言え ば認られるの合計が 22%であり、本学の学生の認られるの 48%と大きく異なっている。なお、NHK の調査では 35%が無回答であり、これらを補正して計算しなおしても認められる、どちらかと言えば 認められるの合計が 35%(補正後)であり、認められない、どちらかというと認められないの合計が 65%(補正後)となり、本学学生の結果 51%(認められるという意見をその他の意見を考慮して補正) とかい離している。 この差についての考察は困難であるが、NHK の調査は対象が 16 歳以上であり、本学学生の 18 から 22 歳と比較して明らかに年齢の高い人たちが多く対象となっている。年齢層の差が結果の差につなが っていると考えられる。なお、表−3−2には載せていないが、学年別で集計したところ、認めると回 答した1、2年生は 47%、3、4年生は 68%であり、明らかに年齢が高くなるに従い認めるという意 見が増えており、NHK の調査とは逆の結果である。 この差が何に起因するかの説明は困難であるが、本学学生のように自分自身は独身であり、親にはな っていないが子供をどうしても持ちたいという親の気持ちは理解できるという考えと、実際に子供を持
6 った親の経験の差であろうか。 一方、本学学生の男女別の割合は認めるとする男子学生は 53%、認めないとする男子学生は 47%、 女子学生については、それぞれ半数であり、男女間の大きな相違は認められない。また、学部別の差で あるが、認めると回答した総合福祉学部学生は 49%、看護栄養学部学生は 47%であり、学部間の差は ほとんどみられない。 認めるという意見の主な理由は1)子供を持ちたいという親の考えを優先すべき、2)養子縁組より 母親の遺伝子がつながるので良いのではないか、また3)人口減少対策にも資することを、一方認めら れないという主な理由は1)生まれてきた子供に与えるショック、特に親を知りたいという要望に応え られないこと、2)父親の子育てに対しての愛情が欠けてくる恐れ、3)最悪の場合兄弟間での結婚な どがあった。 また、本学学生の判断不可の理由としては1)何としてでも子供を持ちたいという親の希望と、生ま れてくる子供の将来の苦悩のどちらを優先して考えるべきについて判断できないというものであった。 3−3 代理懐胎および親子関係について 3−3−1 講義内容 体外受精型の代理懐胎(借り腹)および精子又は卵子提供の代理懐胎については日本産婦人科学会で、 1)生まれてくる子供の福祉を最優先に考えること、2)代理懐胎は身体的危険、精神的苦痛を伴うこ と、3)家族関係を複雑にすること、4)倫理的に社会全体が認めていないことから禁止をしており、 また我が国では法律的には出産者を母親としていること、そのため代理懐胎で生まれてきた子供との親 子関係の認知で実際に起きた訴訟問題について講義を行った。 このほか、代理懐胎は先天的異常で子宮が機能を果たせない、子宮がんなどの女性にとってはこの方 法が自分の子供を持つ唯一の手段であり、また第3者が無償で母体の提供を申し出る場合には認めても 良いのではないかとの考え方もあることも合わせ講義した。 3−3−2 集計結果 (1)代理出産は子供の福祉にかなうか 表−4−1に集計結果を、表−4−2に集団ごとに集計しなおした結果を示す。表−4−1及び表− 4−2中の意見または回答欄の(1)および(2)はそれぞれ(1)子供の福祉にかなう、(2)かなわな いと思うとの、意見の数または割合である。 この調査では回答数が少なく、特に看護栄養学部学生の回答数は2名であるため、集計結果はあまり 意味がないことをお断りする。そうした前提の上で集計結果を見ると、受講した学生のうち、子供の福 祉にかなっていると回答したものは 36%、かなっていないと回答したものは 64%であった。また、男 女別では男子学生の 25%が子供の福祉にかなうと回答しているのに対し、女子学生は 40%であった。 この方法による出産を認める理由としては1)出産できない人にとって大きな喜びになることが子供 の福祉にもつながるとする考え方、一方認めない意見としては、1)この方法はあくまでも親のエゴで あり、子供の幸せを最優先に考えるべきこと、2)どうしても子供がほしい場合には里親制度や養子制 度を使うべきなどの意見であった。 なお、NHKの調査では代理出産そのものについてアンケートを取っており、無回答を補正して計算 しなおすとボランティアによる場合は 32%が認められる、近親者の場合は 53%が認められると回答し ている。今回の授業ではあくまでも生まれてきた子供の福祉にかなうか否かの観点での質問であったた
7 表−4−1 代理出産は子供の福祉にかなうか 年度 2015年度 2016年度 総合計 学科 意見 1年 2年 3年 4年 合計 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 (1) 1(1) 1(1) 2(2) 2(0) 2(0) 4(2) (2) 3(1) 2(2) 5(3) 1(0) 3(0) 4(2) 8(2) 13(5) 教育福祉 (1) 1(0) 1(0) 1(0) (2) 2(0) 2(0) 4(0) 4(0) 実践心理 (1) 1(0) 1(0) 2(0) 1(0) 2(0) 3(0) 5(0) (2) 3(0) 3(0) 1(1) 1(1) 4(1) 看 護 (1) 2(0) 2(0) 2(0) (2) 栄 養 (1) (2) 合 計 3(1) 2(0) 7(1) 5(3) 17(5) 3(0) 5(0) 2(1) 6(2) 16(3) 33(8) ( )は男子学生内数 表−4−2 代理出産は子供の福祉にかなうか 回 答 全学生 (%) 男女別(%) 学部別(%) 学部別 男女別(%) 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 男子学生 女子学生 (1) 36 25 40 36 100 25 40 100 (2) 64 75 60 64 0 75 60 ( )は男子学生内数 め、代理出産そのものの是非の比較には直接使えないが、参考として記した。 (2)誰を母親とすべきか 表−5−1に集計結果を、表−5−2に集団別の集計結果を示す。表−5−1中の意見の欄及び表− 5−2中の回答欄の(1)は卵子の提供者、(2)は出産者、(3)はどちらともいえないその他、の意見 の数および割合を示す。 受講学生全体の集計では(1)31%(2)35%(3)34%であり、ほぼそれぞれの考え方が等しくな った。学部別では、(3)と回答した学生を除き集計すると、(1)は総合福祉学部では 48%、看護栄養 学部では 45%であり、学部間の差が見られない。 著者は生物的には(1)を、社会的には(2)と考えており、総合福祉学部学生と看護栄養学部学生 間で明らかな差が出るものと期待していた。すなわち、看護栄養学部の学生からは(1)の答えが多く 出され、総合福祉学部の学生からは(2)の答えが多く出るものと予測していた。しかし結果は上記の ようであった。 なお、(3)の回答理由としては愛情深く育てた人が母親であり、卵子の提供や出産という行為は必 ずしも母親の条件にならないというものであった。この答えに著者は深く感動した。なぜなら、この考 え方こそが共生を建学の精神とする本学の教育方針が大きな影響を学生たちに与え、学生たちも深くこ の精神を理解していることの証であると考えたからである。
8 表−5−1 母親の条件 年度 2015年度 2016年度 総合計 学科 意見 1年 2年 3年 4年 合計 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 (1) 2(0) 5(2) 7(2) 3(0) 3(0) 2(0) 4(1) 12(1) 19(3) (2) 8(2) 1(1) 1(0) 10(3) 1(1) 1(0) 2(1) 12(4) (3) 4(0) 1(1) 5(1) 2(0) 2(2) 4(2) 9(3) 教育福祉 (1) 1(1) 2(0) 4(0) 7(1) 7(1) (2) 3(0) 3(0) 3(1) 9(1) 2(0) 2(0) 11(1) (3) 12(0) 3(0) 15(0) 1(0) 1(0) 16(0) 実践心理 (1) 3(1) 1(1) 4(2) 2(0) 2(2) 2(1) 6(3) 10(5) (2) 2(0) 2(0) 2(0) 6(0) 2(0) 4(2) 4(3) 10(5) 16(5) (3) 1(0) 3(0) 4(0) 2(0) 1(1) 3(1) 7(1) 看 護 (1) 6(1) 6(1) 6(1) (2) 10(0) 10(0) 10(0) (3) 11(0) 1(0) 12(0) 12(0) 栄 養 (1) 3(0) 3(0) 3(0) (2) 1(0) 1(0) 1(0) (3) 5(0) 5(0) 5(0) 合 計 14(2) 6(1) 24(2) 23(5) 67(10) 39(1) 11(1) 11(4) 16(8) 77(14) 144(24) ( )は男子学生内数 表−5−2 母親の条件 回 答 全学生 (%) 男女別(%) 学部別(%) 学部別 男女別(%) 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 男子学生 女子学生 (1) 31 39 30 34 24 36 33 100 22 (2) 35 43 33 36 30 45 34 0 31 (3) 34 17 37 30 46 18 33 0 47 ( )は男子学生内数 3−4 出生前診断 3−4−1 講義内容 現在、母体内にある胎児を診断する種々の技術がある。これらには超音波診断、羊水穿刺、絨毛検査 などがあり、これらの検査により安全な妊娠継続と出産に寄与していると言える。一方、男女の区別が 容易にわかることから男女の産み分けが行われる可能性がある。また、今井も指摘しているように、胎 児に適切な対処法が無い重篤な障碍が認められたときの判断、すなわち選択的中絶の是非の問題が生じ てくる。 3−4−2 集計結果 (1)男女の産み分けは許されるか。 表−6−1に集計結果を、表−6−2に集団別の集計結果を示す。表−6−1の意見の欄及び表−6 −2の回答の欄の(1)は許される、(2)は許されないとする意見の数または割合を示す。 受講した学生の全体としては(1)の許されるは 41%、(2)の許されないは 59%であった。男女別 では男子学生の許されないが 69%と女子学生の 57%と異なる回答となっている。しかしながら男子学 生の回答数が 13 と女子の 98 に比べ、かなり少ないのでこの差が意味のある差なのかの判断は困難であ
9 表−6−1 男女の産み分けについて 年度 2015年度 2016年度 総合計 学科 意見 1年 2年 3年 4年 合計 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 (1) 5(1) 3(0) 8(1) 2(0) 1(0) 2(0) 5(0) 13(1) (2) 5(2) 3(2) 8(4) 2(0) 2(0) 2(1) 6(1) 14(5) 教育福祉 (1) 2(0) 2(0) 6(0) 10(0) 1(0) 1(0) 11(0) (2) 4(0) 7(0) 7(0) 18(0) 1(0) 1(0) 19(0) 実践心理 (1) 2(0) 2(0) 2(1) 1(1) 6(1) 9(3) 11(3) (2) 1(0) 7(0) 1(0) 9(0) 4(2) 4(2) 8(4) 17(4) 看 護 (1) 8(0) 8(0) 8(0) (2) 13(0) 13(0) 13(0) 栄 養 (1) 3(0) 3(0) 3(0) (2) 2(0) 2(0) 2(0) 合 計 10(3) 7(0) 18(0) 20(2) 55(5) 28(0) 5(1) 7(3) 16(4) 56(8) 111(13) ( )は男子学生内数 表−6−2 男女の産み分けについて 回 答 全学生 (%) 男女別(%) 学部別(%) 学部別 男女別(%) 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 男子学生 女子学生 (1) 41 31 43 41 42 31 43 42 (2) 59 69 57 59 58 69 57 58 ( )は男子学生内数 る。学部別では総合福祉学部の場合、許されるが 41%、許されないが 59%、看護栄養学部の場合、許 されるが 42%、許されないが 58%であり、ほとんど同一であった。許されるとした意見の理由には、1) 歌舞伎等の社会における跡取りの問題、2)望まれず生まれてくる子供に対する親の愛情の問題などが 挙げられている。一方、許されないとする意見には、1)倫理上認められない、自然に任せるべき、2) 男女の比率が崩れる恐れなどが指摘されている。 (2)胎児に適切な対処法が無い重篤な障碍が認められたとき、中絶は許されるか。 このテーマについては 2016 年度のみ実施した。表−7−1に集計結果を、表−7−2に集団別の集 計結果を示す。表−7−1の中の意見欄及び表−7−2の中の回答はそれぞれ(1)中絶を認めても良 い、(2)中絶は認められないという意見の数および割合を示す。 受講した学生全体でみると 77%の学生がこの場合は中絶を認めるとしている。一方、23%の学生は 認められないと回答した。男女及び学部別でもほとんど差は認められない。 基本的にこの授業を受けた学生の4分の3がこのような場合には中絶を認めるとしている。認められ る理由としては、1)高額な医療費などの経済的問題、2)将来虐待や育児放棄につながる恐れ、3) 親が死亡した後の子供の面倒の問題など4)障碍を持って生きていくことは本人とってもつらいこと、 などの考えが述べられている。一方、認められないとする意見は1)障碍はあろうとなかろうと宿った 命に関係はない2)胎児には生きる権利がある3)障碍は一つの個性と考えるべき4)お互いに支え合 って生きるのが人間のあり方5)現在生きている障碍者の否定につながるなどであった。 著者個人としては認められないとする意見がもっと多いと考えていた。認めるという意見は現実に目 を向けた視点から、認められないという意見は人間としての在り方に目を向けた視点からの発想と考え
10 表−7−1 胎児に適切な対処法が無い重篤な障碍が認められたとき中絶は許されるか 年度 2016年度 学 科 意見 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 (1) 3(0) 5(0) 2(0) 8(2) 18(2) (2) 1(0) 1(0) 2(2) 4(2) 教育福祉 (1) 2(0) 2(0) (2) 1(0) 1(0) 実践心理 (1) 4(0) 7(1) 6(4) 17(5) (2) 2(0) 3(0) 5(0) 看 護 (1) 18(0) 18(0) (2) 8(1) 8(1) 栄 養 (1) 10(1) 10(1) 20(2) (2) 1(0) 1(0) 合 計 40(2) 10(0) 12(1) 32(9) 94(12) ( )は男子学生内数 表−7−2 胎児に適切な対処法が無い重篤な障碍が認められたとき中絶は許されるか 回 答 全学生 (%) 男女別(%) 学部別(%) 学部別 男女別(%) 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 男子学生 女子学生 (1) 77 73 78 79 76 78 79 50 77 (2) 23 27 22 21 24 22 22 50 23 ( )は男子学生内数 られる。これらの結果から現在の学生がかなり現実的な考え方をしていることがわかる。 なお、参考までに記述すると、2016 年4月 25 日の毎日新聞の記事によると、3年前から導入した新 型出生前診断で検査を受けた女性は 27,699 人であり、対象とした 21 トリソミー(ダウン症)、18 トリ ソミー(心臓疾患)13 トリソミーの3種類について、確定のための羊水検査で陽性反応が出た 346 人 のうち、実に 96.5%に当たる 334 人が中絶をしたと報じている。これらの症状は、著者の考えでは、 今回学生に問い合わせた「適切な対処法が無い重篤な障碍」とは異なるものと理解しているが、現実は 上記のようにほとんどが中絶を選んでいる。 3−5母体保護法 3−5−1 講義内容 1948 年に制定された「優性保護法」(1996 年に批判の強かった優性政策を削除し母性保護を残し、 法律名も母体保護法と改称)では、「人工妊娠中絶とは、胎児が母体外において生命を保続することが できない時期に、人工的に胎児及びその付属物を体外に排出すること」と定義しており、一定の事由が ある場合には本人及び配偶者の同意を条件として、指定医が行うことを認めている。 妊娠中絶が許可される事由としては、1)母体が妊娠の継続や出産に耐えられない場合、2)強姦に よる妊娠の場合としている。なお、1)については「妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由 により、母体の健康を著しく害する恐れのあるもの」とあり、経済的な理由の認定基準として、厚生省 の運用通知が以下の3点を(1953 年6月 12 日に厚生事務次官通知)該当理由として示している。
11 表−8−2 経済的理由による中絶の是非 回 答 全学生 (%) 男女別(%) 学部別(%) 学部別 男女別(%) 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 男子学生 女子学生 (1) 67 79 65 64 72 77 59 100 71 (2) 33 21 35 36 28 23 41 0 29 ( )は男子学生内数 表−8−1 経済的理由による中絶の是非 年度 2016年度 学 科 意見 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 (1) 1(0) 3(1) 9(5) 13(6) (2) 2(0) 4(0) 1(0) 1(0) 8(0) 教育福祉 (1) 1(0) 2(0) 3(0) (2) 1(0) 1(0) 実践心理 (1) 3(1) 4(2) 7(1) 14(4) (2) 2(1) 3(1) 3(1) 8(3) 看 護 (1) 18(1) 18(1) (2) 11(0) 11(0) 栄 養 (1) 10(0) 10(0) (2) 合 計 42(1) 12(3) 9(3) 23(7) 86(14) ( )は男子学生内数 1)現在、生活扶助、医療扶助を受けているか、またはこれと同様な生活状態にある場合 2)生活の中心になっている本人が妊娠した場合 3) 上に該当しなくても、その世帯が妊娠の継続または分娩によって生活が著しく困窮し、生活保護の 適用を受けるに至る場合 これらの講義のあと、経済的理由からの中絶を容認する我が国の「母体保護法」の立場の是非を考え てもらった。なお、このテーマについては3−4と同様に 2016 年度のみ調査した。 3−5−2 集計結果 2016 年度は上記の1)から3)全体を通して、経済的理由からの中絶を容認するか否かについて学 生の意見を聞いた。その結果を表−8−1に、集団別の集計結果を表−8−2に示す。なお表−8−1 中の意見の欄、および表−8−2の回答の欄の(1)は容認する(2)は容認しないという意見の数ま たは割合を示す。 受講した学生全体での割合は(1)認めるが 67%、(2)認めないが 33%という結果となった。なお、 男女別では男子学生の 79%、女子学生の 65%が認めるとしている。学部別では総合福祉学部では 64 %、看護栄養学部では 72%の学生が認めると回答している。これらのデータより男女学生間、学部間 には大きな違いが見られない。 認めるという意見の理由としては1)たとえば十分な栄養や家庭環境でない中でこのような状態で生 まれてくる子供が果たして幸せと言えるか、2)生活の負担が増え場合によっては母子ともに命の危険
12 が出てくる、3)親が生活できなくなるほうを子供の命より重視すべき、4)社会から援助を受けなけ れば生きていけない人は子供を産むことはあってはならない、5)将来、子供への虐待などが出る恐れ があるなどであった。一方、認めないという意見としては1)せっかく宿った命を大切にすべきであり、 産んで育てるのが人の責任、倫理上も問題であり殺人になるのではないか、2)経済的理由よりも子供 がほしいという親の願いを大切にすべき3)認めると自覚が足りない親がまた同じ状況になり、人工妊 娠中絶が増えるのではないか4)自覚が足りない人に対し、責任不足で人工妊娠中絶を認めるのはおか しい、などであった。このほか、経済的理由での人工妊娠中絶を容認する、しないに関わらず、妊娠す ることへの責任の自覚の大切さ、育児休暇などの国の補助制度の充実の必要性などが学生から提起され ている。 3−6 脳死は人の死か 3−6−1 講義内容 まず、脳の持つ重要な機能として1)人に特有な思考能力または感情をつかさどる器官であるととも に2)身体各部の統合機能をつかさどる器官であること、すなわち植物状態と脳死の違いを説明した。 次に脳死の判定基準(竹内基準)として1)深い昏睡2)自発呼吸の消失3)瞳孔の拡大4)脳幹反射 の消失5)平坦脳波6)不可逆性を確認する判定基準が定められていることを説明した。さらには日本 と米国の脳死移植数の大きな差についても述べた。これらの説明のうえで、現在の日本での脳死の判定 基準から、脳死を人の死と認めてよいか否か、学生に質問した。 3−6−2 集計結果 集計結果を表−9−1及び集団別の集計結果表−9−2に示す。なお、表−9−1の意見欄及び表− 9−2の回答欄の(1)は脳死を人の死と認める、(2)は認めない、(3)はどちらとも言えないという 学生の数および割合を示す。 受講した学生全体での割合は(1)認めるが 43%、(2)認めないが 54%(3)どちらとも言えないが 3%であった。なお、男女別では男子学生の 48%、女子学生の 42%が認めるとしている。学部別では 総合福祉学部では 45%、看護栄養学部では 38%の学生が認めると回答している。これらのデータより、 男女学生間では大きな違いが見られないが、学部間には差が生じている。 認めるという意見の根拠としては、1)生きているということは自分の意見や考えがあること、2) 脳死は生きているより機器で生かされている状態、3)その人らしく生きている状態が大切、一方認め ない意見の根拠としては1)心臓が動いており、体温もある2)脳は臓器の一部であり、その臓器が機 能しなくなったといっても死とは言えない、どちらとも言えない意見としては1)脳は機能していない が心臓は動いていること、2)確かに人の死に近いが将来生き返る可能性もないとは言えないこと、な どがあげられている。 NHKの調査では質問内容は1)「脳が死んだら死と判定する」2)「脳が死んでも心臓が完全に止ま るまで死と判定しない」というものであり、これに対し「脳死を人の死と考える」、「どちらかと言えば 脳死を人の死と考える」とする人は「どちらとも言えないの 20%を補正して計算すると 59%であり、 本学の学生(補正後は 44%)より認める人が多く見られた。
13 表−9−1 脳死を人の死と認めるか 年度 2015年度 2016年度 総合計 学科 意見 1年 2年 3年 4年 合計 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 (1) 7(2) 1(0) 9(4) 17(6) 1(0) 8(2) 1(1) 5(2) 15(5) 32(11) (2) 8(2) 6(3) 14(5) 1(0) 3(0) 2(0) 6(3) 12(3) 26(8) (3) 2(0) 2(0) 2(0) 教育福祉 (1) 3(0) 6(0) 10(1) 19(1) 19(1) (2) 6(0) 10(1) 6(1) 22(2) 4(0) 4(0) 26(2) (3) 実践心理 (1) 7(2) 7(2) 1(0) 3(0) 3(1) 7(1) 14(3) (2) 3(0) 5(0) 1(0) 9(0) 5(1) 5(2) 5(1) 15(4) 24(4) (3) 1(0) 1(0) 1(1) 1(0) 2(1) 3(1) 看 護 (1) 11(0) 11(0) 11(0) (2) 17(1) 17(1) 17(1) (3) 栄 養 (1) 4(0) 4(0) 4(0) (2) 6(0) 6(0) 6(0) (3) 1(0) 1(0) 1(0) 合 計 17(4) 12(0) 29(3) 33(9) 91(16) 41(1) 17(3) 12(4) 24(7) 94(15) 185(31) ( )は男子学生内数 表−9−2 脳死を人の死と認めるか 回 答 全学生 (%) 男女別(%) 学部別(%) 学部別 男女別(%) 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 男子学生 女子学生 (1) 43 48 42 45 38 50 43 0 39 (2) 54 50 55 52 59 47 53 100 58 (3) 3 3 3 3 2 3 3 0 3 ( )は男子学生内数 3−7 安楽死について 3−7−1 講義内容 まず、安楽な死を求めて自ら命を絶つのが自殺であるのに対し、その死に対し周囲の人が手を貸すの が安楽死であること、安楽死の3つの区分、すなわち1)消極的安楽死とは苦しむのを長引かせないた め、延命治療を中止して死期を早める不作為型の死、2)間接的安楽死とは苦痛を除去・緩和するため の措置をとるがそれが同時に死を早める可能性がある治療による死、3)積極的安楽死とは苦痛から免 れさせるため意図的・積極的に死を招く措置による死であることを説明した。 次に裁判所で出されている安楽死の要件、たとえば横浜地裁が 1998 年に示した安楽死の4つの要 件、1)患者が耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいること、2)患者は死が避けられず、その死期が迫っ ていること、3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くして他に代替手段がないこと4) 生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があることを講義した。また、オランダなど海外での積極 的安楽死を認める国の状況についても説明した。そのうえで、水分・栄養補給を止める消極的安楽死の 是非について学生に考えてもらった。
14 表−10−1 水分・栄養補給を止める消極的な安楽死について 年度 2015年度 2016年度 総合計 学科 意見 1年 2年 3年 4年 合計 1年 2年 3年 4年 合計 社会福祉 (1) 6(3) 6(3) 2(0) 1(0) 2(0) 5(3) 10(3) 16(6) (2) 5(0) 4(3) 9(3) 8(0) 2(0) 4(1) 14(1) 23(4) (3) 1(1) 1(1) 1(1) 教育福祉 (1) 1(0) 1(1) 1(0) 3(1) 3(1) (2) 2(0) 3(0) 9(2) 14(2) 14(2) (3) 実践心理 (1) 6(3) 6(3) 2(0) 4(1) 4(2) 10(3) 16(6) (2) 2(0) 8(2) 10(2) 2(1) 6(3) 6(2) 14(6) 24(8) (3) 看 護 (1) 8(0) 8(0) 8(0) (2) 21(1) 21(1) 21(1) (3) 栄 養 (1) 6(0) 6(0) 6(0) (2) 4(0) 4(0) 4(0) (3) 合 計 11(3) 5(0) 18(6) 15(6) 49(15) 41(1) 13(1) 14(4) 19(8) 87(14) 136(29) ( )は男子学生内数 表−10−2 水分・栄養補給を止める消極的安楽死について 回 答 全学生 (%) 男女別(%) 学部別(%) 学部別 男女別(%) 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 総合福祉 看護栄養 男子学生 女子学生 男子学生 女子学生 (1) 36 45 34 36 35 44 33 0 37 (2) 63 52 66 62 64 52 67 0 63 (3) 1 3 0 1 0 4 0 0 0 ( )は男子学生内数 3−7−2 集計結果 集計結果を表− 10 −1及び集団別の集計結果表− 10 −2に示す。なお、表− 10 −1の意見欄及び 表− 10 −2の回答欄の(1)水分・栄養補給を止める消極的安楽死を認める、(2)認めない、(3)ど ちらとも言えないという学生の数および割合を示す。 受講した学生全体での割合は(1)認めるが 36%、(2)認めないが 63%(3)どちらとも言えないが 1%であった。なお、男女別では男子学生の 45%、女子学生の 34%が認めるとしている。学部別では 総合福祉学部では 36%、看護栄養学部では 35%の学生が認めると回答している。これらのデータより 男女学生間では女子学生のほうが認めないという意見が多く見られる。認めるという意見としては1) 人工呼吸器を外すのと同じと考えられるがあり、一方認められないとする意見としては、1)これは餓 死につながり消極的安楽死ではなく積極的安楽死と考えられることなどがある。 なお、2015 年度は積極的安楽死についても学生の意見を聞いたが、約3分の2の学生が医師による 積極的安楽死を認めている。すなわち積極的安楽死は1)「尊厳死」であると考えられること、2)本 人だけでなく家族の不安や痛みも取り除けるという理由などからであった、しかし反対の3分の1の学 生の意見は、1)これは一歩間違えれば殺人につながり、自然に死に近づけさせるべきこと、などの意 見であった。今回の調査は水分・栄養補給を止めるという消極意的安楽死の方法の是非を問うたため、
15 積極的安楽死についての答えと差が生じたためと考えられる。 なお、NHKの調査では本論文でいう消極的安楽死を「尊厳死」、積極的安楽死を「安楽死」と定義 し調査を行っている。これによると、尊厳死については認められるが 59%、どちらかというと認めら れるが 25%であり、合計では 84%になっている。本学の学生対象の結果と大きく異なるように見える が、本学の調査ではあえて具体的な餓死につながる例を出したため、学生は認めないという意見が多数 を占めたと考えられる。また、NHKの調査では「安楽死」、本学での授業の積極的安楽死に相当、に ついてどのように考るか行っているが、認められるは 73%であり、本学の学生の 67%と大きな相違は ない。