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Title
二酸化チタン含有低濃度の過酸化水素剤と405nm 半導
体レーザーを牛歯髄腔象牙質に応用した際のコンポジッ
トレジンとの接着強さ
Author(s)
春山, 亜貴子
Journal
歯科学報, 112(2): 137-141
URL
http://hdl.handle.net/10130/2721
Right
はじめに 歯の審美障害には歯の色の不調和や歯の欠損,形 態・位置異常などがあるが,色調不調和でかつ形態 的・位置的異常が認められない場合,日常臨床では 漂白法で対応することが多い。特に,歯髄壊死や抜 髄時の歯髄組織の残存,あるいは外傷による歯髄内 出血が原因の色調不調和の場合には,ウォーキング ブリーチ法による漂白法が古くから応用されてい る。 ウォーキングブリーチ法は,高濃度(30∼35%)の 過酸化水素水と数%の過ホウ酸ナトリウムを混和 し,歯冠部の根管内に応用する方法であるが,その 過酸化水素水濃度が高いため,歯の構造変化や歯周 組織の破壊,歯根の外部吸収などが懸念されてい る。また,日常臨床では,患者から髄腔内漂白処置 を行った後にコンポジットレジンを即時充填するこ とを求められることが多い。しかし,ウォーキング ブリーチ法で処置した歯面に対してコンポジットレ ジンを充填すると,脱離が起こりやすいことが報告 されるなど,その接着強さの低下が危惧されてい る1)。 近年,光触媒としての二酸化チタンが工業界をは じめ広い領域で注目されている。二酸化チタンは 400nm 付近の紫外線の照射を受けると,水などを 分解してハイドロキシラジカル(·OH)のようなフ リーラジカルを発生させ,そのフリーラジカルの酸 化力により着色の原因となっている有機物質を分解 する。この二酸化チタンの光触媒としての特性は, 歯科用漂白材2) や義歯洗浄剤として歯科界でも応用 されつつある。歯科用漂白剤への応用では,二酸化 チタンを含有した低濃度の過酸化水素剤に紫外域か ら可視光域420nm 付近までの光照射により,漂白 効果が得られることが報告されている。つまり,こ の歯科用漂白材は低濃度の過酸化水素剤であっても 髄腔内から歯質を漂白する効果があることから,漂 白処置後のコンポジットレジン充填の接着強さが未 漂白歯と変わらなければ,漂白処置直後にコンポ ジットレジンを充填することができると推測され る。 本研究では,二酸化チタンを含有する低濃度の過 酸化水素剤に405nm 半導体レーザーを応用した牛 歯歯冠髄腔象牙質へのコンポジットレジンの接着強 さについて検討した。
解説(学位論文 解説)
二酸化チタン含有低濃度の過酸化水素剤と405nm 半
導体レーザーを牛歯髄腔象牙質に応用した際のコンポ
ジットレジンとの接着強さ
Bond strength of resin composite to pulp chamber bovine dentin treated with low concentration hydrogen peroxide containing titanium dioxide accel-erated by 405-nm diode laser irradiation
春山 亜貴子 東京歯科大学千葉病院総合診療科 助教 略歴 2002年東京歯科大学卒業,2010年東京歯科大学大学院修了(博士(歯学)), 千葉病院総合診療科レジデント,2011年より現職。研究テーマ:歯科用漂白材に よる歯質の影響 趣味:音楽鑑賞 Akiko Haruyama キーワード:低濃度過酸化水素剤,髄腔内漂白,接着強さ
Key words:Low concentration of hydrogen peroxide, Intracoronal bleaching, Bond strength
(2011年11月9日受付,2011年12月28日受理,歯科学報 112:137∼141,2012.)
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405nm 紫色半導体レーザーとは 本研究では,二酸化チタンを含有する低濃度の過 酸化水素製剤と405nm 紫色半導体レーザー(VLM, 住友電工)を用いて行った。GaN 紫色半導体レー ザーは,工業界では Blu-ray や HD-DVD システム の記録媒体などで広く応用されている。歯科界で は,漂白をはじめ軟組織の蒸散やバクテリアに対す る殺菌効果,齲蝕の検知,レジンの重合などへの応 用 が 試 み ら れ て い る。本 研 究 で の405nm 半 導 体 レーザーの使用は,波長領域が紫外領域に近く,二 酸化チタンの光触媒効果を促進するために用いた。 接着試験片の作製 本研究では,これまでに報告のある30∼35%の過 酸化水素剤を応用した髄腔象牙質に対するコンポ ジットレジンとの接着性と,3.5%の過酸化水素剤 と405nm 半導体レーザーを応用した髄腔象牙質に 対する接着性について検討を行った。 まず,抜去した牛前歯歯冠部の歯髄腔唇側象牙質 を露出させたのち,表1に示す条件に10本ずつ分類 して処置した。グループ1では,二酸化チタン含有 の低濃度過酸化水素剤(ピレーネ,三菱ガス化学)を 髄腔象牙質へ応用し,15mm の距離から405nm 半 導 体 レ ー ザ ー(出 力400mW,パ ワ ー 密 度800mW/ cm2)で15分間光照射したのち水洗した。グループ 2では,30%過酸化水素水(特級試薬,和光純薬)を 応用し,光照 射 器(Optilux501,Kerr Hawe,出 力 360mW,パワー密度720mW/cm2 )にて15分間光照 射したのち,水洗した。グループ3は,蒸留水をコ ントロールとして15分間応用した。 漂白材および蒸留水を応用した牛歯歯冠髄腔象牙 質には,ボンディング剤(クリアフィルメガボンド, クラレメディカル)で処理したのち,コンポジット レジン(クリアフィル AP-X A2,クラレメディカ ル)を填塞し,光 照 射 器(Optilux501,Kerr Hawe) にて光照射した。コンポジットレジンで填塞した標 本は,24時間,37℃の水中で保管した後,1歯の牛 歯歯冠から近遠心方向に0.7mm の厚みにダイヤモ ン ド ソ ー(Isomet,Buehler)で4個 の 試 料 を 切 断 し,ダイヤモンドポイントで接着界面が1.0±0.2 mm2 の砂時計型になるように調整した。 接着強さの評価と破断面観察 砂時計の形状に調整した試料は,万能材料強度試 験 機(Tensilon RTC-1150-TSD Orientec 社)を 用 い て,クロスヘッドスピード1.0mm/min にて引張接 着試験を行った。破断した強さ(荷重)から引張接着 強さを算出した。なお,引張接着試験を行う前の試 料調整時に壊れた標本は0MPa とした。引張接着 強さは Tukey test 検定にて有意水準をp<0.05と して,統計処理を行った。 また,引張接着試験後の象牙質表面および接着界 面の破断様式は走査電子顕微鏡(SEM JSM-6340F, JEOL)にて観察した。Type1は象牙質での凝集破 壊,Type2は象牙質とコンポジットレジンの混合 破壊,Type3は象牙質とコンポジットレジンの界 面破壊,および Type4はコンポジットレジン内で の凝集破壊の4つに破断様式を分類した(図1)。 髄腔象牙質とコンポジットレジンとの界面観察 図2に蒸留水または高濃度の過酸化水素剤を応用 した髄腔象牙質とコンポジットレジンとの接着界面 の代表的な SEM 像を示す。図2(a)の蒸留水を応 用した界面では,ボンディング材のレジン成分の浸 透および硬化によるレジンタグと樹脂含浸層の形成 が認められる。このようなレジンタグと樹脂含浸層 の所見は,グループ1の低濃度の過酸化水素剤を応 表1 使用した試薬と光照射器 成分と照射器 製品名(製造会社) グループ1 3.5% 過酸化水素水(二酸化チタン含有) 405-nm 半導体レーザー ピレーネ(三菱ガス化学) VLM(住友電工) グループ2 30% 過酸化水素水 ハロゲンランプ 過酸化水素水(和光純薬) Optilux 501(Kerr Hawe)
グループ3 蒸留水
春山:低濃度過酸化水素剤での髄腔象牙質接着強さ 138
用した髄腔象牙質界面でも認められた。一方で,図 2(b)の高濃度の過酸化水素剤を応用した髄腔象牙 質には,ボンディング材によるレジンタグと樹脂含 浸層の形成は認められなかった。 髄腔象牙質とコンポジットレジンとの 引張接着強さと破断形態 図3に漂白材および蒸留水を応用した牛歯歯冠髄 腔象牙質とコンポジットレジンとの引張接着強さを 示す。各グループの引張接着強さは,それぞれ17.3 ±5.8,0,26.5±9.8MPa となった。グループ2の 高濃度の過酸化水素剤を応用した試料では,引張接 着試験を行う前の試料調整時に接着部位で剥離が生 じ破壊した(界面破壊)。グループ1の低濃度の過酸 化水素剤を応用した場合では,グループ3のコント ロールと比較して引張接着強さは小さくなった。 グループ1および3の破断面を SEM で観察し, その破断形態を分類したものを図4に示す。グルー プ1では髄腔象牙質とコンポジットレジンとの界面 破壊(Type3)の割合が多く,髄腔象牙質を含む凝 集破壊の割合は約10%程度であった。一方で,グ ループ3では象牙質を含んだ凝集破壊と混合破壊の 形態(Type1および Type2)が多く観察された。 図1 破断形態の分類表 Type1:象牙質の凝集破壊,Type2:象牙質とコンポジットレジンと の混合破壊,Type3:象牙質とコンポジットレジンとの間の界面破壊, Type4:コンポジットレジンの凝集破壊 図2 髄腔象牙質とコンポジットレジンとの接着界面の代表的な SEM 像 ⒜蒸留水を応用した髄腔象牙質での接着界面,⒝高濃度の過酸化水素剤を応用した髄腔象 牙質での接着界面 R:レジン,HL:樹脂含浸層,RT:レジンタグ,D:髄腔象牙質 (蒸留水を応用した髄腔象牙質での接着界面(図2⒜)にはボンディング材による樹脂含浸 層と象牙細管に伸びたレジンタグが認められるが,高濃度の過酸化水素剤を応用した髄腔象 牙質での接着界面(図2⒝)には樹脂含浸層とレジンタグは認められなかった。) 歯科学報 Vol.112,No.2(2012) 139 ― 63 ―
漂白による接着強さへの影響 これまでに30∼35%の過酸化水素あるいは過酸化 尿素を応用した象牙質へのコンポジットレジンの接 着においては,その接着強さが低いことが報告され ている。その原因は,1)過酸化水素から発生した ハイドロキシラジカルや過酸化物の影響により象牙 質の有機質成分が溶解し,十分な接着強さが得られ ないことや,2)漂白後の象牙質や象牙細管内に残 留した過酸化水素から放出されたハイドロキシラジ カルや過酸化物,残余の酸素が蓄積することで象牙 細管へのレジン浸透を妨げ,接着システムでの重合 を抑制する可能性が示唆されている1,3∼5) 。 本研究に用いたボンディング材は,他の市販レジ ン接着システムの中でも比較的高い接着強さを示す ことが知られており,図2に示したようにボンディ ング材の浸透および硬化によるレジンタグと樹脂含 浸層が形成する。グループ3のコントロールで,多 くの試料が髄腔象牙質内の凝集破壊を示したのは, このレジンタグ自体の機械的強さが大きいことと, 樹脂含浸層の形成によってボンディング材が歯質に 対して確実に浸透したことに起因するものと考えら れる。一方で,グループ2の高濃度の過酸化水素剤 を応用した髄腔象牙質へのコンポジットレジンの接 着では,ボンディング材に含まれるレジン成分の浸 透が象牙細管に認められなかった。したがって,ボ ンディング材の浸透および重合が不十分であるため に,象牙質界面での剥離が起こったと考えられた。 グループ1の低濃度の過酸化水素剤を応用した髄腔 象牙質へのコンポジットレジンの接着では,グルー プ3と同様にボンディング剤の浸透および重合によ るレジンタグと樹脂含浸層の形成は認められ,その 接着強さは高濃度の過酸化水素剤を応用した髄腔象 牙質に対する接着強さより大きく改善されていた。 このことから,低濃度の過酸化水素剤であれば,そ の接着強さは改善される可能性があることが明らか になった。しかしながら,引張接着試験後の破断面 観察からは象牙質とコンポジットレジンとの界面破 壊が多く,髄腔象牙質での凝集破壊を示した試料は 約10%となっていた。つまり,低濃度の過酸化水素 剤によって産出されたハイドロキシラジカルや残余 の酸素によりボンディング材の重合がわずかに抑制 されたと推測される。したがって,低濃度の過酸化 水素剤の応用であれば,ボンディング材によるレジ ンタグおよび樹脂含浸層の形成は可能になるが,そ のボンディング材によるコンポジットレジンの接着 図3 各グループの引張接着強さ (蒸留水を応用した髄腔象牙質(グループ3)での引 張強さと比較して,過酸化水素剤を応用した髄腔象牙 質(グループ1および2)でのそれは小さくなった。特 に,高濃度の過酸化水素剤(グループ2)では引張試験 の試料を調整時にすべての試料が破壊した。) 図4 接着試験後の破断形態の分類 Type1:象牙質の凝集破壊,Type2:象牙質とコ ンポジットレジンとの混合破壊,Type3:象牙質と コンポジットレジンとの間の界面破壊,Type4:コ ンポジットレジンの凝集破壊 (低濃度の過酸化水素剤を応用した髄腔象牙質での 破壊様式は,レジンと象牙質での界面破壊の割合が多 かった。一方で,蒸留水を応用した髄腔象牙質では象 牙質を含んだ凝集破壊が多く認められた。) 春山:低濃度過酸化水素剤での髄腔象牙質接着強さ 140 ― 64 ―
強さは過酸化水素剤を応用していない象牙質の場合 より低下することが明らかになった。 臨床での応用と今後の展開 現在,日常臨床では髄腔内漂白した修復歯は,漂 白治療終了後1∼3週間のインターバルを経たのち にコンポジットレジン修復を行うことで,コンポ ジットレジン修復物の維持するための接着抑制因子 を排除することが推奨される。しかしながら,漂白 処置した髄腔へのコンポジットレジンの維持力は, 期間が経過しても完全な回復は困難である。30%過 酸化水素水による漂白法ではコンポジットレジンの 接着は得られなかったが,二酸化チタンを含有する 3.5%過酸化水素剤を用いて漂白した象牙質の接着 強さは,漂白していない象牙質のそれと比較して7 割程度であるが接着強さは得られた。このことか ら,過酸化水素剤の応用により残存しているハイド ロキシラジカルや過酸化水素を除去することができ れば,コンポジットレジンと象牙質とのより高い接 着強さを獲得できるとともに,漂白即日での修復も 可能となるものと思われる。今後,過酸化水素分解 酵素や還元剤を用いて過酸化水素剤の分解・除去を 試み,漂白即日に十分なコンポジットレジンの接着 修復の可能性について研究を進める必要がある。 謝 辞 本研究において,心温まるご指導を頂いた東京歯科大学 旧保存修復学講座,歯科理工学講座,および千葉病院総合診 療科の諸先生方に心より感謝申し上げます。また,走査電子 顕微鏡の使用にあたりご助力いただいた東京歯科大学口腔科 学研究センター 田所克己様,405nm 半導体レーザー使用に あたりご協力いただいた住友電気工業株式会社に深謝致しま す。 文 献
1)Elkhatib, H, Nakajima, M, Hiraishi, N, Kitasako, Y, Tagami, J, Nomura, S : Surface pH and bond strength of a self-etching primer/adhesive system to intracoronal dentin after application of hydrogen peroxide bleach with sodium perborate. Oper. Dent, 28:591∼597,2003. 2)野浪 亨,石橋浩造,石橋卓郎,近藤 治,高見和朋:
二酸化チタン光触媒によるホワイトニング 第1報 漂白処 理による抜去歯の色調の変化とエナメル質表面に対する影 響.日歯保存誌,44:37∼43,2001.
3)Titley, K., Torneck, CD., Smith, DC.: Effect of concen-trated hydrogen peroxide solution on the surface mor-phology of cut human dentin. Endod Dent Traumatol, 4:32∼36,1988.
4)Rotstein, I., Lehr, Z., Gedalia, I.: Effect of bleaching agents on inorganic components of human dentin and cementum. J. Endod, 18:290∼293,1992.
5)Timpawat, S., Nipattamanon, C., Kijsamanmith, K., Messer, HH.: Effect of bleaching agents on bonding to pulp chamber dentine. Int. Endod J, 38:211∼217,2005.
本論文は,下記学位論文の内容を解説した。
Effect of titanium dioxide and 3.5% hydrogen peroxide with 405-nm diode laser irradiation on bonding of resin to pulp chamber dentin
Haruyama A, Kato J, Kameyama A, Hirai Y, Oda Y
Laser Physics 20:881∼885,2010.
別刷請求先:〒261‐8502 千葉市美浜区真砂1−2−2 東京歯科大学千葉病院総合診療科 春山亜貴子
歯科学報 Vol.112,No.2(2012) 141