【技術論文】
夏野菜の有機栽培での耕起・不耕起および品種のちがいが
収量および土壌炭素貯留量におよぼす影響
松岡拓志
1,小松﨑将一
2†Effects of Cultivars and Tillage Treatment on the Growth of Organic Vegetable Production and Soil Carbon Storage
Takushi MATSUOKA1, Masakazu KOMATSUZAKI2† 1 Graduate School, Ibaraki University 2 College of Agriculture, Ibaraki University
Abstract
Comparison of the growth of organic cherry tomatoes, eggplants, bell peppers, and watermelons with each two cultivar types were done in between the tillage and no-tillage fields. Commercial cultivar and cultivar for nature farming were adopted in the research field. The research was conducted in Center for International Field Agriculture Research & Education, Ibaraki University from April to October 2018. Yields of cherry tomatoes, eggplants, bell peppers, and watermelons showed higher in the tillage plots than in the no-tillage plots. Eggplants and watermelons showed considerable yield differences between the tillage and no-tillage treatments, but cherry tomatoes showed relatively a small difference between the tillage treatments. The yield of eggplants showed higher in the cultivar for nature farm-ing compared with the commercial cultivar. Soil carbon and soil nitrogen were higher in the no-tillage plot at the surface layer compare with the tillage plot. This result suggests that no-tillage with grass mulch was a promising candidate for a sustainable agricultural management method because this system maintains and improves soil carbon. However further improvement of yield responses will be required to maximize the agriculture productivity in organic no-tillage conditions.
Keywords:No-tillage with weed mulch, Cultivar, Organic Vegetables, Yield, Quality, Soil Carbon キーワード:不耕起・草生,品種,有機野菜,収量,品質,土壌炭素 1.緒言 農業近代化において,作業の省力・効率化,安定した 大量生産を目指し,農業の工業化が進展した.これらは, 大量生産と省力化に成功したが,それを支える資源の大 量投入などが原因で環境問題が無視できなくなり,これ らの生産システムの持続性に懸念が広がってきた(メド ウズ・ランダース 2005).とくに近代農業は,化学肥料 や農薬などの使用による環境負荷や,有機質の投入削減 による地力低下,さらに食の安全性等への懸念がある(小 松﨑・金子 2019). このような背景から,2015 年には「持続可能な開発 目標」を中核とした「持続可能な開発のための 2030 ア ジェンダ」が国連サミットで採択されるなど,自然環境 に配慮した循環型社会形成に向けた動きが注目されてい る(小松﨑 2019).持続可能性のある農業として,また 食の安全に対する意識が高まる中で,有機農業など農薬 や化学肥料を不使用とした農法が注目されるようにな り,有機農産物のマーケットが拡大しつつある.世界の 有機農業実施面積は,2000 年の 1,500 万 ha から 2015 年 の 5,090 万 ha(Willer and Lernoud 2017)と約 3 倍以 上に拡大し,世界の有機農産物市場は 2015 年で 816 億 US ドル(Willer and Lernoud 2017)となっている.日 本でも環境保全型農業直接支払制度の導入で,その実施 面 積 は 平 成 23 年 度 の 17,009ha か ら 2017 年 度 に は 89,082ha となっており,有機農業拡大につながっている. また有機農業の中でも,農薬・化学肥料を使用せず,耕起 を行わない自然農法も近年注目されるようになってきた. 1 茨城大学農学部 † 責任著者:小松﨑将一
自然農法の中でも不耕起・草生栽培は,耕起を行わず に最小限の雑草防除で栽培を行う栽培体系で,土壌中の 有機物の分解が遅く,土壌の保水性が高まり養分の流出 を抑えられ,耕うんを行う労力が必要にならないなど, 環境負荷を低減する環境保全型の農業として注目される (小松﨑 2012).またダイコンなど秋野菜の根菜栽培で は不耕起管理により収量の増加が報告された事例もある (Yagioka et al. 2014).また,この農法は気候変動に対 する環境負荷を削減することが示されている(Yagioka et al. 2015).このような不耕起・草生栽培は多様な有機 農業の中でも特に省力的で低投入かつ農地循環型な農法 であるといえ,世界の持続可能な社会への動きにおいて 注目すべき技術である. しかしながら不耕起・草生栽培の環境負荷の低減に関 する報告はなされているが,雑草との競合が激しくなる 夏野菜の生産性向上に関する報告は多くない.また,慣 行栽培と有機栽培で栽培された食品の品質についての比 較研究はあるが , 有機農業の中で耕起および不耕起によ る差に関する報告は少ない.本研究では不耕起・草生栽 培による地力の維持増進と,作物の生産性を向上させる ために,耕起栽培と不耕起・草生栽培条件下での有機野 菜作の生育・品質比較を行った.特に,近年有機農業の 育種の場面においても,化学肥料や化学合成農薬に依存 せず,自然循環機能を活かした生育環境で健康な状態に 育つ,動植物が本来有する潜在的適応能力を重視した育 種が求められてきている(澤登・小松﨑編著 2019).そ こで,種苗会社から一般に市販されている品種と自然農 法育成品種を対象として耕起および不耕起栽培条件下で 生育比較調査も行った.また,不耕起・草生栽培ではリ ビングマルチとしてカバークロップで土壌を被覆し刈り 敷くなどしてビニールマルチのように活用するものや, 雑草を活用する方法などがあるが,カバークロップを利 用する場合,栽培品目や農地条件にあったものを選択す る必要や,その種子代が経費となることが問題となる. そのため今回は生育に影響の大きいと考えられる畝上に はビニールマルチを張ることで雑草を抑制し,畝間では 圃場に生育している雑草を活用し,定期的にそれを刈り 敷く体系で実施した. 2.材料および方法 (1)圃場の設定 茨城大学農学部附属国際フィールド農学センターにお いて,分割プロットデザインで不耕起・草生区と耕うん 区の 2 種類の要素それぞれに,慣行栽培を前提として販 売されている品種と自然農法で育成された品種の 2 品種 を組み合わせた.縦 20m×横 5m の区ごとに耕うんの有 無が分かれており,1 区内に 2 品種それぞれで 4 種の作 物を栽培し,4 反復行った.これらの配置はランダムに 設定した.耕起区の耕起については,ロータリー(Niplo 製)を用い,15cm の深さまでロータリー耕うんを行った. またこの圃場は,2009 年から試験開始時の 2018 年まで 9 年間長期有機農業試験圃場として管理が続けられてお り,不耕起・草生区については不耕起管理が続けられて きた(Yagioka et al. 2015).土質は典型的なアロフェン 質黒ボク土であり,上層は砂質で深くなるにつれ粘土が 増加していた. (2)栽培概要 栽培作物はミニトマト,ナス,ピーマン,スイカの 4 種とし,慣行栽培を前提として販売されている品種と自 然農法で育成された品種をそれぞれで用意し栽培を行っ た.1 区内に 1 品種につきミニトマトは 8 株,ピーマン, ナスは 7 株,スイカは 4 株を植え付けた.供試した品種 は,市販の品種として,ミニトマト:アイコ(株式会社 サカタのタネ),ピーマン:埼玉早生(株式会社アタリ ヤ農園),ナス:千両二号なす(株式会社アタリヤ農園), スイカ:新大和(アタリヤ農園)とし,自然農法育成品 種として,ミニトマト:チャコ,ピーマン:自生えピー マン,ナス:在来青ナスおよびスイカ:黒小玉スイカを 公益財団法人自然農法国際研究開発センターから入手 し,供試した. 播種は,2018 年 4 月 4 日に落ち葉堆肥を培土とした 培地に播種し,育苗した.育苗後,5 月 23 日にトマトを, 5 月 30 日にナス,ピーマン,スイカを圃場に定植した. 1 区画あたり 2.5m×5m とし,幅 90cm の黒ビニールマ ルチを畝幅 70cm ほど覆うように張り定植した.作物の 配置順はランダムに設定し,作物の栽植密度はトマトは 0.64 株/m2,ピーマン,ナスは 0.56 株/m2,スイカは 0.32 株/m2とした.施肥は,圃場への定植時に米ぬか,もみ 殻,糖蜜等を原料とした自家製ボカシ肥料(成分 N : 3.7%,P2O5 : 2.3%,K2O : 1.6%)(小松﨑 2008)を 100kg/ 10a 表面施用した.ミニトマトは 1 本仕立て,ナスおよ びピーマンは 3 本仕立てとし,スイカは放任栽培とした. なお,これらの整枝方法は,自然農法実践者に準じて実 施した.またスイカにおいては,つるを伸ばす範囲であ る畝と畝との間に雑草防止のため,草マルチとして乾燥 させた藁を敷いた.また不耕起・草生区の畝間の雑草は, 栽培期間中約 1 か月に 1 度程度の頻度でフレールモアを 用いて刈り取り,刈り取った雑草は除かずそのまま還元 した. なお,試験期間中の気温および降水量を図 1 に示した.
(3)調査方法 1)雑草調査 畝立て前の圃場で,2018 年 5 月 14 日に耕起区および 不耕起区において,コドラート法により 0.5m×0.5m の 面積の地上部の雑草を採取した.サンプルを定温乾燥機 にかけ 65℃で 72 時間乾燥後,乾物重量を測定した.乾 燥を終えたサンプルを専用の粉砕機を用いて粉砕し,そ の後 CN コーダー(JM3000N,ジェイ・サイエンス・ ラボ)を使用して植物体中の炭素量,窒素量を測定し, これに乾物重量をかけて炭素固定量,窒素吸収量を求め た. 2)作物調査 定植前の 2018 年 5 月 9 日に各作物の品種ごとに 10 株 ずつ選抜し,草高と葉枚数を測定した.次に 5 月 28 日 にミニトマトを,6 月 7 日にナス,ピーマン,スイカを 草高,葉枚数を測定した.さらに 8 月 15 日にミニトマト, ナス,ピーマンの草高のみを測定した. ミニトマト,ナス,ピーマン,スイカにおいて,2018 年の 7 月 4 日から 10 月 31 日まで 1 週間おきに計 18 回, 収穫・収量調査を行った.収穫は畝ごとに分けて行い, 各畝において各作物果実の個体数と全重量を測定した. ミニトマト,ナス,ピーマンについては,2018 年 8 月 7 日に収穫した果実を用いて品質調査を 1 度行った. 各試験区から 1 果実ずつ,4 反復分で各処理 4 果実ずつ 調査に用いた.調査項目は糖度,カリウムイオン濃度, 硝酸イオン濃度の 3 項目で,作物をすりつぶした原液を 用い,この汁液の糖度はポケット糖度計(POCKET REFRACTOMETER PAL-1,アタゴ株式会社),カリ ウムイオン濃度はコンパクトカリウムイオンメーター (LAQUAtwin-K-11,HORIBA),硝酸イオン濃度はコ ンパクト硝酸イオンメーター(LAQUAtwin-NO3-11, HORIBA)を用いて測定を行った. 収穫終了後,各畝から各作物の植物体を 1 個体ずつ選 び,地上部を採取し,定温乾燥機により 65℃で 72 時間 乾燥後,乾物重量を測定した. 3)土壌調査 2018 年 6 月,8 月,10 月に計 3 回,実験圃場の各畝 の中央あたりで土壌の採取を行った.採取には長さ 30cm のプラスチック製サンプルチューブ(600cm3)を 用い,地表面の雑草等の有機物残渣は取り払ってから採 取を行った.採取後,土壌を地表面からの深さで 0-2.5cm, 2.5-7.5cm,7.5-15cm,15-30cm の 4 層に分け,以下の調 査を行った. 採取した土壌を 4 層に分けた後,定温乾燥機により 105℃で 48 時間炉乾後,重量を測定し,以下の計算式に より土壌乾燥密度を求めた. 土壌乾燥密度(g/cm3)=土壌乾燥重量(g)/土壌体積 (cm3) また土壌の硝酸態窒素濃度の測定では,新鮮土壌を 5g ずつ遠沈管に測り取り,1M の塩化カリウム溶液 40ml を加え,60 分間振とうを行い,その後遠心分離機 に 3,000rpm で 10 分間かけろ過を行った.分析では, 抽出ろ液 0.5ml に純水 9.5ml を加えた後,土壌・作物体 総合分析系(SPCA-6210)で紫外線吸光法にて硝酸態窒 素濃度の測定を行った. 土壌のアンモニア態窒素濃度の測定では,上記の硝酸 態窒素分析で用いた抽出ろ液 1ml に純水 6ml を加えた 後,ナトリウムフェノラート溶液:フェノール 25g, 20% NaOH 溶液 55ml を混合し,放冷後,アセトン 6ml を加え,純粋で 200ml とした発色液を 2ml,および 1% 図 1 土浦市の試験期間中月ごとの 2018 年平均気温・合計降水量と 1981 年から 2010 年の期間での平年値
次亜塩素酸ナトリウム溶液を 1ml 加え,攪拌した.そ の後 20 分間放置し,土壌・作物体総合分析系(SPCA-6210)でインドフェノール青吸光法にてアンモニア態窒 濃度の測定を行った. 上記の方法で分析した硝酸態窒素,アンモニア態窒素 の結果から,これらを合計して無機態窒素(NO3-N+ NH4-N)とした. 土壌炭素は 10 月に採取した土壌を用いて分析を行っ た.土壌は採取後,室温で 1 週間以上風乾させた.その 後粉砕を行い,2mm の篩にかけ土壌のふるい分けを行っ た後,CN コーダー(JM3000N,ジェイ・サイエンス・ ラボ)で土壌炭素濃度(%)を測定した.またそこに 10 月土壌の乾燥密度と土壌深さを掛け合わせることで 土壌炭素貯留量(t/10a)を求めた.土壌全窒素におい ても,10 月採取土壌で分析を行った. 4)統計処理 作物生育,作物品質,作物収量,については要因を 耕うんの有無,作物品種(自然農法用品種と市販の品種) の二つで,土壌に関するデータと雑草のデータについて は耕うんの有無を要因として統計的有意差が見られるか 調べるため,統計ソフト StatView を用いて分散分析を 行った. 3.結果 試験前の圃場から採取した雑草について,耕うんの有 無別に乾物重量,C/N 比,炭素固定量,窒素吸収量に ついてみると,不耕起・草生区で耕起区よりも有意に高 くなった(表 1).一方,窒素率では,耕起区で不耕起・ 草生区よりも有意に高い値ということが示された. 作物体の生育については,ミニトマトは品種による差 が有意に認められ,市販の品種の方が草高が高くなる傾 向が認められた(表 2,3).またナスは耕うんの有無に よる差が認められ,耕起区で葉枚数が高くなる傾向が認 められた.品種間では草高,葉枚数ともに市販の品種が 高くなる傾向が有意に認められた.一方,ピーマンは耕 うんの有無では耕起区で有意に葉枚数が高く,品種間で は草高で自然農法育成品種が有意に高くなる結果が得ら れた.スイカについては耕うん間,品種間に差が認めら れなかった. 栽培作物の平均収量についてみると,ミニトマトにお いては,7 月の時点で品種の違いによって収量に差があ り,市販の品種の方が高い収量性を得られた(図 2,表 4). また,8 月では耕うんの有無の差で違いが大きく見られ 表 1 栽培前の雑草の乾物重量,炭素,窒素,C/N 比 表 3 植え付け後約 1 週間時作物体草高と葉枚数 *,**,*** は p<0.05,p<0.01,および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なしを示す. 表 2 植え付け前作物体草高と葉枚数 *,**,*** は p<0.05,p<0.01,および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なしを示す. *,**,*** は p<0.05,p<0.01,および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なしを示す.
表 4 作物収量分散分析結果
図 2 ミニトマト,ナス,ピーマンの平均収量の推移 縦棒は標準誤差を示す.
不耕起区よりも耕起区においてより多く収量が得られ た.一方,9 月から 10 月にかけては耕うん間の差が小 さくなった.ミニトマトの収量性の品種間差は,統計的 な有意差は見られなかった(図 3). ナスでは,栽培期間を通して耕起区の自然農法育成品 種の収量が高く,不耕起区よりも耕起区で収量が高い傾 向が認められた.10 月になると収量はどの区も少なく 差もあまり見られなくなった.ナスの収量性では,耕起 および不耕起ともに市販品種<自然農法育成品種であ り,耕起>不耕起となった.これらの差は分散分析結果 からも有意差が見られた. ピーマンでも耕起区の収量が高い傾向が見られ,品種 では市販品種が自然農法育成品種よりもやや多く収量が 得られた.しかし,10 月では不耕起区の市販の品種で 収量の増加が見られた.ピーマンは品種間の差は見られ なかったが,耕起>不耕起という傾向は見られ,部分的 に統計的な有意差が得られた. スイカでも耕起>不耕起という関係が認められ,品種 間では市販品種>自然農法育成品種という傾向がやや見 られた. また,栽培終了後の各作物の植物体乾物重量をみると, ミニトマトでは耕うん間,品種間では有意な差が見られ なかった.ナスでは耕起区での乾物重量が大きくなる傾 向が見られ,品種間では自然農法育成品種が市販品種よ りも乾物重量が有意に重くなる傾向があった.ピーマン の乾物重量は変動が大きく,耕うん,品種間の差が見ら れなかった.また,収量と作物植物体乾物重量との間に は,ミニトマト,ナス,ピーマンで正の相関関係が見ら れた(図 4). ミニトマト,ナス,ピーマンの品質についてみると, ナスの硝酸態窒素濃度では耕起区>不耕起区という結果 が得られた(表 5).またピーマンのカリウム濃度は, 自然農法育成品種>市販品種ということが示された. 栽培期間中の土壌について,6 月では 0-2.5cm 深さ部 分で耕起区の乾燥密度が有意に高く,7.5-15cm 部分で は不耕起区で有意に高いことが示された(図 5).8 月で は 0-2.5cm 層で耕起区が有意に高かった.10 月でも 0-2.5cm 層で耕起区が有意に高く,7.5-15cm 層では不耕 起区が有意に高い結果となった 6 月の土壌調査結果では 15-30cm 層で耕起区が硝酸態 窒素濃度が有意に高かった(図 6).8 月では 7.5-15cm 層で不耕起区が有意に高かった.10 月では有意な差は 見られなかった.6 月,8 月の土壌調査では 0-2.5,2.5-7.5cm 層で土壌アンモニア態窒素は不耕起区が有意に高い値を 示した.10 月土壌では 0-2.5cm 層で不耕起区が有意に 高かった.これらの結果から,土壌無機態窒素では 8 月 図 3 ミニトマト,ナス,ピーマンにおける耕起および不耕起での収量の差異 *,**,*** は p<0.05,p<0.01 および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なしを示す.
の土壌でのみ,2.5-7.5cm 層で不耕起区が有意に高かっ た.そのほかには有意な差は見られなかった. 一方,10 月の土壌炭素では 0-2.5,2.5-7.5cm 層で不耕 起区が有意に高く,7.5-15cm 層では耕起区が有意に高 かった(図 7).これにより,土壌炭素貯留量は 0-30cm 層において不耕起区の方が有意に高い値であった(表 6). 土壌全窒素でも 0-2.5,2.5-7.5cm 層で不耕起区が有意 図 4 ミニトマト,ナス,ピーマンの作物体乾物重量と収量との関係 *,**,*** は p<0.05,p<0.01 および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なしを示す. 表 5 作物の品質の比較 *,**,*** は p<0.05,p<0.01,および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なしを示す.
に高く,7.5-15cm 層では耕起区が有意に高かった.土 壌炭素貯留量と同様に 0-30cm 層でも土壌窒素貯留量は 不耕起区が有意に高い値を示した.この間の土壌の C/ N 比をみると,0-2.5,2.5-7.5cm 層において不耕起区が 有意に高いことが示された. 4.考察 今回の試験では,耕起および不耕起条件下での夏野菜 の品種別の生育反応は,耕うん条件および品種によって 異なっていた.初期生育において,ミニトマトでは草高 と葉枚数において耕うんの有無では生育に統計的有意差 は得られなかったが,月別の平均収量の推移や平均総収 量を見ると耕起区の方が収量がやや多くなる傾向があ り,栽培終了後の作物体乾物重量も不耕起区より耕起区 で重くなる傾向が見られた.また品種間では,生育が進 むと市販品種で草高が大きく成長するという傾向が見ら れた.収量性においては市販の品種と自然農法育成品種 間で有意差はなく,市販品種でも不耕起管理での栽培に 適応できたと指摘できる. ナスは不耕起区に比べ耕起区での生育や収量の優位性 が顕著に見られた.この結果は他の研究で報告されてい る も の と 同 様 の 傾 向 で あ っ た(Hashimi et al. 2019, Yagioka et al. 2015).また,品種間の違いについては, 図 5 栽培期間中の土壌乾燥密度の推移 *,**,*** は p<0.05,p<0.01 および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なしを示す. 横棒は標準誤差を示す.
今回使用した自然農法育成品種である在来青ナスは比較 的大果であり,生育は遅いが自然農法のような貧栄養分 の栽培環境下でも安定した果実生産が得られる特徴のた め,今回は市販の品種よりも優れた収量性がみられたも のと考える. ピーマンについては,初期生育は耕起・不耕起間での 差はあまり見られないが,気温が高くなる 8 月,9 月の 収量では耕起区で多くなる傾向があった.不耕起・草生 区におけるマルチ下の雑草は抑えられたものの,マルチ 外の畝間に生育した雑草との競合が関係しているのでは ないかと考える.一方で作物体乾物重量は耕うん間での 差があまり現れなかったことから,ピーマンの果実の生 産には耕うんの影響があるが,植物体の生育には影響は 小さいのではないかと考える.また,品種間の差では自 然農法育成品種の方が栽培初期に草高が大きくなる傾向 が見られた.その後は差がなくなり収量にも差はあまり なかったが,初期成育が早かったという点は雑草との競 合機会が多くなる不耕起栽培において,周りより優位な 状態に少しでも早く立つという特徴が育種過程で選抜さ れたことが示唆される. スイカについても耕起環境下で収量が多くなった.品 種間の違いについては,市販品種は大玉で自然農法育成 品種は小玉というように単純な比較はできない.しかし, 不耕起条件に限ってみると,大玉と果実 1 個体あたりの 重量が大玉に比べ低い小玉で品種間の収量差はあまり見 られないことから,小玉である自然農法育成品種は不耕 起環境下への適正があると考えることもできる. 収量と作物体乾物重量の相関関係をみるとナス>ピー マン>ミニトマトの順に寄与率(R2)が大きくなった. 一方で,この寄与率が大きいほうが耕起・不耕起間での 図 6 栽培期間中の土壌 NO3-N,NH4-N,無機態窒素の推移 *,**,*** は p<0.05,p<0.01 および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なしを示す. 横棒は標準誤差を示す.
収量差も大きいことが指摘できる.このことから,植物 体の成長量を確保することで,不耕起管理で収量を向上 させることの必要性が認められた. 不耕起・草生栽培での雑草が畝間に生育し夏作物の生 育競合となるが,一方で土壌肥沃度を向上させる視点も 持ち合わせている.試験開始前の圃場の雑草については, 表 6 土壌炭素,土壌窒素貯留量(t/10a) 図 7 栽培後期における土壌炭素,全窒素,C/N 比の土中分布 *,**,*** は p<0.05,p<0.01 および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なしを示す. 横棒は標準誤差を示す. *,**,*** は p<0.05,p<0.01,および p<0.001 での有意差であり,NS は有意差なし を示す.
乾物重量が示すとおり地上部バイオマス量は耕起区より も不耕起区で多かった.これは不耕起の部分は多様な植 生が維持されるなど不耕起環境の特徴が現れたためかと 考える.一方,雑草中の窒素率が耕起区において高い値 を示したのは,乾物重量が少ないために窒素濃度の上昇 があったものと推察される.とくに,耕起区は耕うんに より一度地表雑草が覆土され雑草生育が抑えられるため 全体の雑草量が不耕起区に比べ少なく,そのため競合も 小さく雑草 1 個体当たりの利用できる窒素等の養分が耕 起区では多くなり,CN 比を低下させることで分解しや すい有機物を供給していた.耕地への雑草による炭素, 窒素供給は,全体の雑草バイオマス量の多かった不耕起 区で高くなり,この結果から不耕起管理での炭素貯留能 力が耕起管理よりも優れていると推察された. 土壌物理性をみると,不耕起区が必ずしも優れている わけではなかった.土壌乾燥密度は,耕起区は土壌状態 が均一に近くなり,そのため土壌深さによる乾燥密度の 値の変動が小さかったのだと考えられる.また耕起・不 耕起間で 2.5-7.5cm 層は差があまり見られなかったこと から,不耕起においても 2.5-7.5cm の表層においては耕 さなくても耕うんに近い状態にあることが注目された. 硝酸態窒素とアンモニア態窒素は,不耕起区の土壌表 層でとくに高い値を示した.これは不耕起環境では土壌 表層の気相が保たれやすく硝化作用が促進されること や,土壌中の生物多様性の高さ,また雑草など有機物が すきこまれないことにより土壌表層に養分が集中しやす いことが反映されていると考える.また,下層での耕起・ 不耕起間の無機態窒素量の差が小さかったのは,表層に 比べ全体としての無機態窒素量が少ないため差も小さく なったと考えられる. 作物の養分となるこれらの土壌無機態窒素が不耕起区 表層で高かった一方で,収量では耕起条件下のほうが優 れている傾向が全体として見られたことから,雑草との 競合などの課題であると考えられる. 土壌炭素と土壌全窒素は同じ圃場での他研究の傾向と 同じく(Hashimi et al. 2019)不耕起・草生の土壌表層 で高い値を示し,不耕起において有機物が表層に集中し やすいことが認められた.しかし 7.5-15cm 層では耕起 環境の方が高い値を示したのは,すきこまれた有機物等 がある程度の深さのところで分解されたことによるもの ではないかと考えられる.比較的深い 15-30cm 層であ まり差が見られなかったのは耕起による有機物等の撹乱 がこの層まで十分に行われず,土壌環境にあまり変化を もたらさなかったためかと考えられる. また土壌炭素貯留量,土壌窒素貯留量の値は,土壌炭 素割合,土壌全窒素割合において不耕起区が表層で高い 割合を示し,深い層では土壌乾燥密度が高いためにどの 深さでも全体的に不耕起区が高い値となったと考えられ る.表層のみと比べ下層も含んだ 0-30cm 層で有意差が 縮まったのは,土壌炭素割合,土壌全窒素割合でも同じ ような傾向が見られたことが影響していると言える. 収穫物の品質では,不耕起・草生区のナスの硝酸態窒 素濃度が有意に低くなった.これは耕起区において土壌 中の硝酸態窒素等が植物に吸収されやすかったため,と 考察できる.特に多量の肥料分を必要とするナスで明ら かな差として現れたものと考える.また,ピーマンのカ リウム濃度が市販品種よりも自然農法品種で有意に高 かったのは,低栄養で栽培を行う自然農法環境下でも土 中の養分の利用能力が高いものが育種過程で選抜された という可能性も考えられる.全体的な品質としては,ミ ニトマト,ナス,ピーマンで耕うんの有無と品種間に有 意な差は見られなかったことから,耕起・不耕起管理間 で作物の品質には影響は出にくいと言える. 5.まとめ 今回の栽培実験では,より省力的で環境保全に寄与し 地力の維持を通じて持続可能な農業の手法として,有機 農業のうちの 1 つである不耕起・草生栽培に着目して, その収量性について耕起栽培との比較研究を行った.今 回供した作物,品種においては耕起条件の方が高い収量 性を示す傾向にあったが,ミニトマトやピーマンのよう に不耕起環境下でも耕起環境下に近い,もしくは同程度 の収量性を示すものも認められた. また自然農法育成品種と市販品種の比較では,ナスを 除いては市販品種の方が比較的高い収量性を示した.こ のことは,市販品種においても不耕起環境への適応性が あるということがわかった一方,自然農法育成品種は, 関東域の農家にも利用されている現状があるものの,今 回の試験圃場が所在する茨城県南部とは気温などの土地 の環境が異なる点も考慮されるため , 今後 , 栽培環境の 適合性も含めて検討する必要性がある. 一方,土壌炭素などの面では不耕起管理での栽培がよ り環境保全的であり,今後の持続可能な有機農業を考え たときに,不耕起・草生栽培は有効な候補であることが 認められた.不耕起・草生栽培のもつ環境保全機能を発 揮させながら,作物の生産性向上を図るさらなる検討が 求められる.そのためには,土地の気候や土壌環境,作 物ごとにその根の張り方や,成長進度,養分を必要とす るタイミングなどが異なる中で,今回も示されたような 耕起環境,不耕起環境の特徴を活かした最適な作物,農 法の組み合わせを選択し,実践していくことが求められ
る.そのために最適な組み合わせを確立していくための 研究が今後の課題となるのではないだろうか. 謝辞 本研究は,有機農業技術会議・農業技術原論研究会有 志によって行われた「秀明自然農法系「ミドリナス」の 栽培」の一環として実施した.関係各位に記して謝意を 表する. 要旨 本研究では不耕起草生栽培による地力の維持増進と, 作物の生産性を図るための不耕起・草生条件下での有機 野菜作の生育比較を行った.とくに,種苗会社から一般 に市販されている品種と自然農法育成品種を対象として 耕起および不耕起栽培条件下で生育比較調査を行った. 茨城大学農学部附属国際フィールド農学センターにおい て,耕起および不耕起・草生栽培圃場において,栽培作 物はミニトマト,ナス,ピーマン,スイカの 4 種とし, 市販の品種と自然農法で育成された品種それぞれで用意 し栽培を行った.すべて反復で実施した.耕起および不 耕起条件下での夏野菜の品種別の生育反応は,耕うん条 件および品種によって異なっていた.ミニトマトでは耕 起区で平均収量がやや多くなる傾向があり,また品種間 では市販の品種が優れており,市販の品種でも不耕起管 理での栽培に適応できたと指摘できる.ピーマンについ て,耕起区で収量が多くなる傾向があり,品種間の差で は自然農法育成品種の方が栽培初期に草高が大きくなる 傾向が見られた.ナスは不耕起区に比べ耕起区での生育 や収量の優位性が顕著に見られた.品種間の違いについ ては,今回使用した自然農法育成品種である在来青ナス は市販品種よりも優れた収量性がみられた.また,スイ カについても耕起環境下で収量が多くなった.一方,土 壌炭素貯留量,土壌窒素貯留量の値は,不耕起区が表層 では高い土壌炭素,土壌全窒素割合を示し,深い層では 土壌乾燥密度が高いためにどの深さでも全体的に不耕起 区が高い値となったと考えられる.以上のように,不耕 起・草生栽培は耕地内の雑草を由来として土壌炭素を維 持向上させる農法である,持続性の高い農業管理手法と して有望な候補である.さらなる収穫量の向上が求めら れるため,継続した挑戦が必要である. 文献 デニス・メドウズ,ヨルゲン・ランダース(2005)『成長の限 界 人類の選択』ダイヤモンド社.
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