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Western blotting改法を用いたペプチドホルモンの定量検出―ペプチドホルモンをメンブレンに保持するには?―

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Academic year: 2021

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第 70 回日本電気泳動学会シンポジウム:電気泳動によって解き明かされる生命現象

論文種目:技術論文

Western blotting

改法を用いたペプチドホルモンの定量検出

―ペプチドホルモンをメンブレンに保持するには?―

沖 田 直 之 *

山陽小野田市立山口東京理科大学薬学部病態生化学分野 (受付 2020 年 12 月 29 日,受理 2021 年 4 月 12 日)

SUMMARY

Western blotting (WB) and Enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) are major immunological methods for protein analysis. However, it has been thought that general WB is not appropriate to analyze small proteins such as peptide hormones because of difficulty of retention of peptides on a blotting membrane. We aimed to resolve the issues by using diabetes-associated peptide hormones such as insulin as target proteins. We proved that insulin was washed-out from a PVDF membrane during procedures after electro-blotting and demonstrated that addition of “fix-ation step” in WB was effective for retention of proteins on the blotted PVDF membrane. Also, the modified WB was applicable to other diabetes-associated peptide hormones. These findings mean that the modified WB can contribute to qualitative or quantitative analyses of various peptides and proteins by providing analytical information based on electrophoresis. Furthermore, this paper introduces several technical tips of the improved WB.

Key words: western blotting, peptide hormones, fixation, diabetes, pancreatic islet

序 論

タンパク質の定量法としては,Western blotting(WB) や Enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)といった 免疫学的手法が幅広く使用されている.特に低分子量であ るペプチドホルモンの定量では,ELISA を用いるのが定 量性およびスループットの観点から一般的である.その一 方で,ELISA では数値データ以外の情報が得られないため, 特に夾雑サンプルやターゲットタンパク質の中間体が存在 するサンプルを扱う場合に特異性に問題が生じる場合があ る.例えば,血糖上昇に寄与するペプチドホルモンである glucagonの定量に関しては,ELISA を原理としたキット 等が既に複数のメーカーから市販されているにもかかわら ず,それらの定量結果は,LC-MS を用いた絶対定量結果 とは大きく乖離していることが判明している1).このこと は,ペプチドホルモンの定量に関して,ELISA 以外の手 法による確認は実験結果の保証のためには重要であること を意味する.電気泳動によるタンパク質分離と免疫学的検 出の性質を併せもった WB による定量結果の確認は,使 用機器や技術の一般性の観点からも有効であるが,分子量 数 kDa と極めて小さいペプチドホルモンを扱うことはメ ンブレンへの転写やその後の保持の観点などから難しいと され,ペプチドホルモンの定量への適応に関して WB は 一般的でなかった.著者らは,血糖値の低下を司る膵 β 細 胞由来ペプチドホルモンである insulin をターゲットとし て,ペプチドホルモンの WB への適応における問題点の 抽出と解決を行った2).その結果,電気泳動におけるシグ ナルバンドの歪み及び WB 作業中の PVDF メンブレンか らの insulin の剥離という具体的な不具合を見出し,一般 的な WB のプロトコールを改変することで,その解決に 成功した.さらに,この改法は insulin 以外の複数の糖尿 病関連ペプチドホルモンへの適応も可能であった.本論文

Quantitative analysis of peptide hormones by the improved Western blotting—A strategy for retention of peptides on a blotted mem-brane—

Naoyuki Okita

Division of Pathological Biochemistry, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Sanyo-Onoda City University

* Corresponding author: Naoyuki Okita; Division of Pathological Biochemistry, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Sanyo-Onoda City University, 1-1-1 Daigakudori, Sanyo-Onoda, Yamaguchi 756-0884, Japan

E-mail: [email protected]

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を介して結合している.すなわち,insulin を還元条件下 で電気泳動した場合は,それぞれの鎖は独立して泳動され る.Fig. 2 に示すように,一次抗体として抗 insulin B 鎖モ ノクローナル抗体を用いてウエスタンブロッティングを 行った場合を考えてみると,proinsulin 中にも insulin B 鎖 が含まれているため,サンプルとして等 mol の標品を用 いた場合には,理論的には proinsulin(分子量 9,395)と insulin B鎖(分子量 3,430)の発光強度は等しくなるはず である(Fig. 2 左下).しかしながら,実際に WB を行う と insulinB 鎖由来のシグナルは,proinsulin の 10 分の 1 程 度にまで低下した(Fig. 2 右下).一般的に,低分子量の タンパク質は,ブロッティング時にメンブレンに保持され にくく,ブロッティング条件(メタノール濃度,電圧等) の最適化が必要であることが知られている.しかしなが ら,この insulin 由来シグナルの低下に関しては,ブロッ ティングにおける「タンパク質の貫通」現象が主因ではな く,ブロッティング後のメンブレンからの「タンパク質の 脱離」が主因であることが種々の確認実験より判明した. すなわち,如何にブロッティング後から検出までの間にブ ロットタンパク質をメンブレン上に保持させ続けるかが, WBのプロトコール改変の最重要課題であることが判明 した. 改変プロトコールの概要 タンパク質の PVDF やニトロセルロースへのメンブレ ンへの保持については,従前より加熱処理3),アルキル化 処理4),アルデヒド処理5–8)等が知られていた.標準品と して insulin を用いてこれらの固定法について検証した結 果,安定してシグナル増強効果が認められたのは,アルデ では,WB 改法の着想,改変プロトコールのポイント,本 改法に関する Q&A の 3 点について紹介する. WB 改法の着想 まず,一般的なプロトコールの WB を行った場合に, 具体的にどのような不具合が生じるのかを確認するため に,ヒト insulin とその前駆体であるヒト proinsulin の標品 をサンプルとして WB を行うことにした.本論文におけ る「一般的なプロトコールの WB」の基本的な流れ及び主 要な使用バッファーを Fig. 1 に示す.その他細かい条件は 参考文献を参照してほしい2).proinsulin は B 鎖,C ペプ チド,A 鎖からなる 1 本のポリペプチドであるが,insulin は B 鎖と A 鎖の 2 本のポリペプチドがジスルフィド結合

Fig. 1 Traditional procedures of WB for peptide hormones

Fig. 2  Theoretical and actual results of general WB of proinsulin/insulin with anti-insulin B chain mAb

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としたアルデヒド固定を行い,抗体に適した賦活化バッ ファー中で電子レンジによる加熱を行う.なお,賦活化 バッファーに関しては,免疫染色の時と同様にクエン酸 ヒド固定であった.しかしながら,標準品の検量線につい て検証していた際に,アルデヒド固定処理にも弱点がある ことが判明した.それは insulin のアプライタンパク質量 が少なくなるにつれて固定効果が低くなっていくというこ とであった.PVDF メンブレンへのアルデヒドによるタン パク質の固定のメカニズムは完全に解明されているわけで はないが,少なくともタンパク質間のアルデヒドによる 架橋,およびタンパク質 -PVDF メンブレン間の疎水結合 が関与していることは確かである.このことを鑑みると, 低容量の insulin をブロットした場合は,(Fig. 3 左側のス キーム),固定に使うことができる「足場」が少なく,作 業中に wash-out されると考えた.逆に言えば,タンパク 質の「足場」を提供すれば,安定的に PVDF メンブレン に保持されると考え(Fig. 3 右側のスキーム),アルデヒ ド固定の前にスキムミルク/牛血清アルブミンによる短時 間のプレブロッキング処理を追加することで,この問題 点を解決することに成功した2).最終的に本改法のプロト コール中でも,このプレブロッキング/アルデヒド固定の ステップが最も重要であった. Fig. 4に示すように,改変プロトコールの概要として は,通常の WB のブロッティングとブロッキングのステッ プの間に,免疫組織染色における固定処理に近いステップ が追加される.まず,上述のいわゆるブロッキングバッ ファーによるプレブロッキング後,バッファーシステムを TBS系から PBS 系に切り替える目的で TPBS バッファー による洗浄を行う.引き続き,TPBS を基本バッファー

Fig. 3  Effect of pre-blocking/aldehyde fixation on blotted membrane

Fig. 4 Procedure of improved WB for peptide hormones

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る.したがって実験を始める前には,できればターゲット ペプチド標準品を準備し,泳動後適切な方法で染色を行い, 分離が担保されることを確かめることが重要である.ただ し,ある種のペプチドでは CBB 染色はされるが,バック グラウンドの脱色手順中に,一度染色されたペプチドが急 速に脱色されてしまうものもあり,電気泳動の適応の可否 を判断する上で,「本当に存在していないのか」それとも 「検出ができていないのか」は注意深く判断する必要があ るケースも経験している. Q. サンプルバッファーの色素として CBB G-250 の代わ りに Bromophenol blue(BPB)を使用できないか? A.トリス ‐ トリシンにおいて BPB は数 kDa 相当の移動 度を示すので,ペプチドタンパク質の移動度と一致してし まうと検出に不具合が出る.もちろんタンパク質移動度と 一致しないことがわかっている場合は使用しても良いのか もしれない. Q. 泳動バッファー及びサンプルバッファー中の SDS 濃 度を論文通りにしてもバンドがテールを引いてしまう A.この現象は,特に CBB G-250 色素先端近辺までタ ンパク質が泳動されてしまうターゲットの時に顕著であ り,まずはゲル中の SDS によるブロッティングの阻害を 疑ってほしい.SDS は「真の」泳動先端と CBB G-250 色 素先端の間に濃縮されていくことになるので,CBB G-250 色素先端から「真の」泳動先端にかけては非常に高濃度 の SDS が存在していると考えられる.したがって,CBB G-250色素先端の直下(できれば若干 CBB G-250 色素先 端を含む形で)で,高濃度の SDS が含まれるであろうゲ ルの不要部分を切り離すことが重要である.この作業が不 十分だと,転写時に CBB G-250 色素先端近傍でのメンブ レンへの吸着が阻害され,バンドがテールを引く要因と なっていると考えている.これは筆者自身もこの事実を実 験的に確認するまでに非常に悩まされた現象である. Q.ニトロセルロースメンブレンは使用可能か? A.使用できないことはないが(実証済み),抗原賦活化 処理に電子レンジを使用するので安全性の観点からあまり 推奨はできない.本改法の条件検討をはじめた当初は,最 大ワット数での電子レンジ加熱をし続けたため,時に抗原 賦活化バッファーが突沸して,メンブレンがガラスドーゼ 内に張り付き,バッファーに浸らない状況となったことを 経験しており,この観点からニトロセルロースの使用は避 けていただいたほうが良い.すなわち,使用する電子レン ジの設定も安定した結果を得るには重要である.なお当方 が使用している電子レンジでは,軽く沸騰するまでは 700 ワット程度で加熱し,沸騰後に 500 ワット程度に落として バッファー(pH 6.0)やトリスバッファー(pH 9.0)から, 抗体に適したものを選択する.最後にグリシンによるアル デヒドのクエンチングを行い,以降一般的な WB の「ブ ロッキング処理」に戻り,操作を続ける2).実験時間と しては,通常の WB と比較しておよそ 2 時間程余分にみ れば良い.Fig. 5 に示すように,本改法を適応することで, proinsulinと比較して 1/10 以下に低下した insulin 由来の シグナルが回復することがわかる. トラブルシューティング 本改法は 2020 年 12 月現在で少なくとも 6 報の学術論 文の引用を受けており,中にはターゲットタンパク質とし て筆者らが検討していないタンパク質への適用に関する報 告もあり9, 10),予想通り汎用性も高いと考えられる.その 一方で,プロトコールにおけるトラブルシューティングに 関わる問い合わせも受けてきた.ここでそれらを Q&A の 形で紹介したい. Q.WB 適応可能とメーカーが保証している抗体がない A.特にペプチドホルモンに関してはそもそも WB が適応 できるとは考えられていないため,メーカーも確認してい ないケースがほとんどである.これまでの経験上,免疫染 色に使える抗体(できればアルデヒド固定可能の記載があ るもの)を優先的に選んでいる.現在までのところ,この 観点で購入した抗体のうち 8–9 割は本改法適応可能であっ たことから,思いのほか本改法への抗体の適応性は高いよ うに思う.もちろん融合タンパク質を抗原として WB の 適応を確認しているものがあれば,そちらを選択しても良 いが,もちろん,この場合もアルデヒド固定が抗体反応に 影響を及ぼす可能性は考慮して結果を解釈すべきである. Q.グラジエントゲルでの解析は必須か? A.トリス ‐ トリシン SDS-PAGE の原法11)は均一ゲルを 使用しているように,目的タンパク質が分離できるのであ れば必ずしもグラジエントゲルである必要はない.少な くとも分子量が数千のペプチドホルモンに関して言えば, 15% –20%の均一ゲルが準備できれば一般的な使用に耐え

Fig. 5 Comparison of proinsulin/insulin detection between general and improved WB

Reprinted with permission from the ref. 2 (Licensed under CC BY 4.0).

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10分間の賦活化作業を行うことで,突沸をすることなく 賦活化処理が安定的に実施できるようになった. 結 論 本改法は,電気泳動による分離に基づいた解析情報の提 供による糖尿病関連(膵島)ペプチドホルモンの定量ある いは定性解析法として有用であり,原理的には一般的なペ プチドホルモンあるいはより大きなタンパク質にも広く 応用可能である点で非常に汎用性の高い方法である.電 気泳動学会シンポジウムでも glucagon 遺伝子産物の分離 検出に関する未発表データを提示したが,本改法は SDS-PAGEの特性上,特にホルモンのように,前駆体から成熟 体へ分解成熟する過程で中間体を生じるようなターゲット に対して,分子量に基づく移動度の観点が追加できるため, ELISAのようなエピトープの有無のみで評価する方法と 比較して非常に有用性が高いと考えられる. 本論文に開示すべき利益相反はない. 文 献

1) Miyachi A, Kobayashi M, Mieno E, et al. Accurate analytical method for human plasma glucagon levels using liquid chro-matography-high resolution mass spectrometry: comparison with commercially available immunoassays. Anal Bioanal Chem. 2017;409:5911–5918.

2) Okita N, Higami Y, Fukai F, et al. Modified Western blotting for insulin and other diabetes-associated peptide hormones. Sci Rep. 2017;7:6949.

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glycosyla-tion on an atlas of peptide hormones reveals diverse biological roles. Nat Commun. 2020;11:4033.

Fig. 2  Theoretical and actual results of general WB of  proinsulin/insulin with anti-insulin B chain mAb
Fig. 3  Effect of pre-blocking/aldehyde fixation on blotted  membrane
Fig. 5 Comparison of proinsulin/insulin detection between  general and improved WB

参照

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