久保 佑貴 *・伊藤 大輔 *・伊藤 拓 **
侵入的熟考及び意図的熟考と心的外傷後成長の関連
─自尊感情の高低による違いの検討─
本研究の目的は,自尊感情の高低によって,侵入的熟考および意図的熟考と心的外傷後成長の関連に違 いがあるかを検討することであった。大学生141名に対して日本語版心的外傷後成長尺度,日本語版出来 事に関連した反すう尺度,自尊感情尺度から構成された質問紙調査を行った。重回帰分析による検討の結 果,自尊感情高群では意図的熟考と心的外傷後成長の 「他者との関係」 の間に有意な正の関連がみられた のに対し,自尊感情低群では意図的熟考と 「他者との関係」 の間に関連はみられないことが,自尊感情高 群と低群の違いとして示された。このことから,自尊感情が低い場合には,意図的熟考が多くても,「他者 との関係」に関する心的外傷後成長が生じにくいことが示唆された。 キーワード:心的外傷後成長・出来事に関連した反すう・自尊感情 【問題】 1. 心的外傷後成長 心的外傷後成長(posttraumatic growth: 以下, PTGとする)とは, 非常につらい出来事に対する もがきの結果生じる肯定的な変化(Tedeschi & Calhoun,2004)である。この 「もがき」 は,宅 (2014)によると,自分や自分の環境に関する基 本的世界観や中核信念が,強い苦しみを伴う出来 事によって揺さぶられた後,それらを再構築する 過程で経験されるものである。 PTGは主に,東日本大震災(いとう,2015)や 戦争(Tedeschi,2011)など,心的外傷後ストレ ス障害(posttraumatic stress disorder:以下,PTSD とする) (American Psychiatric Association, 2013)の診断基準A項目に該当するような客観的 に生命の危険を伴う狭義のトラウマ体験の中で検 討されている。一方, Tedeschi & Calhoun(2004) によると,PTG は幅広いライフイベントによっ て喚起される。実際に,中村・土屋・宅(2018)では, アスリートのスポーツ障害から,麓・堀内(2017) では,助産師の職務に関連した心的外傷体験から PTGが得られることが示されている。また堀田・ 杉江(2013)は,大学生の挫折体験を対象に,同 化と調節という2つの意味づけとPTGの関連を検 討した。その結果,同化はPTGのうち 「前向きな 変化」 因子に正の影響を,調節はPTGのすべての 因子に正の影響を与えることが示された。このこ とから,PTGは,生命の危険を伴う狭義のトラウ マのみならず, 生命の危険を伴わない広義のトラ ウマ体験からも生じると考えられる。 2.出来事に関連した反すう 先行研究から,様々な心理社会的要因がPTGを 促進すると考えられている (e, g., Jia, Liu, Ying, & Lin, 2017)。本研究ではそれらの要因の中から, 出来事に関連した反すうに注目する。出来事に関連した反すうとは,Calhoun, Cann, Tedeschi, & Mcmillan(2000)によって提唱された 出来事に特化した状況的な反すうである。Cann et al.(2010)は出来事に関連した反すうを,意図 せず生じる望まない反すうである侵入的熟考と, 出来事の価値や重要性を見出そうと積極的に行わ れる反すうである意図的熟考に分類した。そして, ストレスフルな体験の後に侵入的熟考が高いと PTGが低くなり,意図的熟考が高いとPTGが高く * 兵庫教育大学大学院学校教育研究科 ** 明治学院大学心理学部心理学科
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発達心理臨床研究 第25巻 2019の2つに分け, PTGとの関連を検討した。その結 果,基本的自尊感情はPTGに有意な正の影響を与 え る こ と が 示 さ れ た。 さ ら に,Zhou, Wu, & Zhen(2018)では,ソーシャルサポートが自尊感 情や希望を媒介してPTGを促進することが示され た。これらのことから,自尊感情はPTGを促進す る要因の一つであると考えられる。また,綿谷・ 石津(2014)では,自尊感情はネガティブな反す う傾向へ有意な負の影響を与えていることが示さ れた。これらのことから,自尊感情と出来事に関 連した反すうの間に何らかの関連がある可能性が 考えられる。 4.先行研究の問題点と目的 前述のように, Li et al.(2018)では侵入的熟考 はPTGを阻害し,意図的熟考はPTGを促進すると い う 結 果 が 示 さ れ て い る。 一 方, 上 條・湯 川 (2016)では,体験当時の侵入的熟考とPTGの間 に関連が見られなかった。また,体験当時の意図 的熟考はポジティブな意味づけやPTGを高め,ネ ガティブな意味づけを低めるだけでなく,現在の 侵入的熟考を媒介してネガティブな意味づけを高 めること,そしてネガティブな意味づけが高くな るとPTGが低くなることが示された。しかし,こ のような違いが生じる要因は十分に検討されてい ない。そこで本研究では,出来事に関連した反す うとPTGの関連性に影響を及ぼす可能性のある要 因として自尊感情を取り上げる。本研究の目的は, 自尊感情の高低によって,侵入的熟考と意図的熟 考がPTGに与える影響が異なるかどうかを検討す ることである。 【仮説】 本研究の仮説は,以下の通りである。 仮説1:自尊感情が高い場合には,意図的熟考が高 いとPTGが高くなるだけでなく,侵入的熟考が高 くてもPTGが高くなる 仮説2:自尊感情が低い場合には,侵入的熟考が 高いとPTGが低くなるだけでなく,意図的熟考が 高くてもPTGが低くなる。 なることが示されている (Li et al., 2018)。 一方,上條・湯川(2016)では,ストレスフルな 体験後の,出来事に関連した反すうそのものが PTGをもたらすのでなく,ストレスフルな体験へ の意味づけがPTGをもたらす要因になると考えた。 そこで,ストレスフルな体験当時の意図的熟考が ストレスフルな体験へのポジティブな意味づけを 促進することによって,PTGが生じやすくなり, 体験当時の侵入的熟考が現在の侵入的熟考を媒介 して,その体験へのネガティブな意味づけを促進 することによって,PTGが生じにくくなるかどう かを検討した。その結果,体験当時の侵入的熟考 と現在の侵入的熟考に関連が見られず,現在の侵 入的熟考のみがネガティブな意味づけを媒介して, PTGを低減させていた。また,体験当時の意図的 熟考とPTGの間に直接的な正の関連があるととも に,両者の間にポジティブな意味づけが媒介する こと,および体験当時の意図的熟考は現在の侵入 的熟考を媒介してネガティブな意味づけを高める ことなどが示された。このことから,上條・湯川 (2016)は,意図的熟考がPTGを高める適応的な もので,侵入的熟考がPTGを低める不適応的なも のであるわけではないと考察している。このよう な結果が得られた理由として,上條・湯川(2016) は体験当時の出来事に関する反すうを回顧的に想 起させて測定していることから,実際の侵入的熟 考をどの程度正確に測定できたか不明であること を挙げている。しかし,このような測定手法の問 題だけでなく,出来事に関連した反すうとPTGの 関連性に他の要因が影響を与えている可能性が考 えられる。 3.自尊感情とPTG 出来事に関連した反すうとPTGの関連に影響を 与える要因として,本研究では自尊感情を取り上 げる。自尊感情とは自己に対する肯定的なまたは 否定的な態度である(Rosenberg,1965)。近藤 (2012)は自尊感情を絶対的な感情として心に存 在する基本的自尊感情と,他者との比較といった 相対的な判断によって形成される社会的自尊感情
version of Post Traumatic Growth Inventory,以 下PTGI-J) ①で回答を求めたトラウマ体験からどのような 成長を遂げたと自覚しているかを測定するために, Taku(2007)の作成したPTGI-Jを用いた。この尺 度は 「他者との関係」(項目例:「他の人たちとの 間で,より親密感を強く持つようになった。」),「 新たな可能性」(項目例:「新たな関心事を持つよ うになった。」),「人間としての強さ」 (項目例: 「 自らを信頼する気持ちが強まった」 ),「精神性的 変容」 (項目例: 「宗教的信念が,より強くなった。」 ), 「人生に対する感謝」 (項目例: 「自分の命の大切 さを痛感した。」 )の5因子21項目から構成されて いる。各項目に,6件法(1. 「全く経験しなかった 」 ∼ 6. 「かなり強く,経験した」 )で回答を求めた。 ③ 日 本 語 版-出 来 事 に 関 連 し た 反 す う 尺 度 (Japanese version of Event-Related Rumination Inventory,以下ERRI-J)
①で回答を求めたストレス体験に対する反すう スタイルを測定するために,Cann et al.(2011)が 作成した出来事に関連した反すう尺度の日本語版 (Taku, Cann, Tedeschi, & Calhoun, 2015) を用い た。この尺度は 「侵入的熟考」 (項目例: 「考える つもりがなかった時でも,その出来事のことを考 えることがあった」 ),「意図的熟考」 (項目例: 「出 来事について考え,何が起きたのか理解しようと していた」 )の2因子20項目から構成されている。 各項目に,4件法(0. 「全くなかった」 ∼ 3. 「よく あった」 )で回答を求めた。 ④自尊感情尺度 自尊感情を測定するために自尊感情尺度の日本 語版(山本・松井・山城,1982)を用いた。この尺 度は,10項目(項目例:「少なくとも人並みには, 価値のある人間である」)から構成されている。 各項目に,5件法(1. 「あてはまらない」 ∼ 5. 「あ てはまる」 )で回答を求めた。 4.倫理的配慮 質問紙調査では,回答は任意であること,無記 名での回答が可能であること,回答の中止が可能 このような仮説が考えられるのは,自尊感情が 高いと,意図的熟考をしても,侵入的熟考をして も,その内容がポジティブなものになり,PTGを 高めると考えられるからである。一方,自尊感情 が低いと,意図的熟考をしても,侵入的熟考をし ても,その内容がネガティブなものになり,PTG を低減させることになると考えられるからである。 【方法】 1.調査対象 大学生141名(男性36名,女性105名,平均年 齢19.75歳)を対象に調査協力を依頼した。質問 紙調査による回答数は82名(男性21名,女性61 名),Web調査による回答数は69名(男性19名, 女性49名,無記名1名)であった。その中から, 回答に欠損のあった10名(男性4名,女性6名)の データを除外し,残った131名(男性36名,女性 94名,無記名1名;平均年齢21.03歳,SD=1.51) のデータを分析に使用した。 2.手続き 質問紙調査とWeb調査を行った。両調査とも, 後述する教示や注意事項を説明した上で回答を求 めた。なお,Web調査では質問紙調査で行った 教示に加えて,本調査はGoogleの利用規約に基 づいて行うこと,回答データはGoogleのサーバー に保存されることを記載した。 3.調査内容 ①個人情報およびストレスを感じた出来事の自由 記述 回答者の性別・年齢・学年・学部学科について回 答を求めた。続いて,以降の質問へ回答する際に, 回答者が過去に体験したストレス体験を想起させ る必要があったため,回答者のストレス体験につ いて自由記述で回答を求めた。その際,出来事の 内容を詳細に記述する必要はなく,「人間関係のト ラブル」 や「仕事の失敗」のように,出来事の概 要を記述するよう教示した。 ② 日 本 語 版-心 的 外 傷 後 成 長 尺 度 (Japanese
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発達心理臨床研究 第25巻 2019 間にも相関は見られなかった。 3.重回帰分析 最後に,出来事に関連した反すうが心的外傷後 成長に与える影響を検討するため,自尊感情高群 ・低群それぞれにおいて,ERRI-Jの下位尺度を説 明変数,PTGI-Jの各下位尺度それぞれを目的変数 として重回帰分析(強制投入法)を行った。(Table 3)。その結果,自尊感情高群においては,侵入的 熟考と「人生に対する感謝」との間に有意傾向で 負の標準偏回帰係数が示され,意図的熟考とPTG の全ての下位因子の間に有意な正の標準偏回帰係 数が示された。一方,自尊感情低群においては, 侵入的熟考と 「人生に対する感謝」 との間に有意 な負の標準偏回帰係数が示され,意図的熟考と 「 新たな可能性」,「人間としての強さ」,「精神性的変 容」,「人生に対する感謝」 の間に有意な正の標準 偏回帰係数が示された。 なお,多重共線性を検出するVariance Inflation Factor(VIF)を算出したところ,すべてVIF < 2で あったため,多重共線性はみられなかったと判断 した。 【考察】 本研究では,自尊感情の高低によって侵入的熟 考および意図的熟考がPTGに与える影響が異なる かどうかを検討した。重回帰分析の結果,自尊感 情が高い場合において,意図的熟考とPTGの各下 位尺度の間に正の関連が見られたが,侵入的熟考 との間にはPTGのうち 「人生に対する感謝」 にの み負の関連が見られた。したがって,仮説1は支 持されなかった。 さらに,自尊感情が低い場合において,意図的 であること,回答は個人が特定されないような形 で処理し,研究として発表することをフェイス シートに記載した。 【結果】 1.記述統計量と群分け まず調査対象者の記述統計量を算出した(Table 1)。 次に,自尊感情尺度得点の平均値±1/2SDを基 準として群分けを行った。その結果,高群30名(男 性12名,女性18名,平均年齢20.03歳,SD=1.58), 低群37名(男性7名,女性30名,平均年齢19.14歳, SD=1.36)となった。 2.各尺度間の相関分析 各尺度間の相関係数を算出した(Table 2)。そ の結果,侵入的熟考と「精神性的変容」に正の相 関が見られた。また,意図的熟考と「他者との関 係」,「新たな可能性」,「人間としての強さ」,「精神 性的変容」,「人生に対する感謝」,侵入的熟考に正 の相関が見られた。自尊感情尺度はどの因子との 発達心理臨床研究第 巻 0$ 久保佑貴 図表資料 侵入的熟考及び意図的熟考と心的外傷後成長の関連 自尊感情の高低による違いの検討 平均値 標準偏差 37*,- (55,- 自尊感情 侵入的熟考 意図的熟考 Table 1 各尺度の記述統計量 他者との関係 新たな可能性 人間としての強さ 精神性的変容 人生に対する感謝 尺度名 下位尺度 37*,- 1.他者との関係 2.新たな可能性 3.人間としての強さ 4.精神性的変容 5.人生に対する感謝 (55,- 6.侵入的熟考 7.意図的熟考 自尊感情 8.自尊感情 S S ― ― Table 2 各尺度間の相関係数 ― ― ― ― ― ―自尊感情
侵入的熟考
†
意図的熟考
5
S
S
†
S
低
高
低
高
Table 3 自尊感情の各群におけるERRI-JとPTGI-Jの重回帰分析の結果
低
高
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低
高
人生に対する感謝
人間としての強さ
精神性的変容
他者との関係
新たな可能性
β
β
β
β
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発達心理臨床研究第 巻 0$ 久保佑貴 図表資料 侵入的熟考及び意図的熟考と心的外傷後成長の関連 自尊感情の高低による違いの検討 平均値 標準偏差 37*,- (55,- 自尊感情 侵入的熟考 意図的熟考 Table 1 各尺度の記述統計量 他者との関係 新たな可能性 人間としての強さ 精神性的変容 人生に対する感謝 尺度名 下位尺度 37*,- 1.他者との関係 2.新たな可能性 3.人間としての強さ 4.精神性的変容 5.人生に対する感謝 (55,- 6.侵入的熟考 7.意図的熟考 自尊感情 8.自尊感情 S S ― ― Table 2 各尺度間の相関係数 ― ― ― ― ― ―自尊感情
侵入的熟考
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意図的熟考
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†
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Table 3 自尊感情の各群におけるERRI-JとPTGI-Jの重回帰分析の結果
低
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人生に対する感謝
人間としての強さ
精神性的変容
他者との関係
新たな可能性
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侵入的熟考及び意図的熟考と心的外傷後成長の関連─自尊感情の高低による違いの検討─ 以上を踏まえると,意図的熟考を行うだけでは, PTGの「他者との関係」を促進できない可能性が 示唆される。そのため,PTGの「他者との関係」 因子の促進のためには,自尊感情の向上を目的と した介入(例えば,松久,2012)を同時に行うこ となどが求められると考えられる。 前述のように,本研究では 「他者との関係」 因 子以外では,自尊感情の高群と低群の間で,侵入 的熟考および意図的熟考とPTGの関連に差が見ら れなかった。その理由として,自尊感情以外の要 因が,出来事に関連した反すうとPTGの関連に影 響を与えている可能性が考えられるが,両者の関 連に影響を与える要因の検討は今後の課題である。 また,本研究では自尊感情の高群・低群ともに, 侵入的熟考と「人生に対する感謝」の間に負の関 連が見られた。そのため,侵入的熟考がPTGに与 える影響はPTGの下位因子で異なる可能性がある と考えられる。このような結果が得られた理由と して,対象者のストレス体験の種類の違いがPTG に影響を及ぼした可能性が考えられる。開(2006) では,人間関係のトラブルを体験した場合には他 者との関係性におけるPTG,死を身近にするイベ ントを体験した場合には命の大切さやスピリチュ アルな変容におけるPTG,自らの過ちによって生 じたトラブルを体験した場合には個人の強さにお けるPTGを体験する傾向があったことが示された。 また,上條・湯川(2018)では,親しい人との死別 を想定した場合にのみ,侵入的熟考が意味づけを 抑制することが示された。これらのことから,ス トレス体験の種類によって,侵入的熟考がPTGの どの下位因子に影響を与えるかが異なる可能性が 考えられる。しかし,本研究においては,ストレ 熟考とPTGの 「新たな可能性」,「人間としての強 さ」,「精神性的変容」,「人生に対する感謝」 の間に 正の関連が見られ,侵入的熟考との間にはPTG のうち 「人生に対する感謝」 にのみ負の関連が 見られた。したがって,仮説2も支持されなかった。 ただし,自尊感情高群において 「意図的熟考」 と 「他者との関係」 に有意な正の関連が見られた のに対し,自尊感情低群においてはその両者に有 意な関連は見られなかった。つまり,自尊感情の 高群と低群で,意図的熟考とPTGの 「他者との関 係」 因子の関連性に違いが示された。 この違いが生じた理由として,「他者との関係」 は,他者との関係性の中で得られる成長感に焦点 を当てたPTGであることが影響していると考えら れる。「他者との関係」に含まれる項目に 「他の 人たちとの間で,より親密感を強く持つように なった」 や 「他者に対してより思いやりの心が強 くなった」 があるが,これは他者との関わりを通 した成長である。そのため,「他者との関係」 因子 における成長感を得るためには,意図的熟考が高 いことに加えて,他者と関係性を持つこと,そし て他者との関係に関する体験を捉えなおすことが 必要であると考えられる。一方,先行研究から, 自尊感情が低いと対人不安傾向が高くなることが 示されている(菅原,1998)。また,自尊感情の 低い者は援助要請を回避する傾向が高いことが示 されている(石黒・榎本・山上・藤岡,2016)。そ こで,自尊感情の低い人は,対人不安傾向が高く, 他者との関係性を回避する傾向が高いことから, 他者との関わりが持ちにくくなり,意図的熟考を しても,PTGの「他者との関係」因子の成長が得 られにくいことが考えられる。 自尊感情の高低による違いの検討 平均値 標準偏差 37*,- (55,- 自尊感情 侵入的熟考 意図的熟考 Table 1 各尺度の記述統計量 他者との関係 新たな可能性 人間としての強さ 精神性的変容 人生に対する感謝 尺度名 下位尺度 37*,- 1.他者との関係 2.新たな可能性 3.人間としての強さ 4.精神性的変容 5.人生に対する感謝 (55,- 6.侵入的熟考 7.意図的熟考 自尊感情 8.自尊感情 S S ― ― Table 2 各尺度間の相関係数 ― ― ― ― ― ― 自尊感情 侵入的熟考 † 意図的熟考 5 S S †S 低 高 低 高 Table 3 自尊感情の各群におけるERRI-JとPTGI-Jの重回帰分析の結果 低 高 低 高 低 高 人生に対する感謝 人間としての強さ 精神性的変容 他者との関係 新たな可能性 β β β β β6
発達心理臨床研究 第25巻 2019 開 浩一 (2006). Posttraumatic growth(外傷後成 長)を促すもの何か ──変容過程に視点を置い て── 現代社会学部紀要, 4(1), 75-84. 堀田 亮・杉江 征 (2013). 挫折体験の意味づけが 自 己 概 念 の 変 容 に 与 え る 影 響 心 理 学 研 究, 84(4), 408-418. いとう たけひこ (2015). テキストマイニングに よる被災体験学(Disaster Experience Research) への混合研究法アプローチ ──死に関する表 現と心的外傷後成長(PTG) ── 東西南北:和 光大学総合文化研究所年報, 2015, 104-116. 石 黒 良 和・榎 本 玲 子・山 上 精 次・藤 岡 新 治 (2016). 援助要請と生活適応感の関連性──自 尊感情と他者軽視の観点から── 専修人間科 学論集, 6, 31-40.Jia, X., Liu, X., Ying, L., & Lin, C. (2017). Longitudinal relationships between social support and posttraumatic growth among adolescent survivors of the Wenchuan earthquake. Frontiers in
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松久 眞実 (2012). 自尊感情の向上を目的とした ス体験の種類を踏まえた分析を行っていない。そ のため,今後はストレス体験の種類の違いを測定 した上で,侵入的熟考とPTGの下位因子の関連を 検討する必要があると考えられる。 最後に,本研究の限界を3点述べる。1点目は, 本研究の対象者が大学生に限定されていることで ある。そのため,他の年齢の対象者では同様の結 果が得られるかどうかは分からない。2点目は, 調査対象者のストレス体験の程度を区別してい ないことである。Kleim & Ehlers (2009) では, PTSDの症状の程度によってPTGの高さが異なる ことが示されている。そのため,体験の種類やそ の衝撃度によって,調査対象者のPTGに影響があ る可能性が考えられるが,本研究ではその点の検 討を行っていない。そのため今後は,ストレス体 験の衝撃度を考慮に入れたうえで検討を進めてい く必要がある。3点目は,本研究が横断研究であ り,因果関係の検討ではできていないことである。 そのため,今後は,予測的な検討による因果関係 の検討を行うことも課題である。 【引用文献】
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Zhou, X., Wu, X., & Zhen, R. (2018). Self-esteem and hope mediate the relations between social support and post-traumatic stress disorder and growth in adolescents following the Ya'an earthquake. Anxiety
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発達心理臨床研究 第25巻 2019Relationship between intrusive and deliberate ruminations, and posttraumatic growth
Examination of the differences based on the level of selfesteem
-Yuki KUBO*, Daisuke ITO*, Taku ITO**
*Graduate School of Education, Hyogo University of Teacher Education **Faculty of Psychology, Meiji Gakuin University
The purpose of this study is to examine differences in the relationship between intrusive and deliberate ruminations, and posttraumatic growth, depending on the level of self-esteem. The questionnaire survey, conducted on 141 university students, consisted of the Japanese version of the posttraumatic growth inventory and, the Japanese version of the event-related rumination inventory, and the self-esteem scale. Results of a multiple regression analysis showed a significant positive association between deliberate rumination and posttraumatic growth in the dimension of "relationships with others", in the group with high self-esteem. In the low self-esteem group, there was no significant relationship between deliberate rumination and "the relationships with others". Thus, regarding "the relationships with others", it is suggested that when self-esteem is low, it is difficult for post-traumatic growth to occur, even though deliberate rumination is high.