中長期的な園舎環境の変化が
幼児の社会的行動とストレスに及ぼす影響
大 島 みずき
Influence of Changes in the Kindergarten Building
Environment to the Social Behavior and the Stress of Infant
Mizuki OSHIMA
群馬大学共同教育学部紀要 人文・社会科学編 第70巻 241―250頁 2021 別刷
中長期的な園舎環境の変化が
幼児の社会的行動とストレスに及ぼす影響
大 島 みずき群馬大学大学院教育学研究科 教職リーダー講座 (2020年9月30日受理)
Influence of Changes in the Kindergarten Building
Environment to the Social Behavior and the Stress of Infant
Mizuki OSHIMA
Program for Leadership in Education, Graduate school of Education, Gunma University (Accepted on September 30th, 2020)
Abstract
In this study, we measured the social behavior and stress response of children in a temporary kindergarten building environment where childcare is restricted and a new kindergarten building environment where childcare is less restricted. As a result, no restricted environmental effects were observed on the stress response. On the other hand, there was a slight influence on social behavior. Negative social behavior improved during the year in the new kindergarten building environment, but it did not change in the temporary kindergarten building environ-ment. It was suggested that the development of social behavior of infants requires an environment in which both infants and caregivers have reassurance.
問題と目的
環境を通して教育が行われる幼稚園では,幼稚園 全体の教育環境が,幼児にふさわしいものとなって いるかどうかも検討されなければいけない(文部科 学省,2018)。そのため,生活を通して身近なあら ゆる環境から刺激を受け止めている幼児が生活する 環境について,その影響を保育者が理解しておくこ とは重要なことである。 幼児が関わる幼稚園環境の中で,一番大きく,そ して容易に変えることが出来ない物的環境は幼稚園 の園舎環境であろう。本来,保育者は,目の前の幼 児が主体的に遊びを通じて充実感や満足感を得られ るように,そして何より幼稚園の中で安心して生活 ができるように,保育の環境(テーブルや整理棚な どの家具やその中の遊具や用具,素材など)を設定 し,そこで生活する幼児の姿から設定した保育環境 を見直すことで,より良い保育が行えるよう務めて いる。例えば,小林(2002a)は保育室で遊び込め る空間を作ることで,短時間しか遊びが持続しな かった年中児がその場に長く滞在するようになった ことを示し,室内環境が滞在時間を含めた幼児の活 動に影響することを示している。また,同様に加藤・ 麝嶋・中村・酒井・坂口・渡邊(2009)は幼稚園の 群馬大学共同教育学部紀要 人文・社会科学編 第70 巻 241―250 頁 2021 241園庭における大型遊具の撤去,設置が幼児の遊びの 内容に大きく影響することを示しており,園庭環境 の変化で幼児が遊びの中で経験することが変化した ことを述べている。しかし,園舎環境は保育室環境 や園庭環境とは異なり保育者が個人で目的に応じて その環境を設定し直すことが出来ない環境である。 そのため,保育者は自身が保育を行う園の園舎環境 についてその長所・短所,そして生じる可能性のあ る問題を理解し,それらを補う環境設定を行う必要 がある。 幼稚園の園舎には様々な形態があるが,園舎環境 が持つ幼児への影響を示すことは難しい。園舎環境 が異なる園は多くの場合『違う幼稚園』であるため, 園舎環境も違うが,併せて幼稚園のある地域,保育 形態,保育目標,教育課程なども全て異なる。その ため,園舎環境のみの幼児への影響を検討すること が難しいのである。その中で,福田・無藤・向山 (2000)は,園舎内の様々な場における幼児の活動 や動線を観察し,得られた結果に基づき園舎の改善 を行ない,園舎が変わったことで幼児の動線や遊び の様子が変化したことを示している。本研究でも福 田・無藤・向山(2000)同様に,異なる形態の園舎 への建替を行う幼稚園において,そのタイミングで 幼児の姿を縦断的,及び横断的に追うことで,園舎 環境が異なることが彼らの姿にどのような影響をも たらすかを中長期的な視点から検討する。 園舎環境と社会的行動 幼児期の発達において社会的行動の発達は重要で ある。幼児にとって初めての社会である幼稚園でど のように友だち,保育者,環境と関わるのかは,ど のような園舎環境で生活しているのかに影響するの だろうか。Ladd & Burgess(1999)は幼児期に保育 者に攻撃行動が多く,非社交的であると評価された 幼児が,小学校低学年の時点でも友人が少なく,孤 独感や社会的不安が多いことから,幼児期の社会的 行動は長期的に子どもの生活に影響することを示し ている。 これまで,幼児の向社会的行動や攻撃行動に養育 者の養育態度という家庭における環境が大きく影響 していることは示されてきた(中道・中澤,2003, 中台・金山・前田,2004,森下,2006など)。また,
Amato & Keith(1991),Lansford Malone, Castellio, Dodge, Pettit & Bates(2006) や中 道(2017) は ひ とり親家庭であることの生活環境の影響が幼児の社 会的行動に見られることも示している。さらに,幼 稚園など幼児教育施設での経験やそこで経験する集 団の大きさに幼児の行動は影響することも示されて いる(Bronfenbrenner, 1979)。 園舎もその環境によっては幼児の行動が制限され ている場合もある。そのような制限された園舎環境 では子ども自身もストレスを感じることなどで,彼 らの社会的行動にも変化が見られるのではないだろ うか。 園舎環境とストレス 幼児のストレス反応についての研究はあまり多く はないが,幼児も日々の生活の中でストレスを感じ ている。小林(2002b)は保育者に対する質問紙調 査の中で,幼児のストレッサーには自身の力不足か ら生じるものや友だちとの関係,園での決まりなど から生じるものがあることを示している。また,堀 池・富田・村田・久保(1999)は幼児用のストレッ サー尺度を作成する中で幼児のストレッサーが保育 者の意図によるもの(片付けを強要される,給食で 嫌いなものを食べなければならないなど),友だち によるもの(友だちから仲間外れにされる,友だち から命令されるなど),行事によるもの(園行事で 遊ぶ時間が取られるなど),遊びによるもの(遊具 などの数が足りず思う遊びができないなど)に分類 されることを示している。さらに保育者の非受容的 な態度により,幼児がストレスを感じることがある ことや(高 ・橋本・首藤,2006),園の行事の練 習をストレサーとして感じる幼児もいることから (嘉数・井上・白石,1994),保育者という人的環境 や幼稚園行事などの園環境も時に幼児にとってはス トレッサーとなりうることが明らかとなった。では, 幼児にとってストレスになりやすい園舎環境もある のだろうか。 本調査で対象となる園は,建替において旧園舎が
取り壊され,同一の敷地内に新園舎が建てられる。 その間(おおよそ1年間),在園児は本来保育を行 うことが想定されていない仮園舎での生活となる。 このような場では幼児の行動は制限され,幼稚園で の生活にストレスを感じるのではないだろうか。ま たその結果として幼児の園での行動にも影響が出て くるのではないかと考えた。本研究では特に行動に 制限がある仮園舎での生活から制限が少なくなる新 園舎における生活に焦点を当て,その違いが幼児の 行動やストレス反応に影響するかについて中長期的 な視点から検討することを目的とする。その中で, 制限のある環境下(仮園舎環境)ではストレス反応 が増えた結果としてネガティブな社会的行動が増え ると予測する。 施設の老朽化による園舎の建替や災害など様々な 事情により園舎の移転があった場合,園舎環境が異 なることやそれにより行動が制限されることで幼児 の心や行動にどのような影響があるのかを知ること は保育を行う上で重要になってくるだろう。
方 法
調査対象園 20XX年に園舎建替を行ったA幼稚園。 調査対象園の園児は登園後すぐにおもいおもいの遊 びを行う。活動の場所や内容の決定は基本的には幼 児自身に委ねられている。 調査時期 園舎建替期間(20XX年)を含む20XX 1年から20XX+1年の3年間。 園舎環境 老朽化により,20XX年に園舎の建て替 えが行われた。 【旧園舎】 全ての保育室が園庭に面しているいわゆ る「ハーモニカ型」の園舎であり,幼児,保育者が 園庭にいても,保育室にいてもそれぞれの様子を把 握しやすい環境であった。 【仮園舎】 園舎建て替えに伴い,保育室,事務室及 び園庭などの園の機能は一時的に隣の小学校,及び 特別支援学校の教室等に移された。園庭と保育室は 離れており,保育室にいると園庭の様子を把握する ことはできず,園庭にいると保育室の様子はわから なかった。また,元々保育室としての使用を想定し ていない場所を保育室として使用させていただいた ため,保育室の広さや窓の高さなど,幼児の生活に 合わないなど,保育を行う上での問題もあった。 【新園舎】 新園舎は中央の多目的なプレイルームを 中心に,保育室が配置されている。一部,園庭に面 していない保育室があるものの,園庭から保育室が 完全に分断さてはおらず,保育室の中からでも園庭 の様子を一部は伺うことができる。 調査対象児 入園年度の異なる3集団の幼児につい て検討した。 【集団A】 20XX─1年に年少として入園した3年保 育児(27名),及び20XX年に年中として入園した 2年保育児(28名),計55名。年中時期の大半を仮 園舎で過ごし,年長を新園舎で過ごした。 【集団B】 20XX─2年に年少として入園した3年保 育児(28名),及び20XX─1年に年中として入園し た2年保育児(28名),計56名。年中までを旧園 舎で過ごし,年長時期の大半を仮園舎で過ごした。 【集団C】 20XX年に年少として入園した3年保育 児(28名),及び20XX+1年に年中として入園し た2年保育児(28名),計56名。一部の園児は年 少時期の大半を仮園舎で過ごし,56名となった年 中時期は新園舎で過した。 調査内容と方法及び倫理的配慮 【社会的行動】 中澤・中道(2007)が作成した子ど もの行動尺度(CBS)から,6因子(攻撃,向社会, 非社交,被排斥,不安─怖がり,過活動─妨害)そ れぞれから因子負荷量が高い3項目,計18項目か らなるCBS簡易版(1─3点)を作成した。 調査の目的,評価の内容等について事前に調査対 象園の園長・副園長に許可を得た上で担任保育者に 園内研修の場などで事前に調査の説明を行なった。 尺度はA4用紙1枚に印刷され,対象児別に氏名を 記入した上で,クラスの成員分を担任保育者に渡し, 回答後は厳封の上で,調査者に直接返却するよう依 頼した。同様の流れで園舎の建て替えが始まる前年 (20XX─1年),から園舎建て替えに伴い仮園舎での 生活となった20XX年,さらに新園舎での生活と なった20XX+1年の3年間,1学期終了後,及び2 中長期的な園舎環境の変化が幼児の社会的行動とストレスに及ぼす影響 243学期終了後(年度によっては3学期終了後)の年2 回調査を行なった。 【ストレス反応】 ストレス反応を測定する尺度とし て嶋田・戸ケ崎・坂野(1994)の小学生用ストレス 反応尺度を元に幼児用のストレス反応尺度を作成し た。小学生用ストレス反応尺度は本人が自身のスト レス反応について評定するものであったが,本調査 ではこれを幼児のストレス反応について保護者が回 答する形に変更した。また,小学生用ストレス反応 尺度に見られた「勉強が手につかない」という項目 については,幼稚園の状況を鑑み「遊びが手につか ない」とした(20項目1─4点)。 さらに,子ども の幼稚園に向かう気持ちを5項目(「1 幼稚園で あった楽しいことについて話す」「2 幼稚園であっ たつらいことについて話す」「3 幼稚園から帰ると ぐたりと疲れている」「4 登園をしぶる」「5 次の 日の登園を楽しみにする」)についてストレス反応 と同様の4段階で評定してもらった。調査の表紙に は「お子様の気持ちや,体の状態について,保護者 の方から見た幼児の様子や,幼児の訴えについての 評定であること」を示した。なお,担任保育者の回 答との比較が必要となったため,本調査は記名式の 調査となった。そのため,調査は回答後,厳封の上 で担任保育者を通さずに調査者が受け取ることがで きるよう留意した。 保護者に対して調査用紙を封筒に入れ,配布した。 お迎えの時間を利用して調査の趣旨,回答方法,回 収方法,個人情報の取り扱いなどについて説明を行 なった上で,調査への協力を依頼した。さらに,調 査に参加しないことで子ども,保護者に不利益は生 じないことも併せて伝えられた。
結 果
尺度の分析 【社会的行動(CBS)】 集団A─Cについて,年中, 年長時点での全ての1学期終了後のCBSの評定に ついて因子分析(最尤法プロマックス回転)を行っ 表1 CBS因子分析(最尤法 プロマックス回転,項目9除外) 向社会 的行動 非社交行動 不安・怖がり 過活動 攻撃行動 被排斥 18 他の子が困っているとき,助けたり,なぐさ める .90 .02 -.06 .00 -.01 -.07 8 他の子を助ける .83 -.01 .06 .01 .01 .01 13 他の子が困っていると心配する .77 -.06 .01 -.04 .00 .08 7 一人で遊ぶことを好む .01 .91 -.02 .05 .00 -.03 10 一人でいることを好む -.05 .87 -.03 -.03 -.05 .01 11 友達と距離を置く .01 .56 .12 -.04 .02 .08 2 心配性で,いろいろなことを心配する .07 -.05 .89 .07 -.05 .04 3 不幸さ,悲しさ,困惑をあらわす -.05 .01 .72 -.10 .08 .07 17 新しいことや新しい場面に怯えたり,不安に なる -.01 .11 .63 .03 -.03 -.11 1 落ち着かず,うろうろしたり飛び跳ねたりす るじっとしていられない .07 .14 -.02 .76 .06 -.01 4 集中力に乏しい -1.4 -.15 .06 .74 -.03 -.09 6 不注意である .02 -.03 -.05 .72 -.03 .13 14 攻撃的である -.02 .07 .01 .06 .86 -.04 15 他の子を責めたり,からかったりする .15 -.05 -.02 .04 .55 -.02 5 他の子をいじめる -.13 -.09 .02 -.11 .54 .09 12 友達に避けられる -.01 .01 -.04 .06 -.01 .92 16 友達の活動から仲間外れにされる .02 .04 .05 -.02 .03 .56 因子間相関 向社会的行動 -19 -.07 -.23 .00 .10 非社交行動 .20 .11 .00 .24 不安・怖がり .22 -.29 .03 過活動 .17 .11 攻撃行動 .38た。因子負荷量がどの因子でも.35に満たなかっ た項目9を除外し,再度分析し,表1に示す6因子 を得た。それぞれの因子について先行研究に基づき 「向社会的行動」「非社交行動」「不安・怖がり」「過 活動」「攻撃行動」「被排斥」とした。 【ストレス反応尺度】 集団A─Cについて年中・年 長時点で行なったストレス反応尺度の評定について 因子分析(主因子法プロマックス回転)を行なっ た。.35を基準として因子負荷量が複数因子にまた がる,またはどの因子でも基準に満たなかった3項 目(項目1, 4, 10)を除外し,再度分析を行い,表 2に示す4因子を得た。先行研究,及び項目内容か らそれぞれを「不機嫌・怒り」「抑うつ・不安」「無 気力」「身体反応」とした。 【幼稚園に向かう様子】 集団A─Cについて年中・ 年長時点で行なった幼稚園に向かう気持ち5項目に ついて,主成分分析を行った。項目3(幼稚園から 帰るとぐたりと疲れている)のみ,他の項目とは回 答傾向が異なると判断されたため,除外し,4項目 を「幼稚園に向かう様子」としてまとめた。項目4 は逆転項目として扱い,得点が高いほど幼稚園を楽 しみに肯定的に捉えている様子が見られることを示 す得点となった。 集団 A についての縦断的検討 年中時を仮園舎,年長時を新園舎で生活した集団 表2 ストレス反応尺度についての因子分析(主因子法 プロマックス回転,項目1,4,10除外) 不機嫌・怒り 抑うつ・不安 無気力 身体反応 7 ふきげんで,おこりっぽい .89 -.04 .05 -.01 3 いらいらする .86 .09 -.04 -.05 15 だれかに,怒りをぶつけたい .70 .03 -.05 .18 11 気もちが,むしゃくしゃする .69 -.04 .28 -.12 2 かなしい .02 .85 .00 -.14 17 さびしい .04 .83 -.04 .01 14 なんとなく,心配である -.02 .67 .09 -.02 5 なんだか,こわい感じがする .08 .64 -.09 .12 19 気持ちが沈んでいる -.09 .57 .33 .04 8 体がだるい .13 -.09 .81 .03 12 疲れやすい -.05 .09 .65 .01 6 遊びが手につかない .10 -.06 .55 .11 9 なにもかも,いやだと思う .11 .17 .52 .01 13 頭痛がする .03 -.10 .00 .72 16 気持ちが悪い -.07 -.05 .16 .68 20 なにもやる気がしない -.15 .12 .32 .51 18 何かに集中できない .25 .20 -.18 .48 因子間相関 不機嫌・怒り .59 .55 .45 抑うつ・不安 .67 .65 無気力 .66 表3 集団Aの年中・年長時点のCBSの下位尺度得点及び標準偏差と学年・時期についての分散分析の結果 向社会的行動 非社交行動 不安-怖がり 過活動 攻撃行動 被排斥 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 年中時点 1.74 1.92 1.37 1.24 1.84 1.75 1.54 1.59 1.18 1.18 1.43 1.52 (仮園舎) (.59) (.58) (.53) (.41) (.67) (.53) (.64) (.60) (.29) (.34) (.47) (.45) 年長時点 2.22 2.05 1.15 1.05 1.53 1.30 1.56 1.33 1.24 1.14 1.40 1.15 (新園舎) (.47) (.52) (.31) (.20) (.47) (.42) (.54) (.37) (.30) (.22) (.42) (.25) 主効果(学年)F(1,54)=17.17, p<.01 F(1,54)=9.64, p<.01 F(1,54)=31.69, p<.01 F(1,54)=2.42, n.s. F(1,54)=.58, n.s. F(1,54)=9.28, p<.01 主効果(時期)F(1,54)=0.00, n.s. F(1,54)=14.28, p<.01 F(1,54)=9.67, p<.01 F(1,54)=7.27, p<.01 F(1,54)=5.70, p<.05 F(1,54)=6.70,p<.05 交互作用 F(1,54)=18.68, p<.01 F(1,54)=.41, n.s. F(1,54)=2.51, n.s. F(1,54)=17.38, p<.01 F(1,54)=3.75, p<.10 F(1,54)=28.50,p<.01 中長期的な園舎環境の変化が幼児の社会的行動とストレスに及ぼす影響 245
Aについて,社会的行動の変化を検討するために, 因子ごとに学年(年中・年長)×時期(前半・後半) の被験者内計画の2要因分散分析を行なった(表 3)。「向社会的行動」については学年の主効果(年 中<年長),及び学年×時期の交互作用が見られた。 交互作用については,年中時では前半の得点が後半 の得点よりも低かったが,年長時には前半の得点の 方が後半の得点よりも高い結果となった(LSD,p <.05)。「非社交行動」「不安・怖がり」については 学年・時期の主効果が見られた(学年:年中>年長, 時期:前半>後半)。「過活動」,「攻撃行動」につい ては,時期の主効果(前半>後半)及び学年×時期 の交互作用が見られた。交互作用については,年中 時には前半と後半の得点差がなく,年長時には前半 の得点が後半の得点よりも高いことが示された (LSD,p<.05)。「被排斥」については学年,時期の 主効果があり(学年:年中>年長,時期:前半>後 半),さらに交互作用も見られ,年中時は前半の得 点よりも後半の得点の方が高く,年長時には前半の 得点が後半の得点よりも低くなることが示された (LSD,ps<.05)。 ストレス反応及び幼稚園に向かう様子についても 同様に集団Aの縦断的な変化を検討した(表4)。 その結果,ストレス反応については学年による差は 見られなかった。「幼稚園に向かう様子」について は年長時点の方が得点は高かった。 表4 集団Aの年中(仮園舎)から年長(新園舎)にかけてのストレス反応,幼稚園に向かう様子の得点 ストレス反応 幼稚園に向かう様子 不機嫌怒り 抑うつ不安 無気力 身体反応 年中時点 1.78 1.51 1.30 1.28 3.21 (.66) (.56) (.44) (.39) (.53) 年長時点 (.64)1.62 (.58)1.50 (.40)1.30 (.41)1.29 (.51)3.37 t検定 t(49)=1.64, n.s. t(49)=15, n.s. t(49)=.08, n.s. t(49)=.26, n.s. t(49)=2.01, p<.05 表5 年中時点の園舎環境による社会的行動の違い 向社会的行動 非社交行動 不安-怖がり 過活動 攻撃行動 被排斥 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 仮園舎 1.74 1.92 1.37 1.24 1.84 1.75 1.54 1.59 1.18 1.18 1.43 1.52 (集団A) (.59) (.58) (.53) (.41) (.67) (.53) (.64) (.60) (.29) (.34) (.47) (.45) 新園舎 1.99 2.07 1.44 1.27 1.72 1.42 1.32 1.17 1.25 1.21 1.29 1.15 (集匝C) (.43) (.59) (.54) (.42) (.60) (.52) (.43) (.28) (.35) (.28) (.44) (.25) 主効果(園舎)F(1,108)=4.86, p<.05 F(1,108)=.45, n.s. F(1,108)=4.96, p<.05 F(1,108)=12.18, p<.01 F(1.108)=.65, n.s. F(1,108)=13.66, p<.01 主効果(時期)F(1,108)=5.67, p<.05 F(1,108)=13.13,p<.01 F(1,108)=14.23, p<.01 F(1,108)=2.44, n.s. F(1,108)=1.08, n.s. F(1,108)=.54, n.s. 交互作用 F(1,108)=.82, n.s. F(1,108)=.19, n.s. F(1,108)=4.39, p<.05 F(1,108)=9.18, p<.01 F(1,108)=.65, n.s. F(1,108)=10.13 p<.01 表6 年中時点での2集団のストレス反応得点の違い ストレス反応 幼稚園に向かう様子 不機嫌怒り 抑うつ不安 無気力 身体反応 仮園舎 1.79 1.54 1.30 1.28 3.22 (集団A) (.66) (.58) (.44) (.39) (.53) 新園舎 1.64 1.46 1.25 1.15 3.35 (集団C) (.74) (.63) (.46) (.27) (.51) t検定 t(101)=10.8, n.s. 1(102)=.64, n.s. t(102)=.56, n.s. 1(102)=2.04, p<.05 1(102)=1.36, n.s.
学年別の横断的検討 年中・年長の過ごした園舎により,社会的行動に 違いがあるのかを検討するために,因子ごとに園舎 (仮園舎・新園舎)×時期(前半・後半)の被験者間 計画,被験者内計画混合の2要因分散分析を行った。 年中時点の検討については集団A(仮園舎)と集団 C(新園舎)の比較,年長時点の検討については集 団B(仮園舎)と集団A(新園舎)の比較となる。 【年中時点】 分散分析の結果(表5),「向社会的行 動」については園舎(仮園舎<新園舎)と時期(前 半<後半)の主効果が見られた。「非社交行動」に ついては時期の主効果(前半>後半)が見られた。 「不安─怖がり」については園舎(仮園舎>新園舎), 時期の主効果(前半>後半)及び交互作用がいずれ も有意であった。交互作用については仮園舎期では 前半と後半の得点に差がなく,新園舎期は前半の得 点が後半の得点よりも高いことが示された(LSD, p<.05)。「過活動」「被排斥」については園舎の主 効果(仮園舎>新園舎)と交互作用が有意であり, 年中児では仮園舎期の方が新園舎期よりも「過活動 の得点が高かった。また,交互作用からは,仮園舎 期には前半と後半の差がない一方で,新園舎期では 前半の得点が後半の得点よりも高かった(LSD,p <.05)。「攻撃行動」では有意な主効果及び交互作 用は見られなかった。 ストレス反応,及び幼稚園に向かう様子について は(表6),身体反応にのみ有意な園舎による差が 見られ,仮園舎における身体反応の得点が高いこと が示された。 【年長時点】 分散分析の結果(表7),「向社会的行 動」「非社交行動」「不安─怖がり」については時期 の主効果(前半>後半)が見られた。「過活動」「被 排斥」については時期の主効果(前半>後半)と交 互作用が有意であった。交互作用については,仮園 舎期では前半と後半の得点に差がない一方で,新園 舎期では前半の得点が後半の得点よりも高かった (LSD,p<.05)。「攻撃行動」については有意な交互 作用のみが見られ。仮園舎期では前半よりも後半の 得点が高く,新園舎期には前半の得点が後半の得点 よりも高いことが示された。 ストレス反応,幼稚園に向かう気持ちについては (表8)有意な差は見られなかった。 表7 年長時点の園舎環境による社会的行動の違い 向社会的行動 非社交行動 不安-怖がり 過活動 攻撃行動 被排斥 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 仮園舎 2.08 1.90 1.18 1.15 1.44 1.26 1.50 1.50 1.13 1.21 1.27 1.31 (集団B) (.54) (.44) (.37) (.28) (.45) (.34) (.51) (.55) (.25) (.31) (.36) (.38) 新園舎 2.22 2.05 1.15 1.06 1.52 1.31 1.55 1.32 1.24 1.14 1.40 1.14 (集団A) (.46) (.51) (.30) (.20) (.47) (.42) (.54) (.37) (.30) (.22) (.42) (.25) 主効果(園舎)F(1,110)=3.02, n.s. F(1,110)=1.72, n.s. F(1,110)=.92, n.s. F(1,110)=.56, n.s. F(1,110)=.16, n.s. F(1,110)=.09, n.s. 主効果(時期)F(1,110)=16.54, p<.01 F(1,110)=5.49, p<05 F(1,110)=23.41, p<.01 F(1,110)=10.57, p<.01 F(1,110)=.05, n.s. F(1,110)=13.30, p<.01 交互作用 F(1,110)=.02 n.s. F(1,110)=1.37, n.s. F(1,110)=.19, n.s. F(1,110)=10.57, p<.01 F(1,110)=13.81, p<.01 F(1,110)=26.69, p<.01 表8 年長時点での2集団のストレス反応得点の違い ストレス反応 幼稚園に向かう様子 不機嫌怒り 抑うつ不安 無気力 身体反応 仮園舎 1.43 1.32 1.18 1.16 3.38 (集団B) (.61) (.52) (.34) (.34) (.50) 新園舎 1.63 1.50 1.29 1.29 3.37 (集団A) (.63) (.57) (.40) (.40) (.50) t検定 t(106)=1.65, n.s. t(106)=1.71, n.s. t(106)=1.61, n.s. t(106)=1.84, n.s. t(106)=.10, n.s. 中長期的な園舎環境の変化が幼児の社会的行動とストレスに及ぼす影響 247
社会的行動とストレス反応の関連への園舎環境の影 響 年中,年長それぞれの学年(園舎環境)時点での ストレス反応と社会的行動(後半)との関連を検討 するために相関係数を算出した(年中時点:表9, 年長時点表10)。仮園舎時期のストレス反応と社会 的行動の間には有意な正の相関がいくつか見られ, ストレス反応が多い幼児の方がネガティブな社会的 行動を示すことが多い傾向が伺えた。一方で新園舎 期では関連が見られた項目は少なくなっていた。ま た,幼稚園に向かう様子についても,仮園舎期に年 中では不安─怖がり,年長では被排斥との間で有意 な負の相関が見られた。 表9 年中時点での社会的行動(後半)とストレス反応の関連 ストレス反応 幼稚園に 向かう様子 不機嫌怒り 抑うつ不安 無気力 身体反応 仮園舎(集団A) 向社会的行動 .03 -.03 .05 .05 .17 非社交行動 -.29 * -.10 -.13 -.04 -.10 不安怖がり -.01 .13 .21 .10 -.33 * 過活動 .23 .17 .15 .33 * -.27 攻撃行動 .26 .04 .07 .08 .04 被排斥 .21 .34 * .25 .34 * -.22 新園舎(集団C) 向社会的行動 -.26 -.19 -.03 .06 .14 非社交行動 .04 .09 -.05 .08 -.19 不安怖がり .04 .18 .10 .08 -.02 過活動 .33 * .02 -.02 .25 -.01 攻撃行動 .20 .03 .10 .12 -.06 被排斥 .14 -.18 -.20 -.04 -.07 *:p<.05 **:p<.01 表 10 年長時点での社会的行動(後半)とストレス反応の関連 ストレス反応 幼稚園に 向かう様子 不機嫌怒り 抑うつ不安 無気力 身体反応 仮園舎(集団B) 向社会的行動 .02 .17 .04 .02 .02 非社交行動 .13 .16 .23 .06 -.18 不安怖がり .10 .31 * .23 .31 * .05 過活動 .11 -.03 .45 ** .03 -.24 攻撃行動 -.04 .14 .10 .22 -.14 被排斥 .14 .05 .43 ** .14 -.29 * 新園舎(集団A) 向社会的行動 -.08 .08 -.11 -.09 .24 非社交行動 .15 .15 -.01 .27 -.11 不安怖がり .24 .23 .08 .06 -.26 過活動 .19 -.01 -.01 .25 .02 攻撃行動 .26 .20 .33 * .34 * .14 被排斥 -.05 -.19 -.21 -.06 .15 *:p<.05 **:p<.01
考 察
社会的行動について 社会的行動の中でネガティブな行動として考えら れる因子の得点は全体的に低く,調査園においてネ ガティブな社会的行動は多くは見られないことが考 えられる。その上でネガティブな行動についての多 くの項目で,年中よりも年長児の得点の方が高く なっており,さらに一年の中では前半の得点より後 半の得点の方が低くなっていること(向社会的行動 については逆)は,幼稚園生活の中での幼児の社会 的な発達を示すものであると考えられる。 社会的行動への園舎環境の影響 集団Aの社会的行動の変化についての縦断的検 討から,集団Aは年中時である仮園舎期には社会 的行動の前半の得点と後半の得点に差が見られず (または後半の方が高くなる),年長時である新園舎 期では,前半よりも後半の得点が低くなる社会的行 動がいくつか見られた(過活動,攻撃行動,被排斥)。 さらに,集団A Cについての学年別の横断的検討 の中でも,同様に仮園舎期には前半と後半の得点差 が見られず,新園舎期には変化見られるという得点 の変化が多くの項目で見られている。このことから, 園舎環境は幼児の社会的行動に影響するという本研 究の予測は一部支持されたと考える。 今回,幼児の行動として取り上げた行動の多くは ネガティブな行動であったが,安心した環境に自分 があることで,落ち着いて行動できるようになるの ではないかと考える。仮園舎という元々保育を行う ための空間ではない場所での保育は保育者にとって も負担が多いものであろう。さらに本調査における 仮園舎は園庭と保育室が視覚的に分断されていると いう問題もあった。このような制限の多い環境では 幼児は保育者が自分を見守っていてくれていること を認識しにくく,安心した環境となりづらいために, その中で社会性を伸ばしていくことが難しいのかも しれない。 ストレス反応への園舎環境の影響 ストレス反応の得点はすべての集団,時期におい て全体的に低かったことから,調査園において園児 は全体的に家庭でのストレス反応は見られていな かった。そのため,仮園舎期には子どもたちのスト レス反応は高くなるのではないかという本研究の予 測は支持されなかった。一方,幼稚園に向う気持ち については得点が高かった。 本研究では,制限が多い仮園舎と制限が少ない新 園舎環境の間でストレス反応得点に違いは見られな かった。幼稚園での生活の中での制限は子どもの家 での行動には大きく影響していないことが示された。 一方で集団Aについては幼稚園に向かう気持ちに ついては仮園舎時期よりも新園舎時期の方が得点は 高く,幼稚園を肯定的に捉えていた。しかし,年中 児を比較した横断的な検討ではこの差は見られな かったことから,集団Aにおいて見られた差が「年 中から年長になった」ことによる,幼児の気持ちの 違いであったものなのか,園舎環境の違いにより生 じたものなのかはわからなかった。 社会的行動とストレス反応の関連への園舎環境の影 響 本研究では,年中,年長の各時期において仮園舎 期の方が新園舎期よりも,幼児のストレス反応は後 半の幼児の社会的行動と負の関連を持っていた。た だし,ストレス反応自体には大きな得点差がなかっ たことから考えると,元々ストレス反応を持ちやす い幼児にとって,仮園舎期の方が幼稚園での行動に 問題が生じやすかった可能性が考えられる。まとめ
本調査から,仮園舎という制限された環境下の保 育で,幼児の社会性が十分に育つためには十分な配 慮が必要であることが示唆された。また,ネガティ ブな社会的行動とストレス反応の関連が年中の仮園 舎期でのみ多く見られていた。このことから,元々 ストレスを抱えやすい幼児にとっては,不安定な環 境下で園生活を過ごすことが,そうではない幼児よ 中長期的な園舎環境の変化が幼児の社会的行動とストレスに及ぼす影響 249りもさらに難しい可能性が示唆された。制限された 環境であるからこそ,ストレスを抱えやすい子ども たちには日頃の保育以上に寄り添う必要があること が示唆された。 一方で,仮園舎期と新園舎期では幼児のストレス 反応の得点に差がないことが示された。対象園の保 育者は制限の多い仮園舎で保育を行うにあたり旧園 舎での保育方法を見直し,1年という仮園舎期間を 過ごす幼児のために,制限された環境の中で何がで きるか,試行錯誤しながら懸命に保育を実践してい た。このような保育者の努力があったからこそ,幼 児はイレギュラーな園生活へのストレスを感じるこ となく,幼稚園生活を楽しむことができたのかもし れない。 引用文献
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